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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1263552
審判番号 不服2010-1559  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-25 
確定日 2012-09-20 
事件の表示 特願2004-525354「抗腫瘍医薬との組合せにおけるアルキルホスホコリンの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月12日国際公開、WO2004/012744、平成17年11月24日国内公表、特表2005-535688〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2003年 7月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2002年 7月30日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成21年 4月 7日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成21年 7月 6日に意見書が提出されるとともに同日付けで誤訳訂正書による手続補正がなされ、平成21年 9月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年 1月25日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。


2.平成22年 1月25日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年 1月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
補正前の
「【請求項1】
一般式II
【化1】

[式中、互いに独立して、
n、m、p、zは0?4の整数であり、
XはO、S、NHであり、RはH、直鎖または分枝の(C_(1)?C_(20))-アルキル基であり、この場合、これらは、飽和または不飽和であって、1?3個の二重および/または三重結合を有していてもよくかつ、非置換または場合によっては同一または異なるC原子上で、1個、2個またはそれ以上のハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、(C_(1)?C_(6))-アルコキシ、アミノ、モノ-(C_(1)?C_(4))-アルキルアミノまたはジ-(C_(1)?C_(4))-アルキルアミノ基によって置換されていてもよく;
R_(1)、R_(2)は互いに独立して、H、直鎖または分枝の(C_(1)?C_(6))-アルキル基、好ましくはメチルおよびエチル、(C_(3)?C_(7))-シクロアルキル基であり、かつ非置換または場合によっては同一または異なるC原子上で、1個、2個またはそれ以上のハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、(C_(1)?C_(6))-アルコキシ、アミノ、モノ-(C_(1)?C_(4))-アルキルアミノまたはジ-(C_(1)?C_(4))-アルキルアミノ基で置換されていてもよい]の少なくとも1種のアルキルホスホコリンと、担体および/または添加剤を含有する医薬品であって、代謝拮抗物質、植物アルカロイド、天然ホルモンのアゴニストまたはアンタゴニスト、レセプターキナーゼおよび/またはサイトソリックキナーゼの高分子および低分子の阻害剤の形のシグナル伝達阻害剤、カルボプラチン、オキサリプラチン、ブレオマイシン、メトトレキサート、パクリタキセル、ドセタキセル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド、テニポシド、イホスファミド、5-フルオロウラシル、フルダラビン、ゲムシタビンおよびシタラビンから選択された認可された抗腫瘍医薬での治療前および/または治療中に良性および悪性腫瘍を治療するための医薬品。」
から、
補正後の
「【請求項1】
代謝拮抗物質での治療前および/または治療中に良性および悪性腫瘍を治療するための
、一般式II
【化1】

[式中、互いに独立して、
m、pは0または1であり、
n、zは整数2であり、
XはOであり、
RはH、直鎖または分枝の(C_(1)?C_(17))-アルキル基であり、この場合、これらは飽和または不飽和であって、1?3個の二重および/または三重結合を有していてもよく、
R_(1)、R_(2)は互いに独立して、H、直鎖または分枝の(C_(1)?C_(6))-アルキル基、好ましくはメチルおよびエチル、(C_(3)?C_(7))-シクロアルキル基であってもよい]のアルキルホスホコリンと、担体および/または添加剤を含有する医薬品であって、その際、代謝拮抗物質が、5-アザシチジン、5-フルオロウラシル、6-チオグアニン、クラドリビン、クロファラビン、シタラビン、フルダラビンまたはジェンシタビンであり、かつ、腫瘍が、多発性骨髄腫、結腸癌又は乳癌である、医薬品。」
へ補正された。

