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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E03F
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 E03F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E03F
管理番号 1265552
審判番号 不服2011-18916  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-01 
確定日 2012-10-31 
事件の表示 特願2007-165940号「浸透型スリット付き側溝の敷設方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 1月 8日出願公開、特開2009- 2095号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年6月25日の出願であって、平成23年6月3日付けで拒絶査定がされ、この査定に対し、同年9月1日に本件審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。
その後、平成24年5月9日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、同年7月3日に回答書が提出された。

第2 平成23年9月1日提出の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年9月1日提出の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正の目的に関して
(1)本件補正は、補正前の
「【請求項1】
各家屋の排水孔と、前記各家屋に隣接する道路の地中内に埋設された排水本管とを接続する排水接続管の埋設箇所における地上側での側溝敷設箇所に、前記埋設された排水接続管の上方を横断して設置されるスリット付き側溝の敷設構造であり、
前記スリット付き側溝の高さにつき、側溝の幅より長く形成されて、縦長直方体状に規格で決定されており、該側溝高さのものでは、側溝敷設箇所近傍の道路地中内に埋設された排水本管と各家屋からの排水口とを接続する排水接続管の上面に前記道路脇に前記側溝を敷設すると、敷設すべき側溝底部が排水接続管の上面にぶつかってしまい、前記側溝では敷設不可能なスリット付き側溝の敷設構造であって、
側溝本体の高さを、前記排水接続管上面部と該上面部地上までの間隔より短く設定して該側溝底部が当接しない構造とすると共に、側溝本体高さより側溝本体幅を長く形成して側溝が果たすべき良好な排水機能をも果たしうるようにして、側溝底部が前記排水接続管上面部上方を横断してスリット付き側溝が敷設可能としてなり、
側溝本体の軸心方向に貫通して設けられた中空路には、高さ方向より幅方向に長い略直方体状をなす排水空間路と、該排水空間路の底面幅方向中央に略半球状に陥没した排水流路とが設けられて、側溝が果たすべき良好な排水機能をも果たし、
前記側溝本体の両側壁には、前記排水空間路側に貫通する浸透孔が複数穿設され、該浸透孔の穿設高さ位置は、20mm/hの雨量で、前記排水空間路から外側へ流出浸透する高さに設定してある、
ことを特徴とする浸透型スリット付き側溝の敷設構造。」
「【請求項2】
各家屋の排水孔と、前記各家屋に隣接する道路の地中内に埋設された排水本管とを接続する排水接続管の埋設箇所における地上側での側溝敷設箇所に、前記埋設された排水接続管の上方を横断して設置されるスリット付き側溝の敷設構造であり、
前記スリット付き側溝の高さが該側溝の幅より長く形成されて、縦長直方体状に規格で決定されており、該側溝高さのものでは、側溝敷設箇所近傍の道路地中内に埋設された排水本管と各家屋からの排水口とを接続する排水接続管の上面に前記道路脇に前記側溝を敷設すると、敷設すべき側溝底部が排水接続管の上面にぶつかってしまい、前記側溝高さの側溝では敷設不可能なスリット付き側溝の敷設構造であって、
側溝本体の高さを、前記排水接続管上面部と該上面部地上までの間隔より短く設定して該側溝底部が当接しない構造とすると共に、側溝本体高さより側溝本体幅を長く形成して側溝が果たすべき良好な排水機能をも果たしうるようにして、側溝底部が前記排水接続管上面部上方を横断してスリット付き側溝が敷設可能としてなり、
側溝本体の軸心方向に貫通して設けられた中空路には、高さ方向より幅方向に長い略直方体状をなす排水空間路と、該排水空間路の底面幅方向中央に略半球状に陥没した排水流路とが設けられて、側溝が果たすべき良好な排水機能をも果たし、
前記側溝本体の両側壁には、前記排水空間路側に貫通する浸透孔が複数穿設され、該浸透孔の穿設高さ位置は、20mm/hの雨量で、前記排水空間路から外側へ流出浸透する高さに設定してあると共に、該浸透孔の形状は、側溝外側の地中から水が逆流して前記浸透孔から内部の排水空間路内に流入しない様、内部の排水空間路側を小さく穿設し、外側を大きく穿設した形状に構成してある、
ことを特徴とする浸透型スリット付き側溝の敷設構造。」
を、
「【請求項1】
各家屋の排水孔と、前記各家屋に隣接する道路の地中内に埋設された排水本管とを接続する排水接続管の埋設箇所における地上側での側溝敷設箇所に、前記埋設された排水接続管の上方を横断して設置するスリット付き側溝の敷設方法であり、
前記スリット付き側溝の高さについて、側溝の幅より長く形成されて、縦長直方体状に規格で決定され、前記側溝内部の排水空間路も縦長直方体状に形成され、該側溝高さのものでは、側溝敷設箇所近傍の道路地中内に埋設された排水本管と各家屋からの排水口とを接続する排水接続管の上方で前記道路脇に前記側溝を敷設すると、敷設すべき側溝底部が排水接続管の上面にぶつかってしまうため、当該箇所に敷設する側溝については道路の中央側へ寄せて敷設し、側溝底面が排水接続管の上面に当たらないようにした前記スリット付き側溝の敷設方法に替え、
前記側溝本体高さより側溝本体幅を長く形成して、側溝本体の高さを、前記排水接続管上面部と該上面部地上までの間隔より短く設定し、該側溝底部が当接しない構造とすると共に、側溝内部の排水空間路についても高さ方向より幅方向が長い構造としつつ前記縦長直方体状の排水空間路と同様の排水機能を果たしうるよう構成し、側溝底部が前記排水接続管上面部上方を横断してのスリット付き側溝敷設が、道路の中央側へ寄せて敷設することなく直線的に敷設出来る構成としてなり、 側溝本体の軸心方向に貫通して設けられた中空路には、前記高さ方向より幅方向が長い構造の排水空間路と、該排水空間路の底面幅方向中央に略半球状に陥没した排水流路とが設けられ、前記排水空間路底面幅方向両端から前記排水流路に向けては略5%の下り傾斜勾配となして、側溝が果たすべき良好な排水機能をもたせ、
前記側溝本体の両側壁には、前記排水空間路側に貫通する浸透孔が複数穿設され、該浸透孔の穿設高さ位置は、20mm/hの雨量で、前記排水空間路から外側へ流出浸透する高さに設定してある、
ことを特徴とする浸透型スリット付き側溝の敷設方法。」
「【請求項2】
前記浸透孔の形状は、側溝外側の地中から水が逆流して前記浸透孔から内部の排水空間路内に流入しない様、内部の排水空間路側を小さく穿設し、外側を大きく穿設した形状に構成してある、
ことを特徴とする請求項1記載の浸透型スリット付き側溝の敷設方法。」(なお、下線は補正箇所であって、当審で記入したものである。)に変更する補正を行っている。

