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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1265080
審判番号 不服2011-18795  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-31 
確定日 2012-10-25 
事件の表示 特願2006-308747「窒素酸化物除去用の触媒、および排ガス処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 5月29日出願公開、特開2008-119651〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年11月15日の出願であって、平成20年11月28日付けの拒絶理由通知に対して、平成21年1月26日付けで意見書が提出され、平成22年2月8日付けの拒絶理由通知に対して、同年4月16日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出され、平成23年5月20日付けの拒絶査定に対して、同年8月31日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに同日付けで手続補正がされ、平成24年4月20日付けで特許法第164条第3項で規定する報告書を引用した審尋がなされたところ、同年6月25日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成23年8月31日付けの手続補正についての補正却下の決定
1 補正却下の決定の結論
平成23年8月31日付けの手続補正を却下する。

2 理由
(1) 補正の内容
平成23年8月31日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の記載を、以下の(A)から(B)とする補正事項を含む。

(A)
「 【請求項1】
排ガス中の窒素酸化物をアンモニアの存在下で接触的に還元処理する窒素酸化物除去用の触媒であって、
チタン酸化物およびタングステン酸化物およびバナジウム酸化物からなる第一の成分と、
マンガン酸化物および銅酸化物を等モルで含有する第二成分とからなる
ことを特徴とする窒素酸化物除去用の触媒。
【請求項2】
請求項1に記載された窒素酸化物除去用の触媒であって、
前記第一の成分からなる基材に、前記第二の成分を含浸担持させ、乾燥後に焼成してなる
ことを特徴とする窒素酸化物除去用の触媒。
【請求項3】
請求項1に記載された窒素酸化物除去用の触媒であって、
前記第一の成分および前記第二の成分に溶媒を加えて混練し、乾燥後に焼成してなる
ことを特徴とする窒素酸化物除去用の触媒。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載された窒素酸化物除去用の触媒であって、
前記チタン酸化物100重量部に対して、前記タングステン酸化物および前記バナジウム酸化物をそれぞれ3重量部以上25重量部以下および0.1重量部以上6重量部以下とする
ことを特徴とする窒素酸化物除去用の触媒。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載された窒素酸化物除去用の触媒であって、
前記第二の成分を、前記第一の成分に対して、0.15重量部以上4.5重量部以下とする
ことを特徴とする窒素酸化物除去用の触媒。
【請求項6】
排ガスに含まれる窒素酸化物を除去する排ガス処理方法であって、
請求項1乃至請求項5の何れかに記載された窒素酸化物除去用の触媒にアンモニアを添加した前記排ガスを接触させて、前記窒素酸化物を還元した
ことを特徴とする排ガス処理方法。
【請求項7】
請求項6に記載された排ガス処理方法であって、
前記排ガス中の窒素酸化物に対する二酸化窒素の比が0.5以上である
ことを特徴とする排ガス処理方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載された排ガス処理方法であって、
前記窒素酸化物除去用の触媒を流通した排ガスを脱硝触媒に接触させて、前記窒素酸化物をさらに還元させる
ことを特徴とする排ガス処理方法。」

(B)
「 【請求項1】
排ガス中の窒素酸化物をアンモニアの存在下で接触的に還元処理する窒素酸化物除去用の触媒であって、
チタン酸化物およびタングステン酸化物およびバナジウム酸化物からなる第一の成分と、
マンガン酸化物および銅酸化物を等モルで含有する第二成分とからなり、
前記第二の成分を、前記第一の成分に対して、1.5重量部以上4.5重量部以下とし、
前記第一の成分からなる基材に、前記第二の成分を含浸担持させ、乾燥後に400℃で焼成してなる、
又は、
前記第一の成分および前記第二の成分に溶媒を加えて混練し、乾燥後に400℃で焼成してなる
ことを特徴とする窒素酸化物除去用の触媒。
【請求項2】 ? 【請求項5】 (略)」

