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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C03B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C03B
管理番号 1265807
審判番号 不服2011-15851  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-22 
確定日 2012-11-05 
事件の表示 特願2005-138301「石英ガラス部材の純化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月24日出願公開、特開2006-315886〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年5月11日の出願であって、平成22年2月25日付けで拒絶理由が通知され、同年4月14日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年4月28日付けで拒絶査定されたので、同年7月22日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書により明細書及び特許請求の範囲が補正され、平成24年3月26日付けで特許法第164条3項に基づく報告書を引用した審尋がなされ、同年5月15日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成23年7月22日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年7月22日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正前及び補正後の本願発明
本件補正は、明細書及び特許請求の範囲についてするものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する補正は、補正前の「石英ガラス部材の純化方法」の前提として、本件補正により「石英ガラス素材から火加工を含めた処理によって所望の形状に加工され、歪取りアニール処理を施した後、純化処理を行いついで洗浄処理され製品化される半導体工業用に使用される石英ガラス部材の純化方法であって、前記純化処理が、」という特定事項を加入するとともに、補正前の「加熱処理の処理条件を設定し」を「加熱処理の処理条件を400℃?1300℃で1分?400時間に設定し」と限定するものである。
このため、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは明らかであり、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内であることも明らかである。
そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、次のとおりのものである。
「石英ガラス素材から火加工を含めた処理によって所望の形状に加工され、歪取りアニール処理を施した後、純化処理を行いついで洗浄処理され製品化される半導体工業用に使用される石英ガラス部材の純化方法であって、前記純化処理が、金属不純物として少なくともLi、Na、K、Fe、Mg、Ca及びAlを含有しかつ含有されるLiの濃度が0.2ppm以下の石英ガラス部材を得る工程と、前記石英ガラス部材をClを含むガス雰囲気内にて加熱処理する工程と、を含み、前記加熱処理において、拡散移動の極めて速いLiは加熱処理開始と同時に外方拡散して前記石英ガラス部材の全深さ域から離脱して拡散後に空いたサイトを形成し、前記石英ガラス部材の表面から100μmまでの部位では石英ガラスへの拡散速度が小さいFe、Mg、Ca及びAlはとどまっており、前記石英ガラス部材の表面から100μmより深い部位では石英ガラスへの拡散速度が比較的速いNa及びKは前記空いたサイトに取り込まれるように前記加熱処理の処理条件を400℃?1300℃で1分?400時間に設定し、前記Liの濃度を予め0.2ppm以下に抑制することによって前記空いたサイトの形成を抑制しNa及びKが取り込まれる余地を抑制し前記石英ガラス部材の表面から100μmより深い部位でのNa及びKの濃度の増大を抑えるようにしたことを特徴とする石英ガラス部材の純化方法。」

2 刊行物に記載された発明
(1)引用例1の記載事項
これに対し、本願出願日前に頒布され、原査定の拒絶の理由で引用された特開2004-323246号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「石英ガラス素材から火加工を含めた処理によって所望の形状に加工され、歪取りアニール処理を施した後、洗浄処理され製品化される石英ガラス治具の製造方法において、前記歪取りアニール処理後であり且つ前記洗浄処理前に、前記石英ガラス治具の表層に、気相エッチング工程と気相純化工程を実施するものであって、前記気相エッチング工程の後、連続して前記気相純化工程を実施することを特徴とする石英ガラス治具の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
(イ)「本発明は、半導体工業用に使用される石英ガラス治具の製造方法、並びにその石英ガラス治具の製造方法によって製造される天然及び合成石英ガラス治具に関する。」(【0001】段落)
(ウ)「上記気相純化工程では、Clを含むガス雰囲気で800?1300℃の温度範囲で、高温熱処理を行うことが好適である。上記気相純化工程は、15分以上実施することが望ましい。上記Clを含むガスが、HCl及び/又はCl_(2)であることが好ましい。」(【0013】段落)
(エ)「上記方法において、・・・HClガスは、石英ガラス治具の表層より拡散して100μmまで浸透し、遊離して、シリカネットワークに取りこまれた金属元素と反応して、塩化物を生成する。塩化物は、殆どのものが600℃以上で拡散係数の大きい気相分子化して、速やかに石英ガラス治具表面より外へ拡散除去される。塩化物にならない金属元素単体でも拡散係数の大きなものは、同様に拡散除去され、石英ガラス治具の表層をクリーン化することができる。」(【0027】段落)
(オ)「(実施例1)
天然結晶石英ガラス粉より作製された石英ガラス素材より、20mm×20mm×1300mmの角棒をカッターによって切り出し、長軸方向に垂直な幅2mm深さ5mmの溝を10mm間隔に130個削り彫りした。さらに、酸水素火炎を用いた金属バーナーによって前記溝部をファイアポリッシュし、滑らかな面状態とした。
表1に示した如く、上記石英ガラス棒の溝部を滑らかな面状態とした後、大気炉に1200℃で30分間置いて、1日掛けて室温まで冷却後、取りだした。取りだした石英棒をさらに、・・・の石英管の中に設置し、・・・HClガスを1L/分掛け流し、15分、1200℃に保持し、室温まで1日掛けて冷却し、置換して、取り出した。」(【0038】【0039】段落)
(カ)【0042】段落の【表2】には、実施例1?4で得られた石英ガラス棒及び原材料の化学分析結果が記載されており、原材料が天然結晶石英ガラス粉の場合には、金属不純物としてLi、Na、K、Fe、Mg、Ca及びAlを含有すること、及びLiの濃度は天然石英ガラス粉で50ppbであることを確認することができる。