この補正は、(1)補正前の請求項1,2に記載された「浸透型スリット付き側溝の敷設構造」という物の発明を、「浸透型スリット付き側溝の敷設方法」という方法の発明に、発明のカテゴリーを変更し、
(2)補正前の請求項1,2に記載された発明を特定するために必要な事項である「側溝」について、「前記側溝内部の排水空間路も縦長直方体状に形成され」という事項を付加し、
(3)補正前の請求項1,2に記載された発明を特定するために必要な事項である「側溝本体の高さを、前記排水接続管上面部と該上面部地上までの間隔より短く設定」することについて、「排水接続管の上方で前記道路脇に前記側溝を敷設すると、敷設すべき側溝底部が排水接続管の上面にぶつかってしまうため、当該箇所に敷設する側溝については道路の中央側へ寄せて敷設し、側溝底面が排水接続管の上面に当たらないようにした前記スリット付き側溝の敷設方法に替え、
前記側溝本体高さより側溝本体幅を長く形成して」側溝本体の高さを、前記排水接続管上面部と該上面部地上までの間隔より短く設定するという事項を付加し、
(4)補正前の請求項1,2に記載された発明を特定するために必要な事項である「側溝が果たすべき良好な排水機能」を、「前記縦長直方体状の排水空間路と同様の排水機能」とし、
(5)補正前の請求項1,2に記載された発明を特定するために必要な事項である「排水接続管上面部上方を横断してスリット付き側溝が敷設可能」なことを、「排水接続管上面部上方を横断してのスリット付き側溝敷設が、道路の中央側へ寄せて敷設することなく直線的に敷設出来る構成」とし、
(6)補正前の請求項1,2に記載された発明を特定するために必要な事項である「高さ方向より幅方向に長い略直方体状をなす排水空間路」を、「高さ方向より幅方向が長い構造の排水空間路」とし、
(7)補正前の請求項1,2に記載された発明を特定するために必要な事項である「排水空間路」について、「排水空間路底面幅方向両端から前記排水流路に向けては略5%の下り傾斜勾配となして」という事項を付加する補正を含むものである。

しかしながら、前記(1)の発明のカテゴリーを変更する補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の限定的減縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明のいずれを目的とするものとも認められない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

