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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1263577
審判番号 不服2011-12276  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-08 
確定日 2012-09-20 
事件の表示 特願2001-142355「内燃機関の希薄排ガスから窒素酸化物およびカーボンブラック粒子を除去するための方法および排ガス浄化装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月23日出願公開、特開2002- 21544〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願(以下、「本願」という。)は、平成13年5月11日(パリ条約による優先権主張2000年5月12日、ドイツ)の出願であって、平成22年5月24日付けで拒絶理由が通知され、平成22年9月30日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年2月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年6月8日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に、同日付けで明細書を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において、平成23年12月19日付けで書面による審尋がなされ、平成24年3月9日付けで回答書が提出されたものである。


第2 平成23年6月8日付け手続補正について
(1)平成23年6月8日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、明細書の特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成22年9月30日付けの手続補正書によって補正された)明細書の特許請求の範囲の以下の(a)に示す請求項1ないし7を、(b)に示す請求項1ないし4に補正するものである。

(a)本件補正前の明細書の特許請求の範囲
「 【請求項1】 硫黄酸化物の僅かな濃度をも有する、内燃機関の希薄排ガスから窒素酸化物およびカーボンブラック粒子を除去するための方法において、
排ガス流を窒素酸化物蓄積触媒および粒子フィルター上に導き、その際窒素酸化物および硫黄酸化物は、蓄積触媒によって希薄排ガス条件下で吸着され、およびカーボンブラック粒子は、粒子フィルター上で析出され、蓄積触媒を第1の作業周期で周期的に排ガスの過濃化によって脱ニトロ化し、粒子フィルターの再生ならびに窒素酸化物蓄積触媒の脱硫を、第2の作業周期で、カーボンブラック焙焼残分が粒子フィルター上で引火しかつその後に蓄積触媒が排ガスの過濃化により脱硫されうる値に希薄排ガスの温度を上昇させることにより、行なうことを特徴とする、内燃機関の希薄排ガスから窒素酸化物およびカーボンブラック粒子を除去するための方法。
【請求項2】 窒素酸化物蓄積触媒を排ガス流中で粒子フィルターの前方に配置し、排ガス温度を粒子フィルターの再生および蓄積触媒の脱硫のために炭化水素の燃焼によって蓄積触媒上で上昇させ、そのために必要とされる炭化水素を内燃機関の燃焼室中への燃料の後噴入によって排ガス流に供給するかまたは蓄積触媒の前方で燃料インゼクターにより、正味の酸化排ガス組成を維持しながら排ガス流へ噴射し、内燃機関のカーボンブラック焙焼残分の引火後に蓄積触媒の脱硫のために、過濃化された空気/燃料混合気と一緒に運転し、還元性の排ガス組成物を製造する、請求項1記載の方法。
【請求項3】 排ガス流を順次に窒素酸化物蓄積触媒上および粒子フィルター上に導き、第3の作業周期で粒子フィルターの再生だけを希薄排ガス組成の際に粒子フィルターの前方でのカーボンブラック引火温度への排ガス温度の上昇によって行なう、請求項1記載の方法。
【請求項4】 粒子フィルターの前方に酸化触媒を排ガス中に配置し、第3の作業周期で排ガス温度の上昇のために炭化水素を正味の酸化排ガス組成を維持しながら酸化触媒の前方で排ガス流へ噴射し、酸化触媒に接して燃焼させる、請求項1記載の方法。
【請求項5】 請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法を実施するための排ガス浄化装置において、窒素酸化物蓄積触媒および粒子フィルターを有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法を実施するための排ガス浄化装置。
【請求項6】 窒素酸化物蓄積触媒が排ガス流中で粒子フィルターの前方に配置されていることを特徴とする、請求項5記載の排ガス浄化装置。
【請求項7】 請求項4記載の方法を実施するための排ガス浄化装置において、排ガス流中に窒素酸化物蓄積触媒、酸化触媒、粒子フィルターおよび炭化水素のための燃料インゼクターが順次に配置されて備えられており、燃料インゼクターが窒素酸化物蓄積触媒と酸化触媒との間に配置されていることを特徴とする、請求項4記載の方法を実施するための排ガス浄化装置。」

(b)本件補正後の明細書の特許請求の範囲
「 【請求項1】 硫黄酸化物の僅かな濃度をも有する、内燃機関の希薄排ガスから窒素酸化物およびカーボンブラック粒子を除去するための方法において、
排ガス流を窒素酸化物蓄積触媒および粒子フィルター上に導き、その際窒素酸化物および硫黄酸化物は、蓄積触媒によって希薄排ガス条件下で吸着され、およびカーボンブラック粒子は、粒子フィルター上で析出され、蓄積触媒を第1の作業周期で周期的に排ガスの過濃化によって脱ニトロ化し、粒子フィルターの再生ならびに窒素酸化物蓄積触媒の脱硫を、第2の作業周期で、カーボンブラック焙焼残分が粒子フィルター上で引火しかつその後に蓄積触媒が排ガスの過濃化により脱硫されうる値に希薄排ガスの温度を上昇させることにより、行なうことを特徴とする、内燃機関の希薄排ガスから窒素酸化物およびカーボンブラック粒子を除去するための方法。
【請求項2】 窒素酸化物蓄積触媒を排ガス流中で粒子フィルターの前方に配置し、排ガス温度を粒子フィルターの再生および蓄積触媒の脱硫のために炭化水素の燃焼によって蓄積触媒上で上昇させ、そのために必要とされる炭化水素を内燃機関の燃焼室中への燃料の後噴入によって排ガス流に供給するかまたは蓄積触媒の前方で燃料インゼクターにより、正味の酸化排ガス組成を維持しながら排ガス流へ噴射し、内燃機関のカーボンブラック焙焼残分の引火後に蓄積触媒の脱硫のために、過濃化された空気/燃料混合気と一緒に運転し、還元性の排ガス組成物を製造する、請求項1記載の方法。
【請求項3】 排ガス流を順次に窒素酸化物蓄積触媒上および粒子フィルター上に導き、第3の作業周期で粒子フィルターの再生だけを希薄排ガス組成の際に粒子フィルターの前方でのカーボンブラック引火温度への排ガス温度の上昇によって行なう、請求項1記載の方法。
【請求項4】 粒子フィルターの前方に酸化触媒を排ガス中に配置し、第3の作業周期で排ガス温度の上昇のために炭化水素を正味の酸化排ガス組成を維持しながら酸化触媒の前方で排ガス流へ噴射し、酸化触媒に接して燃焼させる、請求項1記載の方法。」

