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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1263697
審判番号 不服2011-15023  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-12 
確定日 2012-09-19 
事件の表示 特願2000-314161「インクジェット印刷カートリッジに印加される過剰エネルギーを制御する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 5月29日出願公開、特開2001-146000〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成12年10月13日(パリ条約による優先権主張:1999年10月13日、米国)に出願したものであって、平成19年10月15日付け及び平成23年2月1日付けで手続補正がなされ、同年3月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月12日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。
その後、同年9月22日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、平成24年3月26日に回答書が提出された。

2 本願発明
本願請求項1ないし18に係る発明は、平成23年7月12日付け手続補正後の明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「インクジェットプリンタのインクジェット印字ヘッドアセンブリの温度制御システムであって、
それぞれが振幅とパルス幅を備える電気パルスによって電力が供給されるインク射出要素、温度センサ、データプロセッサを有する複数の印字ヘッドアセンブリと、
印刷データを受容し、該印刷データをプリンタ制御情報と画像データに処理するコントローラとからなり、
前記温度センサが関連する前記印字ヘッドアセンブリの印字ヘッドの温度を表す信号を生成し、
前記データプロセッサが、双方向に前記コントローラと通信すると共に、関連する前記印字ヘッドアセンブリの公称動作パルス幅、関連する前記印字ヘッドアセンブリのパルス幅較正データ、関連する前記印字ヘッドアセンブリの前記温度センサから受信する前記印字ヘッドの前記信号を読み取り、前記データプロセッサが、前記公称動作パルス幅、前記パルス幅較正データ、前記温度センサからの前記信号を利用して調整パルス幅を計算し、
前記調整パルス幅を利用して関連する前記印字ヘッドアセンブリの前記印字ヘッドの温度を制御し、その温度制御が前記印字ヘッドアセンブリのそれぞれに対して同時に独立に実行される温度制御システム。」

3 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された特開平11-227209号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載が図とともにある(下線は審決にて付した。以下同じ。)。
ア 【請求項1】 液体を吐出する複数の吐出口と、
互いに接合されることでそれぞれ前記吐出口と連通する複数の液流路を構成するための第1の基板および第2の基板と、
電気エネルギーを前記液流路内の液体の吐出エネルギーに変換するために前記各液流路内に配された複数のエネルギー変換素子と、
前記エネルギー変換素子の駆動条件を制御するための、機能が異なる複数の素子あるいは電気回路とを有し、
前記素子あるいは電気回路は、その機能に応じて前記第1の基板と前記第2の基板とに振り分けられている液体吐出ヘッド。
イ 【0060】〈発熱体への印加エネルギーを制御する例〉図4は、センサ出力に応じて発熱体への印加エネルギーを制御する例の素子基板および天板の回路構成を示す図である。