2.独立特許要件に関して
さらに、仮に上記1.の補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2-1.引用刊行物とその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2006-45923号公報(以下「刊行物1」という。)には、道路の脇に敷設される可変側溝に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「【0005】
本発明による可変側溝及び可変側溝の敷設工法は、
予め製造された断面略門型状をなす可変側溝本体と、該可変側溝本体の底部に敷設される予め製造されたインバートコンクリートとを備えた可変側溝であり、
前記可変側溝本体の下端部内側面は基端部から先端部側に向けて先細り状の傾斜面として形成してなると共に、前記可変側溝の両下端部間に装着される前記インバートコンクリートの両装着面を前記両傾斜面に掛合する略山状斜面として形成し、上面には幅方向中央位置にインバートコンクリート長手方向へ延出するU字溝条を設けると共に、幅方向両端部から中央部に向かって下り傾斜面に形成した、
ことを特徴とし、
予め製造され、コンクリート二次製品として形成された前記インバートコンクリートを施工箇所に敷設し、
次いで、該インバートコンクリート両装着面に前記可変側溝本体の両下端部側面が上方より下方へスライド嵌合可能にして前記可変側溝本体を前記インバートコンクリートに接続して敷設する、・・・
ことを特徴とするものである。」
(イ)「【0007】
また、施工した可変側溝内を流れる泥水等の滞留を確実に防止できるとの優れた効果を奏する。」
(ウ)「【0009】
本発明による可変側溝は予め製造された略門型状をなす可変側溝本体1と、この可変側溝本体1の底部に敷設され、前記可変側溝本体1と接続される予め製造されたインバータコンクリート2等を備えて構成される。」
(エ)「【0010】
この略門型状をなす可変側溝本体1の上面幅方向略中央位置には可変側溝本体1の長手方向へ向かい直線状のスリット3が設けられている。」
(オ)「【0017】
さらにこのインバータコンクリート2は図1及び図2から理解されるようにその上面には幅方向略中央位置に断面略U字状をなすU字溝条9が設けられている。 さらに、この上面は幅方向両端部から中央に向かって下り傾斜面10,10として形成してある。」
(オ)「【0026】
通常の状態では、敷設されている可変側溝内を流れる泥水を含む雨水等の水量は極めて少なく、そのため水深が浅くて流速も遅いので図6に示す従来型のインバートコンクリートを使用した場合は、雨水に混在した泥、土砂がインバートコンクリート上面全体部分に堆積してしまい、もってそれが積もり積もって雨水の流れを妨げてしまうという恐れがあった。
【0027】
これに対して本発明では、インバートコンクリート2の幅方向略中央にU字溝条9を設けているため、通常はこのU字溝条9内を泥水を含んだ雨水が流れることになり、もってその雨水等の水深をこのU字溝条9内において深くすることができると共に、水深を深くした結果その流速をはやめることもできる。
【0028】
そしてインバートコンクリート2の上面全体には汚泥などの土砂が堆積しにくいという効果をもたらすことになる。
【0029】
さらにインバートコンクリート2の上面は幅方向両端部より略中央に向かって緩やかな下り傾斜面10,10として形成されているため、インバートコンクリート2上面に流れ込んだ雨水はこの下り傾斜面10,10上を通って略中央のU字溝条9に常に集水されることになる。」
(カ)【図1】は、「本発明による可変側溝の構成説明図」であり、そこには、
側溝内部の流路が略直方体状に形成され、
側溝底面が敷モルタル12上に敷設され、
可変側溝の軸心方向に貫通して設けられた空間には、流路と、流路の幅方向略中央位置に断面略U字状をなすU字溝条9が設けられ、さらに、流路の上面は幅方向両端部から中央に向かって下り傾斜面10,10として形成されたものが記載されている。

すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が開示されているものということができる。
「可変側溝本体1と、この可変側溝本体1の底部に敷設され、前記可変側溝本体1と接続される予め製造されたインバータコンクリート2等を備えて構成され、
略門型状をなす可変側溝本体1の上面幅方向略中央位置には可変側溝本体1の長手方向へ向かい直線状のスリット3が設けられている、
可変側溝の敷設工法であり、
側溝内部の流路が略直方体状に形成され、
側溝底面が敷モルタル12上に敷設され、
可変側溝の軸心方向に貫通して設けられた空間には、流路と、流路の幅方向略中央位置に断面略U字状をなすU字溝条9とが設けられ、さらに、流路の上面は幅方向両端部から中央に向かって下り傾斜面10,10として形成され、可変側溝内を流れる泥水等の滞留を確実に防止できる直線状のスリット3が設けられている可変側溝の敷設工法。」

また、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明2」という。)も開示されているものということができる。
「可変側溝本体1と、この可変側溝本体1の底部に敷設され、前記可変側溝本体1と接続される予め製造されたインバータコンクリート2等を備えて構成され、
略門型状をなす可変側溝本体1の上面幅方向略中央位置には可変側溝本体1の長手方向へ向かい直線状のスリット3が設けられている、
可変側溝の敷設構造であり、
側溝内部の流路が略直方体状に形成され、
側溝底面が敷モルタル12上に敷設され、
可変側溝の軸心方向に貫通して設けられた空間には、流路と、流路の幅方向略中央位置に断面略U字状をなすU字溝条9とが設けられて、可変側溝内を流れる泥水等の滞留を確実に防止できる直線状のスリット3が設けられている可変側溝の敷設構造。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-37277号公報(以下「刊行物2」という。)には、水洗トイレ排水の、排水システムとその機械に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ア)【図1】は、「便器から下水本管取付けまでの、新システムの排水経路を示す縦断図」であり、そこに記載されている、道路面11の両側の凹部は、側溝と解される。
(イ)【図3】も、「便器から下水本管取付けまでの、新システムの排水経路を示す縦断図」であり、そこに記載されている、車道の両側の埋設部材も上記(ア)の凹部と同様に側溝と解される。
そうすると、【図3】には、側溝(図番なし)を、車道脇であって、家屋の会所桝9と家屋に隣接する道路の地中内に埋設された本管10とを接続する取付け管B8の埋設箇所における地上側で、埋設された取付け管B8の上方を横断するように設置する側溝が記載されている。

