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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1263756
審判番号 不服2011-16444  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-29 
確定日 2012-09-26 
事件の表示 特願2001-527133号「音声入力を介した自動的なまたは自動化された変速機の制御」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月 5日国際公開、WO01/23781、平成15年 3月18日国内公表、特表2003-510541号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、2000年9月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年9月29日)を国際出願日とする出願であって、平成23年3月28日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年4月1日)、これに対し、同年7月29日に拒絶査定不服審判が請求されたものであって、その請求項1ないし10に係る発明は、平成14年3月28日付け特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
運転者による音声入力装置(20)を備え、当該装置内では運転者によって入力された音声コマンドがメモリー(22)内に保存された参照音声コマンドと比較され、そこからギヤ制御装置(6)に制御信号が形成されるような、
自動的なまたは自動化された自動車変速機(2)の切換えのための装置であって、
ギヤ制御装置(6)内では、自動車の変速装置(2)用に状況に適したシフトコマンドを形成するため及びギヤ制御装置(6)によって算出されたシフト信号を修正するために、運転者の音声コマンドから形成された制御信号が、ギヤ制御装置(6)によって算出されたシフト信号に重ねられる
ことを特徴とする装置。」

第2 刊行物
1 刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された特開平10-231927号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両制御装置にかかり、詳しくは有段変速機及び無段変速機を含む自動変速装置の変速比の制御に関するものである。」

(2)「【0006】このような観点から、本発明は、運転者が道路状況の変化を認知した場合において、運転者の判断を優先し、ナビゲーションシステムによる変速比制御を望まない場合には、運転者の意志により制御を解除することのできる車両制御装置を提供することを目的としている。」

(3)「【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好適実施形態の1つについて、添付図面に基づいて詳説する。図1は、本発明の車両制御装置の構成を示すブロック図である。本発明の車両制御装置1は、ナビゲーションシステム装置10と、自動変速装置と、ATモード選択部20と、車両状態検出部30とを備えている。ナビゲーションシステム装置10は、ナビゲーション処理部11と、道路情報記憶手段であるデータ記憶部12と、現在位置検出部13と、選択手段として制御解除スイッチ14と、通信部15と、入力部16と、表示部17と、音声出力部19とを有している。」

(4)「【0028】音声入力部18はマイクロホン等によって構成され、音声によって必要な情報が入力される。(以下略)」

(5)「【0030】一方、選択手段である制御解除スイッチ14は、ナビゲーション処理部11にON/OFF信号を供給し、この信号に基づき、ナビゲーション処理部11は、道路情報に基づく変速段の規制制御を解除するかを決定する。つまり、OFF信号が供給された場合には、変速段の規制は行なわれない。(以下略)」

(6)「【0039】本実施形態の自動変速装置は有段変速機であって、プラネタリギアを主体としたギアトレーン及びギアトレーンの各構成要素を係合、解放して変速段を形成する油圧回路からなる機構部(図中、A/Tという)41と、この機構部41を制御する電気制御回路部(以下、A/T ECUという)40とを備えている。
【0040】ナビゲーションシステム装置10とA/T ECU40とは、相互に通信線で接続され適宜通信が行われる。A/T ECU40は、車速センサ31及びスロットル開度センサ35が接続されており、車速センサ31からは車速信号が、スロットル開度センサ35からはスロットル開度信号が入力される。さらに、機構部41に取り付けられた図示しないシフトポジションセンサからはATモード選択部20で選択されたシフトポジションに対応したシフトポジション信号が入力される。シフトポジションセンサによって、シフトポジション検出手段が構成される。
【0041】一方、A/T ECU40から機構部41の油圧回路内のアクチュエータ(油圧ソレノイド)に対して駆動信号が出力され、この駆動信号に基づき上記アクチュエータが作動して変速段の形成等を行う。A/T ECU40は、また、EEPROM42にき記憶された制御プログラムにより制御されており、例えば、変速段の選択は、スロットル開度センサ35より検出されるスロットル開度と、車速センサ31からの車速とに基づき、メモリテーブル(変速マップ)に基づき行われるように構成されている。この変速マップが自動変速装置固有の変速段を決定する。」

