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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F25B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F25B
管理番号 1264592
審判番号 不服2011-28189  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-28 
確定日 2012-10-11 
事件の表示 特願2009- 66485「超電導MRI装置およびクライオポンプ」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 6月18日出願公開、特開2009-133620〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,1995年8月22日(優先権主張1994年8月23日,1994年12月22日,日本国)を国際出願日とする特願平8-507941号の一部を平成17年5月23日に新たに特許出願し,この新たに出願した特願2005-149520号の一部を平成20年9月16日に新たな特許出願とし,さらに,この新たな特許出願である特願2008-235962号の一部を平成21年3月18日に新たな特許出願としたものであって,平成23年9月30日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年12月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされたものである。

2 平成23年12月28日付けの手続補正(以下「本件手続補正」という。)についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
本件手続補正を却下する。
〔理由〕
(1)補正後の本願発明
本件手続補正により,補正前の特許請求の範囲の請求項1は,
「 【請求項1】
蓄冷器を有し,該蓄冷器内を流れる作動媒質としてHeガスを用い,該作動媒質が前記蓄冷器内を一方向に流れ,さらに反対方向にも流れる構造を有する冷凍機を備えた超電導MRI装置であって,
前記蓄冷器は,蓄冷容器と,前記蓄冷容器に充填された急冷凝固法により粒体化した磁性蓄冷材粒体からなる極低温用蓄冷材とを具備し,
前記磁性蓄冷材粒体を構成する磁性蓄冷材粒子個々の投影像の周囲長をL,前記投影像の実面積をAとしたとき,前記磁性蓄冷材粒体はL^(2)/4πAで表される形状因子Rが1.5を超える前記磁性蓄冷材粒子の比率が5%以下となるように形状分級され,
前記磁性蓄冷材粒体を構成する磁性蓄冷材粒子のうち,前記磁性蓄冷材粒体から1gを抽出し,インストロン型の圧縮試験機にてクロスヘッドスピード0.1m/minで5MPaの圧縮力を加えたときに破壊する前記磁性蓄冷材粒子の比率が1重量%以下であり,
前記磁性蓄冷材粒体を構成する磁性蓄冷材粒子のうち,短径に対する長径の比が5以下である前記磁性蓄冷材粒子の比率が70重量%以上であり,
前記磁性蓄冷材粒体を構成する磁性蓄冷材粒子のうち,0.01?3.0mmの範囲の粒径を有する前記磁性蓄冷材粒子の比率が70重量%以上であり,
前記磁性蓄冷材粒体は,RMz(RはY,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,TmおよびYbから選ばれる少なくとも1種の希土類元素を,MはNi,Co,Cu,Ag,AlおよびRuから選ばれる少なくとも1種の金属元素を示し,zは0.001?9.0の範囲の数である),またはARh(AはSm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,TmおよびYbから選ばれる少なくとも1種の希土類元素を示す)で表される希土類元素を含む金属間化合物からなり,
前記冷凍機は,5000時間の連続運転後,冷凍能力が297mW以上,または最低到達温度が5.9K以下と安定した能力を有する
ことを特徴とする超電導MRI装置。」(下線は当審にて付与。)
と補正された。

上記補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定する事項である,「冷凍機は,5000時間の連続運転の間安定した冷凍能力を有する」について,「冷凍機は,5000時間の連続運転後,冷凍能力が297mW以上,または最低到達温度が5.9K以下と安定した能力を有する」と限定するものである。また,補正後の請求項1に記載された発明は,補正前の請求項1に記載された発明と,発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって,上記補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件手続補正後の上記請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下に検討する。