(2)引用例1に記載された発明
記載事項(イ)によれば、引用例1には、半導体工業用に使用される石英ガラス及びその製造方法が記載されており、製造方法は、同(ア)によれば、「石英ガラス素材から火加工を含めた処理によって所望の形状に加工され、歪取りアニール処理を施した後、洗浄され製品化される石英ガラス治具の製造方法において、前記歪取りアニール処理後であり且つ前記洗浄前に」、「気相純化工程」を実施するものである。
そして、実施例1においては「気相純化工程」は、同(カ)によれば、不純物としてLi、Na、K、Fe、Mg、Ca及びAlを含有し、Liの濃度は50ppbである天然結晶石英ガラス粉を原材料として製造した石英ガラス治具に対して行い、
同(カ)によれば、HClガスを含むガス雰囲気中で1200℃の温度で15分間高温熱処理を行うことからなる。
したがって、引用例1の実施例1には次の発明(以下「引用例1発明」という。)が記載されているとすることができる。
「石英ガラス素材から火加工を含めた処理によって所望の形状に加工され、歪取りアニール処理を施した後に、気相純化工程を実施し、その後に洗浄処理して製品化される半導体工業用に使用される石英ガラス治具の製造方法において、
該気相純化工程は、不純物としてLi、Na、K、Fe、Mg、Ca及びAlを含有し、Liの濃度は50ppbである天然石英ガラス粉を原材料とした石英ガラス治具に対し、
Clを含むガス雰囲気で1200℃の温度で15分間高温熱処理を行うことからなる、石英ガラス治具の製造方法。」

3 対比と判断
3-1 対比
(1)本願補正発明と引用例1発明とを比較する。
引用例1発明における「気相純化工程」、「石英ガラス治具」は、本願補正発明における「純化処理」、「石英ガラス部材」に対応する。
また、本願補正発明ないし引用例1発明における、純化処理ないし気相純化工程の処理条件は、Clを含むガス雰囲気で1200℃の温度で15分間高温熱処理を行う点で共通する。
したがって、本願補正発明と引用例1発明とは、次の点で一致する。
「石英ガラス素材から火加工を含めた処理によって所望の形状に加工され、歪取りアニール処理を施した後、純化処理を行いついで洗浄処理され製品化される半導体工業用に使用される石英ガラス部材の純化方法であって、
前記純化処理が、石英ガラス部材を得る工程と、前記石英ガラス部材をClを含むガス雰囲気内にて加熱処理する工程と、を含み、
前記加熱処理において、加熱処理の処理条件を1200℃で15分間行うことからなる石英ガラス部材の純化方法。」

