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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07D |
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管理番号 | 1264681 |
審判番号 | 不服2009-21651 |
総通号数 | 156 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-11-09 |
確定日 | 2012-10-09 |
事件の表示 | 特願2002-565971「GlyT-1阻害剤」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月29日国際公開、WO02/66456、平成16年 8月 5日国内公表、特表2004-523548〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願(以下、「本願」ということがある。)は、2002年 2月 15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年 2月16日、アメリカ合衆国〔US〕)を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は、概略以下のとおりである。 平成20年10月 7日付け 拒絶理由通知書 平成21年 5月 7日 意見書 平成21年 6月26日付け 拒絶査定 平成21年11月 9日 審判請求書・手続補正書 平成23年 4月15日付け 審尋 なお、審尋に対して、指定期間内に請求人からの回答はなかった。 第2 原査定における拒絶の理由 平成21年 6月26日付けの拒絶査定には、「この出願については、平成20年10月7日付拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。」と記載され、平成20年10月 7日付け 拒絶理由通知書には「理由」として「2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」との記載とともに、「○理由2及び3について B.請求項 21?50」と記載されている。 したがって、原査定における拒絶の理由は、「この出願の特許請求の範囲の請求項21?50に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、この出願の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、特許法第49条第4号に該当し、拒絶をすべきものである」という理由を含むものであると認められる。 第3 本願発明 平成21年11月 9日付けの手続補正書による補正は、請求項の削除及び明りようでない記載の釈明を目的とするものと認められる。 この出願において、特許を受けようとする発明は、上記手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?39に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、請求項21には、以下のとおり記載されている(以下、請求項21に記載された事項により特定される発明を「本願発明」という。また、この補正後の請求項21は、補正前の請求項43に対応するものと認められる。)。 「分裂病、認知機能不全、痴呆(アルツハイマー病を含む)、注意欠陥障害、うつ病、自閉症疾患、Rett疾患、小児期崩壊性障害、アスペルガー障害および異型自閉症からなる群より選択される医学的症状を有する患者を治療するための薬物を製造するための、式Iの化合物の使用 【化3】 式中、 Ar_(1)は、1つまでのメチルまたはエチルによって選択的に置換されるチエニルであり、並びに Ar_(2)は、チエニル、フリル、および置換されたフェニルからなる群より選択され、フェニル置換基は、C_(1-6)アルキル、ハロ、C_(1-6)ハロアルキル、C_(1-6)アルコキシ、C_(1-6)ハロアルコキシ、およびシアノから選択される。」 