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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1264883
審判番号 不服2010-4216  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-26 
確定日 2012-10-19 
事件の表示 特願2003-140997「フルオレン含有樹脂」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月18日出願公開、特開2004- 83855〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成15年5月19日(優先日、平成14年6月28日)の出願であって,平成20年10月2日付で拒絶理由が通知され,同年12月15日に意見書とともに手続補正書が提出され,同年12月16日付け(差出日:同年12月15日)で手続補足書が提出されたが,平成21年11月19日付で拒絶査定がされ,これに対し,平成22年2月26日に拒絶査定不服審判請求がされると同時に手続補正書が提出され,同年3月1日付け(差出日:同年2月26日)で手続補足書が提出されたものである。
その後,当審において平成23年12月27日付で,審査官の作成した前置報告書を利用した審尋を行ったところ,それに対し,平成24年3月8日に回答書が提出され,同年3月9日付け(差出日:同年3月8日)で手続補足書が提出されたものである。

第2.平成22年2月26日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年2月26日付の手続補正を却下する。
[理由]
1.補正の内容
平成22年2月26日付の手続補正(以下,「本件補正」という。)は,本件補正前の特許請求の範囲の
「【請求項1】 下記一般式(1)で表されるフルオレン含有エポキシ樹脂:
【化1】


ここで、R_(1)は各々独立して水素原子またはメチル基、nは各々独立して0から10の整数、そしてmは各々独立して2または3である。
【請求項2】 前記一般式(1)においてm=2である請求項1に記載のエポキシ樹脂。
【請求項3】 請求項1に記載のフルオレン含有エポキシ樹脂の製造方法であって、
次の一般式(2)で示される多官能水酸基含有フルオレン化合物:
【化2】(化学構造式省略)
(ここで、R_(1)は各々独立して水素原子またはメチル基、nは各々独立して0から10の整数、そしてmは各々独立して2または3である)にエピクロルヒドリンを作用させる工程、
を包含する方法。
【請求項4】 前記一般式(2)においてm=2である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】 請求項1または2に記載のフルオレン含有エポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】 請求項5に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる成形体。
【請求項7】 下記一般式(3)で表されるフルオレン含有エポキシアクリレート樹脂:
【化3】(化学構造式省略)
ここで、R_(1)およびR_(2)は各々独立して水素原子またはメチル基、nは各々独立して0から10の整数、そしてm=2である。
【請求項8】 請求項7に記載のフルオレン含有エポキシアクリレート樹脂の製造方法であって、
次の一般式(1)で表されるフルオレン含有エポキシ樹脂:
【化4】(化学構造式省略)
(ここで、R_(1)は各々独立して水素原子またはメチル基、nは各々独立して0から10の整数、そしてm=2である)に、(メタ)アクリル酸を作用させる工程を包含する方法。
【請求項9】 請求項7に記載のフルオレン含有エポキシアクリレート樹脂の製造方法であって、
次の一般式(2)で示される多官能水酸基含有フルオレン化合物:
【化5】(化学構造式省略)
(ここで、R_(1)は各々独立して水素原子またはメチル基、nは各々独立して0から10の整数、そしてm=2である)に、(メタ)アクリル酸グリシジルを作用させる工程を包含する方法。
【請求項10】 請求項7に記載のフルオレン含有エポキシアクリレート樹脂を含有する熱硬化性組成物。
【請求項11】 請求項7に記載のフルオレン含有エポキシアクリレート樹脂を含有する感放射線性樹脂組成物。
【請求項12】 請求項10または11に記載の組成物を硬化させて得られる成形体。
【請求項13】 下記一般式(3)で表されるフルオレン含有エポキシアクリレート樹脂:
【化6】(化学構造式省略)
(ここで、R_(1)およびR_(2)は各々独立して水素原子またはメチル基、nは各々独立して0から10の整数、そしてm=2である)に、多塩基性カルボン酸またはその無水物を反応させることにより得られる、フルオレン含有アルカリ可溶型放射線重合性不飽和樹脂。
【請求項14】 フルオレン含有アルカリ可溶型放射線重合性不飽和樹脂の製造方法であって、
次の一般式(3)で表されるフルオレン含有エポキシアクリレート樹脂:
【化7】(化学構造式省略)
(ここで、R_(1)およびR_(2)は各々独立して水素原子またはメチル基、nは各々独立して0から10の整数、そしてm=2である)に、多塩基性カルボン酸またはその無水物を反応させる工程を包含する、方法
【請求項15】 請求項13に記載のフルオレン含有アルカリ可溶型放射線重合性不飽和樹脂を含有する感放射線性樹脂組成物。」
を,

