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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02B
管理番号 1263303
審判番号 不服2011-8581  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-21 
確定日 2012-09-13 
事件の表示 特願2007-133436「内燃機関のピストン」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月27日出願公開、特開2008-286142〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成19年5月18日の出願であって、平成22年10月18日付けで拒絶理由が通知され、平成22年12月21日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年1月17日付けで拒絶査定がなされ、平成23年4月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に同日付けで明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成24年1月10日付けで書面による審尋がなされ、平成24年3月21日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成23年4月21日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成23年4月21日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
(1)本件補正の内容
平成23年4月21日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成22年12月21日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記(a)を、下記(b)と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
皿状キャビティーを有する内燃機関のピストンであって、ピストンの上死点におけるピストン上縁面とシリンダカバーの下面との間に形成されるスキッシュ部を備えた内燃機関において、前記皿状キャビティーの終焉部と前記スキッシュ部に臨む側のピストン上縁面との間をR部(半径R)で形成するとともに、皿状キャビティーの終焉部とR部とを結ぶ接線と前記ピストン上縁面の法線とのなす角αと、前記皿状キャビティーの深さHとの関係が、0.2≦R/(Hcosα)≦2.0(ただしR、Hは同一単位とする)の範囲で表されることを特徴とする内燃機関のピストン。
【請求項2】
前記関係が、0.4≦R/(Hcosα)≦0.5で、且つ30°≦α≦60°の範囲で表されることを特徴とする請求項1記載の内燃機関のピストン。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】
皿状キャビティーを有する内燃機関のピストンであって、ピストンの上死点におけるピストン上縁面とシリンダカバーの下面との間に形成されるスキッシュ部を備えた内燃機関において、
前記皿状キャビティーはピストン上縁面の中央部に単一の円形開口を有し、底面は凸状の膨出部を有さず中央部が最も深いほぼ平面形状をなし、該底面から皿状キャビティーの終焉部に向かって傾斜面を有し、前記皿状キャビティーの終焉部と前記スキッシュ部に臨む側のピストン上縁面との間をR部(半径R)で形成し、皿状キャビティーの終焉部とR部とを結ぶ位置における前記傾斜面の接線と前記ピストン上縁面の法線とのなす角αと、前記皿状キャビティーの最も深い位置での深さHとによって、前記スキッシュ部への火炎伝播の阻害されやすさを表し、該なす角αと深さHを用いたHcosαと前記R部の半径Rとの比が、0.2≦R/(Hcosα)≦2.0(ただしR、Hは同一単位とする)の関係を満たすように前記R部の半径Rと前記なす角αと前記深さHとが設定されていることを特徴とする内燃機関のピストン。
【請求項2】
前記関係が、0.4≦R/(Hcosα)≦0.5で、且つ30°≦α≦60°の範囲で表されることを特徴とする請求項1記載の内燃機関のピストン。」(なお、下線は、請求人が補正箇所を明示するために付した。)

(2)本件補正の目的
本件補正は、請求項1について、本件補正前の発明特定事項である「皿状キャビティー」について「ピストン上縁面の中央部に単一の円形開口を有し、底面は凸状の膨出部を有さず中央部が最も深いほぼ平面形状をなし、該底面から皿状キャビティーの終焉部に向かって傾斜面を有し」との限定を付加する補正を含むものであって、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.本件補正の適否についての判断
本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2.-1 引用文献
(1)引用文献の記載
原査定の拒絶理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2003-286849号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、次のような記載がある。