そこで、本件補正前後の請求項1の発明特定事項を対比すると、本件補正は、1)一般式IIの化合物を
「[式中、互いに独立して、
n、m、p、zは0?4の整数であり、
XはO、S、NHであり、RはH、直鎖または分枝の(C_(1)?C_(20))-アルキル基であり、この場合、これらは、飽和または不飽和であって、1?3個の二重および/または三重結合を有していてもよくかつ、非置換または場合によっては同一または異なるC原子上で、1個、2個またはそれ以上のハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、(C_(1)?C_(6))-アルコキシ、アミノ、モノ-(C_(1)?C_(4))-アルキルアミノまたはジ-(C_(1)?C_(4))-アルキルアミノ基によって置換されていてもよく;
R_(1)、R_(2)は互いに独立して、H、直鎖または分枝の(C_(1)?C_(6))-アルキル基、好ましくはメチルおよびエチル、(C_(3)?C_(7))-シクロアルキル基であり、かつ非置換または場合によっては同一または異なるC原子上で、1個、2個またはそれ以上のハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、(C_(1)?C_(6))-アルコキシ、アミノ、モノ-(C_(1)?C_(4))-アルキルアミノまたはジ-(C_(1)?C_(4))-アルキルアミノ基で置換されていてもよい]の少なくとも1種」
なるものから、
「[式中、互いに独立して、
m、pは0または1であり、
n、zは整数2であり、
XはOであり、
RはH、直鎖または分枝の(C_(1)?C_(17))-アルキル基であり、この場合、これらは飽和または不飽和であって、1?3個の二重および/または三重結合を有していてもよく、
R_(1)、R_(2)は互いに独立して、H、直鎖または分枝の(C_(1)?C_(6))-アルキル基、好ましくはメチルおよびエチル、(C_(3)?C_(7))-シクロアルキル基であってもよい]」
なるものに補正し、
2)医薬品の医薬用途を
「代謝拮抗物質、植物アルカロイド、天然ホルモンのアゴニストまたはアンタゴニスト、レセプターキナーゼおよび/またはサイトソリックキナーゼの高分子および低分子の阻害剤の形のシグナル伝達阻害剤、カルボプラチン、オキサリプラチン、ブレオマイシン、メトトレキサート、パクリタキセル、ドセタキセル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド、テニポシド、イホスファミド、5-フルオロウラシル、フルダラビン、ゲムシタビンおよびシタラビンから選択された認可された抗腫瘍医薬での治療前および/または治療中に良性および悪性腫瘍を治療するための」
なるものから、
「代謝拮抗物質での治療前および/または治療中に良性および悪性腫瘍を治療するための」なるものであって、かつ、「その際、代謝拮抗物質が、5-アザシチジン、5-フルオロウラシル、6-チオグアニン、クラドリビン、クロファラビン、シタラビン、フルダラビンまたはジェンシタビンであり、かつ、腫瘍が、多発性骨髄腫、結腸癌又は乳癌である、」
なるものに補正するもの、ということができるものである。

(2)本件補正の適否
(2-1)本件補正の目的について
本件補正は、請求項1については、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である一般式IIの化合物、及び、医薬品の医薬用途を、各々、より狭い範囲のものに限定するものということができるものであり、かつ、本件補正後の請求項1に記載された発明と本件補正前の請求項1に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、請求項1については、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2-2)独立特許要件違反について
そこで進んで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か、について検討する。

(2-2-1)引用例に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物であるADVANCES IN EXPERIMENTAL MEDICINE AND BIOLOGY.,(1996),V416,P157-164(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(引用例1は英語で記載されているので、訳文で示す。)
(ア)「改善された治療範囲を有するヘテロ環式アルキルホスホリピド」(タイトル部分)

(イ)「ヘキサデシルホスホコリン(INN:ミルテホシン)は、新しいクラスの抗腫瘍性ホスホリピドの基本型である。・・・しかしながら、経口ミルテホシン処方物による全身性の処置は、GI期に対して比較的毒性を示す。・・・
改善された治療指標を有するアルキルホスホコリン誘導体を特定することが、我々の類似体研究の目的である。・・・最初に特定された化学構造群の中で、ピペリジン環がアルキル鎖に付いたD-20133が優れた性質を示した。ミルテホシンとの比較において、この化合物は、分子的基礎に基づいて一般的に、インビトロにおいてより活性であり、様々なインビボの実験において同等に活性であった。加えて、急性経口毒性(LD_(50))は有意に低下していた。・・・
上記の発見は、コリン部分をピペリジンのようなヘテロ環構造で置換することが、確かに、アルキルホスホコリンのGI期毒性を回避する実行可能で効果的な方法である、ということを示唆した。さらなる分子の変更が薬理学的及び毒性学的性質を改善するであろうという期待のもと、さらに新たなアルキルホスホリピドが上記の方針に沿って合成された。ついに、D-21266が、望まれる性質を最も満足することが示された(図2)。D-21266のインビトロでの効果は、ミルテホシンやD-20133に比べて表1にまとめてある。明らかに、2つの新しい化合物は、試験されたヒト細胞株において、親化合物より活性であった。
ジメチルベンズアントラセン(DMBA)誘導ラット腫瘍に対するD-21266の活性は、ミルテホシンのそれより優れていた(図3、4)。しかしながら、胃腸毒性の全体的な指標である体重の減少は、ミルテホシンより有意に少なく現れた(図5、6)。」(157ページ1行?159ページ6行)

