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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F25B
管理番号 1263312
審判番号 不服2012-2686  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-10 
確定日 2012-09-13 
事件の表示 特願2006-331917号「遠心圧縮式冷凍機およびそれに用いる潤滑油」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月13日出願公開、特開2007-232353号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成18年12月8日の出願(優先権主張、平成18年1月4日、平成18年2月3日)であって、平成23年11月8日付けで拒絶査定がなされ(発送:11月15日)、これに対し、平成24年2月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年6月6日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、次のとおりのものである。

「【請求項1】
蒸発器、凝縮器、冷媒、蒸発器からの冷媒を圧縮する圧縮機、この圧縮機を駆動する駆動源、潤滑油、潤滑油が循環する潤滑油系統、及び冷媒が循環する冷媒系統を備える圧縮式冷凍機において、
冷媒が1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンであり、
圧縮機が遠心圧縮機であり、かつ、
潤滑油が(1)2?6価の多価アルコールと、炭素数3?18の1価脂肪酸および炭素数4?14の多塩基酸とのコンプレックスエステルおよび(2)炭素数4?14の多塩基酸と、炭素数5?18の一価のアルコールとのジエステルの少なくとも1種を主成分とすることを特徴とする遠心圧縮式冷凍機。」(下線は当審にて付与、以下同じ。)

3.引用刊行物とその記載事項
(1)原査定の拒絶理由において引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開平6-221696号公報(以下「刊行物1」という。)には、図1と共に、次の記載がある。

ア.「【0002】
【従来の技術】CFC11,CFC12,HCFC123,HCFC22等のCl基を含む冷媒を使用する圧縮式冷凍機では、圧縮機の潤滑油として用いる鉱油(タービン油など)は大気中に開放しても水分の吸湿量が少ないために、特に油中の水分を除去する手段は不要であった。しかし上記冷媒に代わるCl基を含まない、いわゆる代替冷媒、例えばHFC134a(1,1,1,2テトラフルオロエタン)では鉱油との相溶性がなく、2相分離するために圧縮式冷凍機には鉱油は使用できない。したがって、相溶性を持たせるために新たに分子設計をした合成油(例えばエステル油)の使用が不可欠となる。」(段落【0002】)

イ.「【0011】タ-ボ冷凍機は凝縮器1、蒸発器2、圧縮機(タ-ボ圧縮機)3及びこの圧縮機3を駆動する駆動源5から構成される。凝縮器1は高温高圧の冷媒ガスを冷却するため外部から冷却水を導入する伝熱管1Aを内臓し、又蒸発器2は外部へ冷水を取り出すための伝熱管2Aを内臓している。凝縮器1、蒸発器2及び圧縮機3は冷媒系統14で接続され、凝縮器1及び蒸発器2の間には膨張弁14Aが介在している。圧縮機3の下部には潤滑油を貯える油タンク4があり、この油タンク4内には潤滑油を循環させる油ポンプ6が設けられている。潤滑油系統7は前記油ポンプ6と圧縮機3及び駆動源5の間に形成されて潤滑油をそれぞれの軸受部51A,51B,51Cに循環させる構造になっている。この潤滑油系統7には水分除去装置8、ほかに水分検知器9、オイルク-ラ10、オイルストレ-ナ(濾過器)11、仕切りバルブ12、13などが設けられている。
【0012】図2は前記水分除去装置8の詳細図で、容器20内には乾燥剤21が充填されている。乾燥剤21には冷媒の分子径より小さい孔を有し、水分を吸着する機能のある例えばモレキュラ-シ-ブ(分子篩)を用いる。ばね22は乾燥剤21を容器20内に固定するためのものである。
【0013】なお、冷媒としてはClを含まないいわゆる代替冷媒を用いるが、本実施例ではHFC134aを使用している(以下の他の実施例でも同じ)。又潤滑油としては合成油を用いるが、本実施例ではエステル油を使用している(以下の他の実施例でも同じ)。」(段落【0011】?【0013】)

ウ.イにおける「凝縮器1、蒸発器2及び圧縮機3は冷媒系統14で接続され、」の記載から「冷媒系統14」が「冷媒が循環するもの」であること、「圧縮機3」が「蒸発器からの冷媒を圧縮するもの」であること、は明らかである。

以上を総合すると、刊行物1には次の発明(以下「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「蒸発器2、凝縮器1、冷媒、蒸発器2からの冷媒を圧縮する圧縮機3、この圧縮機3を駆動する駆動源5、潤滑油、潤滑油が循環する潤滑油系統7、及び冷媒が循環する冷媒系統14を備えるタ-ボ冷凍機において、
冷媒がHFC134aであり、
圧縮機3がタ-ボ圧縮機であり、かつ、
潤滑油がエステル油である
ターボ冷凍機。」

(2)原査定の拒絶理由において引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開平9-303278号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に、次の記載がある。

エ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、冷媒としてハイドロフルオロカーボンを使用する冷凍圧縮機および冷凍空調装置に関する。」(段落【0001】)

オ.「【0010】しかし、これら塩素を含む冷媒は地球成層圏のオゾン層を破壊し、地球上に有害紫外線が降り注ぐことを助長するため、CFC系冷媒のほとんどについては既に、比較的オゾン層破壊係数が小さいHCFC系冷媒についても2020年には全廃されることが国際的規約により決定されている。
【0011】これら従来冷媒に替わって、ハイドロフルオロカーボン(HFC)系の冷媒、例えば1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)、ジフルオロメタン(R32)、ペンタフルオロエタン(R125)など、あるいはこれらの混合冷媒としてR410AやR407C等の冷媒が代替冷媒として提案・検討、あるいは既に使用されている。」(段落【0010】?【0011】)