(2)本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし7のうち、請求項5ないし7の削除を目的とするものである。
したがって、特許請求の範囲についての本件補正は、平成18年法律第55号附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。


第3 刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平6-272541号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面とともに、例えば、次のような事項が記載されている。(なお、下線は理解の一助のため当審で付した。)

(a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は内燃機関の排気浄化装置に関し、詳細にはディーゼルエンジンの排気中に含まれるNO_(X) 成分を効果的に除去可能な排気浄化装置に関する。
【0002】
【従来の技術】特開昭62-106826号公報には、排気ガスの空燃比がリーンのときにはNO_(X) を吸収し排気ガス中の酸素濃度が低下すると吸収したNO_(X) を放出するNO_(X) 吸収剤をディーゼル機関の排気通路内に配置し、このNO_(X) 吸収剤に排気中のNO_(X) を吸収させ、NO_(X) 吸収剤の吸収効率が低下したときに排気の流入を遮断してNO_(X) 吸収剤に還元剤を供給し、NO_(X) 吸収剤から吸収したNO_(X) を放出させるとともに放出されたNO_(X) の還元浄化を行う内燃機関の排気浄化装置が開示されている。
【0003】また、ディーゼルエンジンの排気中に多く含まれる排気微粒子(パティキュレート)の大気放出を防止するためにディーゼルエンジンの排気通路にパティキュレートフィルタを配置して排気中のパティキュレートを捕集することが知られている。」(段落【0001】ないし【0003】)

(b)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】NO_(X) 吸収剤は、上述のようにリーン空燃比の排気中のNO_(X) を吸収し、排気中の酸素濃度が低下すると吸収したNO_(X) を放出するNO_(X) の吸放出作用を行う。この吸放出作用については後に詳述するが、排気中に硫黄酸化物(SO_(X) )が存在するとNO_(X) 吸収剤はNO_(X) の吸収作用を行うのと全く同じメカニズムで排気中のSO_(X) の吸収を行う。
【0005】ところが、NO_(X) 吸収剤に吸収されたSO_(X) は安定な硫酸塩を形成するため一般に分解、放出されにくく、NO_(X) 吸収剤内に蓄積されやすい傾向がある。NO_(X) 吸収剤内のSO_(X) 蓄積量が増大すると、NO_(X) 吸収剤のNO_(X) 吸収容量が減少して排気中のNO_(X) の除去を十分に行うことができなくなるため、NO_(X) の浄化効率が低下するいわゆるSO_(X )被毒が生じる問題がある。特に、燃料として比較的硫黄成分を多く含む軽油を使用するディーゼルエンジンにおいてはこのSO_(X)被毒の問題が生じやすい。
【0006】一方、NO_(X) 吸収剤に吸収されたSO_(X) についても、NO_(X) の放出、還元浄化と同じメカニズムで放出、還元浄化が可能であることが知られている。しかし、上述のようにNO_(X) 吸収剤内に蓄積された硫酸塩は比較的安定であるため、通常のNO_(X) の放出、還元浄化操作(以下「NO_(X) 吸収剤の再生操作」という)が行われる温度(例えば、250度C程度以上)ではNO_(X) 吸収剤内に吸収されたSO_(X) を放出させることは困難である。このため、SO_(X) 被毒を解消するためには、NO_(X) 吸収剤を通常の再生操作時より高い温度(例えば500度C以上)に昇温し、かつ流入する排気の空燃比をリッチにする被毒解消操作を定期的に行う必要がある。
【0007】このため、比較的排気温度が低いディーゼルエンジン等ではSO_(X )被毒解消操作のために電気ヒータ、バーナ等の加熱手段を設け一定期間毎に通常より高い温度にNO_(X )吸収剤を加熱することが必要となり、加熱手段の設置による装置コストの上昇や加熱に要するエネルギのための燃費増大の問題が生じていた。本発明は、上記問題に鑑み、特別な加熱手段を設けることなく簡易にNO_(X) 吸収剤のSO_(X) 被毒解消操作を行うことのできる内燃機関の排気浄化装置を提供することを目的としている。」(段落【0004】ないし【0007】)

(c)「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、流入排気の空燃比がリーンのときにNO_(X) を吸収し流入排気の酸素濃度が低下したときに吸収したNO_(X) を放出するNO_(X) 吸収剤をディーゼルエンジンの排気通路に配置して排気中のNO_(X) を吸収させ、NO_(X) 吸収後に前記NO_(X) 吸収剤に流入する排気空燃比をリッチにして前記NO_(X) 吸収剤から吸収したNO_(X) を放出させるとともに放出されたNO_(X) を還元浄化する排気浄化装置において、前記NO_(X) 吸収剤と排気中の微粒子を捕集するパティキュレートフィルタとを相互に熱伝達可能な位置に配置し、NO_(X) 吸収剤に流入する排気空燃比をリッチにして前記NO_(X) の放出と還元浄化を行い、その後前記パティキュレートフィルタに捕集されたパティキュレートを燃焼させ、このパティキュレート燃焼操作終了後に再度前記NO_(X) 吸収剤に流入する排気空燃比をリッチにしてNO_(X) 吸収剤のSO_(X) 被毒を解消することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置が提供される。
【0009】
【作用】NO_(X) 吸収剤に流入する排気空燃比がリッチになると、排気中の酸素濃度が急激に低下してNO_(X) 吸収剤に吸収されたNO_(X) が放出され、排気中の未燃HC成分と反応して還元浄化される。次いで排気空燃比をリーンにしてパティキュレートフィルタに捕集されたパティキュレートの燃焼が行われ、パティキュレートフィルタは高温になる。NO_(X) 吸収剤とパティキュレートフィルタとは相互に熱伝達可能な位置に配置されているため、このときNO_(X) 吸収剤も高温になる。一般にNO_(X) 吸収剤が高温になるとリーン雰囲気下でもNO_(X) 吸収剤からNO_(X) が放出されるようになるが、パティキュレートの燃焼はNO_(X) 吸収剤のNO_(X) 放出終了後に行われるため、パティキュレート燃焼時にはNO_(X) は放出されず未浄化のNO_(X) が大気に放出されることが防止される。
【0010】次いで、パティキュレートの燃焼が終了すると排気空燃比は再度リッチにされる。このため、NO_(X) 吸収剤は高温かつリッチ雰囲気条件になり、NO_(X) 吸収剤からSO_(X) が放出され、SO_(X) 被毒が解消する。」(段落【0008】ないし【0010】)