(2)引用例の記載事項,及び引用例に記載された発明

ア.原査定における拒絶の理由に引用された特開平3-174486号公報(以下「引用例1」という。)には,以下の事項が図面とともに記載されている。

(a)「(産業上の利用分野)
本発明は冷凍機等に使用される蓄冷材およびその製造方法に係り,特に機械的強度および化学的安定性に優れ,運転中に作用する熱衝撃や振動に対する耐性が良好であり,微粉化して冷却媒体の通気を困難にするおそれが少ない極低温用蓄冷材およびその製造方法に関する。
(従来の技術)
・・・
従来医療分野で断層写真を撮影する超電導MRI(核磁気共鳴イメージング)装置においては,超電導磁石を冷却するために,例えばギフォード・マクマホン型の小型ヘリウム冷凍機(GM冷凍機)が採用されている。
このGM冷凍機は,Heガスを圧縮するコンプレッサと,圧縮したHeガスを膨張させる膨張部と,膨張部で冷却されたHeガスの冷却状態を維持するための蓄冷部とを組み合せて構成されている。そして1分間に約60回のサイクルでコンプレッサで圧縮されたHeガスを冷凍機で膨張させて冷却し,冷凍機の膨張部の先端部を通じて,被冷却系を冷却するものである。
ところで従来の冷凍機の蓄冷部は,一般に銅や鉛を主原料にして形成した粒状の蓄冷材を高密度で充填したり,または金網状の蓄冷材を多層に充填して構成される。
しかしながら,かかる銅や鉛製の蓄冷材は,第8A図に示すように20K以下の極低温領域において体積比熱が急激に減少し,到達温度をさらに低くすることが困難である。すなわち鉛を使用した場合においては,10K (-263℃)以下の温度域で蓄冷効果が喪失してしまうため,従来の冷却下限到達温度は10?9Kが限界とされていた。
本出願人は上記の問題点を解決するために鋭意研究を重ね,より絶体零度に近い極低温領域において体積比熱が大きい蓄冷材を開発し,特願昭63-21218号明細書で提示している。
上記出願に係る低温蓄熱器に充填される蓄冷材は,極低温領域においても体積比熱が大きい,希土類元素とNi,Co,Cuとの化合物磁性材料にて形成されるものである。
これらの化合物磁性材料のうち,特にエルビウム3ニッケル(Er-N i_(1/3))は第8A図に示すように,常温から15K(-258℃)までの温度域においては,体積比熱が鉛と同等である一方,15K以下の極低温領域においては鉛よりも優れた比熱特性を有することがわかる。」(第2頁右上欄第9行-第3頁左上欄第7行)

(b)「(発明が解決しようとする課題)
しかしながら従来のプラズマスプレー法によって調製した蓄冷材の粒子は,本来希土類元素とNiなどの金属とが化合して形成された脆い金属間化合物である上に,粒子表面にクラックの発生源となる微細な凹凸を有し,さらに粒界と粒内でミクロな偏析が形成されているため,粒子の強度が小さい。そのため冷凍機の運転時に作用する熱衝撃や振動および冷却ガスの流れ等によって微粉化し易いという致命的な欠点がある。微粉化した蓄冷材は,蓄冷部の目詰りを生じて,作動流体であるHeガスの通過抵抗を増大せしめる一方,Heガスに同伴されてコンプレッサ内に侵入し,部品を摩耗させる等の問題を生じる。
また粒子の形状が不定であり粒径分布が極めてブロードであり,かつ粒子のアスペクト比(長短径比)も大きいものが多い。また特に粒径が小さな粒子の割合が多いため,実際に蓄冷部に充填するものについては,予め分級して細かい粒子を除去する操作が必要となる。そのため原材料に対する蓄冷材の収率が30%程度と極めて低く,高価な希土類元素の利用効率が低く不経済であるという問題もあった。また粒子が不定形状であるため,蓄冷部における蓄冷材の充填密度が上がらず,蓄冷効率が低い欠点もある。
・・・
さらにプラズマスプレー法によって調製した蓄冷材粒子は第10A図および第10B図に示すように粒子表面の粗さが極めて大きく,使用時において破壊の起点となる凹凸や微小なクラックが多数発生しており,この凹凸やクラックが存在するために機械的強度が低く,微粉化が進行し易くなると考えられる。
本発明は上記の問題点を解決するためになされたものであり,機械的強度および化学的安定性に優れ,使用中に微粉化して冷却媒体の通過を困難にするおそれがなく,さらに原材料から高い収率で経済的に製造することが可能な蓄冷材およびその製造方法を提供することを目的とする。」(第3頁右上欄第4行-右下欄第15行)

