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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B25J
管理番号 1263835
審判番号 無効2010-800036  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-03-04 
確定日 2012-10-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第4105586号「リニアモータ式単軸ロボット」の特許無効審判事件についてされた平成22年10月20日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成22年(行ケ)第10360号平成23年3月2日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第4105586号の請求項1,2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続きの経緯

本件無効審判事件に関する手続の経緯は、以下のとおりである。

平成15年 5月14日 本件特許出願(特願2003-136334号)
平成19年10月 5日 手続補正書の提出
平成19年10月19日 拒絶理由通知
平成19年12月26日 意見書・手続補正書の提出
平成20年 3月17日 特許査定
平成20年 4月 4日 特許登録(第4105586号)
平成22年 3月 4日 無効審判請求(無効2010-800036号)
平成22年 5月28日 答弁書の提出
平成22年 7月20日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人、被請求人から)
平成22年 8月 3日 口頭審理陳述要領書(2)の提出(請求人から)
平成22年 8月 3日 第1回口頭審理
平成22年 8月31日 上申書の提出(請求人、被請求人から)
平成22年 9月10日 上申書の提出(請求人から)
平成22年10月20日 審決(一次審決、請求項1、2に係る発明についての特許を無効とする)
平成22年11月20日 知財高裁へ出訴(平成22年(行ケ)第10360号)
平成23年 2月10日 訂正審判の請求(訂正2011-390015号)
平成23年 3月 2日 判決(審決取り消し決定)
平成23年 3月11日 特許法第134条の3第2項による期間指定通知(発送日)
平成23年 3月22日 期間経過により、訂正審判の請求を、この無効審判の「訂正の請求」とみなす
平成23年 3月25日 弁駁指令
平成23年 4月28日 弁駁書の提出
平成23年 6月20日 審理再開申立書の提出(被請求人から)
平成23年 6月28日 上申書の提出(被請求人から)

第2.訂正の可否についての判断

(1)訂正請求について

本件無効審判請求に係る特許第4105586号について、平成23年2月10日に請求された訂正審判の請求、訂正2011-390015号は、平成23年3月22日付けで本件無効審判請求の「訂正の請求」とみなされるものとなったところ、その訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。

ア.訂正事項1
請求項1において、
「上記ロボット本体には、永久磁石を軸方向に配列したシャフト状のステータ部と、このステータ部と平行に配置されたリニアガイドとが設けられ、」とあるのを、
「上記ロボット本体には、一軸方向に延びるベース部と、このベース部の両側部から上方に突出して該ロボット本体の側壁部を構成する一対のカバー部材と、これらの一対のカバー部材間において上記一軸方向に延び、永久磁石を当該軸方向に配列したシャフト状のステータ部と、上記ベース部上であって上記ステータ部と平行に配置されたリニアガイドとが設けられ、」と訂正する。

イ.訂正事項2
請求項1において、
「上記可動ブロックには、その一側部に、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに、このヘッド配置側とは反対側の側面部に、多数の放熱フィンが形成されている」とあるのを、
「上記可動ブロックには、その一側部であって、上記カバー部材との間に、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに、このヘッド配置側とは反対側の側面部にのみ多数の放熱フィンが形成されている」と訂正する。

ウ.訂正事項3
特許明細書の段落番号0007において、
「上記ロボット本体には、永久磁石を軸方向に配列したシャフト状のステータ部と、このステータ部と平行に配置されたリニアガイドとが設けられ、」とあるのを、
「上記ロボット本体には、一軸方向に延びるベース部と、このベース部の両側部から上方に突出して該ロボット本体の側壁部を構成する一対のカバー部材と、これらの一対のカバー部材間において上記一軸方向に延び、永久磁石を当該軸方向に配列したシャフト状のステータ部と、上記ベース部上であって上記ステータ部と平行に配置されたリニアガイドとが設けられ、」と訂正する。

エ.訂正事項4
特許明細書の段落番号0007において、
「上記可動ブロックには、その一側部に、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに、このヘッド配置側とは反対側の側面部に、多数の放熱フィンが形成されている」とあるのを、
「上記可動ブロックには、その一側部であって、上記カバー部材との間に、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに、このヘッド配置側とは反対側の側面部にのみ多数の放熱フィンが形成されている」と訂正する。

以下、訂正事項1ないし訂正事項4を、「本件訂正」という。

(2)訂正後の特許請求の範囲

上記訂正事項1ないし2により、特許請求の範囲の記載は以下のとおりのものとなる。

「【請求項1】
ロボット本体と、該ロボット本体に対して一定方向に直線的に移動可能な可動部材とを備え、
上記ロボット本体には、一軸方向に延びるベース部と、このベース部の両側部から上方に突出して該ロボット本体の側壁部を構成する一対のカバー部材と、これらの一対のカバー部材間において上記一軸方向に延び、永久磁石を当該軸方向に配列したシャフト状のステータ部と、上記ベース部上であって上記ステータ部と平行に配置されたリニアガイドとが設けられ、
上記可動部材には、ステータ部を囲繞するコイルを装備して、上記リニアガイドに摺動可能に支持された可動ブロックと、この可動ブロックに連結された作業部材取付用のテーブルとが設けられているリニアモータ式単軸ロボットであって、
上記テーブルが上記可動ブロックに対し、両者間に断熱材からなる断熱プレートを介在させた状態で連結されており、
上記可動ブロックには、その一側部であって、上記カバー部材との間に、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに、このヘッド配置側とは反対側の側面部にのみ多数の放熱フィンが形成されていることを特徴とするリニアモータ式単軸ロボット。
【請求項2】
上記テーブル及び断熱プレートが一括に締結部材により上記可動ブロックに連結され、その締結部材と上記テーブルとの間に断熱材からなる断熱ワッシャーが介装されていることを特徴とする請求項1記載のリニアモータ式単軸ロボット。」(以下、この請求項1に係る発明を「本件訂正発明1」、この請求項2に係る発明を「本件訂正発明2」という。)

(3)訂正の目的

訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1の記載に、「一軸方向に延びるベース部と、このベース部の両側部から上方に突出して該ロボット本体の側壁部を構成する一対のカバー部材と、これらの一対のカバー部材間において上記一軸方向に延び」との事項、及び、「リニアガイド」が、「上記ベース部上」に配置されたものであるとの事項を加入するものである。

訂正事項2は、同じく、特許請求の範囲の請求項1の記載に、ヘッドが、可動ブロックの一側部であって、「上記カバー部材との間に」の配置されたものであるとの事項、及び、可動ブロックの、ヘッド配置側とは反対側の側面部に「のみ」多数の放熱フィンが形成されているとの事項を加入するものである

訂正事項1、及び、訂正事項2は、いずれも新たな発明特定事項を加入することにより、特許請求の範囲を減縮するものである。

訂正事項3、及び、訂正事項4は、段落0007の記載を特許請求の範囲の記載に合わせるものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。

以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第一号、第三号の目的に該当する。

(4)訂正事項が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるかどうかについての検討

そこで、本件訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるかどうか、以下、検討するが、特に訂正事項2について検討する。

この検討において、「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面」の基になるのは、特許査定された平成19年12月26日付けの手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「特許時明細書等」という。)であり、その特許請求の範囲の請求項1、2の記載は以下のとおりである。

「【請求項1】ロボット本体と、該ロボット本体に対して一定方向に直線的に移動可能な可動部材とを備え、
上記ロボット本体には、永久磁石を軸方向に配列したシャフト状のステータ部と、このステータ部と平行に配置されたリニアガイドとが設けられ、
上記可動部材には、ステータ部を囲繞するコイルを装備して、上記リニアガイドに摺動可能に支持された可動ブロックと、この可動ブロックに連結された作業部材取付用のテーブルとが設けられているリニアモータ式単軸ロボットであって、
上記テーブルが上記可動ブロックに対し、両者間に断熱材からなる断熱プレートを介在させた状態で連結されており、
上記可動ブロックには、その一側部に、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに、このヘッド配置側とは反対側の側面部に、多数の放熱フィンが形成されていることを特徴とするリニアモータ式単軸ロボット。
【請求項2】上記テーブル及び断熱プレートが一括に締結部材により上記可動ブロックに連結され、その締結部材と上記テーブルとの間に断熱材からなる断熱ワッシャーが介装されていることを特徴とする請求項1記載のリニアモータ式単軸ロボット。」