(ウ)「

」(158ページ下半分)

(エ)「シクロホスファミド(図10)、アドリアマイシン及びシスプラチンとの併用療法が行われた。シクロホスファミドとの追加的又は共同作用的な効果があることの証拠が得られ、これは、以前に示されたミルテホシンについての併用療法のデータ(5)を確認するものであった。試験されたいかなる併用療法においても追加的な毒性の証拠がなかったことは、特筆に値する。」(163ページ10行?14行)

(オ)「

」(162ページ下半分)

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物であるLEUKEMIA,(1997),V11 N12,P2079-2086(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。(引用例2は英語で記載されているので、訳文で示す。)
(カ)「我々は、高用量の1-β-D-アラビノフラノシルシトシン(Ara-C)治療・・・を報告する。・・・このメカニズムのさらなる証拠が、PC合成の阻害剤であるヘキサデシルホスホコリンがAra-Cとの共同作用的な抗増殖効果を示すという観察によって提示される。」(2079ページ左欄1行?21行)

(キ)「Ara-Cとヘキサデシルホスホコリンとの共同作用的な抗増殖効果

HL 60及びRaji細胞におけるAra-Cの抗増殖活性にとってのPC減少の重要性をさらに証明するために、我々は、lyso-PCの細胞毒性誘導体であるヘキサデシルホスホコリン(HePC)を用いた。・・・表4にまとめたように、48時間培養後、両細胞は、Ara-CとHePCに対して異なる感受性を示し、Raji細胞株は、両物質に対してより抵抗性を示した。併用処理は、両細胞株に対して有意な追加的毒性を示した。」(2084ページ左欄1行?14行)

(ク)「

」(2084ページ左欄下段)

(2-2-2)引用発明
引用例1の記載事項(イ)によれば、引用例1には、D-21266なるアルキルホスホコリンの誘導体が、ヒト細胞株を用いたインビトロの試験において活性を示し、腫瘍を有するラットを用いた試験においても活性を示す一方、毒性は低かったことが記載され、同じく記載事項(ウ)によれば、D-21266が種々のヒト悪性腫瘍細胞株に対し、成長阻害活性を示したデータが記載されている。そして、引用例1の記載事項(エ)によれば、D-21266とシクロホスファミド、アドリアマイシン及びシスプラチンとの併用療法が行われ、シクロホスファミドとの追加的又は共同作用的な効果があることの証拠が得られる一方、試験されたいかなる併用療法においても追加的な毒性の証拠はなかったこと、が記載され、同じく記載事項(オ)によれば、D-21266を14回にわたり特定量投与し、シクロホスファミドを1回特定量投与したことによる、DMBA誘導ラット乳癌腫瘍の重量の推移のデータが、それぞれ単独投与した場合及び水のみ投与した場合のデータと共に記載され、D-21266とシクロホスファミドを併用した場合に腫瘍重量が低く推移したことが記載されている。ここで、D-21266とシクロホスファミドの投与スケジュールについて引用例1には特に記載するところは見いだせないが、図10に示されたデータからみて、水のみ投与した群では腫瘍重量が直ちに増加し始めたのに対し、各薬剤の投与群は、少なくとも14日目までは腫瘍重量の増加が抑えられていることが読み取れるから、D-21266もシクロホスファミドも14日目までの間に投与されたものと認められ、おそらくは、D-21266は0日目から1日1回ずつ、また、シクロホスファミドは0日目に1回、投与されたものと推認される。
そうすると、これら引用例1の記載を総合すれば、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「シクロホスファミドでの治療中に悪性腫瘍を治療するための、D-21266なるアルキルホスホコリンの誘導体を含有する医薬品であって、腫瘍が、乳癌である、医薬品。」

