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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B09B
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B09B
管理番号 1264802
審判番号 不服2010-20375  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-10 
確定日 2012-10-18 
事件の表示 特願2006-352236号「土壌浄化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年7月17日出願公開、特開2008-161778号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年12月27日の出願であって、平成21年9月25日付けの拒絶理由の通知に対して、同年11月25日に意見書及び手続補正書が提出され、平成22年5月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年9月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで特許請求の範囲及び明細書の記載に係る手続補正書が提出されたものであり、その後、特許法第164条第3項に基づく報告を引用した平成24年1月30日付けの審尋を通知し、同年3月23日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成22年9月10日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年9月10日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(2-1)補正事項
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に係る補正を含み、補正前後の請求項1の記載は次のとおりである。
(補正前)
「【請求項1】
有害物を含む地盤に、固結剤として、シリカ化合物と微生物、又はシリカ化合物と微生物と栄養源を注入して、微生物の代謝によりシリカ化合物をゲル化して固結させると共に、土壌浄化剤としても微生物を注入し、土壌浄化剤として注入した微生物により有害物を分解することを特徴とする土壌浄化方法。」
(補正後)
「【請求項1】
有害物を含む地盤に、固結剤として、アルカリ性を呈するシリカ化合物の溶液と微生物、又はアルカリ性を呈するシリカ化合物の溶液と微生物と栄養源を注入して、微生物の代謝によりpHを低下させてシリカ化合物をゲル化して固結させるにあたり、注入した前記固結剤で、まず地盤中の有害物の周りを取り囲み、あるいは有害物を包み込んで固結させ、次いでその内側に土壌浄化剤としても微生物を注入し、土壌浄化剤として注入した微生物により有害物を分解し、該土壌浄化剤として注入した微生物や、無害化した汚染物質を封じ込め、土壌浄化に伴い地盤中で増殖した微生物も、周囲の地盤に拡散し難く、浄化後回収することができ、微生物が過剰に増殖し、地下水を汚染する等の二次汚染を回避できるようにしたことを特徴とする土壌浄化方法。」

(2-2)補正の適否
請求項1に係る補正事項は、
(i)請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である補正前の「シリカ化合物」を補正後の「アルカリ性を呈するシリカ化合物の溶液」とし、
(ii)同補正前の「微生物の代謝によりシリカ化合物をゲル化」を補正後の「微生物の代謝によりpHを低下させてシリカ化合物をゲル化」とし、
(iii)同補正前の「固結させると共に、土壌浄化剤としても微生物を注入し、土壌浄化剤として注入した微生物により有害物を分解する」を補正後の「固結させるにあたり、注入した前記固結剤で、まず地盤中の有害物の周りを取り囲み、あるいは有害物を包み込んで固結させ、次いでその内側に土壌浄化剤としても微生物を注入し、土壌浄化剤として注入した微生物により有害物を分解し、該土壌浄化剤として注入した微生物や、無害化した汚染物質を封じ込め、土壌浄化に伴い地盤中で増殖した微生物も、周囲の地盤に拡散し難く、浄化後回収することができ、微生物が過剰に増殖し、地下水を汚染する等の二次汚染を回避できるようにした」とするものである。
ここで、上記(i)は、「シリカ化合物」について、「アルカリ性を呈する」及び「溶液」という特性及び形態を具体的に限定するものであり、
上記(ii)は、「微生物の代謝」について、これにより「pHを低下させる」という特性変化を具体的に限定するものであるものの、
上記(iii)は、「・・・できるようにした」という効果・機能を外的付加するものであって、補正前の請求項1の発明特定事項を限定するものであるとはいえないことから請求項の限定的減縮を目的とするものではなく、また、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもない。
したがって、上記(iii)の補正事項を含む本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(2-3)
仮に、請求項1に係る補正事項が請求項の減縮を目的とするものであるとして、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について以下に検討する。

(2-3-1)引用例の記載事項
◇原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用した特開2004-195407号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に以下の記載がある。
(a)「【請求項1】
人体や環境に悪影響を及ぼす有害物を含む地盤の無害化処理方法において、有害物浄化剤を主成分として含む注入液を注入液加圧部から複数の注入液送液系統を通して前記地盤中の注入ポイントに注入し、前記複数の注入液送液系統には流量圧力検出器を設け、これら検出器から検出された注入液の流量および/または圧力のデータを注入監視盤を備えた集中管理装置に送信し、注入液送液系統からの注入状況を前記注入監視盤の画面に表示し、一括監視を行うことを特徴とする有害物を含む地盤の無害化処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記有害物を含む地盤の無害化処理に先立って、前記有害物の周囲に固結材による不透水性の遮蔽壁を形成するようにした請求項1に記載の有害物を含む地盤の無害化処理方法。」