(d)「【0011】
【実施例】図1に本発明の第一の実施例を示す。図1において、2はディーゼルエンジン、4は吸気通路、6は排気通路を夫々示す。吸気通路4内には吸気絞り弁8が設けられ、この吸気絞り弁8は通常時は全開とされており、後述のようにNO_(X) 吸収剤の再生を行う際に閉弁され、エンジン2の吸入空気量を絞りNO_(X) 吸収剤に流入する排気流量を低減する。これにより、排気中の酸素を消費してNO_(X) 吸収剤雰囲気の酸素濃度を低下させるために必要な還元剤の量が低減される。図に16で示すのは吸気絞り弁8を駆動するソレノイド、負圧アクチュエータ等の適宜な形式のアクチュエータである。
【0012】排気通路6の途中には、パティキュレートフィルタ10が配置される。12はパティキュレートフィルタ10上流側の排気通路6に還元剤を供給してNO_(X) 吸収剤に流入する排気空燃比をリッチにするための還元剤供給装置である。本実施例では還元剤としてディーゼルエンジン2の燃料が使用されており、還元剤供給装置12はエンジン燃料系統から供給された燃料を排気通路6内に霧状に噴射するノズルを備えている。
【0013】パティキュレートフィルタ10と還元剤供給装置12との間の排気通路6には排気温センサ14が配置され、この排気温センサ14の検出信号は電子制御ユニット(ECU)30に入力される。ECU30は、CPU(中央演算装置)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM(リードオンリメモリ)、入出力ポートを双方向バスで接続した公知の形式のディジタルコンピュータからなり、燃料噴射量制御等のエンジンの基本制御を行う他、本実施例ではNO_(X) 吸収剤の再生、パティキュレートの燃焼、NO_(X) 吸収剤のSO_(X) 被毒解消等の制御をも行っている。これらの制御のため、ECU30は、吸気絞り弁8を駆動するアクチュエータ16、および還元剤供給装置12を制御して、吸気絞り弁8の開閉と還元剤供給装置12からの還元剤の供給の調節を行う。
【0014】図2にはパティキュレートフィルタ10の拡大断面図を示す。図2を参照すると、パティキュレートフィルタ10は多孔質セラミックから成り、排気ガスは矢印で示されるように図中左から右に向かって流れる。パティキュレートフィルタ10内には、上流側に栓18が施された第1通路22と下流側に栓20が施された第2通路24とが交互に配置されハニカム状をなしている。排気ガスが図中左から右に向かって流れると、排気ガスは第2通路24から多孔質セラミックの流路壁面を通過して第1通路22に流入し、下流側に流れる。このとき、排気ガス中のパティキュレートは多孔質セラミックによって捕集され、パティキュレートの大気への放出が防止される。
【0015】第1および第2通路22および24の壁面にはNO_(X) 吸収剤26が担持されている。NO_(X) 吸収剤26は、例えばカリウムK、ナトリウムNa,リチウムLi、セシウムCsのようなアルカリ金属、バリウムBa、カルシウムCaのようなアルカリ土類、ランタンLa、イットリウムYのような希土類から選ばれた少なくとも一つと、白金Ptのような貴金属とから成る。NO_(X) 吸収剤26は流入排気ガスの空燃比がリーンのときにはNO_(X) を吸収し、流入排気ガス中の酸素濃度が低下すると吸収したNO_(X) を放出するNO_(X) の吸放出作用を行う。
【0016】本実施例ではディーゼルエンジンが使用されているため、通常時の排気空燃比はリーンでありNO_(X) 吸収剤26は排気中のNO_(X) の吸収を行う。また、還元剤装置12からパティキュレートフィルタ10上流側の排気通路に還元剤が供給されて流入排気の空燃比がリッチになるとNO_(X) 吸収剤26は吸収したNO_(X) の放出を行う。」(段落【0011】ないし【0016】)