(7)「【0044】本実施態様では、この固有の変速マップを変化させることなく、変速段の高速側(上限)を制限することにより、結果的に変速段が低速側にシフトされたような制御を実行している。したがって、固有の変速マップとして、どのような変速マップを用いることもできる。」

(8)「【0046】ドライブレンジのシフトポジションでは、1?4速の間で変速段が選択され、セカンドレンジでは、1?2速の間で変速段が選択され、ロウレンジでは、1速の変速段のみが設定される。本実施態様では、シフトレバー21がドライブレンジのシフトポジションに保持されている場合にのみ、ナビゲーションシステム装置10による変速段の規制が実行可能な構成となっている。例えば、A/T ECU40によって、4速が決定されていてもナビゲーション処理部11により上限が3速とされているときは、駆動信号は1速から3速までの範囲内でしか出力されない。そして、変速比を設定するアクチュエータ42(当審注:「42」は誤記。)に対して、その範囲内で駆動信号が出力される。なお、上記シフトポジションは、A/T ECU40からナビゲーション処理部11へも供給される。」

(9)「【0048】以上のように、規制手段は、ナビゲーション処理部11で構成され、変速比設定手段は、ナビゲーション処理部11とA/T ECU40とによって構成される。本実施形態では、変更可能な変速段の範囲として、上限値が制限された規制範囲とされる。」

(10)「【0049】以下、ナビゲーション処理部11と、A/T ECU40による変速段の選択制御について図5?図8に示されているフローチャートを参照して、第1の実施形態の制御装置について詳説する。第1の実施形態の制御装置は、制御解除スイッチ14がONされても、すぐには制御解除を行わず、車両状態や車速の増加に伴い、変速段の規制範囲を徐々に緩和して行く。
【0050】ここで図5は、ナビゲーション処理部11で実行される処理の一部としての変速段規制制御ルーチンを示している。図6は、A/T ECU40で実行される処理の一部としての変速段出力ルーチンを示している。図5に示されているように、変速段規制制御ルーチンは、カーブ制御ルーチン(ステップS10)と、解除制御ルーチン(ステップS30)を備えている。カーブ制御ルーチン(ステップS10)は、カーブを円滑に通過するための減速をするために、どの様に変速段の上限を設定するかという観点で設定されている。このカーブ制御ルーチン(ステップS10)によって、変速比規制手段ととしての機能が発揮される。解除制御ルーチン(ステップS30)は、カーブ制御ルーチンによる制御が解除された場合に、如何に円滑に変速段の上限規制を解除するかという観点で設定されている。さらに、変速段規制制御ルーチンでは、ステップS10またはステップS30で設定された変速段の規制値を上限値指令信号としてA/T ECU40へ出力する(ステップS50)。
【0051】図6に示されているように、変速段出力ルーチンは、EEPROM42の変速マップに基づき、固有の変速段がいかなる変速段であるかを判断し(ステップS601)、上記ナビゲーション処理部11側からの変速段上限指令値(いかなる範囲内で変速段を選択可能とする指令)を受信し(ステップS603)、自己の選択した変速段と比較してその範囲内で変速段を決定し(ステップS605)、変速用アクチュエータを駆動すべくA/T41の機構部に対して指令信号を出力する(ステップS607)。ステップS50とステップS605によって、変速比設定手段としての機能が発揮される。」