(b)「【請求項14】
請求項1、9または10において、有害物浄化剤が無機系還元剤、キレート剤、または有機物分解微生物である請求項1、9または10に記載の有害物を含む地盤の無害化処理における管理方法。」

(c)「【0014】
微生物による分解例としては一例を示すと次のとおりである。産業廃棄物中の有機物は細菌や糸状金菌等の微生物によって分解される。発ガン物質であるトリハロメタンの生成に関与するアンモニアは硝化菌により、工業用溶剤トリクロロエチレンはアンモニア酸化菌により分解される。また、農薬は土壌中の糸状菌、細菌、放射菌によって分解される。例えば、パラチオンはPseudomonas stuzeri とPseudomonas aeruginosaの共同により分解される。また、カーバメイト系殺虫剤はpenicillium trichoderma によって分解される。さらに、PCBはPseudo- monas Alealigenes によって分解され、クロロベンゼンもPseudomonas によって分解される。」

(d)「【0015】
固結材としては、次のa)?g)に示される固結材から任意に選択される。これらの固結材はいずれもゲル化時間を十数時間に設定できるので、大量につくって置いてもゲル化の心配がないのみならず、大量を長時間かけて送液でき、かつ地盤中に注入した後、確実にゲル化する。さらにこれは粘性が小さく、ねばりが少ないため、リターン装置やオリフイス、絞りバルブ等にシリカゲルが詰まることがなく、本発明に用いられる固結材として極めて優れたものである。また、セメント、スラグ等の懸濁性固結材もまた、ねばりが少ないので、詰まり難く、本発明に適している。また、図10および図11に示すように、本発明にかかる装置を複数セットで用い、それぞれ主材、反応剤を別々に分岐管を通して送液し、注入管路内で合流するか、あるいは地盤中に吐出後、地盤中で反応させることもできる。
【0016】
a)水ガラス中のアルカリの一部または全部をイオン交換樹脂またはイオン交換膜で除去して得られるシリカ溶液を主材とした固結材。あるいは、これにさらに水ガラス、酸、塩等を加えてなる固結材。
【0017】
b)水ガラスと酸を混合して得られる酸性水ガラスをイオン交換樹脂またはイオン交換膜で塩の一部または全部を除去して得られるシリカ溶液を主材とした固結材。
【0018】
c)水ガラスのアルカリを酸で中和して得られる非アルカリ領域のシリカ溶液を主材とした固結材。あるいは、これをさらにイオン交換樹脂やイオン交換膜で固結材中の金属イオンあるいは酸根の全部あるいは一部を除去して得られる固結材。
【0019】
d)水ガラスをイオン交換によってアルカリを除去し、得られたシリカを造粒したコロイダルシリカを主材とした固結材。
【0020】
e)水ガラスのアルカリの一部または全部を除去して得られるシリカ溶液に水ガラスおよび/またはコロイダルシリカを添加してなるシリカ溶液を主材とした固結材。
【0021】
f)水ガラスと、コロイダルシリカと、反応剤とを混合してなるシリカ溶液を主材とした固結材。」

(e)「【0105】
上述の本発明によれば、図23(a)に示される地盤4中の有害物20は図23(b)に示されるように、注入管路5、5・・・5を通して注入される注入液の固化物21によってつつみ込まれ、この中に含まれている有害物浄化剤と反応して無害化される。このとき、図24(a)に示されるように、地盤4中の有害物20の周囲に注入管路5を通して固結材を注入し、前もって不透水性の遮蔽壁22を形成しておき、この状態で図24(b)に示されるように、注入管路5、5・・・5を通して浄化液を含む注入液を注入すれば、上述と同様、無害化処理が一層効果的である。」

(f)上記(e)の記載より、固結材を固結させることについて、注入した固結材で、まず地盤中の有害物の周囲に遮蔽壁を形成して取り囲むことが示されていることから、引用例1には、「固結材を固結させるにあたり、注入した固結材で、まず地盤中の有害物の周囲に遮蔽壁を形成して取り囲む」ことが記載されているということができる。

上記(a)?(e)の記載事項及び(f)の検討事項より、引用例1には
「有害物を含む地盤に、固結材として、『コロイダルシリカを主材とした固結材』を注入して、コロイダルシリカをゲル化して固結させるにあたり、注入した固結材で、まず地盤中の有害物の周囲に遮蔽壁を形成して取り囲み、次いでその内側に有機物分解微生物(浄化剤)を含む注入液を注入し、浄化剤として注入した有機物分解微生物により有機系有害物を生分解する、地盤の無害化処理方法。」の発明が開示されている。

