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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41F
管理番号 1265549
審判番号 不服2011-17585  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-12 
確定日 2012-10-31 
事件の表示 特願2006-548461「凹版印刷機用インキ供給システム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月25日国際公開、WO2005/077656、平成19年 7月 5日国内公表、特表2007-517692〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2005年1月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理:2004年1月15日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成18年7月14日付けで国内書面及び特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書が提出され、平成23年4月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月12日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2 本願発明
本願請求項1ないし20に係る発明は、平成18年7月14日付け特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書の特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「凹版印刷機用インキ供給システムであって、少なくとも、彫刻された選択的インキ供給胴(5;13;34,35,36,37)の表面にインキ供給するためのダクト(1,10)を備え、該選択的インキ供給胴(5;13;34,35,36,37)は、その表面に直接彫刻された彫りこみを有し、該彫刻された選択的インキ供給胴は次いで、レリーフ(18;22;25)を有するシャブロンローラ(17;21;24;40,41,42,43)を介して前記凹版印刷機の版胴(16;23;28;39)の表面にインキ供給し、該選択的インキ供給胴(5;13;34,35,36,37)の彫り込み及び該シャブロンローラ(17;21;24;40,41,42,43)のレリーフ(18;22;25)が該版胴(16;23;28;39)上のインキ供給されるべき彫り込み(27;38)に対応しており、前記インキ供給システムがさらに、前記選択的インキ供給胴の表面を拭き取ると共に該拭き取られたインキを前記ダクト(1;10)内に回収するための拭取システム(8,9)を備えるインキ供給システム。」

3 引用刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された特開昭61-61856号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載が図とともにある(摘記に際し、現代仮名使いに修正したところがある。下線は審決にて付した。以下同じ。)。
ア 「周面に凹版が装着された凹版胴と、前記凹版の表面に周面を対接させたパタンローラと、周面をこのパタンローラの周面に対接させたインキ壺ローラとを備えた凹版印刷機において、前記インキ壺ローラを、その外径が前記パタンローラの凸状着肉部外径とほぼ同径となるように設定するとともに、このインキ壺ローラの表面に、軸線方向と円周方向との両方向に対して前記凹版面の凹部の深浅とほぼ対応する深さのインキ保持用凹部を形成したことを特徴とする凹版印刷機。」(特許請求の範囲)
イ 「本発明は以上のような点に鑑みなされたものでインキ壺ローラの外径をパタンローラの凸状着肉部外径とほぼ同径となるように設定してその表面に軸線方向と円周方向との両方向に対して凹版版面の凹部の深浅とほぼ対応する深さのインキ保持用凹部を形成することにより、凹版版面へのインキの与え方を過不足なく効率的なものとし、またワイピングローラによる拭き取りインキ量を減少させることを可能にしてインキ消費量の節減とワイピング性能の向上を計った凹版印刷機を提供するものである。以下、本発明の実施例を図面に基いて詳細に説明する。」(第2頁右下欄第6?17行)
