• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1264004
審判番号 不服2010-3473  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-17 
確定日 2012-10-04 
事件の表示 特願2004- 54205「ストレプトミセス属細菌用組換え体プラスミド」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月 8日出願公開、特開2005-237335〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年2月27日を出願日とする出願であって、その請求項1に係る発明は、平成21年10月5日付手続補正書の特許請求の範囲請求項1に記載された、以下のとおりのものである。
「ストレプトミセス属細菌で機能しうるストレプトミセス・アルブラス(Streptomyces albulus)IFO14147株が保持する内因性プラスミドpNO33由来の自律複製領域、及びストレプトミセス属細菌に耐性を与える薬剤マーカーを含むDNAセグメントを有する組換え体プラスミドであって、前記自律複製領域が、配列番号1に示す塩基配列を有するDNA、又は配列番号1に示す塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつストレプトミセス属細菌内で複製可能なDNAである組換え体プラスミド。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願出願日前の2002年(平成14年)8月20日に頒布された刊行物である特開2002-233380号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が記載されている。
1)「【請求項1】 (a) SEQ ID NO:1で表される塩基配列、または(b) 塩基配列(a)において一部の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなる、放線菌プラスミド由来のDNA分子。
【請求項2】 請求項1に記載のDNA分子またはその断片を含むベクター。
【請求項3】 前記ベクターが放線菌を宿主とするベクターである、請求項2記載のベクター。
【請求項4】 前記ベクターが大腸菌を宿主とするためのベクターである、請求項2または3に記載のベクター。
【請求項5】 前記ベクターがプラスミドまたはウィルスである、請求項2?4のいずれか1項に記載のベクター。」(特許請求の範囲)(下線は、当審が付与した。)、
2)「一方、ε-ポリリジン生産性放線菌の菌株は共通して環状プラスミドを有していることが知られており、その野生株であるストレプトマイセス アルブラスIFO14147株においても環状プラスミドの存在が確認され、pNO33と命名された(特開2000-228981号公報)。」(1欄34?39行)、
3)「近年の遺伝子工学の進展により、有用物質を生産する菌株にある特定の遺伝子を菌株の染色体上やその菌株を宿主とするプラスミドに導入して、より高い生産能を有する菌株を取得することが可能となっている。このため当該プラスミドpNO33をベクターとして利用し、ε-ポリリジンの生産能を高めるような遺伝子を導入することにより、さらに高い生産能を有する菌株を取得することが可能となりうる。」(段落【0004】)、
4)「しかし、pNO33は全長が約37kbとプラスミドベクターとしては比較的大きいため、遺伝子操作を行ううえで物理的切断を受けやすく、また細胞に遺伝子導入する際の導入効率が低い等の問題点がある。そのため、pNO33のプラスミドを放線菌におけるベクターとして利用するためには、pNO33をプラスミドとしての機能を有する部分だけを残して再構築し、プラスミドを小型化することが所望される。」(2欄8?15行)、
5)「本発明は、前記DNA分子またはその断片を含有するベクターに関する。ベクターはプラスミドまたはウィルスとすることができ、例えばプラスミドベクターには公知のプラスミド、または当該技術を参照して公知のプラスミドから容易に構築されるプラスミドベクターが包含される。プラスミドベクターは、遺伝子工学において使用される細菌(例えば、大腸菌、放線菌、枯草菌、乳酸菌など)を宿主とするベクターをすることができるが、放線菌、大腸菌をまたはその両方を宿主とするベクターが好ましい。」(段落【0009】)、及び、
6)「こうしてプラスミドpNO33の全塩基配列(SEQ ID NO:1)を決定した。」(4欄45?46行)