(3)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-256452号公報(以下「刊行物3」という。)には、公共桝用栓体に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ア)【図4】は、「公共桝の埋設状態の一例を示す説明図」であり、そこには、側溝9aを、道路脇であって、公共枡5aと隣接する公道の地中内に埋設された下水本管1aとを接続する取付管4aの埋設箇所における地上側で、埋設された取付管4aの上方を横断するように設置する側溝9aが記載されている。

(4)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である実願昭58-142039号(実開昭59-73479号)のマイクロフィルム(以下「刊行物4」という。)には、暗渠用ブロックに関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ア)図1?8は、「本考案の一実施例」であり、そこには、暗渠用ブロック1を、暗渠用ブロック1高さより暗渠用ブロック1幅を大きく形成した形式の側溝暗渠用ブロック1が記載されている。

(5)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である実願昭60-110255号(実開昭62-21184号)のマイクロフィルム(以下「刊行物5」という。)には、排水用U形側溝に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「大雨が降ると急激に下水道の排水用側溝に雨水が集中して各河川に流れてはんらんする一原因になっている。」(明細書第2頁第8?11行)
(イ)「最近急速に道路.下水道の設備が完備されたことによって、雨が降るとほとんどの雨水が地下に還元されることなく河川に集中して流されていくために地盤沈下の原因となる。・・・
本考案は、このような害を少しでも除くために排水用U形側溝コンクリートブロック(1)の側面(2)(2’)に斜穴(3)(3’)・・・・を設けて側溝内の雨水が一定の量以上になった時、即ち斜穴(3)(3’)・・・・から地下に流れ還元される。」(明細書第3頁第9?19行)

(6)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2000-303546号公報(以下「刊行物6」という。)には、舗装道路用の排水用構造物に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「【0029】そして、降雨時に舗装道路上に降った雨水は、該舗装道路の不透水路盤2上を道路脇側に流れ、ブロック本体11の集水口15から排水路14内に流入する。排水路14内に流入した雨水の量が排水孔16,16の高さより低位の状態では、雨水はそのまま排水路14中を下流域に向けて流れ、河川や下水処理場に放水される。又、大雨時等において、排水路14中の雨水量が、排水孔16の高さに達すると、該排水路14中の水Wの一部が矢印Waで示すように排水孔16,16を通って路床1側に排出される。従って、大雨時において、排水路14内が満杯になるのを緩和でき、排水路14内の雨水が道路上に溢れ出にくくなる。特に、一連の排水通路の下流域側においては、雨水が集中するが、上流域から流下する水量が少なくなることにより、下流域側であっても排水路14内が満杯になりにくい。
【0030】又、年間降雨量の少ない地域でも、単位時間当たりの降雨量が多いときがあるが、その場合には、排水路14内に流入した雨水量が排水孔16の高さに達し、該排水路14内の水Wの一部が排水孔16を通って路床1側に流出するようになる。排水路14側から路床1側に流出した水Waは、路床1の土壌中に浸透していき、該土壌層に保水される。このように土壌層に保留された水は、例えば井戸水等の地下水源として利用できたり、あるいは街路樹用の水分として利用される(水やりが不要となる)。」
(イ)「【0034】そして、大雨時においては、舗装道路上に降った雨水が排水路14内に短時間に大量に流入するが、排水路14内の水量が排水孔16の高さに達すると、該排水路14中の水の一部が排水孔16を通って路床1側に排出される。」

(7)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2002-121809号公報(以下「刊行物7」という。)には、浸透側溝部材に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「【0002】
【従来の技術】浸透側溝部材は、雨水を地中に浸透させるため、側溝部材などに浸透孔を設けた構造となっている。・・・」
(イ)「【0020】・・・基体3において、互いに向き合った側壁7ー7の間に内部空間6が備えられ、内部空間6は透水体5の網状面部13を介して、外部に連なっている。従って、内部空間6に入った雨水は、透水体5の網状面部13を通過して土中に浸透する。」

2-2.本願補正発明と引用発明1との対比
(1)両発明の対応関係
(a)引用発明1の「可変側溝本体1」と「インバータコンクリート2等」を備えて構成され、「可変側溝本体1の上面幅方向略中央位置には可変側溝本体1の長手方向へ向かい直線状のスリット3が設けられ」ている「可変側溝」は、本願補正発明の「スリット付き側溝」及び「側溝本体」に相当し、以下同様に
「敷設工法」は、「敷設方法」に、
「流路」は、「排水空間路」に、
「可変側溝の軸心方向に貫通して設けられた空間」は、「側溝本体の軸心方向に貫通して設けられた中空路」に、
「流路の幅方向略中央位置に断面略U字状をなすU字溝条9」は、「排水空間路の底面幅方向中央に略半球状に陥没した排水流路」に相当する。
また、引用発明1は、側溝の敷設方法に係るものである以上、「良好な排水機能」を基本的機能とするといえ、それに加えて「可変側溝内を流れる泥水等の滞留を確実に防止できる」とすることは、本願補正発明の「側溝が果たすべき良好な排水機能をもたせ」たことに相当する。
(b)引用発明1の「幅方向両端部から中央に向かって下り傾斜面10,10として形成された」部分と、本願補正発明の「排水空間路底面幅方向両端から前記排水流路に向けては略5%の下り傾斜勾配となし」た部分とは、「排水空間路底面幅方向両端から排水流路に向けては下り傾斜勾配となし」た部分である点で共通する。
(c)引用発明1の「上面幅方向略中央位置には可変側溝本体1の長手方向へ向かい直線状のスリット3が設けられている、可変側溝」と、本願補正発明の「浸透型スリット付き側溝」とは、「スリット付き側溝」である点で共通する。