(2) 補正の目的
上記の補正事項は、補正前の請求項1に、補正前の請求項2及び3の発明特定事項を選択的に付加して限定するとともに、請求項5の発明特定事項を付加して限定し、さらに、焼成における温度を「400℃」に、また第二の成分の第一の成分に対する比率の下限を「0.15重量部」から「1.5重量部」へと限定して新たな請求項1とする補正事項を含むものであるから、当該補正事項を含む本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「旧法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正により特許請求の範囲が減縮された補正後の請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(旧法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(3) 独立特許要件
ア 本願補正発明
本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)は、上記(B)に【請求項1】として記載された事項により特定されるとおりのものである。

イ 引用文献及びその記載事項
原審における拒絶査定(以下、「原査定」という。)の拒絶理由において引用した特開平4-18932号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1a)
「排ガス中の窒素酸化物を除去する方法としては、現在排ガス中にアンモニアを添加して触媒上で接触的に還元して、窒素と水にする方法が主流となっている。用いられる触媒は酸化チタンを主成分としたものがすぐれており、活性金属成分としてバナジウム、タングステン、モリブデンなどを含んだものが知られている。
・・・
本発明者等は・・・TiO_(2)-V_(2)O_(5)-WO_(3)系の触媒に・・・Mn,Cu・・・のうち少なくとも1種類以上を添加した触媒を用いることによってNO_(2)がリッチな窒素酸化物を含むガスの脱硝活性が著しく向上することを見出し本発明に至った。」(第1頁右下欄第3行?第2頁左上欄第7行)

(1b)
「本発明脱硝触媒の母体ともいうべきTiO_(2)-V_(2)O_(5)-WO_(3)触媒はTiO_(2):V_(2)O_(5):WO_(3)=60?97.75:0.25?20:2?20(重量割合)のものが好ましい。また、添加する・・・Mn,Cu・・・の量は、各々・・・MnO_(2),CuO・・・としての重量%で、触媒全量の・・・好ましくは0.2?5wt%がよく、添加方法は含浸法、混練法のいずれも採用することができる。」(第2頁左上欄第18行?右上欄第5行)

(1c)
「[実施例]
4wt%V_(2)O_(5)、8wt%WO_(3)を含むTiO_(2)を主成分とする格子状ハニカム触媒・・・に・・・Mn,Cu・・・の各硝酸塩水溶液を含浸後、110℃で乾燥し、500℃、3時間電気炉内で焼成した。
各水溶液の濃度を変えることによって、以下のような種類の触媒を調製した。
・・・
触媒I:TiO_(2)-V_(2)O_(5)(4)-WO_(3)(8)-MnO_(2)(1.5)-CuO(1.5)
・・・
なお、上記カッコ内の数値のうちV_(2)O_(5)及びWO_(3)の数値はTiO_(2)-V_(2)O_(5)-WO_(3)中のV_(2)O_(5)及びWO_(3)の重量%であり・・・MnO_(2),CuO・・・の数値はTiO_(2)-V_(2)O_(5)(4)-WO_(3)+α(・・・MnO_(2),CuO・・・)の中の各々・・・MnO_(2),CuO・・・の重量%である。」(第2頁右上欄第17行?右下欄第3行)

ウ 引用文献1に記載された発明
引用文献1の(1a)には、排ガス中にアンモニアを添加して触媒上で接触的に還元して排ガス中の窒素酸化物を除去するための触媒が記載され、(1c)には、当該触媒の実施例である触媒IとしてTiO_(2)-V_(2)O_(5)(4)-WO_(3)(8)-MnO_(2)(1.5)-CuO(1.5)(ただし、上記カッコ内の数値のうちV_(2)O_(5)及びWO_(3)の数値はTiO_(2)-V_(2)O_(5)-WO_(3)中のV_(2)O_(5)及びWO_(3)の重量%であり、MnO_(2),CuOの数値はTiO_(2)-V_(2)O_(5)(4)-WO_(3)+α(MnO_(2),CuO)の中の各々MnO_(2),CuOの重量%である。)が記載されるとともに、かかる触媒の調製に際して、4wt%V_(2)O_(5)、8wt%WO_(3)を含むTiO_(2)を主成分とする格子状ハニカム触媒にMn,Cuの各硝酸塩水溶液を含浸後、乾燥し、500℃で焼成することが記載されている。
したがって、以上の記載を本願補正発明の記載ぶりに沿って整理すると、引用文献1(触媒I)には以下の発明が記載されていると認められる。

