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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08J
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1265719
審判番号 不服2010-7915  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-14 
確定日 2012-11-07 
事件の表示 特願2004-535087「ポリアゾールをベースとするポリマーフィルム、およびその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月25日国際公開、WO2004/024797、平成17年12月 8日国内公表、特表2005-537380〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成15年8月14日(パリ条約による優先権主張 平成14年8月29日 ドイツ連邦共和国(DE))を国際出願日とする出願であって、平成20年7月25日付けで拒絶理由が通知され、同年10月28日に手続補正書及び意見書が提出され、平成21年2月10日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年5月18日に手続補正書及び意見書が提出されたが、同年12月10日付けで拒絶査定された。これに対して、平成22年4月14日に審判請求書及び手続補正書が提出され、同年6月2日付けで前置報告がなされ、平成24年1月11日付けで当審において審尋がなされ、同年4月9日に回答書が提出されたものである。

第2.平成22年4月14日付けの手続補正についての補正の却下の決定

1.補正の却下の決定の結論
平成22年4月14日付けの手続補正を却下する。

2.理由
(1)補正の内容
平成22年4月14日付けの手続補正(以下、「本件手続補正」という。)は、審判請求と同時にされた補正であって、平成21年5月18日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、補正前の特許請求の範囲の

「【請求項1】
A)ポリリン酸中で、1つ以上の芳香族テトラアミノ化合物と、カルボン酸モノマー1個あたり少なくとも2つの酸基を有する1つ以上の芳香族カルボン酸またはこれらのエステルとを混合するか、または1つ以上の芳香族および/またはヘテロ芳香族ジアミノカルボン酸を混合し、溶液および/または分散液を形成する工程、
B)工程A)による混合物を用いて支持体に層を塗布する工程、
C)不活性ガス下、350℃までの温度で、工程B)にしたがって得られるシート状構造体/層を加熱して、ポリアゾールポリマーを形成する工程、
D)工程C)で形成されたポリマーフィルムをこのフィルムが自己支持性になり、かつ損傷を受けずに支持体から脱着することができるまでの温度および時間で、湿分の存在下処理する工程
E)工程D)で形成されたポリマーフィルムを支持体から脱着する工程、
F)存在するポリリン酸またはリン酸を除去および乾燥する工程
を含む方法によって得られるポリアゾールをベースとするポリマーフィルム。
【請求項2】
工程C)が、不活性ガス下、280℃までの温度で、工程B)にしたがって得られるシート状構造体/層を加熱して、ポリアゾールポリマーを形成する工程であることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項3】
用いられる芳香族テトラアミノ化合物が、3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニル、2,3,5,6-テトラアミノピリジン、1,2,4,5-テトラアミノベンゼン、ビス(3,4-ジアミノフェニル)スルホン、ビス(3,4-ジアミノフェニル)エーテル、3,3’,4,4’-テトラアミノベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルメタン、および3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルジメチルメタンであることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項4】
用いられる芳香族ジカルボン酸が、イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、5-ヒドロキシイソフタル酸、4-ヒドロキシイソフタル酸、2-ヒドロキシテレフタル酸、5-アミノイソフタル酸、5-N,N-ジメチルアミノイソフタル酸、5-N,N-ジエチルアミノイソフタル酸、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸、2,5-ジヒドロキシイソフタル酸、2,3-ジヒドロキシイソフタル酸、2,3-ジヒドロキシフタル酸、2,4-ジヒドロキシフタル酸、3,4-ジヒドロキシフタル酸、3-フルオロフタル酸、5-フルオロイソフタル酸、2-フルオロテレフタル酸、テトラフルオロフタル酸、テトラフルオロイソフタル酸、テトラフルオロテレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニン酸、1,8-ジヒドロキシナフタレン-3,6-ジカルボン酸、ビス(4-カルボキシフェニル)エーテル、ベンゾフェノン-4,4’-ジカルボン酸、ビス(4-カルボキシフェニル)スルホン、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、4-トリフルオロメチルフタル酸、2,2-ビス(4-カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-スチルベンジカルボン酸、4-カルボキシケイ皮酸、またはこれらのC_(1)?C_(20)アルキルエステルまたはC_(5)?C_(12)アリールエステル、またはこれらの酸無水物または酸塩化物であることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項5】
用いられる芳香族カルボン酸は、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、またはそれらのC_(1)?C_(20)アルキルエステルまたはC_(5)?C_(12)アリールエステル、またはそれらの酸無水物またはそれらの酸塩化物であることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項6】
用いられる芳香族カルボン酸が、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸;1,2,4-ベンゼントリカルボン酸;(2-カルボキシフェニル)イミノ二酢酸;3,5,3’-ビフェニルトリカルボン酸;3,5,4’-ビフェニルトリカルボン酸、および/または2,4,6-ピリジントリカルボン酸であることを特徴とする請求項5に記載のポリマーフィルム。
【請求項7】
用いられる芳香族カルボン酸が、ベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸、3,5,3’,5’-ビフェニルテトラカルボン酸;ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸であることを特徴とする請求項5に記載のポリマーフィルム。
【請求項8】
トリカルボン酸およびテトラカルボン酸の含有量が、用いられるジカルボン酸に対して0?30モル%であることを特徴とする請求項5に記載のポリマーフィルム。
【請求項9】
トリカルボン酸およびテトラカルボン酸の含有量が、用いられるジカルボン酸に対して0.1?20モル%であることを特徴とする請求項8に記載のポリマーフィルム。