(e)「【0023】次に図4を参照しつつ本実施例の動作について説明する。図4はNO_(X) 吸収剤26のSO_(X) 被毒解消操作の制御ルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンはECU30により一定時間毎の割込みによって実行される。図4を参照すると、まず、ステップ40でNO_(X) 吸収剤26からの上記NO_(X)の放出、還元浄化操作(再生操作)の実行条件が成立したか否かが判定される。NO_(X) 吸収剤再生開始条件は、例えば、減速時であり、NO_(X) 吸収剤26が活性化温度以上であり、かつ前回再生を実行してから所定時間以上経過していること等である。NO_(X) 吸収剤再生開始条件が成立していないと判定された場合、ステップ42に進み吸気絞り弁8が開弁され、ステップ44で還元剤供給装置12からの燃料供給が禁止される。
【0024】一方、ステップ40においてNO_(X) 吸収剤再生開始条件が成立した場合、ステップ46に進み、NO_(X) 吸収剤再生開始条件が成立した時からの経過時間Tが予め定められた第1の時間T_(1) より小さいか否か判定される。第1の時間T_(1) は、NO_(X) 吸収剤26を再生するのに必要な時間である。T<T_(1) の場合、ステップ48に進み吸気絞り弁8が閉弁される。これによってパティキュレートフィルタ10に流入する空気量が減少される。次いで、ステップ50で、還元剤供給装置12から燃料が供給される。供給された燃料はNO_(X) 吸収剤26の触媒作用によって燃焼し排気ガス中の酸素が消費される。このため、パティキュレートフィルタ10内の排気ガス中の酸素濃度が極度に低下して排気ガスの空燃比はリッチとなる。これによって、前述のように、NO_(X) 吸収剤26からNO_(X) が放出され、この放出されたNO_(X) は還元浄化されることとなる。
【0025】次いで、ステップ46でT≧T_(1) と判定された場合、すなわち、NO_(X) 吸収剤26の再生が完了したと判定された場合、ステップ52に進み、経過時間Tが予め定められた第2の時間T_(2) より小さいか否か判定される。T_(2) はT_(1) より大きい値であり、T_(2) -T_(1) は、パティキュレートフィルタ10に捕集されたパティキュレートを燃焼させるために要する時間である。T<T_(2) の場合、すなわち燃焼時間内である場合には、ステップ54に進み吸気絞り弁8が開弁される。これによって多量の空気がパティキュレートフィルタ10内に流入する。次いでステップ56に進んで還元剤供給装置12から着火用の燃料が供給されて燃焼される。これによって、パティキュレートフィルタ10に捕集されたパティキュレートに着火され、燃焼する。なお、図示していないが、パティキュレートフィルタ10上流側に電気ヒータ等の補助的加熱手段を設け、NO_(X) 吸収剤の再生完了後一定時間パティキュレートフィルタ10を加熱するようにすればパティキュレートの着火が促進される。
【0026】次いでステップ52でT≧T_(2) と判定された場合、すなわち、パティキュレートの燃焼が完了した場合には、ステップ58に進み経過時間Tが所定の第3の時間T_(3) より小さいか否かが判定される。T_(3) はT_(2) より大きい値であり、T_(3) -T_(2) は、NO_(X) 吸収剤26のSO_(X) 被毒の解消のために必要な時間である。T<T_(3) の場合、すなわちSO_(X) 被毒解消操作時間内の場合にはステップ60に進み吸気絞り弁8は再度閉弁され、ステップ62で還元剤供給装置12からSO_(X) 被毒解消用の燃料が供給される。これにより、NO_(X) 吸収剤26は高温かつリッチ雰囲気の状態になり、NO_(X) 吸収剤26に吸収されたSO_(X) がSO_(2) の形でNO_(X) 吸収剤から放出される。
【0027】また、ステップ58でT≧T_(3) と判定された場合、すなわち、SO_(X) 被毒解消操作が完了した場合には、ステップ42に進み吸気絞り弁8が開弁され、ステップ44で還元剤供給装置12からの燃料供給が禁止される。これにより、NO_(X)吸収剤26は再び排気中のNO_(X) の吸収を行う。以上のように本実施例によれば、NO_(X) 吸収剤26をパティキュレートフィルタに担持させ、NO_(X) 吸収剤の再生操作を行った後にパティキュレートを燃焼させて、更にその後にNO_(X) 吸収剤のSO_(X) 被毒解消操作を行うようにしているために、以下のような効果を得ることができる。
【0028】パティキュレートフィルタ10に捕集されたパティキュレートを燃焼させることにより、パティキュレートフィルタ10に担持されたNO_(X) 吸収剤26が高温になるため、NO_(X) 吸収剤26のSO_(X) 被毒解消操作のために別途加熱手段を設けてNO_(X) 吸収剤26を加熱昇温する必要がないので簡易にNO_(X) 吸収剤のSO_(X) 被毒解消操作を行うことができる。また、SO_(X) 被毒解消操作時にパティキュレートの燃焼により発生する熱を利用してNO_(X) 吸収剤を加熱するため、NO_(X)吸収剤の加熱のために外部から供給するエネルギを大幅に低減することができる。
【0029】また、NO_(X) 吸収剤26の再生操作実行後にパティキュレートを燃焼させるようにしているためにパティキュレート燃焼時の熱によってNO_(X) 吸収剤26に吸収されたNO_(X) が大気に放出されることを防止することができ、さらに、NO_(X)吸収剤26の再生操作時に供給された燃料がNO_(X) 吸収剤26上で燃焼しパティキュレートフィルタ10の温度が上昇するため、これによりパティキュレートフィルタ10に捕集されているパティキュレートが昇温され、パティキュレートの着火燃焼が容易になる。
【0030】なお、本実施例ではNO_(X) 吸収剤をパティキュレートフィルタ内の排気通路壁面に担持させているが、NO_(X) 吸収剤とパティキュレートフィルタとは別個に独立させてもよい。この場合には、NO_(X) 吸収剤の上流側にパティキュレートフィルタを配置し、パティキュレート燃焼時にパティキュレートフィルタで発生する熱が効率よくNO_(X) 吸収剤に伝達されるようにする。」(段落【0023】ないし【0030】)

