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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06K
管理番号 1265649
審判番号 不服2010-21974  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-30 
確定日 2012-11-08 
事件の表示 特願2004-547744「化学的マーキングまたはトレーシングを用いた物体または物質の認証方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月13日国際公開,WO2004/040504,平成18年 2月 9日国内公表,特表2006-505033〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,2003年(平成15年)10月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理,2002年(平成14年)10月29日仏国)を国際出願日とする出願であって,平成17年6月6日付けで特許法184条の4第1項の規定による翻訳文が提出され,平成21年10月27日付けの拒絶理由の通知に対し,平成22年3月25日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが,平成22年5月27日付けで拒絶査定がなされ,これに対して平成22年9月30日付けで審判請求がなされるとともに誤訳訂正書(ただし,平成22年10月8日付けで手続補正された。)が提出され,平成23年4月22日付けの審尋に対し,平成23年10月14日付けで回答書が提出され,平成23年11月30日付けの拒絶理由の通知に対し,平成24年5月24日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成24年5月24日付けの手続補正書によって補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。なお,「又は」及び「または」は,「又は」に統一した。
「分光測光手段に結合されたコンピュータシステムを用いて異なる物体又は物質を識別又は認証する方法であって,この方法が少なくとも初期段階と,識別及び認証段階を備え,
前記初期段階が,
-光線の入射により励起され,互いに,かつ,組み入れ予定である物体及び物質に関して区別できる周波数スペクトルを有するエネルギー放射を生じる複数の化学的マーカーを選択する工程と,
-各物体又は物質に,他の物体に割り当てられた組み合わせとは異なる前記化学的マーカーの組み合わせを割り当て,その後,割り当てられた前記組み合わせを構成する前記化学的マーカーのうち選択された化学的マーカーのみを前記各物体又は物質に所定の濃度で組み入れて前記物体又は物質をマーキングする工程と,
-割り当てられた組み合わせ内における少なくとも前記各化学的マーカーの存在又は不在から成るパラメータを用いて規定された,前記物体又は前記物質に対する認証コードを決定する工程と,
-すべての前記物体又は物質の前記認証コードと,これら物体又はこれら物質に対応する関連データとを前記コンピュータシステムのメモリ内に記憶する工程と,
-バーコード又はこれに類する識別コードを前記物体又は物質に割り当て,この識別コードを,前記物体,前記物質,その容器及び/又は包装と関連付け可能な工程と,
-各物体に対する前記識別コードを前記システムの前記メモリ内に記憶する工程と,
-前記識別コードと前記認証コードとの間で一致を規定する工程とを備え,
前記システムによる前記識別及び認証段階が,
-前記物体と関連する前記識別コードを読み取ることにより前記物体又は物質の理論的な識別を行う工程と,
-前記パラメータ,特に,前記化学的マーカーの存在又は不在を検出するように前記物体又は物質の少なくとも一部に分光測光分析を行い,前記物体又は物質の前記認証コードを決定する工程と,
-理論的な前記識別コードが前記認証コードに一致する場合,前記物体を認証する工程と,
-一致が決定された場合,確認信号を発し,あるいは,前記認証コードが前記識別コードに一致しない場合,警報信号を発する工程と
を備えることを特徴とする物体又は物質の認証及び識別方法。」