【請求項10】
用いられる芳香族カルボン酸は、芳香族部位に少なくとも1つの窒素、酸素、硫黄、またはリン原子を有する、ヘテロ芳香族ジカルボン酸およびトリカルボン酸およびテトラカルボン酸、およびこれらのC_(1)?C_(20)アルキルエステルまたはC_(5)?C_(12)アリールエステル、またはこれらの酸無水物またはこれらの酸塩化物であることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項11】
用いられる芳香族カルボン酸が、ピリジン-2,5-ジカルボン酸、ピリジン-3,5-ジカルボン酸、ピリジン-2,6-ジカルボン酸、ピリジン-2,4-ジカルボン酸、4-フェニル-2,5-ピリジンジカルボン酸、3,5-ピラゾールジカルボン酸、2,6-ピリミジンジカルボン酸、2,5-ピラジンジカルボン酸、2,4,6-ピリジントリカルボン酸、ベンズイミダゾール-5,6-ジカルボン酸、およびこれらのC_(1)?C_(20)アルキルエステルまたはC_(5)?C_(12)アリールエステル、またはこれらの酸無水物またはこれらの酸塩化物であることを特徴とする請求項10に記載のポリマーフィルム。
【請求項12】
P_(2)O_(5)として計算した含有量(酸滴定)が少なくとも83%のポリリン酸が、工程A)において用いられることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項13】
溶液または分散液/縣濁液が、工程A)において生成されることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項14】
工程C)において、一般式(I)および/または(II):
【化1】(略)
のアゾール繰返し単位を含むポリアゾールベースのポリマーが、形成されることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項15】
請求項14記載の一般式のアゾール繰返し単位中のnが、各々100以上の整数であることを特徴とする請求項14に記載のポリマーフィルム。
【請求項16】
工程C)において、ポリベンズイミダゾール、ポリ(ピリジン)、ポリ(ピリミジン)、ポリイミダゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリキノキサリン、ポリチアジアゾール、およびポリ(テトラザピレン)からなる群から選ばれるポリマーが、形成されることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項17】
工程C)において、式:
【化5】、【化6】、【化7】、【化8】(略)
のベンズイミダゾール繰返し単位を含むポリマーが、形成されることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項18】
請求項17に記載の式中のnおよびmが、各々、100以上の整数であることを特徴とする請求項17に記載のポリマーフィルム。
【請求項19】
粘度が、工程A)の後で工程B)の前にリン酸を添加することによって調節されることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項20】
工程D)における膜の処理が、0℃より高く、150℃までの温度で、湿分または水および/または水蒸気の存在下に行われることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項21】
工程D)における膜の処理が、10℃?120℃の温度で行われることを特徴とする請求項20に記載のポリマーフィルム。
【請求項22】
工程D)の膜の処理が、10秒?300時間行われることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項23】
工程D)の膜の処理が、1分?200時間行われることを特徴とする請求項22に記載のポリマーフィルム。
【請求項24】
工程F)のポリリン酸またはリン酸の除去が、処理液を用いて実施されることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項25】
ポリマーフィルムが、工程D)の処理後自己支持性でなく、さらなる加工のためにそのまま支持体上にあることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項26】
ガス濾過における濾過材として、ガス分離および/またはガス精製の分野の膜として、逆浸透、ナノ濾過、限外濾過、精密濾過、透析、電気透析において、電気回路用基板として、電池隔離板として、電気分解における膜として、電気ケーブル用保護フィルムとして、電気部品および器具、例えばコンデンサの絶縁体として、金属およびほかの表面用の保護フィルムとしての、請求項1?25のいずれか1項記載のポリマーフィルムの使用。」
との記載を
「【請求項1】
A)ポリリン酸中で、1つ以上の芳香族テトラアミノ化合物と、カルボン酸モノマー1個あたり少なくとも2つの酸基を有する1つ以上の芳香族カルボン酸またはこれらのエステルとを混合するか、または1つ以上の芳香族および/またはヘテロ芳香族ジアミノカルボン酸を混合し、溶液および/または分散液を形成する工程、
B)工程A)による混合物を用いて支持体に層を塗布する工程、
C)不活性ガス下、350℃までの温度で、工程B)にしたがって得られるシート状構造体/層を加熱して、ポリアゾールポリマーを形成する工程、
D)工程C)で形成されたポリマーフィルムをこのフィルムが自己支持性になり、かつ損傷を受けずに支持体から脱着することができるまでの温度および時間で、湿分の存在下処理し、ポリリン酸を部分加水分解する工程
E)工程D)で形成されたポリマーフィルムを支持体から脱着する工程、
F)存在するポリリン酸またはリン酸を除去および乾燥する工程
を含むことを特徴とする固有粘度が少なくとも1.4dl/gを有するポリアゾールをベースとするポリマーフィルムの製造方法。
【請求項2】
工程C)が、不活性ガス下、280℃までの温度で、工程B)にしたがって得られるシート状構造体/層を加熱して、ポリアゾールポリマーを形成する工程であることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項3】
用いられる芳香族テトラアミノ化合物が、3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニル、2,3,5,6-テトラアミノピリジン、1,2,4,5-テトラアミノベンゼン、ビス(3,4-ジアミノフェニル)スルホン、ビス(3,4-ジアミノフェニル)エーテル、3,3’,4,4’-テトラアミノベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルメタン、および3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルジメチルメタンであることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項4】