【0061】図4(a)に示すように、素子基板31には、一列に配列された発熱体32と、ドライバとして機能するパワートランジスタ41と、パワートランジスタ41の駆動を制御するためのAND回路39と、パワートランジスタ41の駆動タイミングを制御するための駆動タイミング制御ロジック回路38と、シフトレジスタおよびラッチ回路で構成される画像データ転送回路42と、発熱体32の抵抗値を検出するセンサ43とが形成されている。
【0062】駆動タイミング制御ロジック回路38は、装置の電源容量を少なくする目的で、全ての発熱体32を同時に通電するのではなく発熱体32を分割駆動して時間をずらして通電するためのものであり、この駆動タイミング制御ロジック回路38を駆動するイネーブル信号は、外部コンタクトパッドであるイネーブル信号入力端子45k?45nから入力される。
【0063】また、素子基板31に設けられる外部コンタクトパッドとしては、イネーブル信号入力端子45k?45nの他に、発熱体32の駆動電源の入力端子45a、パワートランジスタ41の接地端子45b、発熱体32を駆動するエネルギーを制御するために必要な信号用の入力端子45c?45e、ロジック回路の駆動電源端子45f、接地端子45g、画像データ転送回路42のシフトレジスタに入力されるシリアルデータの入力端子45iおよびこれに同期するシリアルクロック信号の入力端子45h、ラッチ回路に入力されるラッチクロック信号の入力端子45jがある。
【0064】一方、図4(b)に示すように、天板33には、センサ43を駆動するためのセンサ駆動回路47と、センサ43からの出力をモニタしその結果に応じて発熱体32への印加エネルギーを制御するための駆動信号制御回路46と、センサ43で検出された抵抗値データあるいは抵抗値からランク分けされたコード値、および予め測定されている各発熱体32による液体吐出量特性(一定温度で、所定のパルス印加における液体吐出量)をヘッド情報として記憶し駆動信号制御回路46に出力するメモリ49とが形成されている。
【0065】また、接続用コンタクトパッドとして、素子基板31および天板32には、センサ43とセンサ駆動回路47とを接続する端子44g,44h,48g,48h、外部から上記発熱体32を駆動するエネルギーを制御するために必要な信号用の入力端子45c?45eと駆動信号制御回路46とを接続する端子44b?44d,48b?48d、駆動信号制御回路46の出力をAND回路39の一方の入力端子に入力させるための端子48a等が設けられている。
【0066】以上の構成において、まず、発熱体32の抵抗値がセンサ43で検出され、その結果がメモリ49(審決注:「メモリ43」は「メモリ49」の明らかな誤記であるので、訂正して摘記した。)に記憶される。駆動信号制御回路46では、メモリ49(審決注:同上。)に記憶された抵抗値データおよび液体吐出量特性に応じて発熱体32の駆動パルスの立ち上がりデータおよび立ち下がりデータを決定し、端子48a,44aを介してAND回路39に出力する。一方、シリアルで入力された画像データは、画像データ転送回路42のシフトレジスタに記憶され、ラッチ信号によりラッチ回路にラッチされて、駆動タイミング制御回路38を介してAND回路39に出力される。これにより、立ち上がりデータおよび立ち下がりデータに応じてヒートパルスのパルス幅が決定され、このパルス幅で発熱体32への通電が行われる。その結果、発熱体32にはほぼ一定のエネルギーが印加される。
【0067】上述の説明では、センサ43を抵抗センサとして説明したが、例えば、素子基板31の温度あるいは発熱体32の蓄熱の程度を検知するための温度センサとし、この温度センサでの検出結果に応じてプレヒートパルス幅を制御することもできる。
【0068】この場合には、液体吐出装置の電源が投入された後、予め測定されている液体吐出量特性と、センサ43で検出された温度データに応じて、駆動信号制御回路46は各発熱体32のプレヒート幅を決定する。メモリ49には、各発熱体32に対応するプレヒート幅を選択するための選択データが記憶されており、実際にプレヒートを行う際に、メモリ49に記憶されている選択データに従ってプレヒート信号が選択され、これに応じて発熱体32がプレヒートされる。このようにして、温度状態にかかわらず液体の吐出量が各吐出口で一定になるようにプレヒートパルスを設定して印加することができる。なお、プレヒート幅を決定する選択データの保存は、例えば液体吐出装置の起動時等に一度だけ行えばよい。