ウ 「符号36で示すものは圧胴26と同じく3倍径を有する凹版胴であって、その周面には3個の凹版37が装着されており、各凹版37には印刷対象物の一例として示す紙幣の絵柄が凹状画線部として例えば8行、4列計32個設けられている。この凹状画線部には、浅彫り部分と深彫り部分とが絵柄にしたがって配されており、紙幣の場合、凹状画線部の深さが例えば40μ?180μ程度の範囲に設定分布されている。そしてこの凹版37の表面と圧胴26の周面とは、例えば線圧で1200kg/cm前後、面圧で約4.1kg/mm^(2)程度という強大な印圧が得られるように圧接されている。
凹版胴36の凹版37表面には、凹版胴36のほぼ1/3径を有する3個のパタンローラ38の周面が対接されており、その周面には紙幣の印刷行数に相当する8個の凸部38aが彫刻によって設けられている。この凸部38aは、凹版37の凹状画線部よりも一廻り大きく形成されており、例えばセピア色の場合、凹状画線部が第2図のパタン(B)1Bとしての肖像であるのに対し、凸部38aは第2図の鎖線で囲んだ大きさとなっている。凸部38a以外の非画線部は彫刻により削り落されて凹版37と接触しないように平面状となっている。
各パタンローラ38の周面には、その凸部38aの合計周長とほぼ同周長を有する壺ローラ39が対接されており、その周面に先端を対接させて傾斜するインキブレード40と、その両側開口部を閉塞する三角形板状のインキせき41と、パタンローラ38の周面とで樋状のインキ壺42が形成されていて、各インキ壺42内には、3色のインキ43が蓄えられている。44はインキブレード40の歪を調節する複数個の調節ねじであって、一部を示すインキ壺台45に進退自在に螺入されてローラ軸方向に並設されている。」(第3頁右上欄第17行?右下欄第11行)
エ 「そして、本装置においては、インキ壺ローラ39の周面にパタンローラ38の凸部38aと軸線方向および円周方向の両方向に対して合致するインキ保持用の凹部39aが形成されており、その構成について以下説明する。すなわち、紙幣印刷の場合、紙幣1枚分のサイズの凹版校正刷機で印刷された校正刷見本や、あるいは本機で印刷された大判の校正刷見本等を紙幣1枚分の大きさで写真にとり、この写真の凹版画線の深さや密集度すなわち凹版37のインキ必要量に合わせて例えば墨汁を用い手作業にて淡い墨の部分、中間部、濃い墨の部分というように階調を持たせて明暗をつけ原稿を作る。次にグラビア製版に広く用いられている電子彫刻機の原稿セットドラムに前記原稿または前記同様に修正後の写真透明原稿をセットし、グラビアシリンダセット部に壺ローラ39をセットする。そして、実際の面付数と位置間寸法および0.2?2%程度を適当とする同方向の拡大率と、40?70本/吋程度を適当とするスクリン線数を設定してテンキーを用いてマニュアルで入力し、フィルムなしで原稿から壺ローラ周面へ直接自動的に彫刻することにより、第5図に拡大斜視図を示すように凹版37の画線部に対応したインキ保持用の凹部39aが形成される。したがってインキを大量に必要とする深い画線には大きく深い凹部39aができ、またヘアラインと呼ばれる浅い細線部には浅い小さな凹部39aができる。中間調は原稿の明暗差に応じて機械のスキャニングヘッドが読み取り、制御盤内部のコンピュータが分析し、凹部39aの大きさを瞬時に決定しながら連続して原稿の明暗差に応じた様々の大きさと深さの凹部39aを構成していく。このようにして出来上がった壺ローラ39の周面は、凹版37上の印刷面すなわち画線部と非画線部の別、画線部の階調性、面付精度等凹版37の諸条件を反映し全く凹版39に対応したローラ周面となって印刷上の種々の条件や情報が盛り込まれた結果として完成する。第6図はパタンローラ38の周面を示す拡大斜視図であって、43Aは壺ローラ39の凹部39aからパタンローラ38の周面凸部38aへ転移したインキを示している。」(第3頁右下欄第12行?第4頁右上欄第12行)
