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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B01D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01D
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B01D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1264567
審判番号 不服2010-23511  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-19 
確定日 2012-10-11 
事件の表示 特願2005-166217「イオン交換複合膜体」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 1月26日出願公開、特開2006- 21193〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年6月6日(特許法第41条第1項の規定による優先権主張日平成16年6月7日)の出願であって、平成21年7月30日付けで拒絶理由通知書が起案され (発送日は同年8月4日)、平成21年10月5日に特許請求の範囲及び明細書の記載に係る手続補正書及び意見書が提出され、平成22年7月12日付けで拒絶査定が起案され (発送日は同年7月20日)、平成22年10月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで特許請求の範囲及び明細書の記載に係る手続補正書が提出されたものであり、その後平成24年1月30日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が起案され(発送日は同年1月31日)、平成24年4月2日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成22年10月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年10月19日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.本願補正発明
平成22年10月19日付けの手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、平成21年10月5日付けの手続補正により補正された
「 【請求項1】
カチオン交換膜の一方の面に、平均粒子径が10nm?10μmの範囲のアニオン性粒状重合体と平均粒子径が10nm?10μmの範囲のカチオン性粒状重合体とからなる、カチオン性基およびアニオン性基を有するイオン性構造体層を形成してなることを特徴とするイオン交換複合膜体。
【請求項2】
アニオン交換膜の一方の面に、平均粒子径が10nm?10μmの範囲のアニオン性粒状重合体と平均粒子径が10nm?10μmの範囲のカチオン性粒状重合体とからなる、カチオン性基およびアニオン性基を有するイオン性構造体層を形成してなることを特徴とするイオン交換複合膜体。
【請求項3】
イオン性構造体層が、固着剤としてのマトリックス樹脂を含有してなる請求項1または2に記載のイオン交換複合膜体。
【請求項4】
マトリックス樹脂が、エチレン系、プロピレン系、ジエン系、ビニル系、(メタ)アクリル系単量体を主単量体とする共重合体、該共重合体の水素添加物、ポリスルホン系、ポリアリレート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリアミドイミド系、ポリウレタン系、フッ素系およびシリコーン系樹脂から選ばれる少なくとも1種の重合体である請求項3に記載のイオン交換複合膜体。
【請求項5】
イオン性構造体層が、繊維状、糸状、織布状、不織布状、柱状、板状または球状の基材を含む請求項1または2に記載のイオン交換複合膜体。
【請求項6】
イオン性構造体層が、微細で透水可能な空隙を有する請求項1または2に記載のイオン交換複合膜体。」
から、次のとおりに補正された。
「 【請求項1】
カチオン交換膜の一方の面に、平均粒子径が10nm?10μmの範囲のアニオン性粒状重合体と平均粒子径が10nm?10μmの範囲のカチオン性粒状重合体とからなる、カチオン性基およびアニオン性基を有するイオン性構造体層を形成してなり、イオン性構造体層が、固着剤としてのマトリックス樹脂を含有してなることを特徴とする、脱塩室にイオン交換体の充填を必要としない電気透析装置用イオン交換複合膜体。
【請求項2】
アニオン交換膜の一方の面に、平均粒子径が10nm?10μmの範囲のアニオン性粒状重合体と平均粒子径が10nm?10μmの範囲のカチオン性粒状重合体とからなる、カチオン性基およびアニオン性基を有するイオン性構造体層を形成してなり、イオン性構造体層が、固着剤としてのマトリックス樹脂を含有してなることを特徴とする、脱塩室にイオン交換体の充填を必要としない電気透析装置用イオン交換複合膜体。
【請求項3】
イオン性構造体層を構成するイオン性粒状重合体およびマトリックス樹脂の合計に対して、マトリックス樹脂が10?80質量%の範囲である請求項1または2に記載のイオン交換複合膜体。
【請求項4】
マトリックス樹脂が、エチレン系、プロピレン系、ジエン系、ビニル系、(メタ)アクリル系単量体を主単量体とする共重合体、該共重合体の水素添加物、ポリスルホン系、ポリアリレート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリアミドイミド系、ポリウレタン系、フッ素系およびシリコーン系樹脂から選ばれる少なくとも1種の重合体である請求項3に記載のイオン交換複合膜体。
【請求項5】
イオン性構造体層が、繊維状、糸状、織布状、不織布状、柱状、板状または球状の基材を含む請求項1または2に記載のイオン交換複合膜体。
【請求項6】
イオン性構造体層が、微細で透水可能な空隙を有する請求項1または2に記載のイオン交換複合膜体。」