ウ 【0071】また、図4に示した例では、センサ43を素子基板31に設けているが、センサ43が温度センサである場合には、天板33に設けてもよい。メモリ49についても、素子基板31側のスペースが許せは、天板33ではなく素子基板31に設けてもよい。
【0072】上述のように、良好な画像品位を得るために発熱体32の駆動を制御しても、共通液室内に気泡が発生し、これが液体のリフィルとともに液流路内に移動してくると、共通液室内には液体が存在するにもかかわらず、液体が吐出されないという不具合が発生する場合がある。
【0073】そこで、これに対処するために、詳細は後述するが、各液流路内(特に発熱体32の近傍)での液体の有無を検出するセンサを設け、さらに、このセンサで液体がないことが検出されたらその結果を外部に出力させる処理回路を天板33に設けてもよい。そして、この処理回路からの出力に基づき、液体吐出装置側で、液体吐出ヘッド内の液体を吐出口から強制的に吸引するようにすれば、液流路内の気泡を除去することができる。上記の液体の有無を検出するセンサとしては、液体を介しての抵抗値の変化により検出するものや、液体が存在しない場合の発熱体の異常昇温を検出するものを用いることができる。
エ 【0113】記録装置は、ホストコンピュータ300より印字情報を制御信号として受ける。印字情報は印字装置内部の入出力インタフェイス301に一時保存されると同時に、記録装置内で処理可能なデータに変換され、ヘッド駆動信号供給手段を兼ねるCPU302に入力される。CPU302はROM303に保存されている制御プログラムに基づき、前記CPU302に入力されたデータをRAM304等の周辺ユニットを用いて処理し、印字するデータ(画像データ)に変換する。
【0114】またCPU302は前記画像データを記録用紙上の適当な位置に記録するために、画像データに同期して記録用紙およびヘッド200を移動する駆動用モータ306を駆動するための駆動データを作る。画像データおよびモータ駆動データは、各々ヘッドドライバ307と、モータドライバ305を介し、ヘッド200および駆動モータ306に伝達され、それぞれ制御されたタイミングで駆動され画像を形成する。
オ 【0119】図19は、前述した本発明の液体吐出ヘッドを用いたインクジェット記録システムの構成を説明するための模式図である。本実施の形態における液体吐出ヘッドは、被記録媒体の記録可能幅に対応した長さに360dpiの間隔で吐出口を複数配したフルライン型のヘッドであり、イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C),ブラック(Bk)の4色に対応した4つのヘッド201a?201dをホルダ202によりX方向に所定の間隔を持って互いに平行に固定支持されている。
【0120】これらのヘッド201a?201dに対してそれぞれ駆動信号供給手段を構成するヘッドドライバ307から信号が供給され、この信号に基づいて各ヘッド201a?201dの駆動が成される。各ヘッド201a?201dには、吐出液としてY,M,C,Bkの4色のインクがそれぞれインク容器204a?204dから供給されている。
【0121】また、各ヘッド201a?201dの下方には、内部にスポンジ等のインク吸収部材が配されたヘッドキャップ203a?203dが設けられており、非記録時に各ヘッド201a?201dの吐出口を覆うことでヘッド201a?201dの保守を成すことができる。
【0122】符号206は、先の例で説明したような各種、被記録媒体を搬送するための搬送手段を構成する搬送ベルトである。搬送ベルト206は、各種ローラにより所定の経路に引き回されており、モータドライバ305に接続された駆動用ローラにより駆動される。
【0123】本インクジェット記録システムにおいては、記録を行う前後に被記録媒体に対して各種の処理を行う前処理装置251および後処理装置252をそれぞれ被記録媒体搬送経路の上流と下流に設けている。