用いられる芳香族ジカルボン酸が、イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、5-ヒドロキシイソフタル酸、4-ヒドロキシイソフタル酸、2-ヒドロキシテレフタル酸、5-アミノイソフタル酸、5-N,N-ジメチルアミノイソフタル酸、5-N,N-ジエチルアミノイソフタル酸、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸、2,5-ジヒドロキシイソフタル酸、2,3-ジヒドロキシイソフタル酸、2,3-ジヒドロキシフタル酸、2,4-ジヒドロキシフタル酸、3,4-ジヒドロキシフタル酸、3-フルオロフタル酸、5-フルオロイソフタル酸、2-フルオロテレフタル酸、テトラフルオロフタル酸、テトラフルオロイソフタル酸、テトラフルオロテレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニン酸、1,8-ジヒドロキシナフタレン-3,6-ジカルボン酸、ビス(4-カルボキシフェニル)エーテル、ベンゾフェノン-4,4’-ジカルボン酸、ビス(4-カルボキシフェニル)スルホン、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、4-トリフルオロメチルフタル酸、2,2-ビス(4-カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-スチルベンジカルボン酸、4-カルボキシケイ皮酸、またはこれらのC_(1)?C_(20)アルキルエステルまたはC_(5)?C_(12)アリールエステル、またはこれらの酸無水物または酸塩化物であることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項5】
用いられる芳香族カルボン酸は、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、またはそれらのC_(1)?C_(20)アルキルエステルまたはC_(5)?C_(12)アリールエステル、またはそれらの酸無水物またはそれらの酸塩化物であることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項6】
用いられる芳香族カルボン酸が、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸;1,2,4-ベンゼントリカルボン酸;(2-カルボキシフェニル)イミノ二酢酸;3,5,3’-ビフェニルトリカルボン酸;3,5,4’-ビフェニルトリカルボン酸、および/または2,4,6-ピリジントリカルボン酸であることを特徴とする請求項5に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項7】
用いられる芳香族カルボン酸が、ベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸、3,5,3’,5’-ビフェニルテトラカルボン酸;ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸であることを特徴とする請求項5に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項8】
トリカルボン酸およびテトラカルボン酸の含有量が、用いられるジカルボン酸に対して0?30モル%であることを特徴とする請求項5に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項9】
トリカルボン酸およびテトラカルボン酸の含有量が、用いられるジカルボン酸に対して0.1?20モル%であることを特徴とする請求項8に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項10】
用いられる芳香族カルボン酸は、芳香族部位に少なくとも1つの窒素、酸素、硫黄、またはリン原子を有する、ヘテロ芳香族ジカルボン酸およびトリカルボン酸およびテトラカルボン酸、およびこれらのC_(1)?C_(20)アルキルエステルまたはC_(5)?C_(12)アリールエステル、またはこれらの酸無水物またはこれらの酸塩化物であることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項11】
用いられる芳香族カルボン酸が、ピリジン-2,5-ジカルボン酸、ピリジン-3,5-ジカルボン酸、ピリジン-2,6-ジカルボン酸、ピリジン-2,4-ジカルボン酸、4-フェニル-2,5-ピリジンジカルボン酸、3,5-ピラゾールジカルボン酸、2,6-ピリミジンジカルボン酸、2,5-ピラジンジカルボン酸、2,4,6-ピリジントリカルボン酸、ベンズイミダゾール-5,6-ジカルボン酸、およびこれらのC_(1)?C_(20)アルキルエステルまたはC_(5)?C_(12)アリールエステル、またはこれらの酸無水物またはこれらの酸塩化物であることを特徴とする請求項10に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項12】
P_(2)O_(5)として計算した含有量(酸滴定)が少なくとも83%のポリリン酸が、工程A)において用いられることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項13】
溶液または分散液/縣濁液が、工程A)において生成されることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項14】
工程C)において、一般式(I)および/または(II):
【化1】(略)
のアゾール繰返し単位を含むポリアゾールベースのポリマーが、形成されることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項15】
請求項14記載の一般式のアゾール繰返し単位中のnが、100以上の整数であることを特徴とする請求項14に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項16】
工程C)において、ポリベンズイミダゾール、ポリ(ピリジン)、ポリ(ピリミジン)、ポリイミダゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリキノキサリン、ポリチアジアゾール、およびポリ(テトラザピレン)からなる群から選ばれるポリマーが、形成されることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項17】
工程C)において、式:
【化2】、【化3】、【化4】、【化5】(略)
のベンズイミダゾール繰返し単位を含むポリマーが、形成されることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載の式中のnおよびmが、各々、100以上の整数であることを特徴とする請求項17に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項19】
粘度が、工程A)の後で工程B)の前にリン酸を添加することによって調節されることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項20】
工程D)における膜の処理が、0℃より高く、150℃までの温度で、湿分または水および/または水蒸気の存在下に行われることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項21】
工程D)における膜の処理が、10℃?120℃の温度で行われることを特徴とする請求項20に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項22】
工程D)の膜の処理が、10秒?300時間行われることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項23】
工程D)の膜の処理が、1分?200時間行われることを特徴とする請求項22に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項24】
工程F)のポリリン酸またはリン酸の除去が、処理液を用いて実施されることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項25】
ポリマーフィルムが、工程D)の処理後自己支持性でなく、さらなる加工のためにそのまま支持体上にあることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルムの製造方法。」
とする、特許請求の範囲に係る補正である。

