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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04J
管理番号 1265275
審判番号 不服2011-443  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-07 
確定日 2012-10-24 
事件の表示 特願2003-563123「フルチャネル状態情報(CSI)多入力多出力(MIMO)システムのための余剰電力の再分配」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月31日国際公開、WO03/63384、平成18年 2月 2日国内公表、特表2006-504287〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2003年1月22日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2002年1月23日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年9月1日に拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年1月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。

第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年1月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の平成22年1月8日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項25に記載された、

「【請求項25】
無線通信システムにおいて、送信電力を、複数の送信チャネルに分配する方法であって、
送信電力を分配すべき送信チャネルからなるセットを識別することと、
前記送信チャネルに分配するのに使用できる総送信電力を決定することと、
特定の分配スキームに基づいて、前記総送信電力を、前記セット内の送信チャネルに分配することと、
前記送信チャネルに分配された送信電力に部分的に基づいて、余剰なスペクトル効率を決定することと、
1つまたは複数の送信チャネルに、前記余剰なスペクトル効率を低減し、特定の不連続なデータレートと関連付けられている好適な動作点を実現するための低減された量の送信電力を再分配することと
を備える方法。」

という発明(以下、「本願発明」という。)を、補正後の特許請求の範囲の請求項23に記載された、

「【請求項23】
無線通信システムにおいて、送信電力を、複数の送信チャネルに分配する方法であって、
送信電力を分配すべき送信チャネルからなるセットを識別することと、
前記送信チャネルに分配するのに使用できる総送信電力を決定することと、
特定の分配スキームに基づいて、前記総送信電力を、前記セット内の送信チャネルに分配することと、
前記送信チャネルに分配された送信電力に部分的に基づいて、余剰なスペクトル効率を決定することと、
1度に、スループットにおける最高のゲインに対応した1つの送信チャネルに対してなされるように、1つまたは複数の送信チャネルに、前記余剰なスペクトル効率を低減し、特定の不連続なデータレートと関連付けられている好適な動作点を実現するための低減された量の送信電力を再分配することとを備える方法。」

という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項25に記載された「再分配する」ことに関し、「1度に、スループットにおける最高のゲインに対応した1つの送信チャネルに対してなされるように、」という構成を付加することにより特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項(補正の目的)の規定に適合している。

3.独立特許要件について
上記本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。

(2)引用発明
原審の拒絶理由に引用された、特開2000-358008号公報(以下、「引用例」という。)には「通信装置および通信方法」として図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、複数のトーンにデータを割り当ててデータ通信を行うDMT(Discrete MultiTone)変復調方式等のマルチキャリア変復調方式によりデータ通信を行うようにした通信装置および通信方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、有線系ディジタル通信方式における変復調方式として、DMT変復調方式やOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex)変復調方式等のマルチキャリア(マルチトーン)通信方式が提案されている。図19はDMT変復調方式におけるビット割り当ての動作を示す説明図である。各トーンに割り当てられるビット数はSN比によって決められるが、割り当てビット数は整数値しか取ることができないため、割り当てビット数の小数点以下を切り捨てた値を割り当てビット数としていた。」(2頁2欄)

ロ.「【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上述の従来のマルチキャリア変復調方式における各キャリア(トーン)へのビット割り当てでは、割り当てビット数は整数値しか取ることができないため、割り当てビット数の小数点以下を切り捨てた値を割り当てビット数としていた。したがって、図19に示すように、上記(17)式により求められた小数点以下を切り捨てたビット数を割り当てるには、使用送信電力よりも少ない必要最小限の送信電力しか必要としないため、使用送信電力と必要最小限の送信電力との差分は無駄に消費していたという問題点があった。
【0009】この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、複数のキャリア(トーン)にデータを割り当ててデータ通信を行うマルチキャリア変復調方式により通信を行う場合に、各キャリアに対して送信電力を効率良く使用して送信電力当りの伝送効率を向上させることのできる通信装置及び通信方法を提供することを目的とする。」(3頁3欄)

ハ.「【0023】本実施の形態1では、平均送信電力をQとして、Q±qの制限範囲内で送信電力を変化させる場合について説明する。また、割り当てることができる最大ビット数をbmax、割り当てることができる最小ビット数をbminとする。」(4頁6欄)