上記補正は、(i)本件補正前の独立項形式で記載された請求項1、2を削除し、(ii)それらの請求項を引用して記載していた本件補正前の請求項3を、独立項形式の記載に書き直して新たな請求項1、2とするとともに、(iii)新たな請求項1、2の発明を特定する末尾記載を、「イオン交換複合膜体」から、「脱塩室にイオン交換体の充填を必要としない電気透析装置用」というイオン交換複合膜体の用途についての記載を付加して、「脱塩室にイオン交換体の充填を必要としない電気透析装置用イオン交換複合膜体」に変更することを含むものである。

しかしながら、上記補正前の特許請求の範囲のいずれの請求項にも、イオン交換複合膜体の用途について何ら記載はなく、しかも「脱塩室にイオン交換体の充填を必要としない電気透析装置用」という、得られた「イオン交換複合膜体」をその後どのように使用するかというイオン交換複合膜体の用途についての記載は、「イオン交換複合膜体」の材質や性状、形状・構造等を限定的に特定する記載ではないので、上記補正(iii)は特許請求の範囲に記載された「イオン交換複合膜体」についての発明を特定するために必要な事項を限定するものとは言えないから、特許請求の範囲の限定的減縮にはあたらない。また、この補正が特許請求の範囲の請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明に当たらないことは明らかである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

なお、仮に、本件補正が特許請求の範囲の請求項の削除及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとして、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか、以下に検討する。

2.サポート要件違反について
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1には、「カチオン交換膜の一方の面に、平均粒子径が10nm?10μmの範囲のアニオン性粒状重合体と平均粒子径が10nm?10μmの範囲のカチオン性粒状重合体とからなる、カチオン性基およびアニオン性基を有するイオン性構造体層を形成してなり、イオン性構造体層が、固着剤としてのマトリックス樹脂を含有してなることを特徴とする、脱塩室にイオン交換体の充填を必要としない電気透析装置用イオン交換複合膜体。」と記載されているが、製作された後の本願補正発明のイオン交換複合膜体については、本件補正後の明細書には、
段落【0050】に「実施例2」として、「実施例1で作製したイオン性構造体層が積層されたカチオン交換膜またはイオン性構造体層が積層されたアニオン交換膜(何れも膜面積3.14cm^(2))の両側を0.01モル/LのKCl水溶液で満たし、両液中にそれぞれ銀・塩化銀電極を置き、イオン性構造体層側から一定電流を加え、その電流変化に応答する電圧変化を測定し、限界電流値を求め、上記のイオン性構造体層を積層していないイオン交換膜と比較した結果を下記表1に纏めた。イオン性構造体層が積層されたアニオン交換膜およびカチオン交換膜は何れも比較例の膜(イオン性構造体層が形成されていない膜)に比べて限界電流値が大きく、電気透析膜としてより有利であった。」と、電気透析装置においてではなく、単独で使用した実験での限界電流値測定についての記載と、
段落【0052】?【0053】に「実施例3」として、「本発明のイオン交換複合膜体して、カチオン交換膜およびアニオン交換膜にイオン性構造体層を固定して積層したイオン交換複合膜体を使用した電気透析装置の概略を図1に示した。
実施例2で示された特性を有するイオン性構造体層が固定され積層されたカチオン交換膜およびアニオン交換膜(何れも膜面積100cm^(2))を、間隔が2mmで、交互に10枚ずつ、脱塩室と濃縮室を交互に形成するように、かつイオン構造体層が脱塩室の内側になるように配置した。このように構成された脱塩室および濃縮室を具備し、両端に陽極室と陰極室を設置した電気透析装置を使用して、1%の食塩水(電気伝導度17.2ms/cm)1,000mlを流速5.5L/分で脱塩処理を行った。
比較例として上記のイオン性構造体層を積層していないイオン交換膜を使用した以外は上記と同様に脱塩処理を行った。その結果、1μS/cmまで脱塩精製するためには、比較例では初期電流が1.8Aで18Vの印加電圧が必要であったが、本発明によれば初期電流が1.5Aで印加電圧は7.0Vであり、比較例に比べて約1/3の消費電力で効率よく脱塩精製することができた。」と、イオン性構造体層を積層していないイオン交換膜を使用した電気透析装置の場合での比較例との比較結果が記載されているだけで、本願補正発明のイオン交換複合膜体を使用さえすれば、任意の形や配置で電気透析装置に用いても、その電気透析装置においては脱塩室にイオン交換体を充填せずに、脱塩室にイオン交換体の充填をした電気透析装置の場合と同様の、低電圧で効率よくイオンの移動を可能とし脱塩効率を向上させることができると、一般化して認識できる程度に記載ないし示唆がなされているものとは認められない。

