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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1264793
審判番号 不服2010-9622  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-06 
確定日 2012-10-17 
事件の表示 特願2004-533177「血栓溶解および抗凝固両方の機能を有する融合タンパク質、ならびにその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月18日国際公開、WO2004/022598、平成18年 6月22日国内公表、特表2006-516113〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2003年9月3日(パリ条約による優先権主張2002年9月3日、中国)を国際出願日とする出願であって、平成21年11月16日付けで手続補正がなされ、同年12月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年5月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2.本願発明について
1.本願発明
本願の請求項7に係る発明は、平成21年11月16日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項7に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項7】
リンカーペプチドGSIEGRにより繋がれたスタフィロキナーゼおよびヒルジンの融合タンパク質(SAK-GSIEGR-HV2)、もしくは、リンカーペプチドPRIEGRにより繋がれた組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)およびヒルジンの融合タンパク質(tPA-PRIEGR-HV2)である、融合タンパク質。」
そして、本願明細書の記載からみて、「組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)」は、血栓溶解タンパク質としてヒルジンに繋がれ、融合タンパク質とされていることは明らかである。

2.引用例
引用文献1(米国特許第5434073号明細書)には、以下の事項が記載されている。
(1)「本発明は、切断されると、繊維素溶解および/または抗トロンビン活性を放出することができるタンパク質性化合物に関するものである。本発明はまた、このような化合物のすべてまたは一部をコードしている核酸(DNAおよびRNA)に関するものである。好ましい実施態様においては、本発明は、繊維素溶解および/または抗トロンビンタンパク質と切断リンカ-とを-緒に連結させることによって生産される融合タンパク質、これらの調製、これらを含む薬学上構造物および血栓症の治療へのこれらの適用にも関するものである。」(第1欄7?16行)

(2)「繊維素溶解療法は、tPA、uPA、ストレプトキナーゼおよびアンイソイレイトされた(anisoylated)プラスミノーゲンとストレプトキナーゼ活性化因子の複合体であるAPSAC等の多くのプラスミノーゲン活性化因子の利用にともない、かなり広く利用されるようになった。」(第1欄39?43行)

(3)「本発明の第一の概念によると、第一の配列と第二の配列からなる融合タンパク質、血液凝固に含まれる酵素によって第一の配列と第二の配列の間で切断可能な融合タンパク質を提供することであり、融合タンパク質が第一の配列と第二の配列、またはこれらのどちらかを切断されると、切断されない融合タンパク質に比べて繊維素溶解および/または抗トロンビン活性が強くなる。
融合タンパク質は、ヒルジン(hirudin)またはストレプトキナーゼのような2つの繊維素溶解および/または抗トロンビンタンパク質の切断可能な二量体でもよい。また、ホモダイマーまたはへテロダイマーでもよい。実質上、この融合タンパク質は、切断物に比べて、繊維素溶解および/または抗トロンビン活性が少ないまたはないが、融合タンパク質における一定量の活性は耐薬性がある。両方の切断物に繊維素溶解および/または抗トロンビン活性がある必要はないが、あった方がよい。」(第2欄20?37行)

(4)「本明細書中に用いられている「血液凝固中に含まれている酵素」は、カリクレイン、ファクターXIIa、Xla、IXa、VIIa、Xaおよびトロンビン(ファクターIIa)を含み、フィブリンおよび活性化プロティンCの形成に直接関係し、血液凝固を調節する。フィブリンの形成を最も素早く伴うため、最も好ましい酵素はファクターXaおよびトロンビンである。」(第3欄58?65行)

(5)「このような理由により、本発明の幾つかの実施態様の中では、トロンビンおよびファクターXaによって活性化される融合タンパク質を産生し、これによって血栓特異的な繊維素溶解タンパク質の好ましいクラスが作られることが望ましい。最も好ましい融合タンパク質は、切断により親分子の好ましい特性を回復し、血栓の発生に含まれ、その部位に好ましく局在している1つの酵素の作用によって、切断され、新たな血栓形成部位で融合タンパク質の成分タンパク質を放出するという顕著な特性によって血栓特異性を表わす。」(第4欄25?36行)

