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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1263864
審判番号 不服2010-14976  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-06 
確定日 2012-09-24 
事件の表示 特願2005- 17962「生分解性樹脂組成物及び樹脂シート」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月10日出願公開、特開2006-206670〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成17年1月26日の特許出願であって,平成21年9月7日付けで拒絶理由が通知され,同年10月30日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが,平成22年4月5日付けで拒絶査定がされた。これに対して,平成22年7月6日に拒絶査定不服の審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成21年10月30日の手続補正により補正された特許請求の範囲並びに明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「10?90重量%のポリ乳酸と,90?10重量%のポリブチレンサクシネートとからなる生分解性樹脂組成物であって,前記ポリ乳酸は数平均分子量が5万?50万であり,前記ポリブチレンサクシネートはコハク酸と,1,4-ブタンジオールが何れも47?49.5モル%の範囲内の等モルと,乳酸が1?6モル%の範囲内で直接脱水重縮合させて得られた三元共縮合体であり,且つそのガラス転移点Tgが0℃以下であることを特徴とする,生分解性樹脂組成物」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,要するに,本願発明は,下記刊行物(引用文献1)に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができず,さらには,下記引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。(なお,原査定の拒絶の理由は,上述のほか,本願発明はその他の刊行物に記載された発明に対するいわゆる進歩性欠如の理由なども含む。)
引用文献1: 特開平9-272789号公報

第4 合議体の認定,判断(その1)

1 引用発明1
(1) 査定の理由に引用された本願の出願前に頒布された上記引用文献1には,次の記載がある。(下線は審決で付記。以下同じ。)
「【請求項1】 (a)脂肪族ジオール,(b)脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体,および(c)2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸またはその誘導体を共重合してなる,数平均分子量が1万?30万である脂肪族ポリエステル(A)99?1重量部と,数平均分子量が3万以上のポリ乳酸(B)1?99重量部を溶融ブレンドしたことを特徴とする脂肪族ポリエステル組成物。
【請求項2】 脂肪族ポリエステル(A)が,(b)脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体100モルに対して,(a)脂肪族ジオール100?150モル,(c)2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸またはその誘導体0.04?60モルを共重合して得られたものである,請求項1に記載の組成物。
【請求項3】 脂肪族ポリエステル(A)における(c)2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸またはその誘導体が式
【化1】 HO-CH-COOH