(2)両者は、次の点で一応相違する。
(i) 純化処理の対象は、本願補正発明は「金属不純物として少なくともLi、Na、K、Fe、Mg、Ca及びAlを含有しかつ含有されるLiの濃度が0.2ppm以下の石英ガラス部材」であるのに対し、引用例1発明では、加熱処理の対象となる石英ガラス部材におけるLi濃度及びその他の金属不純物の存在について明らかでない点。
(ii) 純化処理において設定する加熱処理において、本願補正発明では「加熱処理において、拡散移動の極めて速いLiは加熱処理開始と同時に外方拡散して前記石英ガラス部材の全深さ域から離脱して拡散後に空いたサイトを形成し、前記石英ガラス部材の表面から100μmまでの部位では石英ガラスへの拡散速度が小さいFe、Mg、Ca及びAlはとどまっており、前記石英ガラス部材の表面から100μmより深い部位では石英ガラスへの拡散速度が比較的速いNa及びKは前記空いたサイトに取り込まれる」ことを特定事項としているが、この事項について引用例1発明では明らかでない点。
(iii) 純化処理において設定する加熱処理条件について、引用例1発明における加熱処理条件は、本願補正発明における条件と重複しているが、相違点(ii)で指摘したように金属不純物が空いたサイトに取り込まれるように加熱条件を設定することについては、引用例1発明では明らかでない点。
(iv) 本願補正発明では、「Liの濃度を予め0.2ppm以下に抑制することによって前記空いたサイトの形成を抑制しNa及びKが取り込まれる余地を抑制し前記石英ガラス部材の表面から100μmより深い部位でのNa及びKの濃度の増大を抑えるようにしたこと」を特定事項とするが、引用例1発明では、この点について明らかでない点。

3-2 判断
(1)相違点(i)について
引用例1発明では、特定の不純物濃度を有する天然結晶石英ガラス粉から製造される石英ガラス部材を対象として純化処理しているので(記載事項(カ))、これが本願補正発明で純化処理の対象とする石英ガラス部材と同一ものであるかを検討する。

ア 本願の明細書には、石英ガラスの製造に関し次の記載がある。
「Liの濃度が0.2ppm以下の石英ガラス部材を得る方法としては、特に限定されないが、例えば、含有されるLiの濃度が0.2ppm以下の石英ガラスを、原料石英粉として選ぶことができるし、・・・。前記原料石英粉は合成石英ガラス粉、天然石英ガラス粉のいずれも使用可能である。」(【0014】段落)
すなわち、Li濃度が0.2ppm以下の石英ガラス部材は、Li濃度が0.2ppm以下の石英ガラス粉末を原料として選択して製造することで得ることができる。
一方、引用例1の記載事項(カ)によれば、実施例1において、Li濃度50ppbの天然石英ガラス粉であり、Na、K等の他の不純物を含有している原材料を用いて石英ガラス部材を製造しており、いずれもLi濃度は0.2ppm以下である。
このため、引用例1発明で使用する石英ガラス部材は、本願補正発明における「金属不純物として少なくともLi、Na、K、Fe、Mg、Ca及びAlを含有しかつ含有されるLiの濃度が0.2ppm以下の石英ガラス部材」であると認める。

イ これに関して請求人は、引用例1には、原料石英ガラス粉の金属不純物濃度についての開示はあるが、これは、火加工や歪取り加工(以下「火加工等」という。)を受けて金属不純物が混入された石英ガラス治具の金属不純物濃度とは異なる旨を主張する。
しかし、本願補正発明の実施例1、2及び比較例1の記載を参照すると、本願補正発明において純化処理を受ける石英ガラス部材中の不純物で特に濃度を特定するLi濃度に関しては、原料ガラス粉中の濃度と火加工等を受けた石英ガラス治具中の濃度とは同一視することができ、このため、上記アで述べた本願明細書の【0014】段落の記載は、根拠のあることが明らかである。
すなわち、本願明細書の表1?3に示された金属不純物濃度の推移を参照すると、実施例1、2及び比較例1のいずれにおいても、Li濃度に関しては、原材料の石英粉が有しているLi濃度は、火加工をうけた純化処理前の石英ガラス部材のうち分析部位が表面から100μmを超える内部部分のLi濃度に承継される一方、表面から100μmまでの表層部では、原材料のLi濃度より大きな値となっている。
これは、請求人の主張のとおり、火加工等による石英ガラスへの金属不純物の混入は無視できないものであることを示すが、Liの濃度に関しては、その影響は石英ガラス部材の表面から100μmまでの表層部に限られることを明らかにするものである。そして、回答書の第9頁で請求人が主張するように、内部部分は表層部に比較して圧倒的に大量である。
このため、火加工等による不純物混入のうちLi混入の影響は石英ガラス部材の表層部に限られ、石英ガラス全体のLi濃度に影響を与えるものではないので、Li濃度が0.2ppm以下の石英ガラス部材を得るには、Li濃度が0.2ppm以下の石英ガラス粉末を使えばよいとする【0014】段落の記載は、充分な根拠があるといえる。

