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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C07K
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C07K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1265195
審判番号 不服2009-21123  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-30 
確定日 2012-10-22 
事件の表示 特願2007-341449「長期持続性成長ホルモン放出因子誘導体」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 5月 8日出願公開、特開2008-106073〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成19年12月28日の出願であって、特願2002-563196号(パリ条約による優先権主張2001年2月2日(米国)をする国際出願)の一部を特許法第44条第1項の規定に基づき分割して新たな出願としたものであり、平成20年8月12日付けで手続補正がなされ、平成21年6月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。

第2.平成21年10月30日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年10月30日付の手続補正を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項6について、補正前の
「【請求項6】
前記血液成分が、血液タンパク質を含む、請求項1?5のいずれか1項に記載の誘導体。」から、補正後の
「【請求項6】
【化55】


である、請求項1?3のいずれか1項に記載の誘導体。」に補正された。

2.新規事項の追加について
請求項6の補正において、成長ホルモン放出因子誘導体の化学構造として【化55】に示されるものが特定された。
この出願の願書に最初に添付した明細書および図面(以下、「当初明細書等」という。)の特許請求の範囲の請求項2、【0024】段落、【0091】段落などには、GRF配列の2位が(D)Alaであり、8位がGlnであり、15位がAlaであるGRFペプチドが記載されており、また当初明細書等の特許請求の範囲の請求項8には反応性要素(反応基)がマレイミド含有基であること、請求項10には反応性要素は連結基を介してペプチドに結合されること、請求項11にはマレイミド含有基および連結基は、「(2-アミノ)エトキシ酢酸(AEA)-MPA、エチレンジアミン(EDA)-MPAまたは[2-(2-アミノ)エトキシ)]エトキシ酢酸(AEEA)-MPAから選択される」ことが記載され、また【0024】段落、【0122】段落などには、特定のアミノ酸配列を有するGFRペプチドに結合された反応性要素(反応基)として、(AEEA-MPA)-CONH_(2)が記載されているが、当初明細書等には、補正後の請求項6に記載されるような、具体的なアミノ酸配列を有するGRFペプチドに特定の反応性要素(反応基)を組み合わせた【化55】に示される具体的な化合物は記載されていない。
【化55】で示されるものは、請求項1に記載される成長ホルモン放出因子誘導体に下位概念として包含されるものではあるが、請求項6にこのような具体的な化合物を特定することは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項の関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
したがって、本件補正において、成長ホルモン放出因子誘導体を【化55】に示されるものに特定することは、当初明細書等に記載された事項の範囲内の補正とはいえず、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

3.目的違反について
補正前の請求項6は、「血液成分が、血液タンパク質を含む」ことを特定するものであるが、補正後の請求項6はこの特定を削除し、替わりに誘導体の化学構造という異なる観点からの特定を追加するものであるから、請求項6についての補正は、補正前の請求項6の発明を限定するものではなく、また、誤記の訂正や明りょうでない記載の釈明でもない。
したがって、請求項6についての補正は、平成18年法律第55号による改正前の特許法第17条の2第4項(以降、「改正前特許法第17条の2第4項」という。)に掲げるいずれの事項を目的とする補正にも該当しない。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、また、改正前特許法第17条の2第4項に掲げるいずれの事項を目的とする補正にも該当せず、本件補正は同法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明
1.本願発明について
平成21年10月30日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成20年8月12日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし24に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2.進歩性性について
(1)請求項1に係る発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
成長ホルモン放出因子誘導体(GRF)であって、以下:
成長ホルモン生成活性または成長ホルモン放出活性を有するGRFペプチド;および 該ペプチドに結合されたMichaelアクセプターを含む反応性要素を含み、
ここで該ペプチドは、以下のネイティブGRF(1?29)配列
【化51】



または以下の置換:
GRF配列の2位の(D)ala、8位のGln、11位の(D)arg、12位の(N-Me)Lys、15位のAla、27位のLeuのうちの1つ以上を有するGRF配列
を含み、
ここで該誘導体は、インビボまたはインビトロで、血液成分上の官能基と共有結合することができる、成長ホルモン放出因子誘導体。」