(f)「【0031】次に図5を用いて本発明の第二の実施例について説明する。図1の実施例ではNO_(X) 吸収剤の再生及びSO_(X) 被毒解消操作時に吸気絞り弁8を閉じてエンジンの吸入空気量を絞り、NO_(X) 吸収剤(パティキュレートフィルタ)に流入する排気流量を低下させるようにして排気中の酸素を消費するために必要な還元剤の量を低減している。このため、NO_(X) 吸収剤の再生、SO_(X) 被毒解消操作時にはエンジン出力が低下することになる。このため、これらの操作は限られた運転条件下(例えばエンジンブレーキ時等エンジン出力が低下しても運転に影響が生じない条件下)で行う必要があり、任意の時期にNO_(X) 吸収剤再生やSO_(X) 被毒解消操作を行うことができない。
【0032】図5に示す実施例ではNO_(X) 吸収剤を担持したパティキュレートフィルタを排気管に2つ並列に配置し、一方ずつNO_(X) 吸収剤に流入する排気を遮断してNOX 吸収剤の再生とSO_(X) 被毒解消操作を行う。これにより、一方のNO_(X) 吸収剤の再生操作実行中には他方のNO_(X) 吸収剤に排気の流れを切り換えて運転できるので、全体として排気流量を絞る必要がなくエンジンの出力低下を生じない。このため、運転条件に左右されることなく任意の時期にNOX 吸収剤の再生等の操作を行うことが可能となる。
【0033】図5において、6はエンジン(図示せず)の排気管、6a、6bは排気管6の分岐通路、10a、10bは分岐通路6a,6bに配置されたパティキュレートフィルタ、9a、9bはそれぞれ分岐通路6a,6bのパティキュレートフィルタ10a、10b上流側に設けられた遮断弁、91a、91bは遮断弁9a、9bを駆動するソレノイド、負圧アクチュエータ等の適宜な形式のアクチュエータである。本実施例においてもパティキュレートフィルタ10a、10bはそれぞれ図2の実施例と同様にNO_(X) 吸収剤を担持した構造とされている。
【0034】また、本実施例においては還元剤供給装置12はそれぞれパティキュレートフィルタ10a、10bの上流側の分岐通路6a、6b内に還元剤(燃料)を供給する噴射ノズル12a、12bを備えている。更に、本実施例では遮断弁9a、9bとパティキュレートフィルタ10a、10bとの間の分岐通路6a、6bに二次空気を供給する二次空気供給装置11が設けられている。二次空気供給装置11はエアポンプ等の空気供給源11cとそれぞれ分岐通路6a、6bに空気を供給するノズル11a、11bとを備え、後述のECU30からの制御信号によりパティキュレートフィルタ10a、10bに二次空気を供給する。
【0035】また、本実施例ではパティキュレートフィルタの再生操作の要否を判定するために分岐通路6a、6bの上流側の排気管6には排気管6内の排気圧力を検出する背圧センサ21が設けられている。さらに、パティキュレートフィルタ10a、10bの下流側の分岐通路6a、6bには排気温度を検出する排気温度センサ23a、23bと、排気中の酸素濃度を検出して酸素濃度に応じた連続的な出力信号を発生する酸素濃度センサ25a、25bがそれぞれ配置されている。
【0036】また、電子制御ユニット(ECU)30の入力ポートには背圧センサ21、排気温度センサ23a、23b、酸素濃度センサ25a、25bからの出力信号がそれぞれ図示しないA/D変換器を介して入力されている他、エンジン回転数等の信号か図示しないセンサから入力されている。さらに、ECU30の出力ポートは、図示しない駆動回路を通じて遮断弁9a、9bのアクチュエータ91a、91b、還元剤供給装置12のノズル12a、12b、二次空気供給装置11のエアポンプ11c、ノズル11a、11bにそれぞれ接続され、これらの作動を制御している。
【0037】本実施例では、通常時遮断弁9a、9bの一方(例えば遮断弁9a)は分岐通路(例えば分岐通路6a)を閉鎖し、排気の略全量をもう一方のパティキュレートフィルタ(10b)に導いて該一方のパティキュレートフィルタでNO_(X) の吸収とパティキュレートの捕集を行う。また、このNO_(X) の吸収を行っているパティキュレートフィルタ(10b)上のNO_(X) 吸収剤のNO_(X) 吸収量が増大した場合には、遮断弁を切り換えて排気の略全量をもう一方の分岐通路のパティキュレートフィルタ(6a、10a)に導いてNO_(X) の吸収とパティキュレートの捕集を行うとともに、NO_(X) 吸収量が増大したパティキュレートフィルタ(10b)に還元剤を供給してNO_(X) 吸収剤の再生を行う。
【0038】また、ECU30は背圧センサ21の出力から使用中のパティキュレートフィルタの排気抵抗が増大したことを検出すると、このパティキュレートフィルタのNO_(X) 吸収剤再生操作実行後に、遮断弁は閉弁したまま二次空気供給装置11からパティキュレートフィルタに二次空気を供給することにより、続いてパティキュレートフィルタに捕集されたパティキュレートを燃焼させる。
【0039】更に、パティキュレートの燃焼が完了すると遮断弁の閉弁と還元剤の供給は維持したまま二次空気の供給を停止する。これによりパティキュレートフィルタに担持されたNO_(X) 吸収剤は高温かつリッチ雰囲気に置かれるためNO_(X) 吸収剤からSO_(X) が放出されSO_(X) 被毒が解消する。図6はNO_(X) 吸収剤のSO_(X) 被毒解消操作を示すフローチャートである。本ルーチンはECU30により一定時間毎に実行される。
【0040】図6においてルーチンがスタートすると、ステップ601では現在使用しているパティキュレートフィルタのNO_(X) 吸収剤の再生操作開始条件が成立しているか否かが判断される。NO_(X) 吸収剤の再生はエンジン排気温度が所定値以上(すなわち、NO_(X) 吸収剤が所定の活性温度以上)であり、かつNO_(X) 吸収剤の使用時間(NO_(X) 吸収量)が所定値(例えば1分から3分程度)に達している場合(すなわち、使用中のNO_(X) 吸収剤のNO_(X) 吸収量が所定量以上になっている場合)に実行される。
【0041】ステップ601でNO_(X) 吸収剤の再生操作開始条件が成立している場合にはステップ603で遮断弁9a、9bを切換えて、再生操作を行う側のパティキュレートフィルタの分岐通路を閉鎖する。これにより、排気の略全量がもう一方の分岐通路に流れ、再生を行う側のパティキュレートフィルタには遮断弁全閉時の洩れ流量に相当する排気流量が流れるのみとなる。次いでステップ605では再生操作を行う側のパティキュレートフィルタに還元剤供給装置12から燃料が供給される。これにより、燃料はパティキュレートフィルタに担持されたNO_(X) 吸収剤上で燃焼し、NO_(X) 吸収剤の周囲の排気中の酸素が消費され、NO_(X) 吸収剤からのNO_(X) の放出と還元浄化が行われるとともに、燃焼によりNO_(X) 吸収剤を担持するパティキュレートフィルタの温度が上昇する。
【0042】次いでステップ607ではNO_(X) 吸収剤の再生操作の終了条件が判定される。NO_(X) 吸収剤の再生操作は、再生操作実行中のパティキュレートフィルタの下流側の酸素濃度センサ(25aまたは25b)で検出した排気酸素濃度が所定値以下(略ゼロ)になった状態(排気中の酸素が全部消費された状態)から所定時間(例えば、数秒から数十秒)経過した時に終了する。
【0043】ステップ607でNO_(X) 吸収剤の再生操作が終了したと判断されたときにはステップ609でパティキュレートフィルタの再生操作を同時に行う必要があるか否かが判定される。パティキュレートフィルタの再生操作は、NO_(X) 吸収剤の再生開始前に背圧センサ21から読み込んだ排気圧力が所定値(エンジンの回転数、負荷などに応じて予め設定された値)以上か否かにより判断される。
【0044】ステップ609でパティキュレートフィルタの再生操作が必要ないと判断された場合にはステップ621で還元剤供給装置12からの燃料供給が停止され、遮断弁9a、9bはこのままの状態に保持され、再生後のNO_(X) 吸収剤は待機状態に置かれる。ステップ609でパティキュレートフィルタの再生操作が必要と判断された場合には続いてステップ611から615のパティキュレートフィルタの再生操作が行われる。すなわち、ステップ611では還元剤供給装置12から供給される燃料の量が増量され、ステップ613では二次空気供給装置11からパティキュレートフィルタに所定量の二次空気(例えば50リットル/分程度)が供給される。これによりパティキュレートフィルタに捕集されたパティキュレートが着火、燃焼する。
【0045】次いで、ステップ615では、パティキュレートの燃焼が終了したか否かが判断される。本実施例では、ステップ611と613が開始されて所定時間(例えば8分程度)が経過した場合にパティキュレートの燃焼が完了したと判断して、引き続きステップ617から619のSO_(X) 被毒解消操作を実行する。すなわち、ステップ617では遮断弁の全閉状態と還元剤供給装置12からの還元剤供給量は維持したまま二次空気供給装置11からの二次空気供給が停止される。前述のように、この状態ではパティキュレートの燃焼によりパティキュレートフィルタに担持されたNO_(X) 吸収剤は高温(500度C以上)になっており、遮断弁の全閉状態と還元剤供給量を維持したまま二次空気の供給を停止することによりNO_(X) 吸収剤は通常のNO_(X) 吸収剤の再生操作時より大幅に高温かつリッチ雰囲気に置かれることになる。このため、NO_(X) 吸収剤に吸収されたSO_(X)はSO_(2) の形で速やかにNO_(X) 吸収剤から放出され、NO_(X) 吸収剤のSO_(X) 被毒が解消する。」(段落【0031】ないし【0045】)

