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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A21D
管理番号 1264859
審判番号 不服2009-6239  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-23 
確定日 2012-10-15 
事件の表示 特願2001-552719「冷却生地形成のプロセス」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 7月26日国際公開、WO01/52657、平成15年 7月 2日国内公表、特表2003-520036〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

この出願は,2001年1月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年1月18日,(GB)グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国)を国際出願日とする出願であって,以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成19年11月30日 手続補正書
平成20年 8月 4日付け 拒絶理由通知書
平成20年10月29日 意見書・手続補正書
平成20年12月19日付け 拒絶査定
平成21年 3月23日 審判請求書
平成21年 4月22日 誤訳訂正書
平成21年 6月12日 手続補正書(方式)
平成21年 8月 7日付け 前置報告書
平成23年 2月14日付け 審尋
平成23年 5月13日 回答書
平成24年 1月16日付け 拒絶理由通知書
平成24年 4月10日 意見書

第2 本願発明の認定

この出願の請求項1ないし9に係る発明は,平成21年4月22日付けの誤訳訂正書により補正された明細書及び図面(以下,「本願明細書」という。)の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものであると認める。

「冷却生地を形成するためのプロセスであって,該プロセスは,穀粉および水を,該穀粉中に存在するアラビノキシランの酵素学的な分解を減少または防止し得るタンパク質と混合する工程を包含し,該タンパク質は,キシラナーゼインヒビターである,プロセス。」

第3 平成24年1月16日付け拒絶理由通知の拒絶の理由の概要

本願発明の拒絶の理由の概要は,本願発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

国際公開第97/26794号(以下,「刊行物1」という。)
国際公開第98/49278号(以下,「刊行物2」という。)

第4 刊行物に記載された事項

1 刊行物1に記載された事項

この出願前に頒布された刊行物である刊行物1には,以下の事項が記載されている。翻訳は,刊行物1の対応日本出願の公表公報である特表2000-503843号公報によるものである。

1a「1.冷蔵生地組成物中のシロップ化を減少させる方法であって,前記冷蔵生地組成物が,澱粉及び水を含有し,前記方法が,冷蔵貯蔵の際の生地中のシロップ化の量を減少させるのに有効な量のキシラン化合物を添加する工程を包含することを特徴とする方法。
・・(略)・・
17.請求の範囲第1項又は第9項の方法で得られる冷蔵生地組成物。

18.(a)約35重量%?70重量%の穀粉;
(b)約25重量%?40重量%の水;
(c)約0.1重量%?3重量%のキシラン化合物
を含有する冷蔵生地であって,前記キシラン化合物が,冷蔵貯蔵の際の生地中でのシロップ化を減少させることを特徴とする冷蔵生地組成物。
・・(略)・・
28.請求の範囲第18項に記載の生地製品を含んでなる焼成品。」(特許請求の範囲 請求項1,17,18,28)

1b「いくつかの特殊な天然の小麦酵素は,アラビノキシランの分解に関与する。このカテゴリーに属する酵素の1つは,エンドキシラナーゼとして知られている。これらの酵素の1つは,アラビノキシラン分子の主鎖を含むキシロースを攻撃する。本研究による仮説は,アラビノース側鎖を切断する酵素ではなく,これらの酵素が,主にシロップ化に関与するという理論に基づき,我々は,無置換キシラン化合物が,エンドキシラナーゼの良い競合阻害剤であるということを発見した。」(5頁32行?6頁5行)

1c「生地は,表1に示す配合及び混捏時間で,Hobartミキサー(McDuffeyボウル)を使用して製造した。200グラムの重量のパックを使用し,冷蔵生地製品に通常使用されるらせん状に巻かれたコンポジット缶に,生地を詰めた。それらを,容器内が5psi(ポンド/平方インチ)になるまで,室温でさらした。そして,その容器を華氏50度で貯蔵した。
対照(キシラン化合物を添加しない)及びキシラン化合物を添加した3つのレベル(0.01%,0.1%,及び1%)のものを,それぞれのキシランについて評価した。 ・・(略)・・
表1(抜粋) 小麦粉/水 比:1.66
対照 1及び2
小麦粉 58.78
水 35.92
E-ソーダ 1.32
GDL 1.53
塩 1.46
キシラン 0.00
合 計 100.00
以下のような標準のHobart混捏速度及び時間を使用した:
混捏第一段階:1/2分 速度1,2分 速度2
混捏第二段階:1/2分 速度1,5分 速度2」(12頁28?末行,13頁 表1(抜粋))