C_(a)H_(2a+1)
(式中,aは0または1以上の整数を示す)で表されるものである,請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】 脂肪族ポリエステル(A)における(c)2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸またはその誘導体が乳酸である,請求項1ないし3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】 脂肪族ポリエステル(A)における(a)脂肪族ジオールが1,4-ブタンジオールである,請求項1ないし4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】 脂肪族ポリエステル(A)における(b)脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体がコハク酸または無水コハク酸,あるいはこれらとアジピン酸との混合物である,請求項1ないし5のいずれか1項に記載の組成物。…」(【特許請求の範囲】)
「本発明は,実用上十分な強度を有し,かつ融点の高い脂肪族ポリエステル組成物に関するものである。さらに詳しくは,本発明は,射出成形,中空成形および押出し成形などの汎用プラスチック成形機で成形可能な脂肪族ポリエステル組成物に関するものである。本発明により,優れた物性と生分解性を兼ね備えた脂肪族ポリエステル組成物が提供可能となる。」(【0001】)
「【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は,フィルム,成形品,繊維などの各種分野に応用可能な,優れた強度と伸びを兼ね備えた,脂肪族ポリエステル組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】本発明は,(a)脂肪族ジオール,(b)脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体,(c)2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸またはその誘導体を共重合してなる脂肪族ポリエステル(A)の有する優れた柔軟性を維持しつつ,かつポリ乳酸(B)の優れた強度を付与することを目的に,脂肪族ポリエステル(A)とポリ乳酸(B)を溶融ブレンドしたところ,両者のそれぞれの欠点を補い合うことを見いだし,強度,伸びの優れた脂肪族ポリエステル組成物を得ることを達成した。」(【0004】?【0005】)
「<脂肪族ポリエステル(A)の製造> 本発明による脂肪族ポリエステル(A)は,成分(a)?(c)をポリエステル生成条件下にゲルマニウム化合物からなる触媒の存在下,反応させる方法によって製造される。脂肪族ジオール(a)の使用量は,脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体(b)に対して実質的に等モルであるが,実際の製造過程においてはエステル化反応中に留出することがあることから,脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体100モルに対して,100?150モル,好ましくは105?130モル用いられる。
本発明に使用される(c)2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸またはその誘導体の量は,脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体100モルに対し,一般に0.04?60モル,好ましくは1?20モル,より好ましくは3?10モル,である。2官能脂肪族オキシカルボン酸またはその誘導体が少なすぎると重合反応性向上効果が現れにくく高分子量ポリエステルが得難くなり,多すぎると耐熱性,強度が不十分である。」(【0020】?【0021】)
「<脂肪族ポリエステル(A)> 本発明の脂肪族ポリエステル(A)は,(a)成分および(b)成分を主要ポリエステル構成員とするものであって,その製造に際して前記した通りの配合比で原料を配合すれば,一般的に,(a)脂肪族ジオール単位と(b)脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体単位のモル比が実質的に等しくなっており,脂肪族ポリエステルの全構成成分のモル数を100モルとしたとき,(c)2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸またはその誘導体単位は,0.02?30モルである。特に(c)2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸またはその誘導体成分が乳酸である場合,ポリ乳酸(B)との相溶性が高められ,非常に好ましい。
本発明に用いられる脂肪族ポリエステル(A)の数平均分子量Mnは,一般に1万以上30万以下,通常は3万以上30万以下,である。また本発明に使用される脂肪族ポリエステルには,効果を損なわない限りにおいて他の共重合成分を導入することができる。他の共重合成分としては,3官能以上の多価ヒドロキシカルボン酸,多価カルボン酸,多価アルコールなどを添加した場合溶融粘度を高めることが出来,好ましい。具体的にはリンゴ酸,…」(【0025】?【0026】)
「<ポリ乳酸(B)およびその製造方法> 本発明に使用されるポリ乳酸(B)は,特に限定されないが,十分な強度を有するために必要な数平均分子量は3万以上好ましくは10万以上である。…
脂肪族ポリエステル(A)と,ポリ乳酸(B)の混合割合は,得られる組成物100重量部に対し,脂肪族ポリエステル(A)が1?99重量部,ポリ乳酸(B)が99?1重量部である。柔軟性に優れ,かつ脂肪族ポリエステル(A)の強度を維持させる場合,脂肪族ポリエステル(A)と,ポリ乳酸(B)との混合割合は,脂肪族ポリエステル(A)が60?99重量部,ポリ乳酸(B)が40?1重量部,好ましくは脂肪族ポリエステル(A)が70?99重量部,ポリ乳酸(B)が30?1重量部である。これらの混合割合で得られる組成物は,脂肪族ポリエステル(A)より,強度が付与されるばかりか,優れた伸びをも付与される。またポリ乳酸(B)の高弾性を保持したまま,伸びを付与する場合,脂肪族ポリエステル(A)とポリ乳酸(B)の混合割合は,脂肪族ポリエステル(A)が40?1重量部,ポリ乳酸(B)が60?90重量部,好ましくは脂肪族ポリエステル(A)が30?1重量部,ポリ乳酸(B)が70?99重量部である。…」(【0027】【0028】)
「[調整例1] 攪拌装置,窒素導入管,加熱装置,温度計,助剤添加口を備えた容量300mlの反応容器にコハク酸(b)を118.1g,1,4-ブタンジオール(a)を99.1g,酸化ゲルマニウムをあらかじめ1重量%溶解させた90%乳酸(c)水溶液6.3g(コハク酸100モルに対し,6.3モル),リンゴ酸0.2g(コハク酸100モルに対し,0.15モル)を仕込み,窒素雰囲気中180℃にて0.5時間反応させた後,220℃に昇温し,0.5時間反応させた。引き続いて0.5mmHgの減圧下において2.5時間,重合反応させた。得られたポリエステルは乳白色であり,Mnは75,300であった。また融点は110℃であった。また^(1)H-NMRによる乳酸導入率はコハク酸100モルに対し,6.3モルであった。
実施例1?3および比較例1?2
調整例1の脂肪族ポリエステル(A)を,ポリL-乳酸(B)(Mn=100,000)と表1に示した配合にて,ブラベンダーで混練,得られた組成物からフィルム形成し,引っ張り試験を行なった。その結果を表1に示す。」(【0035】?【0036】)
また,【0037】の表1には,例えば,実施例1として,脂肪族ポリエステル(A)80重量部及びポリ乳酸(B)20重量部からなる組成物の記載がある。

