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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1264563
審判番号 不服2010-643  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-13 
確定日 2012-10-11 
事件の表示 特願2003-310084「キャンディダ・ユティリスのグルタチオン合成酵素をコードする遺伝子」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月24日出願公開、特開2005- 73638〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年9月2日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成21年8月11日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
下記(A)又は(B)に示すタンパク質をコードするDNA。
(A) 配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B) 配列番号2に示すアミノ酸配列において、1?12個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ、グルタチオン合成酵素活性を有するタンパク質。」(以下、「本願発明」という。)

第2 引用例
1.原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願出願日前である平成15年6月3日に頒布された特開2003-159049号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審による。以下、同様。)。
(1)「前記グルタチオン合成酵素の変異、及び後述する任意的な変異の位置は、報告されているサッカロマイセス・セレビシエのグルタチオン合成酵素遺伝子(GSH2)がコードするアミノ酸配列(Inoue et al., Biochim. Biophys. Acta, 1395 (1998) 315-320、GenBank accession Y13804)(配列表の配列番号2に示す)を基準とする。また、同遺伝子の塩基配列を配列番号1に示す。」(段落【0011】)

(2)「本発明の酵母としては、γ-グルタミルシステインを生産することができるものであれば特に制限されないが、具体的にはサッカロマイセス・セレビシエ等のサッカロマイセス属、キャンディダ・ユティリス等のキャンディダ属、シゾサッカロマイセス・ポンベ等のシゾサッカロマイセス属等に属する酵母が挙げられる。」(段落【0016】)

2.原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され、本願出願日前に頒布されたMol. Biol. Cell,1997年,Vol. 8,p.1699-1707(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(1)「グルタチオン合成における最終工程は、グルタチオン合成酵素(Gsh2)により、グリシンをγ-グルタミルシステインに連結することである。Gsh2をコードする遺伝子は、様々な細菌種及び真核生物において同定されている(・・・)。」(1700頁左欄30?36行)

(2)「酵母配列は、グルタチオン合成酵素の触媒活性に重要な役割を有すると示唆される高度に保存されたグリシンリッチ領域を含む(図1)(・・・)。」(1701頁左欄37?41行)

(3)「

図1 酵母Gsh2と代表的な真核性グルタチオン合成酵素の推定アミノ酸配列の比較。
サッカロマイセス・セレビシエ(Sc)由来のGsh2は、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Sp)、ドブネズミ(Rn)及びシロイヌナズナ(At)と比較された。配列は、最大のアライメントのために導入されたギャップを示す長音記号とともに、最大の相同性となるように整列された。同一のアミノ酸残基は四角で囲み、保存された残基は影を付した。保存されたグリシンリッチ領域(詳細は、本文))は、381-394及び478-484(Scにおける番号付け)に存在する。・・・」(1702頁図1)

第3 対比
本願発明は、DNAがコードするタンパク質が(A)又は(B)の選択肢で記載されているが、(A)を選択した場合に係る発明(以下、「本願発明A」という。)について検討する。

本願発明Aは次のとおりのものである。
「【請求項1】配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA。」

引用例1の記載事項(1)によると、引用例1には、サッカロマイセス・セレビシエ由来のグルタチオン合成酵素をコードするDNAが記載されている。
本願発明Aと引用例1に記載された発明を対比すると、両者は、グルタチオン合成酵素をコードするDNAである点で一致し、下記の点で相違する。

相違点:DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列が、本願発明Aでは、配列番号2であるのに対し、引用例1では、そのようなアミノ酸配列は記載されていない点。

ところで、本願明細書の段落【0055】の「また、この塩基配列によりコードされると予想されるグルタチオン合成酵素のアミノ酸配列を配列番号2に示す。このようにして、キャンディダ・ユティリスのグルタチオン合成酵素遺伝子ホモログを取得した。」という記載によれば、本願発明Aの配列番号2は、キャンディダ・ユティリス由来のグルタチオン合成酵素のアミノ酸配列であるから、当該相違点は、グルタチオン合成酵素をコードするDNAの由来が、本願発明Aはキャンディダ・ユティリスであるのに対し、引用例1は、サッカロマイセス・セレビシエである点に起因するものであるといえる。

第4 当審の判断
1.相違点について
上記引用例2の記載事項(1)に示されるように、本願出願日前に様々な細菌種や真核生物からグルタチオン合成酵素遺伝子が同定されており、引用例2には、酵母であるサッカロマイセス・セレビシエとシゾサッカロマイセス・ポンベ由来のグルタチオン合成酵素遺伝子が記載されている(記載事項(3))。そして、キャンディダ・ユティリスは、γ-グルタミルシステインを産生し(引用例1の記載事項(2)参照。)、かつ、グルタチオンを産生する酵母であること(要すれば、例えば、Journal of Bacteriology,1995,Vol.177,p.7171-7177及び特開平8-173170号公報の【0007】参照。)は技術常識であった。これらの事項を考慮すると、キャンディダ・ユティリスは、γ-グルタミルシステインをグルタチオンへと触媒するグルタチオン合成酵素を産生していることは、当業者であれば、当然に予想することであって、その遺伝子を取得しようとすることは、自然な発想である。
また、このことは、酵母のグルタチオン合成酵素遺伝子のクローニングを前提とする引用例1において、対象の酵母としてキャンディダ・ユティリスが例示されていることからも明かである。