「排ガス中の窒素酸化物をアンモニアの存在下で接触的に還元処理する窒素酸化物除去用の触媒であって、
TiO_(2)-V_(2)O_(5)(4)-WO_(3)(8)-MnO_(2)(1.5)-CuO(1.5)(ただし、上記カッコ内の数値のうちV_(2)O_(5)及びWO_(3)の数値はTiO_(2)-V_(2)O_(5)-WO_(3)中のV_(2)O_(5)及びWO_(3)の重量%であり、MnO_(2),CuOの数値はTiO_(2)-V_(2)O_(5)(4)-WO_(3)+α(MnO_(2),CuO)の中の各々MnO_(2),CuOの重量%である。)からなり、
4wt%V_(2)O_(5)、8wt%WO_(3)を含むTiO_(2)を主成分とする格子状ハニカム触媒にMn,Cuの各硝酸塩水溶液を含浸後、乾燥し、500℃で焼成してなる、
窒素酸化物除去用の触媒。」(以下、「引用発明」という。)

エ 本願補正発明と引用発明との対比
引用発明の「TiO_(2)」、「V_(2)O_(5)」、「WO_(3)」、「MnO_(2)」及び「CuO」は、それぞれ本願補正発明の「チタン酸化物」、「バナジウム酸化物」、「タングステン酸化物」、「マンガン酸化物」及び「銅酸化物」に相当する。
また、本願補正発明の「前記第二の成分を、前記第一の成分に対して、1.5重量部以上4.5重量部以下とし」なる記載に関して、例えば本願明細書の【実施例1】にある「100重量部のチタニア-酸化タングステン-酸化バナジウム当り、酸化マンガンと酸化銅の和が1.5重量部となるように該触媒を含浸担持させる」等の記載を参照すれば、上記本願補正発明の記載は、第二の成分を、第一の成分100重量部に対して、1.5重量部以上4.5重量部以下とすることを意味していることは明らかである。そこで引用発明を見てみると、引用発明の触媒を構成する成分のうち、TiO_(2)、V_(2)O_(5)、WO_(3)を第一の成分、MnO_(2)、CuOを第二の成分と見ることにすると、引用発明の触媒はチタン酸化物およびタングステン酸化物およびバナジウム酸化物からなる第一の成分と、マンガン酸化物および銅酸化物を等重量で含有する第二成分とからなるといえ、また、それらの含有割合は、第二の成分の重量%が全体の重量に対して3重量%、すなわち第二の成分の重量部が第一の成分97重量部に対して3重量部であるから、これを本願補正発明の記載に内容に則して第一の成分100重量部当たりに換算すると、第二の成分は、第一の成分100重量部に対して、3.1重量部含有し、この点で一致しているといえる。
さらに、本願補正発明の触媒の製造に関して、本願明細書の【実施例1】及び【実施例5】には、第二成分を構成する金属硝酸塩水溶液に含浸させることで第二成分を含浸担持させていることが記載されている点も考慮すれば、引用発明の「4wt%V_(2)O_(5)、8wt%WO_(3)を含むTiO_(2)を主成分とする格子状ハニカム触媒にMn,Cuの各硝酸塩水溶液を含浸」させることは、本願補正発明の「前記第一の成分からなる基材に、前記第二の成分を含浸担持」させることに相当する。
そうすると、両者は、
「排ガス中の窒素酸化物をアンモニアの存在下で接触的に還元処理する窒素酸化物除去用の触媒であって、
チタン酸化物およびタングステン酸化物およびバナジウム酸化物からなる第一の成分と、
マンガン酸化物および銅酸化物を含有する第二成分とからなり、
前記第二の成分を、前記第一の成分に対して、3.1重量部とし、
前記第一の成分からなる基材に、前記第二の成分を含浸担持させ、乾燥後に焼成してなる、
窒素酸化物除去用の触媒。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本願補正発明は、マンガン酸化物および銅酸化物を等モルで含有するのに対して、引用発明は、マンガン酸化物および銅酸化物を等重量で含有する点。