(c)「〔発明の構成〕
(課題を解決するための手段と作用)
本願発明者等は以上の観点から冷凍機の性能低下および蓄冷材の微粉化の原因となる多くの要因,例えば原料種類,蓄冷材粒体の平均粒径,短径に対する長径の比等の影響について実験研究を繰り返したところ,希土類元素を主体にした原料金属溶湯を急冷凝固し,生成した粒体の平均粒径および短径に対する長径の比(以下,アスペクト比という。)を適正な範囲に設定したときに,従来に比べて機械的強度および化学的安定性に優れた蓄冷材を得た。また特に冷凍機の蓄冷効率を高めるためには蓄冷部を流通する冷却媒体の通過抵抗を増大させることなく,蓄冷材の充填密度を最大にする必要がある。そのためには各蓄冷材粒子の真球度を高めて最密充填ができるように形成するとともに,粒子の表面粗さを可及的に微小化し,粒子相互の接触面積を低減する必要があることに,本願発明者らは思い至った。本発明は上記知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明に係る蓄冷材は,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybから選択された少なくとも1種の希土類元素を含有する磁性粒体であり,かつ粒径が0.01mm以上3mm以下の磁性粒体の全粒体に対する割合が70重量%以上であり,かつ短径に対する長径の比が5以下である磁性粒体の全粒体に対する割合が70重量%以上である磁性粒体から成ることを特徴とする。特に粒子の表面粗さを最大高さ(Rmax)基準で10μm以下にするとよい。
また本発明に係る蓄冷材の製造方法は,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybから選択された少なくとも1種の希土類元素を含有する金属溶湯を調製し,この金属溶湯を急冷凝固処理することによって製造される球状の磁性粒体を集合させることを特徴とする。」(第3頁右下欄第16行-第4頁右上欄第13行)

(d)「ここで上記希土類元素A(Yを含む)は,特に10K以下の極低温領域においても高い体積比熱を有する磁性粒体を形成するために必須の元素であり,体積比熱がピークを示す各温度帯に応じて1種または2種以上の元素が使用される。希土類元素(A)はNi,Co,Cuなどの金属(M)と化合してA・M_(Z)なる磁性化合物を形成する。特に希土類元素のエルビウム(Er)とニッケル(Ni)との化合物の密度は高く,かつ15K以下の極低温領域においては,Pbよりも優れた体積比熱を有する。」(第4頁左下欄第9行-第19行)

(e)「また本願発明の蓄冷材は,例えば第1A図および第1B図に示すように冷凍機の蓄冷器容器2a,2b内に充填される。」(第4頁右下欄第8行-第10行)

