ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L |
---|---|
管理番号 | 1265210 |
審判番号 | 不服2011-10588 |
総通号数 | 156 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-05-20 |
確定日 | 2012-10-22 |
事件の表示 | 特願2006-287172「EPONシステムにおけるONUループバック試験方法、およびループバック試験機能を有するONU」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 5月 8日出願公開、特開2008-109177〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成18年10月23日の出願であって、原審において平成22年11月19日付け拒絶理由通知に対し、平成23年1月28日に意見書および手続補正書の提出があったが、同年2月15日付けで拒絶査定となり、これに対し同年5月20日に審判請求がなされるとともに手続補正書の提出があったものである。 なお、平成24年3月2日付けの当審よりの審尋に対し、同年5月2日に回答書の提出があった。 第2.補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成23年5月20日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本願発明と補正後の発明 上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、以下のように補正前の平成23年1月28日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項5に記載された発明(以下、「本願発明」という。)を、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。 (本願発明) 「 【請求項5】 一つのOLTに複数のONUが接続されるIEEE802.3ah準拠のEPONシステムにおけるONUループバック試験方法であって、 OLTがONUに対してループバック試験開始指示としてIEEE802.3ahにて規定されたLoopback Control OAMPDUフレーム(以下フレームAという)を送信したときに、前記ONUは、フレームAを受信すると以降のOLTから受信するデータフレームをOAMサブレイヤで折り返し処理を行わずにUNI-PHYで折り返し処理を行うように制御するとともに、 OLTがONUに対してループバック試験終了指示としてIEEE802.3ahにて規定されたLoopback Control OAMPDUフレーム(以下フレームBという)を送信したときに、前記ONUは、フレームBを受信すると以降のOLTから受信したデータフレームをUNI-PHYで折り返し処理を行わずにUNIへ転送する処理を行うように制御することを特徴とするONUループバック試験方法」 (補正後の発明) 「 【請求項1】 一つのOLTに複数のONUが接続されるIEEE802.3ah準拠のEPONシステムにおいて、故障時にユーザ設備の不良か通信事業者設備の不良かの切り分けを行うONUループバック試験方法であって、 OLTがONUに対してループバック試験開始指示としてIEEE802.3ahにて規定されたLoopback Control OAMPDUフレーム(以下フレームAという)を送信したときに、前記ONUは、フレームAを受信すると以降のOLTから受信するデータフレームをOAMサブレイヤで折り返し処理を行わずにUNI-PHYで折り返し処理を行うように制御するとともに、 OLTがONUに対してループバック試験終了指示としてIEEE802.3ahにて規定されたLoopback Control OAMPDUフレーム(以下フレームBという)を送信したときに、前記ONUは、フレームBを受信すると以降のOLTから受信したデータフレームをUNI-PHYで折り返し処理を行わずにUNIへ転送する処理を行うように制御することを特徴とするONUループバック試験方法」 2.補正の適否 (1)新規事項の有無、補正の目的要件 上記補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項5に記載された「ONUループバック試験方法」という記載を、「故障時にユーザ設備の不良か通信事業者設備の不良かの切り分けを行うONUループバック試験方法」と限定することにより特許請求の範囲を減縮するものである。 したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(新規事項)及び平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号(補正の目的)の規定に適合している。 (2)独立特許要件 本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。 [補正後の発明] 上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。 [引用発明] A.原審の拒絶理由に引用された「改訂版 10ギガビットEthernet教科書」(石田、瀬戸監修、2005年4月11日、株式会社インプレス ネットビジネスカンパニー発行、以下、「引用例1」という。)の234?239頁には、「第6章 FTTH向けイーサネット規格:EFM = TS-1000からGE-PON(EPON)まで =」の「6.7 802.3ah の運用保守管理方式」として図面とともに以下の事項が記載されている。 イ.「6.7 802.3ah の運用保守管理方式 1 IEEE 802委員会の802.3ah「EFM」規格の標準内容 TTC TS-1000の規定する保守・監視方式が、100Mbps光イーサネットをベースとした伝送方式との組み合わせのみで使用することを想定しているのに対して、IEEE 802.3ah の加入者向けイーサネット(EFM:Ethernet in the First Mile)規格では、加入者向けイーサネット用途に規定した全ての方式(光ポイント・ツー・ポイント、光ポイント・ツー・マルチポイント、電話線方式)すべてで共通して使用できる保守・監視方式として、イーサネットのMACフレームを保守・監視のためのやり取りに用いる方式を規定しています。」 (234頁) ロ.「 」(235頁) ハ.「 」(238頁) ニ.「(4)ループ試験制御フレーム ループ試験の起動と終了を制御するための保守フレームです。ループ試験を行う場合、局側の装置は、ユーザー宅側の装置に対してループ試験開始を指定したループ試験制御フレームを送信します。このようなループ制御フレームを受信したユーザー宅側装置は、自局がループ状態になったことを明示するインフォメーション・フレームを応答として送信し、ループ状態に入ります。 ループ状態に入ると、ユーザー・フレームの送信は中止され、すべての受信フレームは保守フレームを除いて保守副層でループされ、相手局に返送されます(図6-22)。ループ試験を終了する場合、局側装置はループ試験の終了を指定したループ制御フレームを送信します。このようなループ制御フレームを受信したユーザー宅側装置は、ループを解除した上で、自局がループ状態を解除したことを明示するインフォメーション・フレームを応答として送信します。」 (239頁20?30行) 上記引用例1の記載及び関連する図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、 まず、引用例1記載の「運用保守管理方式」は、上記イ.にあるように「IEEE 802.3ah」規格準拠の「光ポイント・ツー・マルチポイント」方式に対応したものであって、 該「光ポイント・ツー・マルチポイント」方式は、上記ロ.の図6-19右下ほか、摘記はないが引用例1の209頁第6章タイトルに「FTTH向けイーサネット規格:EFM =TS-1000からGE-PON(EPON)まで=」とあり、211頁図6-1右下にも「GE-PON」とあるように「EPON」(Ethernet Passive Optical Network:イーサネット受動光ネットワーク)と呼ばれるシステムを含むものであり、 該「EPON」システムは、上記ハ.図6-22にあるように、「設備センター局側装置」と「ユーザー宅側装置」が「媒体(ケーブル)」で接続される通信システムであって、「ポイント・ツー・マルチポイント」(1点対多点)の通信方式であるから、前記211頁図6-1にもあるように、1つの「設備センター局側装置」(OLT)に複数の「ユーザー宅側装置」(ONU)が接続されるシステムであるのは明らかである。 そして、引用例1の上記ハ.図6-22、ニ.には、該「EPON」システムにおける「ループ試験」の方法が記載されているから、 結局、引用例1には、『一つの局側装置に複数のユーザー宅側装置が接続されるIEEE802.3ah準拠のEPONシステムにおけるループ試験方法』が開示されている。 また、引用例1の上記ニ.には、該「ループ試験」の制御に用いられる「ループ試験制御フレーム」によるループ試験方法の詳細手順について記載があり、ここで上記ハ.図6-22も参照すれば、該「ループ試験」時の「ループ状態」とは『受信フレームを保守副層で折り返し処理を行う』状態ということができ、 表記の揺れの統一および区別のため上記ニ.にある、「ループ試験開始を指定したループ試験制御フレーム」を「ループ試験制御フレームα」、「ループ試験の終了を指定したループ制御フレーム」を「ループ試験制御フレームβ」と呼ぶこととすれば、 結局、引用例1には、『 ループ試験を行う場合、局側装置は、ユーザー宅側装置に対してループ試験開始を指定したループ試験制御フレームαを送信し、ループ試験制御フレームαを受信したユーザー宅側装置は、自局をループ状態として、受信フレームを保守副層で折り返し処理を行うように制御するとともに、 ループ試験を終了する場合、局側装置は、ループ試験の終了を指定したループ試験制御フレームβを送信し、ループ試験制御フレームβを受信したユーザー宅側装置は、ループを解除するように制御するループ試験方法』が記載されている。 