原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された、本願出願日前の昭和60年10月31日に頒布された刊行物である特開昭60-217895号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が記載されている。
1)「プラスミドpSG2、pSG5またはpSVH1に由来するストレプトミセス科レプリコン、および大腸菌(E.coli)レプリコンを含有するハイブリッドプラスミド。」(特許請求の範囲請求項1)、
2)「本発明はハイブリッドプラスミド特に大腸菌(E.coli)プラスミドとストレプトミセス科(Streptomycete)プラスミドpSG2(ヨーロッパ特許出願公開番号第66701号)、pSVH1(ヨーロッパ特許出願公開番号第70522号)ならびにpSG5(「ストレプトミセス科プラスミドpSG5、その取得法およびその使用」なる名称を有する同日出願の西ドイツ特許出願P34120920号の目的物でありそして第1図により特徴づけられる)との融合により生成しそしてそれゆえ大腸菌中のみならずストレプトミセス科中においても自律的に複製するいわゆるシャトルベクターに関する。さらに本発明によるシャトルベクターはマーカー、好ましくはストレプトミセス科および/または大腸菌における選択を可能にする抵抗性遺伝子を包含している。」(2頁右下欄6行?3頁左上欄4行)、
3)「例えば必須でない領域を離脱させることにより本発明によるベクターのストレプトミセス科-プラスミド部分を修飾することももちろん可能である。従ってプラスミドpSG5において複製領域が最大BamHI断片(4.45kb)中に存在する、すなわち第1図に相当する1?3kbの範囲中に存在することが見出された。従ってストレプトミセス科中で複製するベクターの構成にはこの「必須領域」で充分である。」(5頁左下欄9?17行)、
4)「ストレプトマイシス種中において充分に試験されたベクター(特にpSW344E、pSW1およびpSW244BG)は調査された菌株(なかんずくストレプトマイシスリビダンス、ストレプトマイシスゲイシレンシス(S.geysirensis)、ストレプトマイシスガーナエンシス(S.ghanaensis)およびストレプトマイシスベネズエラ(S.venezuelae))中において安定でありそしてストレプトミセス科抵抗性遺伝子を発現する。」(6頁右上欄最終行?左下欄9行)、
5)「プラスミドpSLE41の調製(pAC系列の修飾されたプラスミドの例として)
pSLE41の構成
プラスミドを担持する細胞から知られた・・・・。チオストレプトン抵抗性を担持するDNA断片を得るにはpIJ6-DNAをBclIで切断する(操作は前出)。・・・・アガロースゲル中で寸法5.4kbのプラスミド(pACYC 184 4.3kb+チオ抵抗性 1.1kb)をさがす。」(実施例3)、及び、
6)「実施例4に従い操作するが、しかし下記のBamHIを用いて直線状としたpSG5の「ミニマルレプリコン」をBamHIで切断したpSLE41と連結させるとシャトルベクターpGM101が得られる。
pSG5からのミニマルレプリコンの構成
前記のようにしてストレプトマイシスガーナエンシスDSM2932からプラスミドpSG5を単離する。プラスミドpSLE40およびpSLE41は知られた方法(マニアテイス氏他)により大腸菌から得られうる。
pSLE40またはpSLE41中にpSG5の断片がクローニングされる。すなわちSphI、BamHIおよびBglIIの断片がpSLE41のSphI、BamHIおよびBglII切断点に連結されそしてPstI断片がpSLE40のPstI切断点に連結される。クローニングするには2種類のプラスミド(pSLEプラスミドおよびpSG5)を上記した酵素を用いて平行して線状となす。・・・・。
これらプラスミドを慣用の方法に従いストレプトマイシスリビダンスTK23に形質転換させ・・・・そしてチオストレプトン抵抗性について選択する。・・・チオストレプトン抵抗性のコロニーから得られるすべてのプラスミドは複製に必要なpSG5プラスミドの遺伝子を担持している。従って総合した結果から合目的々な「ミニマルレプリコン」(ここでは4.45kbのBamHI断片)が確認され、このものは他のクローニング実験および比較によるオーバーラッピングクローニングによりさらにミニマム化されうる。」(実施例5)

