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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1264861
審判番号 不服2009-25755  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-25 
確定日 2012-10-15 
事件の表示 特願2003-384815「微生物の回収方法及び回収装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 9日出願公開、特開2005-143379〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年11月14日の出願であって、平成21年9月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年12月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成21年12月25日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成21年12月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正は、平成21年8月27日付け手続補正書の特許請求の範囲請求項1?10を以下のとおりに補正しようとするものである。

「【請求項1】
対象微生物が含まれる試料水を試料水導入経路を介してクロスフロー濾過方式の中空糸膜に導入し、この中空糸膜により濾過された試料水の一部を透過水流路から排出すると共に、残りの試料水を循環水流路の循環により対象微生物の分離、濃縮を行うステップと、
前記対象微生物の分離、濃縮が行われた後、この分離、濃縮が行われる前の試料水よりも少ない量の逆洗溶液により前記中空糸膜及び前記循環水流路に対する逆洗を行って、前記対象微生物を中空糸膜から剥離するステップと、
前記分離、濃縮が行われた対象微生物を含む逆洗溶液を、中間濃縮試料水として中間濃縮試料水導入経路を介してメンブレンフィルタに導入し、このメンブレンフィルタにより中間濃縮試料水中の対象微生物をさらに分離、濃縮、及び固定化するステップと、
を順次実行することを特徴とする微生物の回収方法。
【請求項2】
前記メンブレンフィルタにより前記分離、濃縮、及び固定化するステップが行われた後、このメンブレンフィルタに誘出液注入経路を介して前記逆洗溶液よりも少ない量の誘出液を注入し、この誘出液をメンブレンフィルタに滞溜させた後に排出することによって濃縮試料水を得るステップを実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載の微生物の回収方法。
【請求項3】
前記対象微生物が耐塩素性病原性微生物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の微生物の回収方法。
【請求項4】
対象微生物が含まれる試料水を試料水導入経路を介してクロスフロー濾過方式の中空糸膜に導入し、この中空糸膜により濾過された試料水の一部を透過水流路から排出すると共に、残りの試料水を循環水流路の循環により対象微生物の分離、濃縮を行う手段と、
前記対象微生物の分離、濃縮が行われた後、この分離、濃縮が行われる前の試料水よりも少ない量の逆洗溶液により前記中空糸膜及び前記循環水流路に対する逆洗を行って、前記対象微生物を中空糸膜から剥離する手段と、
前記分離、濃縮が行われた対象微生物を含む逆洗溶液を、中間濃縮試料水として中間濃縮試料水導入経路を介してメンブレンフィルタに導入し、このメンブレンフィルタにより中間濃縮試料水中の対象微生物をさらに分離、濃縮、及び固定化する手段と、
を備えたことを特徴とする微生物の回収装置。
【請求項5】
前記メンブレンフィルタにより前記分離、濃縮、及び固定化が行われた後、このメンブレンフィルタに誘出液注入経路を介して前記逆洗溶液よりも少ない量の誘出液を注入し、この誘出液をメンブレンフィルタに滞溜させた後に排出することによって濃縮試料水を得る手段を、
備えたことを特徴とする請求項4に記載の微生物の回収装置。
【請求項6】
前記対象微生物が含まれる試料水を試料水導入経路を介してクロスフロー濾過方式の中空糸膜に導入し、この中空糸膜により濾過された試料水の一部を透過水流路から排出すると共に、残りの試料水を循環水流路の循環により対象微生物の分離、濃縮を行う手段と、 前記対象微生物の分離、濃縮が行われた後、この分離、濃縮が行われる前の試料水よりも少ない量の逆洗溶液により前記中空糸膜及び前記循環水流路に対する逆洗を行って、前記対象微生物を中空糸膜から剥離する手段と、
を複数段備えたことを特徴とする請求項4又は5に記載の微生物の回収装置。
【請求項7】
前記対象微生物が耐塩素性病原性微生物であることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の微生物の回収装置。
【請求項8】
前記試料水導入経路を介してクロスフロー濾過方式の中空糸膜に導入される試料水は、界面活性剤を含んだ溶液が添加されたものであることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項に記載の微生物の回収装置。
【請求項9】
前記中空糸膜及び前記循環水流路に対する逆洗に用いる前記逆洗溶液は、界面活性剤を含んだ溶液が添加されたものであることを特徴とする請求項4乃至8のいずれか1項に記載の微生物の回収装置。
【請求項10】
前記中空糸膜からの前記対象微生物の剥離操作を物理的に促進する手段を備えたことを特徴とする請求項4乃至9のいずれか1項に記載の微生物の回収装置。」は、