したがって、上記引用例1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が開示されている。 (引用発明1) 「 一つの局側装置に複数のユーザー宅側装置が接続されるIEEE802.3ah準拠のEPONシステムにおけるループ試験方法であって、 ループ試験を行う場合、局側装置は、ユーザー宅側装置に対してループ試験開始を指定したループ試験制御フレームαを送信し、ループ試験制御フレームαを受信したユーザー宅側装置は、自局をループ状態として、受信フレームを保守副層で折り返し処理を行うように制御するとともに、 ループ試験を終了する場合、局側装置は、ループ試験の終了を指定したループ試験制御フレームβを送信し、ループ試験制御フレームβを受信したユーザー宅側装置は、ループを解除するように制御するループ試験方法」 B.同じく原審の拒絶理由に引用された特開2004-015217号公報(以下、「引用例2」という。)には「メディアコンバータおよびこれを用いた通信システム」として、図面とともに以下の事項が記載されている。 イ.「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、メディアコンバータおよびこれを用いた通信システムに関する。 【0002】 【従来の技術】 メディアコンバータは、異なる伝送媒体(たとえば光ファイバーとメタルケーブル)を接続し、これらを通して伝送されている信号を相互に変換する装置である。 【0003】 メディアコンバータの具体例としては、たとえばメタルツイストペアケーブルを用いるIEEE802.3規格の10BASE-Tや100BASE-TX方式のイーサネット(登録商標)信号を、光ファイバを用いる100BASE-FX方式のイーサネット(登録商標)信号に変換する装置がある。 【0004】 このようなメディアコンバータを用いることで、たとえばメタルツイストペアケーブルを用いたローカルエリアネットワーク(以下LANと称する)だけでは100m程度しか信号を流せなかったものが、メディアコンバータを介在させて光ファイバに信号を流すようにすることで、最大数十kmまで伝達することが可能となる。 【0005】 このようなメディアコンバータの実用例としては、FTTH(Fiber to the home)などの光ファイバケーブルを利用した光通信の実用化、また、複数のLANを光ファイバケーブルにより接続したWANなどを挙げることができる。 【0006】 たとえばFTTHは、収容局から加入者近くの電柱までの間に光ファイバケーブルを布設し、この光ファイバケーブルの一端を加入者住宅の屋内に引き込んで屋内の通信端末に接続する。このとき、屋内の通信端末を含む周辺機器の接続はメタルケーブルのままとし、光ファイバケーブルとこの通信端末との間に、電気信号を光信号に変換するメディアコンバータを接続することで、光ファイバケーブルによる高速な通信を可能としている。このようなFTTHにおいて、メディアコンバータは局舎側と加入者側にそれぞれ設けられている。 【0007】 そして、メディアコンバータには、一方から他方の状態を確認するための仕組みが用意されている。たとえばSNMP(簡易ネットワーク管理プロトコル(Simple Network Management Protocol))はその一つである。SNMPは、メディアコンバータ、ルータ、スイッチなどといったネットワーク機器の稼働状態を遠隔操作により監視したり、設定したりするためのネットワーク管理用のプロトコルである。 【0008】 メディアコンバータにおいてもこのSNMPを用いて、局舎側メディアコンバータから保守信号と呼ばれるデータ信号とは別のフォーマットの信号を加入者側メディアコンバータに送り、加入者側メディアコンバータの稼働状況、たとえば、リンクの状況、電源のオン/オフなどを監視することができる。 【0009】 この保守信号を利用して局舎側メディアコンバータと加入者側メディアコンバータ間で折り返し試験と呼ばれる正常動作確認試験を行うことがある。 【0010】 折り返し試験は、局舎側メディアコンバータから加入者メディアコンバータへイーサネット(登録商標)信号のフレーム部分のみのデータを折り返し試験信号として送信し、加入者側メディアコンバータ内部で折り返されたこの試験信号を局舎側メディアコンバータで受信して、送信した試験信号のデータと受信した折り返し試験信号のデータを比較することで、加入者側メディアコンバータ内における折り返し点までの回線の確認を行う試験である。 【0011】 図6は、この折り返し試験の手順を示すシーケンス図である。 