また、放熱フィンに関する明細書の記載は、段落【0007】
「【課題を解決するための手段】
本発明は、ロボット本体と、該ロボット本体に対して一定方向に直線的に移動可能な可動部材とを備え、上記ロボット本体には、永久磁石を軸方向に配列したシャフト状のステータ部と、このステータ部と平行に配置されたリニアガイドとが設けられ、上記可動部材には、ステータ部を囲繞するコイルを装備して、上記リニアガイドに摺動可能に支持された可動ブロックと、この可動ブロックに連結された作業部材取付用のテーブルとが設けられているリニアモータ式単軸ロボットであって、上記テーブルが上記可動ブロックに対し、両者間に断熱材からなる断熱プレートを介在させた状態で連結されており、上記可動ブロックには、その一側部に、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに、このヘッド配置側とは反対側の側面部に、多数の放熱フィンが形成されているものである。」
、及び、
段落【0022】
「また、上記可動ブロック15の側面部には多数の放熱フィン30が形成されている。」にみられる。

また、平成19年10月5日付け手続補正書により、【図2】には符号「30」が加入されている。

なお、平成19年10月5日付け手続補正書により、段落【0011】「また、上記可動ブロックの側面部に、多数の放熱フィンが形成されていることが好ましい。」が加入されたが、特許査定前の平成19年12月26日付けの手続補正書により、上記段落【0011】は削除されている。

ここで、訂正事項2のうち、「このヘッド配置側とは反対側の側面部にのみ多数の放熱フィンが形成されている」点について検討する。

そこで、同【図2】を検討する。
同図は明細書の【図面の簡単な説明】の記載によれば、「上記ロボットの横断面図である。」とのみ示されているが、この横断面図が、【図1】の縦断面図のどの位置における横断面図であるかは、明細書、及び、【図1】に記載がなく、「磁気シールド22」、及び、「MRヘッド21」が、【図1】、及び、【図2】、両図に記載されていることから、【図1】における「可動ブロック15」の左右方向でMRヘッド21のある範囲内であることを示すのみである。
また、【図2】には、可動ブロック15と放熱フィン30とが一体的に形成されているものであることは示されているが、【図1】には、放熱フィン30が示されていないから、可動ブロック15の長手方向(【図1】においては左右方向、【図2】においては紙面に垂直方向)における放熱フィン30の配置は、MRヘッド21のある範囲にあることは示されているものの、MRヘッド21のない範囲における放熱フィンの配置がいかなるものであるかは不明である。
そして、【図2】において、MRヘッド21の示されている部分の一側部側に放熱フィンがないことは示されているが、同図は、可動ブロック15のMRヘッド21のある部分の断面を示したにすぎないものであるから、可動ブロック15の長手方向のMRヘッド21のない部分について、放熱フィン30があるかないかを示すものではない。
また、特許請求の範囲の記載において、「上記可動ブロックには、その一側部に、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに、このヘッド配置側とは反対側の側面部に、多数の放熱フィンが形成されている」とされ、明細書の段落【0022】において、「また、上記可動ブロック15の側面部には多数の放熱フィン30が形成されている。」というのみであるから、特許時明細書等の記載によっては「ヘッド配置側」における放熱フィンの配置は一切不明である。

ここで、被請求人は、訂正事項2において、「のみ」という事項を加入することに関し、訂正請求の理由において、
「『のみ』という文言を追加して、ヘッド配置側の側面部においては放熱フィンが存在しないか又は形成される放熱フィンが多数ではないことをより一層明確にしたものであり」(訂正審判請求書第5頁第14?17行)、及び、「この点については、本件特許図面における図2に明確に示されている。すなわち、この図2には、可動ブロックの一側部であって、カバー部材までの空間(その下端部)に、ヘッドが配置されていることが明確に示されるとともに、ヘッド配置側の側面部においては、多数の放熱フィンが形成されていない点が示されている。」(訂正審判請求書第5頁第20?24行)と述べ、訂正事項2に係る当該発明特定事項は、特許時明細書等の【図2】に記載された事項の範囲内のものであると主張している。
しかしながら、「ヘッド配置側とは反対側の側面部にのみ多数の放熱フィンが形成されている」と限定することの意味は、ヘッド配置側には放熱フィンが設けられていないか、放熱フィンが設けられていても多数ではないことを意味するものであるところ、上記のとおりヘッド配置側の放熱フィンがどのように設けられているかは不明である。
逆に、放熱が必要な場合にあっては、放熱を効果的に行うために放熱フィンを配置可能な箇所に積極的に設けることが技術常識であるから、特許明細書に接した当業者であれば、ヘッド配置側にも放熱フィンが多数設けられていると理解するものといえる。

以上のとおりであるから、放熱フィンの配置に関して、特許時明細書等の記載から、「このヘッド配置側とは反対側の側面部にのみ多数の放熱フィンが形成されている」という事項が、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入したものと解されないということはできず、当該放熱フィンの配置に関する発明特定事項が、特許時明細書等に記載した事項の範囲内のものであるということはできない。

なお、この出願は、特許査定前の平成19年10月5日付け手続補正書により、「上記可動ブロックの側面部に、多数の放熱フィンが形成されている」点、及び、【図2】に符号「30」が補正がされて加入されたものであり、出願当初の明細書には、「作業部材取付用テーブルが可動ブロックに対し、両者間に断熱材からなる断熱プレートを介在させた状態で連結されていること」に発明の主眼が置かれていたものの、審査官の示した拒絶理由により、この主眼点に関する先行技術文献が示されると、放熱フィンと読取りヘッドに関する部分に主眼点を移したものと認められ、出願当初の明細書の記載は、放熱フィンの配置に関して、明確なものではなかったといわざるをえない。
また、平成19年12月26日付けの意見書の2.本願発明が特許されるべき理由の記載、ロ.では、「一般に可動ブロックにはスケール読取りのためのヘッドが配置されるが、このヘッド配置箇所の近傍に放熱フィンが形成されると、ヘッド取付部分の剛性が低下するとともに、ヘッド付近で放熱フィンによる放熱量の変動(例えば移動速度等に応じた放熱量の変動)による温度変化が生じ易く、これらがヘッドの検出精度に悪影響を及ぼすのに対し、本願発明では、ヘッド配置側とは反対側の側面部に、多数の放熱フィンが形成されている(上記構成要件E)ことにより、ヘッドの検出精度に悪影響を及ぼすことが避けられる。」と述べ、ヘッドの「近傍」の放熱フィンに関する主張をしていたのに、特許後に「近傍」以外の可動ブロックの軸方向の全部に主眼点を移したものともとれる。
ただし、明細書中にはそのような点について、一切、記載はなく、また、ヘッド配置側全面にわたって放熱フィンを配置することを禁止しなければ、ヘッドの検出精度に悪影響が生じることを妨げないともいえないことを指摘しておく。

(5)訂正の可否についての結論

以上のとおり、平成23年3月22日に本件無効審判請求事件における訂正請求とみなされた平成23年2月10日付けの訂正の請求は、特許法第134条の2第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項の規定に適合しないので、当該訂正を認めない。

第3.本件特許発明について

平成23年3月22日に本件無効審判請求事件における訂正請求とみなされた平成23年2月10日付けの訂正の請求は認められないので、本件特許発明は、平成19年12月26日付け手続補正書によって補正され、特許された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認めるところ、請求人が無効審判請求書で用いた構成要件の項分けを採用して示すと以下のとおりである。

「【請求項1】
A:ロボット本体と、該ロボット本体に対して一定方向に直線的に移動可能な可動部材とを備え、
B:上記ロボット本体には、永久磁石を軸方向に配列したシャフト状のステータ部と、このステータ部と平行に配置されたリニアガイドとが設けられ、
C:上記可動部材には、ステータ部を囲繞するコイルを装備して、上記リニアガイドに摺動可能に支持された可動ブロックと、この可動ブロックに連結された作業部材取付用のテーブルとが設けられているリニアモータ式単軸ロボットであって、
D:上記テーブルが上記可動ブロックに対し、両者間に断熱材からなる断熱プレートを介在させた状態で連結されており、
E:上記可動ブロックには、その一側部に、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに、このヘッド配置側とは反対側の側面部に、多数の放熱フィンが形成されている
G1:ことを特徴とするリニアモータ式単軸ロボット。
【請求項2】
F:上記テーブル及び断熱プレートが一括に締結部材により上記可動ブロックに連結され、その締結部材と上記テーブルとの間に断熱材からなる断熱ワッシャーが介装されている
G2:ことを特徴とする請求項1記載のリニアモータ式単軸ロボット。」
(以下、請求項1に係る発明を「本件特許発明1」、請求項2に係る発明を「本件特許発明2」という。また、構成要件の項分けA等を、「構成要件A」等という。)

第4.請求人の主張する無効理由

(1)証拠

請求人は、提出した証拠のうち、甲第1号証の1?1号証の3、甲第1号証の6?1号証の8、甲第1号証の13?1号証の15、甲第12号証?甲第16号証を、参考資料とした(第1回口頭審理調書参照。)ので、無効理由の証拠方法としては、以下のとおり甲第1号証の4?24号証である。

