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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A46B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A46B
管理番号 1264850
審判番号 不服2011-26114  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-02 
確定日 2012-10-18 
事件の表示 特願2001-222616号「ブラシ及びその保持方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月 4日出願公開、特開2003- 33228号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成13年7月24日の出願であって、平成23年1月13日付けの拒絶理由に対して、同年3月10日付けで明細書の特許請求の範囲について手続補正がされ、同年9月1日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年12月2日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同日付けで明細書の特許請求の範囲についての手続補正がされたものである。


II.平成23年12月2日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年12月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「【請求項1】 髭剃り用の泡、化粧料、薬等の塗布物を人体に塗布する目的で使用するシェービングブラシであって、
柄と前記柄の一端に設けられた植毛部と、
前記植毛部を設けていない前記柄の底部に、取り付けられた磁石を備え、
前記磁石の磁力による吸着により、鉄により構成された部分に着脱可能であり、
さらに、前記磁石の磁力により前記植毛部を外側に広げずに下向きになるように保持可能、且つ、前記植毛部に含まれる水分を滴下させて乾燥可能であることを特徴とするシェービングブラシ。」
(なお、下線は、補正箇所を明示するために付したものである。)

2 補正の目的及び新規事項の追加の有無
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ブラシ」を、「シェービング」なる限定事項を付して「シェービングブラシ」という概念的に下位の事項に補正するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。

3 独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について以下に検討する。

3-1 引用例の記載事項
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である実公昭38-25965号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a:「本考案は顔剃刷毛をその不使用時において、任意の場所にこれを吊下保持することのできる取付具を具えた顔剃刷毛に係るもので、図面に示すように、刷毛1を固植せる柄部2の一端に鉄片3を固定した刷毛体と、直角に屈折せる軸杆4の一端に磁石片5を、かつ他端に吸盤6を取り付けた取付具との組合せを特徴とするものである。
従来一般に顔剃刷毛の類は、使用後これを陶器製の容器に入れて置くか、あるいは洗面場の棚等に版柄部分を下にして起立させて置くのが通例であるが、これでは石鹸水その他で濡れた刷毛の水切りが悪く、しかも非衛生である。
本案品はこの欠点を除去するために、刷毛の部分を下向に保持するようになしたもので、即ち先ず保持具を吸盤6によって任意の壁面例えば洗面器の置かれた壁面に吸着させてから、刷毛柄部2の一端に設けた鉄片3を、保持具の他端に設けた磁石片5に吸着させて吊り下げると刷毛1の部分は下向となるからこの刷毛に含まれた水分は、下方の洗面器内に滴下して完全に水切られ刷毛が短時間で乾燥する。
このように本案品は刷毛の水切りがよく、衛生的であって、その取扱が極めて簡単であり、使用の際は容易に取付具から軽く引抜いて、その儘使用することができるから極めて便利である。」(考案の詳細な説明)

b:記載事項aにおける「刷毛1を固植せる柄部2の一端に鉄片3を固定」、「刷毛柄部2の一端に設けた鉄片3」の各記載及び図面の図示内容を参酌すれば、柄部2は、その一端に鉄片3を設けると共にその他端に刷毛1が固植されていることから、記載事項aの「顔剃刷毛」は、柄部2と柄部2の一端に設けた鉄片3と柄部2の他端に固植された刷毛1を備えているものといえる。

よって、上記記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「顔剃刷毛であって、
柄部2と前記柄部2の一端に設けた鉄片3と、
柄部2の他端に固植された刷毛1を備え、
刷毛1を固植せる柄部2の一端に鉄片3を固定し、
鉄片3を、保持具に設けた磁石片5に吸着させて吊り下げると刷毛1の部分は下向となるからこの刷毛に含まれた水分は、下方に滴下して完全に水切られ刷毛が短時間で乾燥する、顔剃刷毛。」

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である実願昭53-19457号(実開昭54-123098号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

c:「(1) 前面に歯毛2を設けた、本体1の柄3の下部に、底面5を扁平と成した台座4を一体に設けた、ヘア-ブラシ。
・・・
(3) 底面5の凹部6にマグネツト8を装着した、実用新案登録請求の範囲第2項記載のヘア-ブラシ。」(第1頁第5?13行)

d:「第3図は、台座底面5の凹部6に、マグネツト8を装着した第3実施例を示してある。最近は鉄あるいは鉄合金製の家具や机等も多く使用され、船内や自動車の中も金属が多く利用されており、これ等に於てブラシを使用する時、底面5のマグネツト8が金属に強く磁着し、ヘア-ブラシを直立して保持して、振動や揺れに対しても転倒したりしない様になつている。更に第4図に示すように棚やロッカ-等の金属器具の裏面あるいは内部等に、マグネツト8を磁着させてヘア-ブラシ等をつるした状態で保持することもできる。」(第3頁13行?第4頁第3行)

e:「従来のヘア-ブラシは、使用しない時は寝かせて置くから、歯毛部にホコリ等が附着し易かつた。また寝かせて置くから次ぎに使用する場合、手に取り難い欠点があつた。
本考案は、・・・必要な時は手に取り易く、握り易く、且体裁もはなはだよろしい。更に第3実施例のようにすると、金属に磁着するから振動や動揺する場所にても、転倒したりする憂いがなく、また金属製の棚や机ロツカ-等の裏面や内面につるした状態に磁着保持できるから、場所を取らない利点がある。」(第4頁第4?19行)