【0124】前処理と後処理は、記録を行う被記録媒体の種類やインクの種類に応じて、その処理内容が異なるが、例えば、金属、プラスチック、セラミックス等の被記録媒体に対しては、前処理として、紫外線とオゾンの照射を行い、その表面を活性化することでインクの付着性の向上を図ることができる。また、プラスチック等の静電気を生じやすい被記録媒体においては、静電気によってその表面にゴミが付着しやすく、このゴミによって良好な記録が妨げられる場合がある。このため、前処理としてイオナイザ装置を用い被記録媒体の静電気を除去することで、被記録媒体からごみの除去を行うとよい。また、被記録媒体として布帛を用いる場合には、滲み防止、染着率の向上等の観点から布帛にアルカリ性物質、水溶性物質、合成高分子、水溶性金属塩、尿素およびチオ尿素から選択される物質を付与する処理を前処理として行えばよい。前処理としては、これらに限らず、被記録媒体の温度を記録に適切な温度にする処理等であってもよい。
【0125】一方、後処理は、インクが付与された被記録媒体に対して熱処理、紫外線照射等によるインクの定着を促進する定着処理や、前処理で付与し未反応で残った処理剤を洗浄する処理等を行うものである。
【0126】なお、本例では、ヘッド201a?201dとしてフルラインヘッドを用いて説明したが、これに限らず、前述したような小型のヘッドを被記録媒体の幅方向に搬送して記録を行う形態のものであってもよい。

上記記載及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「液体を吐出する複数の吐出口と、
互いに接合されることでそれぞれ前記吐出口と連通する複数の液流路を構成するための第1の基板および第2の基板と、
電気エネルギーを前記液流路内の液体の吐出エネルギーに変換するために前記各液流路内に配された複数のエネルギー変換素子と、
前記エネルギー変換素子の駆動条件を制御するための、機能が異なる複数の素子あるいは電気回路とを有し、
前記素子あるいは電気回路は、その機能に応じて前記第1の基板と前記第2の基板とに振り分けられている液体吐出ヘッドを用い、
4色に対応した4つのヘッドが支持されたインクジェット記録システムであって、
記録装置は、ホストコンピュータ300より印字情報を制御信号として受け、CPU302に入力され、CPU302はデータ(画像データ)に変換し、駆動データを作り、画像データおよびモータ駆動データは、各々ヘッドドライバ307と、モータドライバ305を介し、ヘッド200および駆動モータ306に伝達され、
前記液体吐出ヘッドの素子基板31には、一列に配列された発熱体32と、ドライバとして機能するパワートランジスタ41と、パワートランジスタ41の駆動を制御するためのAND回路39と、パワートランジスタ41の駆動タイミングを制御するための駆動タイミング制御ロジック回路38と、シフトレジスタおよびラッチ回路で構成される画像データ転送回路42と、発熱体32の抵抗値を検出するセンサ43とが形成され、
素子基板31に設けられる外部コンタクトパッドとしては、イネーブル信号入力端子45k?45nの他に、発熱体32の駆動電源の入力端子45a、パワートランジスタ41の接地端子45b、発熱体32を駆動するエネルギーを制御するために必要な信号用の入力端子45c?45e、ロジック回路の駆動電源端子45f、接地端子45g、画像データ転送回路42のシフトレジスタに入力されるシリアルデータの入力端子45iおよびこれに同期するシリアルクロック信号の入力端子45h、ラッチ回路に入力されるラッチクロック信号の入力端子45jがあり、
天板33には、センサ43を駆動するためのセンサ駆動回路47と、センサ43からの出力をモニタしその結果に応じて発熱体32への印加エネルギーを制御するための駆動信号制御回路46と、センサ43で検出された抵抗値データあるいは抵抗値からランク分けされたコード値、および予め測定されている各発熱体32による液体吐出量特性(一定温度で、所定のパルス印加における液体吐出量)をヘッド情報として記憶し駆動信号制御回路46に出力するメモリ49とが形成されており、
発熱体32の抵抗値がセンサ43で検出され、その結果がメモリ43に記憶され、駆動信号制御回路46では、メモリ49に記憶された抵抗値データおよび液体吐出量特性に応じて発熱体32の駆動パルスの立ち上がりデータおよび立ち下がりデータを決定し、端子48a,44aを介してAND回路39に出力し、一方、シリアルで入力された画像データは、画像データ転送回路42のシフトレジスタに記憶され、ラッチ信号によりラッチ回路にラッチされて、駆動タイミング制御回路38を介してAND回路39に出力され、これにより、立ち上がりデータおよび立ち下がりデータに応じてヒートパルスのパルス幅が決定され、このパルス幅で発熱体32への通電が行われ、その結果、発熱体32にはほぼ一定のエネルギーが印加され、