オ 「凹版胴36の斜め下方には、これと同方向に回転するワイピングローラ46が逆方向に移動する互の周面を対接させて軸架されており、その下方には、洗浄液47が蓄えられたワイピングタンク48が配設されている。49はワイピングローラ46とともに洗浄液47内に浸漬された複数個のブラッシであって、ワイピングローラ46が凹版37の表面から拭き取った余剰インクを洗浄液47で洗い落すように構成されており、また、ワイピングローラ46の周面には付着した洗浄液を掻き落すドクタブレード50が対接されている。」(第4頁右上欄第13行?左下欄第3行)
カ 「以上のように構成された凹版印刷機の動作を、紙幣印刷を例にとって説明する。給紙装置21の紙積台22上に積載された紙23は、サッカ装置で1枚ずつ吸引されて差板24上へ送り出され、スイング装置25の咥え爪に咥えられてその揺動により搬送されたのち、渡し胴27の咥え爪29を経て圧胴26の咥え爪28に咥え替えられる。咥え替えられた紙23は圧胴26の回転によってその周面に巻付けられ、凹版胴36との間を大きな印圧を加えられながら通過する。一方、インキ壺42内に蓄えられたインキ43は、壺ローラ39の回転によりその周面とインキブレード40とのすき間から流出し、壺ローラ39の凹部39a内に詰込まれて保持される。保持されたインキ23は、両ローラ38,39の回転によりパタンローラ38の凸部に転移し、第6図に符号43Aで示すように凹版37の画線部に対応した濃淡を有するインキが付着する。第7図は「一」という漢字を例にとって示す凹部39aと凹版画線部との説明図であって、実線51は凹版37の凹状画線部を示しており、壺ローラ39の凹部39aは、凹状画線部51に対応してこれよりもやや広範囲であるとともにその深さは凹版凹部の深浅とほぼ対応するように形成されている鎖線52は、パタンローラ38周面に転移されたパタンを示している。こうしてパタンローラ38の凸部38aに転移したインキ43A(審決注:「インキ23A」は「インキ43A」の誤記であることは明らかなので、修正して摘記した。)は、凹版胴36の回転により凹版胴36の凹状画線部に詰め込まれ、凹状画線部周囲の平面部には、第7図に鎖線52で示すような余剰のインキが付着する。この余剰インキは、凹版胴36と周面をスリップさせながら回転するワイピングローラ46によって拭き取られ、ワイピングローラ46を過ぎた凹版37には、凹状画線部内のインキだけが残る。このインキは、圧胴26と凹版胴36との間を通過する紙23に強大な印圧下で転移して凹版印刷が施される。印刷された紙23は圧胴26の咥え爪28から排紙爪34に咥え替えられ、排紙チェーン33の走行とともに搬送されて搬送終端部で咥えから解放されたのち落下して紙積台35上へ積載される。なお、本装置の場合、インキブレード40はインキ量を各セクションごとに調節するものではないから、従来のインキブレードよりも厚く剛性が大きくなるように形成されており、また、調節ねじ44はインキ量調節用ではなくインキブレード40の歪取り用であるから、従来よりもその本数が半分以下でよい。
このような凹版印刷においては、機械に装備されている位置合わせ調節機構を用いて壺ローラ39を凹版胴36に対し円周方向と軸線方向とに見当合わせを行ない、またインキブレード40と壺ローラ39の周面とのすき間を0.03?0.05m/m程度の寸法で左右均等に調節したのち印刷作業を行なえば、調節ねじ44を調節しなくても、凹版37の画線部に対応したインキが供給され、ワイピングローラ46で拭き取るインキ量が従来よりも遙かに少なくなる。」(第4頁左下欄第4行?第5頁左上欄末行)

上記記載及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「周面に凹版が装着された凹版胴と、前記凹版の表面に周面を対接させたパタンローラと、周面をこのパタンローラの周面に対接させたインキ壺ローラとを備えた凹版印刷機において、前記インキ壺ローラを、その外径が前記パタンローラの凸状着肉部外径とほぼ同径となるように設定するとともに、このインキ壺ローラの表面に、軸線方向と円周方向との両方向に対して前記凹版面の凹部の深浅とほぼ対応する深さのインキ保持用凹部を形成した凹版印刷機であって、
凹版37には印刷対象物の一例として示す紙幣の絵柄が凹状画線部として例えば8行、4列計32個設けられており、
パタンローラ38の周面には紙幣の印刷行数に相当する8個の凸部38aが彫刻によって設けられ、この凸部38aは、凹版37の凹状画線部よりも一廻り大きく形成されており、