(11)「【0052】図7に示されているフローチャートを参照してカーブ制御ルーチン(ステップS10)の内容について説明する。先ず、・・・車両の現在位置より前方100mに存在するノードを探索する(ステップS101)。
【0053】また、・・・現在の変速段等の車両情報を取得する(ステップS102)・・・各ノードにおける推奨車速を求め、・・・この推奨車速に基づき、予め設定されている減速加速度Gと区間距離Lとから、基準車速を算出する(ステップS103)。(以下略)
【0054】(前略)基準車速とは、区間距離Lを各減速加速度で減速すると仮定した場合、現在の車速はいかなる値であるかを示すものである。
【0055】次にステップS107へ進み、以下に記載の判断が行なわれる。・・・図3に現されている現在位置では、ノードN1を通過するためには、3速が最適変速段となり、また、ノードN2を通過するためには2速が最適変速段とされる。
【0056】以上のように、図3に基づき、ステップS102において車速センサ31から入力された現在車速V0とステップS103で得られた基準車速とを比較して、減速をするための制御が必要性か否かを判断する(ステップS107)。例えば、図3に示す例では、現在の変速段が4速の場合には、減速をするための制御が必要であると判断される。ステップS103およびステップS107により、規制範囲設定手段としての機能が発揮される。
【0057】この、ステップS107においては、制御が必要と判断されたノードは、カーブと認定する。制御が必要でないと判断された場合には、カーブと認定しない。そして、変速段の変更が必要と判断されたノード(制御が必要と判断されたノード)に対する変速段を比較し、その中で最も変速段の上限の低い変速段を最適変速段と決定する(ステップS107)。図3の例では、ノードN1が3速、ノードN2が2速であるから、最も低い2速が最適変速段として決定される。このステップS107により、規制手段としての機能が発揮される。
【0058】次に、制御解除スイッチ14によって、カーブ制御の制御モードがOFFとされたかについて判断する(ステップS109)。OFFとされている場合には(ステップS109:Y)、ステップS113へ進み、変速段の規制範囲を変速段の規制制御を行わない旨である上限4速に設定し、OFFとされていない場合には(ステップS109:N)、アクセル開度αにより、減速操作(以下「イベント」という)がおこなわれたかを判断する(ステップS111)。これにより運転者の減速意志を検出することができる。(以下略)
【0059】イベントを検出しない場合には(ステップS111:N)、変速段の規制範囲を、変速段の規制制御を行わない旨である上限4速に設定し(ステップS113)、メインルーチンにリターンする。イベントを検出した場合には(ステップS111:Y)、ステップS107で決定された最適変速段を変速段の上限値として設定し(ステップS115)、メインルーチンへリターンする。
【0060】以上のような制御によって、運転者の意志を尊重した変速段制御が行なわれる。つまり、イベントをきっかけとして、変速段の規制が行なわれ、結果としてシフトダウンが行なわれれば、カーブ走行の際の減速の補助が行なわれる。また、運転者が道路状況を判断し、制御解除スイッチ14によって、変速段の規制制御を解除することができ、これによって変速段規制制御に運転者の意志が反映される。」

(12)「【0077】上記第1および第2の実施形態では、カーブ制御ルーチンは、ナビゲーション処理部11で行うものとしたが、この場合に限らず、A/T ECU40において行う構成としてもよく、これらのうちの一部で上記ルーチンの一部を担当する構成としてもよい。(以下略)」

(13)「【0080】(前略)表示手段としては、音声出力部19で構成してもよい。選択手段によって、切り換える毎に、音声にて運転者に告知する構成とすることもできる。具体的には、例えば「変速段規制制御が入ります。」「変速段規制制御が切れます。」と告知する構成としてもよい。このような選択手段は、音声入力部18によって構成してもよい。この場合には、音声によって、例えば「制御ON」、「制御OFF」と入力することによって、制御モードのON/OFFを選択することができる。」

ここで、上記(6)ないし(13)に記載された制御内容を整理すると以下のことがいえる。

(14)上記(13)の記載からみて、音声入力部18に対して音声で「制御ON」、「制御OFF」と入力すると「変速段規制制御」のON/OFFの状態を選択できる。

(15)そして、前記「変速段規制制御」は、ナビゲーション処理部11で実行され、上記(10)の段落【0050】の記載及び図5からみて、「カーブ制御ルーチン」(図5のステップS10)を含み、当該「カーブ制御ルーチン」で設定された変速段の規制値を上限値指令信号としてA/T ECU40へ出力する(図5のステップS50)。