3 引用例
(1)引用例1
ア 拒絶の理由に引用された,特開2002-83274号公報(平成14年3月22日出願公開。以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
「【0001】・・・本発明は,銀行券,証券,旅券冊子等の真偽判別用シートと真偽判別方法及びその装置並びに真偽判別システムに関する。」
「【0020】また,本発明の真偽判別方法は,個別情報とNC情報とを備える真偽判別用シートの真偽を判別する方法であって,真偽判別用シート毎の個別情報とNC情報との対応を示す対応リストに前記個別情報と前記NC情報の対応を記録するステップと,真偽判別用シートの個別情報とNC情報を機械的に読み取るステップと,前記読み取った個別情報が前記対応リストに存在し,かつ前記読み取ったNC情報が,前記対応リストに記録されている前記個別情報に対応するNC情報と一致する場合に,真偽の判別部において前記真偽判別用シートを真正物と判別するステップとを備えることを特徴としている。」
「【0035】(実施の形態1)図1に,本発明の真偽判別用シートとして用いた銀行券1の概略図を示す。この銀行券1には,個別情報として記番号3が印刷されており,製造者すら情報の制御ができない情報を得るために,機能性材料である紫外線励起蛍光材料を含む紙繊維付着インキ皮膜2(特願平11-72400号)が抄き込まれている。・・・この紙繊維付着インキ皮膜の蛍光発光を機械的に読み取ることにより偶発的乱数情報であるNC情報を付与する。・・・」
「【0037】(実施の形態2)また,図2に,個別情報として二次元バーコード6が印刷されており,NC情報として紫外線励起蛍光材料を含む紙繊維付着インキ皮膜2を抄き込んだ真偽判別用シート4を示す。・・・二次元バーコードを使用しているので,個別情報の情報量を増加させたり,機械読み取りを安定化させたりすることが可能である。・・・」
「【0041】・・・図6に,個別情報を読み取るCCDセンサ13と,NC情報である紫外線励起蛍光発光を読み取るための紫外線光源16と蛍光CCDセンサ15よりなる紫外線励起蛍光発光読取部分17とを備えた機械読取部30を示す。この機械読取部30を使用することにより,実施の形態1及び実施の形態5の繊維類7として紫外線励起蛍光材料を使用した場合の真偽判別用シートの個別情報とNC情報を読み取ることが可能になる。」
「【0046】(実施の形態6)図10に,真偽判別用シートの真偽判別方法のフローチャートを,そして図11に,その方法を実現する真偽判別装置22を示す。S1において,あらかじめ,真偽判別用シートから,その個別情報とNC情報との対応を対応リストに記録しておく。S2において,その後,新規に真偽判別用シートが発行された場合や,真偽判別用シートの使用を停止する場合など,対応リストの更新を行う。真偽判別を行いたいときに,S3において,機械読取部30で,個別情報とNC情報を読み取り,S4において,真偽判別部31でそれらの対応が対応リスト記録部32の対応リストに存在するかどうかを判別する。その手順としては,読み取った個別情報が前記対応リストに存在し,かつ読み取ったNC情報が,対応リストに記録されている個別情報に対応するNC情報と一致する場合に,真偽の判別部において前記真偽判別用シートを真正物と判別する。この真偽判別を行うことにより,真偽判別用シートと対応リストに存在しないようなシートとを判別することが可能となる。」
「【0049】(実施の形態8)図15に,本実施の形態の真偽判別用シート管理センタ19を,図16に,本実施の形態の真偽判別用シート読取端末20を示す。真偽判別用シート管理センタ19は,真偽判別用シート毎の個別情報とNC情報の対応を示す対応リストを記録する対応リスト記録部32と,それに基づいて真偽判別を行う真偽判別部31を備える。真偽判別用読取端末20は,シートの個別情報とNC情報を読み取る機械読取部30と,真偽判別用シート管理センタ19からの送信結果を表示する表示部34を備える。
【0050】図17に,真偽判別用シート4発行時において,真偽判別用シート4から個別情報とNC情報を対応リストに登録しているところを示す。・・・
【0051】図19に,本実施の形態による真偽判別方法における処理の手順を示す。S1で,真偽判別用シート読取端末20に挿入された真偽判別用シート4の検査を行う際に,その真偽判別用シート読取端末20は,機械読取部30においてその真偽判別用シート4から個別情報とNC情報とを読み取り,それらの情報を真偽判別用シート管理センタ19に送る。S2として,真偽判別用シート管理センタ19は,送られてきた個別情報とNC情報から,対応リスト記録部32を使って,対応リストに個別情報が存在するか否かを判定し,存在する場合には,その個別情報の正しいNC情報と送られてきたNC情報が一致しているか否かを,真偽判別部において判定する。これらの検査を満足した場合に,その真偽判別用シート4は受理できるシートであるという結果を真偽判別用シート読取端末20に送る。また,個別情報が存在しない場合,あるいは個別情報とNC情報との対応が正しくない場合は,その真偽判別用シート4は偽造シートであるという結果を送る。S3において,真偽判別用シート読取端末20は,表示部34で真偽判別用シート管理センタ19から送られてきた判別結果を表示し,その判別結果に基づき,シートが偽造シートであった場合,真偽判別用シート読取端末を管理する機関は,係員を呼び出したり,警察に通報するなどの対応をとる。」

