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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12Q
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C12Q
管理番号 1265192
審判番号 不服2009-2894  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-09 
確定日 2012-10-22 
事件の表示 特願2003-540386「固定化DNA試料におけるシトシンメチル化の検出方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月 8日国際公開、WO03/38121、平成17年 3月10日国内公表、特表2005-506850〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成14年10月25日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年10月26日 ドイツ)とする出願であって,平成19年7月13日付で手続補正がなされたが,平成20年11月5日付で拒絶査定がなされ,これに対して,平成21年2月9日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同年3月10日付で手続補正がなされたものである。

2.平成21年3月10日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年3月10日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
上記補正により特許請求の範囲の請求項1は,補正前の「【請求項1】 下記の各処理工程を実施することを特徴とするゲノムDNA試料中のシトシンメチル化標本の解析方法:a)ゲノムDNA試料を細胞又は他のこれに付随する物質から分離して非可逆的に表面に結合させ;
b)表面に結合したDNAを,シトシンはDNA二重鎖における塩基対挙動の異なる塩基に変化するが,5-メチルシトシンは変化しないままでいるように,重亜硫酸塩(ジ亜硫酸塩,亜硫酸水素塩)で処理し;
c)工程b)で使用した処理剤を水洗処理して除去し;
d)固定化されたDNAの選択されたセグメントをポリメラーゼ反応で増幅させ;
e)その増幅産物の配列に関して調査する工程。」から,
「【請求項1】 下記の各処理工程を実施することを特徴とするゲノムDNA試料中のシトシンメチル化標本の解析方法:
a)ゲノムDNA試料を細胞又は他の付随する物質から分離して,酸化アルミニウム又は疎水性物質あるいはC18-アルキル鎖の表面に非可逆的に結合させて固定し;
b)表面に結合したDNAを,シトシンはDNA二重鎖における塩基対挙動の異なる塩基に変化するが,5-メチルシトシンは変化しないままでいるように重亜硫酸塩(ジ亜硫酸塩,亜硫酸水素塩)で処理し;
c)工程b)で使用した処理剤を水洗処理して除去し;
d)固定化されたDNAの選択されたセグメントをポリメラ-ゼ反応で増幅させ;
e)その増幅産物の配列に関して調査する工程。」へと補正された。
上記補正は,上記補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「表面」について,補正前には何ら請求項1に記載されていない表面の材質を新たに特定する「酸化アルミニウム又は疎水性物質あるいはC18-アルキル鎖の」との新たな発明特定事項が追加されており,また,補正後の請求項1は択一的な選択肢を含むものとなっており,実質的に審理対象である発明が増加しているから,当該補正は補正前の請求項に記載された発明の発明特定事項の限定であるとはいえない。さらに,「酸化アルミニウム」について特定している補正前の請求項11に基づいて考えたとしても,表面の材質として「酸化アルミニウム」に新たに「疎水性物質あるいはC18-アルキル鎖」を追加することが発明特定事項の限定であるとはいえない。よって,請求項1についての補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当せず,また,かかる補正が不明瞭な記載の釈明又は誤記の訂正を目的とするものとも認められないから,平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反する。