(16)ここで、「カーブ制御ルーチン」で設定された「上限値指令信号」とは、具体的には、上記(11)の段落【0057】ないし段落【0060】及び図7からみて、変速段の変更が必要と判断された道路上の各ノードに対する変速段を比較し、その中で最も変速段の上限の低い変速段を最適変速段と決定し(図7のステップS107)、変速段規制制御を行う場合(同ステップS109:N)は、運転者の減速操作が有るときに同ステップS107で決定された最適変速段を変速段の上限値として設定し(同ステップS115)、変速段規制制御を行わない場合(同ステップS109:Y)は上限4速を設定(同ステップS113)した信号である。

(17)一方、A/T ECU40は、上記(6)の段落【0041】及び上記(10)の段落【0051】からみて、その内部で、スロットル開度及び車速並びにEEPROM42に記憶された変速マップによって自動変速装置固有の変速段を決定し、A/T ECU40からA/T41の油圧回路内のアクチュエータに対して駆動信号を出力して変速段の形成を行う。このとき、A/T ECU40内には、自動変速装置固有の変速段に対応した制御信号が存在することが明らかである。また、A/T ECU40は、同時に、上記(10)の段落【0051】及び図6からみて、「変速段出力ルーチン」を実行し、前記固有の変速段がいかなる変速段であるかを判断し(図6のステップS601)、ナビゲーション処理部11側からの変速段上限指令値を受信し(同ステップS603)、自己の選択した変速段と比較してその範囲内で変速段を決定し(同ステップS605)、変速用アクチュエータを駆動すべくA/T41の機構部に対して指令信号を出力する(同ステップS607)。

(18)これによって、具体的には、上記(8)の段落【0046】に記載されるように、A/T ECU40によって、4速が決定されていてもナビゲーション処理部11により上限が3速とされているときは、駆動信号は1速から3速までの範囲内でしか出力されず、変速比を設定するアクチュエータ42に対して、その範囲内で駆動信号が出力されるのであり、上記(7)の段落【0044】に記載されるように、固有の変速マップを変化させることなく、変速段の高速側(上限)を制限することにより、結果的に変速段が低速側にシフトされたような制御を実行する。

(19)ナビゲーション処理部11とA/T ECU40とによる制御によって、上記(11)の段落【0060】に記載されるように、運転者が道路状況を判断し、変速段の規制制御を解除することができ、これによって変速段規制制御に運転者の意志を反映する。

(20)上記(14)ないし(19)の事項を総合すると、刊行物1には、
A/T ECU40内では、自動変速装置用に道路状況に適したA/T41に対する指令信号を形成するために、運転者の音声によって選択された変速段規制制御のON/OFFを反映した上限値指令信号を、A/T ECU40が決定した自動変速装置固有の変速段と比較してその範囲内で変速段を決定することが記載されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されている。

「運転者による音声入力部18を備え、
自動変速装置の切換えのためのナビゲーション処理部11とA/T ECU40であって、
A/T ECU40内では、自動変速装置用に道路状況に適したA/T41に対する指令信号を形成するために、運転者の音声によって選択された変速段規制制御のON/OFFを反映した上限値指令信号を、A/T ECU40が決定した自動変速装置固有の変速段に対応した制御信号と比較してその範囲内で変速段を決定するナビゲーション処理部11とA/T ECU40。」

2 刊行物2
同じく引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された特開平9-222163(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。