前記センサ43は、素子基板31の温度あるいは発熱体32の蓄熱の程度を検知するための温度センサとし、この温度センサでの検出結果に応じてプレヒートパルス幅を制御することもできるものであって、
この場合には、液体吐出装置の電源が投入された後、予め測定されている液体吐出量特性と、センサ43で検出された温度データに応じて、駆動信号制御回路46は各発熱体32のプレヒート幅を決定し、
メモリ49には、各発熱体32に対応するプレヒート幅を選択するための選択データが記憶されており、実際にプレヒートを行う際に、メモリ49に記憶されている選択データに従ってプレヒート信号が選択され、これに応じて発熱体32がプレヒートされ、温度状態にかかわらず液体の吐出量が各吐出口で一定になるようにプレヒートパルスを設定して印加することができる
インクジェット記録システム。」(以下「引用発明」という。)

4 対比
a 本願発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「記録装置」、「『液体吐出ヘッド』あるいは『ヘッド』」、「電力」、「インク射出要素」、「温度センサ」、「『駆動条件を制御するための、機能が異なる複数の素子あるいは電気回路』あるいは『ヘッドドライバ307』」、「印字情報」、「モータ駆動データ」、「画像データ」、「CPU302」及び「『液体吐出ヘッド』から『駆動条件を制御するための、機能が異なる複数の素子あるいは電気回路』を除いた部分あるいは『ヘッド200』」は、それぞれ本願発明の「インクジェットプリンタ」、「インクジェット印字ヘッドアセンブリ」、「電気エネルギー」、「エネルギー変換素子」、「温度センサ」、「データプロセッサ」、「印刷データ」、「プリンタ制御情報」、「画像データ」、「コントローラ」及び「印字ヘッドアセンブリの印字ヘッド」に相当する。
b 引用発明は「発熱体32がプレヒートされ、温度状態にかかわらず液体の吐出量が各吐出口で一定になるようにプレヒートパルスを設定して印加することができる」ものであるから、結果として「液体吐出ヘッド」(インクジェット印字ヘッドアセンブリ)の温度が制御されることになり、インクジェットプリンタのインクジェット印字ヘッドアセンブリの温度制御システムということができる。
c 引用発明は「4色に対応した4つのヘッドが支持され」ものであり、引用発明の「液体吐出ヘッド」(インクジェット印字ヘッドアセンブリ)は「エネルギー変換素子」(インク射出要素)、「温度センサ」(温度センサ)、「駆動条件を制御するための、機能が異なる複数の素子あるいは電気回路」(データプロセッサ)を有し、その「エネルギー変換素子の駆動条件を制御するための、機能が異なる複数の素子あるいは電気回路」によって「ヒートパルスのパルス幅が決定され」たり、「プレヒートパルス幅を制御することもできる」ものであるから、引用発明の「液体吐出ヘッド」(インクジェット印字ヘッドアセンブリ)は、それぞれが振幅とパルス幅を備える電気パルスによって電力が供給されるインク射出要素、温度センサ、データプロセッサを有する印字ヘッドアセンブリといえる。
d 引用発明の「記録装置」は「ホストコンピュータ300より印字情報を制御信号として受け、CPU302に入力され、CPU302はデータ(画像データ)に変換し、駆動データを作り、画像データおよびモータ駆動データは、各々ヘッドドライバ307と、モータドライバ305を介し、ヘッド200および駆動モータ306に伝達され」るから、引用発明は、印刷データを受容し、該印刷データをプリンタ制御情報と画像データに処理するコントローラを有するものといえる。
e 引用発明の「液体吐出ヘッドの素子基板31」に「センサ43」が形成され、「センサ43」は「温度センサ」とすることができ、引用発明の「センサ駆動回路47」は「センサ43からの出力をモニタ」しているから、引用発明の「温度センサ」(温度センサ)は、関連する印字ヘッドアセンブリの印字ヘッドの温度を表す信号を生成しているものといえる。