甲第1号証の4 特開平10-313566号公報
甲第1号証の5 特開平11-206099号公報
甲第1号証の9 特開2000-078827号公報
甲第1号証の10 特開2003-025419号公報
甲第1号証の11 特開2002-238238号公報
甲第1号証の12 特開2000-335500号公報
甲第2号証 事実実験公正証書(謄本)
甲第3号証 Linear Drives Limited のウェブサイトに掲載されていた「Standard Range Thrust Modules」のカタログの抜粋を印刷したもの
甲第4号証 THK(株)作成の「リニアモータアクチュエータ、ロツドタイプ」と題するカタログの写し
甲第5号証 特開2001-169529号公報
甲第6号証の1 特開2002-112525号公報
甲第6号証の2 平成16年1月9日付け拒絶理由通知書
甲第7号証 Drives & Controls UK newsの写し及びその訳文
甲第8号証 「温度測定実験について」の陳述書(1)
甲第9号証 大塚二郎の平成22年7月13日付け陳述書
甲第10号証 「温度変化と検出精度についての補論」陳述書(2)
甲第11号証 「甲第2号証(引用例1)について」の報告書
甲第17号証 「雰囲気温度の変化が与える影響について」の陳述書(
3)
甲第18号証 大塚二郎の平成22年8月30日付け陳述書
甲第19号証 SCOTT PLEVA(スコットプリーバ)のAFFIDAVIT(宣誓供述書)及びその訳文
甲第20号証 平成21年(ワ)第7821号事件(関連侵害訴訟)の原告第5準備書面の写し
甲第21号証 平成21年(ワ)第7821号事件(関連侵害訴訟)の加茂川良の陳述書の写し
甲第22号証 平成21年(ワ)第7821号事件(関連侵害訴訟)の中山顕の陳述書の写し
甲第23号証 SCOTT PLEVA(スコット・プリーバ)の2011年4月20日付AFFIDAVIT(宣誓供述書)及びその訳文
甲第24号証 Keith Dennis Lewis Beresford (キース・デニス・ルイス・ベレスフォード)の2011年4月20日付AFFIDAVIT(宣誓供述書)及びその訳文

甲第1号証の1?甲第7号証は、審判請求書とともに、甲第8号証?甲第16号証は、平成22年7月20日付け口頭審理陳述要領書とともに、甲第17号証?甲第18号証は、平成22年8月31日付け上申書とともに提出され、甲第19号証?甲第22号証は、平成22年9月10日付け上申書とともに提出され、甲第23号証?甲第24号証は、平成23年4月28日付け弁駁書とともに提出されたものである。

(2)請求人の主張する無効理由

請求人の主張する無効理由は、以下の無効理由1ないし3である。

無効理由1
本件特許発明1では、テーブルと可動ブロックの間に断熱材からなる断熱プレートを介在させているのに対し、甲第2号証(又は甲第3号証又は甲第4号証)に記載された発明は、そのような断熱プレートを開示していない点で相違するが、テーブルと可動ブロックの間に断熱材からなる断熱プレートを介在させる点については、同じくリニアモータの技術を開示している甲第5号証に記載されており、甲第5号証に記載されている発明を甲第2号証(又は甲第3号証又は甲第4号証)に記載された発明に適用することは、当業者にとって容易である。
したがって、本件特許発明1は、甲第2号証(又は甲第3号証又は甲第4号証)及び甲第5号証に記載された発明から容易に成し得たものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

無効理由2
本件特許発明1では、テーブルと可動ブロックの間に断熱材からなる断熱プレートを介在させており、又、可動ブロックの一側部に、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに、このヘッド配置側とは反対側の側面部に、多数の放熱フィンが形成されているのに対して、甲第1号証の9に記載された発明は、そのような構成を備えていない点で相違するが、同じくリニアモータの技術を開示している甲第5号証には、テーブルと可動ブロックの間に断熱材からなる断熱プレートを介在させる構成が記載されており、又、同じくリニアモータの技術を開示している甲第1号証の5(又は甲第6号証の1又は甲第2号証又は甲第3号証又は甲第4号証)には、可動ブロックの一側部に、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに、このヘッド配置側とは反対側の側面部に、多数の放熱フィンが形成されている構成が記載されており、甲第5号証に記載された発明と甲第1号証の5(又は甲第6号証の1又は甲第2号証又は甲第3号証又は甲第4号証)に記載された発明を、甲第1号証の9に記載された発明に適用することは当業者にとって容易である。
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証の9に記載された発明、並びに甲第5号証、及び、甲第1号証の5(又は甲第6号証の1又は甲第2号証又は甲第3号証又は甲第4号証)に記載された発明から容易に成し得たものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

無効理由3
本件特許発明1と同等の構成については理由1又は理由2で述べた通りである。ボルト30(締結部材)と作業用保持部材25(テーブル)の間にワッシヤを介装することは、同じくリニアモータの構成を開示する甲第5号証に記載されており、又、ボルトを用いた締結において断熱ワッシヤを用いることは甲第1号証の12に記載されているので、本件特許発明2も当業者が容易に想到し得たものである。
したがって、本件特許発明2は、甲第2号証(又は甲第3号証又は甲第4号証)及び甲第5号証、甲第1号証の12に記載された発明から容易に成し得たもの、又は、甲第1号証の9に記載された発明に甲第5号証、甲第1号証の5(又は甲第6号証の1又は甲第2号証又は甲第3号証又は甲第4号証)、甲第1号証の12に記載された発明から容易に成し得たものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3)被請求人の主張

被請求人は、証拠として乙第1?4号証を提出している。

乙第1号証 WEBページ出力物
(InternetArchiveによる
http://www.copleycontrols.com/Motion/Downloads/ttModDa
ta.htmlの検索結果)の写し
乙第2号証 WEBページ出力物
(InternetArchiveによる
http://www.copleycontrols.com/Motion/index.html
の検索結果)の写し
乙第3号証 加茂川良の陳述書
乙第4号証 中山顕の陳述書

乙第1号証、乙第2号証は審判事件答弁書とともに、乙第3号証、乙第4号証は平成22年8月31日付け上申書とともに提出されたものである。

被請求人の主張は、概略、以下のとおりである。
「構成要件Eは,『上記可動ブロックには,その一側部に、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに、このヘッド配置側とは反対側の側面部に,多数の放熱フィンが形成されている』と記載されており,可動ブロックにおけるヘッド配置側とは『反対側』の側面部にその位置を限定したうえで,『多数の放熱フィン』を要求する。裏を返せば,ヘッド配置側の側面部においては,『多数の放熱フィン』が存在してはならないということ,つまり,放熱フィンが存在しないか又は形成される放熱フィンが多数ではないことを意味するものである。」と述べ、請求人の提出した証拠のいずれにも構成要件Eは示されていないから、本件特許発明は請求人の提出した証拠から当業者が容易に発明できたものではないと主張している。

第5.無効理由についての判断

(1)本件特許発明について

本件特許発明1、2は、上記第3.「本件特許発明について」に記載のとおりのものである。

(2)甲各号証について

請求人の提出した甲各号証の記載は、以下のとおりである。

(2-1)甲第1号証の4 特開平10-313566号公報
甲第1号証の4には、「複数の永久磁石を互いに反対の磁極が対向するように直列に組み合わせて成るステータ部を有するリニアモータにおいて、前記永久磁石を筒状の基本形状とし、これらに非磁性材料によるセンター軸を挿入して両側から締め付けることにより隣り合う永久磁石の間を密着させるようにして前記ステータ部を構成したリニアモータ。」について記載されている。

(2-2)甲第1号証の5 特開平11-206099号公報
甲第1号証の5には、「N極の磁極とS極の磁極が交互に並ぶシャフト形状の界磁マグネットと、該界磁マグネットが貫通するリング状コイルからなる電機子コイルとを含み、該界磁マグネット及び電機子コイルのうち片方が可動子とされるシャフト型リニアモータであり、前記電機子コイルへの通電に伴う発熱に起因する前記界磁マグネット及び電機子コイルのうち少なくとも一方の蓄熱を抑制する蓄熱抑制装置が付設されているシャフト型リニアモータ。」について記載されている。

(2-3)甲第1号証の9 特開2000-078827号公報
甲第1号証の9には、「床面に据え付けた基台上面中央部に長手方向に沿って支持枠を介してシャフト(磁石)を適宜高さに固定配設し、そのシャフトの両側で基台上面両側部の対称位置に長手方向に沿って側面外部にV形切欠摺動面を形成した適宜高さの一対のガイドレ-ルを前記V形切欠摺動面を外側にして固定配設し、前記シャフトの外周面に、励磁コイルを筒体外面に巻装したコイルボビンを遊嵌し、そのコイルボビンの両端鍔部上面に機械要素等の搬送部材を搭載するコ字形断面のガイドホルダ-を固定配設するとともに、そのガイドホルダ-をその上部下面と両側部内面に配設した木質系多孔質炭素材料のウッドセラミックスからなる上部摩擦体と両側部摩擦体を介して前記一対のガイドレ-ルの上部摺動面及び側面外部のV形切欠摺動面に摺動自在に嵌合せしめた無潤滑リニアパルスモ-タ。」について記載され、【図1】によれば、基台の両側面には上方へ向かってカバーが設けられ、リニアパルスモータ全体を覆っていることが示されている。