第4 当審の判断 当審は、原査定のとおり、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、この出願の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、特許法第49条第4号に該当し、拒絶をすべきものであると判断する。 その理由は、以下のとおりである。 1 サポート要件について 特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(平成17年(行ケ)第10042号判決参照)。 そこで、以下、上記の観点に立って、本願の特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かを検討する。 2 発明の詳細な説明の記載 本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 ア 「【0011】 たとえば、GlyT-1で媒介されるグリシン輸送を阻害する化合物は、NMDA受容体(この受容体は、その他の位置のうち前脳に位置する)でグリシン濃度を増大しているかもしれない。この濃度の増大は、おそらくNMDA受容体の活性を上昇することができ、これにより分裂病の症状を軽減して認識機能を増強し得る。あるいは、NMDA受容体のグリシン受容体成分と直接相互作用する化合物は、それぞれGlyT-1活性を阻害または増強することによって引き起こされる細胞外グリシンの利用可能性を増大または減少するので、同じか、または同様の効果を有し得る。…… 【0012】 GlyT-1輸送体に結合し、および阻害することに有効であり、インビボにおいて投与されたときに毒作用をも示す多くの化合物が見出されている。このような化合物は、輸送体の機能を研究するための有用な薬学的手段であるが、毒性は、医薬品としてのこのような化合物の有用性を制限するあろう。 【0013】 それゆえに、グリシン輸送に影響を及ぼす化合物を提供することは望ましい。また、グリシン輸送に影響を及ぼすが、薬学的組成物に有用であるように、十分に非毒性である化合物を提供することは望ましい。」 イ 「【0014】 発明の概要 本発明は、GlyT-1輸送の阻害に有効であることが見出され、かつ医学的に有用であるように十分に非毒性である化合物に関する。より詳細には、本発明の化合物は、その他の既知のGlyT-1阻害剤を越える予想外に改善された毒性プロフィールを示す。本発明の一つの側面によれば、式1の化合物が提供される:…… 【0015】 式1の化合物および化合物(Z)-N-(1-(4-(3-チエニル)フェニル)-1-(2-メチルフェニル)プロパ-1-エン-3-イル)サルコシンは、GlyT-1を介したグリシン輸送を阻害するか、またはこのような化合物の前駆体(たとえばプロドラッグ)であることが見出されている。GlyT-1輸送阻害剤は、分裂病、そして、認知機能不全、痴呆(アルツハイマー病に関連したものを含む)、注意欠陥障害、うつ病、並びに、自閉症疾患、Rett疾患、小児期崩壊性障害、アスペルガー障害、およびその他の特定されない広播性発達疾患(たとえば異型自閉症)のような広播性発達疾患などのその他のCNS関連疾患の治療に有用である。」 ウ 「【0020】 式1の化合物または化合物(Z)-N-(1-(4-(3-チエニル)フェニル)-1-(2-メチルフェニル)プロパ-1-エン-3-イル)サルコシンは、グリシン輸送阻害剤が必要とされ、この適応症は上で詳述されたものである、医学的症状を有する患者を治療するために使用することができる。好ましい適応症は、分裂病である。また、化合物は、グリシン輸送阻害剤が必要とされる医学的症状を有する患者を治療するための薬物を製造するために使用することができる。」 エ 「【0082】 実施例7:GlyT-1を介した輸送アッセイ 本実施例は、トランスフェクションした培養細胞によるグリシン取込み測定のための方法を例示する。 【0083】 GlyT-1Cで安定してトランスフェクションした細胞(Kimら, Molecular Pharmacology, 45, 1994: 608-617を参照されたい)をHEPES緩衝食塩水(HBS)で2回洗浄した。次いで、細胞を37℃において10分間、(a)潜在的なコンペティターなし、(b)10mMの非放射活性グリシン、または(c)候補物質薬剤の濃度、のいずれかでインキュベートした。候補物質薬剤の濃度の範囲は、50%の効果を生じる濃度を算出するためのデータを作成するために使用した(たとえば、グリシン取込みを50%阻害する薬剤の濃度であるIC_(50))。