「【請求項1】
対象微生物が含まれ且つ界面活性剤を含んだ溶液が添加された試料水を試料水導入経路を介してクロスフロー濾過方式の中空糸膜に導入し、この中空糸膜により濾過された試料水の一部を透過水流路から排出すると共に、残りの試料水を循環水流路の循環により対象微生物の分離、濃縮を行うステップと、
前記対象微生物の分離、濃縮が行われた後、この分離、濃縮が行われる前の試料水よりも少ない量の逆洗溶液により前記中空糸膜及び前記循環水流路に対する逆洗を行って、前記対象微生物を中空糸膜から剥離するステップと、
前記分離、濃縮が行われた対象微生物を含む逆洗溶液を、中間濃縮試料水として中間濃縮試料水導入経路を介してメンブレンフィルタに導入し、このメンブレンフィルタにより中間濃縮試料水中の対象微生物をさらに分離、濃縮、及び固定化するステップと、
を順次実行することを特徴とする微生物の回収方法。
【請求項2】
前記界面活性剤が陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項1記載の微生物の回収方法。
【請求項3】
対象微生物が含まれる試料水を試料水導入経路を介してクロスフロー濾過方式の中空糸膜に導入し、この中空糸膜により濾過された試料水の一部を透過水流路から排出すると共に、残りの試料水を循環水流路の循環により対象微生物の分離、濃縮を行うステップと、
前記対象微生物の分離、濃縮が行われた後、この分離、濃縮が行われる前の試料水よりも少ない量であり且つ界面活性剤を含んだ逆洗溶液により前記中空糸膜及び前記循環水流路に対する逆洗を行って、前記対象微生物を中空糸膜から剥離するステップと、
前記分離、濃縮が行われた対象微生物を含む逆洗溶液を、中間濃縮試料水として中間濃縮試料水導入経路を介してメンブレンフィルタに導入し、このメンブレンフィルタにより中間濃縮試料水中の対象微生物をさらに分離、濃縮、及び固定化するステップと、
を順次実行することを特徴とする微生物の回収方法。
【請求項4】
前記界面活性剤が陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項3記載の微生物の回収方法。
【請求項5】
前記対象微生物が耐塩素性病原性微生物であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の微生物の回収方法。
【請求項6】
対象微生物が含まれ且つ界面活性剤を含んだ溶液が添加された試料水を試料水導入経路を介してクロスフロー濾過方式の中空糸膜に導入し、この中空糸膜により濾過された試料水の一部を透過水流路から排出すると共に、残りの試料水を循環水流路の循環により対象微生物の分離、濃縮を行う手段と、
前記対象微生物の分離、濃縮が行われた後、この分離、濃縮が行われる前の試料水よりも少ない量の逆洗溶液により前記中空糸膜及び前記循環水流路に対する逆洗を行って、前記対象微生物を中空糸膜から剥離する手段と、
前記分離、濃縮が行われた対象微生物を含む逆洗溶液を、中間濃縮試料水として中間濃縮試料水導入経路を介してメンブレンフィルタに導入し、このメンブレンフィルタにより中間濃縮試料水中の対象微生物をさらに分離、濃縮、及び固定化する手段と、
を備えたことを特徴とする微生物の回収装置。
【請求項7】
前記界面活性剤が陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項6記載の微生物の回収装置。
【請求項8】
対象微生物が含まれる試料水を試料水導入経路を介してクロスフロー濾過方式の中空糸膜に導入し、この中空糸膜により濾過された試料水の一部を透過水流路から排出すると共に、残りの試料水を循環水流路の循環により対象微生物の分離、濃縮を行う手段と、
前記対象微生物の分離、濃縮が行われた後、この分離、濃縮が行われる前の試料水よりも少ない量であり且つ界面活性剤を含んだ逆洗溶液により前記中空糸膜及び前記循環水流路に対する逆洗を行って、前記対象微生物を中空糸膜から剥離する手段と、
前記分離、濃縮が行われた対象微生物を含む逆洗溶液を、中間濃縮試料水として中間濃縮試料水導入経路を介してメンブレンフィルタに導入し、このメンブレンフィルタにより中間濃縮試料水中の対象微生物をさらに分離、濃縮、及び固定化する手段と、
を備えたことを特徴とする微生物の回収装置。
【請求項9】
前記界面活性剤が陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項8記載の微生物の回収装置。
【請求項10】
前記対象微生物が耐塩素性病原性微生物であることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の微生物の回収装置。」
(下線は、補正箇所を示す。)と補正された。

上記補正は、補正前の特許請求の範囲請求項1ないし3が「微生物の回収方法」との方法の発明であったのに対し、その請求項1に記載された「試料水」が「界面活性剤を含んだ溶液が添加された」ものであるとの構成を追加して請求項1とするとともに、補正後の請求項1を引用して「界面活性剤が陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤である」ことに限定した請求項2を新たに追加し、さらに、補正前の請求項1に記載された「逆洗溶液」が「界面活性剤を含んだ」ものであるとの構成を追加して新たに請求項3とし、当該補正後の請求項3を引用して「界面活性剤が陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤である」ことに限定した請求項4を新たに追加し、さらに補正前の請求項3を請求項5として当該補正後の請求項1ないし4を引用することとしたものであって、補正後の請求項4及び5を「微生物の回収装置」との物の発明から「微生物の回収方法」との方法の発明にしたものである。
そうすると、本件補正は、「微生物の回収方法」との方法の発明に係る請求項の数が増加したものであって、また、n項引用形式請求項をn-1以下の請求項に変更したものでもないので、特許請求の範囲の減縮を目的としたものではない。
また、明りょうでない記載の釈明でもないし、誤記の訂正でもない。

したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成21年12月25日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成21年8月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は以下のとおりのものである。