「【0009】本発明の動作は次の通りである。装置の動作に必要な電源が供給されると、該当する動作を実行する。変速制御部2は第1信号変換部13から出力される信号を判読し(S11)、判読される音声データを分析する。第1信号変換部13から出力される音声信号はマイク11を通じて入力される。従って、運転者により該当する変速状態を維持するため、該当する変速状態を“走行段に”、または“後進段に”のように該当する音声をマイク11に入力する。マイク11に入力される音声は、マイク11により、該当する音声信号に変換されてフィルタ部12に入力される。従って、前記フィルタ12の動作に従って該当する帯域の音声信号だけ通過させて不必要なノイズ成分を全部抑制したのち、第1信号変換部13に出力する。前記第1信号変換部13は変速制御部2を使用可能な信号状態に変換するためにフィルタ部12を通じて出力されるアナログ状態の音声信号を該当するデジタル信号に変換させて変速制御部2に出力する。
【0010】前記のような過程を通じて変速制御部2に出力されると、前記変速制御部2は前記段階(S11)のように入力される信号を設定される周期ごと判読し、該当する音声情報データ及び音色データを判定する(S12)。変速制御部2は前記第1信号変換部13から出力される音声信号を用いて音声信号に該当する音声情報及び運転者の固有音色を既に設定されているデータと比較分析して判定する。従って、前記のように音声情報及び音色データが判読されると、変速制御部2は判定される音声情報データが既に内部メモリの該当アドレスに貯蔵されている音声情報データであることを判断する(S13)。
【0011】判断される音声情報データが既にメモリ部の該当アドレスに貯蔵されている音声情報データではない場合、変速制御部2は変速状態を変更するための“走行段に”、または“後進段”などの変速状態を変更するための音声情報ではなくて、変速状態と関係がない音声情報と判断する。だから、変速状態を変更するための別途の制御動作を実行しなくて主プログラムに帰る(S100)。しかしながら、判定される音声情報データが内蔵されてメモリに貯蔵されている場合、変速制御部2は判定される音色データと比較設定されている音色データを比較判断する(S14)。
【0012】前記のように入力される音声の音色を既に設定された音色データと比較判断する動作は、自動車の運転者以外に他人の音声により変速状態が変換されて正常な走行動作が可能な場合、発生可能な車両の盗難事故を防止するためのものである。従って、比較判断される音色データが既に貯蔵されている音色データのうち、同一な音色データがない場合には、変速制御部2は入力される音声情報が変速状態を制御するための音声情報である場合であっても変速状態を該当変速段に変換させる変換動作を実行させない(S100)。
【0013】従って、正常な走行動作が不可能であるので、運転者以外の他人の運転が不可能であるから車両の盗難が防止できる。しかし、比較判断される音色データが既に設定されているデータのうち、ある一つと同一である場合には、変速制御部2は正常な変速状態変換動作ができる。従って、前記段階(S13)の比較判断動作により、判断される音声情報データの種類を判定する(S15)。
【0014】前記音声情報データに該当する該当変速段が判定されると、変速制御部2は現在設定されている変速段を判定する(S16)。従って、前記の現在の変速段と運転者による命令される変速段が全部判定されると、変速制御部2は既に設定されて内部メモリの各該当アドレスに貯蔵されているデータを使用し、制御データを判定する(S17)。
【0015】前記内部メモリに貯蔵されている設定データは、全て現在の変速段と制御変速段とのデータが設定されているので、アクチュエータ33の動作を制御するためのデータと設定状態に合わせてアクチュエータが動作される際に発生する位置データとに関する情報である。従って、制御変速段と現在変速段との状態に従って夫々判定される前記制御データを利用し、変速制御部2は現在状態に従って該当する変速データを判定できる。
【0016】前記動作を通じて該当する制御データが判定されると、変速制御部2は該当する制御データを第2信号変換部31に出力する(S18)。従って、前記第2信号変換部31は変速制御部2から出力されるデジタル状態を利用可能なアナログ信号に変換し、アクチュエータ33に出力する。だから、前記アクチュエータ33の動作状態が出力される制御信号に従って夫々変換される。」

3 刊行物3
同じく引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された実願昭61-184481号(実開昭63-89316号)のマイクロフィルム(以下「刊行物3」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。

(1)「(産業上の利用分野)
本考案は音声入力により車両の発進、変速動作を行なうことができる自動変速装置に関する。」(第1頁11行-13行)

(2)「マイクロフォンから入力される音声は音声認識装置12で認識される。この音声認識装置12で認識されたデータはコントロールユニット13に送られてクラッチの断接動作、変速機の変速、エンジンへの燃料噴射量の制御等が行なわれる。」(第3頁7行-12行)

(3)「コントロールユニット13は送られたデータに基づきクラッチの断接動作、変速機の変速動作、エンジンへの燃料噴射量の制御を行なう。」(第3頁17行-20行)

4 刊行物4
同じく引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された特開平9-250633(以下「刊行物4」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。

