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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
管理番号 1265047
審判番号 不服2009-20896  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-29 
確定日 2012-10-25 
事件の表示 特願2004-286823「エチレン系共重合体、樹脂組成物、発泡成形体および発泡成形体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月10日出願公開、特開2005-314638〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年9月30日(優先権主張2004年3月31日,特願2004-104347号)の出願であって,平成21年1月23日付で通知した拒絶の理由に対し,同年3月26日付で手続補正されたが,同年7月29日付で拒絶査定がされ,これに対し,同年10月29日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ,同年12月17日付け審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。
その後,当審において,平成23年12月5日付で,審査官の作成した前置報告書を利用した審尋を行い,それに対し平成24年1月30日付で回答書が提出されるとともに,同日付けで手続補足書(実験成績証明書)が提出され,同年5月31日付けで前記平成21年10月29日付の手続補正を却下するとともに同日付で拒絶の理由が通知され,これに対し平成24年7月19日付で意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項1乃至3に係る発明は,平成24年7月19日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ,そのうち請求項1に記載された発明(以下,「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「エチレンに基づく単量体単位と炭素原子数が3?20のα-オレフィンに基づく単量体単位とを有するエチレン系共重合体であって,分子量分布(Mw/Mn)が6?16.8であり,活性化エネルギー(Ea)が55?90kJ/molであり,冷キシレン可溶部量(CXS)が1重量%以上10重量%以下であるエチレン系共重合体と,
エチレン系共重合体100重量部あたり,1?15重量部の発泡剤とを含有する加圧発泡成形用樹脂組成物。」

第3 当審の拒絶理由
当審において平成24年5月31日付で通知した拒絶の理由の概要は,

「1)本件出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
2)本件出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

記(引用文献については引用文献等一覧を参照。)

(中略)

5.理由2について
請求項1には「分子量分布(Mw/Mn)が5以上であり,活性化エネルギー(Ea)が40kJ/mol以上である」と記載されている。
しかしながら,具体例(実施例)として記載されているものは,特定の触媒を用いて「分子量分布(Mw/Mn)が5以上であり,活性化エネルギー(Ea)が40kJ/mol以上である」としたものに限られている。
「分子量分布(Mw/Mn)が5以上であり,活性化エネルギー(Ea)が40kJ/mol以上である」とすることにより発泡成形体の気泡性状や寸法安定性や発泡倍率がが向上する理由について明細書中には(理論的な)説明がなく,説明するまでもなく技術常識であるともいえない。
加えて,平成24年1月30日付けの手続補足書で提出された実験成績証明書に記載された実験1と本願明細書に記載されている実施例1を比較すると樹脂として「PE(1)」を使用している点で一致しているが,発泡成形の条件が実施例1では「10cm×10cm×1cmの金型」,「温度150℃」,「時間10分間」,「圧力1MPa」の条件で加圧発泡させることにより発泡成形体を得ているのに対し,実験1では「12cm×12cm×1cm」,「温度165℃」,「時間15分間」,「圧力20MPa」の条件で加圧発泡させることにより発泡成形体を得ている点で異なり,寸法安定性と発泡倍率がそれぞれ実施例1では36.5%と12.2であるのに対し実験1では96.4%と13.2で大きく異なっている。
以上を総合勘案すると,本願発明の範囲を,実施例に記載されている特定の触媒以外の触媒を用いて「分子量分布(Mw/Mn)が5以上であり,活性化エネルギー(Ea)が40kJ/mol以上である」とした場合や,実施例とは異なる発泡成形条件を採用した場合を含む(発泡成形条件に限定のない)本願発明の範囲にまで拡張・一般化できるとはいえない。

(中略)

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2003-171415号公報」

というものである。

第4 当審の判断
当審において平成24年5月31日付で通知した拒絶の理由の理由2について検討する。

(1)本願発明
本願発明は,上記第2 に記載したとおりである。

(2)本願発明に係る明細書の記載
平成24年7月19日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下,これらをあわせて「本願明細書」という。)には以下の記載がある。
なお,下線は,当審で付した。