(2)引用文献
拒絶査定で示された引用文献1(国際公開第00/69900号)には、以下の事項が記載されている(原文は英文につき、訳文を示す)。
a.「(発明の要旨)
本発明は、目的の治療用ペプチドを改変し、そしてこのペプチドをタンパク質キャリアに付着させ、その結果、ペプチダーゼの作用が防止されるか、または減速されることにより、身体内でのペプチドの分解の問題を克服することに関する。より特定すると、本発明は、血液タンパク質の利用可能な官能基と反応して共有結合を形成し得る、治療用ペプチドの化学的に反応性の新規誘導体(特に、治療用ペプチド-マレイミド誘導体)に関する。本発明はまた、このような治療用ペプチドの化学的に反応性の新規な誘導体またはアナログに関する。本発明は、さらに、このような化合物の治療的使用に関する。」(第3頁18?28行)

b.「本発明は、3と50との間のアミノ酸からなる、ペプチダーゼに対して安定化された治療用ペプチドを形成し得る、改変された治療用ペプチドに関する。このペプチドは、カルボキシ末端アミノ酸、アミノ末端アミノ酸、アミノ酸の治療的に活性な領域およびアミノ酸の治療的活性の低い領域を有する。このペプチドは、血液成分上のアミノ基、ヒドロキシル基、またはチオール基と反応して、安定な共有結合を形成し、これによって、ペプチダーゼに対して安定化された治療用ペプチドを形成する、反応性基を含む。本発明のペプチドにおいて、反応性基は、スクシンイミジル基およびマレイミド基からなる群から選択され、そしてこの反応性基は、アミノ酸の治療的により低い活性の領域に位置するアミノ酸に付着される。」(第4頁21?32行)

c.「本発明はまた、改変された治療用ペプチドを合成する方法に関する。この方法は、以下の工程を包含する。第一工程において、治療用ペプチドがシステインを含まない場合には、このペプチドをカルボキシ末端アミノ酸から合成し、そして反応性基をこのカルボキシ末端アミノ酸に付加する。あるいは、末端リジンをカルボキシ末端アミノ酸に付加させ、そして反応性基をこの末端リジンに付加する。」(第5頁15?22行)

d.「(発明の詳細な説明)
(定義)
本発明の完全な理解を確実にするために、以下の定義を提供する:
反応性基: 反応性基とは、共有結合を形成し得る実体である。このような反応性基は、目的の治療用ペプチドに連結または結合される。反応性基は、一般に、水性環境内で安定であり、そして通常、カルボキシ基、ホスホリル基、または従来のアシル基であり、エステルまたは混合無水物のいずれか、あるいはイミデートとして存在し、これによって、移動性の血液成分の標的部位の、アミノ基、ヒドロキシまたはチオールのような官能基と共有結合を形成し得る。大部分において、これらのエステルは、フェノール性化合物を含むか、またはチオールエステル、アルキルエステル、リン酸エステルなどである。反応性基としては、スクシンイミジル(succimidyl)基およびマレイミド基が挙げられる。」(第7頁15?31行)

e.「上記治療用ペプチドの例としては、以下が挙げられる:下垂体ホルモン(例えば、バソプレシン、オキシトシン、メラニン細胞刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、成長ホルモン);視床下部ホルモン(例えば、成長ホルモン放出因子、・・・」(第11頁27?32行)

f.「(成長ホルモン放出因子(GRF)(配列番号111?134)) GRFは、下垂体前葉における成長ホルモンの合成および分泌を制御する際に重要な役割を果たす視床下部ペプチドである。いくつかの構造的に関連しない短いペプチドはまた、異なる機構により成長ホルモン分泌を誘発するすることが報告された。」(第20頁8?12行)