f 引用発明の「液体吐出ヘッド」の「メモリ49」にはヘッド情報として「予め測定されている各発熱体32による液体吐出量特性(一定温度で、所定のパルス印加における液体吐出量)」と「各発熱体32に対応するプレヒート幅を選択するための選択データ」が記憶されており、「液体吐出装置の電源が投入された後、予め測定されている液体吐出量特性と、センサ43で検出された温度データに応じて、駆動信号制御回路46は各発熱体32のプレヒート幅を決定し」、「実際にプレヒートを行う際に、メモリ49に記憶されている選択データに従ってプレヒート信号が選択され、これに応じて発熱体32がプレヒートされ、これに応じて発熱体32がプレヒートされ、温度状態にかかわらず液体の吐出量が各吐出口で一定になるようにプレヒートパルスを設定して印加する」ものであるから、「駆動信号制御回路46」がその一部である引用発明の「エネルギー変換素子の駆動条件を制御するための、機能が異なる複数の素子あるいは電気回路」と、本願発明の「双方向に前記コントローラと通信すると共に、関連する前記印字ヘッドアセンブリの公称動作パルス幅、関連する前記印字ヘッドアセンブリのパルス幅較正データ、関連する前記印字ヘッドアセンブリの前記温度センサから受信する前記印字ヘッドの前記信号を読み取り」、「前記公称動作パルス幅、前記パルス幅較正データ、前記温度センサからの前記信号を利用して調整パルス幅を計算」する「データプロセッサ」とは、関連する印字ヘッドアセンブリのパルス幅調整のためのデータ及び関連する印字ヘッドアセンブリの温度センサから受信する印字ヘッドの信号を読み取り、前記パルス幅調整のためのデータ及び前記温度センサからの前記信号を利用して調整パルス幅を計算している点で共通する。
g 引用発明は「4色に対応した4つのヘッドが支持され」、引用発明の「液体吐出ヘッド」は「エネルギー変換素子の駆動条件を制御するための、機能が異なる複数の素子あるいは電気回路とを有し」、「実際にプレヒートを行う際に、メモリ49に記憶されている選択データに従ってプレヒート信号が選択され、これに応じて発熱体32がプレヒートされ、温度状態にかかわらず液体の吐出量が各吐出口で一定になるようにプレヒートパルスを設定して印加する」ものであるから、調整パルス幅を利用して関連する印字ヘッドアセンブリの印字ヘッドの温度を制御し、その温度制御が前記印字ヘッドアセンブリのそれぞれに対して同時に独立に実行されるものといえる。
h aないしgより、本願発明と引用発明とは、
「インクジェットプリンタのインクジェット印字ヘッドアセンブリの温度制御システムであって、
それぞれが振幅とパルス幅を備える電気パルスによって電力が供給されるインク射出要素、温度センサ、データプロセッサを有する複数の印字ヘッドアセンブリと、
印刷データを受容し、該印刷データをプリンタ制御情報と画像データに処理するコントローラとからなり、
前記温度センサが関連する前記印字ヘッドアセンブリの印字ヘッドの温度を表す信号を生成し、
前記データプロセッサが、関連する前記印字ヘッドアセンブリのパルス幅調整のためのデータ及び関連する前記印字ヘッドアセンブリの前記温度センサから受信する前記印字ヘッドの前記信号を読み取り、前記パルス幅調整のためのデータ及び前記温度センサからの前記信号を利用して調整パルス幅を計算し、
前記調整パルス幅を利用して関連する前記印字ヘッドアセンブリの前記印字ヘッドの温度を制御し、その温度制御が前記印字ヘッドアセンブリのそれぞれに対して同時に独立に実行される温度制御システム。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]本願発明は「データプロセッサが、双方向に前記コントローラと通信する」と特定されているのに対し、引用発明は、CPU302(コントローラ)から、エネルギー変換素子の駆動条件を制御するための、機能が異なる複数の素子あるいは電気回路(データプロセッサ)に通信するといえるものの、双方向に通信しているか否か明らかでない点。