「【請求項1】 下記一般式(1)で表されるフルオレン含有エポキシ樹脂:
【化1】


ここで、R_(1)は各々独立して水素原子またはメチル基、n=0、そしてm=2である。
【請求項2】 請求項1に記載のフルオレン含有エポキシ樹脂の製造方法であって、
次の一般式(2)で示される多官能水酸基含有フルオレン化合物:
【化2】(化学構造式省略)
(ここで、R_(1)は各々独立して水素原子またはメチル基、n=0、そしてm=2である)
にエピクロルヒドリンを作用させる工程、
を包含する方法。
【請求項3】 請求項1に記載のフルオレン含有エポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】 請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる成形体。
【請求項5】 下記一般式(3)で表されるフルオレン含有エポキシアクリレート樹脂:
【化3】(化学構造式省略)
ここで、R_(1)およびR_(2)は各々独立して水素原子またはメチル基、n=0、そしてm=2である。
【請求項6】 請求項5に記載のフルオレン含有エポキシアクリレート樹脂の製造方法であって、
次の一般式(1)で表されるフルオレン含有エポキシ樹脂:
【化4】(化学構造式省略)
(ここで、R_(1)は各々独立して水素原子またはメチル基、n=0、そしてm=2である
)に、(メタ)アクリル酸を作用させる工程を包含する方法。
【請求項7】 請求項5に記載のフルオレン含有エポキシアクリレート樹脂の製造方法であって、
次の一般式(2)で示される多官能水酸基含有フルオレン化合物:
【化5】(化学構造式省略)
(ここで、R_(1)は各々独立して水素原子またはメチル基、n=0、そしてm=2である)に、(メタ)アクリル酸グリシジルを作用させる工程を包含する方法。
【請求項8】 請求項5に記載のフルオレン含有エポキシアクリレート樹脂を含有する熱硬化性組成物。
【請求項9】 請求項5に記載のフルオレン含有エポキシアクリレート樹脂を含有する感放射線性樹脂組成物。
【請求項10】 請求項8または9に記載の組成物を硬化させて得られる成形体。
【請求項11】 下記一般式(3)で表されるフルオレン含有エポキシアクリレート樹脂:
【化6】(化学構造式省略)
(ここで、R_(1)およびR_(2)は各々独立して水素原子またはメチル基、n=0、そしてm=2である)に、多塩基性カルボン酸またはその無水物を反応させることにより得られる、フルオレン含有アルカリ可溶型放射線重合性不飽和樹脂。
【請求項12】 フルオレン含有アルカリ可溶型放射線重合性不飽和樹脂の製造方法であって、
次の一般式(3)で表されるフルオレン含有エポキシアクリレート樹脂:
【化7】(化学構造式省略)
(ここで、R_(1)およびR_(2)は各々独立して水素原子またはメチル基、n=0、そしてm=2である)に、多塩基性カルボン酸またはその無水物を反応させる工程を包含する、方法
【請求項13】 請求項11に記載のフルオレン含有アルカリ可溶型放射線重合性不飽和樹脂を含有する感放射線性樹脂組成物。」
と補正するものであり,次の補正事項1を含むものである。

補正事項1:本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項(以下,「発明特定事項」という。)である,「nは各々独立して0から10の整数」との事項,「mは各々独立して2または3である」との事項を,それぞれ,「n=0」,「m=2」とする補正。

2.補正の目的について
上記補正事項1は,補正前の請求項1に記載した発明特定事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一のものであるので,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,単に「特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件の有無について
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は,次のとおりのものである。

「下記一般式(1)で表されるフルオレン含有エポキシ樹脂:
【化1】


ここで、R_(1)は各々独立して水素原子またはメチル基、n=0、そしてm=2である。」

(2)特許法第29条第2項について
(2-1)引用例及びその記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である,特開2001-206862号公報(以下,「第1引用例」という。)には,以下の事項が記載されている。なお,下線は当審で付した。