イ 上記記載事項を総合すれば,引用例1には,次の技術的事項が記載されているということができる。
引用例1に記載された技術は,銀行券等の真偽判別用シートにおける真偽判別方法に係る技術である(【0001】)。
「真偽判別用シート4」には,個別情報として記番号3又は二次元バーコード6が印刷されるとともに,「紫外線励起蛍光材料を含む紙繊維付着インキ皮膜2」が抄き込まれており,この紙繊維付着インキ皮膜の蛍光発光を機械的に読み取ることにより偶発的乱数情報である「NC情報」が付与される(【0035】,【0037】)。
一方,「真偽判別装置22」は,「機械読取部30」と「対応リスト記録部32」と「真偽判別部31」とを備え(【0046】,図11),「機械読取部」は,個別情報を読み取るためのCCDセンサ13と,NC情報である紫外線励起蛍光発光を読み取るための紫外線光源16と蛍光CCDセンサ15よりなる紫外線励起蛍光発光読取部分17を備え,CCDセンサ13により個別情報を読み取り,紫外線励起蛍光発光読取部分17によりNC情報である紫外線励起蛍光発光を読み取るものである(【0041】)。
真偽判別用シートの検査は,あらかじめ,真偽判別用シートから個別情報とNC情報を読み取り,その個別情報とNC情報との対応を対応リストに記録しておき(【0050】,図17),その後,判別対象である真偽判別用シートの個別情報とNC情報を機械的に読み取り,読み取った個別情報が対応リスト記録部32の対応リストに存在し,かつ読み取ったNC情報が,対応リストに記録されている個別情報に対応するNC情報と一致する場合に,真偽判別部31が,当該真偽判別用シートを真正物と判別することにより行われる(【0020】,【0046】,【0051】,図10,図19)。そして,判別結果は,表示部34に表示され,偽造シートであった場合には,係員を呼び出したり,警察に通報するなどの対応が採られる(【0051】)。
以上のことから,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「真偽判別用シートの真偽判別方法であって,
真偽判別用シートに,個別情報として記番号又は二次元バーコードを印刷するとともに,紫外線励起蛍光材料を含む紙繊維付着インキ皮膜を抄き込み,この紙繊維付着インキ皮膜の蛍光発光を機械的に読み取ることにより偶発的乱数情報であるNC情報が付与され,
真偽判別装置は,CCDセンサと紫外線励起蛍光発光読取部分とを備えた機械読取部,対応リスト記録部,及び真偽判別部を備え,機械読取部は,CCDセンサにより個別情報を読み取り,紫外線励起蛍光発光読取部分によりNC情報である紫外線励起蛍光発光を読み取るものであり,
真偽判別用シートの検査は,あらかじめ,真偽判別用シートから個別情報とNC情報を読み取り,その個別情報とNC情報との対応を,対応リスト記録部の対応リストに記録しておき,その後,判別対象である真偽判別用シートの個別情報とNC情報を機械的に読み取り,読み取った個別情報が対応リストに存在し,かつ読み取ったNC情報が,対応リストに記録されている個別情報に対応するNC情報と一致する場合に,当該真偽判別用シートを真正物と判別することにより行われ,
判別結果が表示部に表示される,
真偽判別用シートの真偽判別方法。」