そうすると、本願補正発明を始め、本件補正後の請求項2に記載した特定事項である「脱塩室にイオン交換体の充填を必要としない電気透析装置用」であることの客観的裏付けが発明の詳細な説明に記載されていないことは明らかであり、本願が特許法第36条第6条第1項に規定する要件を満たしているということはできない。

3.新規性進歩性要件違反について
(3-1)刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、特開平11-181119号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】イオン交換樹脂粒子とバインダーポリマーとから構成される不均質イオン交換膜の少なくとも一方の表面に、イオン交換体粒子を含む層を有するイオン交換膜。
【請求項2】イオン交換体粒子を含む層が、イオン交換体粒子をバインダーポリマーで結合したものである請求項1に記載のイオン交換膜。
【請求項3】イオン交換体粒子が、不均質イオン交換膜のイオン交換樹脂粒子の荷電符号と同じ荷電符号を有するものが70モル%以上である請求項1または2記載のイオン交換膜。」(【特許請求の範囲】)

(イ)「【発明の属する技術分野】本発明は、イオン交換膜、特に、水溶液中のイオンを吸着、または透過分離するためのイオン交換膜に関する。
【従来の技術】イオン交換膜として、数多くの文献、特許が報告されているが、もっとも実用的で有益なものとして、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体系の均質イオン交換膜がある。これらは、耐薬品性、耐熱性が優れることに加えて、架橋剤であるジビニルベンゼンの含有量を変えることにより、イオン交換特性や選択透過性を制御できるという特長があり、あらゆる用途に対し多種の品種を合成し発展してきた。特に、製塩に関わる、電気透析による海水濃縮分野においては、低電気抵抗で輸率が高く、1価イオンを選択的に透過する高度な機能を有する膜が開発されてきた。」(段落【0001】?【0002】)

(ウ)「本発明においては、イオン交換体粒子を含む層があるため、イオン交換樹脂粒子との導電性が確保されて、電気抵抗の小さいイオン交換膜が得られる。イオン交換体粒子は、不均質イオン交換膜中のイオン交換樹脂粒子と十分接触できるよう、不均質イオン交換膜表面に存在するバインダーポリマーの被覆層を破壊して押し込まれている状態であるのが好ましい。イオン交換体粒子を含む層を有する表面は片面でも両面でもよいが両面である場合はその効果が大きい。」(段落【0008】)

(エ)「本発明で使用されるイオン交換体粒子は、カチオン交換性、アニオン交換性、両性のイオン交換体単独あるいはそれらの混合物を用いることができる。イオン交換体粒子は、不均質イオン交換膜のイオン交換樹脂粒子の荷電符号と同じ荷電符号を有するものが70モル%以上であることが好ましい。逆の荷電符号の粒子が30モル%より多い場合は、イオンの流れが妨げられ電気抵抗を低下させる効果が小さくなるので好ましくない。」(段落【0009】)