また,仮に請求項1についての補正が発明特定事項の限定である場合には,補正前と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることから,請求項1についての補正が平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当することとなり,以下,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明1」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,念のため検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるNucleic Acids Research,1996,Vol.24,No.24,p.5064-5066
(以下,「引用例1」という。)には,
(i)「重亜硫酸塩で改変されたゲノムDNAのシークエンシングは染色体DNAのメチル化パターンを決定する最も威力のある方法である。多くの実験系において分析に利用可能な試料の量は非常に少なく,そのことによって極めて高い感度及び再現性で実験を行うことが必要となる。この論文において,我々は重亜硫酸塩に基づいたシークエンシング方法の改良を示す。我々の戦略は,重亜硫酸塩処理及び続くPCR段階をアガロースビーズに組み込まれた試料について行うことである。これは,実験過程におけるDNAの損失を防ぎ,DNAを一本鎖の状態に維持することによって最適な重亜硫酸塩反応性を確保する。」(第5064頁左欄要約第1行?第14行),
(ii)「我々のアプローチの背景にある単純な原理は分析対象であるDNAの変性されたDNAまたは細胞のいずれかを組み込んだ低融点(LMP)アガロースを用いることである。組み込みは重亜硫酸処理中の変性DNA鎖の再生を防止し,それによって薬品の反応性を最適化する。組み込みは,全ての沈降や精製工程が平衡化の短い工程で取って変わられることから,試料の損失を最小限化もする。」(第5064頁左欄下から第1行?右欄第7行),
(iii)「II.単離された染色体DNAを含むアガロースビーズの調製 C2細胞の単離された染色体DNAがEcoRIで消化され,5分間煮沸,すぐに氷上で冷却,続いて,0.3M NaOH中で50℃,15秒インキュベートされた。この試料希釈物は水に溶解した2% LMPの2体積と混合された。アガロース/DNA混合物はアガロースビーズを形成するために冷却されたミネラルオイル中に直接ピペットで入れられた。」(第5064頁右欄下から第4行?第5065頁左欄第4行),
(iv)「アガロースビーズの重亜硫酸塩処理 5Mの亜硫酸溶液(2.5Mメタ重亜硫酸ナトリウム.メルク:125mM ヒドロキノン.シグマ:pH5.0)をそれぞれが1つのビーズを含む反応チューブに添加した。(中略)反応を1/5体積の1M塩酸水溶液で中和した。最終的に,1mlの1×TE(トリス緩衝液)で洗浄,ddH2O(15分×2)で平衡化した。ビーズは直接PCRに用いた。我々はビーズを数週間4℃で維持したが,質の損失は検出されなかった(データは示されていない)。」(第5065頁左欄第6行?第21行),
(v)「我々の手法を従来の重亜硫酸塩を用いた手法と比較するために,公開されている最も感度の良い手法(2)で処理された染色体DNAと並行に増幅を行った(条件は図1の説明文に概要が記載されている)。全ての反応ではネステッドプライマーを用いた2度の増幅が行われ,生成物はアガロースゲルで調べられた。1度の増幅(35サイクル;図1A-C)で得られた結果は組み込まれた細胞で行われた反応が最も効率的であることを示した。」(第5065頁左欄下から第32行?下から第23行),
(vi)「しかしながら,我々はアガロースへの組み込みという単純な仕掛けが顕著な技術的及び実験的な改善をもたらすことを発見した。これは,工程の簡潔化された実用的なデザイン(DNAの単離及び沈降を要しない)に関連するのみならず,(DNA鎖の物理的な分離による)完全な処理及び(主にDNA損失の最小化による)高い実験感度といった最適な条件の再現性にも関連する。」(第5065頁右欄最下行?第5066頁左欄下から第3行),と記載されている。
また,原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第98/46797号(以下,「引用例2」という。)には,
