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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1265637
審判番号 不服2009-21583  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-06 
確定日 2012-11-08 
事件の表示 特願2000-547237「殺虫性毒素およびこれらの毒素をコードするヌクレオチド配列」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月11日国際公開、WO99/57282、平成14年 5月14日国内公表、特表2002-513574〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年5月6日を国際出願日(パリ条約による優先権主張1998年5月6日米国)とする国際出願であって、その請求項1に係る発明は、平成21年11月6日付誤訳訂正書の特許請求の範囲請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「配列番号:54のアミノ酸配列と少なくとも95%の相同性を有する殺虫活性蛋白質をコードする単離ポリヌクレオチド。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例
原査定の拒絶の理由で引例1として引用された本願優先日前の1998年1月に頒布された刊行物である国際公開公報第98/00546号(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が記載されている。
(i)「発明の簡単な概要
本発明は、哺乳動物でない有害生物、特に、植物にとっての有害生物を防除するのに有用な材料および方法に関する。特異的な態様において、本発明は、鱗翅目害虫を制御するのに有用な新規な毒素を提供する。特に好ましい態様において、本発明に係る毒素は、クロヨトウムシ(black cutworm)を制御するために用いられる。さらに、本発明は、本発明に係る、鱗翅目に対して活性のある毒素をコードする塩基配列を提供する。さらに、本発明は、殺虫性毒素をコードする遺伝子の同定および特徴分析において有用な塩基配列および方法を提供する。本発明はさらに、殺虫活性のある、バチルス・チューリンギエンシス(Bacillus thurigiensis)の新しい菌株を提供する。」(4頁22?30行)
(ii)「黒色根切り虫(アグロティス・イプシロン(Agrotis ipsilon(Hufnagel));鱗翅目:ノクテュイデ科(Noctuidae))は、トウモロコシ、綿、アブラナ属の穀物(各種蔬菜(brassica)、ブロッコリー、キャベツ、白菜)、および芝を含む多くの穀物の深刻な害虫である。」(3頁17?19行)
(iii)「本発明の菌株、毒素、および遺伝子を用いた、クロヨトウムシを含む鱗翅目の制御は、当業者に既知のさまざまな方法によって行うことができる。」(17頁12?14行)
(iv)「実施例3-鱗翅目に活性をもつ菌株に存在する、バチルス・チューリンギエンシス(Bacillus thurigiensis)毒素遺伝子の制限酵素断片長多型(RFLP)解析
・・・アグロティス・イプシロン(Agrotis ipsilon)に対してもっとも活性の高い10菌株について、RFLPデータを取った(表3と4)。」(実施例3)
(v)表4には、そのバチルス・チューリンギエンシスの10菌株の1つとして「PS86BB1」のRFLPが記載されている。(31頁)
(vi)「実施例9-毒素遺伝子のさらなる配列決定
表7に列挙されている菌株からの可溶性毒素のDNAの配列を決定した。こうして得た配列の配列番号も表7に記録されている。」(36頁最終行?37頁2行)
(vii)表7には、由来菌株「PS86BB1」に対応する可溶性毒素として、「タンパク質の配列番号」が「82」と、「ヌクレオチドの配列番号」が「83」と、「毒素名」が「86BB1(c)」と記載されている。(37頁)
(viii)「実施例10-クロヨトウムシのバイオアッセイ
B.t.菌株を含む粉末の懸濁液を、適当な量の粉末と蒸留水とを混合し、強く振とうして調製した。・・・以下のB.t.菌株が、クロヨトウムシに対する活性をもっていることが分かった。PS185U2、PS11B、PS218G2、PS213E5、PS86W1、PS28C、PS86BB1、PS89J3、PS86V1、PS94R1、HD525、HD573、PS27J2、HD110、HD10、PS202S、PS101DD、HD129、およびPS31G1。」(実施例10)(下線は、当審による。)
(ix)「実施例11-アグロティス・イプシロン(Agrotis ipsilon)に対するB.t.菌株の活性培養上清として、菌株を調べた。・・・アグロティス・イプシロン(A.ipsilon)に対して致死性(水の対照よりも高い)を示した菌株が、表9に示されている。」(実施例11)
(x)表9には、「A.ipsilonの新生幼虫に対するトップロードバイオアッセイにおけるB.t.の濃縮上清の殺幼虫活性」と表題し、菌株「PS86BB1」の活性が「+」と記載されている。(39頁)
(xi)「実施例12-ヘリオシス・ビレセンス(Heliothis virescens)(Fabricius)とヘリコベルパ・ゼア(Helicoverpa zea)(Boddie)に対するB.t.菌株のシュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)クローンの活性
凍結したシュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)のクローンか、B.t.の上清培養液試料のいずれかとして、菌株を調べた。・・・・結果は、下記の通りである。表10、表11」(実施例12)
(xii)表11には、「H.virescensとH.zeaにおける食餌取り込みバイオアッセイで調べた菌株」と表題し、菌株「PS86BB1」に関し、H.veriscens及びH.zeaの%死亡率が「100」と記載されている。(40頁)
(xiii)「58.有害生物を、農薬効のある用量のバチルス・チューリンギエンシス(Bacillus thurigiensis)の毒素に接触させることを含む、哺乳動物以外の有害生物を制御するための方法であって、該毒素が以下の(a)?(c)からなる群より選択される特徴を有する制御方法:
(a)該毒素が、配列番号:70、・・・、配列番号:82、・・・、配列番号:102、および配列番号:104からなる群より選択される配列と少なくとも約75%の相同性を有する;・・・。
59.有害生物が鱗翅目害虫である、請求項58記載の方法。
60.有害生物が、アグロティス・イプシロン(Agrotis ipsilon)、ヘリオシス・ビレセンス(Heliothis virescens)、およびヘリコベルパ・ゼア(Helicoverpa zea)からなる群より選択される、請求項59記載の方法。」(182頁)