カ.「【0012】分子中に塩素原子を持たないハイドロフルオロカーボン冷媒については、分子極性が従来冷媒よりも大きいために、従来冷媒とともに用いられてきた鉱油、アルキルベンゼン、ポリα-オレフィン等の無極性冷凍機油とは相溶性が悪く、相溶性が得られるポリアルキレングリコール、エステル、エーテル、カーボネートなどの極性油とともに使用することが提案・検討、あるいは既に実施されている。」(段落【0012】)

キ.「【0017】
【課題を解決するための手段】本発明は、冷媒としてハイドロフルオロカーボンを、冷凍機油としてエステル油、エーテル油、カーボネート油の少なくとも一つを使用する冷凍圧縮機において、前記冷凍圧縮機の部品に塗布する油または前記冷凍圧縮機の組立時に使用する油として、エーテル油および/またはカーボネート油を使用する。」(段落【0017】)

ク.「【0022】本発明におけるハイドロフルオロカーボンとしては、冷凍空調用に用いることができる炭素数1?3程度の炭化水素の水素の一部がフッ素原子に置換されたものをいう。具体的には、フルオロメタン、ジフルオロメタン、トリフルオロメタン、フルオロエタン、1,1-ジフルオロエタン、1,2-ジフルオロエタン、1,1,1-トリフルオロエタン、1,1,2-トリフルオロエタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,2,2-テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、1-フルオロプロパン、2-フルオロプロパン、1,1-ジフルオロプロパン、1,2-ジフルオロプロパン、1,3-ジフルオロプロパン、1,1,1-トリフルオロプロパン、1,1,2-トリフルオロプロパン、1,1,3-トリフルオロプロパン、1,2,3-トリフルオロプロパン、1,2,2-トリフルオロプロパン、1,1,1,2-テトラフルオロプロパン、1,1,2,2-テトラフルオロプロパン、1,1,1,3-テトラフルオロプロパン、1,1,2,3-テトラフルオロプロパン、1,1,3,3-テトラフルオロプロパン、1,2,2,3-テトラフルオロプロパン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン、1,1,2,3,3-ペンタフルオロプロパン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン、1,1,1,2,2,3-ヘキサフルオロプロパン、1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンを挙げることができる。」(段落【0022】)

ケ.「【0023】本発明におけるエステル油としては例えば、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、コンプレックスエステル等を基油とする油があげられる。」(段落【0023】)

コ.「【0024】このうち、ポリオールエステルとしては、ジオールあるいは水酸基を3?20個有するポリオールと、炭素数6?20の脂肪酸とのエステルが好ましく用いられる。
【0025】ここでジオールとしては、炭素数が2から12のものが好ましく、具体的には例えば、エチレングリコール、1、3-プロパンジオ-ル、プロピレングリコ-ル,1,4-ブタンジオ-ル,1,2-ブタンジオ-ル,2-メチル-1,3-プロパンジオ-ル,1,5-ペンタンジオ-ル,ネオペンチルグリコ-ル,1,6-ヘキサンジオ-ル,2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオ-ル,1,7-ヘプタンジオ-ル,2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオ-ル,2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオ-ル,1,8-オクタンジオ-ル,1,9-ノナンジオ-ル,1,10-デカンジオ-ル,1,11-ウンデカンジオ-ル,1,12-ドデカンジオ-ルなどがあげられる。
【0026】ポリオールとしては、炭素数が3?60のものが好ましく、具体的には例えば、トリメチロ-ルエタン,トリメチロ-ルプロパン,トリメチロ-ルブタン,ジ-(トリメチロ-ルプロパン),トリ-(トリメチロ-ルプロパン),ペンタエリスリト-ル,ジ-(ペンタエリスリト-ル),トリ-(ペンタエリスリト-ル),グリセリン,ポリグリセリン(グリセリンの2?20量体)、1,3,5-ペンタントリオ-ル,ソルビト-ル,ソルビタン,ソルビト-ルグリセリン縮合物,アドニト-ル,アラビト-ル,キシリト-ル,マンニト-ルなどの多価アルコール、キシロール、アラビノース、リボース、ラムノース、グリコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレジトースなどの糖類、ならびにこれらの部分エーテル化合物、メチルグリコシド(配糖体)などがあげられる。
【0027】脂肪酸としては、具体的には例えば、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、オレイン酸などの直鎖または分枝のもの、あるいはα炭素原子が4級であるいわゆるネオ酸などがあげられる。
【0028】ポリオールエステルは、遊離の水酸基を有していてもよい。なお、特に好ましいポリオールエステルは、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ-(トリメチロ-ルプロパン),トリ-(トリメチロ-ルプロパン),ペンタエリスリト-ル,ジ-(ペンタエリスリト-ル),トリ-(ペンタエリスリト-ル)などのヒンダードアルコールのエステルである。具体的に例示すれば、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンラルゴネート、ペンタエリスリト-ルヘキサノエ-ト,ペンタエリスリトール2ーエチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネートなどがあげられる。」(段落【0025】?【0028】)

サ.「【0029】二塩基酸エステルとしては、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の炭素数5?10の二塩基酸と、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノールなどの直鎖または分枝アルキル基を有する炭素数1?15の一価アルコールとのエステルが好ましく用いられる。具体的に例示すれば、ジトリデシルグルタレート、ジ2-エチルヘキシルアジペ-ト,ジイソデシルアジペ-ト,ジトリデシルアジペ-ト,ジ3-エチルヘキシルセバケ-トなどがあげられる。」(段落【0029】)

シ.「【0030】コンプレックスエステルとは、脂肪酸や二塩基酸と、一価アルコールやポリオールとのエステルの混合物であって、その混合比は特に制限はない。脂肪酸や二塩基酸、一価アルコール、ポリオールとしては、ポリオールエステルおよび二塩基酸エステルのところで例示したものと同様のものが使用できる。」(段落【0030】)

