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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1264784
審判番号 不服2009-19929  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-16 
確定日 2012-10-17 
事件の表示 特願2003-566175「アルブミン融合クニッツドメインペプチド」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月14日国際公開、WO03/66824、平成17年12月22日国内公表、特表2005-538932〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2003年2月7日(パリ条約による優先権主張2002年2月7日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年4月30日付けで手続補正がなされ、同年6月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年10月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2.本願発明
1.本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成21年4月30日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
クニッツ(Kunitz)ドメインペプチドまたはその断片もしくは変種と、アルブミンまたはその断片もしくは変種とを含んでなる、アルブミン融合タンパク質であって、
クニッツドメインペプチドまたはその断片もしくは変種が、セリンプロテアーゼを阻害するものであり、かつ、
クニッツドメインペプチドまたはその断片もしくは変種が、DX-890またはその断片もしくは変種、DPI-14またはその断片もしくは変種、DX-88またはその断片もしくは変種、または、DX-1000またはその断片もしくは変種を含んでなる、アルブミン融合タンパク質。」

そしてDX-890、DPI-14、DX-88、DX-1000と呼ばれるペプチドは、それぞれ以下のアミノ酸配列を有するものである。
DX-890:EACNLPIVRGPCIAFFPRWAFDAVKGKCVLFPYGGCQGNGNKFYSEKECREYCGVP(本願明細書【0215】段落)

DPI-14:EAVREVCSEQAETGPCIAFFPRWYFDVTEGKCAPFFYGGCGGNRNNFDTEEYCMAVCGSA(本願明細書【0210】段落)

DX-88:EAMHSFCAFKADDGCRAAHPRWFFNIFTRQCEEFIYGGCEGNQNRFESLEECKKMCTRD(本願明細書【0248】段落)

DX-1000:EAMHSFCAFKAETGPCRARFDRWFFNIFTRQCEEFIYGGCEGNQNRFESLEECKKMCTRD(本願明細書【0248】段落)

2.引用例
原査定で引用された引用文献1、3ないし5には、以下の事項が記載されている。
(1)引用文献1(国際公開第01/79271号)
a.クレーム
1.治療用タンパク質Xと、配列番号18のアミノ酸配列を含むアルブミンとを含んでなるアルブミン融合タンパク質。(第288頁)

b.発明の背景
本発明は、一般的には、アルブミンまたはアルブミンの断片もしくは変異体に融合された治療用タンパク質(ポリペプチド、抗体、ペプチド、またはそれらの断片もしくは変異体を含むが、これらに限らない)に関する。本発明はさらに、溶解状態(溶液中)で長期の貯蔵寿命および/または長期の治療活性を示す、アルブミンまたはアルブミンの断片もしくは変異体に融合された治療用タンパク質(ポリペプチド、抗体、ペプチド、またはそれらの断片もしくは変異体を含むが、これらに限らない)に関する。本明細書では、これらの融合タンパク質をまとめて「本発明のアルブミン融合タンパク質」と呼ぶことにする。本発明は、治療用のアルブミン融合タンパク質、組成物、医薬組成物、製剤およびキットを包含する。本発明のアルブミン融合タンパク質をコードする核酸分子も本発明に含まれ、同様に、これらの核酸を含有するベクター、これらの核酸ベクターで形質転換された宿主細胞、ならびに、これらの核酸、ベクターおよび/または宿主細胞を用いて本発明のアルブミン融合タンパク質を調製する方法も含まれる。(第1頁11?24行)

c.発明の概要
本発明は、一部には、治療用タンパク質を、該タンパク質および/またはその活性を安定化するのに十分なアルブミンまたはアルブミンの断片(部分)もしくは変異体に遺伝的にまたは化学的に融合させることによって、in vitroおよび/またはin vivoにおいて、溶解状態でその治療用タンパク質の貯蔵寿命を引き延ばすように、および/または長期間にわたりその活性を保持するように、治療用タンパク質を安定化しうるという発見に基づいている。加えて、アルブミン融合タンパク質またはアルブミン結合タンパク質を使用すると、容器への付着といった治療用タンパク質の損失を防止できるために、大過剰のキャリアータンパク質(例えば、融合されていないアルブミン)を用いてタンパク質溶液を製剤化する必要性が少なくなることが判明した。(第2頁24?33行)

d.本発明のアルブミン融合タンパク質の多くが長い血清半減期を示していることから、本発明の投与製剤には、治療用タンパク質の非融合標準製剤と比較して、低いモル濃度または低い用量で治療用タンパク質部分を含有させることができる。(第88頁22?25行)