g.「本発明の好ましい実施形態において、タンパク質の官能基はチオール基であり、反応性基は、γ-マレイミド-ブチルアミド(GMBA)またはMPAのようなマレイミド含有基である。」(第56頁13?16行)

h.「システインを含まず、そして上記のように改変され得るペプチドとしては、以下が挙げられる:Kringle5ペプチドのフラグメント、GLP-1ペプチドのフラグメント、ダイノルフィンAのフラグメント、ヒト成長ホルモン放出因子、ヒトニューロペプチドYの1-24フラグメント、およびヒトセクレチン。これらの各ペプチドについての化学の完全な説明を、実施例の節において報告する。」(第79頁7?12行)

i.「(実施例)
(A.改変された治療用ペプチドの合成の一般方法)
100μmolの規模での、改変されたペプチドの固相ペプチド合成を、Fmoc保護Rink Amide MBHA樹脂、Fmoc保護アミノ酸、O-ベンゾトリアゾール-1-イル-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液およびN-メチルモルホリン(NMM)での活性化用いてSymphony Peptide Synthesizer上で実行し、そしてFmoc基のピペリジン脱保護を行った(工程1)。末端Fmoc基の脱保護を、20%のピペリジンを用いて達成し(工程2)、続いて、3-マレイミドプロピオン酸(3-MPA)のカップリング、酢酸のカップリングまたは1つまたは複数のFmoc-AEEAのカップリングのいずれかを行い、続いて3-MPAのカップリングを行う(工程3)。」(第92頁1?16行)

j.「(実施例22 付加されたC末端リジン残基のε-アミノ酸基におけるクリングル-5の改変。NAc-Pro-Arg-Lys-Leu-Tyr-Asp-Tyr-Lys-(Nε-AEEA-MPA)-NH_(2).2TFAの調製)」(第114頁4?7行)

(3)対比・判断
上記(2)のaないしjの記載から、引用文献1には、「血液タンパク質の利用可能な官能基と反応して共有結合を形成し得るマレイミド含有基が治療用ペプチドに結合された治療用ペプチド誘導体であって、該治療用ペプチドが成長ホルモン放出因子(GRF)である前記誘導体。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。そして、成長ホルモン放出因子(GRF)が成長ホルモン生成活性または成長ホルモン放出活性を有することは技術的に明らかである。
また、本願発明にいう「Michaelアクセプターを含む反応性要素」とは、本願明細書の【0040】段落に「好ましい実施形態において、タンパク質上官能基は、チオール基であり、そして反応性要素は、マレイミドまたはマレイミド含有基」であることが記載されていることからみて、引用発明のマレイミド含有基は本願発明の「Michaelアクセプターを含む反応性要素」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明を対比すると、両者は「成長ホルモン放出因子誘導体(GRF)であって、成長ホルモン生成活性または成長ホルモン放出活性を有するGRFペプチド;および該ペプチドに結合されたMichaelアクセプターを含む反応性要素を含むもの(つまり、成長ホルモン放出因子にマレイミド含有基が結合された成長ホルモン放出因子誘導体)であって、該誘導体は、インビボまたはインビトロで、血液成分上の官能基と共有結合することができる、成長ホルモン放出因子誘導体。」である点で一致し、本願発明が、成長ホルモン放出因子誘導体のGRFペプチドについて、「以下のネイティブGRF(1?29)配列
【化51】