(i)「核酸のアーカイビング法であって,a)水性試料中に含有される1本鎖または複数鎖の核酸を固相マトリックスに不可逆的に結合させ;b)固相結合核酸を操作し;そしてc)固相マトリックス上の結合核酸を保存する,ことを含んでなる上記方法。」(第28頁請求項1),
(ii) 12.直接操作方法は,酵素反応,オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション,プローブハイブリダイゼーション,シグナル増幅および標的増幅よりなる群から選択される,請求の範囲第1項記載の方法。
13.増幅方法は,PCR,SDA,NASBA,IsoCR,CRCA,Qベータレプリカーゼおよび分岐鎖DNAよりなる群から選択される,請求の範囲第12項記載の操作。」(第28頁請求項12?第29頁請求項13),
(iii)「プローブハイブリダイゼーションまたは増幅プライマーアニーリングのために1本鎖核酸を作成するのに必要な溶融工程を排除し,核酸分析工程を直接組み込んで分析操作および方法を簡便化し,交差汚染のリスクを低減および/または除去することは,有利であろう。本明細書に記載の方法は,上記の抽出とハイブリダイゼーションまたは増幅工程の直接の連結方法を提供する。
分析目的に核酸はしばしば,極度に少ない試料から抽出する必要があり,その場合二次的確認試料を得ることが不可能ではないにしても困難である。例としては,犯罪現場の証拠の分析または臨床的試験のための細い針の生検試料の分析がある。従ってこのような場合,複製試験による遺伝的試験と確認の程度は,核酸試料のサイズにより限定される。これらの少ない試料について従来の抽出法を使用すると,しばしば核酸が失われるか,または収率は,一回または数回の増幅分析のみが可能なものとなる。本発明は,試料から核酸を不可逆的に結合し,従って永続的にアーカイブ(archive)する方法を提供する。すなわち核酸は分析中改変も枯渇もされず,従って無限回数再分析することができる。本発明は,当業者に公知ではあるが核酸分析には適合しないと考えられている固相DNA結合性を利用する。」(第3頁第2行?第22行),
(iv)「 図3は,酸化アルミニウムに結合したDNAは,70%ETOH,水,またはPCR緩衝液で95℃で10回洗浄した後も,90%を超える量が非可逆的に結合していることを証明する。」(第7頁下から第13行?下から第11行),
(v)「図5aと5bは,水中の酸化アルミニウムに106コピーのHIV DNAとマイコバクテリウムDNAの1μlのプラスミドプレップが同時結合し,次に2つの標的が連続して直接固相増幅されることを示す。HIVは,まず35サイクルのポリメラーゼチェイン反応(PCR)により増幅し,次に鎖置換増幅法(SDA)を使用してマイコバクテリウム標的の増幅を行なった。5aは,HIV増幅産物のアガロースゲルを臭化エチジウム染色したものを示す。ウェル1は分子量ラダーであり,ウェル2,3は陽性の水性1000コピー増幅物,ウェル4,5,6および7はアルミニウム固相PCR増幅物,ウェル8,9,10および11は,陰性のアルミニウム固相対照,ウェル12,13は水性陰性対照である。図5bは,SDA増幅産物のアガロースゲルの臭化エチジウム染色したものを示す。ウェル1,2は水性陽性対照,ウェル3,4,5および6はアルミニウム固相SDA増幅物,ウェル7,8,9および10は陰性のアルミニウム対照,そして11,12は水性陰性対照である。」(第7頁下から第6行?第8頁第8行),
(vi)「さらなる実験操作は,第2または第3の高容量試料を通してクロマトグラフィーを繰り返すと,酸化アルミニウムについて最大80%の結合効率が得られることを示している。固相DNA結合についてアルミニウムはシリカよりはるかに優れており,高流速と低濃度でDNAをクロマトグラフィー捕捉することができる。この性質のために,酸化アルミニウムはプールした大量の試料からDNAを濃縮することができ,DNA検出の1ml当たりの感度を大きく上昇させる。アルミニウムのDNAに対する高結合力はまた,水,緩衝液,または他の試薬からの低レベルのDNA汚染物質の除去にも有用である。」(第14頁下から第17行?下から第8行),