(2)引用例2
ア 同じく引用された,特開平11-316200号公報(平成11年11月16日出願公開。以下「引用例2」という。)には,次の記載がある。
「【0001】・・・本発明は物品識別法,特に車両やテレビ受像機など,盗難にあいやすい物品を識別する手段として有用な物品識別法に関するものである。」
「【0004】・・・本発明による物品の識別法は,特性スペクトルを持つ少なくとも二種類の検出可能物質を比率と濃度の双方あるいは一方を定めて物品中または物品の被覆又はコーティング材に導入または含ませるステップを含み,その特性スペクトルの識別および定量の双方または一方が,適切な分光手段によって,化学的性質,比率,相対濃度のいくつか,またはその全てにしたがって行なわれる。」
「【0005】この明細書において,用語「分光手段」は科学的に最も広範な意味で使用し,例えば,光学的分光,エックス線スペクトル,核磁気共鳴,分子線分光,中性子エネルギ分散分光(NEDS),電子スピン共鳴が含まれ,下記の理由から,最初の二つが好ましい。
【0006】エックス線分光では,周期表の全元素についてK線,L線およびそれ以上のスペクトル線の識別が可能である。スペクトル線の相対的な強さは,相対濃度を表す非常に正確で再現性のあるパターンを作り出す。これは,どんな物質または材料にも化学的識別をコード化する最も有用な方法であり,対象物に装置を可視的に接触させることによって確実な読出しが可能である。」
「【0009】光学的分光は,可視領域または近可視領域で非常に明瞭な光学スペクトルを持つので,アルカリや土類アルカリ金属の識別には有利である。優れた分光計を用いて定量的にスペクトルを読むことができる。」
「【0012】発明の特定形態において,明確かつ正確に判明している濃度で明確に異なるスペクトル線を持つ一連の異種元素を母(ホスト)材または対象物品の適当な被覆に施すことを提案する。使用元素の核電荷(nuclear charge)が各種スペクトル線の読出し順序を決定し,その強さで読出し値を決定することができる。例えば,化学的識別法(ラベリング)による数列発生用ルーチンは下記の通りである。
ステップ1:例えば,Na,K,Rb,Cs,Mg,Ca,Sr,Ba,ランタニド等を含む元素系列を選択し,そのいくつか,またはすべてを組み込む(インコーポレート)。
ステップ2:ステップ1とは異なる,例えば,Mn,Co,Cu,Zn等を含む第2の元素系列を選択し,その1つを組み込む。
ステップ3:ステップ1の系列から一つの順列(permutation)をとってその順列をステップ2の一元素の存在に関連付けることによって元素系列の順列を定義する。
ステップ4:ステップ2の元素濃度のピーク長を物品メーカのタイプにしたがって1?10の基準値(norm)を付ける。これらはステップ1?3と同様に並べ替えることも可能である。
ステップ5:ピーク長が0?10になるステップ1の元素濃度をステップ4の元素濃度に対し組み込み関連させる。
【0013】デコーディング処理も同様である。
ステップA:まず,ステップ2の元素の存在を確認し,ステップ4にしたがって濃度基準(normation)を規定する。その他すべてのピークはこの基準に合致するはずであり,基準ピークに対し10を超えることはない。さもなければ,相対濃度に不正処理が行なわれた証拠である。
ステップB:ステップ2の元素にしたがって順列を規定する。
ステップC:ステップ1で規定された元素の系列および濃度を決定する。
ステップD:ステップ2で選択した元素または元素結合せの濃度基準にマッチさせる。
ステップE:結果:対象物品または部品に対する個別標識(ラベリング)である数字列(ID番号)を読む。これを図1および図2で例示する。
【0014】すなわち,製造過程および塗装過程で化学反応度およびスペクトル特性が決定されれば,上記エンコーディング元素の混合物によって塗装のようなコーティング,焼付けコーティング,エンジンオイルに化学的標識を付けることが可能である。各濃度およびアウト-ディフュージョン(out-diffusion)を含むエンコード手順は中央コンピュータに保存されており,配送業者は基準(ノーメーション)元素およびその基準(ノーメーション)値を知らない。個々の混合物は主(ホスト)塗装材に導入され,対象物品に適用される。・・・」
「【0016】メーカ名に関する情報は読取装置から得られ,中央コンピュータに入力される。分光手段はメーカIDにメーカスペクトルを照合し,残りのスペクトルの基準(ノーメーション)を決定する番号に読取装置の基準バイトを設定する。そして,その番号は物品のID番号に変換される。この番号は中央コンピュータに入力され,そこで,そのIDはデータベース登録の盗難車または盗難物品と照合される。中央コンピュータは現場の読取装置に信号を送り,その物品が盗難品か遺失物を知らせる。・・・」