ウ 本願補正発明で純化処理の対象となる石英ガラス部材が引用例1発明と同じであることは、本願補正発明の実施例1、2と引用例1発明を比較しても明らかである。
すなわち、本願補正発明の実施例1、2では、石英ガラスを次の方法により製造している。
「(実施例1)
Li濃度が0.01ppmの天然結晶石英ガラス粉を原材料として作製された石英ガラス素材から、・・・角棒をカッターによって切り出し、・・・溝を・・・削り彫りした。さらに、酸水素火炎を用いた金属バーナーによって前記溝部をファイアポリッシュし、・・・大気炉に1200℃で30分間置いて、1日掛けて室温まで冷却後、取りだした。」(【0017】段落)
「(実施例2)
原材料としてLi濃度が0.15ppmの天然結晶石英ガラス粉を用いた以外は、実施例1と同様に実験を行った所、・・・。」(【0020】段落)
一方、引用例1発明における石英ガラス部材の製造方法は、引用例1についての記載事項(オ)に記載されているとおりのもので、酸水素火炎を用いたファイアポリッシュ、大気炉で1200℃で30分の加熱からなる加熱処理の条件については、上記した本願補正発明で使用する石英ガラス部材と同じ処理を受けている。
また、原材料のLi濃度に関しては、本願補正発明の実施例1、2では、それぞれ0.01ppm、0.15ppmの天然結晶石英ガラス粉を原材料として作製された石英ガラス素材であるのに対し(上記した【0017】段落、表1,表2)、引用例1発明では50ppb(0.05ppm)の天然結晶石英ガラス粉より作製された石英ガラス素材である(記載事項(オ))。すなわち、引用例1発明で使用する石英ガラス粉のLi濃度は、本願補正発明の実施例1と実施例2で使用する石英ガラス粉のLi濃度の中間の値である。
そして、本願補正発明で使用する実施例1、2の石英ガラス部材のLi濃度は0.2ppm以下であるので、製造方法、特に熱処理条件において共通し、原材料中のLi濃度について中間の値である引用例1発明の石英ガラス部材においても、Li濃度は0.2ppm以下であるとすることができる。
したがって、引用例1発明では、Li濃度が0.2ppm以下の石英ガラス部材を純化処理の対象としているものと認められる。

エ 以上のとおりであるから、引用例1発明で純化処理の対象とする石英ガラス部材は、「金属不純物として少なくともLi、Na、K、Fe、Mg、Ca及びAlを含有しかつ含有されるLiの濃度が0.2ppm以下の石英ガラス部材」であるといえるので、本願補正発明で対象とする石英ガラスと同一のものである。

(2)相違点(ii)について
請求人の主張するように、本願補正発明における純化処理の加熱処理においてLi、Fe、Mg、Ca、Al、Na、Kからなる不純物の挙動について、引用例1には具体的な記載はない。
しかし、引用例1の記載事項(エ)によれば、引用例1発明における気相純化処理においては、HClガスは石英ガラス治具の表面から拡散し100μmの深さまで浸透し、HClと反応して塩化物を生成する金属元素については、塩化物として石英ガラス治具表面より外へ拡散除去され、塩化物にならない金属元素単体でも拡散係数の大きなものは、同様に拡散除去される。
すなわち、相違点(ii)で記載された不純物の挙動のうち、加熱処理によりLiが外方拡散して離脱すること、Fe、Mg、Ca及びAlは表面から100μmまでの範囲にとどまっていてHClと反応することが実質的に記載されているといえる。
また、NaとKが石英ガラス治具の表面から100μmより深い部位に拡散しLiが拡散して空いたサイトに取り込まれることについては、引用例1の記載事項(エ)をもっても、実質的に記載されているとはいえない。しかし、上記(1)で述べたように、引用例1発明で気相純化工程の対象となる石英ガラス部材は、本願補正発明で純化処理の対象となる石英ガラス部材に包含され、該気相純化工程と純化処理の加熱条件は重複するものであるから、引用例1発明における石英ガラス部材に含有されるNa及びKについては、本願補正発明におけると同じ挙動をとると理解することが合理的である。
したがって、純化処理で設定する加熱処理におけるLi、Fe、Mg、Ca及びAlについての挙動は、実質的に引用例1に記載されているといえ、Na、Mgについては、引用例1発明でも同じ挙動であると認める。