ところで、ある微生物から所望のタンパク質をコードするDNAを取得しようとする際に、該所望のタンパク質に対応する既知のタンパク質であって他の微生物に由来するものを複数比較して、保存されたアミノ酸配列を見出し、該アミノ酸配列情報に基づいて縮重プライマーを設計し、PCRを行い、さらに、5’RACEや3’RACEを実施して、全長遺伝子を取得することは、本願出願日前から当業者に周知の技術であった。

そうすると、キャンディダ・ユティリスは酵母であるから、上記引用例2の記載事項(3)の図1に記載された、キャンディダ・ユティリスと同じ子嚢菌門に属するサッカロマイセス・セレビシエとシゾサッカロマイセス・ポンベの2種の酵母のグルタチオン合成酵素のアミノ酸配列間において保存されたアミノ酸配列に基づいてプライマーを作製しようとすることは、当業者が容易に想起することである。
そして、図1に記載された当該2種の酵母のアミノ酸配列のうち、請求人が主張するように(審判請求書の手続補正書第2頁下4行?下2行)プライマー設計のために必要な6アミノ酸以上で連続して保存されている領域は、「GSKKIQQ」(本願の配列番号6に相当)及び「LKPQREGGGNN」(本願の配列番号10及び11を含む領域)の2つだけである。さらに、引用例2の記載事項(2)及び(3)によれば、特に後者のアミノ酸配列は、グルタチオン合成酵素の触媒活性に必須であるグリシンリッチ領域に含まれるアミノ酸配列であるから、キャンディダ・ユティリスにおいても当該アミノ酸が保存されている蓋然性が高いと当業者は考えるものである。そうすると、当業者であれば、まずは、この2つのアミノ酸配列に基づいた縮重プライマーを設計し、上記周知技術を採用することにより、キャンディダ・ユティリス由来のDNAからグルタチオン合成酵素をコードするDNAをクローニングしてみようとするといえる。
そして、本願明細書において、実際にグルタチオン合成酵素をコードするDNAをクローニングすることができた縮重プライマーを設計したアミノ酸配列の領域は配列番号6及び10、すなわち、上記2つのアミノ酸領域に含まれるものであるのだから、本願発明Aの「配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA」は、上述の手法により当業者であれば困難なく取得できたものである。

2.効果について
本願発明Aの効果について検討する。
請求人は、平成21年8月11日付意見書において、参考資料5(実験成績証明書)を提出し、キャンディダ・ユティリスのグルタチオン合成酵素は公知のサッカロマイセス・セレビシエのものと比較してVmaxの値が高く、この効果は予測し得ないものであることを主張する。

しかしながら、本願明細書には、本願発明Aに係るグルタチオン合成酵素のVmaxについて全く記載されておらず、また、本願明細書又は図面の記載から、係る効果を推論することもできないから、請求人の主張する効果は、本願明細書の記載に基づく効果とはいえず、本願発明Aの奏する効果として参酌することはできない。

3.その他の請求人の主張
請求人は、審判請求の理由において、本願発明AのDNAは取得が困難であった旨主張し、詳細には下記の点を主張する。
(1)キャンディダ・ユティリスは、サッカロマイセス・セレビシエやシゾサッカロマイセス・ポンベとは性質が大きく異なっており、グルタチオン生合成経路に関する知見がほとんどなかったので、サッカロマイセス・セレビシエやシゾサッカロマイセス・ポンベがグルタチオン合成酵素を有しているからといって、キャンディダ・ユティリスもグルタチオン合成酵素を有しているかは簡単には予測できなかった。(第2頁、(1)-(A)についての反論)

(2)プライマーを設計するには少なくとも6アミノ酸以上の保存領域が必要と考えられ、このような領域は386-391位の「EGGGNN」(本願の配列番号10)しかなく、PCRを行うには2か所以上にプライマーを設計する必要があるから、上記領域だけでは不十分である。
本願明細書の段落【0046】に記載されているように、本発明者らは実際にサッカロマイセス・セレビシエ、シゾサッカロマイセス・ポンベ、及びラットのグルタチオン合成酵素のアミノ酸配列において相同性が高い配列を5つ(配列番号5?9)選定し、それに基づいて縮重プライマーを設計し、PCRを行うという手法を試みたが、いずれのプライマーの組み合わせを採用しても目的の遺伝子は得られなかった。(第2?3頁、(1)-(B)、(1)-(C)についての反論)