「【請求項1】
対象微生物が含まれる試料水を試料水導入経路を介してクロスフロー濾過方式の中空糸膜に導入し、この中空糸膜により濾過された試料水の一部を透過水流路から排出すると共に、残りの試料水を循環水流路の循環により対象微生物の分離、濃縮を行うステップと、
前記対象微生物の分離、濃縮が行われた後、この分離、濃縮が行われる前の試料水よりも少ない量の逆洗溶液により前記中空糸膜及び前記循環水流路に対する逆洗を行って、前記対象微生物を中空糸膜から剥離するステップと、
前記分離、濃縮が行われた対象微生物を含む逆洗溶液を、中間濃縮試料水として中間濃縮試料水導入経路を介してメンブレンフィルタに導入し、このメンブレンフィルタにより中間濃縮試料水中の対象微生物をさらに分離、濃縮、及び固定化するステップと、
を順次実行することを特徴とする微生物の回収方法。」
(以下、「本願発明」という。)

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物1ないし3には以下の事項がそれぞれ記載されている。なお、下線は当審が付した。

(1)刊行物1:特開平10-314552号公報の記載事項

(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 外筒内部に多孔質中空糸膜の両端が開口してポッティングされ、前記外筒には、多孔質中空糸膜の外表面側に試水を供給する給水口と、多孔質中空糸膜の開口端に連通して透過水を取り出す出水口が配設されたことを特徴とする原虫捕捉用中空糸膜カートリッジ。
【請求項2】 外筒内部に多孔質中空糸膜の両端が別々に開口してポッティングされ、前記外筒には、多孔質中空糸膜の一方の開口端に試水を供給する給水口と、多孔質中空糸膜の外表面側に連通して透過水を取り出す出水口とが配設され、多孔質中空糸膜の他の開口端から濃縮水を取り出すことを特徴とする原虫捕捉用中空糸膜カートリッジ。
【請求項3】 試水中に含まれる原虫の捕捉回収を行うに際し、最大孔径2.0μm以下の微細孔を有する多孔質中空糸膜が配設された中空糸膜カートリッジに試水を通水し濾過することにより、多孔質中空糸膜の一次側で試水の濃縮を行った後、原虫を含む濃縮水及び/又は多孔質中空糸膜の表面に堆積した原虫を含む濁度成分を回収することを特徴とする原虫の捕捉回収方法。
・・・(略)・・・
【請求項13】 多孔質中空糸膜表面に堆積した原虫を含む濁度成分を回収するに際して、試水濾過時の逆方向に洗浄液を通水することにより、膜表面の濁度成分を洗浄液中に誘出させることを特徴とする請求項3に記載の原虫の捕捉回収方法。
【請求項14】 多孔質中空糸膜表面に堆積した原虫を含む濁度成分を回収するに際して、洗浄液を多孔質中空糸膜の一次側に循環通水することにより濁度成分を洗浄液中に誘出させることを特徴とする請求項3に記載の原虫の捕捉回収方法。
【請求項15】 洗浄液中に界面活性剤が添加されてなることを特徴とする請求項12?14のいずれか1項に記載の原虫の捕捉回収方法。
【請求項16】 洗浄液中に消泡剤が添加されてなることを特徴とする請求項15記載の原虫の捕捉回収方法。」

(1b)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、試水に含まれる原虫を捕捉回収するための原虫捕捉用中空糸膜カートリッジ及び原虫の捕捉回収方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、牛、豚等に寄生する原虫であるクリプトスポリジウムが水道水中に混入し、大量の感染者を出す事態がしばしば起こっている。クリプトスポリジウムが水道水中に混入する原因は、畜産農家の汚水が表流水に流れ込むことにより、水道水の水源が汚染されるためといわれているがはっきりしたことは分かっていない。」

(1c)「【0005】これらの内、試水中の濁質の捕捉回収に関する部分の概略を以下に記す。
1.試水の採取…給水栓、配水池及び浄水池の水は40L以上、河川水等水道原水は概ね10L採取する。
2.膜面捕捉…セルロースアセテートのディスクフィルター(フィルター径47又は90mm、孔径1.2μm以下)を濾過器にセットし、試水を濾過する。
3.捕捉物の誘出…濁質を捕捉したディスクフィルターを沈澱管(15又は50ml)に挿入し、99.5%のアセトンを加えフィルターを溶解する。
4.精製液置換…2500?3000rpmで10分間遠心沈澱し、上清のアセトン液を吸引除去する。得られた沈渣に再度アセトンを加え、再懸濁させた後遠心沈澱を1?2回繰り返す。得られた沈渣に精製液(二段蒸留水を孔径0.45μm以下のフィルターで濾過した液)を加えて、再懸濁させた後同様に遠心沈澱を行う。
5.PBS液置換…精製液での遠心沈澱後、上清液を吸引除去し、PBS液(リン酸緩衝生理食塩水)を加え、再懸濁させた後同様に遠心沈澱する。上清液を吸引除去し、適当量のPBS液を添加し再懸濁させ試料とする。
【0006】この様な方法で試水中に含まれる原虫の捕捉回収を行おうとすると、濾過開始からPBS液置換までで、水道水を使用しても2?3時間を要することとなる。その後捕捉物をフィルター上に再度捕捉し、間接蛍光抗体法により蛍光染色し、プレパラートを作製し、落射蛍光顕微鏡により観察、計数する。又、懸濁物質の多い試料は、染色工程にはいる前に、ショ糖液を用いた密度勾配法により捕捉物を精製する。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前述した方法で原虫の捕捉回収を行うと、
1.フィルターの目詰まりが発生するため早期に濾過速度が低下する、
2.フィルターの膜面積が小さいため、大量の試水を効率よく通水することができない、
といった不都合が発生する。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、これらの不都合に鑑みてなされたものであり、短時間かつ高効率で、試水中に含まれる原虫の捕捉回収を行うための、原虫捕捉用中空糸膜カートリッジ及び原虫の捕捉回収方法の開発を目的としてなされたものである。」