(オ)「イオン交換体粒子の平均粒径は0.5?20μmであることが好ましい。平均粒径が0.5μmより小さい場合は、不均質イオン交換膜表面を被覆しているバインダーポリマー層への侵入が浅く、接触抵抗の低下効果が小さくなるので好ましくない。平均粒径が20μmより大きい場合は、接触抵抗の低下効果は大きいが膜の強度低下が大きくなるので好ましくない。」(段落【0012】)

(カ)「イオン交換体粒子の種類としては、上記粒径を満足するものであれば、有機イオン交換体、無機イオン交換体のいずれも使用できる。
有機イオン交換体としては、通常のスチレン-ジビニルベンゼン系イオン交換樹脂や4-ビニルピリジン系イオン交換樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリジアルキルアミノアルキルアクリレート系樹脂、ポリジアルキルアミノアルキルメタクリレート系樹脂、ポリスルホンなどの親電子置換反応が可能な芳香環を有するエンジニアリングプラスチックにイオン交換基を導入したものなどが挙げられるが、スチレン-ジビニルベンゼン系イオン交換樹脂は安価で入手しやすく品質も安定しているので本発明に好適な材料である。」(段落【0013】?【0014】)

(キ)「不均質イオン交換膜用のイオン交換樹脂としては、強酸性カチオン交換樹脂や強塩基性アニオン交換樹脂、両性イオン交換樹脂などが使用でき、これらは単独で使用してもよいし、それらを混合してもよい。」(段落【0025】)

(ク)「【発明の効果】本発明により、電気抵抗の低い不均質イオン交換膜が得られる。」(段落【0040】)

(3-2)対比、判断
(3-2-1)刊行物1には、記載事項(ア)に「【請求項1】イオン交換樹脂粒子とバインダーポリマーとから構成される不均質イオン交換膜の少なくとも一方の表面に、イオン交換体粒子を含む層を有するイオン交換膜。」と記載され、また記載事項(キ)に「不均質イオン交換膜用のイオン交換樹脂としては、強酸性カチオン交換樹脂や強塩基性アニオン交換樹脂、両性イオン交換樹脂などが使用でき、これらは単独で使用してもよい」と記載されている。
そして、記載事項(ア)には「【請求項2】イオン交換体粒子を含む層が、イオン交換体粒子をバインダーポリマーで結合したものである請求項1に記載のイオン交換膜。
【請求項3】イオン交換体粒子が、不均質イオン交換膜のイオン交換樹脂粒子の荷電符号と同じ荷電符号を有するものが70モル%以上である請求項1または2記載のイオン交換膜。」と記載されているとともに、記載事項(エ)には「本発明で使用されるイオン交換体粒子は、カチオン交換性、アニオン交換性、両性のイオン交換体単独あるいはそれらの混合物を用いることができる。イオン交換体粒子は、不均質イオン交換膜のイオン交換樹脂粒子の荷電符号と同じ荷電符号を有するものが70モル%以上であることが好ましい。逆の荷電符号の粒子が30モル%より多い場合は、イオンの流れが妨げられ電気抵抗を低下させる効果が小さくなるので好ましくない。」と記載され、さらに記載事項(エ)には「イオン交換体粒子の平均粒径は0.5?20μmであることが好ましい。」と記載されている。

これらの記載を整理すると、刊行物1には、
「カチオン交換樹脂粒子とバインダーポリマーとから構成される不均質カチオン交換膜の一方の表面に、平均粒子径が0.5μm?20μmの範囲のカチオン交換体粒子と平均粒子径が0.5μm?20μmの範囲のアニオン交換体粒子とを含む層を有し、イオン交換体粒子を含む層が、バインダーポリマーで結合されているイオン交換膜。」
の発明(以下、「刊行1発明」という。)が記載されているものと認められる。