ス、シに記載された「コンプレックスエステル」において使用される「脂肪酸」、「二塩基酸」、「一価アルコール」、「ポリオール」は、各々、次のとおりのものである。

(脂肪酸)
「炭素数6?20の脂肪酸」(摘記事項コ、段落【0024】)との記載、及び、記載された具体例が、「ヘキサン酸(炭素数6)?オレイン酸(炭素数18)」(摘記事項コ、段落【0027】)のように1価の脂肪酸であることから、「炭素数6?20の1価脂肪酸」

(二塩基酸)
サ記載のとおり、「炭素数5?10の二塩基酸」

(一価アルコール)
サ記載のとおり、「炭素数1?15の一価アルコール」

(ポリオール)
コにおける「水酸基を3?20個有するポリオール」の記載から「3?20価の多価アルコール」

以上を総合すると、刊行物2には、「(1)脂肪酸や二塩基酸と、一価アルコールやポリオールとのエステルの混合物であるコンプレックスエステル」を独立の選択肢として有するエステル油として、次の発明(以下「刊行物2記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンを含むハイドロフルオロカーボンを冷媒として使用する冷凍圧縮機に冷凍機油として使用されるエステル油であって、
(1)炭素数1?15の一価アルコールや3?20価の多価アルコールと、炭素数6?20の1価脂肪酸や炭素数5?10の二塩基酸との混合物であるコンプレックスエステル、
(2)炭素数5?10の二塩基酸と、炭素数1?15の一価アルコールとの二塩基酸エステル、
(3)ジオールあるいは3?20価の多価アルコールと、炭素数6?20の1価脂肪酸とのポリオールエステル
のいずれかからなるエステル油。」

(3)原査定の拒絶理由において引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開平11-310775号公報(以下「周知刊行物1」という。)には、次の記載がある。

セ.「【0002】
【従来の技術】現在ターボ冷凍機は冷凍容量が大きいので、百貨店,事務所,ホテル,劇場などの大規模な空調器に使用されている。冷媒としては、成層圏のオゾン層破壊効果が小さいHCFC-123(1,1-ジクロロ-2,2,2-トリフルオロエタン)が使用されているが、HCFC冷媒は将来全廃される予定である。このため、HCFC-123の代替冷媒として、オゾン層を破壊しないHFC-245fa(1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン)等の炭素数3?5で塩素を含まない弗化炭化水素化合物が検討されている。しかし、それに対応する冷凍機油が見出されていないのが現状である。」(段落【0002】)

ソ.「【0005】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の実施の形態について説明する。先ず、本発明の冷凍機用流体組成物において、(A)成分の冷媒として、炭素数3?5の弗化炭化水素が使用される。中でも、蒸気圧の点で、炭素数3のものが好適に使用され、例えば、HFC-236ca(1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン)、HFC-236cb(1,1,1,2,2,3-ヘキサフルオロプロパン)、HFC-245ca(1,1,2,2-テトラフルオロプロパン)、HFC-245fa(1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン)、HFC-227ea(1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン)、HFC-227ca(1,1,1,2,2,3,3-ヘプタフルオロプロパン)、HFC-236ea(1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン)、HFC-236fa(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン)などを挙げることができる。炭素数3のものの中で、安全性の点で、HFC-245faが好ましい。」(段落【0005】)

タ.「9:コンプレックスエステル(トリメチロールプロパンとアジピン酸のエステル),動粘度130mm^(2) /s(40℃),全酸価0.01mgKOH/g」(段落【0069】)

(4)本願優先日前に頒布された刊行物である特表平10-511135号公報(以下「周知刊行物2」という。)には、次の記載がある。

チ.「本発明によれば、化合物・1,1,1,2,3‐ペンタフルオロプロパン(“HFC‐245eb”)、1,1,1,3,3‐ペンタフルオロプロパン(“HFC‐245fa”)、1,1,2,3,3‐ペンタフルオロプロパン(“HFC‐245ea”)およびそれらの混合物、が、冷媒熱媒液および発泡剤として有用であることが発見された。更に具体的には、これらの化合物および混合物は、R‐11および123のような現在使用されている冷媒に比べてオゾン層破壊能力が小さく、かつ温室地球温暖化に対して無視できる寄与しかしない不燃性冷媒の必要を満たすことが発見された。更に、これらの化合物および混合物は、それらをして遠心冷却機(centrifugal chiller)の使用を含めて冷却・冷凍用途での使用に適したものにするCOPと能力を有していることが発見された。また、本発明のこれら化合物および混合物は低い圧縮機吐出温度も示す。 本発明の目的で、遠心冷却機とは、遠心圧縮法を用いて冷媒を圧縮する冷却・冷凍装置を意味する。」(第6頁第12行?第24行)

(5)本願優先日前に頒布された刊行物である特開平10-62023号公報(以下「周知刊行物3」という。)には、次の記載がある。

ツ.「【0021】(2)請求項5の発明のヒートポンプ装置ではHFC245faに高沸点の冷媒を混ぜることにより、ヒートシンク出口温度TH2が50℃という高温の場合でも、例えばHFC245caを混ぜることにより、最高圧力を0.303MPa以下に抑えることができ、法規上の高圧ガスにならず、標準のターボ型ヒートポンプ装置を使用できる。」(段落【0021】)

(6)本願優先日前に頒布された刊行物である特開平10-168479号公報(以下「周知刊行物4」という。)には、次の記載がある。

テ.「【請求項3】 エステル基油が炭素数2?10の2?6価の飽和脂肪族多価アルコールと、炭素数2?9の直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族モノカルボン酸又はその誘導体とから得られるエステル基油である請求項1又は2記載の冷凍機油。
【請求項4】 請求項1?3いずれか記載の冷凍機油とハイドロフルオロカーボンを含有する冷凍機作動流体用組成物。」(【特許請求の範囲】)