次いで、[^(3)H]グリシンを含む溶液を、50nM(17.5 Ci/mmol)の終濃度で添加した。次いで、細胞を穏やかに振盪しながら37℃で30分間インキュベートし、その後、反応混合液を吸引して、氷冷HBSで3回洗浄した。細胞をシンチラント(scintillant)で溶解して平衡化した。細胞の放射活性は、シンチレーションカウンタを使用して決定した。データは、行われたアッセイに依存して、候補物質剤に接触させた同じ細胞の間で、または接触させなかった細胞の間で比較した。 【0084】 本発明の化合物は、GlyT-1阻害剤としての活性があった。」 オ 「【0085】 実施例8:NMDA受容体に関連するグリシン結合部位に対する結合アッセイ 本実施例は、NMDA受容体におけるグリシン部位に対する化合物の相互作用を測定するために使用される方法を例示する。このアッセイにおいて、既知のNMDAグリシン部位結合剤(トリチウム化されたMDL 105519、Amershamから入手可能)が、ラット海馬の組織に結合させるために使用される。次いで、試験化合物を導入して、アイソトープのリガンドと置換させる。試験化合物の結合は、アイソトープのリガンドを置換して、減少した放射活性を生じ、これを定量することができる。一般に化合物を2つの濃度で試験し、阻害が観察される場合、化合物をいくつかの濃度で再テストして用量応答曲線を作成し、これにより、IC50が決定され得る。 【0086】 試験化合物は、アッセイのために50mMのトリス酢酸緩衝液で希釈することによって調製する。アッセイに使用するラット海馬膜の一定分量を、冷却10mMのトリス酢酸緩衝液で2回洗浄して20,000rpmの超遠心分離に15分間供し、洗浄の間に再び均質化する。次いで、アッセイに適した濃度で膜を提供するために、最終ペレットを50mMのトリス酢酸緩衝液に再懸濁する。非特異的結合は、1mMのグリシンの存在下で定義される。全結合量は、トリス酢酸緩衝液のみの存在下で定義される。 【0087】 反応混合液は、[3H]-MDL 105519で5nMの最終濃度にした75μgの均質化した海馬膜標品とグリシンまたは試験化合物とを合わせて、トリス酢酸緩衝液の溶液として調製する。反応液を室温で30分間インキュベートすると共に振盪する。次いで、48w Brandell Harvestorを使用して、プレートをGFCフィルターに回収する。GFCフィルターは、フィルターに対するアイソトープのリガンドの非特異的結合を減らすために、蒸留水で作製された0.5%のBSA溶液で少なくとも30分間前処理する。プレートのウェルを4?5倍容積の冷却50mMトリス酢酸緩衝液で洗浄する。次いで、フィルターをシンチレーションバイアルへ移し、2mlのシンチラントをそれぞれのバイアルに添加する。バイアルは、Beckman β-counterで計数される前に一晩置かせる。データは、Prismソフトウェアを使用して分析する。 【0088】 本発明の化合物は、NMDA受容体に関連するグリシン結合部位に、有意な結合を示さない。」 カ 「【0089】 実施例9:グリシン受容体結合アッセイ 本実施例は、グリシン受容体と化合物の交叉反応性を測定するために使用したアッセイを例示する。このアッセイにおいて、ラット脊髄組織に結合させるために、既知のグリシン受容体結合剤である[3H]-ストリキニーネを使用する。次いで、試験化合物を導入して、アイソトープのリガンドと置換させる。試験化合物の結合により、アイソトープのリガンドを置換して減少された放射活性を生じ、これを定量化することができる。一般に化合物を2つの濃度で試験して阻害が観察される場合、化合物をいくつかの濃度で再テストして用量応答曲線を作成し、これにより、IC50が決定され得る。 【0090】 試験化合物は、アッセイのためにリン酸カリウム緩衝液で希釈することによって調製する。アッセイに使用されるラット脊髄膜の一定分量を、冷却リン酸緩衝液で2回洗浄し、続いて洗浄の間に4℃、14,000rpmでマイクロ遠心機にかけた。次いで、アッセイに適した濃度を提供するために、最終ペレットをリン酸緩衝液の量に再懸濁する。非特異的結合および全結合量は、それぞれ、10mMの最終濃度のグリシンおよびリン酸緩衝液のみによって定義される。 【0091】 反応混合液は、[3H]-ストリキニーネで7nMの最終濃度にした150μgのラット脊髄膜とグリシンまたは試験化合物とを合わせることによって調製する。