この特許請求の範囲に係る補正により、本件手続補正後の請求項1ないし25に記載の発明は、「ポリマーフィルム」に係る発明から「ポリマーフィルムの製造方法」に係る発明へと変更されるものである。

(2)本件手続補正の目的についての検討
上記「変更」を含む本件手続補正が、いわゆる発明のカテゴリーを「物の発明」から「物を生産する方法の発明」への変更を含むものであって、かかるカテゴリーの変更が、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、及び誤記の訂正のいずれの事項を目的とするものにも該当するものではないことは明らかである。さらに、本件手続補正前の請求項1ないし25における「ポリマーフィルム」なる記載が明りょうでない記載であるとも認められないことから、かかるカテゴリーの変更は明りょうでない記載の釈明を目的とするものにも該当しない。
なお、請求人は、平成22年4月14日提出の審判請求書において、「審判請求の際の補正(補正の根拠の明示)」として、「本出願人は、上記拒絶査定の理由を踏まえ、同時提出の手続補正書において特許請求の範囲を補正し、本発明をポリアゾ-ルをベースとする高分子量のポリマーフィルムの製造方法の発明として、明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて確実に実施できる発明であることを明確にし、請求項1の工程D)でポリリン酸の部分加水分解が行われることを明記する補正を行った。」と主張する。しかしながら、上記のとおり特許請求の範囲における「ポリマーフィルム」なる記載自体が明りょうでない記載であるとは認められず、「明細書の発明の詳細な説明に基づいて確実に実施できる発明であることを明確に」するための補正が、明りょうでない記載の釈明を目的とするものとも認められないことから、請求人の主張は採用できない。
したがって、上記「変更」を含む本件手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「特許法」という。)第17条の2第4項各号に規定するいずれの事項をも目的とするものではない。