よって、上記記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
「前面に歯毛2を設け、本体1の柄の底面5を扁平と成し、底面5の凹部6にマグネット8を装着し、鉄あるいは鉄合金製の棚や机、ロッカー等の裏面や内面に、マグネット8を磁着させてつるした状態に磁着保持できるヘアーブラシ。」

3-2 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「柄部2」は、文言の意味、形状又は機能等からみて本願補正発明の「柄」に相当し、以下同様に、「他端に固植された」は「一端に設けられた」に、「刷毛1」は「植毛部」に、「この刷毛に含まれた水分は、下方に滴下して完全に水切られ刷毛が短時間で乾燥する」は「前記植毛部に含まれる水分を滴下させて乾燥可能である」に、それぞれ相当する。

(イ)記載事項aには、「石鹸水その他で濡れた刷毛」とあるところ、顔剃とは顔の髭やむだ毛を剃ることであり、また、顔剃前に泡立てた石けんを刷毛により顔面に塗布することは当業者にとって自明であるから、引用発明1の「顔剃刷毛」は、本願補正発明の「シェービングブラシ」又は「髭剃り用の泡、化粧料、薬等の塗布物を人体に塗布する目的で使用するシェービングブラシ」に相当する。

(ウ)引用発明1の「柄部2の一端」は、「刷毛1」が「固植された」「他端」とは別の端部であるから、引用発明1の「柄部2の一端に設けた」は、本願補正発明の「植毛部を設けていない前記柄の底部に、取り付けられた」に相当する。
また、引用発明1の「鉄片3」と「磁石片5」は、一対で磁着手段を成し、また、本願補正発明の「磁石」と「鉄により構成された部分」も一対で磁着手段を成しているといえるので、引用発明1の「柄部2の一端に設けた鉄片3」と本願補正発明の「前記植毛部を設けていない前記柄の底部に、取り付けられた磁石」とは、“前記植毛部を設けていない前記柄の底部に、取り付けられた一方の磁着手段”である点で共通する。

(エ)引用発明1の「顔剃刷毛」は、「鉄片3を、保持具に設けた磁石片5に吸着させて吊り下げ」るものであり、しかも「使用の際は容易に取付具から軽く引抜いて、その儘使用する」(記載事項a)のであるから、保持具に設けた磁石片5に対して着脱可能であることは明らかである。
また、引用発明1の「顔剃刷毛」は、「鉄片3を、保持具に設けた磁石片5に吸着させて吊り下げると刷毛1の部分は下向となる」のであるから、下向きになるように保持可能であるといえ、さらに、「刷毛1の部分は下向となる」結果として、刷毛1が外側に広がらずに保持できるものといえる。
そして、引用発明1の「保持具に設けた磁石片5」と本願補正発明の「鉄により構成された部分」とは、一対の磁着手段の内の“他方の磁着手段”である点で共通することから、引用発明1の「鉄片3を、保持具に設けた磁石片5に吸着させて吊り下げると刷毛1の部分は下向となるからこの刷毛に含まれた水分は、下方の洗面器内に滴下して完全に水切られ刷毛が短時間で乾燥する、」と本願補正発明の「前記磁石の磁力による吸着により、鉄により構成された部分に着脱可能であり、さらに、前記磁石の磁力により前記植毛部を外側に広げずに下向きになるように保持可能、且つ、前記植毛部に含まれる水分を滴下させて乾燥可能である」とは、“磁力による吸着により、他方の磁着手段に着脱可能であり、さらに、磁力により前記植毛部を外側に広げずに下向きになるように保持可能、且つ、前記植毛部に含まれる水分を滴下させて乾燥可能である”点で共通している。

以上の(ア)?(エ)によれば、本願補正発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
髭剃り用の泡、化粧料、薬等の塗布物を人体に塗布する目的で使用するシェービングブラシであって、
柄と前記柄の一端に設けられた植毛部と、
前記植毛部を設けていない前記柄の底部に、取り付けられた一方の磁着手段を備え、
磁力による吸着により、他方の磁着手段に着脱可能であり、
さらに、磁力により前記植毛部を外側に広げずに下向きになるように保持可能、且つ、前記植毛部に含まれる水分を滴下させて乾燥可能であるシェービングブラシ。