(3)本願出願日時点ではキャンディダ・ユティリスのコドン使用頻度に関する情報はほとんどなく、発明者自身が独自に配列解析してキャンディダ・ユティリスの遺伝子に適したコドンを見出し、そして、通常のコドン頻度に基づいた縮重プライマーでは成功しなかったところ、このキャンディダ・ユティリスの遺伝子に適したコドンに基づいたプライマーを設計して初めてクローニングに成功したのであって、これは当業者が容易になしえたことではない。(第3頁、(1)-(D)についての反論)

上記主張について検討する。
主張(1)について
上記1.にて述べたとおり、本願出願日前には、酵母を含めて様々な微生物からからグルタチオン合成酵素遺伝子が同定されており、また、キャンディダ・ユティリスは、γ-グルタミルシステインを産生し、かつ、グルタチオンを産生する酵母であることは技術常識であったことを考慮すると、キャンディダ・ユティリスは、γ-グルタミルシステインをグルタチオンへと触媒するグルタチオン合成酵素を産生していることは、当業者であれば、容易に予想することであるといえる。
よって、請求人の主張(1)は採用することはできない。

主張(2)について
上記1.にて述べたとおり、キャンディダ・ユティリスは酵母であることから、引用例2の図1に記載されたアミノ酸配列のうち、酵母であるサッカロマイセス・セレビシエとシゾサッカロマイセス・ポンベのアミノ酸配列間において保存されたアミノ酸配列に基づいてプライマーを作製しようとすることは、当業者が容易に想起することであるところ、図1に記載された当該2種の酵母のアミノ酸配列のうち、請求人が主張するようにプライマー設計のために必要な6アミノ酸以上で連続して保存されている領域は、「GSKKIQQ」(本願の配列番号6に相当)及び「LKPQREGGGNN」(本願の配列番号10及び11を含む領域)の2つがあるから、請求人のプライマーを設計するための領域は配列番号10しかないという主張は妥当ではない。
そして、当業者であれば、まず最初に、この2つのアミノ酸配列に基づいた縮重プライマーを設計してみようとするといえるから、配列番号5?9に基づいて設計した縮重プライマーでは目的の遺伝子が得られなかった旨の請求人の主張は、本願発明AのDNAの取得の困難性を裏付けるものとはいえない。
よって、請求人の主張(2)は採用することはできない。

主張(3)について
請求人は、通常のコドン頻度に基づいた縮重プライマーでは成功しなかったが、キャンディダ・ユティリスの遺伝子に適したコドンに基づいたプライマーを設計して初めてクローニングに成功した旨主張する。

本願明細書の段落【0047】及び平成21年8月11日付意見書の第4頁下11行?下7行の記載によると、アミノ酸配列「GSKKIQQ」(配列番号6)に基づいて、キャンディダ・ユティリスのコドン使用頻度を参考に設定した縮重プライマーは、Gに対応するコドンをGGTとし、Kに対応するコドンはAAGを選択し、Sに対応するコドンはTCYと2つを選択し(「Y」はT又はCのこと)、Iに対応するコドンはATYと2つを選択し、Qに対応するコドンはCAR(「R」はA又はGのこと)と2つを選択したことが記載されている。
しかしながら、このように選択されたコドンは、酵母であるサッカロマイセス・セレビシエ及びシゾサッカロマイセス・ポンベにおけるコドンとして、いずれもそれなりに高い頻度で出現することが本願出願日前において周知であったから(要すれば、例えば、Yeast,1994,Vol.10,p.1045-1047の表1及び、Nucleic.Acids.Res.,1986,Vol.14,p.5125-5143の5134頁表2参照)、配列番号6のアミノ酸配列に基づいて、本願出願日前に周知であった酵母におけるコドン使用頻度を考慮して縮重プライマーを作製すれば、本願の実施例において、実際にクローニングに使用した配列番号12に示される8種類(2×2×2)のプライマーの混合物である縮重プライマーもその中に含まれるものであった。
よって、請求人の主張(3)は採用することはできない。

4.まとめ
以上のとおり、本願発明Aは、引用例1及び2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本願発明Aをその態様として包含する本願発明も同様である。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-07 
結審通知日 2012-08-14 
審決日 2012-08-27 
出願番号 特願2003-310084(P2003-310084)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高山 敏充  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 田中 晴絵
冨永 みどり
発明の名称 キャンディダ・ユティリスのグルタチオン合成酵素をコードする遺伝子  
代理人 佐貫 伸一  
代理人 遠山 勉  
代理人 川口 嘉之  
代理人 松倉 秀実  
代理人 丹羽 武司  
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