イ 上記記載から,引用例2には,「物品識別法に関する技術であって,特性スペクトルを持つ少なくとも2種類の検出可能物質を選択し,比率と濃度の双方又は一方を定めて,物品中又は物品の被覆等に含ませることにより,エックス線分光又は光学的分光によって検出されたスペクトル線のパターンを識別することにより物品のID番号に変換可能な化学的標識を付与する技術」が記載されていると認められる。

4 対比
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明は,「真偽判別用シートの真偽判別方法」に係る発明であって,真偽判別は,判別対象の真偽判別用シートから読み取った個別情報が対応リストに存在し,かつ読み取ったNC情報が,対応リストに記録されている個別情報に対応するNC情報と一致するか否かを判定するものであるから,「異なる物体又は物質を識別又は認証する方法」ということができる。
さらに,引用発明における,「真偽判別用シートには,個別情報が印刷されるとともに,紫外線励起蛍光材料を含む紙繊維付着インキ皮膜が抄き込まれ,この紙繊維付着インキ皮膜の蛍光発光を機械的に読み取ることにより偶発的乱数情報であるNC情報が付与され」ており,「真偽判別装置は,CCDセンサと紫外線励起蛍光発光読取部分とを備えた機械読取部,対応リスト記録部,及び真偽判別部を備え,機械読取部は,CCDセンサにより個別情報を読み取り,紫外線励起蛍光発光読取部分によりNC情報である紫外線励起蛍光発光を読み取るもの」である。ここで,「紫外線励起蛍光発光読取部分」は,前記紙繊維付着インキ皮膜の蛍光発光を読み取るものであるから,本願発明の「分光測光手段」と対比すれば,両者は,「測光手段」である点で共通する。
また,引用発明の真偽判別装置が,コンピュータシステムを用いる構成を含むことは,自明である。
以上のことから,本願発明と引用発明は,「測光手段に結合されたコンピュータシステムを用いて異なる物体又は物質を識別又は認証する方法」である点で共通する。

イ 引用発明の「NC情報」は,真偽判別用シートに抄き込まれた外線励起蛍光材料を含む紙繊維付着インキ皮膜の蛍光発光を,機械読取部の紫外線励起蛍光発光読取部分により読み取ることによって得られた偶発的乱数情報であるから,「化学的手段に基づく情報」ということができ,また,「個別情報」とともに,真偽判別用シートを特定し,その真偽を判別するために用いる情報であるから,「認証コード」と呼称することができる。
引用発明は,上記外線励起蛍光材料を真偽判別用シートに抄き込み,紙繊維付着インキ皮膜の蛍光発光を読み取ることによって偶発的乱数情報である「NC情報」を得るものであるから,「NC情報」,すなわち「認証コード」は,「化学的手段」により規定され,「測光に基づく分析」により読み取られている(決定されている)ということができる。
他方,本願発明は,「光線の入射により励起され,互いに,かつ,組み入れ予定である物体及び物質に関して区別できる周波数スペクトルを有するエネルギー放射を生じる複数の化学的マーカーを選択する工程」,「各物体又は物質に,他の物体に割り当てられた組み合わせとは異なる前記化学的マーカーの組み合わせを割り当て,その後,割り当てられた前記組み合わせを構成する前記化学的マーカーのうち選択された化学的マーカーのみを前記各物体又は物質に所定の濃度で組み入れて前記物体又は物質をマーキングする工程」,及び「割り当てられた組み合わせ内における少なくとも前記各化学的マーカーの存在又は不在から成るパラメータを用いて規定された,前記物体又は前記物質に対する認証コードを決定する工程」を備え,また,「前記パラメータ,特に,前記化学的マーカーの存在又は不在を検出するように前記物体又は物質の少なくとも一部に分光測光分析を行い,前記物体又は物質の前記認証コードを決定する工程」を備えるものであり,ここで,「認証コード」は,「光線の入射により励起され,互いに,かつ,組み入れ予定である物体及び物質に関して区別できる周波数スペクトルを有するエネルギー放射を生じる複数の化学的マーカー」の「存在又は不在から成るパラメータを用いて規定」されたものであるから,「化学的手段」を用いて規定された情報ということができ,また,「分光測光分析」を用いていることから,「測光に基づく分析」により「認証コード」が決定されている(読み取られている)ということができる。
そうすると,本願発明と引用発明は,「化学的手段に基づいて物体又は物質に対する認証コードを決定する工程」及び「測光に基づく分析により,物体又は物質の認証コードを決定する工程」を備える点で共通する。