ト.「【0015】1-2 基油について
(1) エステル基油
本発明に用いられるエステル基油としては、ハイドロフルオロカーボンとの相溶性があり、流動点が0℃以下であり、オキシアルキレン基を含有する化合物を溶解するエステルであれば特に限定されるものではない。例えば、以下の群より選ばれるエステルが好ましいものとして挙げられる。
(a) 炭素数2?10の2?6価の飽和脂肪族多価アルコール(成分-1)と、炭素数2?9の直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族モノカルボン酸又はその誘導体(成分-2)とから得られるエステル。
(b) 炭素数1?10の直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族1価アルコール(成分-3)と、炭素数2?10の2?6価の多価カルボン酸またはその誘導体(成分-4)とから得られるエステル。
(c) 炭素数2?10の2?6価の飽和脂肪族多価アルコール(成分-1)と、炭素数2?9の直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族モノカルボン酸又はその誘導体(成分-2)および炭素数2?10の直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪酸ジカルボン酸又はその誘導体(成分-5)とから得られるエステル。
(d) 炭素数2?10の2?6価の飽和脂肪族多価アルコール(成分-1)および炭素数1?10の直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族1価アルコール(成分-3)と、炭素数2?10の2?6価の多価カルボン酸又はその誘導体(成分-4)とから得られるエステル。」(段落【0015】)

ナ.「【0016】成分-1 について
成分-1 のアルコールの価数は2?6価であり、好ましくは2?4価である。適切な粘度を有する観点から価数は2以上が好ましく、必要以上の粘度を避ける観点及びハイドロフルオロカーボンとの相溶性の観点から、6以下が好ましい。また、その炭素数は2?10であり、好ましくは2?6である。適切な粘度を有する観点から炭素数は2以上が好ましく、必要以上の粘度を避ける観点及びハイドロフルオロカーボンとの相溶性の観点から10以下が好ましい。」(段落【0016】)

ニ.「【0017】成分-2 について
成分-2のカルボン酸の炭素数は2?9であり、好ましくは5?9である。金属に対する腐食性を抑える観点からすると炭素数は2以上が好ましく、ハイドロフルオロカーボンとの相溶性の観点から9以下が好ましい。」(段落【0017】)

ヌ.「【0018】成分-3について
成分-3のアルコールの炭素数は1?10であり、好ましくは5?9である。ハイドロフルオロカーボンとの相溶性の観点から10以下が好ましい。」(段落【0018】)

ネ.「【0019】成分-4について
成分-4のカルボン酸の価数は2?6価であり、好ましくは2?4価、さらに好ましくは2?3価である。適切な粘度を有する観点から価数は2以上が好ましく、必要以上の粘度を避ける観点及びハイドロフルオロカーボンとの相溶性の観点から6以下が好ましい。」(段落【0019】)

(7)本願優先日前に頒布された刊行物である特開平10-46170号公報(以下「周知刊行物5」という。)には、次の記載がある。

ノ.「【請求項1】 炭素原子数2?10の2?6価アルコールと、(1)炭素原子数2?10の直鎖及び/又は分岐鎖モノカルボン酸、あるいはその誘導体、及び(2)芳香環を有する二塩基酸及び/又はその無水物、とから得られるエステル基油を含有する冷凍機油と、ジフルオロメタン(HFC32)を含有するハイドロフルオロカーボンを含有してなり、該エステル基油が下記の熱安定性を与えるものであることを特徴とする冷凍機作動流体用組成物。・・・
【請求項2】 芳香環を有する二塩基酸が炭素原子数8?12の二塩基酸である請求項1記載の冷凍機作動流体用組成物。」(【特許請求の範囲】)

ハ.「【0015】1.エステル基油について
本発明におけるエステル基油とは、炭素原子数2?10の2?6価アルコール(成分-1)と、炭素原子数2?10の直鎖及び/又は分岐鎖モノカルボン酸、あるいはその誘導体(成分-2)、及び芳香環を有する二塩基酸及び/又はその無水物(成分-3)とから得られるエステルである。即ち、本発明におけるエステル基油は、成分-1のアルコールと、成分-2の酸及び成分-3の酸の混合物から得られる。
【0016】丸1(審決注:原文は丸数字、以下同様)成分-1について
成分-1のアルコールの価数は2?6価であり、好ましくは2?4価であり、より好ましくは2価である。適切な粘度を有する観点から価数は2以上が好ましく、必要以上の粘度を避ける観点及びハイドロフルオロカーボンとの相溶性の観点から6以下が好ましい。また、その炭素原子数は2?10であり、好ましくは5?10であり、更に好ましくは5?6である。適切な粘度を有する観点から炭素原子数は2以上が好ましく、必要以上の粘度を避ける観点及びハイドロフルオロカーボンとの相溶性の観点から10以下が好ましい。また熱安定性の面から不飽和の結合を含まない方が好ましい。」(段落【0015】?【0016】)

ヒ.「【0018】丸2 成分-2について
成分-2のモノカルボン酸の炭素原子数は2?10、好ましくは5?9、より好ましくは7?9である。金属に対する腐食性を抑える観点から炭素原子数は2以上が好ましく、ハイドロフルオロカーボンとの相溶性の観点から10以下が好ましい。」(段落【0018】)

フ.「【0020】丸3 成分-3について
成分-3の芳香環を有する二塩基酸は特に限定されるものではないが、ジフルオロメタン(HFC32)を含むハイドロフルオロカーボンとの相溶性の観点から、炭素原子数が8?12のものが好ましく、炭素原子数が8?10のものがより好ましく、炭素原子数が8のものが特に好ましい。」(段落【0020】)