(ア)「【0002】
【従来の技術】従来から、希薄混合気を効率良く燃焼させることが可能なガスエンジンとして副室付ガスエンジンが知られている。図4は、従来における副室付ガスエンジンの副室近傍を示した構成図である。図に示すとおり、副室付ガスエンジン1は、シリンダ5内のピストン7上部に形成される燃焼室2と、シリンダ5上部に設けられた副室3とを有しており、副室3内の混合気が燃焼して副室噴孔4から噴出する燃焼火炎により、燃焼室2内の希薄混合気を燃焼させる構成となっている。
【0003】かかる副室付ガスエンジン1では、吸気行程に入ると、ピストン7が下降し、給気弁9と副室燃料ガス供給弁14が開き、排気弁10が閉じる。給気弁9が開くと、給気ポート8から燃料ガスと空気を混合させた希薄混合気がシリンダ5内に導入され、また、副室燃料ガス供給弁14が開くと、副室燃料ガスが副室3内に導入される。
【0004】次に、副室付ガスエンジン1が圧縮行程に入りピストン7が上昇し出すと、給気弁9と副室燃料ガス供給弁14が閉じる。そして、シリンダ5内に導入された希薄混合気は、ピストン7の上昇に伴って圧縮され、その一部が副室噴孔4を通って副室3内に流入する。かかる希薄混合気の流入により、副室3内では、主室からの希薄混合気と副室燃料ガスが混合し、着火に適した濃度となる。
【0005】そして、ピストン7が圧縮上死点近傍に来た際に、所定のタイミングで点火栓12を用いて副室3内の混合気に点火すると、副室3内の混合気が燃焼し、燃焼火炎が副室噴孔4からシリンダ5へ噴出する。かかる燃焼火炎の噴出により、シリンダ5内の希薄混合気が着火し、燃焼に至る。
【0006】以上のように、副室付ガスエンジン1では、副室3内において着火しやすい濃度の混合気を作って着火を行い、燃焼火炎を副室3からシリンダ5内に噴出させることによって、着火の難しい希薄混合気を効率良く燃焼させることが可能である。従って、副室付ガスエンジン1を用いることによって、高効率化を実現することができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】以上説明した副室付ガスエンジン1において、高膨張比化によって熱効率を向上しようとする場合には、燃焼室2の容積を小さくする必要がある。そして、図4に示した従来の副室付ガスエンジン1の燃焼室2形状、即ち燃焼室底面6の形状と相似で、かかる容積の縮小化を行うと、ピストン頂面とシリンダヘッドライナで囲まれた部分(図4のC2部)の容積が増大することとなる。前述した副室噴孔4からの燃焼火炎が当該窪み部分の外側に行き届きにくい燃焼室底面6の形状であれば、前記C2部の燃焼が十分に行われず、燃焼性能が低下してしまう。
【0008】図4に示すように、例えば、ピストン7が点線で示すAの位置にある場合には、Bで示す方向に噴出された燃焼火炎は、燃焼室底面6の形状によってピストン7の中心側へ流れ、前記C2部へは流れずらい。従って、前述の通り、かかるC2の部分の燃焼が十分に行われずに、燃焼性能が低下する。
【0009】このように、従来の燃焼室形状で、高膨張比化を行っても、前記燃焼性能の低下が発生し、高膨張比化による熱効率の向上というメリットを十分に得ることができなかった。
【0010】そこで、本発明の目的は、膨張比を高くした場合にも、燃焼効率を低下させずに、高膨張比化による熱効率の向上というメリットを十分に引き出すことのできる副室付ガスエンジンを提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明の一つの側面は、副室噴孔から噴出する燃焼火炎により燃焼室の混合気を燃焼させる副室付ガスエンジンにおいて、常に、副室噴孔の中心線と燃焼室底面との交点における当該中心線と底面のなす角度であって外側の方の角度を90度以上とし、副室噴孔と前記交点との距離を所定の距離以上にすることである。従って、本発明によれば、燃焼火炎が燃焼室の外側部分に流れやすくなり、当該部分の混合気を十分に燃焼させることができ、また、十分な燃焼火炎の長さが確保されるので、大きなエネルギーを発し、燃焼室内の混合気を十分に燃焼させると共に燃焼室底面からの熱損失を低減できる。従って、高膨張比にしても、従来のように燃焼効率を下げず、高膨張比化による熱効率のメリットを確保することができる。」(段落【0002】ないし【0011】)