壺ローラ39の周面に先端を対接させて傾斜するインキブレード40と、その両側開口部を閉塞する三角形板状のインキせき41と、パタンローラ38の周面とで樋状のインキ壺42が形成されていて、各インキ壺42内には、インキ43が蓄えられ、インキブレード40の歪を調節する複数個の調節ねじ44がインキ壺台45に進退自在に螺入されてローラ軸方向に並設されており、
壺ローラ周面へ直接自動的に彫刻することにより、凹版37の画線部に対応したインキ保持用の凹部39aが形成され、
凹版胴36の斜め下方には、これと同方向に回転するワイピングローラ46が逆方向に移動する互の周面を対接させて軸架されており、その下方には、洗浄液47が蓄えられたワイピングタンク48が配設されており、
インキブレード40と壺ローラ39の周面とのすき間を0.03?0.05m/m程度の寸法で左右均等に調節し、インキ壺42内に蓄えられたインキ43は、壺ローラ39の回転によりその周面とインキブレード40とのすき間から流出し、壺ローラ39の凹部39a内に詰込まれて保持され、保持されたインキ23は、両ローラ38,39の回転によりパタンローラ38の凸部に転移し、凹版37の画線部に対応した濃淡を有するインキが付着し、パタンローラ38の凸部38aに転移したインキ43Aは、凹版胴36の回転により凹版胴36の凹状画線部に詰め込まれ、凹状画線部周囲の平面部には、余剰のインキが付着し、この余剰インキは、凹版胴36と周面をスリップさせながら回転するワイピングローラ46によって拭き取られ、ワイピングローラ46を過ぎた凹版37には、凹状画線部内のインキだけが残り、このインキは、圧胴26と凹版胴36との間を通過する紙23に強大な印圧下で転移して凹版印刷が施される、凹版印刷機。」(以下「引用発明」という。)

(2)原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された特開昭57-187254号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の記載が図とともにある。
ア 「印刷機の動作中厚いインキ膜がインキ出しローラより取られてスクリン付きローラ上へ移されても、このスクリン付きローラから不必要なインキがかき取られるので、スクリン付きローラにあるインキ収容凹所はインキを満たされており、残りのインキだけがかき取られる。このためインキ着けローラヘ送られるインキの量はインキ収容凹所の容積に完全に関係し、この容積により制御される。」(第3頁右下欄末行?第4頁左上欄第8行)
イ 「第1図に示すインキ装置は、インキだめ1へ没入するインキ出しローラ2と、版胴3上に締付けられた図示しない印刷版ヘインキを着けるインキ着けローラ4と、インキ出しローラ2からインキをインキ着けローラ4へ送るスクリン付きローラ5から構成されている。インキ着けローラ4はなるべくゴムからなる軟らかい外面をもっている。このため例えば鋼心上へゴムブランケットを接着して、ゴムブランケットの縁と版胴3にある印刷版取付け装置用の溝とを一致させることができる。スクリン付きローラ5は鋼ローラにより形成され、その外面は第1図に拡大して示すようインキ収容凹所6とこれら凹所6を画定する土手7をもっている。インキ出しローラ2もゴム外面をもつようにすることができる。
インキ吸容凹所6と土手7により形成されるスクリン付きローラ5のスクリンは、鋼からなるスクリン付きローラ5の表面の打出しあるいはローレット切りにより形成することかできる。スクリン付きローラ5に接するかき取り装置9のかき取り板8により、インキ収容凹所6を満たすのに必要でない過剰なインキがかき取られる。かき取り板8のかき取り縁の範囲に作用する押圧力および傾斜角は調節可能であるのがよく、それによりかき取り板の不可避な摩耗を限界内に保つことができるにもかかわらず、インキ収容凹所6を画定する土手7の周面の確実なかき取りが保証される。」(第5頁右上欄第18行?右下欄第6行)
ウ 「第1図に示す実施例では、インキ出しローラ2によりインキだめ1から取出されるインキ膜の厚さは、予備計量のためインキ出しローラ2の周面に接するかき取り板の縁により調節可能である。このため第1図に示す実施例では、調節可能な力とインキ出しローラ2に対し調節可能な角度で傾斜させることのできるかき取り板13をもつ計量装置14が使用される。かき取り装置9のかき取り板8と計量装置14のかき取り板13はインキだめ1の上方に設けられて、これらによりかき取られたインキが直接あるいは間接にインキだめ1へ戻ることができるようになっている。」(第7頁左上欄第17行?右上欄第9行)