◇原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用した「小林 元 他4名,微生物を用いた活性シリカコロイドのゲル化に関する基礎研究,平成18年度 春季講演会 講演要旨集,日本,資源・素材学会北海道支部,2006年 6月17日,49?50頁」(以下、「引用例2」という。)には、以下の記載・表示がある。
(g)第49頁左欄1行?15行
「1.はじめに
現在、地盤の強度や止水性の増大を目的とした地盤改良には多くの種類のグラウト(注入材料)が用いられ、それらの主な材料としてシリカを使用しているものがある。シリカは地殻の約60%を占める地球上で最も多い物質の1つであり、火成岩や砂岩の主成分でもあることから地盤にグラウトを注入した後に微生物の代謝活動によって地盤の間隙や岩の割れ目を自然に閉塞する新たなグラウト(以下、バイオグラウトと呼ぶ)を開発するために一連の研究を実施してきており、既報^(1)、2))では炭酸カルシウムをセメント物質とするバイオグラウトについて報告した。本報では、活性シリカコロイドを主成分としたバイオグラウトについて検討した結果を述べる。」

(h)第49頁左欄16行?25行
「2.試験に使用したシリカコロイドの概要
本試験に用いたパーマロック・ASF-III^(3))は、イオン交換法によって水ガラスのアルカリを除去して得られた活性シリカを主成分とする超微粒子シリカグラウトであり、セメント物質となる2種類のシリカコロイド(ASFシリカ-30,PRシリカ)とゲル化開始剤として働くリン酸溶液(ASFアクターM)から構成されている。本研究では、これら3種類の中からASFシリカ-30のみを使用し(表-1)、ゲル化開始剤の機能を微生物で代替することによりシリカコロイドのゲル化を試みた。」

(i)第49頁左欄下から14行?右欄17行
「3.イースト菌によるシリカコロイドのゲル化
微生物としてイースト菌(日清フーズ株式会社製、日清スーパーカメリア)、栄養源としてグルコースC_(6)H_(12)O_(6)を使用し、シリカコロイドのゲル化に及ぼす微生物の影響を調べた。なお、イースト菌によるグルコース代謝の総括反応は、好気条件下ではC_(6)H_(12)O_(6)+6O_(2)=6CO_(2)+6H_(2)O、嫌気条件下ではC_(6)H_(12)O_(6)=2C_(2)H_(5)OH+2CO_(2)で表される。ゲル化試験は下記の4条件で行った。
【試験条件】
ケースY1:ASFシリカ-30(10ml)+グルコース(0.3g)+
イースト菌(1.25g)
ケースY2:ASFシリカ-30(10ml)+イースト菌(1.25g)
ケースY3:ASFシリカ-30(10ml)+グルコース(0.3g)
ケースY4:ASFシリカ-30(10ml)
ケースY1では、ガラス製のねじ口試験管(マルエム社製、N-16)に10mlASFシリカ-30、グルコース0.3g、イースト菌1.25gを加えてよく混合し、室温、大気下で24h静置した。他の実験(Y2?Y4)は対照実験である。
24h後に試験管を上下倒置してゲル化の有無を確認した(写真-1)。イースト菌無添加のケースY3とY4ではゲル生成は認められなかったが、イースト菌を含むケースY1とY2では、試験管を倒置しても内容物が落下せず、微生物によるシリカコロイドのゲル化が確認された。写真中の青枠と赤枠がゲル化した部分を示しており、グルコースとイースト菌を添加したケースY1の方がゲル化量が多かった。このことは、グルコースの微生物代謝産物がシリカコロイドのゲル化に寄与することを示唆している。」

(j)第50頁右欄7行?13行
「5.まとめ
1)イースト菌とグルコースが共存すると、シリカコロイド(ASFシリカ
-30)はゲル化する。
2)シリカコロイドのゲル化には、グルコースの代謝産物と菌体の双方が関
与する。
3)エタノール(グルコースの嫌気代謝産物)は、シリカコロイドをゲル化
する。」

(k)表-1には、「ASFシリカ-30の性状」として、成分は「SiO_(2)(30.13%)、Na_(2)O(0.52%)、H_(2)O(69.35%)」であって、「pHは9?10」であることの表示がある。