(イ)「【0018】図1は、本発明を適用した副室付ガスエンジンの実施の形態例に係る構成図であって、燃焼室の近傍を示した図である。図1に示す副室付ガスエンジン21は、その燃焼室22形状に特徴を有しており、その他の部分は、図4に基づいて説明した従来の副室付ガスエンジン1と同様の構成を有している。また、副室噴孔24からの燃焼火炎によって燃焼室22内の希薄混合気が燃焼するまでのエンジンの動作についても従来の副室付ガスエンジン1と同様である。従って、前記従来の副室付ガスエンジン1の説明と共通する部分についての説明は省略し、以下、従来の副室付ガスエンジン1と異なる部分、即ち本実施の形態例に係る副室付ガスエンジン21の特徴部分について説明する。
【0019】前述の通り、本実施の形態例に係る副室付ガスエンジン21は、燃焼室22(燃焼室底面26)の形状に特徴を有しており、より具体的には、副室噴孔24の向きに対する燃焼室底面26の角度、及び副室噴孔24から燃焼室底面26までの距離について特徴を有している。本実施の形態例に係る副室付ガスエンジン21は、かかる特徴により、副室噴孔24から噴出する燃焼火炎を燃焼室22の外側にも流出させると共に、当該燃焼火炎の十分な長さを確保しようとするものである。
【0020】本副室付ガスエンジン21における第一の特徴は、副室噴孔24から噴出する燃焼火炎の向きと燃焼室底面26のなす角度がどのピストン27の位置においても90度(deg)以上になっていることである。図1を用いてより具体的に説明すると、図のG1で示す副室噴孔24の中心線と燃焼室底面26の交点(図のH)における当該中心線G1と燃焼室底面26とのなす角度であって、シリンダ25の中心軸(図のG2)から見て外側の角度(図のθ)が、ピストン27の位置に関わらず常に90度以上になるような燃焼室22形状となっている。従って、ピストン27が、図1のDの位置にある場合だけだなく、図のEあるいはFの位置にある場合にも前記中心線G1と燃焼室底面26とのなす角度θは、90度以上になっている。
【0021】かかる燃焼室22形状を有していることにより、燃焼火炎が燃焼室底面26に沿って燃焼室の外側にも流出し、かかる部分の混合気をも十分に燃焼させることができる。
【0022】本副室付ガスエンジン21における第二の特徴は、副室23と燃焼室底面26との間に一定以上の距離を有していることである。より具体的には、ピストン27が圧縮上死点の位置(図1の場合にはDの位置)にある時に、副室噴孔24の中心線G1と副室23の中心軸G2との交点(図1のI)から、副室噴孔24の中心線G1と燃焼室底面26との交点(図1のH)までの距離Lが、下記(1)式を満たすような燃焼室底面26形状となっている。
【0023】
L>0.04×Vpre/Anoz (1)
但し、Vpre:副室23の容積(mm^(3))
Anoz:副室噴孔24の面積(mm^(2))
なお、上記(1)式の副室噴孔24の面積Anozは、下記(2)式によって求められる。
【0024】
Anoz=π×dnoz^(2)/4 (2)
但し、dnoz:副室噴孔24の直径(mm)
上記(1)式において、Vpre/Anoz(mm)は、燃焼火炎の噴出長さを表す指標であり、かかる噴出長さが増大するほど前記副室23と燃焼室底面26との距離Lを長くする必要がある。噴出長さに比べて前記距離Lが短い場合には、燃焼火炎が十分にエネルギーを出す前に燃焼室底面26と衝突して燃焼室壁面により冷やされてしまうため、燃焼室22内の燃焼を十分に行うことができなくなってしまうからである。
【0025】このような副室23と燃焼室底面26との距離Lを十分に確保する燃焼室底面26形状にすることにより、燃焼火炎が大きなエネルギーを出すことができ、燃焼室22内の燃焼促進と燃焼室底面26からの熱損失の低減を図ることができる。
【0026】以上説明したように、本実施の形態例に係る副室付ガスエンジン21を用いると、膨張比を高くするために燃焼室を小さくし燃焼室外側の容積が増大しても、当該外側の部分にも燃焼火炎が行き届くため燃焼効率を低下させることがない。また、上述のように、燃焼火炎が十分にエネルギーを出すことができるため、燃焼室22内の燃焼促進と燃焼室底面26からの熱損失の低減を図ることができ、高膨張比化による熱効率向上のメリットを十分に引き出すことができる。」(段落【0018】ないし【0026】)