ア.
「【技術分野】
【0001】
本発明は,発泡成形用エチレン系共重合体,発泡成形用樹脂組成物,発泡成形体および発泡成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン系樹脂からなる発泡成形体は,日用雑貨,床材,遮音材,断熱材として広範囲に使用されており,従来,高圧ラジカル重合法で製造されたポリエチレン系樹脂,例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体を加圧発泡した成形体が多く提案されていた(例えば,特許文献1参照。)。昨今では,強度に優れる発泡成形体として,ビス(ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドなどのメタロセン錯体とメチルアルミノキサンとシリカとを混合処理して得られた固体触媒を用いて製造されたエチレン-1-ヘキセン共重合体からなる加圧発泡成形体が提案されている(例えば,特許文献2参照。)。」

イ.
「【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,エチレン-酢酸ビニル共重合体からなる加圧発泡成形体は,加温状態で収縮することがあり,寸法安定性において充分満足いくものではなかった。また,上記のエチレン-1-ヘキセン共重合体からなる加圧発泡成形体では,発泡成形体の気泡性状が不均一であり,また,破泡により加圧発泡成形体に割れが生じることがあり,気泡性状において充分満足のいくものではなかった。
かかる状況のもと,本発明が解決しようとする課題は,寸法安定性および気泡性状に優れた加圧発泡成形体が得られる加圧発泡成形用エチレン系共重合体,該共重合体と発泡剤とを含有する加圧発泡成形用樹脂組成物,該共重合体を含有する加圧発泡成形体および加圧発泡成形体の製造方法を提供することにある。」

ウ.
「【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち,本発明の第一は,エチレンに基づく単量体単位と炭素原子数が3?20のα-オレフィンに基づく単量体単位とを有するエチレン系共重合体であって,分子量分布(Mw/Mn)が5以上であり,流動の活性化エネルギー(Ea)が40kJ/mol以上である加圧発泡成形用エチレン系共重合体に係るものである。
本発明の第二は,上記エチレン系共重合体と発泡剤とを含有する加圧発泡成形用樹脂組成物に係るものである。
本発明の第三は,上記エチレン系共重合体を含有する加圧発泡成形体に係るものである。
本発明の第四は,上記エチレン系共重合体を用いる加圧発泡成形体の製造方法に係るものである。」

エ.
「【発明の効果】
【0006】
本発明により,気泡性状および寸法安定性に優れた加圧発泡成形体が得られる加圧発泡成形用エチレン系共重合体,該共重合体と発泡剤とを含有する加圧発泡成形用樹脂組成物,該共重合体を含有する加圧発泡成形体および加圧発泡成形体の製造方法を提供することができる。」

オ.
「【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の加圧発泡成形用エチレン系共重合体は,エチレンに基づく単量体単位と炭素原子数が3?20のα-オレフィンに基づく単量体単位とを有するエチレン系共重合体である。該α-オレフィンとしては,プロピレン,1-ブテン,4-メチル-1-ペンテン,1-ヘキセン,1-オクテン,1-デセンなどがあげられ,好ましくは,1-ブテン,1-ヘキセンである。
【0008】
本発明のエチレン系共重合体としては,エチレン-1-ブテン共重合体,エチレン-4-メチル-1-ペンテン共重合体,エチレン-1-ヘキセン共重合体,エチレン-1-オクテン共重合体,エチレン-1-デセン共重合体,エチレン-1-ブテン-4-メチル-1-ペンテン共重合体,エチレン-1-ブテン-1-ヘキセン共重合体,エチレン-1-ブテン-1-オクテン共重合体などをあげることができ,寸法安定性の観点から,好ましくは,エチレン-1-ブテン共重合体,エチレン-1-ヘキセン共重合体,エチレン-1-ブテン-1-ヘキセン共重合体であり,より好ましくは,エチレン-1-ブテン-1-ヘキセン共重合体,エチレン-1-ヘキセン共重合体である。
【0009】
本発明のエチレン系共重合体は,該共重合体中の全単量体単位の含有量を100重量%として,エチレンに基づく単量体単位を50重量%以上含有することが好ましい。
【0010】
本発明のエチレン系共重合体の分子量分布は,気泡性状を高める観点,発泡倍率を高める観点から,5以上であり,好ましくは5.5以上であり,より好ましくは6以上である。なお,該分子量分布は,重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)であり,ゲルパーミエイションクロマトグラフ(GPC)により,標準ポリスチレンを分子量標準物質として測定される。
【0011】
本発明のエチレン系共重合体は,流動の活性化エネルギー(Ea)が40kJ/mol以上である共重合体である。従来知られたエチレン-α-オレフィン共重合体のEaは40kJ/molよりも低く,該共重合体からなる発泡成形体は気泡性状に劣ることがある。気泡性状を高める観点から,Eaとしては,好ましくは50kJ/mol以上であり,より好ましくは55kJ/mol以上である。また,該Eaは,発泡成形体の表面をより滑らかにする観点から,好ましくは100kJ/mol以下であり,より好ましくは90kJ/mol以下である。」