上記(g)?(k)の記載事項・表示事項より、引用例2には、
「pH9?10のシリカコロイド(コロイダルシリカ)と微生物(イースト菌)と栄養源(グルコース)を地盤に注入し、微生物の代謝により生成されたエタノールと二酸化炭素を含むシリカコロイドをゲル化して固結させる、地盤改良方法。」の発明が開示されている。

(2-3-2)対比・判断
本願補正発明と引用例1記載の発明とを対比する。
○引用例1記載の発明の「有害物」及び「有機系有害物」、「固結材」、「コロイダルシリカ」、「有機物分解微生物(浄化剤)」、「地盤の無害化処理方法」は、本願補正発明の「有害物」、「固結剤」、「シリカ化合物」及び「シリカ化合物の溶液」、「微生物」及び「土壌浄化剤」、「土壌浄化方法」にそれぞれ相当する。

○引用例1記載の発明の「地盤中の有害物の周囲に遮蔽壁を形成して取り囲み」は、本願補正発明の「地盤中の有害物の周りを取り囲み、あるいは有害物を包み込んで固結させ」に相当する。

○引用例1記載の発明の「『コロイダルシリカを主材とした固結材』」と本願補正発明の「シリカ化合物の溶液」は、「シリカ化合物の溶液」という点で共通する。

○引用例1記載の発明の「その内側に有機物分解微生物(浄化剤)を含む注入液を注入し、浄化剤として注入した有機物分解微生物により有機系有害物を生分解」することと本願補正発明の「その内側に土壌浄化剤としても微生物を注入し、土壌浄化剤として注入した微生物により有害物を分解」することは、「その内側に土壌浄化剤として微生物を注入し、土壌浄化剤として注入した微生物により有害物を分解」するという点で共通する。

上記より、本願補正発明と引用例1記載の発明とは、
「有害物を含む地盤に、固結剤として、シリカ化合物の溶液を注入して、シリカ化合物をゲル化して固結させるにあたり、注入した固結剤で、まず地盤中の有害物の周りを取り囲み、あるいは有害物を包み込んで固結させ、次いでその内側に土壌浄化剤として微生物を注入し、土壌浄化剤として注入した微生物により有害物を分解する、土壌浄化方法。」という点で一致し、以下の点で相違している。(下記<相違点1>及び<相違点2>の「 」内の事項が相違に係る事項である。)
<相違点1>
本願補正発明では、固結剤として、「アルカリ性を呈する」シリカ化合物の溶液「と微生物、又はアルカリ性を呈するシリカ化合物の溶液と微生物と栄養源」を注入して、「微生物の代謝によりpHを低下させて」シリカ化合物をゲル化して固結させるにあたり、注入した固結剤で、まず地盤中の有害物の周りを取り囲み、あるいは有害物を包み込んで固結させ、次いでその内側に土壌浄化剤として「も」微生物を注入し、土壌浄化剤として注入した微生物により有害物を分解するのに対して、
引用例1記載の発明では、固結材として、『コロイダルシリカを主材とした固結材』を注入して、コロイダルシリカをゲル化して固結させるにあたり、注入した固結材で、まず地盤中の有害物の周囲に遮蔽壁を形成して取り囲み、次いでその内側に有機物分解微生物(浄化剤)を含む注入液を注入し、有機系有害物を生分解する、つまり、固結剤として、シリカ化合物の溶液を注入して、シリカ化合物をゲル化して固結させるにあたり、注入した固結剤で、まず地盤中の有害物の周りを取り囲み、あるいは有害物を包み込んで固結させ、次いでその内側に土壌浄化剤として微生物を注入し、土壌浄化剤として注入した微生物により有害物を分解する点。

<相違点2>
本願補正発明では、「土壌浄化剤として注入した微生物や、無害化した汚染物質を封じ込め、土壌浄化に伴い地盤中で増殖した微生物も、周囲の地盤に拡散し難く、浄化後回収することができ、微生物が過剰に増殖し、地下水を汚染する等の二次汚染を回避できるように」するのに対して、
引用例1記載の発明では、上記事項を発明特定事項にしていない点。