(3)まとめ
よって、その余の補正事項を検討するまでもなく、本件手続補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、特許法第159条において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本件審判請求について

1.本願発明
平成22年4月14日付けの手続補正は上記第2.のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし26に係る発明は、平成20年10月28日提出の手続補正書及び平成21年5月18日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし26に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)に係る発明は次のとおりのものである。

「【請求項1】
A)ポリリン酸中で、1つ以上の芳香族テトラアミノ化合物と、カルボン酸モノマー1個あたり少なくとも2つの酸基を有する1つ以上の芳香族カルボン酸またはこれらのエステルとを混合するか、または1つ以上の芳香族および/またはヘテロ芳香族ジアミノカルボン酸を混合し、溶液および/または分散液を形成する工程、
B)工程A)による混合物を用いて支持体に層を塗布する工程、
C)不活性ガス下、350℃までの温度で、工程B)にしたがって得られるシート状構造体/層を加熱して、ポリアゾールポリマーを形成する工程、
D)工程C)で形成されたポリマーフィルムをこのフィルムが自己支持性になり、かつ損傷を受けずに支持体から脱着することができるまでの温度および時間で、湿分の存在下処理する工程
E)工程D)で形成されたポリマーフィルムを支持体から脱着する工程、
F)存在するポリリン酸またはリン酸を除去および乾燥する工程
を含む方法によって得られるポリアゾールをベースとするポリマーフィルム。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた平成20年7月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由3(1)の概要は次のとおりである。

「3 この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



(1)本願明細書には実施例が存在せず、本願発明が実施しうるものか否か、本願発明が所望の作用効果を奏するものであるのか否か、そもそも本願特許請求の範囲で規定される発明は、本願明細書に記載されたものであるのか否か、確定できない。
(2)?(8)略

よって、本願発明の詳細な説明の記載は明確でなく、請求項1-24に係る発明は明確でなく、請求項1-24に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」

3.当審の判断
(1)特許法第36条第4項第1号違反について
上記2.のとおり、平成20年7月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由3は特許法第36条第4項第1号違反に係るものであり、特許法第36条第4項は「前項第3号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」とした上で、第1号は「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」と規定している。
かかる規定は、いわゆる「実施可能要件」を規定したものであり、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するかどうかは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が明細書に記載した事項及び出願時の技術常識に基づき、請求項に係る発明を実施することができる程度に発明の詳細な説明を記載しなければならないことと解される。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明(以下「本願発明の詳細な説明」という。)は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載しているかどうかについて検討する。

(2)本願発明の詳細な説明の記載
平成20年10月28日提出の手続補正書により補正された本願発明の詳細な説明には、次の記載がある。

a.「本発明は、ポリアゾールをベースとする新規ポリマーフィルムであって、その優れた化学的および熱的性質によって、多様な目的のために用いることができ、ガス精製および濾過用フィルムまたは膜として特に有用であるポリマーフィルムに関する。」(段落【0001】)

b.「第一に、ポリアゾールをベースとするポリマーフィルムの使用上の利点を有するか、またはこれを超え、第二に簡単な方法で入手しうるポリアゾールをベースとするポリマーフィルムを提供することが、本発明の1つの目的である。」(段落【0004】)