反応混合液を氷上で振盪すると共に、2時間インキュベートする。次いで、48w Brandall Harvestorを使用して、プレートをGFCフィルター上に回収する。GFCフィルターは、非特異的結合を減らすために、蒸留水で作製された0.5%のBSA溶液で少なくとも30分間前処理する。プレートのウェルを4?5倍容積の冷却リン酸緩衝液で洗浄する。次いで、フィルターをシンチレーションバイアルへ移し、2mlのシンチラントをそれぞれのバイアルに添加する。バイアルは、Beckman β-counterで計数される前に一晩置かせる。データは、Prismソフトウェアを使用して分析する。 【0092】 本発明の化合物は、グリシン受容体に対して有意な結合を示さない。」 キ 「【0093】 実施例10:マウスにおける毒性を測定するためのアッセイ 本実施例は、GlyT1阻害剤による5日間の慢性経口用量毒性研究を例示した。化合物は、経口的に(PO)5日間、40mg/kg/日で雄のCD-1マウスに投与した。行動の観測(臨床徴候)および体重は、試験した全ての化合物について毎日記録した。 【0094】 雄CD-1マウスは、Charles River Labs (Kingston, NY)から購入した。動物は、到着時に20-25グラムの間で計量された。動物は、通常の12時間の明期/暗期サイクル(0700時点灯)で、温度/湿気制御された(72°±5°F/50%±5%)動物施設に、試験前の5日間慣れさせた。全ての動物には、アドリブで環境順化期間の間および研究の全体にわたって食物(Purina Labdiet(登録商標)Rodent chow #5001)および水(Elizabethtown Water Companyによって供給された)を与えた。試験開始の前の日に、動物をランダムに群に割り当てた:試験のために選ばれた全ての動物は、少なくとも20グラムの重さであり、よい状態であると思われた。それぞれの動物には、1日1回、5日間投与した。動物は、慢性投与期間後に、3日間の回復期間、その場所のままにした。 【0095】 それぞれの試験化合物の貯蔵濃縮物を、研究開始日に新たに調製した。一定分量を、1日の用量に必要とされる濃度に希釈した。貯蔵液は、使用中でないときは、冷蔵庫で保存した。それぞれの化合物を少量の蒸留水に溶解した。1当量の水酸化ナトリウム(2N)を、それぞれの試験薬剤の溶解を補助するために添加してもよい。次いで、媒体を、最終体積を与えるために充分な素量を添加した。最終体積を、適切なときにパーセント遊離塩基を反映するように調整した。本実験に使用される媒体は、10%重量/体積濃度の形態に蒸留水で溶解したヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPCD)Acros, lot 011849601であった。水酸化ナトリウム(2N)を使用して、pHを試験薬剤のもの(通常8?10の間)と同じに調整した。調製した全ての試験化合物は、溶液において透明、または懸濁液においてわずかに濁っているかのどちらかであった。懸濁液は、使用の直前に混合した。 【0096】 全ての動物には、21ゲージの胃管栄養針(gavage needle)により、10.0ml/kgの体積で、試験化合物または媒体を経口的に(PO)投与した。個々の投薬体積を決定するために、毎日の体重を使用した。全ての試験化合物は、Denver Instruments分析天秤(model #A-250)で計量した。動物は、Ohaus携帯型天秤model #LS2000の最大荷重で計量した。 【0097】 試験薬剤の投与直後に、次いで、再び4時間および24時間において、顕性の行動(臨床徴候)について動物を評価した。27の別々の臨床徴候について動物を評価した: 活動:動物が異常に高活動または低活動である場合に記述する。 運動失調:不安定な歩行、随意筋運動調整の不能性。 カタレプシ:四肢のろう様硬直(これは、種々の位置に配置されてしばらく維持される可能性がある)、刺激に対する反応の欠如、パルスおよび呼吸を示し、並びに皮膚の青ざめによって特徴づけられる症状。 着色尿:尿中の赤みがかった排泄物。 着色涙液:目からの赤みがかった排泄物。 便の状態:軟らかく水っぽい、硬く小さい。 痙攣:間代性:全身的な間欠性緊張および骨格筋の緩和。緊張性:後肢および/または前肢の伸張をしばしば伴う全身的な常時性筋緊張。 