1d「 冷蔵生地
本発明の方法で用いることのできる組成物は,通常,生地を含有する。生地は,一般的に,食材に物理的安定性を付与するが,各種プロセスを経た焼成可能な食材に,コンシステンシーの安定性及び熱安定性をも付与する。さらに,生地は,一緒に組み合わせられる食材又はトッピングと好適に調和し,この食材又はトッピングを保持し,配送するのに物理的に適した媒体を提供することができる。
生地は,この役割に矛盾しない成分をいくつでも含有することができる。一般的に,本発明の生地は,加工された又は未加工の穀粉を含み,穀粉は,小麦粉,又はすべての穀粒成分,又は,それらの組み合わせでもよい。本発明の生地を定義するのに有用な穀粒には,小麦,オーツ麦,ライムギ,モロコシ類,大麦,米,キビ,及びその他の穀物から得られる穀粉,種子及びふすまのような穀粒成分がある。本発明で用いる生地は,通常,35重量%?70重量%,好ましくは,40重量%?65重量%,最も好ましくは,45重量%?60重量%の濃度範囲で存在する穀粉を有する。
また,本発明の生地は,水を含んでよい。生地の水分が,約25重量%?40重量%,好ましくは,約27重量%?38重量%,最も好ましくは,約25重量%?35重量%の範囲であると,生地のテクスチャーを最適にすることができる。
水の濃度をはかる他の手段は,生地中の穀粉に対する水の比率によるものである。この結果,我々は,水に対する比率が,約1.0?3.0,好ましくは,1.2?2.5,最も好ましくは,1.5?2.0である穀粉が,最適のパリパリ感を出す助けとなることを見出した。
また,本発明の生地は,他の成分と一緒に,膨張剤を含んでもよい。この膨張剤は,生地組成物中に,約0重量%%?3重量%,好ましくは,約0.5重量%?2重量%,最も好ましくは,約1重量%?2重量%の濃度範囲で存在してよい。
本発明で有用な膨張剤には,空気,水蒸気,イースト,及び重炭酸ナトリウムや重炭酸ナトリウムと1種以上のベーキング酸の混合物を含有するもののようなベーキングパウダーがある。生地混合物中で化学的に膨張する有用なベーキング酸には,リン酸一カルシウム一水和物,硫酸アルミニウムナトリウム,酸性ピロリン酸ナトリウム,リン酸アルミニウムナトリウム,リン酸二カルシウム,グルコノ-デルタラクトン,酒石酸水素カリウム,及びそれらの混合物がある。1種以上のベーキング酸を重炭酸ナトリウムと混ぜて化学的膨張剤としてもよい。本発明の生地は,約0重量%?2.0重量%の重炭酸ナトリウムを含むことが好ましい。」(7頁1行?8頁15行)

2 刊行物2に記載された事項

この出願前に頒布された刊行物である刊行物2には,以下の事項が記載されている。翻訳は,刊行物2の対応日本出願の公表公報である特表2001-523104号公報によるものである。

2a「1.セルロース分解,キシラン分解及び/又はβ-グルカン分解酵素のタンパク質性又は糖タンパク質性阻害剤。
・・(略)・・
6.キシラナーゼ阻害剤であることを特徴とする請求の範囲1-5のいずれかの阻害剤。 ・・(略)・・

26.ストレートドウ,スポンジドウ,Chorleywoodパン,朝食用シリアル,ビスケット,パスタ及び麺からなる群から選択される焼かれた又は押し出された穀物製品の製造及び/又は質を改善するための,請求の範囲1-15のいずれかの阻害剤又は請求項16の方法によって得られた阻害剤,請求の範囲24の微生物,植物又は植物材料の使用方法。
・・(略)・・
28.澱粉由来のシロップ,ソルビトール,キシロース及び/又はキシリトール製造を改善するための,請求の範囲1-15のいずれかの阻害剤又は請求項16の方法によって得られた阻害剤,請求の範囲24の微生物,植物又は植物材料の使用方法。」(特許請求の範囲 請求項1,6,26,28)