または以下の置換:
GRF配列の2位の(D)ala、8位のGln、11位の(D)arg、12位の(N-Me)Lys、15位のAla、27位のLeuのうちの1つ以上を有するGRF配列を含」むことを特定しているに対して、引用文献1では、成長ホルモン放出因子の配列については、上記fのとおり「成長ホルモン放出因子(GRF)(配列番号111?134)」と複数の配列を記載している点で相違している。
しかし、引用文献1に記載される成長ホルモン放出因子である配列番号111?134のもののうち、配列番号116のものは、本願発明で【化51】として特定される配列と一致しており、また配列番号111の1?29配列も、本願発明で【化51】として特定される配列と一致している。
引用発明の成長ホルモン放出因子として、引用文献1に示される配列番号111?134の中から任意のものを特定することは、当業者が容易になし得ることであり、その特定方法として、成長ホルモン放出因子の配列を引用文献1の配列番号116に相当する配列、すなわち【化51】として特定されるもののを含むもの、つまり、特定の1?29配列を含むものとすることも当業者が容易になし得ることである。
そして、本願発明において、成長ホルモン放出因子を【化51】の配列を含むものに特定したことによって格別の効果が奏されているともいえない。
請求人は甲第1号証を示して、薬物動態特性において劇的な増大があること、およびGH分泌およびIGF-1分泌に対して複数ピークがあること、という本願発明の効果を主張している。しかし、引用文献1には、治療用タンパク質に血液成分上の官能基と反応する反応性基を導入し、この反応性基が血液タンパク質の官能基と反応して共有結合を形成することによって、治療用タンパク質に対するペプチダーゼの作用が防止、減速され、身体内での治療用ペプチドの分解の問題を解決されることが示されており、甲第1号証に示されている薬物動態特性の増大という効果は、引用文献1の記載から当業者が予期し得るものに過ぎない。またGH分泌およびIGF-1分泌に対して複数ピークがあるという効果は、本願の当初明細書等に記載されていた事項ではなく、当初明細書等の記載から当業者にとって自明な事項でもないから、これを参酌することはできない。
したがって、請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明および周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることできない。

なお、本願発明では、成長ホルモン放出因子について、ネイティブGRF(1?29)配列を含むものだけでなく、ネイティブGRF(1?29)配列の「以下の置換:GRF配列の2位の(D)ala、8位のGln、11位の(D)arg、12位の(N-Me)Lys、15位のAla、27位のLeuのうちの1つ以上を有するGRF配列」を含むこと、すわちネイティブGRF配列のアミノ酸に置換がある場合についての発明も特定しているが、拒絶査定で示された引用文献2ないし9(引用文献2;特表平6-502618号公報、引用文献3;特表平6-500575号公報、引用文献4;特開昭63-174999号公報、引用文献5;特開昭64-9999号公報、引用文献6;特開昭61-118400号公報、引用文献7;特表平5-507939号公報、引用文献8;J.Med.Chem.,(1993),36,p888-897、引用文献9;J.Peptide Res.,(1997),49,p527-537)には、成長ホルモン放出因子(GRF)ペプチドのアミノ酸の1つまたはいくつかを他のアミノ酸に置換してGRF類似物とすることに関して記載されており、2位、8位、15位、27位などが他のアミノ酸と置換される位置として記載されていることから、引用発明の成長ホルモン放出因子、すなわち置換の無いネイティブの成長ホルモン放出因子に替えて、引用文献2ないし9に記載されるような、ペプチドのアミノ酸の1つまたはいくつかが他のアミノ酸に置換されたGRF類似物を用いることは当業者が容易になし得ることといえ、本願発明おいて、「GRF配列の2位の(D)ala、8位のGln、11位の(D)arg、12位の(N-Me)Lys、15位のAla、27位のLeuのうちの1つ以上を有するGRF配列」と、置換の位置や置換アミノ酸について特定したことによって、当業者が予期できないような格別の効果が奏されたともいえない。
したがって、成長ホルモン放出因子について、ネイティブGRF(1?29)配列の「GRF配列の2位の(D)ala、8位のGln、11位の(D)arg、12位の(N-Me)Lys、15位のAla、27位のLeuのうちの1つ以上を有するGRF配列」を含むものを特定することも、当業者が容易になし得ることである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-30 
結審通知日 2012-05-31 
審決日 2012-06-12 
出願番号 特願2007-341449(P2007-341449)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (C07K)
P 1 8・ 121- Z (C07K)
P 1 8・ 57- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高堀 栄二内藤 伸一  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 中島 庸子
新留 豊
発明の名称 長期持続性成長ホルモン放出因子誘導体  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  
代理人 安村 高明  

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