原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用された、本願出願日前の昭和61年3月7日に頒布された刊行物である特開昭61-047192号公報(以下、引用例3という。)には、下記の事項が記載されている。
1)「a)プラスミドpJL192の?2.5kbKpnI複製起源含有制限フラグメントと、b)感受性を有する非制限宿主細胞に導入した時、少くとも1個の抗生物質に対する耐性を付与し得る1またはそれ以上のDNAセグメントとを含む、適度に高いコピー数を有する組換えDNAクローニングベクター。」(特許請求の範囲の請求項1)、
2)「更に、c)大腸菌の複製起源を含有する制限フラグメントをも含む、第1項記載のベクター。」(特許請求の範囲の請求項3)、
3)「本発明のベクターは、1またはそれ以上の抗生物質耐性付与DNAフラグメントを、プラスミドpJL192の?2.5kb複製起源含有制限フラグメントとライゲート(結合)することにより組立てられる。次いで、得られたベクターを、大腸菌プラスミドの、複製起源を含有し、抗生物質耐性を付与し得る機能的な制限フラグメントにライゲートすることにより、大腸菌およびストレプトマイセスの両者で選択可能であって、自己複製可能な二機能性ベクターを得ることができる。」(3頁左下欄1?10行)、及び、
4)「多くの異なった、プラスミドpJL192のストレプトマイセス複製起源含有フラグメントを組立てることができるが、本発明を例示するために本明細書中に記載したフラグメントは、全て?2.5kb KpnI制限フラグメントを含有していることを特徴とするものである。この?2.5kbKpnI制限フラグメントは、プラスミドpJL192のKpnI酵素による完全消化によって生成するフラグメントであり、適度に高いコピー数(細胞当り40?50コピー)の誘導体プラスミドを生産することが見出された。プラスミドpJL192は、細胞当り1?5という低いコピー数を有するプラスミドとして知られているストレプトマイシスプラスミドSCP2*からの?5.9kbEcoRI-SalIレプリコンフラグメントを含有している。」(3頁右下欄4?18行)

原査定の拒絶の理由で引用文献4として引用された、本願出願日前の平成4年12月17日に頒布された刊行物である特開平4-365486号公報(以下、「引用例4」という。)には、下記の事項が記載されている。
1)「抗酸菌 Mycobacterium scrofulaceum (以下、M. scrofulaceum とする)のプラスミド遺伝子および大腸菌のプラスミドとを含み、該抗酸菌遺伝子がプラスミドの複製を担う遺伝子領域を含み、該大腸菌遺伝子が大腸菌プラスミドpACYC177に由来し、形質転換大腸菌および形質転換抗酸菌の選択マーカーとなる遺伝子を含むことを特徴とする抗酸菌-大腸菌シャトルベクター。」(特許請求の範囲の請求項1)、及び、
2)「(2)pYT921の構築
pYT92は抗酸菌プラスミドpMSC262由来の12.2kbの比較的大きいDNA断片を保持しているので実用的ではない。そこで、抗酸菌-大腸菌シャトルベクターとして必要にして十分な領域へ最適化することを行なった。欠失変異株を作製するために制限酵素地図を作成したところ、pMSC262側の12.2kb断片上にPstIサイトが2カ所存在した。一方、pACYC177側ではアンピシリン耐性遺伝子領域にPstIサイトが1カ所存在するので、pYT92をPstIで切断して欠失変異株を分離、BCGへの形質転換能を目印にスクリーニングを行なった。その結果PstI断片のひとつ4.3kbにBCGでの複製に必要な機能が存在することが明かとなった。この部分を有する組換えプラスミドをpYT921(7.3kb)とした。
(3)pYT937
さらに最適化を進めるためにpYT921の抗酸菌プラスミド由来DNA部分について制限酵素地図を作成し、これをもとに種々の欠失変異株を作製した。BCGに対する形質転換能をよりどころにスクリーニングしたところ、PstIとHincII間の2.5kbを含む組換え体プラスミドに形質転換能があった。また、この領域のほぼ中央に存在するPvuIIサイトの左右どちらかが欠損したものでは、いずれも転換能がなかった(図1)。
これらのことからBCGでの複製にはPvuII近傍が必要である。この2.5kbDNA断片(配列表配列番号1)をアンピシリン耐性・カナマイシン耐性両遺伝子を生かした形でプラスミドpACYC177に組み込んだ組換えプラスミドをpYT937として最終的なシャトルベクターとした(図2)。」(段落【0017】?【0018】)