(1)「【0024】単一の操作レバー77によって作業モードM1?M6を選択シフトできるものとし、この操作レバー77の把持部にシフトアップボタン78とシフトダウンボタン79とを設け、このボタン78又は79の押込操作で各作業モードM1?M6域内における車速調整を行い最適な車速を簡単に得る。図例では、作業モードとして、一般モードM1、クリープ作業モードM2、代掻作業モードM3、ロータリ作業モードM4、プラウ、ローダ作業モードM5、及び走行モードM6を設定し、前記主変速装置2の4段変速と副変速装置3の4段との組合せにより全16段の変速走行域について、各モード毎に基準の各モードシフト位置S1?S6と、これら各モードシフト位置S1?S6毎にシフトボタン78,79によって前後に選択される領域のシフト域V1?V6との設定によって、条件に適した走行速を効率的に操作できる。
【0025】尚、図例の作業モードM1?M6を選定する操作レバー77の別実施例として、各作業に相当するスイッチを設けこのスイッチの入力による選択としたり、ダイヤル式スイッチによる選択たり、文字若しくは音声入力による選択とすることも考えられる。また、シフト位置を選択する前記シフトボタン78,79についても同様である。」

(2)図5には、M6として「走行モード S6=15速を基点とし V6=4段の車速域」と記載され、車速とシフト位置の関係を示す棒グラフにおいて、「M6走行」に対して、シフト位置13からシフト位置16がシフト位置の範囲であり、シフト位置15が「作業モード設定時の基点車速」であることが示されている。

第3 対比
本願発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、その機能からみて、後者の「音声入力部18」は前者の「音声入力装置(20)」に相当し、以下同様に、後者の「A/T ECU40」は前者の「ギヤ制御装置(6)」に、後者の「自動変速装置」は前者の「自動的なまたは自動化された自動車変速機(2)」及び「自動車の変速装置(2)」に、後者の「ナビゲーション処理部11とA/T ECU40」は、前者における自動車変速機(2)の切換えのための「装置」に、後者の「道路状況」は前者の「状況」に、後者の「道路状況に適したA/T41に対する指令信号」は前者の「状況に適したシフトコマンド」に、後者の「運転者の音声」は前者の「運転者の音声コマンド」に、後者の「運転者の音声によって選択された変速段規制制御のON/OFFを反映した上限値指令信号」は前者の「運転者の音声コマンドから形成された制御信号」に、後者の「A/T ECU40が決定した自動変速装置固有の変速段に対応した制御信号」は前者の「ギヤ制御装置(6)によって算出されたシフト信号」にそれぞれ相当する。

また、前者の「重ねられる」に関して、本願明細書の「変速機内で走行状況に関連したギヤ比の切換えを補佐する」(段落【0006】)との記載に照らせば、後者の「比較してその範囲内で変速段を決定する」は前者の「重ねられる」に相当する。

そして、前者の「ギヤ制御装置(6)内では、自動車の変速装置(2)用に状況に適したシフトコマンドを形成するため及びギヤ制御装置(6)によって算出されたシフト信号を修正するために、運転者の音声コマンドから形成された制御信号が、ギヤ制御装置(6)によって算出されたシフト信号に重ねられる」に関して、本願明細書では「運転者による音声入力のための装置を備え、当該装置内では運転者によって入力された音声コマンドがメモリー内に保存された参照音声コマンドと比較され、そこから制御信号が形成されるような、自動的なまたは自動化された自動車変速機の切換えのための装置において、当該自動車変速機のギヤ制御装置内では、自動車変速機用に状況に適したシフトコマンドを形成するために、運転者の音声コマンドから形成された制御信号が、ギヤ制御装置によって算出されたシフト信号に重ねられる。これによって運転者は、車両に関し、交通状況に関し、あるいは地形に関して、車両を正しく制御することができる」(段落【0008】)と説明されていることに照らせば、後者の「A/T ECU40内では、自動変速装置用に道路状況に適したA/T41に対する指令信号を形成するために、運転者の音声によって選択された変速段規制制御のON/OFFを反映した上限値指令信号を、A/T ECU40が決定した自動変速装置固有の変速段に対応した制御信号と比較してその範囲内で変速段を決定する」ことは、前者の「ギヤ制御装置(6)内では、自動車の変速装置(2)用に状況に適したシフトコマンドを形成するため」「に、運転者の音声コマンドから形成された制御信号が、ギヤ制御装置(6)によって算出されたシフト信号に重ねられる」ことに相当する。