(2) 引用文献1には,上記(1)のとおり,【請求項1】に記載された脂肪族ジオール,脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体及び2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸またはその誘導体を共重合してなる脂肪族ポリエステル(A)と,数平均分子量が3万以上のポリ乳酸(B)とを溶融ブレンドした脂肪族ポリエステル組成物について,上記脂肪族ポリエステル(A)を構成する脂肪族ジオール等の具体的態様を説示する【請求項4】?【請求項6】の記載,脂肪族ジオール単位と脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体単位のモル比が実質的に等しくなっているとの【0020】や【0025】の記載,さらに2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸またはその誘導体単位が脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体100モルに対し0.04?60モルであるとの【請求項2】や【0021】の記載(【0025】も実質的に同旨のことを説示する。)などを総合すると,引用文献1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)は次のとおりのものである。
「等モルの1,4-ブタンジオール及びコハク酸並びに上記コハク酸100モルあたり0.04?60モルの乳酸を共重合してなる脂肪族ポリエステル(A)99?1重量部と,数平均分子量が3万以上のポリ乳酸(B)1?99重量部とを溶融ブレンドした生分解性の脂肪族ポリエステル組成物」

2 対比
(1) 本願発明と引用発明1を対比すると,引用発明1の「ポリ乳酸(B)」は本願発明の「ポリ乳酸」に相当するのは明らかである。
また,本願発明の「ポリブチレンサクシネート」はコハク酸,1,4-ブタンジオール及び乳酸を直接脱水重縮合させて得られる三元共縮合体であるところ,引用発明1の「脂肪族ポリエステル(A)」もコハク酸,1,4-ブタンジオール及び乳酸を共重合してなる三元共縮合体であるといえるから,引用発明1の「脂肪族ポリエステル(A)」は本願発明の「ポリブチレンサクシネート」に相当する。
さらに,引用発明1の「生分解性の脂肪族ポリエステル組成物」は本願発明の「生分解性樹脂組成物」に相当するのは明らかである。

(2) そうすると,本願発明と引用発明1との一致する点(一致点),相違する点(相違点1?3)はそれぞれ次のとおりである。
・ 一致点
ポリ乳酸とポリブチレンサクシネートとからなる生分解性樹脂組成物であって,前記ポリブチレンサクシネートは等モルのコハク酸及び1,4-ブタンジオール並びに乳酸が直接脱水重縮合させて得られた三元共縮合体である生分解性樹脂組成物
・ 相違点1
ポリ乳酸の数平均分子量について,本願発明は「5万?50万」であるのに対し,引用発明1は「3万以上」である点
・ 相違点2
ポリブチレンサクシネートについて,これを構成するコハク酸,1,4-ブタンジオール並びに乳酸のそれぞれのモル構成比が,本願発明は「コハク酸と,1,4-ブタンジオールが何れも47?49.5モル%の範囲内の等モルと,乳酸が1?6モル%の範囲内」であるのに対し,引用発明1は「等モルの1,4-ブタンジオール及びコハク酸並びに上記コハク酸100モルあたり0.04?60モルの乳酸」と特定してなる点,さらに,そのガラス転移点Tgが,本願発明は「0℃以下」であるのに対し,引用発明1はその特定がない点
・ 相違点3
ポリ乳酸(ポリ乳酸(B))とポリブチレンサクシネート(脂肪族ポリエステル(A))とのブレンド比について,本願発明は「10?90重量%のポリ乳酸と,90?10重量%のポリブチレンサクシネート」であるのに対し,引用発明1は「脂肪族ポリエステル(A)99?1重量部と,ポリ乳酸(B)1?99重量部」と特定してなる点

3 相違点についての判断
上記相違点1?3について,以下検討する。
(1) 相違点1について
ア ポリ乳酸の数平均分子量について,引用発明1は「3万以上」と特定するものであるから,本願発明と引用発明1とは「5万?50万」の範囲で重複する。そうすると,相違点1は,実質的な相違点であるとはいえない。
イ 仮に,相違点1が実質的に相違するものであるとしても,本願発明の相違点1に係る構成を想到することは,当業者であれば容易である。すなわち,ポリ乳酸の数平均分子量を「5万?50万」とすることは,引用発明1が「3万以上」と特定する数値範囲を,その範囲において当業者が適宜選択した設計的事項にすぎないものである。しかも,本願発明がポリ乳酸の数平均分子量を「5万?50万」と特定してなる点について,本願明細書(例えば,【0018】)をみても,格別の技術的意義を見いだすことができない。