原査定の拒絶の理由で引用文献5として引用された、本願出願日前の平成9年8月12日に頒布された刊行物である特開平9-206077号公報(以下、「引用例5」という。)には、下記の事項が記載されている。
1)「【請求項1】 下記式化1で示される制限酵素認識部位を有し、約11.5kb長であるプラスミドpCP53。
【請求項2】 請求項1記載のプラスミドpCP53の複製開始領域、細菌由来の複製開始領域、及びマーカー遺伝子を含むプラスミドベクター。」(特許請求の範囲)、
2)「本発明者は、ラクトバチルス・ヘルベティカス等に属する菌株のプラスミドの有無及びその分子量を検討した結果、ラクトバチルス・ヘルベティカスCP53株から、安定に保持され高コピー数である新規なプラスミドを見い出し、さらにこの新規なプラスミドを改変することにより、効率的に形質転換を行うことができる有用なプラスミドベクターを得、本発明を完成した。
即ち、本発明によれば、下記式化3で示される制限酵素認識部位を有し、約11.5kb長であるプラスミドpCP53が提供される。」(段落【0005】?【0006】)、及び、
3)「2)pCP53プラスミド複製開始領域のクローニング
前述のグラム陽性菌複製開始点検索用ベクターpHYD 1μgをHindIIIで切断したものと、pCP53 1μgをHindIIIで切断したものとを混合し、T4DNAリガーゼにより連結した。このDNAを大腸菌HB101に形質転換し、20μg/mlのテトラサイクリンを含むLB寒天培地で生育株を選択した。得られた形質転換体から得られたDNAを1%アガロースゲル電気泳動で分析した結果、pCP53由来と思われる様々の大きさのHindIII断片がpHYDベクターに挿入されていることを確認した。
次に、これら各種のプラスミドをラクトバチルス・パラカゼイに導入し、4μg/mlのテトラサイクリンを含むGAM培地で生育株をスクリーニングした。・・・。得られた形質転換体についてプラスミドを1%アガロースゲル電気泳動により分析したところpCP53の約2kbの断片を含む4.7kbのプラスミドの存在が確認された。従って、pCP53の約2.0kbDNA断片にpCP53の複製開始領域(Ori-pCP53)が含まれることが明らかとなった。このベクターは大腸菌あるいはラクトバチルス属での複製可能なシャトルベクターとしての利用が可能であり、pCP53Dと命名した。一方、この2.0kbDNA断片を含まないpHYD(2.7kb)ベクターのみではテトラサイクリン形質転換体は得られなかった。」(段落【0026】?【0028】)