したがって、両者は、
「運転者による音声入力装置を備え、自動的なまたは自動化された自動車変速機の切換えのための装置であって、
ギヤ制御装置内では、自動車の変速装置用に状況に適したシフトコマンドを形成するために、運転者の音声コマンドから形成された制御信号が、ギヤ制御装置によって算出されたシフト信号に重ねられる装置。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本願発明は、「当該装置内では運転者によって入力された音声コマンドがメモリー(22)内に保存された参照音声コマンドと比較され、そこからギヤ制御装置(6)に制御信号が形成されるような」装置であるのに対し、刊行物1に記載された発明は、かかる構成を備えない点。

〔相違点2〕
本願発明は、「ギヤ制御装置(6)によって算出されたシフト信号を修正するため」に、運転者の音声コマンドから形成された制御信号が、ギヤ制御装置(6)によって算出されたシフト信号に重ねられるのに対し、刊行物1に記載された発明は、かかる構成を備えない点。

第4 当審の判断
1 相違点1について
刊行物2には、運転者による正常な変速状態変換動作を行うために、マイク11を通じて入力された音声信号がフィルタ部12及び第1信号変換部13を介して変速制御部2に送られ、当該音声信号に該当する音声情報データ及び音色データを内部メモリに貯蔵されている音声情報データ及び音色データと比較して、自動車の運転者の音声か否かを判断し、正常な場合は、第2信号変換部31を介して、アクチュエータ33に信号を出力することが記載されている。

そして、刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された事項とはどちらも運転者の音声によって変速段を決定する点で技術的に共通する。

そうすると、刊行物1に記載された発明において、「音声入力部18」に刊行物2に記載された事項を適用して、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

2 相違点2について
本願発明の「ギヤ制御装置(6)によって算出されたシフト信号を修正するために、運転者の音声コマンドから形成された制御信号が、ギヤ制御装置(6)によって算出されたシフト信号に重ねられる」に関して、本願明細書には「ある有利な形態では、音声入力のための装置を介して、ギヤ比の変更の際のギヤステップの段数を、シフトアップの際もシフトダウンの際も入力できる」との記載(段落【0008】)、「ある有利な形態では、音声入力のための装置を通じて、現在使用しているギヤ比を維持するコマンドを入力することができる」との記載(段落【0008】)がある。

一方、刊行物3には、マイクロフォンから入力される音声が音声認識装置12で認識されコントロールユニット13に送られて変速機の変速動作の制御を行うことが記載される。

また、刊行物4には、各作業モードM1?M6域内における基準の各モードシフト位置S1?S6を、シフトボタン78,79の押込操作によって、前後のシフト位置に変更することで車速調整を行い最適な車速を得ることが記載され、前記シフトボタン78,79について音声入力による選択とすることが示唆されている。

そうすると、刊行物3及び4の記載からみて、本願の出願前に、運転者の音声コマンドから形成された制御信号によってギヤ制御装置のシフト信号を修正することは、周知技術であるから、刊行物1に記載された発明の「A/T ECU40が決定した自動変速装置固有の変速段に対応した制御信号」に、前記周知技術を適用して、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

また、本願発明の効果は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された事項並びに前記周知技術から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。

したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された事項並びに前記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された事項並びに前記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-23 
結審通知日 2012-04-24 
審決日 2012-05-14 
出願番号 特願2001-527133(P2001-527133)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 克久  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 所村 陽一
冨岡 和人
発明の名称 音声入力を介した自動的なまたは自動化された変速機の制御  
代理人 田中 達也  
代理人 岡野 大和  
代理人 荒木 淳  
代理人 大倉 昭人  
代理人 上村 欣浩  
代理人 杉村 憲司  
代理人 澤田 達也  
代理人 吉澤 雄郎  
代理人 山崎 孝博  
代理人 坪内 伸  

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