(6)「これらの好ましい酵素によって切断可能な融合タンパク質を作製するためには、融合タンパク質成分を連結するアミノ酸配列がこれらの好ましい酵素の切断部位として認識されなければならない。例えばファクターXaによって切断される融合タンパク質を作製するためには、ファクターXaによって切断されるアミノ酸配列を融合タンパク質の2成分(つまり、第一および第二および時には他の配列)を連結するために用いることができる。ファクターXaに切断されるプロトロンビンの1つの部位であるイソロイシン-グルタミン酸-グリシン-アルギニン(Ile-Glu-Gly-Arg)、配列番号7、の配列はこのような配列である。」(第4欄66行?第5欄9行)

(7)「トロンビンによって切断される融合タンパク質を生産するために、トロンビンによって認識および切断される部位を含むリンカ-配列を用いることができる。フィブリノーゲンAアルファ鎖中でトロンビンによって切断されるようなアミノ酸配列を用いることができる。また、フィブリノーゲンB ベータ鎖、ファクターXIII、ファクターV1ファクターVll、ファクターVIII、プロテインC1抗トロンビンiIIおよび切断物がトロンビンによって触媒されるような他のタンパク質のトロンビンによる切断物中に含まれるアミノ酸配列をも用いることができる。トロンビンで切断可能なリンカ-の例としては、フィブリノーゲンA アルファ鎖中の17?20番目の部位で発見されたものと同一であるグリシン-プロリン-アルギニン(Gly-Pro-Arg)配列が挙げられる。」(第5欄47?59行)

(8)「実施例10-ファクターXaで切断可能なストレプトキナーゼ-I EGR-ヒルジン(hirudin)融合遺伝子およびその発現ベクターの構築
ファクターXa切断部位(IEGR)を経由して連結されたストレプトキナーゼ-ヒルジン(hirudin)融合タンパク質をコードしている遺伝子を特定部位の突然変異誘発および配列番号46と47の分子クローニングによって構築した。」(第27欄17?25行)

(9)「実施例14-ファクターXaで切断可能なストレプトキナーゼ-IEGR-ヒルジン(hirudin)融合遺伝子の発現
実施例10のプラスミド発現ベクターpsMDI/159を、調製3の方法に従って酵母(サッカロマイセス セルビシアエ(S.cerevisiae))BJ2168株に伝達した。500m1の振盪フラスコを用いて、psMDI/159を含む酵母培養物を、酵母窒素源をベースとし、ロイシンを抜いたアミノ酸および炭素源として1%グルコースを含んだ100mlの0.67%合成完全培地で生育させた。30℃で一晩、生育させた後、3,000rpm、10分遠心することによって、細胞を収集し、炭素源として1%ガラクトースおよび0.2%グルコースを含み、リン酸ナトリウムpH7.2(50mMまで)を加える以外は同様の合成完全培地で再懸濁させた。これによって、PGKプロモーターからストレプトキナーゼ-ヒルジン(hirudin)融合遺伝子の発現が誘導された。細胞を誘導培地で3日間生育させた。この後、上清を遠心によって集めた。この培地について、実施例13のS2251アッセイ方法によるストレプトキナーゼ活性および実施例2のトロンビン阻害アッセイによるヒルジン(hirudin)活性の両方をアッセイした。両方の活性が検出され、培地に分泌されていた。」(第31欄19行?第32欄16行)