c.「工程A)において用いられるポリリン酸は、例えばリーデル-デ・ヘン(Riedel-de Haen)から入手することができる商用ポリリン酸である。ポリリン酸H_(n+2)P_(n)O_(3n+1)(n>1)は通常、少なくとも83%のP_(2)O_(5)として計算した含有量(酸滴定)を有する。モノマーの溶液の代わりに、分散液/縣濁液を生成することもまた可能である。工程A)において生成された混合物は、ポリリン酸対すべてのモノマーの合計の重量比1:10,000?10,000:1、好ましくは1:1,000?1,000:1、特に1:100?100:1を有する。」(段落【0014】)

d.「工程B)における層形成は、ポリマーフィルム製造について先行技術から知られている、それ自体知られた方法(注型、スプレー、ドクターブレードによる塗布)によって実施される。支持体としては、これらの条件下に不活性であるすべての支持体を用いることが可能である。これらの不活性支持体に加えて、他の支持体、例えばポリマーフィルム、織物、および不織布も適している。これらは、工程B)において形成された層に結合してラミネートを形成する。粘度を調節するために、溶液は、必要に応じて、リン酸(濃縮リン酸、85%)と混合することができる。このようにして粘度は、所望の値に設定することができ、この膜の形成をさらに容易にすることができる。」(段落【0015】)

e.「この方法の1つの変法において、オリゴマーおよび/またはポリマーの形成は、工程A)による混合物を、350℃まで、好ましくは280℃までの温度に加熱することによって行われる。選択された温度と時間に応じて、工程C)における加熱は、一部または全部省かれてもよい。」(段落【0038】)

f.「工程D)におけるポリマーフィルムの処理は、0℃を超え、150℃未満の温度、好ましくは10℃?120℃、特に室温(20℃)?90℃の温度で、湿分または水および/または水蒸気および/または85%までの濃度を有する水含有リン酸の存在下に実施される。処理は、好ましくは常圧下で実施されるが、同様に加圧下で実施することもできる。処理は、十分な湿分の存在下に実施されることが重要であり、その結果として、存在するポリリン酸は、部分加水分解によって低分子量ポリリン酸および/またはリン酸を形成し、ポリマーフィルムの強化に寄与する。」(段落【0040】)

g.「工程D)におけるポリリン酸の部分加水分解は、ポリマーフィルムの強化につながり、その結果、フィルムは自己支持性になり、さらに層の厚さの減少をもたらす。
工程B)によるポリリン酸層中に存在する分子内および分子間構造(互に入り込んだ網目構造;IPN)は、工程C)において、秩序だった膜形成を生じる。これが、形成されたポリマーフィルムの良好な特性の原因である。」(段落【0041】)

h.「工程D)における処理の温度の上限は、一般に150℃である。湿分、例えば過熱蒸気の作用が非常に短い場合、この蒸気はまた、150℃よりも熱くてもよい。処理の時間は、温度の上限の決定において重要である。」(段落【0042】)

i.「部分加水分解(工程D)はまた、空調したチャンバー中でも実施することができる。この場合、加水分解は規定された湿分の存在下、目的に合うように制御することができる。湿度は、ポリマーフィルムと接触している環境、例えば空気、窒素、二酸化炭素、またはその他の適切なガスのようなガス、または水蒸気の温度または飽和によって、目的に合うように調整することができる。処理時間は、上で選択されたパラメータによる。
処理時間はまた、膜の厚さにもよる。」(段落【0043】)

j.「一般に処理時間は、例えば過熱水蒸気の作用下、数秒?数分であるか、または例えば、空気中で室温において比較的低い相対湿度では、まる一日までである。処理時間は、好ましくは10秒?300時間、特に1分?200時間である。
部分加水分解が、室温(20℃)で、40?80%の相対湿度の周囲空気によって、実施される場合、処理時間は1?200時間の範囲内にある。」(段落【0044】)

k.「工程D)にしたがって得られたポリマーフィルムは、好ましくは自己支持性である。すなわち、これは、工程E)において損傷を受けずに支持体から脱着することができ、その後必要であれば、さらに直接加工することができる。」(段落【0045】)