(g)「【0048】
【発明の効果】本発明は、パティキュレートフィルタに捕集されたパティキュレートを燃焼させる際に発生する熱をNO_(X) 吸収剤のSO_(X) 被毒解消に利用することができるようにNO_(X) 吸収剤とパティキュレートフィルタを相互に熱伝達可能な位置に配置し、パティキュレートフィルタに捕集されたパティキュレートの燃焼を行った後にNO_(X) 吸収剤のSO_(X) 被毒解消操作を行うようにしたことにより、SO_(X) 被毒解消操作のために特別な加熱手段を設けることなく簡易にNO_(X) 吸収剤のSO_(X)被毒を解消することができるとともに、SO_(X) 被毒解消操作時にNO_(X) 吸収剤を加熱するために外部から供給するエネルギを大幅に低減できる効果を奏する。」(段落【0048】)

上記(a)ないし(g)及び図面から分かること。

(ア)上記(a)ないし(g)及び図面から、刊行物には、SO_(X) を含む、内燃機関のリーン空燃比の排気ガスからNO_(X) 及びパティキュレートを除去するための方法が記載されていることが分かる。

(イ)上記(a)ないし(g)及び図面から、刊行物に記載された、SO_(X) を含む、内燃機関のリーン空燃比の排気ガスからNO_(X) 及びパティキュレートを除去するための方法において、排気ガスの流れをNO_(X) 吸収剤26及びパティキュレートフィルタ10に流入させ、その際NO_(X) 及びSO_(X) は、NO_(X) 吸収剤によってリーン空燃比の排ガス下で吸収され、及びパティキュレートは、パティキュレートフィルタ10上で捕集されることが分かる。

(ウ)上記(a)ないし(g)及び図面から、刊行物に記載された、SO_(X) を含む、内燃機関のリーン空燃比の排気ガスからNO_(X) 及びパティキュレートを除去するための方法において、NO_(X) 吸収剤の再生開始条件が成立した場合に、周期的に、排気ガスの空燃比をリッチにすることにより、NO_(X) 吸収剤26からのNO_(X)の放出を行い、パティキュレートフィルタ10の再生操作を行う必要がある場合には、周期的に、パティキュレートフィルタ10の再生(パティキュレートフィルタ10に捕集されたパティキュレートの燃焼)並びにNO_(X) 吸収剤26のSO_(X) 被毒解消操作(NO_(X) 吸収剤26に吸収されたSO_(X) の放出)を、パティキュレートがパティキュレートフィルタ上で燃焼しかつその後にNO_(X) 吸収剤が排気ガスのリッチ雰囲気によりSO_(X) が放出される高温の状態に排気ガスの温度を上昇させることにより行うことが分かる。

(エ)上記(a)ないし(g)(特に「第二の実施例」を参照。)及び図面(特に【図6】を参照。)から、刊行物に記載された、SO_(X) を含む、内燃機関のリーン空燃比の排気ガスからNO_(X) 及びパティキュレートを除去するための方法において、NO_(X) 吸収剤の再生開始条件が成立した場合(【図6】のステップ601)には、(周期的に)NO_(X) 吸収剤26からのNO_(X)の放出を行い、さらに、パティキュレートフィルタ10の再生を行う必要がある場合(【図6】のステップ609)には、(周期的に)パティキュレートフィルタ10の再生並びにNO_(X) 吸収剤26からのSO_(X) の放出を(周期的に)行うことが分かる。(また、後述するように、この「第二の実施例」の場合には、「NO_(X) 吸収剤の再生」と、「パティキュレートフィルタの再生」とは、異なる周期で行われているといえる。)