ニ.「【0040】(3)送信電力をQとした場合における割り当てビット数がbmax以上のトーンの処理(図8参照)
上記(1)及び(2)で抽出した以外のトーンにおいて、送信電力をQ=-40dBm/Hzとした場合に割り当てビット数がbmax=15ビット以上あるトーンについては、送信電力Q=-40dBm/Hzで最大割り当てビット数bmax=15ビットを割り当てることができる。これらのトーンについては、bmax=15ビットを割り当てるのに必要最小限の送信電力を使用し、割り当てビット数をbmax=15ビットに決定する。これによりトーン当り{Q-(bmaxを割り当てるのに必要最小限の送信電力)}dBmの送信電力が余剰となり、これを他のトーンに配分することができる。以下に算出方法を図8のフローチャートを用いて説明する。
【0041】(3-1)トーンの抽出
○1トーンの抽出
図9に示すように、送信電力をQ=-40dBm/Hzとした場合に割り当てビット数がbmax=15ビット以上あるトーンを抽出する(ステップS31)。まず、SN比を求める。SN比SNRは、送信電力Qに対する伝送線路減衰量Lossと外来ノイズPSDの比から求める。このときのSN比SNRは(6)式のようになる。この(6)式は従来の技術における(16)式と同一である。
【0042】

【0043】次に、上記で求めた各トーン毎のSNRをもとに、各トーンへの割り当てビット数btを前記(2)式より算出する。割り当てビット数の小数点以下は残す。そして、btがbmax=15ビット以上のトーンを抽出する。
○2送信電力Q3の算出
抽出したトーンについて、ビット数bmaxを割り当てるのに必要最小限の送信電力Q3を算出する(ステップS32)。図10に示すように、上記(2)式及び(6)式から、bt=bmax=15ビットとするとビット数bmaxを割り当てるのに必要最小限の送信電力Q3は(7)式のようになる。
【0044】

【0045】(3-2)割り当てビット数及び送信電力の決定
○1必要最小限の送信電力がQ-q未満のトーンの場合
図10に示すように、必要最小限の送信電力がQ-q=-42.5dBm/Hz未満のトーンの場合はその該当トーン数を算出し、送信電力をQ-q=-42.5dBm/Hzに、割り当てビット数をbmax=15ビットに決定する(ステップS33)。必要最小限の送信電力がQ-q=-42.5dBm/Hz未満のトーン数をn3個とする。
○2上記以外のトーンの場合
図10に示すように、上記以外のトーンの場合は、割り当てビット数をbmax=15ビットに、送信電力をビット数bmax=15ビットを割り当てるのに必要最小限の送信電力Q3に決定する(ステップS34)。
【0046】(3-3)他のトーンに配分可能な余剰送信電力Qy3を算出図10に示すように、ステップS32で算出した送信電力Q3及びステップS33で算出したトーン数n3から他のトーンに配分可能な余剰送信電力Qy3は(8)式のようになる(ステップS35)。
【0047】

」(5頁7欄?6頁9欄)
(審決注:『○1』、『○2』は、原文では、丸付き数字の1、丸付き数字の2である。)

ホ.「【0048】(4)上記(1)?(3)で抽出したトーン以外のトーンの仮決定処理(図11参照)
上記(1)?(3)で抽出したトーン以外のトーンにおいて、送信電力をQ=-40dBm/Hzとした場合に算出した割り当てビット数を小数点以下切り捨て処理を行って整数化し、その整数化されたビット数を割り当てるのに必要最小限の送信電力を仮に使用する。これによりトーン当り{Q-(整数化されたビット数を割り当てるのに必要最小限の送信電力)}dBmの送信電力が余剰となり、これを他のトーンに配分することができる。以下に算出方法を図11のフローチャートを用いて説明する。
【0049】(4-1)割り当てビット数及び送信電力の算出
○1小数点以下切り捨てによる割り当てビット数の算出
図12に示すように、送信電力をQ=-40dBm/Hzとして割り当てビット数を小数点以下切り捨てにより算出する(ステップS41)。まず、SN比を求める。SN比SNRは、送信電力Qに対する伝送線路減衰量Lossと外来ノイズPSDの比から求める。このときのSN比SNRは前記(6)式から求まる。次に、上記で求めた各トーン毎のSNRをもとに、各トーンへの割り当てビット数btを(9)式より算出する。割り当てビット数の小数点以下は切り捨てる。なお、式中における添字tはトーン番号を表す。
【0050】

【0051】○2送信電力Q4の算出
小数点以下切り捨てにより整数化されたビット数を割り当てるのに必要最小限の送信電力Q4を算出する(ステップS42)。図13に示すように、上記(1)式(2)式から、小数点以下切り捨てにより整数化されたビット数を割り当てるのに必要最小限の送信電力Q4は(10)式のようになる。
【0052】