l.「工程C)にしたがって得られたポリマーフィルムをさらに支持体上で加工、例えば複合膜を生成する場合、工程D)は全部または一部省くことができる。この場合、このことは、同じように工程E)にも当てはまり、ポリリン酸がその後の加工処理を妨害しないならば、おそらくは工程F)にも当てはまる。この変法も、本発明の主題である。」(段落【0046】)

m.「工程E)の後で、ポリマーフィルム中に含まれるポリリン酸またはリン酸が、工程F)において除去される。これは、室温(20℃)?処理液体の沸点(大気圧で)の範囲の温度において、処理液体を用いて実施される。」(段落【0047】)

n.「本発明の目的および工程F)の目的のために用いられる処理液体は、室温(すなわち20℃)で液体形態にある溶媒であり、アルコール、ケトン、アルカン(脂肪族および脂環式)、エーテル(脂肪族および脂環式)、グリコール、エステル、カルボン酸(上記群の構成員は、ハロゲン化されていてもよい)、水、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる。」(段落【0048】)

o.「工程F)において導入された処理液は、その後再び除去される。これは、好ましくは乾燥によって行われる。その際、温度および周囲圧力は、処理液の分圧によって選ばれる。乾燥は、通常常圧、20℃?200℃の温度において実施される。より穏やかな乾燥はまた、減圧下でも実施することができる。乾燥の代わりに、膜を、軽くたたいてもよく、そのようにして過剰な処理液が除去される。この順序は、決定的でない。」(段落【0050】)

p.「工程F)による処理の後で、ポリマーフィルムは、空気中の酸素の存在下、熱の作用によってさらに表面上で架橋することができる。フィルム表面のこの硬化は、特性をさらに改良する。この処理は、一部または完全に、上記乾燥の代わりになりうるか、またはこれと組合わせることができる。」(段落【0051】)

(3)本願発明の実施
本願発明は、上記1.本願発明に記載のとおり、「ポリアゾ-ルをベースとするポリマーフィルム」というものに係る発明であって、上記摘示a.及びb.からみて、本願発明は、「ポリアゾ-ルをベースとするポリマーフィルムであって、ガス精製および濾過用フィルムまたは膜として特に有用であるポリマーフィルムを提供すること」を課題として含むものであると認められる。
そして、物の発明について実施をすることができるとは、その物を作ることができ、かつその物を使用することができることである。
そこで、本願発明の詳細な説明は、当業者が本願発明に係るものを製造することができ、かつガス精製および濾過用フィルムまたは膜として使用することができるように記載しているかどうかについて検討する。