(f)「磁性粒体の粒径は粒体の強度,冷凍機の冷却機能および伝熱特性に大きな影響を及ぼすファクターであり,その粒径が0.01mm未満となると,蓄冷部に充填する際の密度が高くなり過ぎて,冷却媒体であるHeガスの通過抵抗が急激に増大する上に,流通するHeガスに同伴されてコンプレッサ内に侵入して構成部品等を早期に摩耗させてしまう。
一方,粒径が3mmを超える場合には,粒体の結晶組織に偏析を生じて脆くなるとともに磁性粒体と冷却媒体であるHeガスとの間の熱伝達性が著しく低下してしまうおそれがあるからである。したがって平均粒径は0.01mm以上3mm以下に設定されるが,より好ましくは0.1mm以上2mm以下が適当である。また冷却機能および強度を実用上充分に発揮させるためには,上記粒径の粒子が少なくとも70%以上,好ましくは80%以上,さらに好ましくは90%以上必要である。
また本願発明において磁性粒体の短径に対する長径の比(アスペクト比)は5以下好ましくは3以下,さらに好ましくは2以下,なお一層好ましくは1.3以下に設定される。磁性粒体のアスペクト比は,粒体の強度および蓄冷部に充填する際の充填密度に大きな影響を及ぼすものであり,アスペクト比が5を超える場合には,機械的作用によって変形破壊を起こし易くなるとともに,蓄冷部に高密度で充填することが困難となり,蓄冷効率が低下するからである。
ここで溶湯急冷法によって調製した磁性粒体の粒径のばらつきおよび短径に対する長径の比のばらつきは,従来のプラズマスプレー法の場合と比較して大きく減少するため,上記範囲外の磁性粒体の割合が少ない。またばらつきが生じた場合においても,それらを適宜分級して使用することも容易である。この場合,蓄冷部に充填する全磁性粒体のうち,アスペクト比が上記範囲内の磁性粒体の割合を70%以上,好ましくは80%以上,さらに好ましくは90%以上とすることにより,充分に実用に耐える蓄冷材とすることができる。
・・・
また磁性粒体の表面粗さは,機械的強度,冷却特性,冷却媒体の通過抵抗,蓄冷効率等に大きな影響を及ぼす要因であり,一般にJIS BO601で規定する凹凸の最大高さRmaxで10μm以下,好ましくは5μm以下,さらに好ましくは2μm以下に設定することが望ましい。なお,これらの表面粗さは走査トンネル顕微鏡(STM粗さ計)によって測定することができる。表面粗さが10μmRmaxを超えると,粒体破壊の出発点となるマイクロクラックが発生し易くなるとともに,冷却媒体の通過抵抗が上昇しコンプレッサの負荷が増大したり,特に充填された磁性粒体同士の接触面積が増大し,磁性粒体間における冷熱の移動が大きくなり蓄冷効率が低下してしまうからである。」(第5頁左上欄第5行-右下欄第13行)

(g)「特に溶湯急冷法によって磁性粒体を調製しているため,各粒体中における偏析や組織の不均一がほとんど発生しないため,磁性粒体自体の機械的強度および化学的特性が,従来のプラズマスプレー法によって調製されたものと比較して大幅に改善される。そのため蓄冷材として長時間使用した場合においても,微粉化するおそれが少なく,冷凍機の性能を低下させることが少ない。
また磁性粒体はほぼ球体に近く,またその表面は鏡面状に極めて平滑に形成されるため,蓄冷部における充填密度を高く設定することが可能となる上に,冷却媒体の通過抵抗を大幅に低減することができる。さらに粒体表面に,破壊原因となる微小クラック等の欠陥がほとんど形成されないため,蓄冷材の寿命を大幅に延伸することができる。
また溶湯急冷法によって調製された磁性粒体群の粒径のばらつきおよび短径に対する長径の比のばらつきは,従来のプラズマスプレー法によるものと比較して極めて少ないため,分級操作の必要性が減少するとともに,原材料に対する製品粒体の収率が90?95%程度まで改善され,蓄冷材の製造コストを大幅に低減することができる。」(第7頁左下欄第17行-右下欄第18行)

(h)「実施例1,比較例1
第2図に示すようなRDP法による粒体製造装置を使用して,組成比がそれぞれErNi_(1/3),ErNi,ErNi_(2),PrB_(6),Gd_(0.5)Er_(0.5)Rh,Er_(0.75)Dy_(0.25)Ni_(2),Er_(0.5)Dy_(0.5)Ni_(2),DyNi_(2),GdRhである合金溶湯を急冷凝固処理した。処理条件は円板状回転体の外径を80mm,回転数は10000rpmに設定した。その結果,100?300μmの粒径を有し,短径に対する長径の比が1.00?1.02である磁性粒体がそれぞれの溶湯重量に対して90%以上の割合で得られた。
得られた各磁性粒体のうち,代表的なErNi_(1/3)(Er_(3)Ni)の外観を第7図に示す。各組成比の磁性粒体は,いずれも第7図に示すようにほぼ球形に近い形状を有するとともに,その表面は鏡面のように平滑であった。
そして得られた各磁性粒体の体積比熱を測定したところ第8A図および第8B図に示す特性値を得た。
また得られた各磁性粒体を最密充填に近い充填率68%にて蓄冷部に充填した後に,熱容量25J/KのHeガスを3g/secの質量流量,16atmのガス圧の条件で供給するGM冷凍運転サイクルを連続500Hr継続した時点における,蓄冷部を流通するヘリウムガスの通過抵抗を測定した結果,運転開始時からの通過抵抗の増加割合は全て1%以下であった。」(第8頁左上欄第2行-右上欄第10行)