3.対比・判断
2.(9)のとおり、引用文献1の実施例14では、実施例10の遺伝子を発現したことが記載されていることから、引用文献1には、「ファクターXa切断部位(IEGR)を経由して連結されたストレプトキナーゼ-ヒルジン(hirudin)融合タンパク質」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
そして引用文献1は、2.(1)のとおり、繊維素溶解および/または抗トロンビンタンパク質と切断リンカ-とを-緒に連結させることによって生産される融合タンパク質に関するものであって、2.(2)に記載される、tPAやストレプトキナーゼのような繊維素溶解性を有するタンパク質は、血栓溶解タンパク質であり、またヒルジンのような抗トロンビン活性を有するタンパク質は、抗凝固タンパク質であることは、技術的に明らかである。つまり、引用発明のストレプトキナーゼは血栓溶解タンパク質、ヒルジンは抗凝固タンパク質、そしてファクターXa切断部位(IEGR)はリンカーペプチドである。
本願の請求項7の係る発明、特に後段の「リンカーペプチドPRIEGRにより繋がれた組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)およびヒルジンの融合タンパク質(tPA-PRIEGR-HV2)である、融合タンパク質」の発明と、引用発明とを対比すると、両者は、「リンカーペプチドにより繋がれた血栓溶解タンパク質およびヒルジンの融合タンパク質である、融合タンパク質。」である点で一致し、本願の請求項7の発明では血栓溶解タンパク質として組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)が特定されているのに対して、引用発明ではストレプトキナーゼである点(相違点1)、および本願発明では、リンカーペプチドが「PRIEGR」であるのに対して、引用発明では「IEGR」である点(相違点2)、で相違している。
そこで以下検討する。
まず、相違点1については、引用発明の融合タンパク質はストレプトキナーゼを含むものであるが、引用文献1には、2.(2)のとおり、ストレプトキナーゼと同様にtPAが繊維素溶解性を有することが示されているから、ストレプトキナーゼに替えてtPAを結合させた融合タンパク質を調製することは、当業者が容易になし得ることである。
次に、相違点2については、技術常識からみて、引用発明のリンカーペプチドの配列「IEGR」にさらにアミノ酸を付加しても、ファクターXaに切断されるという性質が保持されると考えられ、融合タンパク質遺伝子を調製する際に、制限酵素として周知のAvrIIを用いることは当業者にとって容易であり、「PRIEGR」の配列は、AvrIIによる切断部位の塩基配列(CCTAGG)を付加した結果として、それによりコードされるアミノ酸残基「PR」が付加されたものにすぎない。
そして本願明細書の実施例2では、融合タンパク質tPA-PRIEGR-HV2の調製が行われているだけで、活性などは測定されていない。そうすると、本願の請求項7の発明において、「IEGR」の配列に「PR」を付加したことによって、当業者が予期できないような効果が奏されたとも認められない。
したがって、本願の請求項7に係る発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
本願の請求項7に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることできない。
よって、結論のとおり審決する。


(付言)
なお、上述のとおり、本願発明は特許を受けることができないものであるが、念のため、さらに以下の点について付言する。
本願の請求項1に係る発明は、「血栓溶解タンパク質、抗凝固タンパク質、およびリンカーペプチドを含む融合タンパク質であって、該リンカーペプチドが、アミノ酸配列LeuGlyProArg(LGPR)であり、血液凝固因子FIIa(トロンビン)により認識され得るか、または、該リンカーペプチドが、LGPRを含有するペプチドである融合タンパク質。」、つまり「血栓溶解タンパク質-LGPR-抗凝固タンパク質」の融合タンパク質である。
これに対して引用文献1には、2.(5)に「トロンビンおよびファクターXaによって活性化される融合タンパク質を産生じ、これによって血栓特異的な繊維素溶解タンパク質の好ましいクラスが作られることが望ましい。」ことが記載され、5.(7)にトロンビンで切断可能なリンカーペプチドの配列としてGPR(Gly-Pro-Arg)配列が記載されている。つまり、リンカーペプチドはトロンビンやファクターXaで切断することが望ましいことが示され、トロンビンで切断可能な具体的配列も示されているのである。
そうすると、引用文献1に記載された「ストレプトキナーゼ-IEGR-ヒルジン」タンパク質のリンカーペプチドの配列として、ファクターXaに切断可能なIEGR配列に替えて、トロンビンで切断可能なGPR配列を採用することは、当業者が容易になし得ることであり、そのGPR配列にさらにアミノ酸を付加してみることも、当業者が容易になし得ることである。 本願明細書の実施例3では、融合タンパク質SAK-GSLGPR-HV2の調製が行われているだけで、活性などは測定されていないから、本願の請求項1の発明において、「GPR」の配列に「L」のような他のアミノ酸を付加したことによって、当業者が予期できないような効果が奏されたとも認められない。