4 対比
(1)本願発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「『凹版面の凹部の深浅とほぼ対応する深さのインキ保持用凹部を形成した』『インキ壺ローラ』あるいは『壺ローラ39』」、「『インキブレード40と、その両側開口部を閉塞する三角形板状のインキせき41と、パタンローラ38の周面とで』形成され、『壺ローラ39の回転によりその周面とインキブレード40とのすき間から』『インキ』が『流出』する『樋状のインキ壺42』」、「『凸状着肉部』あるいは『凸部38a』」、「パタンローラ」、「凹版胴」、「インキ保持用凹部」及び「『凹版面の凹部』あるいは『凹版37の凹状画線部』」は、それぞれ本願発明の「選択的インキ供給胴」、「インキ供給するためのダクト」、「レリーフ」、「シャブロンローラ」、「版胴」、「(選択的インキ供給胴の)彫り込み」及び「(版胴上の)彫り込み」に相当する。
b 引用発明は「凹版印刷機」であるが、「インキ」は「インキ壺」から「壺ローラ」、「パタンローラ」、「凹版胴」を経て「紙」に施されるものであるから、凹版印刷機用インキ供給システムということができる。
c 引用発明の「壺ローラ」(選択的インキ供給胴)は「周面へ直接自動的に彫刻することにより、凹版37の画線部に対応したインキ保持用の凹部39aが形成され」るものであるから、彫刻された選択的インキ供給胴ということができ、その表面に直接彫刻された彫りこみを有するものといえる。
d 引用発明は「インキ壺42内に蓄えられたインキ43は、壺ローラ39の回転によりその周面とインキブレード40とのすき間から流出し、壺ローラ39の凹部39a内に詰込まれて保持され、保持されたインキ23は、両ローラ38,39の回転によりパタンローラ38の凸部に転移し、凹版37の画線部に対応した濃淡を有するインキが付着し、パタンローラ38の凸部38aに転移したインキ43Aは、凹版胴36の回転により凹版胴36の凹状画線部に詰め込まれ」るから、引用発明の「インキ壺ローラ」(選択的インキ供給胴)は、レリーフを有するシャブロンローラを介して凹版印刷機の版胴の表面にインキ供給するものといえる。
e 引用発明は「インキ壺ローラの表面に、軸線方向と円周方向との両方向に対して前記凹版面の凹部の深浅とほぼ対応する深さのインキ保持用凹部を形成した」ものであり、「パタンローラ38の周面には紙幣の印刷行数に相当する8個の凸部38aが彫刻によって設けられ、この凸部38aは、凹版37の凹状画線部よりも一廻り大きく形成されて」いるから、引用発明は、選択的インキ供給胴の彫り込み及びシャブロンローラのレリーフが版胴上のインキ供給されるべき彫り込みに対応しているものといえる。
f aないしeより、本願発明と引用発明とは、
「凹版印刷機用インキ供給システムであって、少なくとも、彫刻された選択的インキ供給胴の表面にインキ供給するためのダクトを備え、該選択的インキ供給胴は、その表面に直接彫刻された彫りこみを有し、該彫刻された選択的インキ供給胴は次いで、レリーフを有するシャブロンローラを介して前記凹版印刷機の版胴の表面にインキ供給し、該選択的インキ供給胴の彫り込み及び該シャブロンローラのレリーフが該版胴上のインキ供給されるべき彫り込みに対応しているインキ供給システム。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]本願発明は「インキ供給システムがさらに、前記選択的インキ供給胴の表面を拭き取ると共に該拭き取られたインキを前記ダクト(1;10)内に回収するための拭取システム(8,9)を備える」と特定されているのに対し、引用発明は、拭取システムを備えているとはいえない点。

5 判断
(1)上記相違点について検討する。
引用発明は「インキブレード40と壺ローラ39の周面とのすき間を0.03?0.05m/m程度の寸法で左右均等に調節し、インキ壺42内に蓄えられたインキ43は、壺ローラ39の回転によりその周面とインキブレード40とのすき間から流出」するものであるから、壺ローラ39(選択的インキ供給胴)の表面には、凹版37の凹状画線部に詰め込まれ有効に利用されるインキ保持用の凹部39a(選択的インキ供給胴の彫り込み)以外にも薄くインクが流出し、該凹部39a以外に流出したインクは、「凹版37の凹状画線部よりも一廻り大きく形成されて」いるパタンローラ(シャブロンローラ)の凸部38a(レリーフ)上に移動し、さらに、凹版37の凹状画線部(版胴上の彫り込み)以外の部分に移動し、凹版37の凹状画線部に詰め込まれことなく、ワイピングローラ46で拭き取られ、洗浄され、無駄になってしまう、即ち、インキ保持用の凹部39a(選択的インキ供給胴の彫り込み)以外のインキは、必要がなく無駄なインキであることが当業者に明らかである。