(vii)「この核酸結合は非可逆的であるため,アルミニウムは,結合したDNAが固相上で直接増幅されるときのみ有効である。異なる増幅法との適合性を示すために,106コピーのHIV DNAとマイコバクテリウムDNAの1μlのプラスミドプレップを同時に水中の酸化アルミニウムに結合させる。これらの結合DNA標的を次に,順にHIVで増幅し,まず35サイクルのポリメラーゼチェイン反応(PCR)を使用して増幅し,次に鎖置換増幅(SDA)によりマイコバクテリウム標的を増幅させる。図5aに示すHIV PCRのアガロースゲルの臭化エチジウム(EtBr)染色したものは優れた増幅産物を示す。HIV PCR増幅後に,アルミニウムを70%ETOHで4回洗浄し,55℃で10分乾燥し,次にマイコバクテリウム標的についてSDA増幅を行う。SDA増幅のEtBr染色アガロースゲルはまた,水性対照で観察されたものと等しいレベルの増幅産物を示す(図5b)。さらなる実験操作は,4Mグアニジンまたは0.1NNaOH結合緩衝液を使用することによりマイコバクテリウムプラスミドDNAはアルミニウムに結合し,これらの固相上で増幅が起きることを示す。」(第14頁下から第5行?第15頁第13行),
(viii)「不可逆的に結合した核酸と直接固相増幅を組合せると,同じDNA試料を無限回繰り返して分析することができる。」(第16頁第4行?第6行),
(ix)「本発明は,結合核酸を固相から溶出することなく水性緩衝液で広範に洗浄することができるように,任意の生物試料から低濃度および高流速の核酸を捕捉し固相マトリックス上に不可逆的に結合させる方法を提供する。この結合は,高感度を達成するために低バックグランドを必要とするマイクロアレイハイブリダイゼーションのような商業的応用のための高厳密度を提供する。すなわちこの方法はさらに,核酸抽出の自動化,高容量試料からの低コピー核酸の濃縮,および抽出と精製を増幅またはハイブリダイゼーション核酸捕捉と連結するための,商業的応用に関する。商業的応用には,ロボットを用いる自動化により有益となる高処理量核酸試験,またはプールした試料の試験による存在量の少ない標的の経済的スクリーニングを含む。さらに固相結合核酸は,酵素反応,ハイブリダイゼーション反応,または増幅反応により,一回のみでなく複数回直接操作することができる。」(第6頁第14行?第28行),と記載されている。

(3)本願補正発明1
(3-1)対比
本願補正発明1は,a)ゲノムDNA試料を細胞又は他の付随する物質から分離して,酸化アルミニウム又は疎水性物質あるいはC18-アルキル鎖の表面に非可逆的に結合させて固定し,b)表面に結合したDNAを,シトシンはDNA二重鎖における塩基対挙動の異なる塩基に変化するが,5-メチルシトシンは変化しないままでいるように重亜硫酸塩で処理し,c)工程b)で使用した処理剤を水洗処理して除去し,d)固定化されたDNAの選択されたセグメントをポリメラ-ゼ反応で増幅させ,e)その増幅産物の配列に関して調査する工程,を特徴とするにゲノムDNA試料中のシトシンメチル化標本の解析方法,に係るものである。
本願補正発明1において,固相の表面が,「酸化アルミニウム又は疎水性物質あるいはC18-アルキル鎖」と択一的に特定されているところ,以下では「酸化アルミニウム」である場合について検討する。
引用例1記載事項(i)(iii)(iv)(v)から,引用例1には,単離された染色体DNAをアガロースビーズに組み込み,当該DNAを,シトシンはDNA二重鎖における塩基対挙動の異なる塩基に変化するが,5-メチルシトシンは変化しないままでいるように重亜硫酸塩で処理し,当該処理剤を水洗処理して除去し,固定化されたDNAの選択されたセグメントをポリメラ-ゼ反応で増幅させ,その増幅産物の配列に関してアガロースゲルによる電気泳動等で調査する工程,を特徴とするにゲノムDNA試料中のシトシンメチル化標本の解析方法,が記載されていると認められる。
そこでまず,本願補正発明1と引用例1に記載された事項を比較すると,「単離された染色体DNA」は「ゲノムDNA試料を細胞又は他の付随する物質から分離」したものに相当するから,両者は,a)ゲノムDNA試料を細胞又は他の付随する物質から分離して,固相に固定し,b)結合したDNAを,シトシンはDNA二重鎖における塩基対挙動の異なる塩基に変化するが,5-メチルシトシンは変化しないままでいるように重亜硫酸塩で処理し,c)工程b)で使用した処理剤を水洗処理して除去し,d)固定化されたDNAの選択されたセグメントをポリメラ-ゼ反応で増幅させ,e)その増幅産物の配列に関して調査する工程,を特徴とするにゲノムDNA試料中のシトシンメチル化標本の解析方法,である点で共通する。
一方,両者は,固相への固定化が,前者では酸化アルミニウムの表面への非可逆的な結合であるのに対し,後者では,アガロースビーズへの組み込みである点,で相違する。
(3-2)判断