上記(a)ないし(g)及び(ア)ないし(エ)並びに図面から、刊行物には、次の発明(以下、「刊行物に記載された発明」という。)が記載されているといえる。

「SO_(X) を含む、内燃機関のリーン空燃比の排気ガスからNO_(X) 及びパティキュレートを除去するための方法において、
排気ガスの流れをNO_(X) 吸収剤26及びパティキュレートフィルタ10に流入させ、その際NO_(X) 及びSO_(X) は、NO_(X) 吸収剤によってリーン空燃比の排ガス下で吸収され、及びパティキュレートは、パティキュレートフィルタ10上で捕集され、NO_(X) 吸収剤の再生開始条件が成立した場合に周期的に排気ガスの空燃比をリッチにすることにより、NO_(X) 吸収剤26からのNO_(X)の放出を行い、パティキュレートフィルタ10の再生並びにNO_(X) 吸収剤26からのSO_(X) の放出を、周期的に、パティキュレートがパティキュレートフィルタ上で燃焼しかつその後にNO_(X) 吸収剤が排気ガスのリッチ雰囲気によりSO_(X) が放出される高温の状態に排気ガスの温度を上昇させることにより行う、内燃機関のリーン空燃比の排気ガスからNO_(X) 及びパティキュレートを除去するための方法。」

また、上記(エ)及び図面(特に【図6】を参照。)から、刊行物には、次の技術(以下、「刊行物に記載された技術」という。)が記載されているといえる。

「SO_(X) を含む、内燃機関のリーン空燃比の排気ガスからNO_(X) 及びパティキュレートを除去するための方法において、
NO_(X) 吸収剤の再生開始条件が成立した場合に、(周期的に)NO_(X) 吸収剤26からのNO_(X)の放出を行い、
さらに、パティキュレートフィルタ10の再生を行う必要がある場合には、パティキュレートフィルタ10の再生並びにNO_(X) 吸収剤26からのSO_(X) の放出を(周期的に)行う技術。」


第4 本願発明と刊行物に記載された発明との対比
本願発明と刊行物に記載された発明とを対比するに、刊行物に記載された発明における「SO_(X) を含む」は、技術的意義からみて、本願発明における「硫黄酸化物の僅かな濃度をも有する」に相当し、以下同様に、「リーン空燃比の排気ガス」は「希薄排ガス」に、「NO_(X) 」は「窒素酸化物」に、「パティキュレート」は「カーボンブラック粒子」に、「排気ガスの流れ」は「排ガス流」に、「NO_(X) 吸収剤26」は「窒素酸化物蓄積触媒」及び「蓄積触媒」に、「パティキュレートフィルタ10」は「粒子フィルター」に、「SO_(X) 」は「硫黄酸化物」に、「吸収され」は「吸着され」に、「捕集され」は「析出され」に、「排気ガスの空燃比をリッチにすること」は「排ガスの過濃化」に、「NO_(X) 吸収剤26からのNO_(X)の放出を行い」は「蓄積触媒を脱ニトロ化し」に、「パティキュレートフィルタ10の再生」は「粒子フィルターの再生」に、「NO_(X) 吸収剤26からのSO_(X) の放出」は「窒素酸化物蓄積触媒の脱硫」に、それぞれ相当する。
また、刊行物に記載された発明における「パティキュレートがパティキュレートフィルタ上で燃焼し」は、技術的意義からみて、本願発明における「カーボンブラック焙焼残分が粒子フィルター上で引火し」に、「NO_(X) 吸収剤が排気ガスのリッチ雰囲気によりSO_(X) が放出される高温の状態に排気ガスの温度を上昇させることにより、(NO_(X) 吸収剤26からのSO_(X) の放出を)行う」は「蓄積触媒が排ガスの過濃化により脱硫されうる値に希薄排ガスの温度を上昇させることにより、(窒素酸化物蓄積触媒の脱硫を)行なう」に、それぞれ相当する。
また、刊行物に記載された発明における「周期的に」は、「周期的に」である限りにおいて、本願発明における「第1の作業周期で」及び「第2の作業周期で」に相当する。

してみると、本願発明と刊行物に記載された発明は、
「SO_(X) を含む、内燃機関のリーン空燃比の排気ガスからNO_(X) 及びパティキュレートを除去するための方法において、
排気ガスの流れをNO_(X) 吸収剤26及びパティキュレートフィルタ10に流入させ、その際NO_(X) 及びSO_(X) は、NO_(X) 吸収剤によってリーン空燃比の排ガス下で吸収され、及びパティキュレートは、パティキュレートフィルタ10上で捕集され、周期的に排気ガスの空燃比をリッチにすることにより、NO_(X) 吸収剤26からのNO_(X)の放出を行い、パティキュレートフィルタ10の再生並びにNO_(X) 吸収剤26からのSO_(X) の放出を、周期的に、パティキュレートがパティキュレートフィルタ上で燃焼しかつその後にNO_(X) 吸収剤が排気ガスのリッチ雰囲気によりSO_(X) が放出される高温の状態に排気ガスの温度を上昇させることにより行う、内燃機関のリーン空燃比の排気ガスからNO_(X) 及びパティキュレートを除去するための方法。」
である点で一致し、次の(a)の点で相違する。

<相違点>
(a)本願発明においては、蓄積触媒を「第1の作業周期で」周期的に排ガスの過濃化によって脱ニトロ化し、粒子フィルターの再生ならびに窒素酸化物蓄積触媒の脱硫を、「第2の作業周期で」、行なうのに対し、刊行物に記載された発明においては、NO_(X) 吸収剤〔蓄積触媒〕を「再生開始条件が成立した場合に」周期的に排気ガスの空燃比をリッチにすること〔過濃化〕により、NO_(X) 吸収剤26からのNO_(X)の放出〔脱ニトロ化〕を行い、パティキュレートフィルタ10の再生〔粒子フィルターの再生〕並びにNO_(X) 吸収剤26からのSO_(X) の放出〔窒素酸化物蓄積触媒の脱硫〕を、「パティキュレートフィルタ10の再生を行う必要がある場合に」、行う点(以下、「相違点」という。なお、〔 〕内には対応する本願発明の発明特定事項を記載した。)。