イ.ここで,上記記載事項,及び第1A,B図から,次のことが分かる。

(i) 上記(c)の「急冷凝固処理することによって製造される球状の磁性粒体を集合させる」,(e),及び(h)の「得られた各磁性粒体を最密充填に近い充填率68%にて蓄冷部に充填」の記載からみて,蓄冷部は,蓄冷器容器と,蓄冷器容器に充填された急冷凝固処理することによって製造される球状の磁性粒体からなる蓄冷材とを具備することが分かる。

(j) 上記(a)において,「本発明は冷凍機等に使用される蓄冷材」に係るものとし,さらに従来技術として,超電導MRI装置におけるGM冷凍機が例示されているから,上記記載事項(b)ないし(h)における蓄冷材は,GM冷凍機を備えた超電導MRI装置において適用されるものであることが分かる。

(k) 「冷凍機等に使用される蓄冷材」(上記(a)参照)として, 「Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybから選択された少なくとも1種の希土類元素を含有する粒体であり,かつ粒径が0.01mm以上3mm以下の粒体の割合が全粒体に対して70重量%以上であり,かつ,短径に対する長径の比が5以下である粒体の割合が全粒体に対して70重量%以上である粒体から成ることを特徴とする」(上記(c)参照)ものが記載されている。
そして,その「Y・・・Ybから選択された少なくとも1種の希土類元素を含有する粒体」について,「希土類元素(A)はNi,Co,Cuなどの金属(M)と化合してA・Mなる磁性化合物を形成する・・・エルビウム(Er)とニッケル(Ni)との化合物の密度は高く・・・」(上記(d)参照)として,「代表的なErNi_(1/3)」(上記(h)参照)の粒体,が用いられることが記載されている。
すると,上記記載事項(b)ないし(h)における蓄冷材は,代表的にはErNi_(1/3)からなることが分かる。

ウ.以上の(a)ないし(k)によれば,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「GM冷凍機を備えた超電導MRI装置であって,
蓄冷部は,蓄冷器容器と,蓄冷器容器に充填された急冷凝固処理することによって製造される球状の磁性粒体からなる蓄冷材とを具備し,
磁性粒体の表面粗さを最大高さ(Rmax)基準で10μm以下にして,表面を鏡面状に平滑に形成し,
短径に対する長径の比が5以下である磁性流体の全流体に対する割合が70重量%以上であり,
粒径が0.01mm以上3mm以下の磁性粒体の全粒体に対する割合が70重量%以上であり,
蓄冷材はErNi_(1/3)からなり,
蓄冷材として長時間使用した場合においても,微粉化するおそれが少なく,冷凍機の性能を低下させることが少ない
超電導MRI装置。」

(3)対比
引用発明における「GM冷凍機」は,その構造(上記(a)参照)からみて,本願補正発明の「蓄冷器を有し,該蓄冷器内を流れる作動媒質としてHeガスを用い,該作動媒質が前記蓄冷器内を一方向に流れ,さらに反対方向にも流れる構造を有する冷凍機」に相当する。