相違点について検討すると,上記(2)の引用例2記載事項(i)?(v),(vii)にあるように,単離した染色体DNAを酸化アルミニウムに非可逆的に固定し,固定化されたDNAの選択されたセグメントをポリメラ-ゼ反応で増幅させ,その増幅産物の配列に関して調査する工程,を特徴とするにゲノムDNAの解析方法が既に知られており,引用例2記載事項(vi)によりDNAを固定化する固相として酸化アルミニウムが優れた性質を有すること,また,引用例2記載事項(iii),(viii)により酸化アルミニウムに固定化したDNAは試料として無限に繰り返し使用できるとの利点,が知られている。また,引用例1記載事項(ii),(vi)により引用例1においてアガロースビーズへの固定化の目的の1つは固相への固定化により全ての沈降や精製工程を平衡化,すなわち固定化DNAの洗浄で置換することによる工程の簡素化及び試料損失の低下による感度の向上であり,また,引用例2記載事項(ix)により引用例2における酸化アルミニウムに非可逆的に固定化することの目的の1つは固定化により固定化DNAの洗浄を可能とし高感度を達成することである。
そうすると,引用例1及び2におけるDNAの固定化の目的の1つは同一であるところ,引用例2により知られている酸化アルミニウムのDNAを固定化する固相としての優れた性質や酸化アルミニウムに固定化したDNAは試料として無限に繰り返し使用できるとの利点を考慮し,DNAの固相への固定化手段として,引用例1に記載のアガロースビーズへの組み込みに代えて引用例2に記載の酸化アルミニウムへの非可逆的な固定を採用することは,引用例1及び2に接した当業者であれば容易に想到し得ることである。なお,酸化アルミニウムの内部にDNAが浸透することは通常考えられないため固定は表面で行われているものと認められる。
そして,本願の発明の詳細な説明には具体的なデータを伴った実験結果をもって本願補正発明1の効果が示されていないから,本願補正発明1が引用例1及び2から予測される以上の格別の効果を奏するものともいえない。
したがって,本願補正発明1は,引用例1及び2の記載から当業者が容易になし得たものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(4)審判請求人の主張
(4-1)請求人は,「前記引用文献1の発明は,シングルストランドのDNAの存在が良好な重亜硫酸塩変換を生じさせるための前提要件であることを教えている。それゆえ,引用文献1に記載された結果に基づけば,ダブルストランドDNA分子の重亜硫酸塩の変換割合は期待されないのであって,それにもかかわらず,本願発明の前記処理工程によって重亜硫酸塩変換に優れた結果が得られたことは驚くべきことであった。一般に,重亜硫酸塩変換は,検出感度が制限されるという不利があり,重亜硫酸塩処理の変換割合は制限され,また解析されるDNAの劣化は大きく,低い変換率しか得られないことも知られている。」(意見書第2頁下から第15行?下から第8行)と主張している。
しかし,上記(3-2)に記載したように,本願の発明の詳細な説明には具体的なデータを伴った実験結果をもって本願補正発明1の効果が示されていないから,本願補正発明1が,驚くべく優れた結果,すなわち,引用例1及び2から予測される以上の格別の効果を奏するものともいえない。
よって,請求人の上記主張は採用できない。
(4-2)請求人は,「また,固相上の化学反応の動力学は,溶液中での反応の動力学より悪いことは良く知られている。従って,引用文献2に,固相マトリックスに核酸を不可逆的に結合させ,PCR増幅等に直接用いる記載があるとしても,これを固相上で重亜硫酸塩処理する引用文献1の方法に適用することは想定できないのである。」(意見書第2頁下から第17行?下から第4行)と主張している。
しかし,引用例1ではDNAをアガロースビーズに固定化したうえで重亜硫酸塩処理を行っているので,引用例1に接した当業者にとって固相上での重亜硫酸塩処理を行うことはむしろ自然な発想であり,固相上の反応であることが阻害要因とはならない。
よって,請求人の上記主張は採用できない。
(4-3)請求人は,「引用文献2には,水性試料中に含まれるシングルストランド又はマルチプルストランドの核酸を固相マトリックスに不可逆的に結合させ,核酸の結合したその固相を処理して,結合核酸を前記固相マトリックスに貯蔵する工程を包含する核酸の記録方法及びこれを基質として,PCR増幅等に直接使用できることが記載されているが,固定用固相マトリックスに関し,親水性の高度に陽性の物質,としてシリコン(Si),ボロン(B)及びアルミニウム(A)化合物としてOH基その他の基により親水性が付与されたSi,BやAlの化合物類が明記されている。」(平成21年5月1日付手続補正書第3頁第8行?第14行)及び「なお,本願発明の方法で用いる酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムとは化学物質が相違することを付言します。」(同手続補正書第3頁下から第24行?下から第21行)としているが,引用例2には上記(2)引用例2記載事項(iv)?(vii)のように酸化アルミニウムへの固定化について記載されている。