第5 相違点についての検討・判断
本願発明における「第1の作業周期」と「第2の作業周期」の技術的意義を知るために、発明の詳細な説明を参照すると、例えば段落【0022】には、「第1の作業周期において、排ガス中に含有されている窒素酸化物および硫黄酸化物は、蓄積触媒上で希薄排ガス条件で硝酸塩および硫酸塩の形で蓄積され、蓄積触媒は、窒素酸化物蓄積能の消耗後に過濃化排ガス条件下で脱ニトロ化される。(中略)蓄積および脱ニトロ化からなるこの第1の作業周期の時間的長さは、比較的に短い。全体の長さは、0.5?20分間であり、一方で、脱ニトロ化の時間は、1?20秒にすぎない。」と記載され、段落【0025】には、「この方法の第2の作業周期において、粒子フィルターは再生され、窒素酸化物蓄積触媒は脱硫される。排ガス中に含有されているカーボンブラックを粒子フィルター上に析出させることによって、排ガス逆圧は連続的に高められ、したがって粒子フィルターも周期的にカーボンブラックの燃焼によって再生されなければならない。(中略)経験によれば、粒子フィルターは、例えば全部で1000kmの走行効率を再現させなければならない。したがって、第2の作業周期は、一般に本質的に本方法の第1の作業周期よりも長い。」と記載されている。すなわち、「第1の作業周期」は、蓄積触媒上に蓄積した窒素酸化物を脱ニトロ化するために適した作業周期であり、時間的長さは比較的短く、「第2の作業周期」は、粒子フィルターをカーボンブラックの燃焼によって再生させなければならない周期であって、時間的長さは比較的長いことが分かる。
他方、上記刊行物に記載された技術は、「SO_(X) を含む、内燃機関のリーン空燃比の排気ガスからNO_(X) 及びパティキュレートを除去するための方法において、NO_(X) 吸収剤の再生開始条件が成立した場合に、(周期的に)NO_(X) 吸収剤26からのNO_(X)の放出を行い、さらに、パティキュレートフィルタ10の再生を行う必要がある場合には、パティキュレートフィルタ10の再生並びにNO_(X) 吸収剤26からのSO_(X) の放出を(周期的に)行う技術。」というものであり、第二の実施例を参照すると、「NO_(X) 吸収剤のNO_(X) 吸収量が増大した場合には、(中略)NO_(X) 吸収量が増大したパティキュレートフィルタ(10b)に還元剤を供給してNO_(X) 吸収剤の再生を行い(段落【0037】を参照。)、パティキュレートフィルタの排気抵抗が増大したことを検出すると、パティキュレートフィルタ上に捕集されたパティキュレートを燃焼させる(段落【0038】を参照。)というものであるから、本願発明における制御と軌を一にするものである。
さらに、刊行物の図6及びその説明を参照すると、ステップ601でNO_(X) 吸収剤の再生操作開始条件が成立しているか否かが判断され(段落【0040】を参照。)、ステップ607でNO_(X) 吸収剤の再生操作が終了したと判断されたときにはステップ609でパティキュレートフィルタの再生操作を同時に行う必要があるか否かが判定され(段落【0043】を参照。)、ステップ609でパティキュレートフィルタの再生操作が必要ないと判断された場合には、再生後のNO_(X) 吸収剤は待機状態に置かれ、ステップ609でパティキュレートフィルタの再生操作が必要と判断された場合には続いてステップ611から615のパティキュレートフィルタの再生操作が行われる(段落【0044】を参照。)。したがって、パティキュレートフィルタの再生操作は、NO_(X) 吸収剤の再生操作よりも長い周期で行われる。
そうすると、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項は、刊行物に記載された発明において、刊行物に記載された技術を適用することにより、当業者が容易に想到し得たものであるといえる。

また、NO_(X) 吸収剤の再生タイミングを第1の周期で行い、パティキュレートフィルタの再生タイミングを第2の周期で行う技術は、本願の優先日前に周知の技術(以下、「周知技術」という。例えば、特開平9-53442号公報の段落【0024】ないし段落【0030】及び図5の記載等を参照。)でもある。
してみると、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項は、刊行物に記載された発明において、周知技術を適用することにより、当業者が容易に想到し得たものであるといえる。

また、本願発明を全体としてみても、刊行物に記載された発明、刊行物に記載された技術及び周知技術から想定される以上の格別の作用効果を奏するものとは認められない。


なお、審判請求人は、平成24年3月9日付け回答書において、「・・・引用文献1ではパティキュレート着火用燃料供給手段と補助的加熱手段を設けるものである。これに対し、本願発明1の第2の作業周期は「蓄積触媒が排ガスの過濃化により脱硫されうる値に希薄排ガスの温度を上昇させる」、すなわち、「粒子フィルターの再生のために、排ガス温度は400℃から約600℃へ上昇」([0043]第3文)させる点で、引用文献1とは「課題の解決手段」が顕著に相違する。」(回答書第4ページ第10ないし15行)と主張しているが、刊行物(引用文献1)に記載された発明は、そもそも、「本発明は、上記問題に鑑み、特別な加熱手段を設けることなく簡易にNO_(X) 吸収剤のSO_(X) 被毒解消操作を行うことのできる内燃機関の排気浄化装置を提供することを目的としている。」(段落【0007】の記載を参照。)、「パティキュレートフィルタ10に捕集されたパティキュレートを燃焼させることにより、パティキュレートフィルタ10に担持されたNO_(X) 吸収剤26が(500度C以上の)高温になるため、NO_(X) 吸収剤26のSO_(X) 被毒解消操作のために別途加熱手段を設けてNO_(X) 吸収剤26を加熱昇温する必要がないので簡易にNO_(X) 吸収剤のSO_(X) 被毒解消操作を行うことができる。また、SO_(X) 被毒解消操作時にパティキュレートの燃焼により発生する熱を利用してNO_(X) 吸収剤を加熱するため、NO_(X)吸収剤の加熱のために外部から供給するエネルギを大幅に低減することができる。」(段落【0028】、【0045】及び【0048】等の記載の記載を参照。)というものであるから、審判請求人の上記主張は当を得ていない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物に記載された発明、刊行物に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-20 
結審通知日 2012-04-26 
審決日 2012-05-08 
出願番号 特願2001-142355(P2001-142355)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀田 貴志今関 雅子  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 中川 隆司
金澤 俊郎
発明の名称 内燃機関の希薄排ガスから窒素酸化物およびカーボンブラック粒子を除去するための方法および排ガス浄化装置  
代理人 高橋 佳大  
代理人 星 公弘  
代理人 篠 良一  
代理人 久野 琢也  
代理人 二宮 浩康  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 矢野 敏雄  

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