引用発明における「蓄冷部」,「蓄冷器容器」,「急冷凝固処理することによって製造される球状の磁性粒体」,「蓄冷材」は,それぞれ本願補正発明の「蓄冷器」,「蓄冷容器」,「急冷凝固法により粒体化した磁性蓄冷材粒体」,「極低温用蓄冷材」に相当する。

引用発明における「短径に対する長径の比が5以下である磁性流体の全流体に対する割合が70重量%以上であ」ることは,本願補正発明の「磁性蓄冷材粒体を構成する磁性蓄冷材粒子のうち,短径に対する長径の比が5以下である前記磁性蓄冷材粒子の比率が70重量%以上であ」ることに相当し,同様に,
「粒径が0.01mm以上3mm以下の磁性粒体の全粒体に対する割合が70重量%以上であ」ることは,「磁性蓄冷材粒体を構成する磁性蓄冷材粒子のうち,0.01?3.0mmの範囲の粒径を有する前記磁性蓄冷材粒子の比率が70重量%以上であ」ることに,
「蓄冷材はErNi_(1/3)からな」ることは,「磁性蓄冷材粒体は,RMz(RはY,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,TmおよびYbから選ばれる少なくとも1種の希土類元素を,MはNi,Co,Cu,Ag,AlおよびRuから選ばれる少なくとも1種の金属元素を示し,zは0.001?9.0の範囲の数である),またはARh(AはSm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,TmおよびYbから選ばれる少なくとも1種の希土類元素を示す)で表される希土類元素を含む金属間化合物からな」ることに相当する。

(4)一致点・相違点
したがって,本願補正発明と,引用発明とは,本願補正発明の記載に倣うと,
「蓄冷器を有し,該蓄冷器内を流れる作動媒質としてHeガスを用い,該作動媒質が前記蓄冷器内を一方向に流れ,さらに反対方向にも流れる構造を有する冷凍機を備えた超電導MRI装置であって,
前記蓄冷器は,蓄冷容器と,前記蓄冷容器に充填された急冷凝固法により粒体化した磁性蓄冷材粒体からなる極低温用蓄冷材とを具備し,
前記磁性蓄冷材粒体を構成する磁性蓄冷材粒子のうち,短径に対する長径の比が5以下である前記磁性蓄冷材粒子の比率が70重量%以上であり,
前記磁性蓄冷材粒体を構成する磁性蓄冷材粒子のうち,0.01?3.0mmの範囲の粒径を有する前記磁性蓄冷材粒子の比率が70重量%以上であり,
前記磁性蓄冷材粒体は,RMz(RはY,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,TmおよびYbから選ばれる少なくとも1種の希土類元素を,MはNi,Co,Cu,Ag,AlおよびRuから選ばれる少なくとも1種の金属元素を示し,zは0.001?9.0の範囲の数である),またはARh(AはSm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,TmおよびYbから選ばれる少なくとも1種の希土類元素を示す)で表される希土類元素を含む金属間化合物からなる,
超電導MRI装置。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

<相違点1>
本願補正発明は「磁性蓄冷材粒体を構成する磁性蓄冷材粒子個々の投影像の周囲長をL,前記投影像の実面積をAとしたとき,前記磁性蓄冷材粒体はL^(2)/4πAで表される形状因子Rが1.5を超える前記磁性蓄冷材粒子の比率が5%以下となるように形状分級され」るのに対して,
引用発明は「粒子の表面粗さを最大高さ(Rmax)基準で10μm以下にして,表面を鏡面状に平滑に形成」する点。

<相違点2>
本願補正発明は「磁性蓄冷材粒体を構成する磁性蓄冷材粒子のうち,前記磁性蓄冷材粒体から1gを抽出し,インストロン型の圧縮試験機にてクロスヘッドスピード0.1m/minで5MPaの圧縮力を加えたときに破壊する前記磁性蓄冷材粒子の比率が1重量%以下であ」るのに対して,
引用発明はそのように特定されていない点。