(3)相違点(iii)について
本願補正発明における純化処理の加熱条件は、相違点(ii)で指摘したようにNa及びKが空いたサイトに取り込まれるように設定するものである。しかし、(2)で述べたように、同一の処理対象物に同一の加熱処理を施すのであるから、実質的には、引用例1発明の加熱処理においても、Na及びKが空いたサイトに取り込まれるように加熱条件が設定されているとすることができる。
したがって、本願補正発明における純化処理の加熱条件は、引用例1発明における気相純化工程の加熱条件と同一である。

(4)相違点(iv)について
引用例1には、石英ガラス部材のLi濃度を0.2ppm以下に抑制することにより、表面から100μmより深い部位でのNa及びKの濃度増大を抑える旨の記載はない。
しかし、引用例1発明においても、Li濃度が0.2ppm以下の石英ガラス部材を使用しているので、同様に、表面から100μmより深い部位でのNa及びKの濃度増大は抑えられているといえる。
したがって、この点でも本願補正発明は引用例1発明と相違しない。

(5)まとめ
以上のとおりであるので、3-1の(2)において一応相違するとした相違点(i)?(iv)については、いずれも相違点ではない。
このため、本願補正発明は引用例1に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
4.本件補正についての結び
以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成23年7月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成22年4月14日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「金属不純物として少なくともLi、Na、K、Fe、Mg、Ca及びAlを含有しかつ含有されるLiの濃度が0.2ppm以下の石英ガラス部材を得る工程と、前記石英ガラス部材をClを含むガス雰囲気内にて加熱処理する工程と、を含む石英ガラス部材の純化方法であって、前記加熱処理において、拡散移動の極めて速いLiは加熱処理開始と同時に外方拡散して前記石英ガラス部材の全深さ域から離脱して拡散後に空いたサイトを形成し、前記石英ガラス部材の表面から100μmまでの部位では石英ガラスへの拡散速度が小さいFe、Mg、Ca及びAlはとどまっており、前記石英ガラス部材の表面から100μmより深い部位では石英ガラスへの拡散速度が比較的速いNa及びKは前記空いたサイトに取り込まれるように前記加熱処理の処理条件を設定し、前記Liの濃度を予め0.2ppm以下に抑制することによって前記空いたサイトの形成を抑制しNa及びKが取り込まれる余地を抑制し前記石英ガラス部材の表面から100μmより深い部位でのNa及びKの濃度の増大を抑えるようにしたことを特徴とする石英ガラス部材の純化方法。」

2.新規性の判断
本願発明は、上記第2[理由]で検討した本願補正発明の「石英ガラス部材の純化方法」の前提としての「石英ガラス素材から火加工を含めた処理によって所望の形状に加工され、歪取りアニール処理を施した後、純化処理を行いついで洗浄処理され製品化される半導体工業用に使用される石英ガラス部材の純化方法であって、前記純化処理が」との本願発明の純化方法の前提としての特定事項と、「加熱処理の条件」として「400℃?1300℃で1分?400時間に設定し」との加熱処理条件を限定する特定事項を解除したものに相当する。
そうすると、本願発明の前提としての特定事項を含み、加熱処理条件を具体化した本願補正発明が、前記「第2の[理由]3、3-2」に記載したとおり引用例1に記載された発明であるから、前提を欠き、加熱処理条件を具体化しない本願発明も、同様の理由により、引用例1に記載された発明である。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-03 
結審通知日 2012-09-04 
審決日 2012-09-24 
出願番号 特願2005-138301(P2005-138301)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C03B)
P 1 8・ 575- Z (C03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 健史  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 田中 則充

豊永 茂弘
発明の名称 石英ガラス部材の純化方法  
代理人 石原 進介  

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