チアノーゼ:外部組織(耳、指、尾部)の青みがかった色。 死亡:自然発症性または安楽死かどうか明記。 眼球陥没:眼窩への目の異常な退縮。 鼻出血:鼻からの赤みがかった排泄物。 眼球突出:目の異常な突出。 弛緩性:骨格筋が緊張を伴わないように見える。 湾曲姿勢:動物が地面からはなれて高く歩いているように見える。 過敏な触覚:動物が操作の際に声を出す、または過度に活動性になる。 涙液分泌(両方の目):涙の分泌および排泄。 側面横臥位:動物が自発的に仰臥する。 復原損失:動物がその位置に置かれたときに仰臥したままである。 縮瞳:眼の瞳孔の過剰な収縮。 散瞳:眼の瞳孔の過剰な拡張。 眼瞼下垂:両眼の上眼瞼の下垂をいう。 立毛:背および首における毛の逆立。 ラ音(湿潤または乾燥):湿潤(粘膜):バブリング音が呼吸の間に聞こえる。乾燥:呼吸の間に耳障りな、または音楽的な音が聞こえる。 呼吸(↑↓):この活動の異常な増大または減少。 硬直性:ろう様:四肢が、配置された位置にとどまる。 リードパイプ:筋の硬直、四肢が移動に困難である。 唾液分泌(増加した):唾液の形成および過剰な分泌。 鎮静:動物が触れられたとき、または操作のときにゆっくり応答する。 常同:一定の無意味な運動の定常的な反復。 震え:細かい:体および/または四肢の定常的な速い振動。粗い:時間によって増減するように思われる体および/または四肢の速い振動。 【0098】 1)体重の値が2日連続にわたって対照群の平均値の75%まで下落するような体重の損失、または2)その動物がもはや正常には摂食または飲用ができなくなるような瀕死状態の発症、を示したいかなる動物も、実験の終結前に屠殺した。 【0099】 上記記載の通りのアッセイから得られた毒性データは、化合物Gi?Gxivを含んだ表1?14において提供される。投与直後、次いで、再び4時間および24時間において動物を観察した。観察は、以下のチャートからコード番号を使用して報告される: 【0100】 (表1)化合物G(iii) 」 ク 「【0114】 比較すると、式1の化合物は、同様に有効な他のGlyT1阻害剤よりも毒性が低い。例えば、下記化合物H、I、J、およびKは、表15、16、17、および18に見られるように、本発明の化合物よりも高い毒性プロファイルを示す。…… 【化20】 …… (表18)化合物K *動物は、瀕死の状態のために安楽死させた。」 3 本願発明の課題について 発明の詳細な説明に「発明の概要 本発明は、GlyT-1輸送の阻害に有効であることが見出され、かつ医学的に有用であるように十分に非毒性である化合物に関する。」(摘示イ)、「式1の化合物および化合物(Z)-N-(1-(4-(3-チエニル)フェニル)-1-(2-メチルフェニル)プロパ-1-エン-3-イル)サルコシンは、GlyT-1を介したグリシン輸送を阻害するか、またはこのような化合物の前駆体(たとえばプロドラッグ)であることが見出されている。GlyT-1輸送阻害剤は、分裂病、そして、認知機能不全、痴呆(アルツハイマー病に関連したものを含む)、注意欠陥障害、うつ病、並びに、自閉症疾患、Rett疾患、小児期崩壊性障害、アスペルガー障害、およびその他の特定されない広播性発達疾患(たとえば異型自閉症)のような広播性発達疾患などのその他のCNS関連疾患の治療に有用である。」(摘示イ)と記載されていることからみて、本願発明は、式Iの化合物の薬理作用を利用して、分裂病、認知機能不全、痴呆(アルツハイマー病を含む)、注意欠陥障害、うつ病、自閉症疾患、Rett疾患、小児期崩壊性障害、アスペルガー障害および異型自閉症からなる群より選択される医学的症状を有する患者を治療するための薬物の有効成分として用いる点に技術的特徴を有する医薬用途発明であると認められる。 そして、摘示ウに「式1の化合物または化合物(Z)-N-(1-(4-(3-チエニル)フェニル)-1-(2-メチルフェニル)プロパ-1-エン-3-イル)サルコシンは、グリシン輸送阻害剤が必要とされ、この適応症は上で詳述されたものである、医学的症状を有する患者を治療するために使用することができる。好ましい適応症は、分裂病である。また、化合物は、グリシン輸送阻害剤が必要とされる医学的症状を有する患者を治療するための薬物を製造するために使用することができる。」