3.対比
(1)本願発明について
本願明細書の段落【0027】には、「本発明は、非哺乳動物に対する害虫を駆除するための材料と方法に関する。具体的な態様において、本発明は、鱗翅目および/または鞘翅目に対して活性をもつ、バチルス・チューリンギエンシス(Bacillus thuringiensis)の新規の単離株および毒素に関する。本発明はさらに、殺虫性毒素をコードする新規の遺伝子および有用な特性をもつ毒素をコードするバチルス(Bacillus)の遺伝子を同定して特徴を調べる新規の方法に関する。本発明は、これらの毒素をコードするポリヌクレオチド配列だけでなく、毒素を発現する組換え宿主を作出するための、これらのポリヌクレオチド配列の使用にも関する。本発明のタンパク質は、以前に、バチルス・チューリンギエンシス(Bacillus thuringiensis)から単離されたタンパク質毒素とは別のものである。」と、また、段落【0041】には、「本発明により提供される毒素のさらに別のファミリーは、SUP型毒素と名付けられた毒素である。一般的には、これらの毒素は可溶性であり、本明細書にて述べたとおり、バチルス(Bacillus)の培養上清から得られる。好ましい態様において、SUP毒素は、鱗翅目害虫に対して活性をもつ。SUP毒素は、典型的には、約70?100 kDaの大きさをもち、好ましくは、約80 kDaの大きさをもつ。SUPファミリーは、本明細書にて、単離株KB59A4-6の毒素によって例示する。」と記載されている。また、段落【0026】の最後に、「配列番号:53は、KB59A4-6由来のSUP遺伝子に関するヌクレオチド配列である。 配列番号:54は、KB59A4-6由来のSUP毒素に関するアミノ酸配列である。」と記載されており、配列番号53は、2364塩基からなる配列であり、配列番号54は787アミノ酸からなる配列である。
よって、本願発明に係るポリヌクレオチドは、Bacillus thuringiensis由来の殺虫活性蛋白質(以下、「Bt毒素」という。)をコードするポリヌクレオチドであって、配列番号:54の787アミノ酸配列からなるBt毒素をコードする単離ポリヌクレオチド、及び、当該アミノ酸配列と少なくとも95%の相同性を有するBt毒素をコードする単離ポリヌクレチドに係るものである。

(2)引用例1について
引用例1には、Bt菌株PS86BB1より特定された毒素名「86BB1(c)」の配列番号82(789アミノ酸)のアミノ酸配列を有するBt毒素をコードするポリヌクレオチドについて、配列番号83にその塩基配列が示されているから、配列番号83に示される塩基配列を有する単離ポリヌクレオチドは記載されていると言える。

(3)対比
両者は、Bt毒素をコードする単離ポリヌクレオチドという点で一致するが、本願発明のコードするBt毒素は「配列番号:54のアミノ酸配列と少なくとも95%の相同性を有する」ものであるのに対し、引用例1記載の配列番号83がコードするBt毒素は、配列番号82のアミノ酸配列を有するものであり、本願発明の配列番号54のアミノ酸配列と約85%の相同性を有するものである点で相違する。