ウ 引用発明は,あらかじめ,真偽判別用シートから読み取ったNC情報を,個別情報とともに対応リスト記録部の対応リストに記録しているから,本願発明と引用発明は,「すべての物体又は物質の認証コードをコンピュータシステムのメモリ内に記憶する工程」を備える点で共通する。

エ 引用発明の「個別情報」は,NC情報とともに,真偽判別用シートを特定し,その真偽判別に用いられる情報であるから,「識別コード」と呼称することができる。また,「個別情報」は,判別対象である真偽判別用シートに,記番号又は二次元バーコードとして印刷されることから,物体である真偽判別用シートに割り当てられ,真偽判別用シートと関連付けられているということができる。
したがって,本願発明と引用発明は,「バーコード又はこれに類する識別コードを物体又は物質に割り当て,この識別コードを,物体,物質,その容器及び/又は包装と関連付け可能な工程」を備える点で一致する。

オ 引用発明の「個別情報」は,さらにNC情報と対応付けて,対応リスト記録部の対応リストに記録されているから,本願発明の「物体に対する識別コードをシステムのメモリ内に記憶する工程」に相当する構成を備える。

カ 引用発明における真偽判別用シートの検査は,判別対象である真偽判別用シートの個別情報とNC情報を,CCDセンサ及び紫外線励起蛍光発光読取部分により,機械的に読み取り,読み取った個別情報が対応リストに存在し,かつ読み取ったNC情報が,対応リストに記録されている個別情報に対応するNC情報と一致する場合に,当該真偽判別用シートを真正物と判別するものである。
他方,本願発明は,「識別コードと認証コードとの間で一致を規定する工程」を備え,「識別及び認証段階」が,「物体と関連する識別コードを読み取ることにより物体又は物質の理論的な識別を行う工程」と,「理論的な識別コードが認証コードに一致する場合,物体を認証する工程」とを備えるものであり,要するに,識別コードとして認証コードと同一のコードを設定し,読み取った識別コードと認証コードが一致するか否かによって認証を行うものである。
本願発明と引用発明とを対比すれば,細部は異なるものの,「識別コードと認証コードとの間の対応を規定する工程」を備えるとともに,「物体と関連する識別コードを読み取ることにより物体又は物質の理論的な識別を行う工程」,及び「理論的な識別コードと認証コードとが,規定された対応関係にある場合,物体を認証する工程」を備える点で共通する。

キ 引用発明は,判別結果が表示部に表示され,他方,本願発明は,「一致が決定された場合,確認信号を発し,あるいは,前記認証コードが前記識別コードに一致しない場合,警報信号を発する工程」を備えるものであり,ここで,「表示」及び「確認信号や警報信号を発すること」は「報知」にほかならないから,本願発明と引用発明は,「識別及び認証結果を報知する工程」を備える点で共通する。

ク 引用発明における,個別情報とNC情報との対応を対応リストに記録するまでの工程及び真偽判別用シートの検査以降の工程は,本願発明に対応させれば,それぞれ「初期段階」及び「識別及び認証段階」と呼称することができ,本願発明と引用発明は,上記「物体又は物質の認証及び識別方法」が,「少なくとも初期段階と,識別及び認証段階を備える」点で一致する。