【0053】(4-2)割り当てビット数及び送信電力の仮決定
○1必要最小限の送信電力がQ-q未満のトーンの場合
図13に示すように、必要最小限の送信電力がQ-q=-42.5dBm/Hz未満のトーンの場合(ステップS43でYes)、その該当トーン数を算出し、送信電力をQ-q=-42.5dBm/Hzに、割り当てビット数をその整数化されたビット数に仮決定する(ステップS44)。必要最小限の送信電力がQ-q=-42.5dBm/Hz未満のトーン数をn4個とする。
○2上記以外のトーンの場合
図13に示すように、上記以外のトーンの場合(ステップS43でNo)、割り当てビット数をその整数化されたビット数に、送信電力を整数化されたビット数を割り当てるのに必要最小限の送信電力Q4に仮決定する(ステップS45)。
【0054】(4-3)他のトーンに配分可能な余剰送信電力Qy4を算出図13に示すように、ステップS42で算出した送信電力Q4及びステップS44で算出したトーン数n4から他のトーンに配分可能な余剰送信電力Qy4は(11)式のようになる(ステップS46)。
【0055】

」(6頁9欄?10欄)
(審決注:『○1』、『○2』は、原文では、丸付き数字の1、丸付き数字の2である。)

ヘ.「【0067】(7)余剰送信電力の再配分処理(図18参照)
上記(5)で算出したビット数を+1加算するのに必要な追加送信電力ΔQの昇順に、(6)で集計した余剰送信電力を配分する。配分されたトーンの割り当てビット数は+1加算されることになる。これにより、ビット数を+1加算するのに必要な追加送信電力ΔQが少ないトーンから順に配分されていくので、効果の高いトーン、つまり少ない追加送信電力で+1ビット加算可能なトーンから配分される。以下に配分法を図18のフローチャートを用いて説明する。
【0068】上記(5)で算出したビット数を+1加算するのに必要な追加送信電力ΔQの昇順にトーンを並べる(ステップS71)。このとき対象となる追加送信電力ΔQは、少数点以下切り捨てにより整数化されたビット数btに+1加算するのに必要な追加送信電力である。
【0069】+1ビット加算するのに必要な追加送信電力ΔQが最小のトーンに対して、(6)で算出した余剰送信電力Qysumを配分する(ステップS72)。
【0070】余剰送信電力が無くなった場合(ステップS73でNo)、余剰送信電力の各トーンへの配分を終了する(ステップS74)。
【0071】また、上記(5)のトーン全てに配分し終わって余剰送信電力が残っている場合(ステップS73でYesかつステップS75でNo)、残っている余剰送信電力を任意のトーンに送信電力がQ+q=-37.5dBm/Hzを越えないよう配分する(ステップS76)。この余剰送信電力の配分は、全トーンの平均送信電力をQにするために行うものであり、割り当てビット数は増加しない。
【0072】そして、余剰送信電力が存在し、配分し終わっていないトーンが存在する場合(ステップS73でYesかつステップS75でYes)、余剰送信電力を配分したトーンに、更に+1ビット加算するのに必要な追加送信電力ΔQが存在するか否かを判断する(ステップS77)。余剰送信電力を配分したトーンに、更に+1ビット加算するのに必要な追加送信電力ΔQが存在する場合(ステップS77でYes)、この追加送信電力ΔQを対象に含めて(ステップS78)再度追加送信電力ΔQの昇順にトーンを並べる(ステップS71)。そして、+1ビット加算するのに必要な追加送信電力ΔQが最小のトーンに対して、(6)で算出した余剰送信電力を配分する(ステップS72)。余剰送信電力を配分したトーンに、更に+1ビット加算するのに必要な追加送信電力ΔQが存在しない場合(ステップS77でNo)、余剰送信電力を配分したトーンを除いて(ステップS79)+1ビット加算するのに必要な追加送信電力ΔQが最小のトーンに対して、(6)で算出した余剰送信電力を配分する(ステップS72)。これを繰り返す。」(7頁11欄?8頁13欄)