(1d)「【0021】また、多孔質中空糸膜表面に堆積した原虫を含む濁度成分を回収するに際して、試水濾過時の逆方向に洗浄液を通水することにより、膜表面の濁度成分を洗浄液中に誘出させること、微細孔に入り込んだ濁度成分をも回収することができる。」

(1e)「【0024】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面により説明する。図1は、本発明の原虫捕捉用中空糸膜カートリッジの一例を模式的に示す断面図である。U字状に折り曲げられた最大孔径が2.0μm以下の多孔質中空糸膜11の片端が、ポッティング材12により、中空部を開口した状態で、キャップ16内に支持固定されており、開口端は、多孔質中空糸膜11を透過した透過水を外部に送水する出水口13に連通する。外筒17は、その下方に、試水の給水口14を有しており、キャップ16と脱着可能に係合されてなる。また、キャップ16と外筒17との間の係合部にはO-リング15が配置される。
【0025】この中空糸膜カートリッジに、原虫を含む試水を給水口14より外筒17に通水し、吸引濾過、或いは加圧濾過により試水の濾過を行う。濾過方式を吸引濾過とすると、濁度の高い河川水等を試水として用いて原虫の回収を行う際に、多孔質中空糸膜の目詰まりが発生しにくく、好ましい。
【0026】原虫は多孔質中空糸膜の一次側で濃縮されるので、これを所定量まで濾過した後に濃縮水として原虫を回収するか、或いは試水の全量濾過を行った後、多孔質膜表面に堆積した原虫を含む濁度成分の回収を行う。なお、濃縮水として原虫の回収を行う場合においても、濾過終了後に膜表面に堆積した原虫を含む濁度成分を更に回収することが、原虫の回収効率を上げる観点から好ましい。
・・・(略)・・・
【0033】また、多孔質中空糸膜表面に堆積した濁度成分の回収を行うに際しては、洗浄液を、試水の濾過時とは逆方向に通水することにより、膜表面の濁度成分を誘出させても良い。この様な方法を用いると、微細孔に入り込んだ濁度成分をも回収することができる。或いは、洗浄液を、中空糸膜の一次側で循環通水することにより、膜表面の濁度成分を誘出させてもよい。この様な方法を用いると、膜表面を水流により洗浄することになり、原虫への衝撃が少なくなる。
【0034】膜表面の洗浄に用いる洗浄液には、界面活性剤を添加すると、濁度成分の回収効率が向上し、好ましい。また、洗浄液に消泡剤を添加すると、泡の発生により外筒壁面に付着する原虫が減少するので、回収率が上がり好ましい。得られた回収液は遠沈管に移し、遠心分離器により原虫を固液分離させる。」

(1f)「【0042】図5は、本発明の原虫捕捉用原虫捕捉用中空糸膜カートリッジの他の形態例を模式的に示す断面図である。外筒51は多孔質中空糸膜を透過した透過水の出水口52を有する容器であり、容器内には複数本の多孔質中空糸膜53の中空部の両端が開口状態を保つようポッティング材54で支持固定される。又、中空糸膜の開口部の一端は、中空糸膜の中空部に水を供給する給水口55に連通しており、他端は、循環水出口56に連通する。給水口から通水された試水はその一部が透過水として出水口から取り出されるとともに、濃縮水が循環水出口よりカートリッジ外部へと送水される。」

(1g)「【0043】
【実施例】以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、本実施例ではオーシストとほぼ同径のサイズ(4?10μm)を有する微生物であるクロレラを用い、クロレラ濃度100個/Lとなるよう名古屋市水にクロレラを溶解した溶液を試水として用いた。
【0044】また、実施例において用いた原虫捕捉用中空糸膜カートリッジには、多孔質中空糸膜として三菱レイヨン社製ポリエチレン製多孔質中空糸膜(最大孔径1.0μm、内径270μm、外径380μm)を用い、中空糸膜の有効糸長が80mm、中空糸膜の充填率40%、膜面積は1650cm^(2)(中空糸膜外径ベース)となるよう中空糸膜カートリッジを設計した。」

(1h)「【0050】<実施例2>図2に示す、外筒27が、容量50mlの遠沈管として共用することができる原虫捕捉用中空糸膜カートリッジの出水口23にアスピレーターを接続するとともに、給水口より試水40Lを通水し、膜間差圧0.7kg/cm^(2)で吸引濾過を行った。次に、中空糸膜カートリッジの外筒を取り外し、外筒内の濃縮水を回収した。このときの回収液量は35mlであった。
【0051】次いで、別の外筒を、キャップにセットし、キャップの出水口から50mlのシリンジを用いて35mlの洗浄水を注入することにより、逆通水洗浄を行い、中空糸膜表面の濁度成分を誘出させた洗浄液を、外筒内に収容した。
【0052】この逆通水洗浄を計3回行い、前述の濃縮水と合わせて140mlの回収液を得た。得られた回収液の濃縮倍率は286倍であり、回収液を得るまでに要した時間は約60分であった。なお、洗浄液には、界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、Tween80それぞれ0.1%、消泡剤としてSigma Antifoam A 0.01%を含む調製液を使用した。
【0053】外筒4本に収容した回収液を、そのまま遠心分離器にセットし、3000rpm×10分の遠心沈澱を行い、上清液を吸引除去した後PBS液を加え再懸濁させ同様に遠心沈澱を行い、上清液を吸引除去した後再度PBS液を加え再懸濁させPBS試料とした。
【0054】得られたPBS試料を1Lに希釈し、希釈液100mlをオムニポアメンブレンにより濾過し、膜面に捕捉されたクロレラを計数したところ312個確認できた。これより、クロレラの回収率は約78%であった。又、中空糸膜カートリッジにより濾過された濾過液1Lをオムニポアメンブレンにより濾過し、膜面を観察したところクロレラは確認されなかった。通水開始からPBS試料を得るまでの所要時間は約90分であった。」