【0012】 まず、局舎側メディアコンバータ(局舎側MC)から折り返し試験開始要求の保守信号を加入者側メディアコンバータへ送信する(S301)。 【0013】 加入者側メディアコンバータ(加入者側MC)では、折り返し試験開始要求の保守信号を受信してこれを検知すると(S101)、内部回路を折り返し状態に設定して(S102)、その後、開始応答の保守信号を局舎側メディアコンバータへ送信する(S103)。 【0014】 局舎側メディアコンバータでは、開始応答の保守信号を受け取った後(S302)、試験信号を送信する(S303)。 【0015】 局舎側メディアコンバータから送信された折り返し試験信号は、加入者側メディアコンバータ内の折り返しが設定されている回路でそのまま折り返されて局舎側メディアコンバータで受信される(S304)。 【0016】 その後、局舎側メディアコンバータから加入者側メディアコンバータへ終了要求の保守信号を送信し(S305)、加入者側メディアコンバータは終了要求を受信して、これを検知すると(S104)、折り返し設定を解除し(S105)、終了応答の保守信号を送信する。 【0017】 局舎側メディアコンバータが終了応答を受け取って折り返し試験終了となる(S306)。 【0018】 このようにして、局舎側メディアコンバータと加入者側メディアコンバータとその間に存在する光ファイバケーブルと、遠隔に設置された加入者側メディアコンバータそのものの故障を局舎側で確認することができる。 【0019】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、折り返し試験は、その原理から、局舎側メディアコンバータから送信された試験信号が加入者側メディアコンバータ内部の折り返し点で折り返されてくるまでの伝送経路について正常であるか否かを確認することしかできない。すなわち、折り返し試験信号の伝送経路に関係しない部分については検証確認することができないのである。 【0020】 特に、加入者側メディアコンバータ内については、折り返し試験信号が流れない回路があり、そのような回路について故障の有無を確認することができないといった問題がある。そしてこれは折り返し試験で確認できない部分が多いほど、折り返し試験の信頼性が低くなるという問題となっている。 【0021】 本発明は、上記に鑑みてなされたもので、その目的としては、メディアコンバータで行わせる折り返し試験の信頼性を向上させることのできるメディアコンバータ、およびこのメディアコンバータを用いた通信システムを提供することである。」(2?4頁) ロ.「【0058】 図2は、折り返し試験を行う際の加入者側メディアコンバータ内における折り返し点を説明するための図面であり、図3は、折り返し試験の動作シーケンスを示す図面である。 【0059】 本第1の実施の形態では、加入者側メディアコンバータ1内に設定する折り返し点としては、図2に示すように、保守サブレイヤ12を設定している。 【0060】 保守サブレイヤ12を折り返し点とする場合は、たとえば、保守サブレイヤ12内にあらかじめ光ファイバ側送受信部15の受信部15bからの信号(電気信号である)をそのまま送信部15aに直結する折り返しスイッチ10を設けておいて、この折り返しスイッチ10を制御部19の制御によってオンオフさせることで、折り返し試験時にのみ信号が折り返されるように設定する。 【0061】 このように保守サブレイヤ12を折り返し点とする場合、折り返し試験信号は、MACスイッチ13、パケットバッファ14、コネクタ21、および送受信処理部11を通ること なく折り返されるため、これらの部分が正常か否かを折り返し試験により確認することができない。 【0062】 そこで、本第1の実施の形態では、SNMPエージェント18により、制御部19に組み込まれている自己診断機能を利用して、折り返し試験信号が到達しない範囲、すなわち、送受信処理部11やMACスイッチ13を折り返し試験開始要求を受けた時に診断して、その診断結果を折り返し試験信号を発信した局舎側メディアコンバータ3へ送信するようにしている。」(7?8頁) ハ.「【0079】 (第2の実施の形態) 第2の実施の形態は、加入者側メディアコンバータ内における折り返し試験の際の試験信号の折り返し点を変えた形態である。したがって、通信システムとしての加入者側メディアコンバータ1および局舎側メディアコンバータ3の構成、および通常の通信動作は前述した第1の実施の形態と同様であるので、それらの説明は省略する。 【0080】 図4は、本第2の実施の形態における折り返し点を示す図面である。 【0081】 図示するように、本第2の実施の形態では、折り返し試験信号の折り返し点として加入者側メディアコンバータ1のLAN側送受信部11に設定している。 【0082】 これにより折り返し試験信号が届かない部分は、パケットバッファ14のみとなる。」(9頁) ニ.