上記イ.?ヘ.の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、
上記イ.及びロ.のように、引用例には、複数のキャリア(トーン)にデータを割り当ててデータ通信を行う有線系のマルチキャリア通信方式について記載されている。
上記ハ.乃至ホ.に記載のように、まず、マルチキャリア通信方式に用いられる複数のキャリアのそれぞれのキャリアに平均送信電力Qが配分される。ここで、配分対象である前記複数のキャリアをシステムが識別しているのは自明である。
上記ニ.及びホ.に記載のように、送信電力をQとしたとき各キャリアへの割り当てビットが計算されるが、最大割り当てビット数bmax=15以上となる場合には、キャリアに最大割り当てビット数が割り当てられることになり、最大割り当てビット数を超えた割り当てビット分の送信電力が余剰となり、この余剰電力は他のキャリアに再配分される。また、最大割り当てビット数以下の場合には、割り当てビット数の小数点以下は切り捨てられ、整数化されたビット数がキャリアに割り当てられることになり、切り捨てられた小数部分の送信電力が余剰となり、この余剰電力は他のキャリアに再配分される。
すなわち、引用例では、割り当てることができる最大ビット数以上の割り当てビットや割り当てビットの小数部分を決定し、割り当てることができる最大ビット数以上の割り当てビットや割り当てビットの小数部分を低減し、低減による余剰の送信電力を再配分しているといえる。
上記ヘ.に記載のように、余剰の送信電力は、割り当てビット数を1ビット加算するのに必要な追加送信電力が少ないキャリア順に再配分されており、また、【図18】に示されるように、一回の処理(ループ)で1つのキャリアに対して再配分が行われている。

したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。

(引用発明)
「有線マルチキャリア通信方式において、送信電力を、複数のキャリアに配分する方法であって、
送信電力を配分すべき複数のキャリアを識別することと、
平均送信電力Qを通信に用いられる複数のキャリア内のキャリアにそれぞれ配分することと、
前記複数のキャリアに配分された平均送信電力Qに基づいて、割り当てることができる最大ビット数以上の割り当てビットや割り当てビットの小数部分を決定することと、
一回の処理において、割り当てビットを1ビット加算するのに必要な追加送信電力が最小となるキャリアに対してなされるように、1つまたは複数のキャリアに、前記割り当てることができる最大ビット数以上の割り当てビットや割り当てビットの小数部分を低減し、最大ビット数のビットや整数値のビットとなるための低減された量である余剰の送信電力を再配分することと
を有する方法。」

(3)対比・判断
引用発明の「有線マルチキャリア通信方式」は、有線の通信方式であり無線の通信方式ではない点で補正後の発明と相違するものの、補正後の発明と「通信システム」である点で共通する。
引用発明の「キャリア」は、データを送信する経路となるものであるから、補正後の発明の「通信チャネル」に相当する。
引用発明の「配分」と補正後の発明の「分配」は同義である。
引用発明の「複数のキャリア」は、「セット」であるといえる。
引用発明の「平均送信電力Qを通信に用いられる複数のキャリア内のキャリアにそれぞれ配分することと、」は、平均送信電力Qを配分するという『特定の配分スキーム』に基づいて配分しているものといえるから、引用発明が「送信チャネルに分配するのに使用できる総送信電力」を配分しているか不明である点を除き、補正後の発明と「特定の分配スキームに基づいて、所定の送信電力を、前記セット内の送信チャネルに分配することと、」の点で共通する。
引用発明において、キャリアに割り当てることのできる「割り当てビット」は、キャリアが単位時間当たりに同時に送信できるビット数にあたり、所定の送信周波数のキャリアにおけるデータレートを表すものであるといえるから補正後の発明の「スペクトル効率」に相当する。このことから、引用発明の「割り当てることができる最大ビット数以上の割り当てビットや割り当てビットの小数部分」は、補正後の発明の「余剰なスペクトル効率」に相当する。
引用発明の「一回の処理」は補正後の発明の「1度に」に相当する。
引用発明の「割り当てビットを1ビット加算するのに必要な追加送信電力が最小となるキャリア」は、補正後の発明の「スループットにおける最高のゲインに対応した1つの送信チャネル」と「特定の1つの送信チャネル」である点で共通する。
引用発明の「最大ビット数のビットや整数値のビット」は、上述のとおりキャリアが単位時間当たりに同時に送信できるビット数であるから、データレートに関連があり、送信可能な整数値のみをとることから不連続なデータレートとなる。このことから引用発明の「最大ビット数のビットや整数値のビットとなるための低減された量である余剰の送信電力を再配分」は補正後の発明の「特定の不連続なデータレートと関連付けられている好適な動作点を実現するための低減された量の送信電力を再分配」に相当する。