(2-4)甲第1号証の10 特開2003-025419号公報
甲第1号証の10には、「ブロー成形金型を開閉作動させる型開閉部材と、該型開閉部材に対して型締方向に移動可能に設けられた金型保持部材と、該金型保持部材を型締め方向に押圧する可動板と、該可動板の背面に圧力流体を導入し、該可動板を介して前記金型保持部材を型締め方向に押圧する圧力流体導入手段とを備えたブロー成形機の型増締装置において、前記可動板と前記金型保持部材との間に断熱シートを介在させたブロー成形機の型増締装置。」について記載されている。

(2-5)甲第1号証の11 特開2002-238238号公報
甲第1号証の11には、「交互に極性が異なる複数の永久磁石を隣り合わせに並べて配置した界磁ヨークよりなる固定子と、前記界磁ヨークの長手方向に沿って前記永久磁石の磁石列と磁気的空隙を介して対向配置されると共にコアに電機子コイルを巻装した電機子よりなる可動子と、前記固定子または前記可動子より生じる熱を外部に放熱できるよう熱交換する冷却ユニットとを備えたリニアモータの冷却装置において、前記電機子の上部の長手方向に沿って配設された前記電機子を取り付けるための電機子取付板と、前記電機子取付板の両側に断熱板を介して取り付けた負荷を搭載するためのテーブルとが備えられ、前記冷却ユニットは、前記テーブルとの間に空間を介して設けられ、かつ、前記電機子取付板と前記テーブルの間に挟み込むように設けられたブロック状の高熱伝導部材で形成されており、前記冷却ユニットの内部には複数のヒートパイプが設けられると共に、前記ヒートパイプの放熱側が配置される外周面にフィンを有するヒートシンクが設けられているリニアモータの冷却装置。」について記載されている。

(2-6)甲第1号証の12 特開2000-335500号公報
甲第1号証の12には、以下のとおり記載されている。
(あ)特許請求の範囲の請求項1
「基体と、該基体の外側に配置され、長穴を有するラジエイタパネルと、
前記基体と前記ラジエイタパネルとの間に介装されるスペーサと、
前記スペーサの近傍において前記基体に立設され、前記ラジエイタパネルの前記長穴に挿入され、前記スペーサの線膨張係数と異なる線膨張係数を有する棒状締結手段とで構成されることを特徴とする断熱構造。」
(い)発明の詳細な説明の段落【0014】
「図1及び図2は、本発明にかかる断熱構造の宇宙航行体の打ち上げ前の状態を示す断面図であって、この断熱構造10は、基体としての構体パネル1と、長穴2aを有するラジエイタパネル2と、スペーサとしての断熱カラー3と、断熱ワッシャ4と、棒状締結手段としてのボルト5とで構成される。

(う)【図1】ないし【図6】によれば、構体パネル1、スペーサとしての断熱カラー3、長穴2aを有するラジエイタパネル2、断熱ワッシャ4の順で重ね、ボルト5で締結する構造が示されている。
以上によれば、甲第1号証の12には、
「構体パネル1とラジエイタパネル2を断熱する断熱構造において、基体としての構体パネル1と、スペーサとしての断熱カラー3と、長穴2aを有するラジエイタパネル2と、断熱ワッシャ4とを、この順で重ね、棒状締結手段としてのボルト5で締結した断熱構造。」との発明(以下、「甲1の12発明」という。)が開示されている。

(2-7)甲第2号証 事実実験公正証書(謄本)
甲第2号証は、公証人池田眞一によって作成され、甲第2号証に添付の別紙2ないし別紙4の内容が平成21年11月10日にインターネット上に公開されているものであることが記載されている。
そして、その別紙2によれば、2002年発行と推認されるCopley Controls社のリニアモータ(ThrustTube Modules)のカタログの内容が示され、また、その別紙3によれば、同社のM25 Moduleの構造を示すPDFファイル(DR00001)の内容が、別紙4によれば、同社のM38 Moduleの構造を示すPDFファイル(DR00002)の内容が示されている。

(2-8)甲第3号証 Linear Drives Limited のウェブサイトに掲載されていた 「Standard Range ThrustTube Modules」のカタログの抜粋 2001年発行と推認される甲第3号証によれば、甲第2号証の別紙2に記載されたCopley Controls社のリニアモータ(ThrustTube Modules)と同様の、Linear Drives Limited社のリニアモータ(ThrustTube Modules)が示されている。

(2-9)甲第4号証 THK(株)作成の「リニアモータアクチュエータ、ロツドタイプ」と題するカタログの写し
2002年10月13日に発行された甲第4号証によれば、甲第2号証の別紙2に記載されたCopley社のリニアモータ(ThrustTube Modules)と同型のリニアモータアクチュエータが示されている。
また、その表紙及び第3頁等には、「Type P」としてカバーのあるリニアモータアクチュエータが、「Type M」、「Type K」としてカバーのないものが示されている。

(2-10)甲第5号証 特開2001-169529号公報
甲第5号証には、以下のとおり記載されている。
(あ)特許請求の範囲
「【請求項1】軌道に沿って移動可能に設けられ、リニアモータにより駆動される移動体であって、
前記軌道との間に磁界を発生させて該移動体に推力を付与するコイルと、
前記コイルを支持する支持部材と、
所定の作業を行う作業実行手段を保持する作業用保持部材と、
前記作業用保持部材と前記支持部材とを結合する結合機構とを具備し、
前記結合機構は、前記作業用保持部材と前記支持部材との間に空間を形成した状態で両者を結合することを特徴とする移動体。
【請求項2】前記結合手段は、前記作業用保持部材と前記支持部材との間に部分的に配置されるスペーサを有しており、これにより前記作業用保持部材と前記支持部材との間に空間を形成するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の移動体。
【請求項3】前記スペーサは、前記作業用保持部材および前記支持部材よりも熱伝導率の低いものであることを特徴とする請求項2に記載の移動体。
【請求項4】前記作業用保持部材および前記支持部材のいずれか一方の部材には、他方の部材と対向する位置に他方の部材側に突出する突起が形成されており、この突起を他方の部材に接触させることにより、前記作業用保持部材と前記支持部材との間に空間を形成するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の移動体。
【請求項5】前記作業用保持部材および前記支持部材のいずれか一方の部材には、他方の部材と対向する位置に他方の部材側に突出する突起が形成されており、
前記突起と前記他方の部材との間に配置され、前記支持部材および前記作業用保持部材よりも熱伝導率の小さい平板状の断熱部材をさらに具備し、
前記断熱部材と前記一方の部材との間に空間を形成するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の移動体。
【請求項6】請求項1ないし5のいずれかに記載の移動体と、
前記移動体を案内支持する軌道とを具備することを特徴とする移動体システム。」
(い)発明の詳細な説明の段落【0018】
「移動体21は、大別すると、箱状のレール20の内部に配置され、上記二次側コア22とともに磁界を発生してこの移動体21に推力を付与する磁界発生機構24と、磁界発生機構24の上方に配置され、半導体部品実装ヘッドなど所定の作業を実行する機器などを搭載する作業用保持部材25と、磁界発生機構24と作業用保持部材25とを連結する結合機構26とを備えている。」
(う)発明の詳細な説明の段落【0023】?【0024】
「ここで、図5は結合機構26による磁界発生機構24と作業用保持部材25の結合構造を示す分解斜視図である。同図に示すように、この結合機構26は、複数のボルト30を有しており、このボルト30により作業用保持部材25と支持部材29とを結合している。また、これらのボルト30は、作業用保持部材25と支持部材29の間に配置される円筒状のスペーサ31に挿通させられている。これにより、スペーサ31が支持部材29の上面と作業用保持部材25の下面との間に介在した状態で作業用保持部材25と支持部材29が結合され、作業用保持部材25の下面と支持部材29の上面の間に空間Sが形成されるようになっている。
この構成の下、この移動体システムでは、上述したように移動体21のコイル28に順次電流を供給することにより、一次側コア27およびコイル28と二次側コア22との間に磁界が発生し、これにより移動体21に推力が付与され、移動体21が移動する。このとき、電流が供給されたコイル28は発熱することになる。コイル28の発した熱は、コイル28が券回される一次側コア27を介して支持部材29に伝達される。そして、支持部材29に伝達された熱はその上面側にも伝達されるが、本実施形態では、上記のように支持部材29の上面と作業用保持部材25の下面との間にスペーサ31が介在させられ、両者の間に空間Sが形成されている、つまり熱伝導率の小さい空気が両者の面間に介在させられている。このため、図1に示した従来の構造のもの比較して、支持部材29から作業用保持部材25への熱の伝達を大幅に低減することができ、作業用保持部材25の温度上昇を抑制することができる。この際、上記スペーサ31として、一般的に鉄が用いられる支持部材29や作業用保持部材25よりも熱伝導率の小さい断熱材を用いるようにすれば、その効果がより顕著になる。また、移動体21が移動した場合、この空間S内の空気が移動体21に対して相対的に流れることになり、空冷効果が得られ、磁界発生機構24や作業等保持部材25の両者を同時に冷却することができる。従って、作業用保持部材25上に熱に弱いロボットや部品などを搭載した場合にも、ロボットや部品などがコイル28の発した熱に起因して損傷したりすることを低減できる。また、作業用保持部材25に伝達される熱が少なく、また上述したような冷却効果も得られるため、作業用保持部材25の熱変形を低減できる。従って、作業用保持部材25の変形に起因する実装ヘッド等の装置の精度の低下を低減することができる。」
(え)発明の詳細な説明の段落【0034】
「また、上記のように支持部材29の上面に凹凸形状を設けた場合、図9に示すように、その凸部と作業用保持部材25の間に、支持部材29や作業用保持部材25よりも熱伝導率の小さい断熱シート200を介在させるようにしてもよい。このようにした場合、上記実施形態と同様に複数の空間Sが形成されるとともに、作業用保持部材25と支持部材29との間に熱伝導率の小さい断熱シート200が介在させられることになる。従って、作業用保持部材25の温度上昇をさらに低減することができる。」
以上によれば、甲第5号証には、
「リニアモータにより駆動されるコイル28を備えた移動体であって、コイル28の発した熱が支持部材29から機器などを搭載する作業用保持部材25に伝達されるのを防止するため、断熱材からなるスペーサ31、又は、断熱シート200を支持部材29の上面と作業用保持部材25の下面との間に介在させ、ボルト30で一体に締結した移動体。」
との発明(以下、「甲5発明」という。)が開示されている。