また、本願の願書に添付した明細書等(以下「当初明細書等」には、リンカーペプチドの配列として「GPR」、「GSLGPR」は記載されているが、本願の請求項1においてリンカーペプチドの配列を「LGPR」と特定したことは、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、新規事項を追加するものである。本願の請求項11,13、および平成18年10月13日付け手続補正書の請求項8についても同様である。

さらに、請求項7の前段に記載された、「リンカーペプチドGSIEGRにより繋がれたスタフィロキナーゼおよびヒルジンの融合タンパク質(SAK-GSIEGR-HV2)」の発明についても付言する。
まず、引用文献1に記載された、「ストレプトキナーゼ-IEGR-ヒルジン」タンパク質のリンカーペプチドの配列を「PRIEGR」とすることは、上述した請求項7の後段に記載された発明(tPA-PRIEGR-HV2)の場合と同様に、当業者が容易になし得ることである。
また、引用文献2(Thrombosis Research,1997年,vol.88,pp.419-426)に、「CollenとLijnen[13]は、スタフィロキナーゼやストレプトキナーゼのような血栓溶解剤との結合的な使用によって抗凝血性や抗血小板性の薬剤は有効性が高められることを提案した。」(第420頁左欄1?5行)と記載されるように、スタフィロキナーゼはストレプトキナーゼと同様に血栓溶解剤として周知であると認められるから、引用文献1に記載された発明において、ストレプトキナーゼに替えてスタフィロキナーゼを結合させた融合タンパク質を調製することも、当業者が容易になし得ることである。
本願明細書の実施例1では、(SAK-GSIEGR-HV2)が調製され、抗凝固活性が測定されているが、引用文献1には、融合タンパク質が切断されると、切断されない融合タンパク質に比べて繊維素溶解および/または抗トロンビン活性が強くなること、融合タンパク質が血栓特異性を表すこと、が示されているから、本願実施例1における結果は引用文献1の記載から当業者が予期し得る程度のものであって、格別のものとはいえない。
この点に関しては、請求人は審判請求書において、「いまなお、融合タンパク質を開裂しトロンビンやFXaを使用することに関し多くの問題が存在します(参考文献1-6)。トロンビンやFXaの開裂の効率は融合タンパク質ごとに全く異なり、その作用がないものさえもあります(参考文献7)。これは、開裂に関する作用は融合タンパク質ごとに予測することが難しく、また、融合タンパク質開裂のFXaもしくはトロンビンの概念は完全ではありません。」と主張している。しかし、本願明細書の実施例1は、SFH(SAK-GSIEGR-HV2)が他の融合タンパク質と比較して、開裂の効率や抗凝固活性などにおいて特に優れていることを開示するものではなく、請求人の主張は失当である。
また請求人は追加のデータを示し、SFHと比べて引用文献1の融合タンパク質の開裂が非常に遅いことを主張している。しかし、請求人の示すデータは、SFHと引用文献1の融合タンパク質とを同じ実験条件において直接比較するものではないから、請求人の主張は妥当でない。
 
審理終結日 2012-05-10 
結審通知日 2012-05-15 
審決日 2012-05-28 
出願番号 特願2004-533177(P2004-533177)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 白井 美香保  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 新留 豊
中島 庸子
発明の名称 血栓溶解および抗凝固両方の機能を有する融合タンパク質、ならびにその使用  
代理人 梶並 順  
代理人 曾我 道治  
代理人 古川 秀利  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 古川 秀利  
代理人 大宅 一宏  
代理人 曾我 道治  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 大宅 一宏  
代理人 梶並 順  

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