(2) 相違点2について
ア ポリブチレンサクシネート(脂肪族ポリエステル(A))を構成するコハク酸,1,4-ブタンジオール並びに乳酸のそれぞれのモル構成比について,引用発明1は「等モルの1,4-ブタンジオール及びコハク酸並びに上記コハク酸100モルあたり0.04?60モルの乳酸」と特定するものであるから,本願発明と引用発明1とは「コハク酸と,1,4-ブタンジオールが何れも47?49.5モル%の範囲内の等モルと,乳酸が1?6モル%の範囲内」で重複する。しかも,引用発明1の脂肪族ポリエステル(A)は,本願発明のポリブチレンサクシネートと同じ構成成分を同じ割合で重合されたものであるとき,そのガラス転移点Tgが本願発明と同じ値になるのは明らかである。そうすると,相違点2は,実質的な相違点であるとはいえない。
イ また仮に,相違点2が実質的に相違するものであるとしても,本願発明の相違点2に係る構成を想到することは,当業者であれば容易である。すなわち,引用発明1における上記モル構成比を「コハク酸と,1,4-ブタンジオールが何れも47?49.5モル%の範囲内の等モルと,乳酸が1?6モル%の範囲内」とすることは,引用発明1が特定する数値範囲を,その範囲において当業者が適宜選択した設計的事項にすぎないものである。しかも,本願発明が上記モル構成比について「コハク酸と,1,4-ブタンジオールが何れも47?49.5モル%の範囲内の等モルと,乳酸が1?6モル%の範囲内」と特定してなる点について,本願明細書(例えば,【0019】)をみても,格別の技術的意義を見いだすことができない。
ウ 請求人は,審判請求書において,実験報告書を提示しつつ,三元共重合体であるポリブチレンサクシネートのガラス転移点が低いほど耐衝撃性の向上が大きく,また,上記ガラス転移点が0℃以上であるときには耐衝撃性の改良が確認できないといった,本願発明がポリブチレンサクシネートのガラス転移点を0℃以下と特定したことの意義(発明の効果)を主張する。
しかし,上記主張は,採用できない。
すなわち,出願時の本願明細書には,上記ガラス転移点が0℃以下のものを用いることが好ましい旨の記載はうかがえるものの(【0019】),どのような技術的観点からみて好ましい結果となるのか,すなわち本願発明が奏する有利な効果についての記載はない。しかも,請求人の上記主張に係る有利な効果は,明細書の全体の記載並びに本願の出願当時の技術常識を総合しても,当業者が認識できるとか推論できるというものではない。そして,上記効果について,本願明細書に何らかの記載がないにもかかわらず,請求人において出願後に実験結果を提出して主張立証することは,先願主義を採用し発明の開示の代償として特許権を付与するという特許制度の趣旨に反し,許されない。
なお,仮に上記主張をすることが許されるとしても,上記アで述べたように,そもそも引用発明1の脂肪族ポリエステル(A)は本願発明のポリブチレンサクシネートと同じガラス転移点となるのであるから,上記主張の当否は,結論を何ら左右しない。

(3) 相違点3について
ア ポリ乳酸とポリブチレンサクシネートとのブレンド比について,引用発明1はポリ乳酸(B)が1?99重量部,脂肪族ポリエステル(A)が99?1重量部と特定するものであるから,本願発明と引用発明1とはポリ乳酸(ポリ乳酸(B))が10?90重量%,ポリブチレンサクシネート(脂肪族ポリエステル(A))が90?10重量%の範囲で重複する。そうすると,相違点3は,実質的な相違点であるとはいえない。
イ また仮に,相違点3が実質的に相違するものであるとしても,本願発明の相違点3に係る構成を想到することは,当業者であれば容易である。すなわち,引用発明1において,ポリ乳酸とポリブチレンサクシネートとのブレンド比をそれぞれ1?99重量部,99?1重量部とすることの意義は,引用文献1の記載(例えば,【0028】,【表1】)を総合すると,ポリ乳酸(B)単体あるいは脂肪族ポリエステル(A)単体のものよりも優れた破断伸度や破断強度を発揮することにあるといえるところ,このような効果を発揮するにあたって引用発明1における上記数値範囲を実験的に最適化又は好適化すること,換言すれば,引用発明1の上記ブレンド比「1?99重量部,99?1重量部」をその範囲内で「10?90重量部(重量%),90?10重量部(重量%)」とすることは,当業者であれば何ら困難なことでない。しかも,本願発明が「10?90重量%のポリ乳酸と,90?10重量%のポリブチレンサクシネート」と特定してなることの意義は,本願明細書,特に【0011】?【0012】,【0020】?【0030】によれば,耐衝撃性の改良や破断強度の向上とあるといえるところ,このような技術的意義は引用発明1のそれと軌を一にしており,このことからも,引用発明1から相違点3に係る本願発明の構成を想到することは,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないといえる。

(4) 以上のとおり,本願発明は,引用発明1と実質的に同一であるので引用文献1に記載された発明であるか,あるいは引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