4.判断
引用例1の記載事項(ii)(iv)(v)(ix)(x)より、鱗翅目に属し、害虫であるアグロティス・イプシロンに対し、バチルス・チューリンギエンシス菌株PS86BB1は、殺虫活性を有していることが理解され、(iii)(viii)より、同菌株は、鱗翅目に属するクロヨトウムシに対し殺虫活性を有していることが理解される。さらに、(xi)?(xiii)より、鱗翅目害虫であるヘリオシス・ビレセンス(Heliothis virescens)、およびヘリコベルパ・ゼア(Helicoverpa zea)に対しても、同菌株は、殺虫活性を有していることが理解される。
そして、有用な活性を有する蛋白質が取得された場合に、当該蛋白質が由来する生物に近縁の生物から、当該蛋白質に類似の蛋白質を得ることは、本願優先日当時の当業者に周知の課題であり、かつ、当該蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列に基づき、適当なプライマーあるいはプローブを設計して、当該近縁の生物から調製されたDNAライブラリーからクローニングする手法は、当業者の汎用手段であったから、引用例1において、鱗翅目に属する各種の害虫に対して、バチルス・チューリンギエンシス菌株PS86BB1が殺虫活性を有することを把握した当業者であれば、当該菌株と近縁の生物である、新たなバチルス・チューリンギエンシスから新たな殺虫活性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドを取得することは、容易に想到し得たことである。そして、そのような状況にあれば、引用例1に記載のバチルス・チューリンギエンシス菌株PS86BB1から特定され、毒素であると記載される蛋白質をコードする配列番号83の塩基配列に基づいて、プライマーあるいはプローブを設計し、KB59A4-6等の新たな当該バチルス・チューリンギエンシスから調製されたDNAライブラリーからクローニングすることで、アミノ酸配列の相同性が約85%であるBt毒素をコードするポリヌクレオチドを取得することも、容易になし得たことである。
そして、本願発明の効果について検討するに、本願実施例を含めた明細書全体の記載をみても、本願請求項1に記載される「配列番号:54のアミノ酸配列と少なくとも95%の相同性を有する殺虫活性蛋白質」が、実際にどのような害虫に対してどの程度の殺虫活性を有しているのかを示す、客観的なデータは全く記載されていないから、本願発明が、引用例1の記載から、予測し得ない有利な効果を奏しているとは認められない。
したがって、本願発明は、引用例1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、この出願は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

5.審判請求人の主張
審判請求人は、平成21年6月16日付で提出した意見書において、引用例1には、バチルス・チューリンギエンシス毒素のCry7?9に分類される毒素が記載されており、当該毒素はTable1に示されるように130kDaの分子量を有する結晶性蛋白質であり、芽胞形成期に産生されるものであるのに対し、本願発明の配列番号54のアミノ酸配列を有するタンパク質は、菌の栄養成長期に産生されるものであって、大きさは80kDaの可溶性蛋白質であり、両者は、根本的に物質の構造が異なることを主張している。さらに、両者は、異なる毒素として分類されるものであることを参考資料1として示し、これらのことから、構造及び性質が著しく相違し、菌体から産生される時期も全く異なる新規なクラスの毒素を単離することは、引用例1の発明に基づいて自明の課題であるとはいえないと主張している。
審判請求人の示す参考資料1をみると、本願発明がVipに分類されることは理解されるが、引用例1に示される配列番号82のアミノ酸配列を有する蛋白質がCryに分類されることは示されていない。また、引用例1に記載されるTable1をみると菌株86BB1に関し「130kDa doublet 」と記載されていることから、菌株86BB1からの蛋白質は2量体からなる130kDaであると理解され、本願発明の配列番号54のアミノ酸配列は787アミノ酸からなり、引用例1記載の配列番号82のアミノ酸配列は789アミノ酸からなること、両者のアミノ酸配列は概ね85%の同一性を有していること、引用例1に記載される配列番号82のアミノ酸配列を有するタンパク質は、その配列から、Vipに分類されるものであること(NCBI-Gene ID12183473参照)から、両者の構造及び性質が著しく相違し、菌体から産生される時期も全く異なる新規なクラスの毒素を単離することは、引用例1から自明の課題ではないという審判請求人の主張は採用できない。
なお、Vip3Aに分類されるバチルス・チューリンギエンシス毒素の遺伝子は、本願優先日前すでにクローニングされており(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1996,Vol.93,p.5389-5394)、B.thuringiensis AB88株からクローニングされたVip3A(a)のアミノ酸配列は、本願の配列番号54のアミノ酸配列と約84%の同一性を有している。このB.thuringiensis AB88株からクローニングされたVip3A(a)のアミノ酸配列と引用例1の配列番号82に示されるアミノ酸配列とは、97%の同一性を有していることからも、引用例1の配列番号82に示されるアミノ酸配列はVipに属するものとして当業者は認識すると言える。