(2-11)甲第6号証の1 特開2002-112525号公報
甲第6号証の1には、「可動子と固定子とからなるリニアモータにおいて、前記可動子の鉄心の中央に設けられた放熱部材の端部に放熱フィンを形成したリニアモータ。」について記載されている。

(2-12)甲第6号証の2 平成16年1月9日付拒絶理由通知書
甲第6号証の2には、甲第6号証の1に係る特許出願(特願2000-300338号)に対して通知された、平成16年1月9日付けの拒絶理由が示されている。

(2-13)甲第7号証 Drives & Controls UK newsの写し及びその訳文
甲第7号証には、Copley Controls社がLinear Drives社を買い取りその事業を引き継いでいることについて記載されている。

(2-14)甲第8号証 「温度測定実験について」の陳述書(1)
甲第8号証は、須田正博によって作成されたもので、同人の行った、リニアモータ式単軸アクチュエータに関する温度測定実験について記載されている。

(2-15)甲第9号証 大塚二郎の平成22年7月13日付け陳述書
甲第9号証は、大塚二郎によって作成されたもので、須田正博によって行われた温度測定実験が、第三者の視点からみて、その実験方法は実験目的に合致しており、かつ科学的に正しい方法であり、実験結果の信頼性が高いものであり、そして考察に関しては充分に納得できる内容であることが記載されている。

(2-16)甲第10号証 「温度変化と検出精度についての補論」陳述書(2)
甲第10号証は、須田正博によって作成されたもので、温度変化と検出精度についての補論が記載されている。

(2-17)甲第11号証 「甲第2号証(引用例1)について」の報告書
甲第11号証は、片山史英によって作成されたもので、インターネットアーカイブによれば、請求人が提出した甲第2号証(平成21年11月10日付け事実実験公正証書)の別紙2(Copley controls社の「ThrustTube Modules ThrustBlock Range」のカタログ内容(QM0007.PDF))は平成14年(2002年)9月にはインターネット上に公開されていたのであり、また、Copley Controls社のウェブページ内のPDFファイル(DR0001.pdf)、Copley Controls社のウェブページ内のPDFファイル(DR0002.pdf)は平成14年(2002年)2月15日にはインターネット上に公開されて公衆に利用可能となったものであることが記載されている。

(2-18)甲第17号証 「雰囲気温度の変化が与える影響について」の陳述書(3)
甲第17号証は、須田正博によって作成されたもので、雰囲気温度の変化が与える影響について記載されている。

(2-19)甲第18号証 大塚二郎の平成22年8月30日付け陳述書
甲第18号証は、大塚二郎によって作成されたもので、須田正博によって行われた温度測定実験が、第三者である専門家の視点からみて、その実験方法は実験目的に合致しており、かつ科学的に正しい方法であり、実験結果の信頼性が高いものであり、そして考察に関しては充分に納得できる内容であることが記載されている。

(2-20)甲第19号証 SCOTT PLEVA(スコットプリーバ)のAFFIDAVIT(宣誓供述書)及びその訳文
甲第19号証は、リンダ・ハゲットにより作成されたもので、スコット・プリーバが、
「私は、M25及びM38モジュールのそれぞれの図面(それぞれDR00001及びDR00002と番号が付されています。)も別紙SP2及びSP3として本書に添付します。これらの図面は、顧客が正しくモジュールを据え付けることができるようにするためにCopley Motion Systems社のウェブサイトから利用可能だったものです。これらの図面の以前のバージョン(その例はURL:http://web.archive.org/web/*/http://copleycontrols.com/、リンク2002年10月17日又は11月21日、“モーションコントロールシステムズ(MotionControlSystems)”、トップメニュー“ダウンロード(Downloads)”、“モジュール(Modules)”、“機械図面(MechnicalDrawings)”(それぞれDR0001及びDR0002の番号で示されています。)から跡を辿ることができます。(現在ではこのウェブサイトから図面そのものを入手することはできませんが))は、Copley Motion Systems社及びLinear Drives社の両社から、紙の図面及びウェブサイト上の図面の形式で、公衆が利用可能となっていました。顧客は、これらの図面の内容又はモータの構成を秘密に保持する必要はありませんでした。これらの図面は私がCopley Motion Systems社を退職した後の2003年1月20日付のものですが、これらの図面と、私が同社を退職したときに公衆に利用可能となっており販売されていたモジュールの図面の以前のバージョン(その例は別紙SP1に簡略な形で示されております。)との間の違いは瑣末なものです。主な構造は同一であり、特にスラストチューブ(ThrustTube)モジュール(スラストブロック(ThrustBlock))が多数の放熱フィンを一体として一方の側面に有し、他方の側部にリニアエンコーダを有しているという点は、別紙SP2及びSP3に示されているとおり、変更されておりません。」
と、宣誓供述したことが記載されている。
そして、別紙SP1(スラストチューブリニアサーボモータの広告資料)、別紙SP2(図面 番号 DR00001)、別紙SP3(図面 番号 DR00002)が添付されており、これらによれば、別紙SP1の内容は、甲第2号証の別紙2(Copley Controls社のリニアモータ(ThrustTube Modules)のカタログ)と同じであり、別紙SP2の内容は、甲第2号証の別紙3と同じであり、別紙SP3の内容は、甲第2号証の別紙4と同じであることが、示されている。

(2-21)甲第20号証 平成21年(ワ)第7821号事件(関連侵害訴訟)の原告第5準備書面の写し
甲第20号証は、被請求人が関連する関連侵害訴訟(平成21年(ワ)第7821号)において提出した準備書面であり、本件特許発明2に関し、被告準備書面(5)に対する反論が記載されている。

(2-22)甲第21号証 平成21年(ワ)第7821号事件(関連侵害訴訟)の加茂川良の陳述書の写し
甲第21号証は、加茂川良によって作成されたもので、リニアモータ式単軸ロボットにおける可動ブロック周りの雰囲気温度の測定実験について記載されている。

(2-23)甲第22号証 平成21年(ワ)第7821号事件(関連侵害訴訟)の中山顕の陳述書の写し
甲第22号証は、中山顕によって作成されたもので、加茂川良によって行われた実験は陳述書に記載のとおりであり、実験の目的に照らして適正なものであり、実験結果は信頼性が高いものであり、そして考察に関しては充分に納得できる内容であり、疑義の生じるものではないことが記載されている。