3.対比・判断
(1)本願発明について
本願明細書の段落【0005】には、「ε-ポリ-L-リジン生産菌であるストレプトミセス・アルブラス(Streptomyces albulus)IFO14147株及び該菌株に由来する変異株は、環状のプラスミドDNApNO33を保有することが知られており(特許文献6参照)、該プラスミドの全塩基配列についても明らかにされている(特許文献7参照)。」と、段落【0007】には、「本発明者らは、鋭意研究の結果、まず既に、特開2000-228981号公報によって明らかにされているストレプトミセス・アルブラス(Streptomyces albulus)IFO14147株由来プラスミドpNO33の自律複製領域を特定し、この領域と薬剤耐性遺伝子を連結した組換え体プラスミドpBBH4を、該薬剤感受性のストレプトミセス・リヴィダンス(Streptomyces lividans)を用いて構築した。」と、段落【0012】には、「pNO33に由来する自律複製領域は、pNO33の全長であってもよいが、遺伝子操作を容易にするために、pNO33の一部であることが好ましい。
pNO33の一部としては、配列番号1に示す塩基配列を有する領域を挙げることができる。この領域は、pNO33を制限酵素BclIとBamHIで切断して得られる約4.1kbpの領域である。」と記載されている。
よって、本願発明に係る組換え体プラスミドは、ストレプトミセス・アルブラス(Streptomyces albulus)IFO14147株が保持し、その全配列が公知であるプラスミドpNO33について、制限酵素BclIとBamHIで切断して得られる約4.1kbpの領域が、配列番号1に示す塩基配列を有するという知見に基づくものである。
ここで、本願明細書段落【0012】の記載より、「配列番号1に示す塩基配列を有するDNA」とは、pNO33をBclIとBamHIで切断して得られる約4.1kbpのDNAを意味するものである。
よって、本願発明の「前記自律複製領域が、配列番号1に示す塩基配列を有するDNA」であることにより特定される発明は、「ストレプトミセス属細菌で機能しうるストレプトミセス・アルブラス(Streptomyces albulus)IFO14147株が保持する内因性プラスミドpNO33由来の自律複製領域、及びストレプトミセス属細菌に耐性を与える薬剤マーカーを含むDNAセグメントを有する組換え体プラスミドであって、前記自律複製領域が、pNO33をBclIとBamHIで切断して得られる約4.1kbpのDNAである組換え体プラスミド」と読みかえられる。

そして、本願発明は、「自律複製領域が、配列番号1に示す塩基配列を有するDNA、又は配列番号1に示す塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつストレプトミセス属細菌内で複製可能なDNAである」(下線は、当審が付与した。)という、自律複製領域が、択一的な記載により特定されるものであるので、このうち、「自律複製領域が、配列番号1に示す塩基配列を有するDNA」であることにより特定される以下の発明について、以下、検討を進める。

「ストレプトミセス属細菌で機能しうるストレプトミセス・アルブラス(Streptomyces albulus)IFO14147株が保持する内因性プラスミドpNO33由来の自律複製領域、及びストレプトミセス属細菌に耐性を与える薬剤マーカーを含むDNAセグメントを有する組換え体プラスミドであって、前記自律複製領域が、配列番号1に示す塩基配列を有するDNAである組換え体プラスミド。」(以下、「本願特定発明」という。)

(2)対比・判断(その1)
(2-1)対比
引用例1の記載事項1)、2)及び6)より、引用例1には、全塩基配列がSEQ ID NO:1の塩基配列からなるストレプトマイセス アルブラスIFO14147株由来の環状プラスミドpNO33の、断片を含む組換えプラスミドベクター(以下「引用発明1」という)が記載されている。
本願特定発明と引用発明1とを対比すると、両者は、「ストレプトミセス・アルブラス(Streptomyces albulus)IFO14147株が保持する内因性プラスミドpNO33由来の断片を有する組換え体プラミド」という点で共通し、本願特定発明は、当該断片が、ストレプトミセス属細菌で機能しうる自律複製領域であるのに対し、引用発明1においては、そのような領域であることの記載はない点(相違点1)、本願特定発明は、組換え体プラスミドがストレプトミセス属細菌に耐性を与える薬剤マーカーを含むDNAセグメントを有するものであるのに対し、引用発明1においては、そのような薬剤マーカーを含むDNAセグメントを有するものであることの記載はない点(相違点2)、及び、本願特定発明は、自律複製領域が、配列番号1に示す塩基配列を有するDNAであることが特定されているのに対し、引用発明1では、自律複製領域の塩基配列が明らかにされていない点(相違点3)で両者は相違する。