(2)両発明の一致点
「スリット付き側溝の敷設方法であり、
側溝本体の軸心方向に貫通して設けられた中空路には、排水空間路と、該排水空間路の底面幅方向中央に略半球状に陥没した排水流路とが設けられ、前記排水空間路底面幅方向両端から前記排水流路に向けて下り傾斜勾配となして、側溝が果たすべき良好な排水機能をもたせるスリット付き側溝の敷設方法。」

(3)両発明の相違点
ア.本願補正発明は、スリット付き側溝の敷設方法が「各家屋の排水孔と、前記各家屋に隣接する道路の地中内に埋設された排水本管とを接続する排水接続管の埋設箇所における地上側での側溝敷設箇所に、前記埋設された排水接続管の上方を横断して設置する」ものであり、
「前記スリット付き側溝の高さについて、側溝の幅より長く形成されて、縦長直方体状に規格で決定され、前記側溝内部の排水空間路も縦長直方体状に形成され、該側溝高さのものでは、側溝敷設箇所近傍の道路地中内に埋設された排水本管と各家屋からの排水口とを接続する排水接続管の上方で前記道路脇に前記側溝を敷設すると、敷設すべき側溝底部が排水接続管の上面にぶつかってしまうため、当該箇所に敷設する側溝については道路の中央側へ寄せて敷設し、側溝底面が排水接続管の上面に当たらないようにした前記スリット付き側溝の敷設方法に替え、
前記側溝本体高さより側溝本体幅を長く形成して、側溝本体の高さを、前記排水接続管上面部と該上面部地上までの間隔より短く設定し、該側溝底部が当接しない構造とすると共に、側溝内部の排水空間路についても高さ方向より幅方向が長い構造としつつ前記縦長直方体状の排水空間路と同様の排水機能を果たしうるよう構成し、側溝底部が前記排水接続管上面部上方を横断してのスリット付き側溝敷設が、道路の中央側へ寄せて敷設することなく直線的に敷設出来る構成としてな」るものであり、
「中空路には、・・排水空間路・・が設けられ」とされる排水空間路も「前記高さ方向より幅方向が長い構造の」排水空間路であるのに対して、引用発明1は、そのような敷設方法でない点。
イ.本願補正発明は、排水流路に向けての下り傾斜勾配が「略5%」の下り傾斜勾配であるのに対して、引用発明1は、そうでない点。
ウ.本願補正発明は、スリット付き側溝が「側溝本体の両側壁には、前記排水空間路側に貫通する浸透孔が複数穿設され、該浸透孔の穿設高さ位置は、20mm/hの雨量で、前記排水空間路から外側へ流出浸透する高さに設定してある」「浸透型」スリット付き側溝であるのに対して、引用発明1は、そうでない点。

2-3.本願補正発明の容易推考性の検討
(1)相違点ア.について
(a)例えば、刊行物2?3、他にも、徳平淳,森北土木工学全書16 衛生工学,日本,森北出版株式会社,1976年4月15日,p203-207や、小山隆紹、藤田昌一,新しい下水道方式の計画と設計,日本,鹿島出版会,1984年8月30日,p8-10にも記載されている様に、側溝を、道路脇であって、各家屋の排水孔と各家屋に隣接する道路の地中内に埋設された排水本管とを接続する排水接続管の埋設箇所における地上側で、埋設された排水接続管の上方を横断するように設置することは、側溝の使用態様として周知のものである。
また、上記例示した文献も、そうであるように、側溝底部が排水接続管上面部に当接しない様に設置することも、普通に行われていることである。
そして、引用発明1の可変側溝を、上記の様な使用態様で使用するように設置することは当業者が容易になし得ることである。

(b)さらに、請求人が本願明細書【0004】で、従来のスリット付き側溝として例示した特願2001-237536号(特開2003-49476号公報)(なお、本願明細書では、従来技術を表す特許文献の番号が「特開平2001-237536号」と記載されているが、上記「特願2001-237536号」の誤記と認める。)の様な、従来の側溝本体高さを側溝本体幅より長く形成した従来形式の側溝に対して、刊行物4、他にも、実願昭61-86876号(実開昭62-200780号)のマイクロフィルムの第1?3図や、特開平7-286357号公報の【0009】【図2】や、実願昭60-14272号(実開昭61-130678号)のマイクロフィルムの第1?2図に記載されている様な、側溝本体高さより側溝本体幅を長く形成し、側溝内部の排水空間路についても高さ方向より幅方向が長い構造とした形式の側溝も周知である。