(1i)「【0063】<実施例5>図5に示される原虫捕捉用中空糸膜カートリッジの給水口55に送液ポンプを接続し、試水40Lを膜間差圧1.0kg/cm^(2)で加圧濾過した。この時、中空糸膜カートリッジには10L/minの流量で試水を供給し、出水口52からの透過水の流量が5L/min、循環水出口からの、循環水の流量が5L/minとなるようクロスフロー濾過を行った。
【0064】試水の液量が400mlになるまでクロスフロー濾過を行い、濃縮水を回収した。得られた回収液の濃縮倍率は100倍であり、回収液を得るまでに要した時間は約30分であった。得られた回収液を、50ml遠沈管に分配し、遠心分離器にセットし、3000rpm×10分の遠心沈澱を行い、上清液を吸引除去した後PBS液を加え再懸濁させ同様に遠心沈澱を行い、上清液を吸引除去した後再度PBS液を加え再懸濁させPBS試料とした。
【0065】得られたPBS試料を1Lに希釈し、希釈液100mlをオムニポアメンブレンにより濾過し膜面に捕捉されたクロレラを計数したところ352個確認できた。これより、クロレラの回収率は約88%であった。又、中空糸膜カートリッジの濾過液1Lをオムニポアメンブレンにより濾過し、膜面を観察したところクロレラは確認されなかった。又、通水開始からPBS試料を得るまでの所要時間は約60分であった。」

(1j)「【0080】<実施例8>実施例5で用いた原虫捕捉用中空糸膜カートリッジと同一の仕様の中空糸膜カートリッジの給水口に送液ポンプを接続し、試水800Lを膜間差圧1.0kg/cm^(2)で加圧濾過した。この時、中空糸膜カートリッジには10L/minの流量で供給し、透過水出口からの流量を5L/min、循環水出口からの流量を5L/minとしてクロスフロー濾過を行った。
【0081】試水の液量が400mlになるまでクロスフロー濾過を行い、濃縮水を回収した。得られた回収液の濃縮倍率は2000倍であり、回収液を得るまでに要した時間は約180分であった。
【0082】得られた回収液を、50ml遠沈管に分配し、遠心分離器にセットし、3000rpm×10分の遠心沈澱を行い、上清液を吸引除去した後PBS液を加え再懸濁させ同様に遠心沈澱を行い、上清液を吸引除去した後再度PBS液を加え再懸濁させPBS試料とした。
【0083】得られたPBS試料を20Lに希釈し、希釈液100mlをオムニポアメンブレンにより濾過し膜面に捕捉されたクロレラを計数したところ312個確認できた。これより、クロレラの回収率は約78%であった。中空糸膜カートリッジの濾過液1Lをオムニポアメンブレンにより濾過し、膜面を観察したところクロレラは確認されなかった。又、通水開始からPBS試料を得るまでの所要時間は約220分であった。
【0084】本実施例においては、濃縮倍率を比較例1と同等の2000倍にし実験ているが、比較例1よりも高い回収率で原虫の捕捉回収を行うことができた。また、比較例1とほぼ同等の時間で20倍の試水を処理することができた。」

(1k)「【0085】
【発明の効果】本発明の原虫の捕捉回収方法によれば、試水中に含まれる原虫の捕捉回収を行うに際し、最大孔径2.0μm以下の微細孔を有する多孔質中空糸膜が配設された中空糸膜カートリッジに試水を通水し濾過することにより、多孔質中空糸膜の一次側で試水の濃縮を行った後、原虫を含む濃縮水及び/又は多孔質中空糸膜の表面に堆積した原虫を含む濁度成分を回収するので、従来の回収方法に比較して、膜面積を多くとることができ、容積効率が向上し、短時間かつ高回収効率で原虫を捕捉回収することができる。」

(1l)「図5




(2)刊行物2:平成11年度厚生科学研究費補助金(新興・再興感染症研究事業)研究課題名 水道水を介して感染するクリプトスポリジウム及び類似の原虫性疾患の監視と制御に関する研究 報告書 平成12年3月,pp.13-21 (科学技術振興事業団2001年3月9日受入)の記載事項