(2-2)当審の判断
(イ)相違点1?3について
引用例1の記載事項4)には、「pNO33のプラスミドを放線菌におけるベクターとして利用するためには、pNO33をプラスミドとしての機能を有する部分だけを残して再構築し、プラスミドを小型化することが所望される」と記載されている。ここで、当該技術分野の技術常識を参酌すると、「プラスミドとしての機能を有する部分」として、複製機能を担う領域である、自律複製領域を当業者は想起するといえる。
また、放線菌及び大腸菌の両方を宿主とするプラスミドベクターとは、両方の自律複製領域を含むものであることは、引用例2?5に示されるように、当業者の技術常識である。
そうすると、引用例1記載事項4)の、pNO33をプラスミドとしての機能を有する部分だけを残して再構築し、プラスミドを小型化することが所望されるとの記載、及び、記載事項5)の、DNA分子の断片を含有するプラスミドベクターに関し、特に、放線菌及び大腸菌の両方を宿主とするものが好ましいとの記載に触れた当業者であれば、新たな組換えプラスミドを構築するために、引用例1に記載されるpNO33の自律複製領域を特定することは、容易に想到する事項である。
そして、引用例2の記載事項3)、6)、引用例3の記載事項4)、引用例4の記載事項3)、及び、引用例5の記載事項3)にあるように、ストレプトミセス属細菌等の細菌と大腸菌とのシャトルベクターを調製するに際し、当該細菌で複製可能な領域を特定するために、シャトルベクターのもととなるプラスミドを制限酵素を用いて断片化し、宿主に形質転換することで複製能を有する制限酵素断片を選択する手法は周知であった。
また、引用例2の記載事項5)及び6)には、ストレプトマイシスガーナエンシスからのプラスミドpSG5の自律複製領域を特定するために、制限酵素により当該プラスミドを断片化し、チオストレプトン抵抗性を付与する遺伝子とともにストレプトマイシスリビダンスに形質転換し、チオストレプトン抵抗性を指標に自律複製能を有する断片を選択することも記載されている。
してみれば、引用例1に記載のストレプトミセス属細菌からのプラスミドであるpNO33について、引用例2?5に記載される技術を適用し、その全長を適当な制限酵素により断片化し、ストレプトミセス属細菌に耐性を与える薬剤マーカーであるチオストレプトン抵抗性を付与する遺伝子と連結し、ストレプトミセスリビダンス等の適当な細菌を宿主として用いて、チオストレプトン抵抗性を指標に自律複製能を有する断片を選択し、自律複製を可能とする領域を特定することで、pNO33を制限酵素BclIとBamHIで切断して得られる領域である本願の配列番号1に示す塩基配列を有する自律複製領域を特定することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、本願特定発明が、引用例1?5より、予測し得ない顕著な効果を奏するとも認められない。

よって、本願特定発明は、引用例1?5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)対比・判断(その2)
(3-1)対比
引用例1の記載事項1)、2)、5)及び6)より、引用例1には、pNO33の全塩基配列であるSEQ ID NO:1の塩基配列からなる、ストレプトマイセス アルブラスIFO14147株由来の環状プラスミド(pNO33)由来のDNA分子、を含む組換えプラスミドベクター(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
ここで、pNO33の全長が、ストレプトミセス属細菌で機能しうる自律複製領域を有していることは明らかであり、そして、引用例1には、当該領域の塩基配列の記載はないが、事実として、本願明細書においてpNO33の自律複製領域の塩基配列として特定されている配列番号1の配列を有するものである。
本願特定発明と引用発明2とを対比すると、両者は、「ストレプトミセス属細菌で機能しうるストレプトミセス・アルブラスIFO14147株が保持する内因性プラスミドpNO33由来の自律複製領域を有する組換え体プラスミドであって、前記自律複製領域が、配列番号1に示す塩基配列を有するDNAである組換え体プラスミド」という点で共通し、本願特定発明は、組換え体プラスミドがストレプトミセス属細菌に耐性を与える薬剤マーカーを含むDNAセグメントを有するものであるのに対し、引用発明2においては、そのような薬剤マーカーを含むDNAセグメントを有するものであることの記載はない点(相違点4)で両者は相違する。