(c)そして、機械設計や建築設計において、限られたスペースに構成要素を、相互に干渉しないように配置することは、基本的設計行為として日常的に行われていることであり、その様な設計行為を行っている当業者であれば、側溝を、上記(a)の使用態様で使用する場合、上記(b)の後者の側溝本体高さより側溝本体幅を長く形成した形式の側溝を持ちいたときは、同じく前者の側溝本体高さを側溝本体幅より長く形成した従来形式の側溝よりも、排水接続管に側溝底部が当接にくくなることは、特段困難なく予測し得ることであり、引用発明1において、前者の側溝本体高さを側溝本体幅より長く形成した従来形式の側溝で排水接続管と側溝底部とが干渉するときに、それに替えて、後者の側溝本体高さより側溝本体幅を長く形成した形式の側溝を用いて不都合な干渉を回避して上記相違点ア.に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(d)なお、側溝において、排水機能の確保は基本的要求事項であり、上記(c)にあって、可及的に要求事項を満たすことを希望することは、当然のことであるので「同様の排水機能を果たしうるよう」構成することにも、困難性は認められない。

(2)相違点イ.について
引用発明1は、刊行物1記載事項(オ)の「インバートコンクリート2の上面全体には汚泥などの土砂が堆積しにくい」作用を意図し、「下り傾斜面10,10」は、同じく「インバートコンクリート2上面に流れ込んだ雨水はこの下り傾斜面10,10上を通って略中央のU字溝条9に常に集水される」作用のものである。
そして、「傾斜面」を何度かの傾斜勾配として具現化することは、通常の設計行為であり、上記作用が生じる範囲で、傾斜勾配を適宜選択して、上記相違点ウ.に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点ウ.について
(a)例えば、刊行物5?7に記載されている様に、側溝の側溝本体の両側壁に、排水空間路側に貫通する浸透孔を複数穿設することは、周知の技術である。
さらに、刊行物5には、「大雨が降ると・・排水用側溝に雨水が集中して・・・はんらんする一原因になっている。」、「側溝内の雨水が一定の量以上になった時、・・地下に流れ還元される。」と記載され、それら浸透孔は、所定の強さの雨量で排水空間路から外側へ流出浸透させるものと解される。
そして、どの程度の雨量で雨水を地下に還元するかは、当業者が適宜選択し得る事項であり、引用発明1に上記周知の技術を適用すると共に、大雨と認識される程度の値である雨量20mm/hを選択して、上記相違点ウ.に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(b)なお、本願補正発明の「20mm/h」は、出願当初明細書【0022】の「側壁8に設けられる前記4つの浸透孔9は例えば日本地域で大雨注意報発令時の雨量(20mm/h)において前記排水空間路5内の雨水が地中に浸透するように該浸透孔9の高さ位置を決定される」を根拠としてなされたものであり、刊行物5記載の「大雨」と同じ性質の状態に対応したものでもある。

(4)総合判断
そして、本願補正発明の作用効果は、引用発明1、刊行物2?7記載の事項、及び当業者に周知の事項から当業者であれば予測できた範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明1、刊行物2?7記載の事項、及び当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2-4.むすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願発明
平成23年9月1日提出の手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?2に係る発明は、平成22年12月16日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】
各家屋の排水孔と、前記各家屋に隣接する道路の地中内に埋設された排水本管とを接続する排水接続管の埋設箇所における地上側での側溝敷設箇所に、前記埋設された排水接続管の上方を横断して設置されるスリット付き側溝の敷設構造であり、
前記スリット付き側溝の高さにつき、側溝の幅より長く形成されて、縦長直方体状に規格で決定されており、該側溝高さのものでは、側溝敷設箇所近傍の道路地中内に埋設された排水本管と各家屋からの排水口とを接続する排水接続管の上面に前記道路脇に前記側溝を敷設すると、敷設すべき側溝底部が排水接続管の上面にぶつかってしまい、前記側溝では敷設不可能なスリット付き側溝の敷設構造であって、
側溝本体の高さを、前記排水接続管上面部と該上面部地上までの間隔より短く設定して該側溝底部が当接しない構造とすると共に、側溝本体高さより側溝本体幅を長く形成して側溝が果たすべき良好な排水機能をも果たしうるようにして、側溝底部が前記排水接続管上面部上方を横断してスリット付き側溝が敷設可能としてなり、
側溝本体の軸心方向に貫通して設けられた中空路には、高さ方向より幅方向に長い略直方体状をなす排水空間路と、該排水空間路の底面幅方向中央に略半球状に陥没した排水流路とが設けられて、側溝が果たすべき良好な排水機能をも果たし、
前記側溝本体の両側壁には、前記排水空間路側に貫通する浸透孔が複数穿設され、該浸透孔の穿設高さ位置は、20mm/hの雨量で、前記排水空間路から外側へ流出浸透する高さに設定してある、
ことを特徴とする浸透型スリット付き側溝の敷設構造。」

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1?8とその記載事項は、前記の「第2 2-1.」に記載したとおりである。