2b「本発明は前記阻害剤を得るための方法及び食品,飼料及び/又は飲料工業の様々な分野における前記阻害剤の使用方法にも関する。
・・(中略)・・
「酵素阻害剤」とは,前記酵素の活性を部分的又は全体的に阻害することができる分子を意味する。不可逆阻害においては阻害剤は酵素に共有結合的に結合しているか又は極めて堅固に結合しているので,酵素からの阻害剤の解離は極めて遅い。この場合,阻害剤は架橋反応で前記酵素の正常な基質を通常模倣する。対照的に,可逆阻害は酵素と阻害剤の間の迅速な平衡によって特徴付けられるであろう。競合的阻害剤は基質が活性部位に結合することを妨げ,基質に結合する酵素分子の割合を減少させることによって反応速度を減少させるかもしれない。非競合阻害においては阻害剤は代謝回転数を減少させるかもしれない。基質濃度を上昇させることによって阻害が解消されうるかどうかを測定することによって競合阻害と非競合阻害とを区別することができる。 ・・(略)・・
本発明の好ましい具体例によれば,阻害剤はキシラナーゼ阻害剤であり,それは通常水溶性のアルカリ性タンパク質性種であり,約7.0より大きいpI(つまり等電点の-log)を持つ。SDS-PAGEによって測定されたキシラナーゼ阻害剤の分子量は通常40-43kDaである。β-メルカプトエタノールを用いて還元した後,三つのSDS-PAGEタンパク質バンドが出現し,それらのSDS-PAGE分子量は約40-43kDa,約30kDa及び約10kDaである。40-43kDaのタンパク質又は糖タンパク質のN末端配列は今まで記述されていなかったものであり,通常以下の通りである:配列番号1:
Lys-Gly-Leu-Pro-Val-Leu-Ala-Pro-Val-Thr-Lys-Xaa-Thr-Ala
(ただし,Xaaは好ましくはAspである)。30kDaのバンドは上述の通常のN末端アミノ酸配列番号1を持つが,10kDaのバンドのN末端アミノ酸配列は通常以下の通りである:配列番号2:
Xaa-Ala-Pro-Val-Ala-Lys-Met-Val-Leu-Pro-Val-Ala-Met-Lys-Glu-Xaa-Val
(ただし,第一のXaaは好ましくはSer,Phe又はGlyであり,第二のXaaは未同定である)。この配列は以前には記述されていない。」(1頁24行?2頁7行,4頁23行?6頁10行)

2c「実際,(1)ウワートのアラビノキシラン含有量とスタート材料の酵素活性を関連付けること,及び(2)醸造中どのようにして小麦がアラビノキシランの可溶化を阻害するのかを調査することという目的のために大麦モルト及びモルトにされていない小麦を用いた醸造中のアラビノキシランの可溶化を測定することにより,小麦中にキシラナーゼ阻害剤が存在することが明らかになった。これは60%のモルトと40%の小麦で製造されたウワート中のアラビノキシランの可溶化と遊離キシロース(Xyl)の放出を100%のモルトウワート中のそれと比較することにより実際観察された。特定の実験条件下では微生物起源のキシラナーゼをウワートに添加することによりウワート製造中のアラビノキシランの可溶化は明らかに改善された。」(9頁12?27行)

第5 当審の判断

1 刊行物1に記載された発明

刊行物1の実施例1には「生地は,表1に示す配合及び混捏時間で,Hobartミキサー(McDuffeyボウル)を使用して製造し・・冷蔵生地製品に通常使用される・・缶に,生地を詰め・・室温でさらし・・その容器を華氏50度で貯蔵した」(摘示1c)と記載され,この具体例の中に,「対照(キシラン化合物を添加しない)・・ものを・・評価した」(摘示1c)と記載され,キシラン化合物を添加しない‘対照’実験を行ったことが記載されている。
そして,この‘対照’実験で使用された生地の組成が,実施例1の表1の「対照1及び2」の欄に,「表1に示す配合及び混捏時間」として,「配合 小麦粉/水 比:1.66,小麦粉58.78,水35.92,E-ソーダ1.32,GDL1.53,塩1.46,キシラン0.00,合計100.00,混捏第一段階:1/2分 速度1,2分 速度2 混捏第二段階:1/2分 速度1,5分 速度2」(摘示1c)と記載されている。
ここで,上記組成の単位が摘示1cには明記されていないが,摘示1dに,生地の組成が重量%で記載されていることから,重量%の単位であると解される。