(8)本願優先日前に頒布された刊行物である特開平10-298572号公報(以下「周知刊行物6」という。)には、次の記載がある。

ヘ.「【0010】上記本発明の圧縮型冷凍機に用いられる冷凍機油組成物の主成分であるエステル油合成のためのアルコール成分原料となる2価以上の多価アルコールとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパンまたはペンタエリスリトールを使用する。炭素数がこれよりも多い多価アルコールは、アルコール自体の炭化水素部分が大きくなり過ぎて、合成されたエステルはR-32、R-125等の新規な冷媒との相溶性が悪くなり、好ましくない。これらの多価アルコールは、1種だけでも、2種以上を混合してエステル化に供することもできる。
【0011】また、上記エステル油合成の酸成分原料としては、炭素数3?12の1価脂肪酸を必須成分として用いる。炭素数が小さいと、加水分解したとき生成した酸の強度が強く装置に与える損傷等の影響が大きく、逆に炭素数が13以上になると新規冷媒との相溶性が極端に悪くなる。1価脂肪酸としてより好ましいものは炭素数3?10の直鎖又は分枝のものである。このような1価脂肪酸を例示すると、プロピオン酸、イソプロピオン酸、ブタン酸、イソブタン酸、ペンタン酸、イソペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、イソヘプタン酸、オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、ノナン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸などがある。これらの1価脂肪酸は、1種でも、2種以上の混合物としてもエステル化反応に供することができる。」(段落【0010】?【0011】)

ホ.「【0012】また、本発明においてはエステル油として、上記炭素数3?12の1脂肪酸に、炭素数4?14の多塩基酸を混合した混合カルボン酸を酸成分とし、多価アルコールとの反応により合成されるコンプレックスエステル油を用いることができる。炭素数3以下の多塩基酸は特殊品であり、安価に入手することが困難であり、かつ合成後エステルの安定性に劣るので好ましくない。また、炭素数15以上の多塩基酸はR-32を主成分とする冷媒との相溶性が大幅に低下するので好ましくない。これらの多塩基酸のうち、更に広い範囲でR-32やR-125等との相溶性を確保するためには炭素数4?10のものが特に好ましい。このような多塩基酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、マレイン酸及びトリメリット酸等が挙げられる。そして、これらの多塩基酸と前述の1価脂肪酸とを同時に多価アルコールと反応させると、本発明の冷凍機油の材料の一つであるコンプレックスエステルを合成することができる。」(段落【0012】)

(9)本願優先日前に頒布された刊行物である特開平6-184575号公報(以下「周知刊行物7」という。)には、次の記載がある。

マ.「【0004】本発明は、R32とR134a及び/又はR125との混合冷媒を使用する冷凍機油であって、冷媒との相溶性に優れると共に安全性に優れた冷凍機油の提供を課題とする。」(段落【0004】)

ミ.「【0012】(3)脂肪族多価アルコールと炭素数3?9の直鎖状又は分枝状の脂肪酸との部分エステル類と、直鎖状又は分枝状の脂肪族二塩基酸又は芳香族二塩基酸とのコンプレックスエステル類を使用することもできる。このような脂肪族多価アルコールとしては、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスタトール等を使用することができる。炭素数3?12の脂肪酸としては、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、イソノナン酸、イソデカン酸、2,2’-ジメチルオクタン酸、2-ブチルオクタン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸(審決注:炭素数9)等を使用することができる。
【0013】このコンプレックスエステル類においては、好ましくは炭素数5?7のもの、更に好ましくは炭素数5?6の脂肪酸を使用するとよい。このような脂肪酸としては、吉草酸、ヘキサン酸、イソ吉草酸、2-メチル酪酸、2-エチル酪酸又はその混合体が使用され、炭素数5のものと炭素数6のものを重量比で10:90?90:10の割合で混合した脂肪酸を好適に使用することができる。
【0014】また、この脂肪酸と共に多価アルコールとのエステル化に使用される脂肪族二塩基酸としては、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、カルボキシオクタデカン酸、カルボキシメチルオクタデカン酸、ドコサン二酸等を使用するとよく、又、芳香族二塩基酸としてはフタル酸、イソフタル酸、芳香族三塩基酸としてはトリメリット酸、芳香族四塩基酸としてはピロメリット酸等が挙げられる。
【0015】エステル化反応は、まず多価アルコールと脂肪族二塩基酸又は芳香族二塩基酸等とを所定の割合で反応させて部分エステル化し、ついでその部分エステル化物と脂肪酸とを反応させてもよいし、また酸の反応順序を逆にしてもよく、また酸を混合してエステル化に供してもよい。」(段落【0012】?【0015】)

4.対比
本願発明と刊行物1記載の発明を対比すると、刊行物1記載の発明の「タ-ボ冷凍機」は本願発明の「圧縮式冷凍機」及び「遠心圧縮式冷凍機」に相当し、同様に、「タ-ボ圧縮機」は「遠心圧縮機」に相当する。

また、刊行物1記載の発明における「HFC134a(1,1,1,2テトラフルオロエタン)」も本願発明における「 1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン」も、共に「HFC系冷媒」といえ、同様に、刊行物1記載の発明における「潤滑油がエステル油である」も本願発明における「潤滑油が(1)2?6価の多価アルコールと、炭素数3?18の1価脂肪酸および炭素数4?14の多塩基酸とのコンプレックスエステルおよび(2)炭素数4?14の多塩基酸と、炭素数5?18の一価のアルコールとのジエステルの少なくとも1種を主成分とする」も、「エステル油」が「コンプレックスエステル、ジエステル、ポリオールエステル」の総称であることが技術常識である(例えば、摘記事項ケ参照)ので、共に「潤滑油がエステル油である」といえる。