相違点2:
本願補正発明は、焼成温度が400℃であるのに対して、引用発明は、焼成温度が500℃である点。

オ 相違点についての判断
(ア) 相違点1について
引用文献1の(1b)には、添加するMn,Cuの量は、各々MnO_(2),CuOとしての重量%で0.2?5wt%が好ましいことが記載されており、かかる記載から、MnO_(2),CuOとしての添加量は、一定の幅を有する範囲の中で選択可能であるということができる。
そして、MnO_(2),CuOの分子量はそれぞれ、86.9,79.5と近接しており、0.2?5wt%の範囲内の広い領域でそれぞれの添加量を等モルに設定することが実現可能であることや、それぞれの添加量を等モルに設定することを阻害する特段の記載が引用文献1に見当たらない点も併せて考慮すれば、引用発明において、MnO_(2)およびCuOの重量%がそれぞれ0.2?5wt%の範囲に含まれる条件下で、それぞれの含有量を等モルに設定することにより、上記相違点1に係る本願補正発明の特定事項に想到することは、当業者の容易に推考し得るところということができる。
なお、本願明細書の【実施例1】では、本願補正発明のマンガン酸化物をMnO_(2)とは異なるMn_(2)O_(3)とした触媒が例示されているが、本願補正発明におけるマンガン酸化物をMn_(2)O_(3)のみに限定的に解釈すべき特段の事情は見当たらない。また、仮に本願補正発明のマンガン酸化物をMn_(2)O_(3)と限定的に解釈した場合においても、引用文献1の上記(1b)に記載されるように、引用文献1において好ましく添加されるMn,Cuの範囲は、MnO_(2),CuOとしての重量%で触媒全量の0.2?5wt%と、その上限と下限との間に25倍もの開きがあるところ、先に述べたとおり、その範囲の大部分でMnO_(2)とCuOの添加量を等モルに設定することができるのであるから、かかる範囲をMn_(2)O_(3),CuOのモル比率に換算した場合においても、その範囲内でMn_(2)O_(3),CuOとして等モルに設定できる領域が相当程度存在することになる。したがって、かかる場合においても上記相違点1に係る容易想到性が覆るものとは認められない。

(イ) 相違点2について
TiO_(2)-V_(2)O_(5)-WO_(3)系の脱硝触媒の製造に際して、触媒の比表面積の低下や、シンタリングの発生による触媒活性の低下を防止するべく、焼成温度を400?600℃、あるいは350?500℃の範囲に設定することは、例えば、特開2002-292245号公報の請求項1、請求項2、【0020】や、特開2004-209354号公報の請求項1、請求項2、【0018】、【0023】に記載されているように、本願の出願前周知の技術であるから、引用発明における触媒の焼成温度を、500℃に代えて400℃に設定することに格別の困難性を見いだせない。

そして、上記相違点1、2に基づく本願補正発明の奏する作用効果も、引用文献1の記載事項と周知技術から予測できる範囲のものであり、格別なものではない。

カ 小括
以上のとおりであるから、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4) まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、旧法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成23年8月31日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の発明は、平成22年4月16日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、上記「第2 2 (1)」の(A)に【請求項1】として示したとおりのものであり、以下、これを「本願発明」という。

2 原査定の拒絶理由の概要
原査定の理由の一つは、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとするものである。