また、審判請求人は、平成21年12月22日付で提出した審判請求書の手続補正書において、引用例1の「配列番号74」のアミノ酸配列と本願の配列番号54に示されるアミノ酸配列とのアライメント結果を参考資料2として示し、引用例1に記載されるアミノ酸配列を有する毒素と本願発明の毒素とは、構造的に極めて遠いこと等から引用例1に記載された配列をもとにプライマー等を作成し、本願発明で使用した微生物から毒素の遺伝子の同定を試みたとしても、本願の毒素を単離するのは容易でないと主張している。
しかしながら、参考資料2において、本願の配列番号54とアライメントされているのは引用例1の「配列番号82」ではないから、参考資料2に基づき本願発明の困難性を主張することは、失当であり、採用できない。

また、審判請求人は、同意見書において、本願発明の毒素は、コナガに対して毒性活性を有する点で、引用例1に記載される毒素及び他の一部のVIP毒素と異なり有利な効果を奏すること、同審判請求書の補正書において、本願明細書段落【0041】の記載、及び表8を根拠として、本願発明の毒素は、コナガに対して毒性活性を有することは明細書に基づく主張であること、平成22年9月29日付上申書に添付した参考資料3に本願の配列番号54のアミノ酸配列(Vip3Ab1 AAR40284)、引用例1の配列番号82のアミノ酸配列(86bb1 Sup protein)及びVip3Aaのアミノ酸配列とのアライメントを示し、また、参考資料4(2003年10月31日を出願日とする特許公報である。)には、Vip3Aa蛋白質と非常に相同性の高い対立遺伝子の関係にあるJav90はコナガに対してほとんど殺虫活性を示さないのに対し、本願発明の配列番号54のアミノ酸配列を有するKB59A4-6蛋白質はコナガに対する殺虫活性を有することが示されているから、本願発明の予期しないコナガに対する殺虫活性が本願発明の蛋白質のC末端部位の相違に起因するものであって、このことは引用例1には記載も示唆もされていないから、本願発明は当業者が容易になし得たものではないことを主張している。
しかしながら、本願明細書全体の記載を精査してみても、本願の配列番号54のアミノ酸配列を有する蛋白質の活性及び該蛋白質を有するKB59A4-6株の殺虫活性について、具体的な検討結果は全く示されておらず、段落【0041】には、SUP型毒素である単離株KB59A4-6の毒素が、鱗翅目害虫に対して活性をもつことが漠然と述べられ、また、【表8】には、標的害虫種が多数列挙されているうち、鱗翅目として挙げられている15種の害虫のうちにコナガが記載されているにすぎない。そして、参考資料4からも分かるとおり(TABLE10?12等参照)、「SUP clones」に属する「49C-Native」であっても、鱗翅目に属する6つの害虫のうち、DBMにしか効果がないことからも、それぞれの毒素が鱗翅目のどの害虫に奏功するかは、実際に確認してみないと分からないと言えるから、本願の当初明細書において、単に鱗翅目害虫の1つにコナガが挙げられていることをもって、本願発明の蛋白質がコナガに対する殺虫活性を有していることが開示されているとは到底言えない。
そうすると、本願の出願当初において把握されていない効果を、本願出願日より約4年も経過してから得た証拠で後から主張することは認められず、本願発明が、引用例1より、予測し得ない有利な効果を奏しているとの主張は採用することができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
 
審理終結日 2012-06-08 
結審通知日 2012-06-11 
審決日 2012-06-28 
出願番号 特願2000-547237(P2000-547237)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 雄三  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 鵜飼 健
田中 晴絵
発明の名称 殺虫性毒素およびこれらの毒素をコードするヌクレオチド配列  
代理人 清水 初志  

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