カ.
「【0017】
本発明のエチレン系共重合体の製造方法としては,下記助触媒担体(A),架橋型ビスインデニルジルコニウム錯体(B)および有機アルミニウム化合物(C)を接触させて得られる触媒の存在下,エチレンと炭素原子数3?20のα-オレフィンとを共重合する方法があげられる。
【0018】
上記の助触媒担体(A)は,(a)ジエチル亜鉛,(b)フッ素化フェノール,(c)水,(d)シリカおよび(e)トリメチルジシラザン(((CH_(3))_(3)Si)_(2)NH)を接触させて得られる担体である。
【0019】
上記(a),(b),(c)各成分の使用量は特に制限はないが,各成分の使用量のモル比率を成分(a):成分(b):成分(c)=1:y:zとすると,yおよびzが下記の式を満足することが好ましい。
|2-y-2z|≦1
上記の式におけるyとして,好ましくは0.01?1.99の数であり,より好ましくは0.10?1.80の数であり,さらに好ましくは0.20?1.50の数であり,最も好ましくは0.30?1.00の数である。
【0020】
また,成分(a)に対して使用する成分(d)の量としては,成分(a)と成分(d)との接触により得られる粒子に含まれる亜鉛原子のモル数が,該粒子1gあたり0.1mmol以上となる量であることが好ましく,0.5?20mmolとなる量であることがより好ましい。成分(d)に対して使用する成分(e)の量としては,成分(d)1gあたり成分(e)0.1mmol以上となる量であることが好ましく,0.5?20mmolとなる量であることがより好ましい。
【0021】
架橋型ビスインデニルジルコニウム錯体(B)として,好ましくはラセミ-エチレンビス(1-インデニル)ジルコニウムジクロライド,ラセミ-エチレンビス(1-インデニル)ジルコニウムジフェノキシドである。
【0022】
また,有機アルミニウム化合物(C)として,好ましくはトリイソブチルアルミニウム,トリノルマルオクチルアルミニウムである。
【0023】
架橋型ビスインデニルジルコニウム錯体(B)の使用量は,助触媒担体(A)1gあたり,好ましくは5×10^(-6)?5×10^(-4)molである。また有機アルミニウム化合物(C)の使用量として,好ましくは,架橋型ビスインデニルジルコニウム錯体(B)のジルコニウム原子1モルあたり,有機アルミニウム化合物(C)のアルミニウム原子が1?2000モルとなる量である。」