<相違点3>
本願補正発明は「冷凍機は,5000時間の連続運転後,冷凍能力が297mW以上,または最低到達温度が5.9K以下と安定した能力を有する」ものであるのに対して,
引用発明は「蓄冷材として長時間使用した場合においても,微粉化するおそれが少なく,冷凍機の性能を低下させることが少ない」としている点。

(5)判断
ア.上記相違点1について検討するに,粒子表面の平滑さを評価する指標として,粒子個々の投影像の周囲長をL,投影像の実面積をAとしたとき,L^(2)/4πAで表される形状因子を採用することは,例えば,特開昭59-56492号公報(第3頁左上欄第2行-第4行,右上欄第1行-第5行),特開平5-333603号公報(段落【0025】),及び特開平2-187771号公報(第6欄第1行-第15行)に開示されるごとく従来周知である。
引用発明において,粒子表面を鏡面状に平滑に形成するために,平滑さを評価する指標として,「最大高さRmax 」に換えて,上記従来周知の形状因子を適用し,形状因子が一定の程度を超える比率を所定以下にすることは当業者であれば容易に想到することである。また,具体的に,形状因子Rが1.5を超える粒子の比率が5%以下と決定することは当業者が実験等に基づき適宜なし得たものであるし,かかる数値自体には格別の意義も認められない。
さらに,引用発明は,最大高さ(Rmax)基準で10μm以下とするにあたり「形状分級」するものではないが,引用発明においても,短径に対する長径の比,及び粒径を,所定範囲にする手段として,「分級」を用いている(特に,上記(f)の「ばらつきが生じた場合においても,それらを適宜分級して使用することも容易である」,(g)の「分級操作の必要性」参照。)。そうすると,引用発明において,表面が鏡面状に平滑に形成された粒子のみにするように,形状因子に基づいて「分級」することは当業者が適宜なし得たものである。
したがって,引用発明の粒子の表面についての特定に換えて、周知技術を適用して,上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易になし得たものである。

イ.上記相違点2について検討するに,引用発明は,「粒子の強度が小さい」ために「冷凍機の運転時に作用する熱衝撃や振動および冷却ガスの流れ等によって微粉化し易い」ことから,「機械的強度および化学的安定性に優れ,使用中に微粉化して冷却媒体の通過を困難にするおそれがな」い蓄冷材を提供することを課題とする(上記(b)参照)。
引用発明において,上記課題の下,粒子の機械的強度に関して,一定量抽出した粒子に対して圧縮力を加えたときに破壊する粒子の比率が所定以下であると設定することは,当業者が適宜なしうるものである。この際に,圧縮力を加える際の条件として,破壊試験機として一般的に用いられている周知慣用のインストロン型の圧縮試験機(例えば,特表平3-504846号公報第5頁左下欄第8行-第12行,特開昭54-41296号公報第4頁左下欄第11行-15行)を用いることとして,具体的に,粒子1gを抽出し,クロスヘッドスピード0.1m/minで5MPaの圧縮力を加えたときに破壊する粒子の比率が1重量%以下とすることは,要求される機械的強度の観点から,当業者が適宜決定し得たものである。また,これによる数値自体の効果は,機械的強度に対する信頼性を評価する(本願明細書段落【0020】-【0023】参照。)というにとどまるものであって,格別なものではない。
したがって,引用発明に周知技術を適用して,上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易になし得たものである。

ウ.上記相違点3について検討するに,引用発明は,蓄冷材として長時間使用した場合においても,微粉化するおそれが少なく,冷凍機の性能が低下しないものである。「長時間使用した場合」として,5000時間の連続運転後とすることは適宜設定しうるものである。また「冷凍機の性能が低下しない」ことを具体化するものとして,冷凍能力が297mW以上,または最低到達温度が5.9K以下とすることは,冷凍能力が消費電力等の運転条件にもよること,及び上記(a)における,従来の鉛の「冷却下限到達温度は10?9K」,「エルビウム3ニッケル(Er-N i_(1/3))は・・・15K以下の極低温領域においては鉛よりも優れた比熱特性を有する」との記載,に鑑みれば,当業者が適宜定め得たものにすぎない。
したがって,引用発明に基づいて,上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易になし得たものである。