したがって、両者の一致点、相違点は、次のとおりである。

(一致点)
蒸発器、凝縮器、冷媒、蒸発器からの冷媒を圧縮する圧縮機、この圧縮機を駆動する駆動源、潤滑油、潤滑油が循環する潤滑油系統、及び冷媒が循環する冷媒系統を備える圧縮式冷凍機において、
冷媒がHFC系冷媒であり、
圧縮機が遠心圧縮機であり、かつ、
潤滑油がエステル油である
遠心圧縮式冷凍機。

(相違点)
使用される「HFC系冷媒」及び「エステル油」が、本願発明においては「1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン」及び「(1)2?6価の多価アルコールと、炭素数3?18の1価脂肪酸および炭素数4?14の多塩基酸とのコンプレックスエステルおよび(2)炭素数4?14の多塩基酸と、炭素数5?18の一価のアルコールとのジエステルの少なくとも1種を主成分とする潤滑油」と特定されているのに対し、刊行物1記載の発明においては、「HFC系冷媒」が「HFC134a(1,1,1,2テトラフルオロエタン)」であると共に「エステル油」の具体的な組成が不明な点。

5.判断
そこで、上記相違点につき検討する。

(1)冷媒(1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン)の採用について
地球環境問題を背景として、遠心圧縮式冷凍機(ターボ冷凍機)に用いられる冷媒も「CFC系(クロロフルオロカーボン系:1995年末製造中止)」から「HCFC系(ハイドロクロロフオロカーボン系:2020年に全廃することを1995年モントリオール議定書改訂で決議)」へ、さらには、塩素を含まない「HFC系(ハイドロフルオロカーボン系)」へと遷移してきていることは、従来より周知の技術事項である[刊行物2(摘記事項オ)、周知刊行物1(摘記事項セ)参照。]。

そして、「オゾン破壊係数が0」である点では共通する「HFC系冷媒」の中においても、地球温暖化係数(GWP)が小さいもの、成績係数(COP)の良好なもの、安全性に優れるものが採用される傾向にあり、これらを満たす冷媒として、遠心圧縮式冷凍機(ターボ冷凍機)用冷媒として、「1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(以下「HFC245fa」ともいう。)」を使用することは、本願優先日前、周知の技術事項である[周知刊行物1(摘記事項ソ)、周知刊行物2(摘記事チ)、周知刊行物3(摘記事項ツ)参照。]。

したがって、刊行物1記載の発明において、HFC系冷媒として「HFC134a(1,1,1,2テトラフルオロエタン)」に代え、GWPがより小さく、COPが良好、かつ安全性に優れた「1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン」を採用することは、上記周知の技術事項に倣って、当業者が、容易に想到し得た事項である。

(2)エステル油に関する技術常識及び周知技術
検討の前提となる、本願優先日におけるエステル油(コンプレックスエステル、ジエステル、ポリオールエステル)に関する技術常識及び周知技術を整理する。

(2-1)HCF系触媒に適した潤滑油としてのエステル油は、その成分である「一塩基酸(一価脂肪酸)」、「多塩基酸(二塩基酸)」、「一価アルコール」の炭素数に関しては、「炭素数が不足すれば潤滑性が劣り、炭素数が過剰となれば相溶性が劣る」ことが、また、「多価アルコールの価値」としては「2?6価のものが相溶性の観点から好適である」ことが、本願の優先日前に技術常識となっていた(例えば、摘記事項ナ?ネ、ハ?ホ参照)。
また、現実に使用する冷媒の組成に適合した潤滑油としてのエステル油を調整するに際し、潤滑性と相溶性を両立させために、「一塩基酸(一価脂肪酸)」、「多塩基酸(二塩基酸)」、「一価アルコール」の炭素数、「多価アルコールの価値」を調整・検討することが広く行われていた(例えば、摘記事項ナ?ネ、ハ?ホにおける好ましい数値範囲の選択)。

(2-2)コンプレックスエステルを潤滑油に選定する場合、コンプレックスエステルの中に内包される選択肢としての組合せは、
刊行物2に「脂肪酸や二塩基酸と、一価アルコールやポリオールとのエステルの混合物」と記載されているように、
・(一価)脂肪酸と一価アルコールのエステル
・(一価)脂肪酸とポリオールのエステル(ポリオールエステル)
・二塩基酸と一価アルコールのエステル(ジエステル)
・二塩基酸とポリオールのエステル(刊行物2に比較例として記載されたコンプレックスエステルの組合せ形式、摘記事項タ参照)
・(一価)脂肪酸と一価アルコール及びポリオールのエステル
・二塩基酸と一価アルコール及びポリオールのエステル
・(一価)脂肪酸及び二塩基酸と一価アルコールのエステル
・(一価)脂肪酸及び二塩基酸とポリオールのエステル(周知刊行物5?7にHCF系触媒に適した潤滑油として記載されたコンプレックスエステルの組合せ形式(2-3)参照)
・(一価)脂肪酸及び二塩基酸と一価アルコール及びポリオールのエステル
の9種類(この組合せの中には、厳密には、ジエステル、ポリオールエステルも含まれている)である。

そして、本願優先日前には、冷媒組成に応じた好適なコンプレックスエステルの組合せを選択するために、上記個々の組合せを実験比較し、冷媒組成に応じた最適なコンプレックスエステル(若しくは、ジエステル、ポリオールエステル)を実験を通じて選択することが、上記(2-1)の炭素数の調整と同時に、通常の作業として行われていた(例えば、摘記事項ト記載の選択肢群から最適エステルを選択するために通常行われている実験)。