(3-2)当審の判断
(ロ)相違点4について
遺伝子工学に用いる宿主に形質転換可能なプラスミドの導入がなされた株を簡便に選択するために、当該プラスミドに対して宿主に薬剤耐性を与えるマーカーを導入する手法は当業者の慣用技術であったから、引用例1の記載事項2)及び3)にあるように、ストレプトミセス属細菌に形質転換することが想定された引用発明2に対して、ストレプトミセス属細菌に耐性を与える薬剤マーカーを導入することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、本願特定発明が、予測し得ない顕著な効果を奏するとも認められない。
よって、本願特定発明は、引用例1に記載された発明及び慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.請求人の主張
審判請求人は、平成22年2月17日付審判請求書の請求の理由において、以下の主張をしている。
「前記4.1kbpの領域の塩基配列(配列番号1)は、引用文献1に記載される通り本発明者らが解読したものであるが、本願出願時においてその機能は明らかでなかった。そして、この領域が前記プラスミドの自律複製に必要な領域であることは、既知の塩基配列から類推できるものではなかった。さらに、前記4.1kbpの領域の塩基配列(配列番号1)と相同性のある塩基配列が前記プラスミドの自律複製機能を有するという報告例も本願出願時には一切存在せず、引用文献1の記載から該配列とその機能を類推することもできなかった。そのため、本発明者らは、プラスミド複製の安定性、コピー数、ベクターとしての操作性等を指標として一つずつ検討しながら該自律複製領域を特定し、その結果、宿主ベクターの小型化を達成し組換え体プラスミドpBBH4を構築した。
ここで、参考資料1(Practical Streptomyces Genetics (2000) p.230)に記載されているようにストレプトマイセス属細菌には、形質転換効率を劇的に低下させる特有の強い制限系が存在するという問題や、種毎に特異的な形質転換条件が要求され、他の微生物のように同属菌間の共通の遺伝子操作系が確立されていないという問題がある。すなわち、ストレプトマイセス属細菌においては、自律複製領域を特定するための遺伝子操作自体に多大な困難が伴うため、個々の菌株ごとに多大な工夫を要することとなる。このような状況下で、本発明者らが試行錯誤の末に自律複製領域を特定し、宿主ベクターの小型化を実現したことは、当業者であっても容易になし得たものではない。」

しかしながら、本願明細書の記載(特に、段落【0025】)をみても、pNO33の自律複製領域を特定するにあたり、pNO33プラスミドを制限酵素で消化した断片とマーカー遺伝子として周知であるチオストレプトン遺伝子を含むDNA断片とを連結したものを、宿主として汎用されるストレプトミセス・リヴィダンス(必要であれば、引用例3の17頁左下欄9?19行参照。)に形質転換し、チオストレプトン耐性を指標に形質転換株を取得するという、通常の範囲内の手法を採用しているにすぎず、当該手法は、特に、引用例2に記載されている手法と同等のものにすぎない。
さらに、参考資料1の、審判請求人が下線を付し、かつ参考資料2にその抄訳を示した記載をみるに、ストレプトマイセス菌株にエレクトロポーション法によりDNAを導入する場合に、異なる株により特異的な条件が必要とされるかもしれないこと、また、多くの放線菌が形質転換効率を劇的に減じるシステムを有していることは理解されるものの、そうであっても、本願発明に至るために、宿主及び形質転換条件等の選択が困難であったとは認められないことは、上記した通りである。

したがって、請求人の主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、引用例1?5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、引用例1に記載された発明及び慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-27 
結審通知日 2012-07-31 
審決日 2012-08-17 
出願番号 特願2004-54205(P2004-54205)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小倉 梢  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 冨永 みどり
田中 晴絵
発明の名称 ストレプトミセス属細菌用組換え体プラスミド  
代理人 川口 嘉之  
代理人 松倉 秀実  
代理人 佐貫 伸一  
代理人 丹羽 武司  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