両相違点について検討する。
<相違点1>について
上記(2-3-1)で示したように、引用例2には、「pH9?10のシリカコロイド(コロイダルシリカ)と微生物(イースト菌)と栄養源(グルコース)を地盤に注入し、微生物の代謝により生成されたエタノールと二酸化炭素を含むシリカコロイドをゲル化して固結させる、地盤改良方法。」の発明が開示されており、ここで、微生物の代謝により生成された二酸化炭素によりシリカコロイドのPHが低下しているということができるので、引用例2記載の発明は、「固結剤として、アルカリ性を呈するシリカ化合物の溶液(コロイダルシリカ)と微生物と栄養源を注入して、微生物の代謝によりpHを低下させてシリカ化合物をゲル化して固結させる、地盤改良方法。」であるということができる。
また、引用例1、2記載の発明は、地盤に関する技術であると共に、固結剤として、コロイダルシリカ(シリカ化合物の溶液)を注入して、シリカ化合物をゲル化して固結させるという点で共通している。
そうすると、引用例記載の発明の「固結剤として、シリカ化合物の溶液を注入して、シリカ化合物をゲル化して固結させるにあたり、注入した固結剤で、まず地盤中の有害物の周りを取り囲み、あるいは有害物を包み込んで固結させ、次いでその内側に土壌浄化剤として微生物を注入し、土壌浄化剤として注入した微生物により有害物を分解する」ことについて、上記の点で共通する引用例2記載の発明の上記事項を適用して、固結剤を「アルカリ性を呈する」シリカ化合物の溶液「と微生物と栄養源」とするとともに「微生物の代謝によりpHを低下させて」シリカ化合物をゲル化して固結させること、更にいうと、固結剤として、「アルカリ性を呈する」シリカ化合物の溶液「と微生物と栄養源」を注入して、「微生物の代謝によりpHを低下させて」シリカ化合物をゲル化して固結させるにあたり、注入した固結剤で、まず地盤中の有害物の周りを取り囲み、あるいは有害物を包み込んで固結させ、次いでその内側に土壌浄化剤として「も」微生物を注入し、土壌浄化剤として注入した微生物により有害物を分解することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
したがって、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、引用例1、2記載の発明に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

<相違点2>について
上記「<相違点1>について」で検討したように、引用例1記載の発明において、上記のようにする際、固結剤(遮蔽壁)により取り囲まれた内側の「土壌浄化剤として注入した微生物」、「無害化した汚染物質」及び「土壌浄化に伴い地盤中で増殖した(過剰に増殖した)微生物」は、固結剤により取り囲まれれている以上、周囲の地盤に拡散し難く、地下水汚染等の二次汚染を生じさせないものであることは明らかであり、また、固結剤(遮蔽壁)で取り囲むことにより形成された塊は、塊である以上、地盤からの取り出し(回収)を容易にするものであることも明らかであることから、「土壌浄化剤として注入した微生物や、無害化した汚染物質を封じ込め、土壌浄化に伴い地盤中で増殖した微生物も、周囲の地盤に拡散し難く、浄化後回収することができ、微生物が過剰に増殖し、地下水を汚染する等の二次汚染を回避できるようにした」という効果・機能は、当業者であれば普通に想起し得るものである。
したがって、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、引用例1、2記載の発明に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

また、本願補正発明の「環境への影響を低減し、自然の状態で存在する物質だけを使用し、改良地盤周辺や、地盤改良後においても有害な物質を発生させない」という作用・効果は、引用例1、2記載の発明に基いて当業者であれば容易に予測し得るものである。
よって、本願補正発明は、引用例1、2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-3-3)まとめ
上記からして、仮に、請求項1に係る補正事項が請求項の減縮を目的とするものであるとしても、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(3-1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年11月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおり特定されるものである。
「【請求項1】
有害物を含む地盤に、固結剤として、シリカ化合物と微生物、又はシリカ化合物と微生物と栄養源を注入して、微生物の代謝によりシリカ化合物をゲル化して固結させると共に、土壌浄化剤としても微生物を注入し、土壌浄化剤として注入した微生物により有害物を分解することを特徴とする土壌浄化方法。」

(3-2)引用例の記載事項
原査定の拒絶理由において引用した引用例の記載事項は、上記2.(2-3-1)で示したとおりである。

(3-3)対比・判断
上記2.(2-2)で示したように、本件補正における請求項1の補正事項は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項に限定事項を付加するとともに、機能を具体的に明らかにするものであることから、本願発明は、本願補正発明を包含している。
そうすると、本願補正発明が、上記2.(2-3-2)で示したように、引用例1、2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本願補正発明を包含する本願発明も同じく、引用例1、2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということができる。

(3-4)むすび
したがって、本願発明は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それゆえ、本願は、特許請求の範囲の請求項2ないし5に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-10 
結審通知日 2012-08-21 
審決日 2012-09-03 
出願番号 特願2006-352236(P2006-352236)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (B09B)
P 1 8・ 121- Z (B09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小久保 勝伊  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 斉藤 信人
田中 則充
発明の名称 土壌浄化方法  
代理人 久門 享  

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