(2)引用文献3(特表平10-510996号公報)
a.【発明の名称】ヒト好中球エラスターゼ阻害特別設計ヒト由来クニッツドメイン

b.発明の分野
本発明はヒト好中球エラスターゼ(hNE)を阻害する新規タンパク質に関する。これらのタンパク質それぞれの配列の大部分は、hNEに関してきわめて僅かか全く活性を持たない既知のヒトタンパク質と同一である。(第6頁第9?12行)

c.表100:クニッツドメインの配列(第58頁)
(項目)名称「EPI-HNE-4」
(項目)配列「Eacnlpi-vrgpcIafFPRwafdavkgkcvlfpyggcqgng--nkfysekecreycgvp」
(項目)親ドメイン「ITI-2」
(項目)Seq Id No.「027」

d.表100:クニッツドメインの配列(第58頁)
(項目)名称「DPI.1.2」
(項目)配列「vrevcseqa-etgpcIamFsrwyfdvtegkcapfVyggcggnr--nnfdteeycmavcgsa」
(項目)親ドメイン「ITI-2」
(項目)Seq Id No.「030」

(3)引用文献4(特表平9-509048号公報)
a.【発明の名称】クニッツドメインから誘導されたヒトプラスミンの阻害剤

b.発明の技術分野
本発明はヒトリポプロテイン結合凝固阻害剤LACIの第一のクニッツドメイン(K1)の新規の変異体に関するものである。本発明はまたプラスミンを阻害する他の変更されたクニッツドメインおよび他のプラスミン阻害剤に関するものである。(第4頁第7?11行)

c.表4:クニッツドメイン、その若干はプラスミンを阻害する(第40頁)
(項目)蛋白質同定名「SPI11」
(項目)アミノ酸配列「mhsfcafkaETgPcRARFDrWffniftrqceefiyggcegnqnrfesleeckkmctrd」
(項目)親和力 K_(D)「88pM」
(項目)SEQ ID NO.「 SEQ ID NO.40」

(4)引用文献5(特表平9-511131号公報)
a.【発明の名称】カリクレイン阻害クニッツドメイン蛋白質およびその相同体

b.発明の技術分野
本発明はヒト血漿カリクレインに結合し阻害する新しい種類の蛋白質および蛋白質相同体に関するものである。(第4頁第7?9行)

c.表2:クニッツドメインの配列、ヒトpKAを阻害する若干のもの(第34頁)
(項目)Ident「KK2/♯5」
(項目)アミノ酸配列「mhsfcafkaDDgPcRAAHPrWffniftrqcEEfSyggcGgnqntfesleeckkmctrd」
(項目)SEQ ID NO.「 SEQ ID NO.21」