「【0098】 このように本第2の実施の形態では、折り返し試験信号の折り返し点を加入者側メディアコンバータ1のLAN側送受信部11とし、折り返し試験信号だけではチェックすることのできないパケットバッファ14についてのみ、メモリの読み書き試験を行うことでパケットバッファ14についても折り返し試験の際にその異常を判定することができる。 【0099】 特に、本第2の実施の形態では、折り返し点を加入者側メディアコンバータ1のLAN側送受信部11としたことで、光ファイバ側送受信部15から入力された折り返し試験信号に対して加入者側メディアコンバータ1内のほとんどの部分を折り返し試験信号の経路とすることができるため、前述した第1の実施の形態のように、LAN側送受信部11やMACスイッチ13に対する自己診断機能を持たないメディアコンバータにおいてもパケットバッファ14のメモリの読み書き試験さえ行うことのできるものであれば簡単に実施することが可能である。」(11頁) 上記引用例2の記載及び関連する図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、 上記イ.【0009】、ロ.【0059】、ハ.【0079】、【0081】などの記載より、引用例2には以下の発明(以下、「引用発明2」という)が開示されているということができる。 (引用発明2) 「局舎側メディアコンバータと加入者側メディアコンバータが接続された通信システムにおいて折り返し試験を行う方法であって、 加入者側メディアコンバータ内における折り返し試験の際の試験信号の折り返し点を、保守サブレイヤからLAN側送受信部に変えて折り返し試験を行う方法」 [対比・判断] 補正後の発明と引用発明1を対比する。 まず、引用発明1の「局側装置」、「ユーザー宅側装置」、「ループ試験」は、補正後の発明の「OLT」、「ONU」、「ループバック試験」に相当し、 引用発明1の「ループ試験」も「ユーザー宅側装置」(ONU)において「折り返し処理」が行われるから、「ONUループバック試験」である。 また、引用発明1の「ループ試験制御フレームα」、「ループ試験制御フレームβ」については、 これらのフレームが、それぞれ「IEEE802.3ahにて規定された」フレームであることは、そもそも引用発明1が「IEEE802.3ah準拠のEPONシステム」における方法であって、引用例1イ.冒頭に「6.7 802.3ah の運用保守管理方式」とあり、ハ.の図6.22のタイトルが「IEEE 802.3ah 保守におけるループ試験の仕組み」とあることからも明らかであり、 「ループ試験制御」とは、英語表記すれば「Loopback Control」であり、 このような「ループ試験」が「OAM」(Operation Administration and Maintenance)と呼ばれる運用・管理・保守の一環であり、データフレームを「PDU」(Protocol Data Unit)フレームと呼ぶことも技術常識であり、特にOAM用のデータフレームが「OAMPDU」フレームと呼ばれることも同様(必要とあれば、特開2004-215271号公報【請求項1】、特開2004-312633号公報【0057】等参照)である。 結局、引用発明1の「ループ試験制御フレームα」、「ループ試験制御フレームβ」は、それぞれ補正後の発明の「IEEE802.3ahにて規定されたLoopback Control OAMPDUフレーム(以下フレームAという)」、「IEEE802.3ahにて規定されたLoopback Control OAMPDUフレーム(以下フレームBという)」に相当する。 したがって、引用発明1の「ループ試験を行う場合、局側装置は、ユーザー宅側装置に対してループ試験開始を指定したループ試験制御フレームαを送信し、ループ試験制御フレームαを受信したユーザー宅側装置は、自局をループ状態として、受信フレームを保守副層で折り返し処理を行うように制御する」は、 「OLTがONUに対してループバック試験開始指示としてIEEE802.3ahにて規定されたLoopback Control OAMPDUフレーム(以下フレームAという)を送信したときに、前記ONUは、フレームAを受信すると以降のOLTから受信するデータフレームを折り返し処理を行うように制御する」点で補正後の発明と一致する。 また同様に、引用発明1の「ループ試験を終了する場合、局側装置は、ループ試験の終了を指定したループ試験制御フレームβを送信し、ループ試験制御フレームβを受信したユーザー宅側装置は、ループを解除するように制御する」は、 「OLTがONUに対してループバック試験終了指示としてIEEE802.3ahにて規定されたLoopback Control OAMPDUフレーム(以下フレームBという)を送信したときに、前記ONUは、フレームBを受信すると以降のOLTから受信したデータフレームを折り返し処理を行わずに転送する処理を行うように制御する」点で補正後の発明と一致する。 したがって、両者は以下の点で一致し、また相違している。 (一致点) 「 一つのOLTに複数のONUが接続されるIEEE802.3ah準拠のEPONシステムにおけるONUループバック試験方法であって、 OLTがONUに対してループバック試験開始指示としてIEEE802.3ahにて規定されたLoopback Control OAMPDUフレーム(以下フレームAという)を送信したときに、前記ONUは、フレームAを受信すると以降のOLTから受信するデータフレームを折り返し処理を行うように制御するとともに、 OLTがONUに対してループバック試験終了指示としてIEEE802.3ahにて規定されたLoopback Control OAMPDUフレーム(以下フレームBという)を送信したときに、前記ONUは、フレームBを受信すると以降のOLTから受信したデータフレームを折り返し処理を行わずに転送する処理を行うように制御するONUループバック試験方法」 (相違点1) 「ONUループバック試験方法」が、補正後の発明では「故障時にユーザ設備の不良か通信事業者設備の不良かの切り分けを行うONUループバック試験方法」であるのに対し、引用発明1では単に「ループ試験方法」である点。 (相違点2) 「ループバック試験開始」時の「折り返し処理を行う」制御が、補正後の発明では「OAMサブレイヤで折り返し処理を行わずにUNI-PHYで折り返し処理を行う」制御であるのに対し、引用発明1では「保守副層で折り返し処理を行う」制御である点。 (相違点3) 「ループバック試験終了」時の「折り返し処理を行わずに転送する処理を行う」制御が、補正後の発明では「UNI-PHYで折り返し処理を行わずにUNIへ転送する処理を行う」制御であるのに対し、引用発明1は「ループを解除する」制御である点。 そこで、まず、上記相違点1の故障時の不良設備の切り分けについて検討するに、 そもそも試験とは機器などの故障時に修理や原因究明などのため行われるのは技術常識であり、引用発明1の「ループ試験」(ONUループバック試験)も同様であるが、 特に空間的に広がって配置された複数の設備からなる通信システムに於いては、通信回線自身も含め故障の原因となった不良箇所、設備の特定、切り分けが重要であることも当業者には自明なことである。 また、引用発明1の「ループ試験方法」においても、引用例1に明示はないが、通常通信事業者の所有する「通信事業者設備」である「ユーザー宅側装置」(ONU)の背後に、ユーザ自身が所有する「ユーザ設備」が存在するのは明らかである。 そして、引用発明1においても、「ユーザー宅側装置」(ONU)内の「保守副層」で折り返し処理が行われるのであるから、例えば試験結果が良好であれば、「ユーザー宅側装置」(ONU)が少なくとも部分的には正常に機能していることが判別でき、ユーザ設備の不良が故障原因である可能性が高いと判断可能であって、切り分けの精度に課題はあるにせよ、「故障時にユーザ設備の不良か通信事業者設備の不良かの切り分けを行う」ことが一応可能であるのは、これも当業者であれば明らかなことである。 したがって、補正後の発明が「故障時にユーザ設備の不良か通信事業者設備の不良かの切り分けを行うONUループバック試験方法」であるとした相違点1は格別のことではない。 なお、更に言うならば、下記に検討するように引用発明2には、「通信事業者設備」である「加入者側メディアコンバータ」のユーザに近い出口である「LAN側送受信部」において折り返すことも記載があり、一般に伝送装置内における折り返し点の位置は任意性がある(必要とあれば、特開平4-247726号公報図4参照)から、引用発明1との組み合わせにより、より確実に「通信事業者設備」である「加入者側メディアコンバータ」の正常性の判断が可能であり、より正確に「ユーザ設備の不良か通信事業者設備の不良かの切り分け」が可能となることは、当業者であれば容易に想到可能であり、この点においても相違点1は格別のことではない。 ついで、相違点2の、ループバック試験開始時の「折り返し処理を行う」制御について検討する。 引用発明2を再掲すると、「局舎側メディアコンバータと加入者側メディアコンバータが接続された通信システムにおいて折り返し試験を行う方法であって、 加入者側メディアコンバータ内における折り返し試験の際の試験信号の折り返し点を、保守サブレイヤからLAN側送受信部に変えて折り返し試験を行う方法」である。 引用発明1(補正後の発明)と引用発明2を対比すると、 引用発明1の「局側装置」(OLT)、「ユーザー宅側装置」(ONU)、「ループ試験」(ONUループバック試験)は、引用発明2の「局舎側メディアコンバータ」、「加入者側メディアコンバータ」、「折り返し試験」にあたり、引用発明1に引用発明2を組み合わせるに特段の阻害要因はない。 その場合に、引用発明2の「保守サブレイヤ」は引用発明1の「保守副層」であって、補正後の発明の「OAMサブレイヤ」相当であり、 引用発明2の「LAN側送受信部」は、LAN(Local Area Network)即ちユーザ網側のインタフェース部であるから「UNI」(User Network Interface)側にあり、「送受信部」であるから物理層(Phyisical Layer:PHY)の機能部分であって、「UNI-PHY」に相当する部分である。 