(2-2-3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明にいう「D-21266なるアルキルホスホコリンの誘導体」は、その化学構造からみて、本願補正発明にいう「一般式IIのアルキルホスホコリン」に該当するものである。また、引用発明にいう「シクロホスファミド」も本願補正発明にいう「5-アザシチジン、5-フルオロウラシル、6-チオグアニン、クラドリビン、クロファラビン、シタラビン、フルダラビンまたはジェンシタビンであ」るとされる「代謝拮抗物質」も抗癌剤であることに変わりはない。
そうすると、両者は、
「抗癌剤での治療中に悪性腫瘍を治療するための、D-21266なるアルキルホスホコリンの誘導体を含有する医薬品であって、腫瘍が、乳癌である、医薬品。」
である点で一致し、以下の2点で相違する。
・D-21266なるアルキルホスホコリンの誘導体と併用するものといえる抗癌剤が、本願補正発明では、「5-アザシチジン、5-フルオロウラシル、6-チオグアニン、クラドリビン、クロファラビン、シタラビン、フルダラビンまたはジェンシタビンであ」るとされる「代謝拮抗物質」であるのに対し、引用発明では、「シクロホスファミド」である点(以下「相違点1」という。)。
・D-21266なるアルキルホスホコリンの誘導体を含有する医薬品が、本願補正発明では、さらに「担体および/または添加剤」も含むものであるのに対し、引用発明では、特にこれを含むこととされていない点(以下「相違点2」という。)。

(2-2-4)判断
上記相違点について検討する。
・相違点1について
引用例1の記載事項(ア)及び(イ)によれば、D-21266は、ヘキサデシルホスホコリンを改良したものとして位置づけられていることが明らかである。また、同じく記載事項(エ)によれば、D-21266とシクロホスファミドとの併用療法が行われ、両者間の追加的又は共同作用的な効果があることの証拠が得られ、これは、以前に示されたミルテホシンすなわちヘキサデシルホスホコリンについての併用療法のデータを確認するものであったことが記載されているから、元々は、ヘキサデシルホスホコリンと他の抗癌剤の併用療法の研究が行われていて、それらの研究を踏まえて、引用例1において、D-21266とシクロホスファミドやアドリアマイシンやシスプラチンとの併用療法が検討されたことがうかがえる。そうすると、これら引用例1の記載に接した当業者ならば、D-21266は、ヘキサデシルホスホコリンと同様、他の抗癌剤との併用療法を試みる価値があるものであるという示唆を受けるものということができる。
一方、引用例2の記載事項(カ)?(ク)によれば、引用例2には、HL 60及びRaji細胞といった腫瘍細胞株に対し、ヘキサデシルホスホコリンが1-β-D-アラビノフラノシルシトシン(Ara-C)との共同作用的な抗増殖効果を示したことが記載され、ここで、1-β-D-アラビノフラノシルシトシン(Ara-C)は、本願補正発明にいう「シタラビン」なる抗癌剤に相当するものである(必要なら、例えば、大阪府病院薬剤師会編、「医薬品要覧 第4版」第2刷、株式会社薬業時報社、平成元年11月20日発行、1482ページの「シタラビン」の欄参照。)から、引用例2には、ヘキサデシルホスホコリンと他の抗癌剤であるシタラビンの併用療法により共同作用的な抗増殖効果が得られることが記載されている、ということができる。
そうすると、これら引用例1及び2を併せ見た当業者ならば、引用発明における抗癌剤として、シクロホスファミドに代えて本願補正発明にいう代謝拮抗物質であるシタラビンを採用することに、格別の創意を要したものとはいえない。

・相違点2について
一般に、医薬品に、必要に応じ、担体や添加剤を配合することは、本願優先日前に古くから行われていることであるから、引用発明の医薬品を「担体および/または添加剤」も含むものとすることに、当業者が格別の創意を要したものとはいえない。