3 引用文献1の記載事項及び引用発明
引用文献1の記載事項は、上記「第2 2 (3) イ」に示したとおりであり、引用文献1に記載された引用発明は、上記「第2 2 (3) ウ」に示したとおりのものである。

4 本願発明と引用発明との対比・判断
本願発明は、上記「第2 2 (3)」においてその独立特許要件を検討した本願補正発明に対して、「前記第二の成分を、前記第一の成分に対して、1.5重量部以上4.5重量部以下とし、前記第一の成分からなる基材に、前記第二の成分を含浸担持させ、乾燥後に400℃で焼成してなる、又は、前記第一の成分および前記第二の成分に溶媒を加えて混練し、乾燥後に400℃で焼成してなる」との発明特定事項が除外されたものであるから、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は上記「第2 2 (3) エ」に示した相違点1においてのみ相違し、その余の点で一致する。
そして、上記相違点1についての判断は「第2 2 (3) オ」で述べたとおりであるから、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 補足 - 審判請求人の主張について
ア 審判請求人は、平成24年6月25日付けの回答書において、本願補正発明の触媒においては、マンガンと銅を触媒調製時に等モル加えることで、NO_(2)が多い排ガス条件下においてもアンモニアを増量すれば、反応応答が速く短時間にNOx濃度を低下することができるという効果を奏するのに対して、引用発明は、かかる効果を奏しない旨主張している。
しかしながら、引用文献1の(1a)にはNO_(2)がリッチな窒素酸化物を含むガスの脱硝活性が著しく向上するという引用発明の効果が記載されているところ、脱硝活性が著しく向上すれば、反応応答についても速くなると解するのが相当である。
したがって、引用発明においても、アンモニア量の変化に対する反応応答の短縮化という効果が記載されているに等しいといえるか、また仮に記載されているに等しいとまではいえないとしても、かかる効果は当業者が推論可能であるということができるから、上記審判請求人の主張は採用できない。

イ なお、上記審判請求人の主張は、マンガンと銅の添加量として等モルを選択することによる本願補正発明の効果を主張しているものとみれなくもないが、本願明細書の【0023】には、マンガン酸化物と銅酸化物の添加量に関して、「第二の成分がマンガン酸化物および銅酸化物からなる場合には、マンガン酸化物と銅酸化物との重量比を100:0?100:100とする。このような重量比とすることで、排ガス中の窒素酸化物に対する二酸化窒素の割合が大きい場合でも、排ガス中の窒素酸化物をアンモニア存在下で確実に還元して無害な窒素および水に分解することができる。」との記載があり、かかる記載はマンガン酸化物と銅酸化物の添加量が、一定の幅を有する範囲の中で任意に選択可能であると解されるものであって、マンガンと銅の添加量として等モルを選択することによる効果が記載されたものということはできない。また、【0031】以降に例示された各種実施例においても、マンガンと銅の添加量を等モルとした場合と、等モルとしなかった場合の実施結果が対比されているわけではない。
そうすると、マンガンと銅の添加量として等モルを選択することによる、等モルとしなかったものと比較した有利な効果を、本願の明細書又は図面の記載から当業者が推論できるとは認められないから、かかる効果は参酌できない。
また、仮にかかる効果を参酌しても、上述したとおり、本願発明と同質の効果は引用発明においても有しているものといえるし、その程度が引用発明に比して際だって優れていると認めるに足る根拠も見当たらない。
以上のとおりであるから、上記審判請求人の主張は是認することができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-22 
結審通知日 2012-08-28 
審決日 2012-09-11 
出願番号 特願2006-308747(P2006-308747)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01D)
P 1 8・ 575- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 政博  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 豊永 茂弘
田中 則充
発明の名称 窒素酸化物除去用の触媒、および排ガス処理方法  
代理人 光石 俊郎  
代理人 田中 康幸  
代理人 松元 洋  
代理人 光石 忠敬  
代理人 光石 春平  

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