3.対比・判断
本願発明においてクニッツドメインペプチドDX-890、DPI-14、DX-88、DX-1000と呼ばれているタンパク質は、本願明細書【0085】段落の「表4:選択された治療用タンパク質のリスト」にこれらのタンパク質が列挙されていることからみて、治療用タンパク質であると認められる。
これに対して引用文献1には、上記2.(1)aないしcの記載からみて、治療用タンパク質とアルブミンまたはアルブミンの断片もしくは変異体とが融合された融合タンパク質の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
本願発明と引用発明を対比すると、両者は「治療用タンパク質とアルブミンとの融合タンパク質」である点で一致しており、本願発明では治療用タンパク質が「クニッツドメインペプチドまたはその断片もしくは変種が、DX-890またはその断片もしくは変種、DPI-14またはその断片もしくは変種、DX-88またはその断片もしくは変種、または、DX-1000またはその断片もしくは変種を含んでなる」ものであって、「クニッツドメインペプチドが、セリンプロテアーゼを阻害するもの」であること、が特定されているのに対して、引用文献1に「治療用タンパク質(ポリペプチド、抗体、ペプチド、またはそれらの断片もしくは変異体を含むが、これらに限らない)」と記載されるように、引用発明では治療用タンパク質の種類を特定していない点で相違している。
そこで、上記相違点について検討する。
引用文献3の表100にクニッツドメインの配列として記載されているタンパク質「EPI-HNE-4」は、その配列からみて本願発明の「DX-890またはその断片もしくは変種」に該当するものと認められ、同じく表100の「DPI.1.2」は、その配列からみて本願発明の「DPI-14またはその断片もしくは変種」に該当するものと認められ、そしてこれらのタンパク質はヒト好中球エラスターゼ(hNE)を阻害するタンパク質である。
また、引用文献4の表4にクニッツドメインの配列として記載されているタンパク質「SPI11」は、その配列からみて本願発明の「DX-1000またはその断片もしくは変種」に該当するものと認められ、このタンパク質はプラスミンを阻害するタンパク質である。
さらに、引用文献5の表2:クニッツドメインの配列として記載されているタンパク質「KK2/♯5」は、その配列からみて本願発明の「DX-88またはその断片もしくは変種」に該当するものと認められ、このタンパク質はヒトpKAを阻害するタンパク質である。
そして、好中球エラスターゼ、プラスミン、カリクレインがいずれもセリンプロテアーゼであることは周知であり、これらを阻害する引用文献3ないし5に記載されるタンパク質は、いずれも「セリンプロテアーゼを阻害するもの」であるといえるから、本願発明において「クニッツドメインペプチドが、セリンプロテアーゼを阻害するもの」であることを特定することは、相違点とはならない。
また、引用文献3ないし5に記載されるタンパク質は、それぞれヒト好中球エラスターゼ(hNE)、プラスミン、ヒトpKAを阻害するタンパク質であり、これらのタンパク質が治療用タンパク質として使用できることは当業者に明らかであるから、引用発明の治療用タンパク質として、引用文献3ないし5に記載される公知のタンパク質を用いて、融合タンパク質を調製することは、当業者が容易に想到することある。
そして、本願発明において、治療タンパク質の半減期が延長されたという効果は、引用文献1に記載される「in vitroおよび/またはin vivoにおいて、溶解状態でその治療用タンパク質の貯蔵寿命を引き延ばすように、および/または長期間にわたりその活性を保持する(c)」、すなわち「in vivoにおいて、長期間にわたりその活性を保持する」、「本発明のアルブミン融合タンパク質の多くが長い血清半減期を示している(d)」の記載から、当業者が予期し得る程度のものであると認められ、本願発明において治療用タンパク質として、「DX-890またはその断片もしくは変種、DPI-14またはその断片もしくは変種、DX-88またはその断片もしくは変種、または、DX-1000またはその断片もしくは変種を含んでなる」ものを限定したことによって、たとえば他の治療用タンパク質を用いた場合と比較して特に優れた効果を与えるというような、格別の効果が奏されたとはいえない。
したがって上記相違点は、引用発明、および引用文献3ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たことであるといえる。

4.請求人の主張について
審判請求人は、引用文献1には、治療タンパク質のインビボ(in vivo)半減期についてなんら示されていないと主張している。
しかし、引用文献1には「本発明は、一部には、治療用タンパク質を、該タンパク質および/またはその活性を安定化するのに十分なアルブミンまたはアルブミンの断片(部分)もしくは変異体に遺伝的にまたは化学的に融合させることによって、in vitroおよび/またはin vivoにおいて、溶解状態でその治療用タンパク質の貯蔵寿命を引き延ばすように、および/または長期間にわたりその活性を保持するように、治療用タンパク質を安定化しうるという発見に基づいている。」(上記2.(1)c)と記載され、さらに「本発明のアルブミン融合タンパク質の多くが長い血清半減期を示していることから、本発明の投与製剤には、治療用タンパク質の非融合標準製剤と比較して、低いモル濃度または低い用量で治療用タンパク質部分を含有させることができる。」(上記2.(1)d)と記載されていることから、引用文献1には、インビボ(in vivo)での半減期が長くなることが示されているといえるから、請求人の主張は失当である。
また請求人は、「引用文献3、4および5には、種々のクニッツドメインタンパクを開示しており、クニッツドメインが高度な安定性を有していることが明確に示されている一方、引用文献1および2には、治療タンパク質とアルブミンとを融合させることによって、安定性を改善し、その結果、貯蔵寿命を改善できることが記載されています。
すなわち、引用文献3、4および5を見た当業者であれば、クニッツドメインペプチドは既に安定しているとのことから、その安定性を改善すべく、さらに引用文献1または2と組み合わせようとは、そもそも想到し得なかったと考えます。
よって、引用文献1?5の全てを見た当業者であれば、むしろ、これらを組み合わせる
こと自体を回避したであろうと考えます。」と主張している。
しかし、仮に安定性の高いタンパク質であったとしても、さらに安定性を高めることが望ましいことは、当業界の技術常識であると考えられるから、請求人の主張は妥当でない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明、および引用文献3ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-23 
結審通知日 2012-05-25 
審決日 2012-06-06 
出願番号 特願2003-566175(P2003-566175)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池上 文緒  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 中島 庸子
伏見 邦彦
発明の名称 アルブミン融合クニッツドメインペプチド  
代理人 横田 修孝  
代理人 伊藤 武泰  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 中村 行孝  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 横田 修孝  
代理人 伊藤 武泰  
代理人 中村 行孝  

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