3.本願発明と引用発明2との対比
(1)両発明の対応関係
(a)引用発明2の「可変側溝本体1」と「インバータコンクリート2等」を備えて構成され、「可変側溝本体1の上面幅方向略中央位置には可変側溝本体1の長手方向へ向かい直線状のスリット3が設けられ」ている「可変側溝」は、本願発明の「スリット付き側溝」及び「側溝本体」に相当し、以下同様に
「流路」は、「排水空間路」に、
「可変側溝の軸心方向に貫通して設けられた空間」は、「側溝本体の軸心方向に貫通して設けられた中空路」に、
「流路の幅方向略中央位置に断面略U字状をなすU字溝条9」は、「排水空間路の底面幅方向中央に略半球状に陥没した排水流路」に相当する。
また、引用発明2は、側溝の敷設構造に係るものである以上、「良好な排水機能」を基本的機能とするといえ、それに加えて「可変側溝内を流れる泥水等の滞留を確実に防止できる」ことは、本願発明の「側溝が果たすべき良好な排水機能をも果た」すことに相当する。
(b)引用発明2の「上面幅方向略中央位置には可変側溝本体1の長手方向へ向かい直線状のスリット3が設けられている、可変側溝」と、本願発明の「浸透型スリット付き側溝」とは、「スリット付き側溝」である点で共通する。

(2)両発明の一致点
「スリット付き側溝の敷設構造であり、
側溝本体の軸心方向に貫通して設けられた中空路には、排水空間路と、該排水空間路の底面幅方向中央に略半球状に陥没した排水流路とが設けられて、側溝が果たすべき良好な排水機能をも果たすスリット付き側溝の敷設構造。」

(3)両発明の相違点
ア.本願発明は、スリット付き側溝の敷設構造が「各家屋の排水孔と、前記各家屋に隣接する道路の地中内に埋設された排水本管とを接続する排水接続管の埋設箇所における地上側での側溝敷設箇所に、前記埋設された排水接続管の上方を横断して設置する」ものであり、
「前記スリット付き側溝の高さにつき、側溝の幅より長く形成されて、縦長直方体状に規格で決定されており、該側溝高さのものでは、側溝敷設箇所近傍の道路地中内に埋設された排水本管と各家屋からの排水口とを接続する排水接続管の上面に前記道路脇に前記側溝を敷設すると、敷設すべき側溝底部が排水接続管の上面にぶつかってしまい、前記側溝では敷設不可能なスリット付き側溝の敷設構造であって、
側溝本体の高さを、前記排水接続管上面部と該上面部地上までの間隔より短く設定して該側溝底部が当接しない構造とすると共に、側溝本体高さより側溝本体幅を長く形成して側溝が果たすべき良好な排水機能をも果たしうるようにして、側溝底部が前記排水接続管上面部上方を横断してスリット付き側溝が敷設可能としてな」るものであり、
「中空路には、・・排水空間路・・が設けられ」とされる排水空間路も「高さ方向より幅方向に長い略直方体状をなす」排水空間路であるのに対して、引用発明2は、そのような敷設構造でない点。
イ.本願発明は、スリット付き側溝が「側溝本体の両側壁には、前記排水空間路側に貫通する浸透孔が複数穿設され、該浸透孔の穿設高さ位置は、20mm/hの雨量で、前記排水空間路から外側へ流出浸透する高さに設定してある」「浸透型」スリット付き側溝であるのに対して、引用発明2は、そうでない点。

4.本願発明の容易推考性の検討
(1)相違点ア.について
(a)例えば、刊行物2?3、他にも、徳平淳,森北土木工学全書16 衛生工学,日本,森北出版株式会社,1976年4月15日,p203-207や、小山隆紹、藤田昌一,新しい下水道方式の計画と設計,日本,鹿島出版会,1984年8月30日,p8-10にも記載されている様に、側溝を、道路脇であって、各家屋の排水孔と各家屋に隣接する道路の地中内に埋設された排水本管とを接続する排水接続管の埋設箇所における地上側で、埋設された排水接続管の上方を横断するように設置することは、側溝の使用態様として周知のものである。
また、上記例示した文献も、そうであるように、側溝底部が排水接続管上面部に当接しない様に設置することも、普通に行われていることである。
そして、引用発明2の可変側溝を、上記の様な使用態様で使用するように設置することは当業者が容易になし得ることである。

(b)さらに、請求人が本願明細書【0004】で、従来のスリット付き側溝として例示した特願2001-237536号(特開2003-49476号公報)(なお、本願明細書では、従来技術を表す特許文献の番号が「特開平2001-237536号」と記載されているが、上記「特願2001-237536号」の誤記と認める。)の様な、従来の側溝本体高さを側溝本体幅より長く形成した従来形式の側溝に対して、刊行物4、他にも、実願昭61-86876号(実開昭62-200780号)のマイクロフィルムの第1?3図や、特開平7-286357号公報の【0009】【図2】や、実願昭60-14272号(実開昭61-130678号)のマイクロフィルムの第1?2図に記載されている様な、側溝本体高さより側溝本体幅を長く形成し、側溝内部の排水空間路についても高さ方向より幅方向が長い構造とした形式の側溝も周知である。