(2)以上のことから,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
【一致点】
「測光手段に結合されたコンピュータシステムを用いて異なる物体又は物質を識別又は認証する方法であって,この方法が少なくとも初期段階と,識別及び認証段階を備え,
前記初期段階が,
化学的手段に基づいて前記物体又は物質に対する認証コードを決定する工程と,
すべての前記物体又は物質の認証コードを前記コンピュータシステムのメモリ内に記憶する工程と,
バーコード又はこれに類する識別コードを前記物体又は物質に割り当て,この識別コードを,前記物体,前記物質,その容器及び/又は包装と関連付け可能な工程と,
各物体に対する前記識別コードを前記システムの前記メモリ内に記憶する工程と,
前記識別コードと前記認証コードとの間の対応を規定する工程とを備え,
前記システムによる前記識別及び認証段階が,
前記物体と関連する前記識別コードを読み取ることにより前記物体又は物質の理論的な識別を行う工程と,
測光に基づく分析により,前記物体又は物質の前記認証コードを決定する工程と,
理論的な前記識別コードと前記認証コードとが,前記規定された対応関係にある場合,前記物体を認証する工程と,
識別及び認証結果を報知する工程と
を備える物体又は物質の認証及び識別方法。」
【相違点1】
「測光手段」が,本願発明は,「分光測光手段」であるのに対し,引用発明は,「紫外線励起蛍光発光読取部分」である点。
【相違点2】
「化学的手段に基づいて物体又は物質に対する認証コードを決定する工程」が,本願発明は,「光線の入射により励起され,互いに,かつ,組み入れ予定である物体及び物質に関して区別できる周波数スペクトルを有するエネルギー放射を生じる複数の化学的マーカーを選択する工程」,「各物体又は物質に,他の物体に割り当てられた組み合わせとは異なる前記化学的マーカーの組み合わせを割り当て,その後,割り当てられた前記組み合わせを構成する前記化学的マーカーのうち選択された化学的マーカーのみを前記各物体又は物質に所定の濃度で組み入れて前記物体又は物質をマーキングする工程」,及び「割り当てられた組み合わせ内における少なくとも前記各化学的マーカーの存在又は不在から成るパラメータを用いて規定された,前記物体又は物質に対する認証コードを決定する工程」からなるのに対し,引用発明は,「紫外線励起蛍光材料を含む紙繊維付着インキ皮膜を抄き込み,この紙繊維付着インキ皮膜の蛍光発光を機械的に読み取ること」により認証コードとしての「NC情報」が付与されるものであり,物体又は物質に対する認証コードを決定するための化学的手段が,本願発明と異なる点。
【相違点3】
本願発明は,認証コードとともに,「物体又は物質に対応する関連データ」を記憶するのに対し,引用発明には,「物体又は物質に対応する関連データ」を記憶することは特定されていない点。
【相違点4】
識別及び認証段階における「測光に基づく分析により,物体又は物質の認証コードを決定する工程」が,本願発明は,「パラメータ,特に,化学的マーカーの存在又は不在を検出するように物体又は物質の少なくとも一部に分光測光分析を行う」ものであるのに対し,引用発明は,そのようなものではない点。
【相違点5】
物体又は物質の認証が,本願発明は,「識別コードと認証コードとの間で一致を規定」し,読み取った「識別コードが認証コードに一致する場合,物体を認証する」のに対し,引用発明は,「読み取った個別情報が対応リストに存在し,かつ読み取ったNC情報が,対応リストに記録されている個別情報に対応するNC情報と一致する場合に,当該真偽判別用シートを真正物と判別」するもの,すなわち,個別情報(識別コード)とNC情報(認証コード)との対応を記録しておき,読み取った個別情報(識別コード)とNC情報(認証コード)との対応関係が,記録された対応関係と一致する場合,物体を認証するものである点
【相違点6】
「識別及び認証結果を報知する工程」が,本願発明は,認証がされなかった場合,「確認信号を発」し,認証がされなかった場合,「警報信号を発する」のに対し,引用発明は,「表示」する工程である点。