(2a)「3 - 3 中空糸UF膜モジュールからのオーシストの誘出方法の検討
3 - 3 - 1 供試クリプトスポリジウムオーシストおよび添加オーシスト数の測定
大阪市立大学井関博士より分与され、麻布大学生物科学総合研究所感染エリアで継代・維持しているヒト分離Cryptosporidium parvum HNJ-1株Scidマウスに感染させ,その糞便から分離・精製したオーシストを用いてオーシスト懸濁液(50個/ml)を50ml調製した。調製した試料を1mlずつ5枚のセルロースァセテート製メンブランフィルタ(孔径0.8μm,直径25mm)でろ過して間接蛍光抗体染色した。染色後、フィルター上のオーシストを落射蛍光顕微鏡で判別、計数した。
2 - 2 ろ過および誘出
ポリパケツ(60l)を原水槽とし、原水槽内を常に攪拌機で撹拌しながら試料が一定水量、一定オーシスト濃度(約14個/l)に保たれるように水道水およびオーシスト液を加えながらローラーポンプで試料を中空糸UF 膜モジュール(膜面積0.3m^(2))に送水し、ろ過した。試料1,000lを全てろ過した後、PBS(Tween80添加:T+)を500ml加えて原水槽の壁面を洗浄し、洗液もろ過した。さらに精製水500mlを加えて原水槽の壁面を洗浄し、その洗液もろ過した。試料および洗液のろ過後、ミリQ水100mlを中空糸UF膜モジュールの流入側から加え、手動振とうで誘出した。ミリQ水による誘出を4回行った後、EPA Method 1622 力プセルフィルター用誘出液(Larureth12:1g,Trith:10ml,EDTA:2ml,Anthiform A:150μl,D.W.:1,000ml)を用いて同様の誘出操作を行った。計5 回の誘出液をそれぞれ分取,染色し,原虫数を計数した。
3 撹拌型ろ過セルによる濃縮物の洗浄
オーシスト濃度1個/mlの試料を200ml調製、そのうち50mlを撹拌型ろ過セルの原水タンクに入れ、原水タンクにPBS(T+)を加えておおよそ300mlとした。撹拌子を入れて撹拌しながらN^(2)ガスで加圧(0.5kgf/cm^(2))し、試料をポリカーボネート製メンブランフィルター(孔径3.0μm,直径80mm)を装着した撹拌型ろ過セルに圧送してろ過した。原水タンク内の試料を全てろ過した後、PBS(T+)50mlを加えて原水タンクおよび撹拌型ろ過セルの壁面を洗浄して洗液もろ過した。ろ過終了後、フィルターをはずして50ml遠沈管に入れ、PBS(T+, Antiform A添加;A+)20mlを加えてタッチミキサーで撹拌した。撹拌後、フィルターを取り出してPBS (T+,A+ )30mlで洗い流し、あわせて50ml とした。ろ過後の試料を染色用フィルターでろ過して間接蛍光抗体染色し、オーシストを計数した。オーシスト濃度を1個/mlに調製した試料の残りの150ml は50mlずつ染色用フィルターでろ過して間接蛍光抗体染色し、オーシストを定量した。」(第15頁16行?36行)

(2b)「(1)濃縮
原水槽(60lポリパケツ)に試料水201 を入れて攪拌機でよく撹拌しながら、試料水中のオーシスト濃度がおおよそ100個/lになるようにオーシスト液を添加した。撹拌を続けながら10 分程度オーシストを拡散させた後、試料水約10lずつを中空糸UF膜モジュール(膜面積0.1m^(2))またはセルロースアセテートディスクフィルター(直径142mm,孔径1.2μm)を用いてろ過した。試料水のろ過終了後、原水槽にPBS(T+)を500ml加え、壁面を洗浄したのち洗液も同量ずつろ過した。さらに、精製水500mlを原水槽に加えて再度、壁面洗浄し、その洗液も同様にろ過した。
試料およひ洗液のろ過後、ミリQ水100mlを中空糸UF膜モジュールの流入側から加え、手動振とうで誘出した。ミリQ水100mlによる誘出を3 回行った後、1622カプセルフィルター用誘出液50mlを加えて同様に誘出した。再度ミリQ水を加え、計5回の誘出操作を行った。
セルロースアセテートディスクフィルターは試料および洗液のろ過後、1枚ずつポリプロピレン遠沈管(50ml)に入れた。この遠沈管にアセトン(99.5%)を加え50mlとし、タッチミキサーで撹拌してフィルターを溶解させた後、遠心分離(1,050×g,10min)し、アスビレーターで沈渣を含む残液が10mlになるまで上清を除去した。この操作を3回繰り返した後、PBS ( T+,A+)を加えて50mlとし、撹拌、遠心分離した後、アスピレーターで沈渣を含む残液が5mlになるまで上清を吸引除去した。再びPBS (T+,A+)を加え、遠心と上澄み液の除去までの操作を3 回繰り返した。」(第16頁3行?18行)

(3)刊行物3:土木研究所資料 平成8年度下水道関係調査研究年次報告書集 平成9年10月 建設省土木研究所,pp.183-188 (科学技術振興事業団1998年5月26日受入)の記載事項