(3-2-2)本願補正発明と刊行1発明とを対比する。
刊行1発明における「カチオン交換樹脂粒子とバインダーポリマーとから構成される不均質カチオン交換膜」は、本願補正発明の「カチオン交換膜」に、刊行1発明における「平均粒子径が0.5μm?20μmの範囲のカチオン交換体粒子と平均粒子径が0.5μm?20μmの範囲のアニオン交換体粒子とを含む層を有」する「イオン交換膜」は、本願補正発明の「イオン交換複合膜体」に、それぞれ該当することは明らかである。
また、記載事項(カ)には、「イオン交換体粒子の種類としては、上記粒径を満足するものであれば、有機イオン交換体、無機イオン交換体のいずれも使用できる。
有機イオン交換体としては、通常のスチレン-ジビニルベンゼン系イオン交換樹脂や4-ビニルピリジン系イオン交換樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリジアルキルアミノアルキルアクリレート系樹脂、ポリジアルキルアミノアルキルメタクリレート系樹脂、ポリスルホンなどの親電子置換反応が可能な芳香環を有するエンジニアリングプラスチックにイオン交換基を導入したものなどが挙げられるが、スチレン-ジビニルベンゼン系イオン交換樹脂は安価で入手しやすく品質も安定しているので本発明に好適な材料である。」と記載されているところ、
記載事項(カ)に「有機イオン交換体としては、通常のスチレン-ジビニルベンゼン系イオン交換樹脂や4-ビニルピリジン系イオン交換樹脂」とある「スチレン-ジビニルベンゼン系イオン交換樹脂」が、通常、カチオン交換樹脂として使用されていること、そしてその樹脂部分はスルホン酸基を含んでいるので、本願明細書の段落【0012】に記載されているようにアニオン性共重合体であり、一方、「4-ビニルピリジン系イオン交換樹脂」は、通常、アニオン交換樹脂として使用され、その樹脂部分はピリジニウム基を含んでいるので、本願明細書の段落【0012】に記載されているようにカチオン性重合体であることは、イオン交換体技術分野における技術常識であるから、刊行1発明における「平均粒子径が0.5μm?20μmの範囲のカチオン交換体粒子と平均粒子径が0.5μm?20μmの範囲のアニオン交換体粒子とを含む層を有し」は、本願補正発明の「平均粒子径が0.5μm?10μmの範囲のアニオン性粒状重合体と平均粒子径が0.5μm?10μmの範囲のカチオン性粒状重合体とからなる、カチオン性基およびアニオン性基を有するイオン性構造体層を形成してなり、」に該当することも明らかである。
そして、刊行1発明における「イオン交換体粒子を含む層が、バインダーポリマーで結合されている」ことが、本願補正発明の「イオン性構造体層が、固着剤としてのマトリックス樹脂を含有してなる」ことに他ならないことも、技術的に明らかである。
そうすると、本願補正発明と刊行1発明とは、
(一致点)
「カチオン交換膜の一方の面に、平均粒子径が0.5μm?10μmの範囲のアニオン性粒状重合体と平均粒子径が0.5μm?10μmの範囲のカチオン性粒状重合体とからなる、カチオン性基およびアニオン性基を有するイオン性構造体層を形成してなり、イオン性構造体層が、固着剤としてのマトリックス樹脂を含有してなるイオン交換複合膜体。」

で一致し、次の点で一応相違する。

(相違点a)
イオン交換複合膜体が、本願補正発明では、「脱塩室にイオン交換体の充填を必要としない電気透析装置用」のものであるのに対し、刊行1発明では、脱塩室にイオン交換体の充填を必要としない電気透析装置用イオン交換複合膜体であることが特定されていない点。