[相違点2]調整パルス幅の計算に関し、本願発明は「関連する前記印字ヘッドアセンブリの公称動作パルス幅、関連する前記印字ヘッドアセンブリのパルス幅較正データ」、関連する前記印字ヘッドアセンブリの温度センサから受信する印字ヘッドの信号を読み取り、「前記公称動作パルス幅、前記パルス幅較正データ」、前記温度センサからの前記信号を利用して調整パルス幅を計算するのに対し、引用発明は、関連する印字ヘッドアセンブリのパルス幅調整のためのデータ及び関連する印字ヘッドアセンブリの温度センサから受信する印字ヘッドの信号を読み取り、前記パルス幅調整のためのデータ及び前記温度センサからの前記信号を利用して調整パルス幅を計算しているといえるものの、公称動作パルス幅、パルス幅較正データを読み取りそれを利用しているのか否か明らかでない点。

5 判断
上記相違点1について検討する。
請求人は、審判請求書で、本願発明と刊行物1とを比較し、以下のように述べている。
「引例2(審決注:刊行物1)のヘッド、CPU、ヘッドドライバが、本願のインク射出要素、コントローラ、データプロセッサに相当するように思われます。しかしながら引例2はCPUからヘッドドライバへのデータの伝達を開示しますが、逆方向のヘッドドライバからCPUへの伝達については示していません。」
しかしながら、刊行物1の上記ウの段落【0073】には以下の記載がある。
「そこで、これに対処するために、詳細は後述するが、各液流路内(特に発熱体32の近傍)での液体の有無を検出するセンサを設け、さらに、このセンサで液体がないことが検出されたらその結果を外部に出力させる処理回路を天板33に設けてもよい。そして、この処理回路からの出力に基づき、液体吐出装置側で、液体吐出ヘッド内の液体を吐出口から強制的に吸引するようにすれば、液流路内の気泡を除去することができる。」
上記「外部に出力」の対象が「CPU302」(コントローラ)であることは明らかである。
そうすると、引用発明において、エネルギー変換素子の駆動条件を制御するための、機能が異なる複数の素子あるいは電気回路(データプロセッサ)として、上記処理回路も採用し、エネルギー変換素子の駆動条件を制御するための、機能が異なる複数の素子あるいは電気回路(データプロセッサ)から「CPU302」(コントローラ)にも通信するようにすることは当業者が容易になし得る程度のことである。
よって、引用発明において本願発明の上記相違点1に係る構成を採用することは当業者が容易になし得る程度のことである。

上記相違点2について検討する。
パルス波形を修正するためのデータとして、基準となる波形とルックアップテーブル等の形式の修正用のデータを用いることは本願優先権主張日前に周知技術(例えば、特開平11-129498号公報、特に【図12】、【図14】参照。特開平5-24199号公報、特に、段落【0028】参照。)である。
引用発明において、印字ヘッドアセンブリのパルス幅調整のためのデータとして、周知技術を採用し、基準となる波形として、公称動作パルス幅を用い、修正用のデータ、即ち、パルス幅較正データを用い、温度センサからの信号とともにそれらのデータを読み取りそれらを利用するようになすことは当業者が容易になし得る程度のことである。
よって、引用発明において本願発明の上記相違点2に係る構成を採用することは当業者が容易になし得る程度のことである。

以上のとおりであるから、本願発明の上記相違点1及び2に係る構成は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであり、それにより得られる効果も当業者が予測できる範囲のものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-18 
結審通知日 2012-04-24 
審決日 2012-05-08 
出願番号 特願2000-314161(P2000-314161)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松川 直樹藤本 義仁  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 鈴木 秀幹
東 治企
発明の名称 インクジェット印刷カートリッジに印加される過剰エネルギーを制御する方法  
代理人 溝部 孝彦  
代理人 古谷 聡  
代理人 西山 清春  

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