(3a)「3.1下水からのオーシストの濃縮・回収法等の検討
本報告においては、下水及び下水処理水中から簡易かつ効率良くオーシストを回収することを目的として濃縮方法等の検討を行った。当初、オーシストの濃縮は、試料を遠心分離にかけ沈査を回収し、密度勾配遠心処理により沈査とオーシストを分離する方法でオーシストの集積液を作成した。しかし、清浄で懸濁物の少ない下水処理水や河川水の場合には、試料を遠心分離しても生成される沈査の量が少ないうえオーシストの回収率も 2?3 %程度と低かった。また、パーコール蔗糖液を用いて密度勾配遠心処理により、下水処理水の沈査からオーシストを分離しようとしても、最終沈殿行池を経てきた懸濁物のため、オーシストの集積する分離界面上に懸濁物も集積してしまい良好に分離が行えなかった。このため、下記に示す方法によりオーシストの濃縮怯を検討した。
検討には、オーシストを添加した A下水処理場の流入下水及び砂ろ過水を用い、平膜のメンブランフィルターで試料のろ過を行いオーシストを捕捉させ、アセトンによりフィル夕一を溶解しオーシストを固定させる方法3)を参考に、下水中からオーシストを濃縮した場合の回収率の把握を行った。オーシストの検出は、キット(HYDROFLUOR-Combo,ENSYS INC.)を用いて間接蛍光抗体染色し落射蛍光専用顕微鏡により計数した。」(第185頁1行?14行)

3 対比・判断
刊行物1には、試水に含まれるクリプトスポリジウムなどの原虫を捕捉回収するための原虫の捕捉回収方法に関する発明であって(1b)、試水中に含まれる原虫の捕捉回収を行うに際し、最大孔径2.0μm以下の微細孔を有する多孔質中空糸膜が配設された中空糸膜カートリッジに試水を通水し濾過することにより、多孔質中空糸膜の一次側で試水の濃縮を行った後、原虫を含む濃縮水及び/又は多孔質中空糸膜の表面に堆積した原虫を含む濁度成分を回収する原虫の捕捉回収方法が記載されている(1a)。
そして、実施例として、微生物であるクロレラを用いてクロレラ濃度100個/Lとなるよう名古屋市水にクロレラを溶解した溶液を試水として用いたこと(1g)、原虫捕捉用中空糸膜カートリッジの給水口55に送液ポンプを接続し、試水40Lを膜間差圧1.0kg/cm^(2)で加圧して中空糸膜カートリッジに供給し、出水口52からの透過水の流量が5L/min、循環水出口からの、循環水の流量が5L/minとなるようクロスフロー濾過を行うこと、試水の液量が400mlになるまでクロスフロー濾過を行い、濃縮水を回収すること、得られた回収液を遠心分離器にセットし、遠心沈澱を行い、上清液を吸引除去した後PBS液を加え再懸濁させ同様に遠心沈澱を行い、上清液を吸引除去した後再度PBS液を加え再懸濁させPBS試料としたこと、クロレラの回収率は88%で濾過液にはクロレラは確認されず、通水開始からPBS試料を得るまでの所要時間は約60分であったことが記載されている(1i)。
そうすると、刊行物1の上記記載事項(特に上記(1a)(1i))から、刊行物1には、
「原虫捕捉用中空糸膜カートリッジの給水口に微生物を含む試水を供給し、出水口から透過水を、循環水出口から循環水を得ることによってクロスフロー濾過を行うこと、クロスフロー濾過を行って濃縮水を回収すること、得られた回収液を遠心分離器にセットし遠心沈澱を行い試料を得ること、を行う原虫を含む濃縮水及び/又は多孔質中空糸膜の表面に堆積した原虫を含む濁度成分を回収する原虫の捕捉回収方法」
の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。

(ア)刊行物1発明の捕捉回収する原虫として「クリプトスポリジウム」が例示されており(1b)、また本願発明の回収する微生物については、本願の明細書の【0024】を参照すると「また、耐塩素性病原性微生物に関しては特に種類を問わない。例えば、クリプトスポリジウム、ジアルジア、サイクロスポーラ、マイクロスポーラ類などが挙げられる。」と記載されていることから、刊行物1発明の原虫は本願補正発明の「微生物」に相当する。

(イ)刊行物1発明の「原虫捕捉用中空糸膜カートリッジの給水口に微生物を含む試水を供給し、出水口から透過水を、循環水出口から循環水を得ることによってクロスフロー濾過を行うこと」について、中空糸膜カートリッジの給水口に試水を供給するための経路や、中空糸膜カートリッジの出水口から透過水を得るための経路、および循環水出口から循環水を得て試水を循環させるための循環経路を有することは当然のことといえる。また、刊行物1発明の「クロスフロー濾過を行って濃縮水を回収すること」は、試水を濾過することによって微生物を分離し濃縮し、濃縮水を回収することといえる。
そうすると、刊行物1発明の「原虫捕捉用中空糸膜カートリッジの給水口に微生物を含む試水を供給し、出水口から透過水を、循環水出口から循環水を得ることによってクロスフロー濾過を行うこと、クロスフロー濾過を行って濃縮水を回収すること」は、本願発明の「対象微生物が含まれる試料水を試料水導入経路を介してクロスフロー濾過方式の中空糸膜に導入し、この中空糸膜により濾過された試料水の一部を透過水流路から排出すると共に、残りの試料水を循環水流路の循環により対象微生物の分離、濃縮を行うステップ」に相当する。

(ウ)刊行物1発明の「得られた回収液を遠心分離器にセットし遠心沈澱を行い試料を得ること」は、微生物を含む回収された濃縮水をさらに遠心分離器により分離、濃縮するものといえるので、本願発明の「前記分離、濃縮が行われた対象微生物を含む逆洗溶液を、中間濃縮試料水として中間濃縮試料水導入経路を介してメンブレンフィルタに導入し、このメンブレンフィルタにより中間濃縮試料水中の対象微生物をさらに分離、濃縮、及び固定化するステップ」とは、「前記分離、濃縮が行われた対象微生物を含む溶液をさらに分離、濃縮するステップ」である点で共通する。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)
対象微生物が含まれる試料水を試料水導入経路を介してクロスフロー濾過方式の中空糸膜に導入し、この中空糸膜により濾過された試料水の一部を透過水流路から排出すると共に、残りの試料水を循環水流路の循環により対象微生物の分離、濃縮を行うステップと、
前記分離、濃縮が行われた対象微生物を含む溶液をさらに分離、濃縮するステップと
を順次実行する微生物の回収方法