(ウ)「【0027】次に、本実施の形態例に係る副室付ガスエンジン21の効果を実証するために行われた実験の結果について説明する。この実験は、燃焼室の形状、副室噴孔の角度、及び副室噴孔の直径(dnoz)を変えた複数のケースについて、エンジンを作動し、その際の熱効率とHC排出濃度を測定したものである。具体的には、下記表1に示す4つのケースについて実験を行っている。
【0028】
【表1】(略)
【0029】図2は、上記実験の各条件を説明するための図である。図2の(a)及び(b)は、それぞれAタイプの燃焼室形状及びBタイプの燃焼室形状を表している。図中に示されるα1及びα2は、上記表1に示す副室噴孔の角度であり、二つの副室噴孔の開度を表している。本実験においては、Aタイプの燃焼室形状においてはα1を、Bタイプの燃焼室形状においてはα1及びα2の両方を用いている。
【0030】図の(a)に示すAタイプの燃焼室形状は、前述した従来の副室付ガスエンジン1におけるものであり、副室噴孔の角度がα1である場合には、前記副室噴孔の中心線(図2の(a)のP1)と燃焼室底面6とのなす角度θが、ピストン7の位置によっては90度以下になる形状である。図に示すように、ピストン7位置がJの位置の場合には、θは90度以上となるが、Kの位置の場合には90度以下となり、かかる形状ではθが90度以下になるピストン7位置が存在する。
【0031】図の(b)に示すBタイプの燃焼室形状は、本実施の形態例に係る副室付ガスエンジン21におけるものである。そして、前記副室噴孔の角度がα1である場合には、前記副室噴孔の中心線(図2の(b)のP1)と燃焼室底面26とのなす角度θ1が、ピストン27の位置に関わらず常に90度以上となっている。一方、前記副室噴孔の角度がα2である場合には、前記副室噴孔の中心線(図2の(a)のP2)と燃焼室底面26とのなす角度θ2が、ピストン27の位置によっては90度以下になる。図2の(b)に示すように、ピストン27位置がMの位置の場合には、θ2は90度以上となるが、Nの位置の場合には90度以下となり、副室噴孔の角度がα2である場合には、θ2が90度以下になるピストン27位置が存在する。
【0032】次に、副室噴孔の直径に関する条件については、前記表1に示すとおり、dnoz_1及びdnoz_2の二通りを用いている。dnoz_1とdnoz_2には、dnoz_1>dnoz_2の関係があり、それぞれ、燃焼室形状がBタイプで副室噴孔の角度がα1である場合には、ピストン27が圧縮上死点の位置(図2の(b)のMの位置)にある時に、dnoz_1は、前記(1)式を満たし、dnoz_2は、前記(1)式を満たさない値となっている。即ち、図2の(b)に示すLの値が、副室噴孔の直径がdnoz_1である場合には、0.04×Vpre/Anozよりも大きく、副室噴孔の直径がdnoz_2である場合には、0.04×Vpre/Anozよりも小さい。
【0033】図3は、本実験の結果を表した図である。図3の(a)及び(b)は、それぞれ、前記表1に示した4つの実験ケースにおける熱効率とHC排出濃度を点火時期によってプロットしたものである。図から分かるように、○でプロットされている実験ケース2の場合が、HC排出濃度が最も低く、熱効率が最も高い結果を示している。実験ケース2では、燃焼室形状がBタイプで副室噴孔の角度がα1であることから、前述の通り、ピストン27位置に関係なく副室噴孔の中心線と燃焼室底面とのなす角度θが90以上であり、かつ副室噴孔の直径がdnoz_1であることから前記(1)式を満たしている。従って、実験ケース2は、前述した本実施の形態例に係る副室付ガスエンジン21の二つの特徴を両方有している場合であり、本実験結果から、本副室付ガスエンジン21の前述した効果が実証されたことになる。
【0034】また、実験ケース1及び3は、前述の通り、副室噴孔の中心線と燃焼室底面とのなす角度θが90度以下になるピストン位置が存在する場合であり、これらの実験結果(図3における□及び△)が、前記実験ケース2の場合(図3における○)よりも劣っていることから、副室噴孔の中心線と燃焼室底面とのなす角度θを常に90度以上にするという本副室付ガスエンジン21の第一の特徴が熱効率向上に効果を有することがわかる。
【0035】また、実験ケース4は、副室噴孔の直径がdnoz_2であり、前述の通り、前記(1)式を満たさない場合であるが、かかる場合の実験結果(図3における×)が、前記実験ケース2の場合(図3における○)よりも劣っていることから、前記(1)式を満たすという本副室付ガスエンジン21の第二の特徴が熱効率向上に効果を有することがわかる。
【0036】なお、本実施の形態例に係る副室付ガスエンジン21では、副室噴孔の中心線と燃焼室底面とのなす角度θを常に90度以上にするという第一の特徴と、前記(1)式を満たすという第二の特徴の両方を有しているが、どちらか片方の特徴のみを有した副室付ガスエンジンとしても良い。また、図1に示した燃焼室22の形状は一例であって、前記第一の特徴及び第二の特徴を有する限り他の形状であっても良い。
【0037】本発明の保護範囲は、上記の実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶものである。
【0038】
【発明の効果】以上、本発明によれば、燃焼火炎が燃焼室の外側部分に流れやすくなり、当該部分の混合気を十分に燃焼させることができる。また、十分な燃焼火炎の長さが確保されるので、大きなエネルギーを発し、燃焼室内の混合気を十分に燃焼させると共に燃焼室底面からの熱損失を低減できる。従って、高膨張比にしても、従来のように燃焼効率を下げることなく、高膨張比化による熱効率のメリットを獲得することができる。」(段落【0027】ないし【0038】)