(2-3)また、HFC系冷媒の潤滑油として好適なコンプレックスエステルの、具体的な組合せ例として、
周知刊行物5に「2?6価の多価アルコールと、炭素数2?10のモノカルボン酸(1価脂肪酸)及び炭素数8?12の二塩基酸からなるコンプレックスエステル」(摘記事項ノ?フ参照)が記載され、
周知刊行物6に「炭素数3?12の1価脂肪酸に、炭素数4?14の多塩基酸を混合した混合カルボン酸を酸成分とし、多価(2?4価)アルコールとの反応により合成されるコンプレックスエステル油」(摘記事項ヘ、ホ参照)が記載され、
周知刊行物7に「3?6価の多価アルコールと、炭素数3?9(好ましくは5?7)の1価脂肪酸及び炭素数4?22の二塩基酸からなるコンプレックスエステル」(摘記事項ミ参照)が記載されていることからも明らかなように、
コンプレックスエステルの組合せ選択肢のうち、「多価アルコールと、(一価)脂肪酸および二塩基酸とのコンプレックスエステル」が、HFC系冷媒の潤滑剤として有効であることは、本願優先日前、周知の技術事項であった。

(3)冷媒(1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン)を採用するに際しての刊行物2記載の発明(エステル油)の適用容易性について

刊行物2記載の発明は、冷媒としての「1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンを含むハイドロフルオロカーボン」全体に対し適用可能な潤滑油としてのエステル油の発明であり、かつ、「コンプレックスエステル」、「ジエステル」、「ポリオールエステル」は、それぞれ、単独で利用可能なものである。

また、刊行物2記載の発明と本願発明を対比すると、刊行物2記載の発明の「冷凍機油」は本願発明の「潤滑油」に相当し、以下同様に、「二塩基酸」は「多塩基酸」に、「二塩基酸エステル」は「ジエステル」に、各々、相当する。

よって、刊行物2記載の発明は、次のように言い換えることができる。

「1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンを含むハイドロフルオロカーボンを冷媒として使用する冷凍圧縮機に潤滑油として使用されるエステル油であって、
(1)炭素数1?15の一価アルコールや3?20価の多価アルコールと、炭素数6?20の1価脂肪酸や炭素数5?10の多塩基酸との混合物であるコンプレックスエステル、
(2)炭素数5?10の多塩基酸と、炭素数1?15の一価アルコールとのジエステル、
(3)ジオールあるいは3?20価の多価アルコールと、炭素数6?20の1価脂肪酸とのポリオールエステル
のいずれかからなるエステル油。」

そうすると、刊行物1記載の発明において、使用する冷媒を最適化するために「HFC134a」から「1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC245fa)」とするに際して、
潤滑油であるエステル油を
「(1)炭素数1?15の一価アルコールや3?20価の多価アルコールと、炭素数6?20の1価脂肪酸や炭素数5?10の多塩基酸との混合物であるコンプレックスエステル、
(2)炭素数5?10の多塩基酸と、炭素数1?15の一価アルコールとのジエステル、
(3)ジオールあるいは3?20価の多価アルコールと、炭素数6?20の1価脂肪酸とのポリオールエステル
のいずれかからなるエステル油」
とすることは、「HFC245fa」にも適用可能とされる刊行物2の発明に倣って、当業者が、容易に想到し得た事項である。

(4)適用冷媒に応じたエステル油(コンプレックスエステル、ジエステル)の調整について

採用される冷媒種類(本願明細書段落【0016】に「発明を実施するための最良の形態」として記載されているような混合される副冷媒が存在する場合も含む)に応じ、潤滑性と相溶性を両立させた最適な潤滑油としてのエステル油とするため、エステル油の炭素数等の成分調整が必要となることは、(2-1)で述べたとおりである。

以下、刊行物2記載の発明における選択肢(1)コンプレックスエステル、(2)ジエステルの調整につき個別に検討する。

(4-1)コンプレックスエステルについて
上記(2-3)で述べたとおり周知刊行物5?7には「多価アルコールと、1価脂肪酸および二塩基酸からなるコンプレックスエステル」がHFC系冷媒の潤滑剤として有効であることが示唆されており、刊行物2記載の発明における選択肢(1)の中の一つの組合せである「3?20価の多価アルコールと、炭素数6?20の1価脂肪酸および炭素数5?10の多塩基酸との混合物であるコンプレックスエステル」に着目することは、当業者が格別な困難性なくなしえたことといえる。

また、「多価アルコールと、1価脂肪酸および二塩基酸からなるコンプレックスエステル」に採用される「多価アルコールの価数」としては、相溶性の観点から「2?6価」が好適であることは(2-1)記載のように周知の事項である。

さらに、潤滑性・相溶性を調整するために「1価脂肪酸」、「多塩基酸」の炭素数を調整することは、通常行われていることである(2-1参照)。

よって、刊行物2記載のコンプレックスエステルを、冷媒1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンの潤滑油として採用するに際して、最適な潤滑性・相溶性を得るため、その「1価脂肪酸」、「多塩基酸」の炭素数を、刊行物2記載の値(各々「6?20」、「5?10」)を基本にしつつ、「炭素数が不足すれば潤滑性が劣り、炭素数が過剰となれば相溶性が劣る」という技術常識、並びに周知刊行物5?7記載のコンプレックスエステルにおける炭素数を参考にして、「3?18」、「4?14」と調整することは、当業者が、通常の創作能力の範囲内で、容易になしえた事項である。

(4-2)ジエステルについて
刊行物2記載のジエステルにおける「多塩基酸」、「一価アルコール」の炭素数は、各々「5?10」、「1?15」である。

また、周知刊行物4に選択肢(b) として記載されたハイドロフルオロカーボンを冷媒とする冷凍機用冷凍機油である「エステル」は、「炭素数1?10(好ましくは5?9)の直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族1価アルコール(成分-3)と、炭素数2?10の2?6価の多価カルボン酸またはその誘導体(成分-4)とから得られるエステル」であり、本願発明の用語に即して言い換えると「炭素数2?10の多塩基酸と、炭素数1?10(好ましくは5?9)の一価アルコールとのジエステル」である。