しかも,全体として本願補正発明が奏する効果も,引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものであって,格別顕著なものでもない。

(6)独立特許要件について
したがって,本願補正発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

(7)まとめ
以上のとおり,本件手続補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり,特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3 本願発明について
(1)本願発明
上記のとおり,本件手続補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成23年3月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるところ,請求項1は次のとおり記載されている。
「 【請求項1】
蓄冷器を有し,該蓄冷器内を流れる作動媒質としてHeガスを用い,該作動媒質が前記蓄冷器内を一方向に流れ,さらに反対方向にも流れる構造を有する冷凍機を備えた超電導MRI装置であって,
前記蓄冷器は,蓄冷容器と,前記蓄冷容器に充填された急冷凝固法により粒体化した磁性蓄冷材粒体からなる極低温用蓄冷材とを具備し,
前記磁性蓄冷材粒体を構成する磁性蓄冷材粒子個々の投影像の周囲長をL,前記投影像の実面積をAとしたとき,前記磁性蓄冷材粒体はL2/4πAで表される形状因子Rが1.5を超える前記磁性蓄冷材粒子の比率が5%以下となるように形状分級され,
前記磁性蓄冷材粒体を構成する磁性蓄冷材粒子のうち,前記磁性蓄冷材粒体から1gを抽出し,インストロン型の圧縮試験機にてクロスヘッドスピード0.1m/minで5MPaの圧縮力を加えたときに破壊する前記磁性蓄冷材粒子の比率が1重量%以下であり,
前記磁性蓄冷材粒体を構成する磁性蓄冷材粒子のうち,短径に対する長径の比が5以下である前記磁性蓄冷材粒子の比率が70重量%以上であり,
前記磁性蓄冷材粒体を構成する磁性蓄冷材粒子のうち,0.01?3.0mmの範囲の粒径を有する前記磁性蓄冷材粒子の比率が70重量%以上であり,
前記磁性蓄冷材粒体は,RMz(RはY,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,TmおよびYbから選ばれる少なくとも1種の希土類元素を,MはNi,Co,Cu,Ag,AlおよびRuから選ばれる少なくとも1種の金属元素を示し,zは0.001?9.0の範囲の数である),またはARh(AはSm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,TmおよびYbから選ばれる少なくとも1種の希土類元素を示す)で表される希土類元素を含む金属間化合物からなり,
前記冷凍機は,5000時間の連続運転の間安定した冷凍能力を有する
ことを特徴とする超電導MRI装置。」
(以下,請求項1に係る発明を,「本願発明」という。)

(2)引用例の記載事項,及び引用例に記載された発明
原査定における拒絶の理由に引用された特開平3-174486号公報(引用例1)に記載された事項,及び引用発明は,上記2(2)に記載したとおりである。

(3)対比・検討
本願発明は,本願補正発明を特定する事項である「冷凍機は,5000時間の連続運転後,冷凍能力が297mW以上,または最低到達温度が5.9K以下と安定した能力を有する」について,「冷凍機は,5000時間の連続運転の間安定した冷凍能力を有する」と拡張するものである。
そうすると,本願発明の構成要件を全て含み,さらに「冷凍機は,5000時間の連続運転の間安定した冷凍能力を有する」について「冷凍機は,5000時間の連続運転後,冷凍能力が297mW以上,または最低到達温度が5.9K以下と安定した能力を有する」と限定したものに相当する本願補正発明が,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおりであって,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-08 
結審通知日 2012-08-14 
審決日 2012-08-28 
出願番号 特願2009-66485(P2009-66485)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F25B)
P 1 8・ 575- Z (F25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田々井 正吾  
特許庁審判長 竹之内 秀明
特許庁審判官 森川 元嗣
亀田 貴志
発明の名称 超電導MRI装置およびクライオポンプ  
代理人 特許業務法人サクラ国際特許事務所  

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