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審決分類 |
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1263613 |
審判番号 | 不服2009-3482 |
総通号数 | 155 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-11-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-02-16 |
確定日 | 2012-09-18 |
事件の表示 | 平成10年特許願第537781号「選択的免疫ダウンレギュレーション(SIDR)を行う新規プロセス」拒絶査定不服審判事件〔平成10年9月3日国際公開,WO98/37917,平成13年8月7日国内公表,特表2001-511187〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は,1998年2月26日(パリ条約による優先権主張1997年2月28日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成18年12月4日付け拒絶理由通知書に対して,その指定期間内の平成19年3月12日付けで手続補正がなされたが,平成20年11月6日付けで拒絶査定がなされ,これに対して平成21年2月16日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。 2.平成21年2月16日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成21年2月16日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)補正の内容 平成21年2月16日付けの手続補正(以下,単に「本件補正」という)は,特許請求の範囲の記載について以下のように変更することを含むものである。 ・補正前(平成19年3月12日付け手続補正書の特許請求の範囲)の請求項1の記載 「【請求項1】 被験体において感染性細菌性物質に対する選択的免疫ダウンレギュレーションを生成するためのキットであって,選択的免疫ダウンレギュレーションを生成し得,かつ該感染性物質の成分またはそのフラグメントを含む試薬または試薬の組合せを備える,キット。」 ・補正後(本件補正に係る手続補正書の特許請求の範囲)の請求項1の記載 「【請求項1】 被験体においてウイルス感染性物質に対する選択的免疫ダウンレギュレーションを生成するためのキットであって,該キットは, 該ウイルス感染性物質に由来する,選択的免疫ダウンレギュレーションを生成し得る1または複数の抗原と,該感染性物質の1または複数の成分またはそのフラグメントとの組合せを備える,キット。」 本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,単に「特許法」という)第17条の2第1項第3号に係る手続補正であって,同条第4項各号に規定する何れかの事項を目的とするものでなければならないので,以下検討する。 (2)補正の目的の検討 本件補正による補正後の請求項1は,補正前の請求項1に対応するものであるが,両者を対比すると,少なくとも 「被験体において感染性細菌性物質に対する選択的免疫ダウンレギュレーションを生成するためのキット…」から 「被験体においてウイルス感染性物質に対する選択的免疫ダウンレギュレーションを生成するためのキット…」といった補正事項を含むものであり,「感染性細菌性物質」と「ウィルス感染性物質」とは,技術的に相異なる意味のものであって,例えば,一方が他方の上位概念に相当するといったものでもない。 このような補正は,「請求項の削除」,「誤記の訂正」にあたらないことは明らかであるから,特許法第17条の2第4項の第1号又は第3号に該当せず,また,そもそも「明りょうでない記載の釈明」とはいえない上,拒絶理由通知書等において指摘された事項に対する補正であるともいえないことから,同項第4号にも該当しないし,さらに,補正前の「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定する」とはいえないことも明らかであるから,同項第2号にいう「特許請求の範囲の減縮」にも該当しない。 したがって,本件補正は,少なくとも上記したような補正を含むものであることから,その目的が特許法第17条の2第4項各号のいずれにも該当しないものであって,同項に規定する要件を満たすものとはいえないので,他の補正事項について検討するまでもなく,特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 3.本願発明について (1)本願発明 平成21年2月16日付け手続補正は上記のとおり却下されたので,本願請求項に係る発明は,平成19年3月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであって,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という)は次のとおりである。 