(相違点)
本願補正発明では、磁着手段が「柄の底部に、取り付けられた磁石」及び「鉄により構成された部分」であり、シェービングブラシが、「柄の底部に、取り付けられた」「磁石の磁力による吸着により、鉄により構成された部分に着脱可能」であるのに対し、引用発明1では、磁着手段は鉄片3及び保持具に設けた磁石片5であり、シェービングブラシは、保持具に設けた磁石片5の磁力により、鉄片3を吸着させることによって磁石片5に着脱可能とした点。

3-3 相違点の判断
上記相違点について検討する。
引用発明2の「歯毛2」は「植毛部」と、「扁平と成し」た「本体1の柄の底面5」「の凹部6」は「植毛部を設けていない柄の底部」と、「マグネット8」は「磁石」と、「鉄あるいは鉄合金製の棚や机、ロッカー等の裏面や内面」は「鉄により構成された部分」といえるものであるから、引用発明2は、「前面に植毛部を設け、植毛部を設けていない柄の底部に磁石を装着し、鉄により構成された部分に磁石を磁着させてつるした状態に磁着保持できるヘアーブラシ。」と言い換えることができる。
引用発明2は「ヘアーブラシ」に関するものであるが、柄と植毛部とを備えたブラシという点で、引用発明1のシェービングブラシと近接する技術分野に属するものであり、しかも、ブラシを使用した後は、ブラシ底部を磁着させてつるした状態に保持しておき、必要な時は手に取り易いという機能面においても引用発明1と共通するものである。
してみると、磁着手段を成す一対の部材の材質や種類は、互いに磁力吸着できるという範囲で適宜に選択可能であることをも踏まえれば、引用発明1における磁着手段に引用発明2を適用し、引用発明1の「鉄片3」と「磁石片5」とから成る磁着手段を、「磁石」と「鉄により構成された部分」とから成る磁着手段とすることにより、引用発明1のシェービングブラシを「前記磁石の磁力による吸着により、鉄により構成された部分に着脱可能」とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。また、引用例1の記載を検討しても、引用発明1の「鉄片3」を磁石に置換し、「磁石片5」を鉄により構成することを妨げる特段の要因も見あたらない。

そして、「本発明によれば、ブラシに含まれた水分を短時間で素早く乾燥させることができ、雑菌の繁殖を抑えて清潔な状態を保ちやすくなるとともに、ブラシ自体が痛みにくくなり、ブラシの寿命が向上する」(本願明細書段落【0011】)という本願補正発明の効果も、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測し得た範囲のものであって格別のものとはいえない。
なお、請求人は、審判請求書の「2.引用文献について」の「(1)」の「(ニ)」において、「本願請求項1のシェービングブラシでは、磁石の磁力を作用できる場所であれば、シェービングブラシの底部に取り付けられた磁石により、鉄により構成された部分に、『直接』吸着できるものとなっている。つまり、引用例1における『固定部材』は不要である。」と主張する。
しかしながら、シェービングブラシを固定部材を介して取り付けるだけでなく、固定部材がなくてもシェービングブラシの底部に取り付けられた磁石により、鉄により構成された部分に、直接吸着もできることは、引用発明1に引用発明2を適用して、引用発明1の「鉄片3」を磁石に置換し、「磁石片5」を鉄により構成することに伴い当然に生じる効果であって、引用発明2の「鉄あるいは鉄合金製の棚や机、ロッカー等の裏面や内面に、マグネット8を磁着させてつるした状態に磁着保持できる」事項から、当業者であれば予測し得る程度のものにすぎない。

したがって、本願補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3-4 むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。


III.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という。)は、平成23年3月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 髭剃り用の泡、化粧料、薬等の塗布物を人体に塗布する目的で使用するブラシであって、
柄と前記柄の一端に設けられた植毛部と、
前記植毛部を設けていない前記柄の底部に、取り付けられた磁石を備え、
前記磁石の磁力による吸着により、鉄により構成された部分に着脱可能であり、
さらに、前記磁石の磁力により前記植毛部を外側に広げずに下向きになるように保持可能、且つ、前記植毛部に含まれる水分を滴下させて乾燥可能であることを特徴とするブラシ。」


IV.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記II.3-1に記載したとおりである。


V.対比・判断
本願発明は、前記II.1の本願補正発明から、上記第II.2で指摘した限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記II.3-2、3-3に記載したとおり、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


VI.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、本願の他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-20 
結審通知日 2012-08-21 
審決日 2012-09-03 
出願番号 特願2001-222616(P2001-222616)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A46B)
P 1 8・ 121- Z (A46B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川上 佳川口 真一  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 松下 聡
関谷 一夫
発明の名称 ブラシ及びその保持方法  
代理人 渡邉 一平  

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