(3-2-3)この相違点について検討する。
刊行物1の記載事項(イ)に「本発明は、イオン交換膜、特に、水溶液中のイオンを吸着、または透過分離するためのイオン交換膜に関する。」と記載されているところ、水溶液中のイオンを「透過分離する」ためのイオン交換膜の使用形態として、陰極室と陽極室との間にカチオン交換膜とアニオン交換膜とを交互に配置して脱塩室と濃縮室とを形成して、水溶液中のイオンを透過分離する電気透析装置における使用が、最も一般的な使用形態である。さらに、イオン交換膜の用途について刊行物1の記載事項(イ)に、「特に、製塩に関わる、電気透析による海水濃縮分野においては、低電気抵抗で輸率が高く、1価イオンを選択的に透過する高度な機能を有する膜が開発されてきた。」と、イオン交換膜が電気透析を行う装置で用いられるものであることが記載されている。
そして、刊行物1の記載事項(ウ)に「本発明においては、イオン交換体粒子を含む層があるため、イオン交換樹脂粒子との導電性が確保されて、電気抵抗の小さいイオン交換膜が得られる。」と、同じく記載事項(ク)に「【発明の効果】本発明により、電気抵抗の低い不均質イオン交換膜が得られる。」と記載されているから、刊行1発明の電気抵抗の小さいイオン交換膜(イオン交換複合膜体)が、電気透析装置に用いられるイオン交換膜であることは、刊行物1に記載された事項から明らかな事項である。
しかも、刊行1発明のイオン交換複合膜体が脱塩室にイオン交換体の充填をしない電気透析装置で使用できないと解すべき事由は存在しない。
そうすると、相違点aにかかる特定事項は、刊行物1に記載されているに等しい事項であるから、結局、本願補正発明は、刊行1発明と実質的に区別できないので、刊行1発明に該当するものであるか、仮に相違点aにかかる特定事項が刊行物1に記載されているに等しい事項とまでは言えないとしても、刊行物1に教示されている事項を勘案すれば、刊行1発明のイオン交換複合膜体を脱塩室にイオン交換体の充填をしない、すなわちイオン交換体の充填を必要としない電気透析装置において使用することは、刊行1発明に基づいて当業者が適宜なし得る範囲内の事項である。

してみれば、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1条第3項に該当し、特許を受けることができないものであるか、または刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成22年10月19日付けの手続補正は前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成21年10月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「カチオン交換膜の一方の面に、平均粒子径が10nm?10μmの範囲のアニオン性粒状重合体と平均粒子径が10nm?10μmの範囲のカチオン性粒状重合体とからなる、カチオン性基およびアニオン性基を有するイオン性構造体層を形成してなることを特徴とするイオン交換複合膜体。」

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である刊行物1及びその記載事項は、前記第2の3.(3-1)に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2で検討した本願補正発明における本願の請求項3に係る特定事項である「イオン性構造体層が、固着剤としてのマトリックス樹脂を含有してなる」という限定がなく、イオン交換複合膜体についての「脱塩室にイオン交換体の充填を必要としない電気透析装置用」という用途についての限定がないものである。
してみると、本願発明を特定するために必要な事項である「イオン性構造体層」を、「イオン性構造体層が、固着剤としてのマトリックス樹脂を含有してなり」と限定すると共に、さらに前記第2の3.(3-2-2)における相違点aである、イオン交換複合膜体が「脱塩室にイオン交換体の充填を必要としない電気透析装置用イオン交換複合膜体」という用途についての限定があるものに相当する本願補正発明が、前記第2の3.に記載したとおり、刊行物1に記載された発明であるから特許法第29条第1条第3項に該当し、特許を受けることができないものであるか、または刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願補正発明と同様の理由により、本願の請求項3に係る特定事項である「イオン性構造体層が、固着剤としてのマトリックス樹脂を含有してなり」という限定がなく、かつ上記相違点aについてのイオン交換複合膜体の用途についての記載がない本願発明も、刊行物1に記載された発明と区別できないものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから特許法第29条第1条第3項に該当し、特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-10 
結審通知日 2012-08-14 
審決日 2012-08-27 
出願番号 特願2005-166217(P2005-166217)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01D)
P 1 8・ 113- Z (B01D)
P 1 8・ 575- Z (B01D)
P 1 8・ 57- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新居田 知生目代 博茂  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 田中 則充
斉藤 信人
発明の名称 イオン交換複合膜体  
代理人 阿部 寛志  
代理人 近藤 利英子  

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