よって,請求人の上記主張は採用できない。
(4-4)請求人は,「引用文献1に記載された発明は,前記したようにゲノムDNAが有機多糖類の一種であるアガロースのビーズに固定されるのであって,そのアガロースビーズにDNA等を固定する方法は極めて煩雑且つ厄介であり,固定されたシトシンメチル化試料の解析手段も特異敵である。従って,引用文献2において水酸化アルミニウムに固定されたゲノムDNA試料を解析する方法をそのまま適用しようとすることは当業者であれば到底考え及ばないのであって,引用文献2に記載された解析方法が適用されるという根拠は本質的に存在しない。」(平成21年5月1日付手続補正書第3頁第16行?第22行)と主張している。
しかし,上記(3-2)に記載のように,引用例1及び2に接した当業者にとって引用例1に記載のアガロースビーズへの組み込みに代えて引用例2に記載の酸化アルミニウムへの非可逆的な固定を採用することの動機づけは十分にある。そして,アガロースビーズにDNA等を固定する方法が極めて煩雑且つ厄介であるとしても,そのことはアガロースビーズに代わる簡便な方法を求める動機づけにこそなるが,逆に,そのことがアガロースビーズへの組み込みに代えて酸化アルミニウムへの非可逆的な固定を採用することの阻害要因になるとはいえない。また,固定されたシトシンメチル化試料の解析手段が特異であるとしているが,引用例1には固定化されたシトシンメチルを重亜硫酸塩処理することが記載されており,上述の動機づけに基づいて当業者が当該処理を他の固定化されたシトシンメチルに適用することに対する阻害要因となるような特異性が技術常識としてあることは具体的に示されていない。
よって,請求人の上記主張は採用できない。
(4-5)請求人は,「すなわち,引用文献1においては,DNAは,非可逆的に表面に固定化しておらず,3次元のアガロース粒子の内部に固定化しています。この固定化をしている理由は,DNAを埋め込みすると,重亜硫酸塩処理の間に,変性したDNA鎖が再結合することを防ぐことができ,それにより,化学物質の反応性を最適化できるからです(第5064ページ,右欄,第1段落)。 また,引用文献1は,重亜硫酸塩との完全な処理のためには,DNA鎖の物理的分離が必要であることを述べています(第5065-5066ページに至る段落)。しかしながら,引用文献1からでは,当業者は,本願発明のような重亜硫酸塩処理の前にDNAを固体表面に固定化する方法を開発することはできないと考えます。なぜならば,当業者であれば,DNAフラグメントが表面に結合する際の安定性は,DNAと表面との間の分子相互作用の全体と関係があるという事実を認識しているからです。換言するならば,フラグメントが長くなればなるほど,当該分子相互作用は増えて,結合の安定性は大きくなり,また,その逆も言えます。 しかしながら,重亜硫酸塩処理の間,厳しい反応条件(例えば,高い塩濃度,高温での長いインキュベーション時間)のため,DNAは高度にフラグメント化されることは,当業者にとって公知の認識事項です。例えば,今回添付した,Grunau eta al.の文献には,重亜硫酸塩処理の間に起こるDNAの分解について記載されています。そこでは,DNAの84-94%は,重亜硫酸塩処理で分解されることが,はっきりと述べられています(第5ページ,左欄,最後の段落)。当該文献は,本願の優先日である2001年10月26日よりもずっと前の2001年2月5日に発表されています。このことから,本出願日前であれば,DNAが非常に短いフラグメントで存在しており,そのために,引用文献1で教示されているように,3次元アプローチ以外は,固定化するのに適していないと,当業者は予測すると考えます。」(回答書第第1頁下から第1行?第2頁下から第7行)と主張している。