(2-24).甲第23号証 SCOTT PLEVA(スコット・プリーバ)の2011年4月20日付AFFIDAVIT(宣誓供述書)及びその訳文
甲第23号証には、スコット・プリーバの学歴および職歴、特に同氏がLinear Drives Limited社においてスラストチューブリニアサーボモータを実際に設計したこと、Linear Drives Limited社からCopley Motion Systems 社に引き継がれた後も同モータの開発に携わっていたこと、引用例1が本件特許出願前に頒布されたものであること、または通信回線を通して公衆に利用可能となったものであること、および本件特許出願前に頒布された刊行物に記載されたスラストチューブモジュールなるリニアサーボモータの構造について、宣誓供述したことが記載されている。

(2-25)甲第24号証 Keith Dennis Lewis Beresford (キース・デニス・ルイス・ベレスフォード)の2011年4月20日付AFFIDAVIT(宣誓供述書)及びその訳文
甲第24号証には、英国におけるAFFIDAVITの法律上の位置付け、および偽証した場合の刑罰について、キース・デニス・ルイス・ベレスフォードが宣誓供述したこと記載されている。

(3)引用例1について
請求人が審判請求書において引用例1として示した先行技術についてまとめると、以下のとおりである。
甲第2号証の別紙2ないし4によって、現在閲覧可能なPDFファイルQM0007.pdf・DR00001.pdf・DR00002.pdfの内容が示されている。
一方、甲第11号証によって、インターネットアーカイブによれば、平成14年(2002年)2月15日に公開されたPDFファイルは、DR0001.pdf・DR0002.pdfであることが示されている。
また、甲第19号証によって、甲第2号証の別紙3、4に示された現在閲覧可能なPDFファイル、DR00001.pdf・DR00002.pdfの内容と、平成14年(2002年)2月15日に公開されたPDFファイル、DR0001.pdf・DR0002.pdfの内容とは、表示されたスラストチューブモジュールの主な構造については同一であることが示されている。
したがって、甲第2号証の別紙3、4に示された内容である、スラストチューブモジュールの主な構造は、平成14年(2002年)2月15日に公開されていたことになる。
そして、甲第2号証の別紙2ないし4の図面と説明書きによれば、ここに示されたスラストチューブモジュール(ThrustTube Modules)は、リニアガイド(Profile Rail Bearing System)を取付けたベース部と平行に伸びる円柱状の永久磁石ロッド(Magnetic Thrust Rod)がベース部の端部に設けられた端部支持部(End Support)に端部を固定支持され、リニアガイドに案内されて軸方向に移動するスラストブロック(Thrust Block)に密閉コイル(Fully Enclosed Coils)が備えられ、断面図A-Aから、密閉コイルは永久磁石ロッドを取り囲むように配置されているものであることがわかる。
このような構造から、このスラストチューブモジュールは、密閉コイルに流された電流により、密閉コイルと永久磁石ロッドとの間に推力(thrust)が発生するものであることは明らかであり、スラストブロックの位置検出のための、エンコーダースケール(Enclosed Encoder Scale)、ホール素子(Integral Digital or Analogue Hall Effect PCB)、リニアエンコーダー(Linear Encoder)も、リニアガイドの側方に示されている。
さらに、スラストブロックには、機器支持面(Mounting Surface with Integral 'Tee' slots and Dowel Holes)が形成され、機器取付のためのTスロット(図示X2)や位置決め穴(φ5Holes on Thrust Block center line)も示されている。このスラストブロックには一体冷却フィン(Integral Heatsink Fins)も形成されている。
リニアガイドと永久磁石ロッドが固定側の本体に取り付けられていることも明らかである。
これらを本件特許発明に照らして整理すると、平成14年(2002年)2月15日に公開されたPDFファイルには引用例1として以下の発明が示されている。

「本体と、スラストブロックとを備えるスラストチューブモジュールであって、
上記本体は、永久磁石を軸方向に配列した円柱状の永久磁石ロッドと、この永久磁石ロッドの端部を支持する端部支持部と、この永久磁石ロッドと平行に配置されたリニアガイドとが設けられるベース部からなり、
上記スラストブロックは、上記リニアガイドに摺動可能に支持されて上記本体に対して一定方向に直線的に移動可能であり、上記永久磁石ロッドを取り囲む密閉コイルを装備し、機器支持面が設けられており、
さらに、上記スラストブロックには、その一側部に、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのリニアエンコーダーが配置されるとともに、このリニアエンコーダー配置側、及び、その反対側の側面部に、一体冷却フィンが形成されているスラストチューブモジュール。」
(以下、これを「引用例1発明」という。)

(4)判断

ア.無効理由1について

請求人の主張する無効理由1は、引用例1発明に甲5発明を適用することにより、本件特許発明1は、当業者が容易に発明できたものであるというものである。
そこで、本件特許発明1と引用例1発明とを比較すると、永久磁石を軸方向に配列したシャフト状のステータ部と、可動部材にステータ部を囲繞するコイルを備え、コイルに電流を流し、発生したスラスト力で可動部材を移動させるリニアモータ式単軸ロボットである点で、両者は基本的に共通している。
そして、後者の「スラストブロック」は、前者の「可動部材」に、後者の「永久磁石ロッド」は、前者の「ステータ部」に、後者の「密閉コイル」は、前者の「コイル」に、後者の「一体冷却フィン」は、前者の「放熱フィン」に、後者の「リニアエンコーダー」は、前者の「ヘッド」に、それぞれ相当することは、これらの構成要件の作用・効果から明らかである。
また、「リニアガイド」は、両者に共通している。

したがって、両者の一致点・相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「ロボット本体と、該ロボット本体に対して一定方向に直線的に移動可能な可動部材とを備え、
上記ロボット本体には、永久磁石を軸方向に配列したシャフト状のステータ部と、このステータ部と平行に配置されたリニアガイドとが設けられ、
上記可動部材には、ステータ部を囲繞するコイルを装備して、上記リニアガイドに摺動可能に支持された可動ブロックとが設けられているリニアモータ式単軸ロボットであって、
上記可動ブロックには、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに、放熱フィンが形成されているリニアモータ式単軸ロボット。」

<相違点1>
本件特許発明1は、可動ブロックに連結された「作業部材取付用のテーブルが設けられ」、「上記テーブルが上記可動ブロックに対し、両者間に断熱材からなる断熱プレートを介在させた状態で連結されて」いるのに対して、引用例1発明はスラストブロックに直接、「機器支持面」を形成している点。

<相違点2>
本件特許発明1は、「可動ブロックには、その一側部に、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに、このヘッド配置側とは反対側の側面部に、多数の放熱フィンが形成されている」のに対し、引用例1発明はスラストブロックには、その一側部に、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのリニアエンコーダーが配置されるとともに、このリニアエンコーダー配置側、及び、その反対側の側面部に、一体冷却フィンが形成されている点。

<相違点1>について検討する。
甲5発明には、「リニアモータにより駆動されるコイル28を備えた移動体であって、コイル28の発した熱が支持部材29から作業用保持部材25に伝達されるのを防止するため、断熱材からなるスペーサ31、又は、断熱シート200を支持部材29の上面と作業用保持部材25の下面との間に介在させ、ボルト30で一体に締結した移動体。」が示されている。
そして、甲5発明の「コイル28」、「支持部材29」は、本件特許発明1の「コイル」、「可動ブロック」に相当し、甲5発明の「作業用保持部材25」は、機器などを搭載するものであるから本件特許発明1の「作業部材取付用のテーブル」に相当している。
また、作業部材にコイルからの熱が伝わるのを防止する点でも、甲5発明のコイル28の発した熱が支持部材29から作業用保持部材25に伝達されるのを防止する点に相当することが明らかである。

以上のとおりであるから、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項は甲5発明に示されているということができ、リニアモータなどのモータ技術においては、熱の発生に対応して手当することは通常行われることであるから、引用例1発明に甲5発明を組み合わせることは当業者が容易に想到し得たものであり、また、これらを組み合わせるにあたっての阻害要因があるとすることもできない。
してみれば、相違点1に係る発明特定事項の違いは、引用例1発明に甲5発明を組み合わせたにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。