と記載されていることから、本願発明は、「GlyT-1を介したグリシン輸送を阻害することによって、グリシン輸送阻害剤が必要とされる医学的症状を有する患者を治療するための薬物を製造するために使用することのできる化合物を提供すること」を課題とするものと認められる。 4 サポート要件の判断 本願発明に用いる化合物につき、発明の詳細な説明には、その作用を調べるための試験として以下の4種類の試験が記載されている。 (1)GlyT-1Cでトランスフェクションした培養細胞を用いたGlyT-1を介した輸送アッセイ(摘示エ) (2)ラット海馬膜標品を用いたNMDA受容体に関連するグリシン結合部位に対する結合アッセイ(摘示オ) (3)ラット脊髄膜を用いたグリシン受容体結合アッセイ(摘示カ) (4)マウスにおける毒性を測定するためのアッセイ(摘示キ) 上記(1)の試験はGlyT-1を介した輸送アッセイであるから、本願発明における「分裂病、認知機能不全、痴呆(アルツハイマー病を含む)、注意欠陥障害、うつ病、自閉症疾患、Rett疾患、小児期崩壊性障害、アスペルガー障害および異型自閉症からなる群より選択される医学的症状を有する患者を治療するための」根拠となる活性を確認しようとしたものであると認められる。そして、(1)の試験の詳細をみると、「本発明の化合物は、GlyT-1阻害剤としての活性があった。」(摘示エ)との記載があり、GlyT-1阻害剤としての活性があることの一般的な記載はある。しかし、IC_(50)などの具体的な結果は記載されていないため、具体的にどの程度のGlyT-1阻害活性があったのかが明らかでなく、単に「活性があった」という一般的な記載からは、本願発明における治療対象である「分裂病、認知機能不全、痴呆(アルツハイマー病を含む)、注意欠陥障害、うつ病、自閉症疾患、Rett疾患、小児期崩壊性障害、アスペルガー障害および異型自閉症からなる群より選択される医学的症状を有する患者を治療する」ために十分な程度の活性であったのかを理解することができない。 上記(2)の試験の結果について、摘示オに「本発明の化合物は、NMDA受容体に関連するグリシン結合部位に、有意な結合を示さない。」と記載されている。しかし、NMDA受容体に関連するグリシン結合部位に「結合しない」ことが「分裂病、認知機能不全、痴呆(アルツハイマー病を含む)、注意欠陥障害、うつ病、自閉症疾患、Rett疾患、小児期崩壊性障害、アスペルガー障害および異型自閉症からなる群より選択される医学的症状を有する患者」を治療する効果に結びつくといえるような発明の詳細な説明の記載や技術常識の存在は認められない。また、そもそも、この試験結果は、本願発明で用いる化合物が、NMDA受容体に関連するグリシン結合部位に作用しないことを示すにとどまり、何らかの活性の存在を肯定するものでもない。 したがって、技術常識を考慮しても、この試験結果から、本願発明における化合物が医薬としての治療効果を示すと認めることはできない。 上記(3)の試験の結果について、摘示カに「本発明の化合物は、グリシン受容体に対して有意な結合を示さない。」と記載されている。しかし、グリシン受容体に対して「結合しない」ことが「分裂病、認知機能不全、痴呆(アルツハイマー病を含む)、注意欠陥障害、うつ病、自閉症疾患、Rett疾患、小児期崩壊性障害、アスペルガー障害および異型自閉症からなる群より選択される医学的症状を有する患者」を治療する効果に結びつくといえるような発明の詳細な説明の記載や技術常識の存在は認められない。また、そもそも、この試験結果は、本願発明で用いる化合物が、グリシン受容体に作用しないことを示すにとどまり、何らかの活性の存在を肯定するものでもない。 したがって、技術常識を考慮しても、この試験結果から、本願発明における化合物が医薬としての治療効果を示すと認めることはできない。 上記(4)の試験は、本願発明における化合物G(i)?G(xiv)のうちのいくつかの化合物と比較対象である化合物H?Kの毒性を測定した試験である。この試験の結果として、本願発明における化合物については、例えば、表1(摘示キ)に化合物G(i)についての結果が記載されている。この表1(摘示キ)には、投与後4時間の評価として、4日目に動物1に14、動物3に14及び10と記載されている他は、「0」と記載され、動物が「正常に見える」ことを意味している。同様に、本願発明における化合物についての結果を示す表2?表13には、殆どの欄に「0」と記載され、動物が「正常に見える」状態であったことが理解できる。