(相違点1)
「対象微生物が含まれる試料水を試料水導入経路を介してクロスフロー濾過方式の中空糸膜に導入し、この中空糸膜により濾過された試料水の一部を透過水流路から排出すると共に、残りの試料水を循環水流路の循環により対象微生物の分離、濃縮を行うステップ」の後で、「前記分離、濃縮が行われた対象微生物を含む溶液をさらに分離、濃縮するステップ」を行う前に、本願発明では「前記対象微生物の分離、濃縮が行われた後、この分離、濃縮が行われる前の試料水よりも少ない量の逆洗溶液により前記中空糸膜及び前記循環水流路に対する逆洗を行って、前記対象微生物を中空糸膜から剥離するステップ」を行うのに対し、刊行物1発明では当該ステップを行うことについては規定していない点。

(相違点2)
「前記分離、濃縮が行われた対象微生物を含む溶液をさらに分離、濃縮するステップ」が、本願発明では、逆洗を行った後の「分離、濃縮が行われた対象微生物を含む逆洗溶液を、中間濃縮試料水として中間濃縮試料水導入経路を介してメンブレンフィルタに導入し、このメンブレンフィルタにより中間濃縮試料水中の対象微生物をさらに分離、濃縮、及び固定化する」のに対して、刊行物1発明では、得られた回収液を遠心分離器にセットし遠心沈澱を行う点。

そこで、上記各相違点について検討する。

(相違点1について)
刊行物2には、中空糸UF膜モジュールにより試料をろ過した後、PBS加えて原水槽の壁面を洗浄し、洗液もろ過し、さらに、精製水を加えて原水槽の壁面を洗浄しその洗液もろ過し、試料および洗液のろ過の後、中空糸UF膜モジュールにミリQ水加えて誘出させ、さらに誘出液を用いて誘出操作を行うことが記載されている(2a,2b)。そして、原水槽の壁面を洗浄する際のPBSや精製水および中空糸UF膜モジュールに加えるミリQ水や誘出液の量は、いずれも試料水よりも少ないこと記載されている(2a,2b)。
さらに、刊行物1を参照すると、濃縮水として原虫の回収を行う場合、原虫の回収効率を上げる観点から、濾過終了後に多孔質中空糸膜表面に堆積した原虫を含む濁度成分を更に回収することが好ましい旨、記載されており(1e)、この回収の方法としては、洗浄液の通水により膜表面の濁度成分を誘出させる方法が記載され(1d,1e)、実施例として、試水40Lに対して逆通水洗浄のための洗水は35ml×3回、すなわち105mlであって(1h)、試水よりも少ない量の洗浄液で洗浄を行うことが記載されている。また、中空糸モジュールに対して洗浄の際に、必要に応じて循環水と逆方向に洗浄水を流すことも、例えば特開平10-151326号公報(【0040】?【0044】及び図1(c))に記載されているとおり、本願出願前において、通常、行われている技術である。
そうすると、原虫の回収効率を上げる観点から、濾過時に試水が流れた循環経路などの流路壁面や中空糸膜表面に残存している原虫を更に採取することを考え、試水よりも少ない量の洗浄液を通水し、流路壁面や中空糸膜の洗浄によって原虫を回収することは、刊行物2に記載されたろ過後に原水槽や中空糸UF膜モジュールを洗浄して原虫を回収することや、刊行物1などに記載された中空糸モジュールの洗浄のための技術を参照して、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2について)
刊行物3には、試料を遠心分離にかけ沈査を回収する方法では、生成される沈査の量が少ないうえオーシストの回収率が低いこと、このため、平膜のメンブランフィルターで試料のろ過を行いオーシストを捕捉させる方法が記載されている(3a)。
そうすると、刊行物1発明において、より原虫の回収率を向上させることを考えて、遠心分離器にセットし遠心沈澱を行い試料を得ることに代えて、濃縮や洗浄によって得られた回収液を流通経路を介してメンブレンフィルターに導入してろ過を行うことによって、メンブレンフィルター上に分離、濃縮、固定化することによって原虫を回収することも、刊行物3の記載を参照して当業者が容易に想到し得たことである。

(発明の効果について)
水中に存在する対象微生物を、高効率かつ大量処理が可能となるという、本願発明の効果は、刊行物1ないし3の記載事項及び周知技術から予測しえたものであり、格別顕著なものとはいえない。

したがって、本願発明は、刊行物1ないし3に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1ないし3に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-22 
結審通知日 2012-08-24 
審決日 2012-09-04 
出願番号 特願2003-384815(P2003-384815)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三原 健治  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 鵜飼 健
菅野 智子
発明の名称 微生物の回収方法及び回収装置  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 吉元 弘  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 橘谷 英俊  
代理人 吉武 賢次  
代理人 川崎 康  
代理人 吉武 賢次  
代理人 川崎 康  
代理人 橘谷 英俊  
代理人 吉元 弘  

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