第5 合議体の認定,判断(その2)
上記第4のとおり,本願発明は,引用文献1に対し,いわゆる新規性ないしは進歩性を有しないと判断されるが,以下述べる理由によっても,進歩性を有しないと判断される。

1 引用発明2
(1) 引用文献1の記載(上記第4(1)参照)のうち,特に【0035】?【0036】を総合すると,引用文献1に記載された発明(実施例1について。以下「引用発明2」という。)は次のとおりのものである。
「コハク酸118.1g,1,4-ブタンジオール99.1g,コハク酸100モルに対して6.3モルの乳酸及びコハク酸100モルに対して0.15モルのリンゴ酸を重合反応させて得られた脂肪族ポリエステル(A)80重量部と,ポリL-乳酸(B)(Mn=100,000)20重量部とを配合して得られた生分解性の脂肪族ポリエステル組成物」

2 対比
(1) 本願発明と引用発明2を対比すると,引用発明2の「ポリL-乳酸(B)」は本願発明の「ポリ乳酸」に,「生分解性の脂肪族ポリエステル組成物」は「生分解性樹脂組成物」に相当するのは明らかである。
また,本願発明の「ポリブチレンサクシネート」はコハク酸,1,4-ブタンジオール及び乳酸を直接脱水重縮合させて得られる三元共縮合体であり,また一般に,ポリブチレンサクシネートとはコハク酸と1,4-ブタンジオールとを縮合重合させたものを指呼するところ,引用発明2の「脂肪族ポリエステル(A)」もコハク酸と1,4-ブタンジオールに加えて,さらに少なくとも乳酸を共重合してなる共縮合体であるから,本願発明の「ポリブチレンサクシネート」に相当するものであるといえる。しかも,引用発明2のコハク酸と1,4-ブタンジオールとは実質的に等モル比で重合するといえるから,引用発明2におけるコハク酸,1,4-ブタンジオール並びに乳酸のそれぞれの単位のモル構成比についても,本願発明で特定する範囲を満足している。

(2) そうすると,本願発明と引用発明2との一致する点(一致点),相違する点(相違点4)はそれぞれ次のとおりである。
・ 一致点
20重量%のポリ乳酸と,80重量%のポリブチレンサクシネートとからなる生分解性樹脂組成物であって,前記ポリ乳酸は数平均分子量が10万であり,前記ポリブチレンサクシネートはコハク酸と,1,4-ブタンジオールがそれぞれ等モルと,コハク酸100モルに対し6.3モルの乳酸が直接脱水重縮合させて得られた共縮合体である生分解性樹脂組成物
・ 相違点4
ポリブチレンサクシネート(脂肪族ポリエステル(A))について,本願発明はコハク酸,1,4-ブタンジオール及び乳酸から得られる三元共縮合体であり,そのガラス転移点Tgが0℃以下であるのに対し,引用発明2はコハク酸,1,4-ブタンジオール,乳酸及びリンゴ酸から得られる共縮合体であって,そのガラス転移点Tgの特定がない点

3 相違点についての判断
上記相違点4について,以下検討する。
(1) 引用文献1,特に【0026】の記載によれば,引用発明2の「リンゴ酸」は,脂肪族ポリエステル(A)を構成する共重合成分として必須のコハク酸,1,4-ブタンジオール及び乳酸とともに,発明の効果を損なわない限りで導入された成分であると解される。とすると,引用発明2において,このような必須の共重合成分でないリンゴ酸を用いずにコハク酸,1,4-ブタンジオール及び乳酸のみで脂肪族ポリエステル(A)を重合しようとすることは,当業者であれば想到容易である。
そして,引用発明2において,リンゴ酸を用いずに脂肪族ポリエステル(A)を重合したとき,当該脂肪族ポリエステル(A)は本願発明のポリブチレンサクシネートと同じ構成成分を同じ割合で重合されたものとなるから,そのガラス転移点Tgが本願発明と同じ値すなわち0℃以下となることもまた明らかである。本願発明のガラス転移点についての特定は,引用発明2においてリンゴ酸を用いずに脂肪族ポリエステル(A)を重合したときの当該脂肪族ポリエステル(A)の有する性状を,ガラス転移点という技術的観点から単に特定したにすぎない。

(2) 以上のとおり,本願発明は,引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

第6 むすび
したがって,本願発明は,引用文献1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができず,あるいは,引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると,本願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-25 
結審通知日 2012-07-31 
審決日 2012-08-13 
出願番号 特願2005-17962(P2005-17962)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
P 1 8・ 113- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 芳人  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 加賀 直人
須藤 康洋
発明の名称 生分解性樹脂組成物及び樹脂シート  
代理人 酒井 正美  
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