キ.
「【実施例】
【0034】
以下,実施例および比較例によって,本発明をより詳細に説明する。
(一部略)
【0037】
実施例1
(1)助触媒担体の調製
特開2003-171415号公報の実施例10(1)および(2)に記載の成分(A)の合成と同様な方法で,固体生成物(以下,助触媒担体(A)と称する。)を得た。
【0038】
(2)予備重合
予め窒素置換した内容積210リットルの撹拌機付きオートクレーブに,上記助触媒担体(A)0.7kgと,ブタン100リットル,1-ブテン0.02kg,常温常圧の水素として12リットルを仕込んだ後,オートクレーブを42℃まで昇温した。さらにエチレンをオートクレーブ内のガス相圧力で0.1MPa分だけ仕込み,系内が安定した後,トリイソブチルアルミニウム225mmol,ラセミ-エチレンビス(1-インデニル)ジルコニウムジフェノキシド75mmolを投入して重合を開始した。50℃へ昇温するとともに,エチレンと水素を連続で供給しながら,50℃で合計6時間の予備重合を実施した。重合終了後,エチレン,ブタン,水素ガスなどをパージして残った固体を室温にて真空乾燥し,上記助触媒担体(A)1g当り13gのエチレン-1-ブテン共重合体が予備重合された予備重合触媒成分を得た。
【0039】
(3)連続気相重合
連続式流動床気相重合装置を用いて,重合温度は85℃,重合圧力は2MPaとし,上記予備重合触媒成分,トリイソブチルアルミニウム,エチレン,1-ブテンおよび水素を反応器内に連続的に供給して,反応ガス中のエチレンに対する水素のモル比を1.12%,エチレンに対する1-ブテンのモル比を2.4%,エチレンに対する1-ヘキセンのモル比を0.3%,平均重合時間5hrの条件として,エチレン,1-ブテン,1-ヘキセンの共重合を実施した。重合により,エチレン-1-ブテン-1-ヘキセン共重合体(以下,PE(1)と称する。)のパウダーを得た。
【0040】
(4)エチレン-1-ブテン-1-ヘキセン共重合体パウダーの造粒
上記で得たPE(1)のパウダーを,神戸製鋼所社製LCM50押出機を用いて,フィード速度50kg/hr,スクリュー回転数450rpm,ゲート開度50%,サクション圧力0.1MPa,樹脂温度200?215℃の条件で造粒することにより,PE(1)のペレットを得た。PE(1)のMFRは0.5g/10分,密度は923kg/m^(3),分子量分布は16.8,流動の活性化エネルギーは74.2kJ/molであった。
【0041】
(5)発泡成形
PE(1)100重量部と,重質炭酸カルシウム50重量部と,ステアリン酸1重量部と,酸化亜鉛0.9重量部と,化学発泡剤(三協化成株式会社製「セルマイクCE」)6.4重量部と,ジクミルパーオキサイド1.2重量部とを,ロール混練機を用いて,ロール温度120℃,5分間混錬を行い,樹脂組成物を得た。該樹脂組成物を10cm×10cm×1cmの金型に入れ,温度150℃,時間10分間,圧力1MPaの条件で加圧発泡させることにより発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の物性評価結果を表1に示す。
【0042】
実施例2
実施例1の(3)連続気相重合において,反応ガスの組成を変更する以外は実施例1に従って行なった。得られた発泡成形体の物性評価結果を表1に示す。
【0043】
比較例1
PE(1)に代えて,市販のエチレン-酢酸ビニル共重合体[住友化学工業株式会社製 エバテートH2020(MFR=1.3g/10分,密度=936kg/m^(3),分子量分布=7.2,流動の活性化エネルギー=63.2kJ/mol);以下,EVAと称する。]を用い,ジクミルパーオキサイドを1.0重量部とした以外は,実施例1に従って発泡成形を行った。得られた発泡成形体の物性評価結果を表1に示す。
【0044】
比較例2
PE(1)に代えて,市販のエチレン-1-ヘキセン共重合体[住友化学工業株式会社製 スミカセンE FV401(MFR=4g/10分,密度=905kg/m^(3),分子量分布=4.0,流動の活性化エネルギー=33.2kJ/mol);以下,PE(2)と称する。]を用いた以外は,実施例1に従って発泡成形を行ったが,破泡により発泡成形体に割れが生じた。
【0045】
【表1】



(3)本願発明に係るサポート要件の充足の有無について
上記(2)のとおり,本願発明は,
発泡成形用エチレン系共重合体,発泡成形用樹脂組成物,発泡成形体および発泡成形体の製造方法の技術分野に属するものであり,
寸法安定性および気泡性状に優れた加圧発泡成形体が得られる加圧発泡成形用エチレン系共重合体,該共重合体と発泡剤とを含有する加圧発泡成形用樹脂組成物,該共重合体を含有する加圧発泡成形体および加圧発泡成形体の製造方法を提供することを,発明が解決しようとする課題とするものであり,
エチレンに基づく単量体単位と炭素原子数が3?20のα-オレフィンに基づく単量体単位とを有するエチレン系共重合体において,分子量分布(Mw/Mn)が5以上であり,流動の活性化エネルギー(Ea)が40kJ/mol以上である加圧発泡成形用エチレン系共重合体とすることにより,
気泡性状および寸法安定性に優れた加圧発泡成形体が得られる加圧発泡成形用エチレン系共重合体,該共重合体と発泡剤とを含有する加圧発泡成形用樹脂組成物,該共重合体を含有する加圧発泡成形体および加圧発泡成形体の製造方法を提供することができるという効果を奏するものである。(上記(2)摘示ア.イ.ウ.エ.を参照。)