ア.「【請求項1】下記、一般式(I)
【化1】


(式中、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立に水素または炭素数1?6のアルキル基を示し、相互に同じであっても、異なっていてもよい)で表されることを特徴とするフルオレン化合物またはその塩。」(特許請求の範囲請求項1)
イ.「【発明の属する技術分野】本発明は、新規なフルオレン化合物に関し、高分子材料や樹脂材料の原料、例えば、ポリカーボネート、ポリアリレート等の熱可塑性樹脂の原料、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の原料、硬化剤、改質剤等として有用な新規なフルオレン化合物に関する。
【従来の技術とその課題】ポリカーボネート、ポリアリレート等の熱可塑性樹脂の原料、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の原料、硬化剤、改質剤等として有用なフルオレン化合物として、2官能型のビスフェノールフルオレンなどが用いられているが、耐熱性、耐水性、耐薬品性、電気特性、機械特性等の諸特性の一段の向上が求められている。そこで、そのような要請に応えるための多官能型の新規なフルオレン化合物が要請されている。」(段落【0001】?【0002】)
ウ.「【発明の効果】本発明によるフルオレン化合物は、高分子材料や樹脂材料の原料、例えば、ポリカーボネート、ポリアリレート等の熱可塑性樹脂の原料、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の原料、硬化剤、改質剤等として有用である。
特に、本発明による新規なフルオレン化合物は、官能基である水酸基を4つ有しており、架橋構造を形成することが可能であることから、耐熱性、耐水性、耐薬品性、電気特性、機械特性等の諸特性に優れている。
本発明によるフルオレン化合物を原料として得られる高分子材料、樹脂材料は。低誘電率および低誘電正接を有し、誘電特性に優れる。また、高耐熱で、低吸水・低吸湿性であることから、本発明によるフルオレン化合物を原料として得られる高分子材料を電子・電気機器用途に成形した部品の耐熱性が向上し、吸水・吸湿量を低くすることができ、また、機械的にも強度を高めることができる。」(段落【0016】?【0018】)
エ.「実施例1
攪拌機、冷却管及びビュレットを備えた内容積1000mlの容器に純度99.5重量%のフルオレノン(大阪ガスケミカル製)90g(0.5mol)とカテコール(キシダ化学株式会社製)220g(2.0mol)を仕込み、β-メルカプトプロピオン酸0.4mlと95%の硫酸80mlを加えて、反応液を85℃で1時間撹拌して反応を完結させた。
反応終了後、反応液にメタノールもしくはイソプロピルアルコール360gを加えて60℃まで加温し、1時間撹拌を継続した。次に純水900gを加えて反応生成物を析出させ、室温まで冷却した後、濾過を行って分離した。得られた固形物を濾過し、乾燥させた。得られた化合物9,9-ビス-(3',4'-ジヒドロキシフェニル)-フルオレンの収量は153.0gであり、収率は80.1%であった。得られた化合物の構造分析は次のとおりである。
マススペクトルの分子イオンピーク(m/e):382
赤外線吸収スペクトル(cm^(-1)):
フルオレン骨格: 745
フェノール:3500付近,1327,1199
芳香環:3065,1606,1514,1449
ベンゼン環3置換体:1115,1036,864,807
^(1)H NMR (CDCl_(3)) δ: 6.3 (2H,dd), 6.6 (4H,d), 7.3 (6H,m),7.8 (2H,dd)」(【0020】?【0021】)

本願の優先日前に頒布された刊行物である,特開2001-196366号公報(以下,「第2引用例」という。)には,以下の事項が記載されている。なお,下線は当審で付した。

オ.「本発明において用いられるフルオレン骨格含有エポキシ樹脂化合物としては、下記一般式(4)で表される化合物が挙げられる。
【化1】


(式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1?6のアルキル基を表す。Aは、それぞれ独立して、単結合または-O-を表す。pは、0?6である。ただし、pが0のとき、Aは単結合であり、pが1?6のとき、Aは-O-である。)
上記一般式(4)で表されるフルオレン骨格含有エポキシ樹脂化合物において、Rがアルキル基のとき、ベンゼン環上のRの位置は、3-位および/または5-位が好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。Rとしては、水素原子またはメチル基が好ましい。pとしては、1?4が好ましい。
フルオレン骨格含有エポキシ樹脂化合物は、例えば特開平10-45871号に記載の方法により製造することができる。すなわち、例えば、フルオレン骨格を有するアルコールまたはフェノールを、アルカリ金属水酸化物の存在下で、エピクロロヒドリン等のエピハロヒドリンと反応させることにより得ることができる。」(段落【0017】?【0020】)

本願の優先日前に頒布された刊行物である,特開平11-242330号公報(以下,「第3引用例」という。)には,以下の事項が記載されている。なお,下線は当審で付した。