したがって、補正後の発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「通信システムにおいて、送信電力を、複数の送信チャネルに分配する方法であって、
送信電力を分配すべき送信チャネルからなるセットを識別することと、
特定の分配スキームに基づいて、所定の送信電力を、前記セット内の送信チャネルに分配することと、
前記送信チャネルに分配された送信電力に部分的に基づいて、余剰なスペクトル効率を決定することと、
1度に、特定の1つの送信チャネルに対してなされるように、1つまたは複数の送信チャネルに、前記余剰なスペクトル効率を低減し、特定の不連続なデータレートと関連付けられている好適な動作点を実現するための低減された量の送信電力を再分配することとを備える方法。」

(相違点)
(1)「通信システム」に関し、補正後の発明では、「無線通信システム」であるのに対し、引用発明では、「有線マルチキャリア通信方式」であり有線通信である点。
(2)「所定の通信電力」に関し、補正後の発明では「送信チャネルに分配するのに使用できる総送信電力」を決定しておき、該総送信電力を分配するのに対し、引用発明では平均送信電力Qがどのように決定されて分配されたのか不明である点。
(3)「特定の1つの送信チャネル」に関して、補正後の発明では、「スループットにおける最高のゲインに対応した1つの送信チャネル」であるのに対し、引用発明では、「割り当てビットを1ビット加算するのに必要な追加送信電力が最小となるキャリア」である点。

そこで、上記相違点について検討する。
まず、上記相違点(1)について検討する。
引用発明の「有線マルチキャリア通信方式」は、引用例において、DMT(Discrete MultiTone)変復調方式やOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex)変復調方式等のマルチキャリア(マルチトーン)通信方式であるとされているが、複数の無線チャネルを利用したマルチキャリア変復調方式であるOFDM無線通信システムは例を示すまでもなく周知であり、引用発明の通信システムを「無線通信システム」とすることは当業者が容易に実施し得るものにすぎない。
したがって、相違点(1)は格別なものでない。

ついで、上記相違点(2)について検討する。
引用発明では、送信チャネルである複数のキャリアにそれぞれ平均送信電力Qを分配するようにしているが、引用例には平均送信電力Qがどのように決定されたのかについての記載がない。
しかしながら、原審の拒絶理由に引用された特許第3082756号公報の段落【0059】?【0068】に記載されるように、総送信電力を決定し、当該総送信電力を複数のチャネルに電力配分する技術は周知であり、当業者であれば、引用発明の各キャリアに分配される平均送信電力Qを総送信電力から決定することを容易に為すものである。
したがって、相違点(2)も格別なものでない。

最後に、上記相違点(3)について検討する。
引用発明では、割り当てビット数を1ビット加算するのに必要な追加送信電力が少ないキャリア順に1つのキャリアに対して余剰の送信電力を再配分している。
ここで、『割り当てビットを1ビット加算する』ことは、単位時間当たりに送信できるビットを1ビット増加させることであるからスループットが上げることになる。そして、その1ビット加算するのに必要な追加送信電力が少ないということは、前記スループットを最も効率的に上げられるということである。このような追加の送信電力が少なくて済む1つのキャリアは、補正後の発明の「スループットにおける最高のゲインに対応する1つの送信チャネル」に相当する。
このように、引用発明の「割り当てビット数を1ビット加算するのに必要な追加送信電力が少ないキャリア」は、補正後の発明の「スループットにおける最高のゲインに対応した1つの送信チャネル」と格別の差異がない。
したがって、相違点(3)は格別なものでない。

そして、補正後の発明に関する作用・効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

以上のとおりであるから、上記補正後の発明は上記引用発明及び周知技術に基いて容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、平成18年法律第55号附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2.補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明及び周知技術
引用発明及び周知技術は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「(2)引用発明」及び「(3)対比・判断」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は上記補正後の発明から、当該補正に係る構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に当該補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明及び周知技術に基いて容易に発明することができたものであるから、上記補正後の発明から当該補正に係る限定を省いた本願発明も、同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-23 
結審通知日 2012-05-29 
審決日 2012-06-11 
出願番号 特願2003-563123(P2003-563123)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04J)
P 1 8・ 575- Z (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菊地 陽一橘 均憲太田 龍一  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 新川 圭二
神谷 健一
発明の名称 フルチャネル状態情報(CSI)多入力多出力(MIMO)システムのための余剰電力の再分配  
代理人 河野 直樹  
代理人 河野 哲  
代理人 勝村 紘  
代理人 堀内 美保子  
代理人 白根 俊郎  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 砂川 克  
代理人 市原 卓三  
代理人 峰 隆司  
代理人 中村 誠  
代理人 佐藤 立志  
代理人 福原 淑弘  
代理人 村松 貞男  
代理人 竹内 将訓  
代理人 野河 信久  
代理人 岡田 貴志  
代理人 山下 元  

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