さらに、現実の冷媒組成に適応させて潤滑性、相溶性を調整するため、潤滑油(ジエステル)の「多塩基酸」、「一価アルコール」の炭素数を調整することは、通常行われていることである(2-1参照)。

よって、刊行物2記載のジエステルを、冷媒1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンの潤滑油として採用するに際して、最適な潤滑性・相溶性を得るため、その「多塩基酸」、「一価アルコール」の炭素数を、刊行物2記載の値(各々「5?10」、「1?15」)を基本にしつつ、「炭素数が不足すれば潤滑性が劣り、炭素数が過剰となれば相溶性が劣る」という技術常識、並びに周知刊行物4記載のジエステルにおける炭素数を参考にして、「4?14」、「5?18」と調整することは、当業者が、通常の創作能力の範囲内で、容易になしえた事項である。

(形式的相違点の検討)
本願発明と刊行物2記載の発明は、形式的対比の上では、刊行物2記載の発明が「コンプレックスエステル」、「ジエステル」、「ポリオールエステル」を選択肢としているのに対し、本願発明は、本願明細書の表2に示される実験結果から、相溶性が相対的に劣るとされる「ポリオールエステル」を選択肢とせず、「コンプレックスエステル」、「ジエステル」のみを選択肢としている点で形式的に相違している。

しかし、上述のように、刊行物2記載の発明においては、潤滑油の各選択肢は、それぞれ単独で利用可能なものであり(これは、本願発明においても同様である)、本願発明が「ポリオールエステル」を選択肢として持っていないことは、実質的な相違点ではない。

また、潤滑油の技術分野では、周知刊行物4(摘記事項ト)記載のように、コンプレックスエステル、ジエステル、ポリオールエステル、それぞれの組合せを実験比較し、冷媒組成に応じた好適な潤滑油を選択することが通例であり(2-2参照)、刊行物2記載の発明の適用(冷媒として「1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC245fa)」の採用)に際し、各選択肢の効果を実験に基づき比較衡量し、最適な選択肢とすることは、当業者の、通常の創作能力の範囲内で、適宜なしえた事項である。

よって、形式的な相違点の有無に関係なく、上記いずれの場合においても、刊行物1記載の発明において使用する冷媒を最適化するためにHFC系冷媒を「HFC134a」に代えて「1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC245fa)」を採用し、
その際、
潤滑油であるエステル油を
「(1)2?6価の多価アルコールと、炭素数3?18の1価脂肪酸および炭素数4?14の多塩基酸とのコンプレックスエステル、
(2)炭素数の4?14多塩基酸と、炭素数5?18の一価アルコールとのジエステル、
のいずれかからなるエステル油」
とすることは、刊行物2記載の発明、周知の技術事項、および技術常識に倣って、当業者が、容易に想到し得た事項である。

さらに、本願発明により得られる効果も、刊行物1、2記載の発明、周知の技術事項、並びに技術常識から、当業者であれば、予測できる程度のものであって、格別なものとはいえない。

なお、請求人は、審判請求書にて「引用文献2(当審注:審決における「周知刊行物1」)は、コンプレックスエステルを用いた例を比較例1及び3として、油外観が褐色となり、触媒外観として触媒外観としてFeが黒色となることを教示しており、引用文献2には、コンプレックスエステルを使用する上での阻害要因があります。」(審判請求書第9頁第14行?第17行)と主張している。

そこで、この主張につき検討する。

まず、周知刊行物1記載の比較例1及び3である「コンプレックスエステル(基油9)」の組成は「トリメチロールプロパンとアジピン酸のエステル」(摘記事項タ)であり、このコンプレックスエステルは、一般化すると「3価の多価アルコール(トリメチロールプロパン)と炭素数6の二塩基酸(アジピン酸)のコンプレックスエステル」と表現される。

一方、刊行物2の段落【0030】には、「コンプレックスエステルとは、脂肪酸や二塩基酸と、一価アルコールやポリオールとのエステルの混合物であって、その混合比は特に制限はない。」(摘記事項シ)と記載され、ここで示唆される組合せの一つである「二塩基酸とポリオールとのエステルの混合物」に関しては、請求人の主張の成立する余地がある。

しかしながら、刊行物2の段落【0030】により同様に示唆される「脂肪酸や二塩基酸と、一価アルコールやポリオールとのエステルの混合物」の他の組合せ、例えば「脂肪酸および二塩基酸とポリオールのエステルの混合物であるコンプレックスエステル」の具体例は、「3?20価のポリオールと、炭素数6?20の1価脂肪酸および炭素数5?10の二塩基酸とのコンプレックスエステル」となり、成分として「炭素数6?20の1価脂肪酸」を有する点で、周知刊行物1記載の「コンプレックスエステル」とは、大きく組成が異なっている。

このように、組成が大きく異なる場合、その潤滑油としての性質は、必ずしも類似であるとは限らない。

よって、「コンプレックスエステル」のうち一つの組合せでしかない周知刊行物1記載の「コンプレックスエステル」の実験結果をもって、コンプレックスエステルの多くを占める他の組合せに対する適用阻害要因とすることはできない(例えば、周知刊行物6の表1?3に記載されたコンプレックスエステルe、fは、他の実施例に性能上劣るものではない)。

したがって、請求人の上記主張は採用できない。

6.結び
以上のとおり、本願発明は、刊行物1、2記載の発明、周知の技術事項、並びに技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願の他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をするべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-12 
結審通知日 2012-07-17 
審決日 2012-07-30 
出願番号 特願2006-331917(P2006-331917)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田々井 正吾山崎 勝司  
特許庁審判長 平上 悦司
特許庁審判官 前田 仁
森川 元嗣
発明の名称 遠心圧縮式冷凍機およびそれに用いる潤滑油  
代理人 杉村 憲司  
代理人 冨田 和幸  

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