5 判断
以下,上記各相違点について検討する。なお,相違点1,2,4,5は,いずれも「認証コード」に係る構成の相違に基づくものであり,相互に関連していることから,まとめて検討する。
(1)相違点1,2,4,5について
ア 引用例2には,物体又は物質を識別又は認証する技術として,「特性スペクトルを持つ少なくとも2種類の検出可能物質を,比率と濃度の双方又は一方を定めて,物品中又は物品の被覆等に含ませることにより,エックス線分光又は光学的分光によって検出されたスペクトル線のパターンを識別することにより物品のID番号に変換可能な化学的標識を付与する技術」が記載されている。
引用例2に記載された技術において,検出可能物質は,特性スペクトルを持ち,少なくとも2種類の検出可能物質を選択し,比率と濃度の双方又は一方を定めることにより,スペクトル線のパターンが定まるものであるから,「光線の入射により励起され,区別できる周波数スペクトルを有するエネルギー放射を生じる複数の化学的マーカー」ということができる。
引用例2に記載されたものは,検出可能物質を少なくとも2種類選択し,比率と濃度の双方又は一方を定めて,物品中又は物品の被覆等に含ませることにより,スペクトル線のパターンに基づいて「ID番号」に変換することができるものであるから,「組み入れ予定である物体及び物質に関して区別」することができ,「各物体又は物質に,他の物体に割り当てられた組み合わせとは異なる化学的マーカーの組み合わせを割り当て,その後,割り当てられた組み合わせを構成する化学的マーカーのうち選択された化学的マーカーのみを各物体又は物質に所定の濃度で組み入れて物体又は物質をマーキングする」ために用いることができるものである。さらに,検出可能物質を少なくとも2種類選択するのであるから,「ID番号」を決定するにあたり,「割り当てられた組み合わせ内における少なくとも各化学的マーカーの存在又は不在から成るパラメータ」を用いているということができる。
引用発明と引用例2に記載された技術は,いずれも,物体又は物質の識別又は認証に係る技術分野に属する技術であり,いずれも化学的手段に基づいて物体又は物質を識別する技術であるから,引用発明において,「NC情報」を付与する手段として上記引用例2に記載された技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであり,この結果,相違点2に係る構成となることは,自明である。
イ エックス線分光又は光学的分光において,分光測光手段を用いることは,例示するまでもなく周知の技術手段であり,引用発明において,引用例2に記載された技術を適用した場合,測光手段として,「分光測光手段」を用いることとなること,及び識別及び認証段階における認証コードを決定するための「測光に基づく分析」が,「パラメータ,特に,化学的マーカーの存在又は不在を検出するように物体又は物質の少なくとも一部に分光測光分析を行う」構成となることは,必然である。
相違点1,4は,相違点2に係る構成とすることにより,必然的に定まるものであり,格別のものではない。
ウ 引用例2に記載されたものは,物品の「ID番号」に変換可能な化学的標識を付与するものであることからすれば,引用発明において,上記のとおり,引用例2に記載された技術を適用すれば,「NC情報」として,偶発的乱数情報に代えて「ID番号」が付与されることとなる。ここで,「ID番号」として「個別情報」と同じ情報を付与し,読み取った「ID番号」が個別情報に一致する場合,物体を認証する構成とすることは,当業者が適宜なし得る設計事項である。
相違点5は,格別のものではない。
エ 以上のとおりであるから,相違点1,2,4,5に係る構成は,引用発明,引用例2に記載された技術,及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

(2)相違点3について
引用発明において,NC情報とともに,「物体又は物質に対応する関連データ」を記憶することは,当業者であれば必要に応じて適宜なし得ることである。
相違点3は,格別のものではない。

(3)相違点6について
引用発明において,「表示」の内容は,当業者が適宜設計できる事項であり,引用例1には,「判別結果は,表示部34に表示され,偽造シートであった場合には,係員を呼び出したり,警察に通報するなどの対応が採られる」(【0051】)と記載されていることからしても,真偽判別用シートが真正物と判別されたか否かによって,表示内容を「確認信号」又は「警報信号」とすることを想定していたことは明らかである。
相違点6は,格別のものではない。

(4)そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,引用発明,引用例2に記載された技術及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。
以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明,引用例2に記載された技術及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例1,2に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-15 
結審通知日 2012-06-18 
審決日 2012-06-29 
出願番号 特願2004-547744(P2004-547744)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高瀬 勤  
特許庁審判長 西山 昇
特許庁審判官 殿川 雅也
酒井 伸芳
発明の名称 化学的マーキングまたはトレーシングを用いた物体または物質の認証方法  
代理人 小倉 正明  
代理人 小倉 正明  

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