結局、引用発明1に引用発明2を組み合わせることにより、引用発明1の「保守副層」(OAMサブレイヤ)での折り返し処理に変えて、「LAN側送受信部」(UNI-PHY)において折り返し処理を行うことが可能となることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。 したがって、ループバック試験開始時の折り返し制御に関して、「OAMサブレイヤで折り返し処理を行わずにUNI-PHYで折り返し処理を行う」制御とすることは、引用発明1に引用発明2を組み合わせることにより、当業者であれば容易に想到し得たことであって、相違点2は格別のことではない。 同様に、相違点3の、ループバック試験終了時の「折り返し処理を行わずに転送する処理を行う」制御について検討すると、 上記相違点2の判断において検討したように、引用発明1に引用発明2を組み合わせることにより、ループバック試験は「UNI-PHYで折り返し処理を行う」制御となっていたのであるから、この場合、ループバック試験終了時に「ループを解除する」制御とは、「UNI-PHYで折り返し処理を行わずに(本来の方向に)転送する処理」に戻す制御のこととなり、ここにおける「本来の方向」とは、OLT側から到来するデータフレームについてみれば、「UNI」へ転送する方向となるのは当然のことである。 したがって、ループバック試験終了時の「折り返し処理を行わずに転送する処理を行う」制御を、「UNI-PHYで折り返し処理を行わずにUNIへ転送する処理を行う」制御とすることは、これも引用発明1に引用発明2を組み合わせることにより、当業者であれば容易に想到し得ることであって、相違点3も格別のことではない。 また、補正後の発明が奏する効果も前記引用発明1,2から容易に予測出来る範囲内のものである。 そして、当審の審尋に対する回答書を参酌しても、上記認定を覆すに足りるものは見あたらない。 特に、審判請求人が審尋回答書において提示する補正案に追加された構成要件である「Information OAMPDUフレーム」についても、引用例1の上記ニ.に「インフォメーション・フレーム」として開示のあることである。 よって、補正後の発明は引用発明1,2に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.結語 以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、 平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合していない。 したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 1.本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は上記「第2.補正却下の決定」の項中の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。 2.引用発明 引用発明1,2は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の[引用発明]で認定したとおりである。 3.対比・判断 そこで、本願発明と引用発明1とを対比するに、本願発明は上記補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項で検討したとおり、引用発明1,2に基づいて容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、容易に発明できたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、上記引用発明1,2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-08-28 |
結審通知日 | 2012-08-30 |
審決日 | 2012-09-11 |
出願番号 | 特願2006-287172(P2006-287172) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H04L)
P 1 8・ 575- Z (H04L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田畑 利幸 |
特許庁審判長 |
石井 研一 |
特許庁審判官 |
萩原 義則 藤井 浩 |
発明の名称 | EPONシステムにおけるONUループバック試験方法、およびループバック試験機能を有するONU |
代理人 | 本山 泰 |
代理人 | 豊田 義元 |
代理人 | 本山 泰 |
代理人 | 豊田 義元 |
代理人 | 豊田 義元 |
代理人 | 本山 泰 |
代理人 | 豊田 義元 |
代理人 | 本山 泰 |