<相違点2>について検討する。
相違点2は、本件特許発明1の構成要件Eであり、この構成要件Eには、「ヘッド配置側とは反対側の側面部に、多数の放熱フィンが形成されている」との点はあるものの、ヘッドが配置された「一側部」にも放熱フィンが形成されているかどうかについては特定されていない。
被請求人はこの点について、「構成要件Eは,『上記可動ブロックには、その一側部に、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに、このヘッド配置側とは反対側の側面部に、多数の放熱フィンが形成されている』と記載されており,可動ブロックにおけるヘッド配置側とは『反対側』の側面部にその位置を限定したうえで,『多数の放熱フィン』を要求する。裏を返せば,ヘッド配置側の側面部においては,『多数の放熱フィン』が存在してはならないということ,つまり,放熱フィンが存在しないか又は形成される放熱フィンが多数ではないことを意味するものである。」(審判事件答弁書第5頁第15?22行)と主張し、構成要件Eを、ヘッド配置側の「一側部」においては,「多数の放熱フィン」が存在してはならないということ、つまり、放熱フィンが存在しないか又は形成される放熱フィンが多数ではないと解釈すべきであるとし、口頭審理においても、同様の主張をしている(第一回口頭審理調書、被請求人の陳述の要領3)。
しかしながら、構成要件Eは、前記の通り「一側部」に、ヘッドが配置され、「反対側の側面部」に、放熱フィンが形成されていると限定しているのみであり、「一側部」側の放熱フィンについては何ら限定しているものではなく、ヘッドが配置された「一側部」側に放熱フィンが形成されたものを含んでいる。
このような観点で引用例1をみれば、引用例1発明のリニアエンコーダーが配置された側(スラストブロックの、断面図A-Aにおける右側)が、本件特許発明1の「一側部」に相当し、反対側(スラストブロックの、断面図A-Aにおける左側)が本件特許発明1の「反対側の側面部」に相当するものであり、この側、つまり反対側の側面部には、「一体冷却フィン」が多数形成されているから、この点は、本件特許発明1の「ヘッド配置側とは反対側の側面部に、多数の放熱フィンが形成されている」点に相当する。

また、引用例1を子細にみると、スラストブロックのリニアエンコーダーが配置された側には、密閉コイルに電力を供給するためのケーブルを引き込むためのケーブルアクセスカバーが設けられ、スラストブロックの移動方向を前後方向としたときの左右方向からみた場合、そのケーブルアクセスカバーの位置は一体冷却フィンの中にあり、そのケーブルアクセスカバーの面積分、リニアエンコーダーが配置された側の一体冷却フィンの面積が減少しているから、構成要件Eを、被請求人が主張するように、ヘッド配置側の「一側部」においては、放熱フィンが「形成される放熱フィンが多数ではない」のように解釈したとしても、引用例発明1は、そのような構成を開示しているということができる。

以上のとおりであるから、相違点2は、実質的な相違点ではない。

したがって、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

イ.無効理由3について

請求人の主張する無効理由3は、引用例1発明に甲5発明、及び、甲1の12発明を適用することにより、本件特許発明2も、当業者が容易に発明できたものであるというものである。

そこで、本件特許発明2と引用例1発明とを比較すると、従属形式の本件特許発明2で新たに加わった発明特定事項は、「上記テーブル及び断熱プレートが一括に締結部材により上記可動ブロックに連結され、その締結部材と上記テーブルとの間に断熱材からなる断熱ワッシャーが介装されている。」というものであるから、本件特許発明2と引用例1発明は、前記一致点で一致し、前記相違点1、及び、相違点2に加えて、以下の点で相違している。

<相違点3>
本件特許発明2は、「上記テーブル及び断熱プレートが一括に締結部材により上記可動ブロックに連結」されるのに対して、引用例1発明はそうではない点。

<相違点4>
本件特許発明2は、「その締結部材と上記テーブルとの間に断熱材からなる断熱ワッシャーが介装」されているのに対して、引用例1発明はそうではない点。

<相違点1>、<相違点2>については、上記ア.で示したとおりである。

<相違点3>について検討する。
甲5発明において、「リニアモータにより駆動されるコイル28を備えた移動体であって、コイル28の発した熱が支持部材29から作業用保持部材25に伝達されるのを防止するため、断熱材からなるスペーサ31、又は、断熱シート200を支持部材29の上面と作業用保持部材25の下面との間に介在させ、ボルト30で一体に締結した移動体。」が示されている。
以上のとおりであるから、相違点3に係る本件特許発明2の構成は甲5発明に示されているということができ、リニアモータなどのモータ技術においては、熱の発生に対応して手当することは通常行われることであるから、引用例1発明に甲5発明を組み合わせることは当業者が容易に想到し得たものであり、また、これらを組み合わせるにあたっての阻害要因があるとすることもできない。
してみれば、相違点3に係る発明特定事項の違いは、引用例1発明に甲5発明を組み合わせたにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。

<相違点4>について検討する。
甲1の12発明において、「構体パネル1とラジエイタパネル2を断熱する断熱構造において、基体としての構体パネル1と、スペーサとしての断熱カラー3と、長穴2aを有するラジエイタパネル2と、断熱ワッシャ4とを、この順で重ね、棒状締結手段としてのボルト5で締結した断熱構造。」が示されている。
甲1の12発明の「ボルト5」は、本件特許発明2の「締結部材」に、「断熱ワッシャ4」は、「断熱ワッシャー」に相当するということができ、断熱構造の限りで見れば、甲1の12発明の「ラジエイタパネル2」は、熱を伝えたくない部材という点で、本件特許発明2の熱を伝えたくない「テーブル」に相当するものといえる。
以上のとおりであるから、相違点4に係る本件特許発明2の構成は甲1の12発明に示されているということができ、リニアモータなどのモータ技術においては、熱の発生に対応して手当することは通常行われることであるから、引用例1発明に甲1の12発明を組み合わせることは当業者が容易に想到し得たものであり、また、これらを組み合わせるにあたっての阻害要因があるとすることもできない。
してみれば、相違点4に係る発明特定事項の違いは、引用例1発明に甲1の12発明を組み合わせたにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。

したがって、本件特許発明2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6.無効理由についての結論

以上のとおりであるから、本件特許発明1、2は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。

第7.付記

上記第2.訂正の可否についての判断 で述べたとおり、本件の「訂正の請求」は認められないものであるが、仮に、訂正事項2が、特許時明細書等に記載の範囲内のものであり、この訂正請求が認められるものであるとしても、本件訂正発明1、2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
以下、この点について述べる。

(1)本件訂正発明について

本件訂正が認められた場合、本件訂正発明1、2は、上記第2.(2)訂正後の特許請求の範囲 に記載のとおりのものとなる。

(2)甲各号証について

請求人の提出した甲各号証の記載、及び、引用例1発明の記載内容は、上記第5.(2)甲各号証について、及び、(3)引用例1について に記載のとおりである。

(3)判断

ア.無効理由1について

請求人の主張する無効理由1は、引用例1発明に甲5発明を適用することにより、本件訂正発明1は、当業者が容易に発明できたものであるというものである。
そこで、本件訂正発明1と引用例1発明とを比較すると、永久磁石を軸方向に配列したシャフト状のステータ部と、可動部材にステータ部を囲繞するコイルを備え、コイルに電流を流し、発生したスラスト力で可動部材を移動させるリニアモータ式単軸ロボットである点で、両者は基本的に共通している。
そして、後者の「スラストブロック」は、前者の「可動部材」に、後者の「永久磁石ロッド」は、前者の「ステータ部」に、後者の「密閉コイル」は、前者の「コイル」に、後者の「一体冷却フィン」は、前者の「放熱フィン」に、後者の「リニアエンコーダー」は、前者の「ヘッド」に、それぞれ相当することは、これらの構成要件の作用・効果から明らかである。
さらに、後者の「ベース部」についてみると、その向きが、スラストブロックの移動方向と同じであることは明らかであるので、これは、前者の「一軸方向に延びるベース部」に、相当するものである。
また、「リニアガイド」は、両者に共通しており、後者の「リニアガイドがベース部に設けられる」点は、前者の「ベース部上であって上記ステータ部と平行に配置されたリニアガイドが設けられる」点に相当している。

したがって、両者の一致点・相違点は以下のとおりである。

<本件訂正発明1の一致点>
「ロボット本体と、該ロボット本体に対して一定方向に直線的に移動可能な可動部材とを備え、
上記ロボット本体には、一軸方向に延びるベース部と、永久磁石を軸方向に配列したシャフト状のステータ部と、上記ベース部上であって、上記ステータ部と平行に配置されたリニアガイドとが設けられ、
上記可動部材には、ステータ部を囲繞するコイルを装備して、上記リニアガイドに摺動可能に支持された可動ブロックが設けられているリニアモータ式単軸ロボットであって、
上記可動ブロックには、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに、放熱フィンが形成されているリニアモータ式単軸ロボット。」

<本件訂正発明1の相違点1>
本件訂正発明1は、ロボット本体には、「ベース部の両側部から上方に突出して該ロボット本体の側壁部を構成する一対のカバー部材」が設けられ、ステータ部は、「これらの一対のカバー部材間において上記一軸方向に延び」るものであるのに対して、引用例1発明では、そのようなカバー部材が設けられていない点。

<本件訂正発明1の相違点2>
本件訂正発明1は、可動ブロックに連結された「作業部材取付用のテーブルが設けられ」、「上記テーブルが上記可動ブロックに対し、両者間に断熱材からなる断熱プレートを介在させた状態で連結されて」いるのに対して、引用例1発明はスラストブロックに直接、「機器支持面」を形成している点。