しかし,上記(2)の引用例2記載事項(iii),(ix)のように引用例2記載の核酸の固定化も少量のDNA試料の検出を目的・効果の1つとしたものであるから,亜硫酸塩処理により高い割合でのDNA分解が生じる場合に,残存した少量のDNAを鋳型とした増幅反応の可能性を期待し,特段の追加的工夫なく単にその方法を適用することは,上記(3-2)のとおり当業者が容易に想到し得ることである。また,増幅反応におけるプライマーの適した鋳型となるものはそもそもある程度分解されずに残ったDNAである場合が多いと考えられるから,分解されなかったDNAに加えて高度に分解されて非常に細かいフラグメントとなったDNAが固定化されていることが必要であってそのことが3次元アプローチ以外を排除するとはいえない。なお,仮にDNAが高い割合で非常に短いフラグメントで存在することがその後のプライマーを用いた増幅反応を考慮した際に3次元アプローチ以外を排除するとの技術常識があるとした場合には,そのような技術常識を踏まえれば,具体的なデータを伴った実験結果をもって本願補正発明1の効果が示されていない本願明細書に基づいては,本願補正発明1がその技術常識を踏まえた予測を超えた効果を奏するものとは認められない。
よって,出願人の上記主張は採用できない。
(4-6)請求人は,「本出願人は,まず,引用文献2が,本願の請求項1とは異なり,疎水性固体相に関する開示がなされていないことを申し上げます。より詳しくは,引用文献2は,親水性(hydrophilic)の表面を開示しています(第4ページ,3-6行)。」(回答書第1頁下から第6行?下から第4行)と主張している。
しかし,本願補正発明1は酸化アルミニウムについてのものであり,引用例2には上記(2)引用例2記載事項(iv)?(vii)のように酸化アルミニウムへの固定化について記載されている。
よって,請求人の上記主張は採用できない。

(5)むすび
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また,仮に特許法第17条の2第4項第2号の規定に違反しないとしても,同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成21年3月10日の手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)は,平成19年7月13日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「【請求項1】 下記の各処理工程を実施することを特徴とするゲノムDNA試料中のシトシンメチル化標本の解析方法:a)ゲノムDNA試料を細胞又は他のこれに付随する物質から分離して非可逆的に表面に結合させ;
b)表面に結合したDNAを,シトシンはDNA二重鎖における塩基対挙動の異なる塩基に変化するが,5-メチルシトシンは変化しないままでいるように,重亜硫酸塩(ジ亜硫酸塩,亜硫酸水素塩)で処理し;
c)工程b)で使用した処理剤を水洗処理して除去し;
d)固定化されたDNAの選択されたセグメントをポリメラーゼ反応で増幅させ;
e)その増幅産物の配列に関して調査する工程。」

そして,本願発明1は上記本願補正発明1を包含するものであり,本願補正発明1は上記2.(3-2)に記載した理由によって,引用例1及び2の記載から当業者が容易になし得たものであるから,本願発明1も引用例1及び2の記載及び上記周知技術に基づき当業者が容易に発明することができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから,本願請求項1に係る発明は,特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないので,他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-30 
結審通知日 2012-05-31 
審決日 2012-06-12 
出願番号 特願2003-540386(P2003-540386)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12Q)
P 1 8・ 572- Z (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神谷 昌男田中 晴絵  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 鈴木 恵理子
伏見 邦彦
発明の名称 固定化DNA試料におけるシトシンメチル化の検出方法  
代理人 嶋崎 英一郎  
代理人 荒井 鐘司  
代理人 河野 尚孝  
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