そこで,この生地の組成を,実施例1の上記「生地は,表1に示す配合及び混捏時間で・・貯蔵した」こと(摘示1c)にあてはめると,実施例1には,‘対照’実験として「生地は,配合 小麦粉/水 比:1.66,小麦粉58.78,水35.92,E-ソーダ1.32,GDL1.53,塩1.46,キシラン0.00,合計100.00,混捏時間 混捏第一段階:1/2分 速度1,2分 速度2 混捏第二段階:1/2分 速度1,5分 速度2で,Hobartミキサー(略)を使用して製造し・・冷蔵生地製品に通常使用される・・缶に,生地を詰め・・室温でさらし・・その容器を華氏50度で貯蔵した」ものが記載されているといえる。
ここで,「生地」を「華氏50度」すなわち摂氏10℃で「貯蔵し」ているのであるから,この「生地」は冷蔵生地といえ,冷蔵生地の製造方法が記載されているといえる。

したがって,刊行物1には,

「冷蔵生地の製造方法であって,生地は,配合 小麦粉/水 比:1.66,
小麦粉 58.78重量%,
水 35.92重量%,
E-ソーダ 1.32重量%,
GDL 1.53重量%,
塩 1.46重量%,
キシラン 0.00重量%,
合 計 100.00重量%,
混捏時間 混捏第一段階:1/2分 速度1,2分 速度2
混捏第二段階:1/2分 速度1,5分 速度2
で,Hobartミキサーを使用して製造する方法。」

の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

2 本願発明と引用発明1との対比

本願発明と引用発明1とを対比する。

(1)引用発明1の「冷蔵生地」について,「冷蔵」とは低温で貯蔵することであり,冷やす,すなわち,冷却することといえ,冷却生地といえる。

そうすると,引用発明1の「冷蔵生地の製造方法」は,冷却生地の製造方法といえ,冷却生地を製造する方法すなわち冷却生地を形成するためのプロセスといえるから,本願発明の「冷却生地を形成するためのプロセス」に相当する。

(2)引用発明1の「生地は,配合・・小麦粉・・,水・・で・・ミキサー・・を使用して製造し」とは,「生地は」,「小麦粉・・,水・・で」「配合」したものを,「ミキサー・・を使用して製造し」て得られることを意味している。ここで,「小麦粉」は穀粉の一種であり,また「ミキサー・・を使用して製造し」とは,ミキシングすなわち混合して(生地を)製造することである。
そうすると,引用発明1の「生地は,配合・・小麦粉・・,水・・で・・ミキサー・・を使用して製造し」は,本願発明の「穀粉および水を」「混合する工程を包含」する「プロセス」に相当する。

したがって,両者は,

「冷却生地を形成するためのプロセスであって,該プロセスは,穀粉および水を混合する工程を包含する,プロセス。」

である点で一致し,以下の点で相違する。

穀粉および水を混合する工程に,
本願発明は,穀粉中に存在するアラビノキシランの酵素学的な分解を減少または防止し得るタンパク質である,キシラナーゼインヒビターを更に混合するのに対し,
引用発明1は,キシラナーゼインヒビターを更に混合していない点(以下,「相違点」という。)

3 判断

(1)相違点について

刊行物1には,引用発明1とは別に「冷蔵生地組成物中のシロップ化を減少させる」(摘示1a 請求項1)という課題を解決することを目的とし,「冷蔵生地組成物が,穀粉及び水を含有し・・冷蔵貯蔵の際の生地中のシロップ化の量を減少させるのに有効な量のキシラン化合物を添加する工程を包含する・・方法」(摘示1a 請求項1)の発明についての記載がある。