(c)そして、機械設計や建築設計において、限られたスペースに構成要素を、相互に干渉しないように配置することは、基本的設計行為として日常的に行われていることであり、その様な設計行為を行っている当業者であれば、側溝を、上記(a)の使用態様で使用する場合、上記(b)の後者の側溝本体高さより側溝本体幅を長く形成した形式の側溝を持ちいたときは、同じく前者の側溝本体高さを側溝本体幅より長く形成した従来形式の側溝よりも、排水接続管に側溝底部が当接にくくなることは、特段困難なく予測し得ることであり、引用発明2において、前者の側溝本体高さを側溝本体幅より長く形成した従来形式の側溝で排水接続管と側溝底部とが干渉するときに、後者の側溝本体高さより側溝本体幅を長く形成した形式の側溝を用いて不都合な干渉を回避して上記相違点ア.に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(d)なお、側溝において、排水機能の確保は基本的要求事項であり、上記(c)にあって、可及的に要求事項を満たすことを希望することは、当然のことであるので「同様の排水機能を果たしうるように」することにも、困難性は認められない。

(2)相違点イ.について
(a)例えば、刊行物5?7に記載されている様に、側溝の側溝本体の両側壁に、排水空間路側に貫通する浸透孔を複数穿設することは、周知の技術である。
さらに、刊行物5には、「大雨が降ると・・排水用側溝に雨水が集中して・・・はんらんする一原因になっている。」、「側溝内の雨水が一定の量以上になった時、・・地下に流れ還元される。」と記載され、それら浸透孔は、所定の強さの雨量で排水空間路から外側へ流出浸透させるものと解される。
そして、どの程度の雨量で雨水を地下に還元するかは、当業者が適宜選択し得る事項であり、引用発明2に上記周知の技術を適用すると共に、大雨と認識される程度の値である雨量20mm/hを選択して、上記相違点イ.に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(b)なお、本願発明の「20mm/h」は、出願当初明細書【0022】の「側壁8に設けられる前記4つの浸透孔9は例えば日本地域で大雨注意報発令時の雨量(20mm/h)において前記排水空間路5内の雨水が地中に浸透するように該浸透孔9の高さ位置を決定される」を根拠としてなされたものであり、刊行物5記載の「大雨」と同じ性質の状態に対応したものでもある。

(4)総合判断
そして、本願発明の作用効果は、引用発明2、刊行物2?7記載の事項、及び当業者に周知の事項から当業者であれば予測できた範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用発明2、刊行物2?7記載の事項、及び当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
したがって、本願発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

6. 回答書中の請求人の主張に対する当審の見解
請求人は、平成24年7月3日付け回答書において、補正案を提出し、「以上、前記補正を行えば、請求項1に係る発明は進歩性を有するといえます。
よって、『特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない』との拒絶理由は完全に解消することになります。」と主張している。
しかし、当該補正案の請求項1に「前記排水空間路の幅方向長さは前記側溝本体の幅方向長さの3分の2の長さに形成すると共に前記排水空間路の高さ方向の長さは前記側溝本体の高さ方向の長さの2分の1の長さに形成して、前記排水空間路を囲む側溝本体を厚く構成」する事項を追加する補正は、所謂新規事項を追加するものであるので、補正案は採用出来るようなものではない。

すなわち、回答書において請求人は「当該補正は、本願出願当初の明細書段落(0018)及び図2に記載された事項を根拠とするものです。
段落(0018)には、『本発明による具体的なスリット付き側溝の製品寸法につきその一例をあげて述べると、側溝の幅Hが360mm、側溝の高さTが、300mm、内部の排水空間路5底面の幅を250mm、また排水空間路5の高さを131.6mmとしてある。』旨の記載があります。対比すると、排水空間路5の幅方向長さは、側溝本体1の幅方向長さに対して約3分の2の長さに、排水空間路5の高さ方向の長さは側溝本体1の高さ方向の長さに対して約2分の1の長さになります。
また、図2には、排水空間路5の幅方向長さが側溝本体1の幅方向長さの約3分の2の長さに、排水空間路5の高さ方向の長さが側溝本体1の高さ方向の長さの約2分の1の長さになっている様子が明確に表されています。
したがって、当該補正は、新規事項を追加するものではありません。」と主張しているが、出願当初明細書には「側溝の幅Hが360mm、側溝の高さTが、300mm、内部の排水空間路5底面の幅を250mm、また排水空間路5の高さを131.6mmとしてある」側溝が記載されているものの、寸法がもっと大きな側溝や、小さな側溝においてもそのような寸法比とする技術思想は記載されておらず、さらに、上記図2も寸法比を開示する性質のものと解されるようなものでもないので、本願出願当初の明細書段落(0018)及び図2に記載された事項を根拠として、上記寸法比とすることが、出願当初明細書等に記載されていた事項であると認めることはできない。
 
審理終結日 2012-09-05 
結審通知日 2012-09-06 
審決日 2012-09-19 
出願番号 特願2007-165940(P2007-165940)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E03F)
P 1 8・ 575- Z (E03F)
P 1 8・ 57- Z (E03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西田 秀彦  
特許庁審判長 高橋 三成
特許庁審判官 中川 真一
鈴野 幹夫
発明の名称 浸透型スリット付き側溝の敷設方法  
代理人 伊藤 儀一郎  

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