<本件訂正発明1の相違点3>
本件訂正発明1は、「上記可動ブロックには、その一側部であって、上記カバー部材との間に、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに、このヘッド配置側とは反対側の側面部にのみ多数の放熱フィンが形成されている」のに対し、引用例1発明は、スラストブロックには、その一側部に、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのリニアエンコーダーが配置されるとともに、このリニアエンコーダー配置側、及び、その反対側の側面部に、一体冷却フィンが形成されているものではあるものの、可動ブロックの一側部であって、「カバー部材との間に」、リニアエンコーダーが配置されてはおらず、リニアエンコーダー配置側とは反対側の側面部に「のみ」多数の放熱フィンが形成されているかは、必ずしも明らかでない点。

<本件訂正発明1の相違点1>について
本件訂正発明1の相違点1に係るような「カバー部材」を設けることは、この種のロボットにおいても周知のものであり、これは、例えば甲第1号証の9、甲第4号証にも示されている。
してみれば、本件訂正発明1の相違点1に係る発明特定事項の違いは、引用例1発明に周知事項を適用したにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。

<本件訂正発明1の相違点2>について
本件訂正発明1の相違点2は、上記第5.(4)判断 で述べた<相違点1>と同様であり、同項で述べた判断と同様である。
してみれば、本件訂正発明1の相違点2に係る発明特定事項の違いは、引用例1発明に甲5発明を組み合わせたにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。

<本件訂正発明1の相違点3>について
本件訂正発明1の相違点3に係る発明特定事項のうち、上記可動ブロックには、その一側部であって、上記カバー部材との間に、ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置される点についてみると、カバー部材を備えたロボットであれば、カバー部材の外側にヘッドを配置することはあり得無いものであり、可動ブロックにヘッドを配置するならば、必然的に、ヘッドの位置は、可動ブロックの側面部と、「カバー部材との間」になるものであるから、この点は、カバー部材を採用することによって生ずる自明事項の限定にすぎないものである。
本件訂正発明1の相違点3に係る発明特定事項の残りの点、「このヘッド配置側とは反対側の側面部にのみ多数の放熱フィンが形成されている」点についてみると、被請求人は、平成23年2月10日付け訂正審判請求書の7.請求の理由の、(5)本件訂正発明の独立特許要件の充足性についての、(iii)本件訂正発明の独立特許要件の、b)本件訂正発明の各号証記載の発明との対比の、○1ヘッド配置側の側面部の構成がより一層明確になったこと において、
「本件訂正で構成要件2-Eに「のみ」との文言が追加されたことによって、ヘッド配置側の側面部においては、放熱フィンが存在しないか又は形成される放熱フィンが多数ではないことを要求していることがより一層明らかとなった。そして、各号証記載の発明において、ヘッド配置側の側面部において、放熱フィンが存在しないか又は形成される放熱フィンが多数ではないといった構成は、開示も示唆もされていない。」
と述べ、ヘッド配置側の一側部には、「放熱フィンが存在しないか又は形成される放熱フィンが多数ではない」ものであるとしている。
そこで、「形成される放熱フィンが多数ではない」点についてみると、上記第5.(4)判断の<相違点2>について で述べたように、引用例1は、ヘッド配置側に形成されている放熱フィンが多数ではないという構成を開示している。
してみれば、本件訂正発明1の相違点3に係る発明特定事項の違いは、引用例1発明に記載された事項であり、当業者が容易に想到し得たものである。
なお、「放熱フィンが存在しない」点について言及するに、ヘッド配置側に放熱フィンを配置しないことにより、ヘッドの検出精度に悪影響を生じさせないという技術的意義を有することは、出願当初の明細書には一切記載されていないし、そもそも、「放熱フィンが存在しない」という構成自体、明確に示されているともいえない。それにも関わらず、本件訂正発明1にそのような技術的意義があると理解できるということであれば、それは「放熱フィンが存在しない」構成を採用することが、当業者にとって自明であるからにほかならない。

してみれば、本件訂正発明1の相違点3に係る発明特定事項の違いを、ヘッド配置側の一側部に「放熱フィンが存在しない」と、限定的に解釈したとしても、この点は、当業者が容易に想到し得たものであるといえる。

したがって、本件訂正発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

イ.無効理由3について

請求人の主張する無効理由1は、引用例1発明に甲5発明を適用することにより、本件訂正発明2は、当業者が容易に発明できたものであるというものである。
そこで、本件訂正発明2と引用例1発明とを比較すると、上記<本件訂正発明1の一致点>で一致し、上記<本件訂正発明1の相違点1>?<本件訂正発明1の相違点3>に加えて、以下の点で相違している。

<本件訂正発明2の相違点4>
本件訂正発明2は、「上記テーブル及び断熱プレートが一括に締結部材により上記可動ブロックに連結」されるのに対して、引用例1発明はそうではない点。

<本件訂正発明2の相違点5>
本件訂正発明2は、「その締結部材と上記テーブルとの間に断熱材からなる断熱ワッシャーが介装」されているのに対して、引用例1発明はそうではない点。

これらの相違点は、上記第5.の(4)判断のイ.無効理由3について で示した<相違点3>、<相違点4>と共通しているから、同項で述べた判断をそのまま援用でき、同様に、当業者が容易に想到し得たものである。

したがって、本件訂正発明2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

以上のとおりであるから、仮に、訂正請求が認められるものであるとしても、本件訂正発明1、2は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

第8.追記

被請求人は、平成23年6月20日付けで審理再開申立書を提出し、
(1)甲第19号証の信用性に関する請求人の主張について,被請求人に反論の機会を与える必要がある。
(2)引用例1の開示事項及び引用例1と甲5発明の組合わせ容易性等について,被請求人に主張・反論の機会を与える必要性がある。
として、審理の再会を申し立てている。
また、平成23年6月28日付け上申書とともに、平成23年6月24日付けヒュー・ピーター・ケリー氏の宣誓供述書を提出し、
(3)ケリー氏の宣誓供述書には、プリーバ氏がドライブス社における唯一の設計者ではなかったこと、同氏がリニアサーボモータの設計を担当していなかったこと等が記載されているから、プリーバ氏の宣誓供述書(甲第19号証,甲第23号証)の信用性が大きく弾劾される。
(4)引用例1と甲5発明の組合わせ容易性について、さらなる主張反論を行う予定である。
と主張している。

(1)、(3)についてみると、新たに提出されたケリー氏の宣誓供述書には、ケリー氏自身が唯一のドライブス社の創設者であること、プリーバ氏個人は研究開発や製品設計の担当ではなかったこと、プリーバ氏自身はスラストチューブ(ThrustTube)リニアサーボモータの設計を行わなかったことが宣誓供述されたことが記載されているものの、甲第19号証(スコットプリーバの宣誓供述書)によって証明された、現在閲覧可能なPDFファイル(DR00001.pdf、DR00002.pdf)と、引用例1に係るPDFファイル(DR0001.pdf、DR0002.pdf)が実質的に同じ内容であることについての言及はないから、この供述によっても、甲第19号証に係るプリーバ氏の宣誓供述書の信用性が損なわれるものではない。
甲第19号証は、そもそも、引用例1の証明力に関する補助証拠として提出されたものであり、被請求人は、引用例1に記載された発明に基づく容易想到性については、既に、十分に意見を述べることができたものである。

(2)、(4)についてみると、被請求人は、引用例1の開示事項及び引用例1と甲5発明の組合わせ容易性についての主張・反論を既にしているから、新たな主張・反論は時期に後れた主張・反論というべきものであって、被請求人に主張・反論の機会を与える必要性は見いだせない。

したがって、被請求人が審理再開申立書、及び、上申書をもって請求する反論の機会についてはその必要性を認めることができず、その他に審理を再開すべき事情も見いだせない。
 
審理終結日 2011-06-02 
結審通知日 2011-06-08 
審決日 2011-07-05 
出願番号 特願2003-136334(P2003-136334)
審決分類 P 1 113・ 121- ZB (B25J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大町 真義大山 健  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 菅澤 洋二
刈間 宏信
登録日 2008-04-04 
登録番号 特許第4105586号(P4105586)
発明の名称 リニアモータ式単軸ロボット  
代理人 椙山 敬士  
代理人 辻村 和彦  
代理人 佐藤 興  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 片山 史英  
代理人 大澤 恒夫  
代理人 市川 穣  
代理人 樋口 次郎  
代理人 牛久 健司  
代理人 小谷 悦司  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 島野 美伊智  
代理人 宇田 浩康  
代理人 藤野 睦子  
代理人 大月 伸介  
代理人 福田 あやこ  
代理人 山崎 道雄  
代理人 曽根 翼  
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