「【請求項1】 被験体において感染性細菌性物質に対する選択的免疫ダウンレギュレーションを生成するためのキットであって,選択的免疫ダウンレギュレーションを生成し得,かつ該感染性物質の成分またはそのフラグメントを含む試薬または試薬の組合せを備える,キット。」 (2)拒絶査定の理由の概要 原査定の拒絶の理由となった平成18年12月4日付け拒絶理由通知書の理由2は,本出願が特許法第36条第4項の規定を満たしていないというものであって,その概要は以下の通りである。 「請求項1-3に係る感染性細菌性物質に対する選択的免疫ダウンレギュレーションを生成するためのキットについて,発明の詳細な説明中に該キットが選択的免疫ダウンレギュレーションを生成することを示す薬理試験結果の記載がない。 (薬理試験結果は出願時に記載しなければならない。) … よって,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1-3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」 (3)当審の判断 本願発明は,感染性細菌性物質の成分又はそのフラグメントによって,被験体において感染性細菌物質に対する選択的免疫ダウンレギュレーションを生成させるというものであり,いわゆる「免疫寛容」とよばれる技術に関するものである。 このような「免疫寛容」は,例えば,「メルクマニュアル第16版日本語版」(1994年12月9日第1版発行;第343?344頁『免疫寛容』の項)において, 「動物においては,免疫機構がまだ成熟途上にある新生児期において出会うAg(審決注;「抗原」の意)に対する寛容は比較的容易に成立する:しかしながら,成獣では,大部分がAg特異的寛容の誘導は比較的困難である。成獣において外来性Agに対する寛容を誘導するには条件(例,Ag投与量,注射経路,そして短期間の毒性量の他の免疫抑制剤の使用)の注意深い選択を必要としてきた。臨床的移植に対するAg特異的不応答性をつくり出すどんな信頼できる方法も考案されてきていない。」(第343頁下から6?末行) と記載されているように,特に成人体に対しては困難が伴うものであって,移植等に際して重要視される抗原特異的不応答(寛容)をつくり出すような汎用性のある方法は本件出願日において知られていなかったものである。 これに対して,本願明細書では,ラットやウサギに対してアデノウィルスというウィルス由来のタンパク質抗原に対する免疫寛容は示されてはいるものの,それに止まるものであって,細菌に由来するタンパク質抗原に対する免疫寛容については具体的な実証例は全く示されておらず,また,そのような実証例に代わり得る記載も見当たらない。 上記したように,そもそも免疫寛容に関しては,汎用性のある方法は知られていないのであるから,特定の抗原に対して免疫寛容が生ずることが確認されたからといって,他の抗原に対しても同様な手法により免疫寛容が生ずるとはいえない上,免疫機構というものは,感染源となるウィルス・菌体の構造や構成物質に大きく依存するものであるところ,ウィルスと細菌とは,そのような構造や構成物質において大きく相違するものであるから,免疫寛容に関して,両者が密接に関連するものともいえないので,本願明細書における,アデノウィルス由来の抗原に対する免疫寛容の実証例に止まる試験結果に基づいて,細菌由来の抗原に対しても同様な免疫寛容が生ずるとすることなど,当業者にとって到底理解し得るものとすることはできない。 すなわち,いかに技術常識を併せ考慮したとしても,アデノウィルス由来の抗原に対する免疫寛容の確認に止まる本願明細書の記載からは,細菌由来の抗原に対する免疫寛容についても同様に免疫寛容が生ずると,当業者が理解することはできないものであるし,また,明細書における他の記載を見ても,当業者が細菌由来の抗原に対して免疫寛容を生ずると理解するに足りる記載は見あたらない。 したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,本願発明について,当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されているものとすることができない。 (4)むすび 以上のとおりであるから,本願は,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしているものとすることができないので,拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-04-26 |
結審通知日 | 2012-04-27 |
審決日 | 2012-05-08 |
出願番号 | 特願平10-537781 |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(A61K)
P 1 8・ 57- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 瀬下 浩一 |
特許庁審判長 |
星野 紹英 |
特許庁審判官 |
荒木 英則 今村 玲英子 |
発明の名称 | 選択的免疫ダウンレギュレーション(SIDR)を行う新規プロセス |
代理人 | 安村 高明 |
代理人 | 森下 夏樹 |
代理人 | 山本 秀策 |