カ.「本発明の感光性樹脂組成物のマトリックス成分として用いられる樹脂は、アルカリ可溶性樹脂であり、少なくともその一部はフルオレン骨格を有するアルカリ可溶性樹脂である。このフルオレン骨格を有するアルカリ可溶性樹脂は、その主鎖中にフルオレン骨格を有すると共にアルカリ可溶性である樹脂であれば限定されないが、好ましくは下記一般式(1)で表されるフルオレン骨格を有するビスフェノール化合物をエピクロロヒドリン等でエポキシ化して得られるエポキシ化合物と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られるフルオレン骨格を有するエポキシ(メタ)アクリレートに、さらに多価カルボン酸又はその無水物を反応させて得られるフルオレン骨格を有するエポキシ(メタ)アクリレート酸付加体である。
【化2】


一般式(1)において、R_(1)及びR_(2)は水素、炭素数1?5のアルキル基又はハロゲンであるが、好ましくは水素又はメチル基である。また、R_(1)及びR_(2)の置換位置は3位、5位又は3,5位である。
ビスフェノール化合物のエポキシ化は、通常のエポキシ化反応と同様に行うことができる。例えば、ビスフェノール化合物を過剰のエピクロルヒドリンに溶解した後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の存在下に、50?150℃、好ましくは60?120℃で1?10時間反応させる方法が挙げられる。」(段落【0011】?【0014】)
キ.「【実施例】以下、本発明の実施例を示す。実施例中、部は重量部を示す。
実施例1?4、比較例1、2
一般式(1)においてR_(1 )及びR_(2 )が水素であるビスフェノールフルオレンをエポキシ化して得られたエポキシ樹脂(新日鐵化学製 エポキシ当量231)231部とアクリル酸72部とを、酸価が2.0mgKOH/gとなるまで反応させてエポキシアクリレート303部を得て、これにテトラヒドロ無水フタル酸38部、無水ビフェニルテトラカルボン酸73.5部とを反応させてインヘレント粘度0.2dl/gのフルオレン骨格を有するアルカリ可溶性樹脂(樹脂A)を得た。」 (【0045】)

(2-2)引用発明
上記摘示事項ア.?エ.の記載からみて,上記第1引用例には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「9,9-ビス-(3',4'-ジヒドロキシフェニル)-フルオレン化合物を原料とするエポキシ樹脂。」

(2-3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると,本願補正発明と引用発明とは次の点で一致する。

<一致点>
「エポキシ樹脂」

また,両者は,下記の点で相違する。

<相違点>
本願補正発明のエポキシ樹脂は,「一般式(1)
【化1】


ここで、R_(1)は各々独立して水素原子またはメチル基、n=0、そしてm=2である。」で表されるフルオレン含有エポキシ樹脂であるのに対し,引用発明のエポキシ樹脂は,9,9-ビス-(3',4'-ジヒドロキシフェニル)-フルオレン化合物を原料とするエポキシ樹脂である点。

(2-4)判断
第1引用例には,引用発明のエポキシ樹脂の化学構造に関する記載がないので,まず引用発明のエポキシ樹脂の化学構造について検討する。
エポキシ樹脂とは,複数のエポキシ基を有する樹脂のことであるが,引用発明のエポキシ樹脂の原料である9,9-ビス-(3',4'-ジヒドロキシフェニル)-フルオレン化合物は,エポキシ基を有してはいない。したがって,これを原料としてエポキシ樹脂を製造する際には,エポキシ基を導入する工程が必須であるが,エポキシ樹脂の製造において,多価フェノール化合物にエピクロルヒドリン等のエピハロヒドリンを反応させて,エポキシ基を導入することは摘示事項オ.?キ.に記載されているように常套手段である。
したがって,当業者であれば,引用発明のエポキシ樹脂としては,9,9-ビス-(3',4'-ジヒドロキシフェニル)-フルオレン化合物にエピクロルヒドリンを反応させたものを,まず,最初に想到するものと認められる。そして,該,9,9-ビス-(3',4'-ジヒドロキシフェニル)-フルオレン化合物にエピクロルヒドリンを反応させることにより得たエポキシ樹脂は,本願補正発明のエポキシ樹脂と同一である。
また,9,9-ビス-(3',4'-ジヒドロキシフェニル)-フルオレン化合物を原料とするエポキシ樹脂は,エピクロルヒドリンを反応させることにより得たエポキシ樹脂(本願補正発明のエポキシ樹脂)に限られないが,9,9-ビス-(3',4'-ジヒドロキシフェニル)-フルオレン化合物を原料とするエポキシ樹脂のうち特にエピクロルヒドリンを反応させることにより得たエポキシ樹脂(本願補正発明)とそうでないエポキシ樹脂との比較がなされていないなど、本願補正発明において当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されているといえる事情は,何も見いだせない。
したがって,本願補正発明は,第1引用例乃至第3引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.原査定の妥当性についての判断
1.本願発明について
平成22年2月26日付の手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1乃至15に係る発明は,平成20年12月15日付の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至15に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,そのうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「【請求項1】 下記一般式(1)で表されるフルオレン含有エポキシ樹脂:
【化1】