(2)引用文献記載の事項
上記(1)(ア)ないし(ウ)及び図面の記載から、以下の事項が分かる。
(エ)ピストン27の圧縮上死点におけるピストン上縁面とシリンダ25の下面との間にスキッシュ部が形成されていることが分かる。
(オ)燃焼室底面26はピストン27上縁面の中央部に単一の円形開口を有し、底面は凸状の膨出部を有さず中央部が最も深いほぼ平面形状をなし、該底面から燃焼室底面26の終焉部に向かって傾斜面を有していることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)(ア)ないし(ウ)、(2)(エ)及び(オ)並びに図面の記載から、引用文献には、次の発明が記載されているといえる。

「 燃焼室底面26を有する副室付ガスエンジン21のピストン27であって、ピストン27の圧縮上死点におけるピストン27上縁面とシリンダ25の下面との間に形成されるスキッシュ部を備えた副室付ガスエンジン21において、
前記燃焼室底面26はピストン27上縁面の中央部に単一の円形開口を有し、底面は凸状の膨出部を有さず中央部が最も深いほぼ平面形状をなし、該底面から燃焼室底面26の終焉部に向かって傾斜面を有している副室付ガスエンジン21のピストン27。」(以下、「引用発明」という。)

2.-2 対比
本願補正発明と引用発明とを比較すると、引用発明における「燃焼室底面26」は、その機能及び構成からみて、本願補正発明における「皿状キャビティー」に相当し、以下同様に、「副室付ガスエンジン21」は「内燃機関」に、「ピストン27」は「ピストン」に、「シリンダ25」は「シリンダカバー」に、それぞれ相当する。

したがって、両者は、
「 皿状キャビティーを有する内燃機関のピストンであって、ピストンの上死点におけるピストン上縁面とシリンダカバーの下面との間に形成されるスキッシュ部を備えた内燃機関において、
前記皿状キャビティーはピストン上縁面の中央部に単一の円形開口を有し、底面は凸状の膨出部を有さず中央部が最も深いほぼ平面形状をなし、該底面から皿状キャビティーの終焉部に向かって傾斜面を有している内燃機関のピストン。」
である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

(相違点)
(1)本願補正発明においては、皿状キャビティーの終焉部とスキッシュ部に臨む側のピストン上縁面との間をR部(半径R)で形成しているのに対して、引用発明においては、そのような構成であるか不明である点(以下、「相違点1」という。)。