(2)刊行物1の上記イに「凹版版面へのインキの与え方を過不足なく効率的なものとし、またワイピングローラによる拭き取りインキ量を減少させることを可能にしてインキ消費量の節減とワイピング性能の向上を計った」と記載されているように、ワイピングローラによる拭き取りインキ量を減少させることが課題であるから、引用発明において、よりワイピングローラによる拭き取りインキ量を減少させるために、壺ローラ39(選択的インキ供給胴)の表面に流出するインキ保持用の凹部39a(選択的インキ供給胴の彫り込み)以外のインキを無くすあるいは少なくしようとすることは当業者が容易に着想し得る程度のことである。
(3)刊行物2には、インキ収容凹所6を有するスクリン付きローラ5に接するかき取り装置9のかき取り板8により、インキ収容凹所6を満たすのに必要でない過剰なインキをかき取り、かき取られたインキを戻すことが記載されている。
そして、刊行物2に記載の「かき取り装置9」は、スクリン付きローラ5の表面に接し、スクリン付きローラ5に対し相対的に摺動し、実質上表面を拭き取るとともに拭き取られたインキを戻すものといえるので、「拭き取りシステム」ということができる。
(4)引用発明の「インキ壺ローラ」(選択的インキ供給胴)と刊行物2の「スクリン付きローラ5」は、いずれもインキ保持用凹部を有するインキ供給胴で共通するから、過剰なインキを除去するべく、引用発明の「インキ壺ローラ」(選択的インキ供給胴)に刊行物2に記載の事項を適用し、拭き取りシステムを付加し、拭き取られたインキを戻すようにすることは当業者が容易になし得る程度のことである。
(5)なお、本願の発明の詳細な説明において、拭取システムのインキ除去手段の具体例として拭き取りローラが記載されており、本願発明の「拭取システム」が「拭き取りローラ」を有するものであることを意味しているとしても、ローラでインキを除去することは、刊行物1の「ワイピングローラ46」や特開平9-1780号公報(特に、段落【0015】「ドクターローラで掻き取ってインキ壺に戻す」)、特開平6-238875号公報(特に、【図4】)、特開2000-246872号公報(特に、段落【0053】、【0059】)に記載されているように、本願優先権主張日前に周知技術であるから、引用発明に刊行物2に記載の事項を適用する際に、インキ除去手段として、拭き取りローラを採用することも当業者が容易になし得る程度のことである。
(6)よって、引用発明において本願発明の上記相違点に係る構成を採用することは当業者が容易になし得る程度のことである。
(7)以上のとおりであるから、本願発明の上記相違点に係る構成は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載の事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものであり、それにより得られる効果も当業者が予測できる範囲のものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載の事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-30 
結審通知日 2012-06-05 
審決日 2012-06-18 
出願番号 特願2006-548461(P2006-548461)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 裕美子  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 菅野 芳男
石川 好文
発明の名称 凹版印刷機用インキ供給システム  
代理人 篠田 拓也  
代理人 三橋 真二  
代理人 三橋 庸良  
代理人 青木 篤  
代理人 森本 有一  
代理人 島田 哲郎  

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