そして,刊行物1には,アラビノキシランの分解に関与する酵素としてエンドキシラナーゼが知られており,この酵素が,アラビノキシラン分子の主鎖を含むキシロースを攻撃し,主にシロップ化に関与するという理論が示されており(摘示1b),該理論に基づき,エンドキシラナーゼの競合阻害剤を用いることにより,冷蔵生地組成物中のシロップ化を減少させることができることが開示されている。そして,この酵素の阻害剤として,請求項1には,競合阻害剤であるキシランを添加する発明(摘示1a 請求項1)が記載されているのである(摘示1c)。

引用発明1は,この実施例1において,請求項1に係る発明の‘対照’実験としてエンドキシラナーゼの競合阻害剤であるキシラン化合物を添加しないものであるから,引用発明1は,冷蔵生地組成物中のシロップ化を減少できないものである。

そこで検討するに,刊行物1の摘示1bには,前記したように,エンドキシラナーゼが「アラビノース側鎖を切断する酵素ではなく,これらの酵素が,主にシロップ化に関与するという理論」を示した上で,「無置換キシラン化合物」を「エンドキシラナーゼの良い競合阻害剤」として添加するという解決手段が開示されている。
ところで,刊行物2の摘示2bにも記載されているように,酵素阻害剤とは,酵素の活性を部分的又は全体的に阻害する分子で,不可逆阻害又は可逆阻害があり,不可逆阻害では阻害剤は酵素に共有結合的に結合又は極めて堅固に結合し,架橋反応で酵素の正常な基質を模倣し正常な酵素反応を阻害するものであり,他方,可逆阻害は酵素と阻害剤の間の迅速な平衡によって特徴付けられ,可逆阻害する競合阻害剤は基質が活性部位に結合することを競合して妨げ,基質に結合する酵素分子の割合を減少させるものであることは,本願優先日前,技術常識であり,酵素阻害剤として不可逆阻害のものや可逆阻害の競合的阻害剤があることは,本願優先日当時,技術常識であった。
そうすると,刊行物1に接した当業者であれば,上記技術常識を念頭に,エンドキシラナーゼの競合阻害剤でなくとも,前記提示された理論からみて「アラビノキシラン分子の主鎖を含むキシロースを攻撃」する酵素を阻害すれば,シロップ化を防ぐことが可能であろうと理解できたといえる。

他方,刊行物2には,キシラナーゼ阻害剤(摘示2a 請求項6)が記載され,このキシラナーゼ阻害剤は,刊行物2の「通常水溶性のアルカリ性タンパク質性種であり,約7.0より大きいpI(つまり等電点の-log)を持つ。SDS-PAGEによって測定されたキシラナーゼ阻害剤の分子量は通常40-43kDaである」(摘示2b)との記載からみて,タンパク質である。
そして,このキシラナーゼ阻害剤は食品,飼料及び/又は飲料工業の様々な分野に使用でき(摘示2b)特にストレートドウ,スポンジドウ,Chorleywoodパン,朝食用シリアル,ビスケット,パスタ及び麺等の穀物製品の質を改善するために使用できること(摘示2a 請求項26)が記載されており,このキシラナーゼ阻害剤は食品分野へ適用できるもので,刊行物1への適用を妨げる事情はない。

そうすると,引用発明1の冷蔵生地の製造方法において,澱粉由来のシロップ化を改善する,すなわち,穀物中のアラビノキシランの分解に関与する酵素であるキシラナーゼを阻害しよう(摘示1b)として,刊行物2にも記載の酵素阻害剤の技術常識を念頭に,刊行物2に記載のアラビノキシランの分解に関与するキシラナーゼを阻害するタンパク質である,キシラナーゼ阻害剤を適用して本願発明のごとく構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。

(2)本願発明の効果について

それにより奏される効果についても,刊行物1,2の記載事項及び本願優先日当時の周知技術から予測される範囲内のものであり,格別顕著なものではない。

第6 むすび

以上のとおり,本願発明は,刊行物1及び2に記載された発明及び本願優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余について言及するまでもなく,この出願は,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-21 
結審通知日 2012-05-22 
審決日 2012-06-05 
出願番号 特願2001-552719(P2001-552719)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨士 良宏  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 齊藤 真由美
小川 慶子
発明の名称 冷却生地形成のプロセス  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  
代理人 安村 高明  

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