ここで、R_(1)は各々独立して水素原子またはメチル基、nは各々独立して0から10の整数、そしてmは各々独立して2または3である。」

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,本願発明のエポキシ樹脂は,引用文献1(特開2001-206862号公報。上記第1引用例と同じ。)に記載された発明,及び,引用文献2-7(なお,引用文献3は,特開2001-196366号公報であり,上記第2引用例に該当する。また,引用文献7は,特開平11-242330号公報であり,上記第3引用例に該当する。)に記載の,多官能水酸基含有フルオレン化合物にエピクロロヒドリン等を付加させてエポキシ化合物を製造する周知の技術から,当業者が容易に想到しうる発明である(要するに,本願発明は,引用文献1乃至7に記載された発明に基いて当業者が容易に想到しうる発明である)から,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないとの理由1を含むものである。

3.引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由1に引用された引用文献1乃至7のうち,引用文献1,3,7(それぞれ,第1引用例,第2引用例,第3引用例に該当。)の記載事項は,前記「第2.3.(2)(2-1)」に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願補正発明は,前記第2.1.に記載したように,本願発明の「nは各々独立して0から10の整数」との事項,「mは各々独立して2または3である」との事項が,それぞれ,「n=0」,「m=2」である場合に該当するから,本願発明は,本願補正発明1のエポキシ樹脂を包含するものである。
そして,本願補正発明が,前記第2.3.(2)に記載したとおり,第1引用例乃至第3引用例,すなわち,引用文献1,3,7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用文献1,3,7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.審判請求人の主張について
審判請求人は,審判請求書及び平成24年3月8日付の回答書において,甲第2号証乃至甲第5号証を提示して,引用文献1の多官能型フルオレン化合物の全ての水酸基とエピクロルヒドリンなどとを反応させることには阻害要因がある旨の主張をしている。

しかしながら,甲第2号証の「フェノールヒドロキシルに隣接して,顕著な立体障害を引き起こすことができるかさばる置換基を有することは望ましくないと考えられる。」(段落【0037】)との記載は,ジヒドロキシベンゼンの2つの水酸基以外の置換基に関する事項であって、当該ジヒドロキシベンゼンの2つの水酸基は,いずれもエポキシドと反応するものであるから,多官能型フルオレン化合物の全ての水酸基とエピクロルヒドリンなどとを反応させることに阻害要因があることを示すものではない。
また,甲第3号証にはエポキシ化合物がS_(N)2反応を行って開環生成物を与えることが,甲第4号証にはビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの付加反応がエポキシ基との求核置換反応であることが示されているのみで,多官能型フルオレン化合物の全ての水酸基とエピクロルヒドリンなどとを反応させることに阻害要因があることまでを示すものではない。
さらに,甲第5号証の記載からは,第1の水酸基に反応したエピクロルヒドリンによる立体障害が存在することが予測できるとしても,その具体的な反応条件等は不明であり,多官能型フルオレン化合物の全ての水酸基とエピクロルヒドリンとの反応が必ず当該モデルのように進行するとはいえないから,これをもって,当業者が当該反応を試みることを断念するほどの阻害要因が存在するとまではいえない。
なお,付言するに,本願発明のフルオレン含有エポキシ樹脂は,通常の製造方法で製造されており,格別な創意工夫により初めて製造できたものではないことに鑑みても,審判請求人の主張するような阻害要因があるものとは認められない。
以上を総合すると,上記審判請求人の主張は,採用することができない。

したがって,さらに引用文献2,4乃至6について検討するまでもなく,本願発明は,引用文献1乃至7に記載された発明に基いて当業者が容易に想到しうる発明であるとした原査定の拒絶の理由1は妥当である。

第4.むすび
以上のとおりであるから,本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由は妥当なものであり,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願はこの理由により拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-08 
結審通知日 2012-08-14 
審決日 2012-08-30 
出願番号 特願2003-140997(P2003-140997)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉備永 秀彦  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 藤本 保
小野寺 務
発明の名称 フルオレン含有樹脂  
代理人 進藤 卓也  
代理人 進藤 卓也  

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