そこで,まず,本願発明が発明の詳細な説明の記載内容にかかわらず,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものかどうかを検討するに,審判請求の理由等を精査してもなお,本願発明につき,当業者がその出願時の技術常識に照らし,エチレンに基づく単量体単位と炭素原子数が3?20のα-オレフィンに基づく単量体単位とを有するエチレン系共重合体において,分子量分布(Mw/Mn)が5以上であり,流動の活性化エネルギー(Ea)が40kJ/mol以上である加圧発泡成形用エチレン系共重合体とすることにより,気泡性状および寸法安定性に優れた加圧発泡成形体が得られる加圧発泡成形用エチレン系共重合体,該共重合体と発泡剤とを含有する加圧発泡成形用樹脂組成物,該共重合体を含有する加圧発泡成形体および加圧発泡成形体の製造方法を提供することができるという効果を奏すると認めることはできない。

次に,本願明細書の発明の詳細な説明には,「分子量分布(Mw/Mn)が5以上であり,活性化エネルギー(Ea)が40kJ/mol以上である」と限定する理由に関し,単に気泡性状を高める観点や発泡倍率を高める観点から5以上が好ましい,と記載されているにとどまり(上記摘示オ.参照。),分子量分布(Mw/Mn)が5以上であり,流動の活性化エネルギー(Ea)が40kJ/mol以上である加圧発泡成形用エチレン系共重合体とすることにより,上記のような課題を解決し得ることを明らかにするに足る理論的な説明の記載はない。

加えて,本願明細書には本願発明の重合体の製造方法に関し,担体や遷移金属成分や有機金属化合物として,それぞれ,特定の助触媒担体(A),特定の架橋型ビスインデニルジルコニウム錯体(B)および特定の有機アルミニウム化合物(C)からなる特定の触媒が記載されているが(上記摘示カ.の段落【0017】,【0018】,【0021】,【0022】を参照。),当該特定の触媒に該当すればどの具体的な触媒であっても本願発明の重合体を製造することが可能である理由について説明する記載がない上に,実施例で使用されている触媒の具体例が,唯一つに限られている(上記摘示キ.参照。)。

本願発明は,物の有する機能・特性等と,その物の構造との関係を理解することが困難な技術分野にも属するところ,異なる触媒を使用すると異なる物性や化学構造を有する重合体が製造されることが技術常識であることを勘案すれば,実施例とは異なる触媒を使用して製造された重合体は,「分子量分布(Mw/Mn)が5以上であり,活性化エネルギー(Ea)が40kJ/mol以上であ」ってもそれら以外の物性や化学構造が実施例で製造された重合体とは異なっているため,必ずしも上記のような課題を解決し得ないと解することが妥当である。

よって,本願発明は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであると認められる。

なお,審判請求人は,平成24年7月19日付で意見書を提出し,概略以下のとおりの主張をしている。

「「特許・実用新案審査基準 第I部 第1章 2.2.1.3 第36 条第6 項第1 号違反の類型」には,「請求項は,発明の詳細な説明に記載された一又は複数の具体例に対して拡張ないし一般化した記載とすることができる。」,「この際,発明の詳細な説明に記載された特定の具体例にとらわれて,必要以上に特許請求の範囲の減縮を求めることがないようにする。」旨,記載されていますので,本願明細書において具体的に記載されている重合用触媒が1種であるからといって,本願請求項に記載の加圧発泡成形用樹脂組成物が,発明の詳細な説明に開示された内容から拡張・一般化できない,とは言えないものと思料します。」
「本願当初明細書の実施例および比較例はその発泡成形条件を統一し,そして,実験成績証明書の実験1?4もその発泡成形条件を統一した上で,本発明の加圧発泡成形用樹脂組成物が,本発明の要件を充足しない樹脂組成物と相対比較して,気泡性状,寸法安定性に優れることを実証していますので,問題ないものと思料します。」

しかしながら,上記のとおりであるので,審判請求人の主張は採用することができない。

第5 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものではないから,特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができない。
したがって,その他の拒絶の理由およびその余の請求項について論及するまでもなく,本願は,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-27 
結審通知日 2012-08-28 
審決日 2012-09-10 
出願番号 特願2004-286823(P2004-286823)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 亨  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 大島 祥吾
藤本 保
発明の名称 エチレン系共重合体、樹脂組成物、発泡成形体および発泡成形体の製造方法  
代理人 坂元 徹  
代理人 中山 亨  

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