(4)本願発明の詳細な説明の記載についての検討
本願発明に係るポリマーフィルムのような化学分野の発明にあっては、化
学構造や一般的な製造方法が記載されていたとしても、実際にその物が製造できるかどうかは予測がつかない分野であるから、その物が製造され、使用されたというためには、実際にその物が製造され、その物が確認されなければならない。そして、出願時の技術常識からみて、特定のモノマーを用いて重合したとしても、その重合の方法、重合の条件等により、製造されるポリマーも変化すると考えるのが相当である。
まず、本願明細書の発明の詳細な説明には実施例に相当する記載はないことから、本願発明に係る工程A)からF)を含む方法の具体的な態様及び本願発明に係るポリマーフィルムが具体的に製造されたことを確認することはできない。
次に、本願発明に係るポリマーフィルムは、上記2のとおり、工程A)からF)を含む方法によって得られるポリアゾ-ルをベースとするポリマーフィルムであるところ、本願発明の詳細な説明の記載に基づいて、工程A)からF)を含む方法により、本願発明に係るポリマーフィルムが製造されることが確認できるかどうかを検討する。
本願発明に係る工程A)からF)についての記載は、上記摘示c.ないしp.をみても、一般的な記載あるいは広範囲な条件の記載にとどまり、製造されるものが一義的に認識できる程度に各工程の態様が具体的に定められているとはいえない。
工程D)については、上記摘示f.ないしl.からみても、発明の詳細な説明において、他の工程に比べて、比較的長い記載がある。そして、工程D)については、平成20年10月28日提出の意見書において、「2)工程D)における独特の処理でPPA/ポリアゾ-ル混合物のゾル/ゲル転換が起こり、フィルムは自己支持性になる。・・・引用文献は、いずれもゾル/ゲル転換を起こし、その結果ポリマーがリン酸の超吸収体様になり、後でPPA/リン酸を除去することによって得られる開放構造が形成される独特の加水分解処理(工程D)を開示しておらず、得られるポリアゾ-ルは本発明の開放構造を有する高分子量のポリアゾ-ルとは異なるものである。」(5.本願発明と引用文献記載の発明の対比の項)と主張するとおり、自己支持性と関連した本願発明に係るポリマーフィルムの構造を決めるための重要な工程であると解される。かかる工程における処理の温度についてみるに、摘示f.からは「0℃を超え150℃未満の温度」と一応解されるが、摘示h.からは「湿分、例えば過熱蒸気の作用が非常に短い場合、この蒸気はまた、150℃より熱くてもよい」とあり、仮に、処理の温度が湿分の存在に関係するのであれば、処理の温度と湿分とをどのように定めてよいか不明である。また、同工程における処理時間に関しても、摘示j.からは、「好ましくは10秒?300時間、特に1分?200時間」と一応解されるが、かかる記載に先行して「一般に処理時間は、例えば過熱水蒸気の作用下、数秒?数分であるか、または例えば、空気中で室温において比較的低い相対湿度では、丸一日までである。」との記載があり、処理時間に関しても湿度条件が関係することが示唆されており、どのような湿度条件においてどのように処理時間を設定すればよいのか全く理解できない。さらに、摘示l.には、「工程C)にしたがって得られたポリマーフィルムをさらに支持体上で加工、例えば複合膜を生成する場合、工程D)を全部または一部省くことができる。」とあり、かかる記載からは、工程D)が必須の工程であるのかどうかすら不明であるし、一部省くことができるとすれば工程D)のどの部分を省くことができるのか不明である。そうであれば、どのような条件においては、どのようにD)工程を実施すれば、所望のポリマーフィルムを製造できるのか、本願発明の詳細な説明の記載からは理解できないといわざるを得ない。 したがって、その余の工程について検討するまでもなく、本願発明の詳細な説明は、当業者が工程A)からF)を含む方法によって得られるポリアゾ-ルをベースとするポリマーフィルムを製造できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
以上のとおりであるから、本願発明の詳細な説明は、出願時の技術常識を参酌しても、本願発明に係るポリマーフィルムが製造されることが裏付けられて記載されているとはいえない。

(5) 請求人の主張
請求人は、平成20年10月28日提出の意見書において、「実施例」なる記載を示し、「ここに実施例を挙げて、本願発明が所望の作用効果を奏し、特許請求の範囲に記載の発明が明細書に記載されたものであることを示しますので、ご理解頂きたく存じます」と主張する。しかしながら、上記したとおり、特許法第36条第4項第1号に規定するいわゆる実施可能要件に適合しているかどうかについては、明細書の記載及び自明の事項により判断するべきものであり、「実施例」なる記載を意見書で示したとしても、かかる記載が明細書の記載に代わるものではないため、請求人の主張は採用できない。なお、請求人の示した「実施例」には「得られた溶液を220℃で2時間撹拌し、最後に温度を1時間で240℃に上げた。高度に粘性な溶液をこの温度で、予熱したドクターブレード塗布装置を用いてガラス板に塗布し、このフィルムを50%リン酸中で1夜加水分解して、暗褐色のポリ(2,2‘-(m-フェニレン)-5,5’ビベンゾイミダゾ-ル(PBI)の自己支持性膜を得た。」なる記載があり、B)工程(塗布する工程)とC)工程(ポリアゾ-ルポリマーを形成する工程)の順序が本願発明に係る方法とは異なっており、請求人の示した「実施例」を本願発明の実施例とは認められない。

(6)まとめ
以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載しているものとはいえない。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


第4. むすび
以上のとおり、原査定の拒絶の理由とされた平成20年7月25日付け拒絶理由通知書における拒絶の理由3(1)は妥当なものであるから、本願は原査定の拒絶の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-11 
結審通知日 2012-06-12 
審決日 2012-06-25 
出願番号 特願2004-535087(P2004-535087)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C08J)
P 1 8・ 537- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大熊 幸治  
特許庁審判長 渡辺 仁
特許庁審判官 藤本 保
須藤 康洋
発明の名称 ポリアゾールをベースとするポリマーフィルム、およびその使用  
代理人 藤本 英介  

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