また、本願補正発明の効果について検討するに、本願明細書には、シクロホスファミド、アドリアマイシン又はシスプラチンと、ペリホシン(D-21266)を併用した際の効果は記載されているものの、本願発明にいう「代謝拮抗物質」とペリホシン(D-21266)を併用した際の効果は記載されていないし、上記意見書や審判請求書に添付して提出された、ペリホシンといくつかの代謝拮抗物質とを併用した際のデータは、いかなる評価をすべきものか必ずしも明らかでないが、いずれに示される効果も、引用例1の記載事項(オ)で示されたデータから読み取れるD-21266とシクロホスファミドとの相乗効果、及び、引用例2の記載事項(ク)で示されたデータから読み取れるヘキサデシルホスホコリンとシタラビンとの相乗効果に比較して、当業者の予測し得る範囲を超えるものとすることができない。
してみると、本願補正発明が引用例1及び2の記載から当業者が予測し得ないほど優れた効果を奏し得たものとすることはできない。

したがって、本願補正発明は、引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(2-3)むすび
よって、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成21年 7月 6日付け誤訳訂正書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
一般式II
【化1】

[式中、互いに独立して、
n、m、p、zは0?4の整数であり、
XはO、S、NHであり、RはH、直鎖または分枝の(C_(1)?C_(20))-アルキル基であり、この場合、これらは、飽和または不飽和であって、1?3個の二重および/または三重結合を有していてもよくかつ、非置換または場合によっては同一または異なるC原子上で、1個、2個またはそれ以上のハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、(C_(1)?C_(6))-アルコキシ、アミノ、モノ-(C_(1)?C_(4))-アルキルアミノまたはジ-(C_(1)?C_(4))-アルキルアミノ基によって置換されていてもよく;
R_(1)、R_(2)は互いに独立して、H、直鎖または分枝の(C_(1)?C_(6))-アルキル基、好ましくはメチルおよびエチル、(C_(3)?C_(7))-シクロアルキル基であり、かつ非置換または場合によっては同一または異なるC原子上で、1個、2個またはそれ以上のハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、(C_(1)?C_(6))-アルコキシ、アミノ、モノ-(C_(1)?C_(4))-アルキルアミノまたはジ-(C_(1)?C_(4))-アルキルアミノ基で置換されていてもよい]の少なくとも1種のアルキルホスホコリンと、担体および/または添加剤を含有する医薬品であって、代謝拮抗物質、植物アルカロイド、天然ホルモンのアゴニストまたはアンタゴニスト、レセプターキナーゼおよび/またはサイトソリックキナーゼの高分子および低分子の阻害剤の形のシグナル伝達阻害剤、カルボプラチン、オキサリプラチン、ブレオマイシン、メトトレキサート、パクリタキセル、ドセタキセル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド、テニポシド、イホスファミド、5-フルオロウラシル、フルダラビン、ゲムシタビンおよびシタラビンから選択された認可された抗腫瘍医薬での治療前および/または治療中に良性および悪性腫瘍を治療するための医薬品。」


4.引用例に記載された事項
引用例1に記載された事項は、上記2.の(2-2-1)に記載したとおりであり、引用例1から認定される引用発明は、上記2.の(2-2-2)に記載したとおりである。


5.対比・判断
本願発明は、本願補正発明の一般式IIの化合物や医薬品の医薬用途を、より広範な範囲のものとしたものである。
そうすると、本願発明をより狭い範囲のものとした発明といえる本願補正発明が、上記2.(2-2-4)にて説示したとおり、引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。


なお、念のため付言すると、審判請求人は、当審の審尋に対する平成24年1月31日付け回答書において、特許請求の範囲の補正案を提示しているが、この補正案も、上述した理由と同様の理由により、進歩性を見いだすことはできないものである。また、審判請求人は、上記回答書において、原査定を維持する際は前置報告書に対する意見等を述べる機会を欲しい旨主張するが、この審決における認定・判断は、前置報告書において示された原審審査官の見解を採用してなされたものではないから、前置報告書に対する意見等を述べる機会を審判請求人に与える必要性を見いだせない。
 
審理終結日 2012-04-20 
結審通知日 2012-04-26 
審決日 2012-05-08 
出願番号 特願2004-525354(P2004-525354)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤田 浩平  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 荒木 英則
内田 淳子
発明の名称 抗腫瘍医薬との組合せにおけるアルキルホスホコリンの使用  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 久野 琢也  

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