ここで、「試験開始の前の日に、動物をランダムに群に割り当てた:試験のために選ばれた全ての動物は、少なくとも20グラムの重さであり、よい状態であると思われた。」との記載からみて、この試験に用いた動物は、もともと正常な状態であったものと認められるから、この試験は、本願発明における化合物が作用を示さないことを確認したものであって、本願発明における化合物が示す薬理作用や医薬としての治療効果を確認したものではない。 加えて、(4)の試験において用いられた比較化合物K(摘示ク)は、請求項1の式IにおけるAr_(1)に相当する2-チオフェンの置換基として、本願発明における化合物のようにメチル、エチルを有するのではなく、Clである点でのみ、本願発明における化合物と相違するものである。この比較化合物Kについての試験結果が記載された表18(摘示ク)には、1日目の24時間後から、1、22、18などの評価があり、様々な有害事象が生じたことが理解でき、2日目から「-」が記載された動物は「瀕死の状態」となったことが理解できる。このように、本願発明における化合物と同じ基本骨格を有し、わずかにチオフェンの置換基のみが相違する比較化合物Kは重篤な有害作用が生じ、本願発明においてはチオフェンの置換基がメチル又はエチルであるというだけでまったく無害であるということは、これら基本骨格を持つ化合物については、わずかな置換基の相違で生理作用が大きく異なることの証査でもある。したがって、この点からみても、摘示エの「本発明の化合物は、GlyT-1阻害剤としての活性があった。」という漠然とした記載をもって直ちに、本願発明における化合物が実際に本願発明における治療対象疾患に対し治療効果を持つものであると理解することはできない。 以上のとおり、発明の詳細な説明の記載に記載された試験には、本願発明における化合物が本願発明における治療対象である、分裂病、認知機能不全、痴呆(アルツハイマー病を含む)、注意欠陥障害、うつ病、自閉症疾患、Rett疾患、小児期崩壊性障害、アスペルガー障害および異型自閉症からなる群より選択される医学的症状を有する患者を治療するのに十分な作用を示すものであると理解できるような記載がない。そして、発明の詳細な説明の記載全体を参酌しても、本願発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が「GlyT-1を介したグリシン輸送を阻害することによって、グリシン輸送阻害剤が必要とされる医学的症状を有する患者を治療するための薬物を製造するために使用することのできる化合物を提供する」という本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。また、本願発明における化合物がGlyT-1を介したグリシン輸送を阻害することによって、グリシン輸送阻害剤が必要とされる医学的症状を有する患者を治療できるものであることが、本願出願時の当業者の技術常識であったこと示す事実の存在も認められないから、本願発明は、発明の詳細な説明にその記載がなくても、上記本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。 したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。 第5 むすび 以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、その余の点について検討するまでもなく、この出願は、特許法第49条第4号に該当し、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-05-14 |
結審通知日 | 2012-05-16 |
審決日 | 2012-05-29 |
出願番号 | 特願2002-565971(P2002-565971) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(C07D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 荒木 英則 |
特許庁審判長 |
井上 雅博 |
特許庁審判官 |
東 裕子 齋藤 恵 |
発明の名称 | GlyT-1阻害剤 |
代理人 | 井上 隆一 |
代理人 | 大関 雅人 |
代理人 | 新見 浩一 |
代理人 | 清水 初志 |
代理人 | 渡邉 伸一 |
代理人 | 小林 智彦 |
代理人 | 刑部 俊 |