(2)本願補正発明においては、皿状キャビティーの終焉部とR部とを結ぶ位置における傾斜面の接線とピストン上縁面の法線とのなす角αと、皿状キャビティーの最も深い位置での深さHとによって、スキッシュ部への火炎伝播の阻害されやすさを表し、該なす角αと深さHを用いたHcosαとR部の半径Rとの比が、0.2≦R/(Hcosα)≦2.0(ただしR、Hは同一単位とする)の関係を満たすようにR部の半径Rとなす角αと深さHとが設定されているのに対して、引用発明においては、そのような構成であるか不明である点(以下、「相違点2」という。)。

2.-3 判断
相違点1及び2について検討する。

(1)相違点1について
引用文献の第1図及び段落【0021】の記載を参照すると、引用発明においても、燃焼火炎が燃焼室底面に沿って燃焼室の外側にも流出するように、燃焼室底面の傾斜面の終焉部とスキッシュ部に臨む側のピストン上縁面との間をR部で形成していると認められるので、相違点1は実質的な相違点ではない。

(2)相違点2について
ピストン設計時において、エンジン熱効率及び未燃THC排出量を考慮することは、引用文献にも記載されているように、当業者が当然行い得る技術常識である。そして、皿状キャビティーの終焉部とR部とを結ぶ位置における傾斜面の接線とピストン上縁面の法線とのなす角をα、前記皿状キャビティーの最も深い位置での深さをHとし、該なす角αと深さHを用いたHcosαと皿状キャビティーの終焉部とスキッシュ部に臨む側のピストン上縁面との間のR部の半径Rとの比が、0.2≦R/(Hcosα)≦2.0(ただしR、Hは同一単位とする)の関係を満たすようにR部の半径Rとなす角αと深さHとを設定したことは、ピストン設計において技術常識であるエンジン熱効率及び未燃THC排出量を考慮して、実験的に数値範囲を最適化又は好適化したに過ぎない。また、当該数値範囲内において、引用発明に比べ異質なまたは同質であるが際だって優れた効果を奏するものでもなく、当該数値範囲の内と外とで、未燃THC排出量及びエンジン熱効率について量的に顕著な差異があるとはいえない。
したがって、引用発明において、相違点2に係る発明特定事項とすることは、技術常識を考慮して、当業者が適宜なし得る設計事項であるといえる。

また、本願補正発明を全体として検討しても、引用発明から予想される以上の格別の効果を奏するとも認められない。
以上から、本願補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2.-4 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
前記のとおり、平成23年4月21日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1に係る発明は、平成22年12月21日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲及び明細書、並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定された上記(第2.の[理由]の1.(1)(a)【請求項1】)のとおりのもの(以下、「本願発明」という。)である。

2.引用文献の記載内容
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(特開2003-286849号公報)記載の発明(引用発明)は、第2.の[理由]2.-1(3)に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.の[理由]1.(2)で検討したように、実質的に、本願補正発明における発明特定事項の一部の構成を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2.の[理由]2.-3に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

また、請求人は、平成24年1月10日付けの審尋に対して、平成24年3月21日付けで回答書を提出し、補正案(1)及び(2)を提示している。
しかしながら、当該補正案(1)及び(2)の「皿状キャビティーの終焉部とR部とを結ぶ位置における接線方向の傾斜面に圧縮上死点において前記噴孔からの火炎ジェットが衝突するように構成され」た点は、引用発明においても、圧縮上死点において噴孔からの火炎ジェットが皿状キャビティーの傾斜面に沿って、燃焼室の外側にも流出する構成(特に、引用文献の段落【0021】を参照のこと。)であることを参酌すると、当該補正案の上記構成と引用発明は実質的に差異はない。また、補正案(2)のように、発明の属するカテゴリーを変更して、「ピストンの設計方法。」としても、上記拒絶の理由は解消しない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-21 
結審通知日 2012-06-22 
審決日 2012-08-01 
出願番号 特願2007-133436(P2007-133436)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02B)
P 1 8・ 575- Z (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 二之湯 正俊  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 川口 真一
金澤 俊郎
発明の名称 内燃機関のピストン  
代理人 高橋 昌久  
代理人 高橋 昌久  
代理人 高橋 昌久  
代理人 高橋 昌久  
代理人 高橋 昌久  

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