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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M
管理番号 1266239
審判番号 不服2010-5567  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-12 
確定日 2012-11-15 
事件の表示 平成10年特許願第253630号「潤滑油組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月28日出願公開、特開2000- 87069〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成10年9月8日の出願であって、平成20年10月22日付けで拒絶理由が通知され、同年12月22日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成21年12月9日付けで拒絶査定され、平成22年3月12日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、平成23年9月21日付けの審尋に対し、同年11月28日付けで回答書が提出され、平成24年6月11日付けで拒絶理由が通知され、同年8月10日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明は、平成24年8月10日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項によって特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。

「粘度比重恒数(VGC)が0.85以上である炭化水素系合成油を基油とし、該炭化水素系合成油が合成ナフテン基油であり、該基油に15℃における密度が1.15g/cm^(3)以上であり、かつ40℃における動粘度が503?707mm^(2)/sであるポリフルオロアルキルメチルシロキサンを、組成物全量基準で、5?30重量ppm配合してなる、100℃以上で使用される潤滑油組成物。」

第3 当審が通知した拒絶の理由の概要
平成24年6月11日付けで当審が通知した拒絶の理由は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?8に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

刊行物1:特開昭63-213597号公報
刊行物2:特開昭59-105091号公報
刊行物3:石油製品添加剤,1979年,第2版第1刷,274-290頁
刊行物4:石油製品添加剤の開発と最新技術,1998年3月31日,133-142頁
刊行物5:トライボロジスト,1995年,Vol.40,No.4,353-356頁
刊行物6:三菱石油技術資料,1995年,No.83,65-68頁
刊行物7:特開平10-54618号公報(平成10年2月24日公開)
刊行物8:特開平2-217869号公報

第4 当審の判断
当審は、本願は上記の理由によって拒絶をすべきものと判断する。その理由は次のとおりである。

1 刊行物
刊行物1?8は、第3で示したとおりである。

2 刊行物に記載された事項
(1)本願の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物1には、次の記載がある。
摘記1a:「(1)(A)縮合環および/または非縮合環の飽和炭化水素を主成分としてなる基油、(B)数平均分子量が800?8000のエチレン-α-オレフィン共重合体および(C)耐摩耗剤よりなるトラクションドライブ用潤滑油組成物。」

摘記1b:「しかしながら、これらトラクションドライブ用流体を現実の装置でその性能を試してみると、低温下での動力伝達力に乏しく、実用上十分に満足しうるものでないことが判明した。すなわち、極低温から高温までの環境にさらされる動力伝達装置においてこれらのトラクションドライブ用流体は、トラクション係数が温度によって変化し、特に低温下での低下が著しいため冬季寒冷地等での実用性能に問題が生じる。」(2頁左上欄2?10行)

摘記1c:「本発明においては(A)成分として縮合環および/または非縮合環の飽和炭化水素を主成分とする基油を用いる。このような飽和炭化水素としては様々なものが挙げられるが、特にシクロヘキシル基および/またはデカリル基を有する飽和炭化水素であって、炭素数10?40のものが好ましい。ここでシクロヘキシル基および/またはデカリル基を有する飽和炭化水素として具体的には次の如きものを挙げることができる。
・・・
これらの中でも特に式

で表される1-シクロヘキシル-1-デカリルエタンが好ましい。」(2頁右上欄4行?4頁右上欄9行)

摘記1d:「本発明の動力伝達用潤滑油組成物は上記(A)?(C)成分よりなるものであるが、必要により防錆剤、酸化防止剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤などをはじめ、消泡剤、油性剤、腐食防止剤、疲労寿命改良剤等の添加剤を適宜加えることができる。」(6頁左下欄19行?右下欄4行)

摘記1e:「[実施例]
次に本発明の実施例を示すが、本発明の範囲を超えない限り、これに限定されるものではない。
調製例(基油の調製)
3lのガラス製フラスコにテトラリン1000gと濃硫酸300gを入れ、水浴にてフラスコ内温度を0℃に冷却した。次いでこの中に攪拌しながらスチレン400gを3時間かけてゆっくり滴下し、さらに1時間攪拌して反応を完結させた。その後攪拌を止め、静置して油層を分離し、この油層を1規定の水酸化ナトリウム水溶液500ccと飽和食塩水500ccでそれぞれ3回ずつ洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。続いて蒸留により未反応のテトラリンを留去した後、減圧蒸留を行なって沸点135?148℃/0.17mmHg留分750gを得た。この留分を分析した結果、1-(1-テトラリル)-1-フェニルエタンと1-(2-テトラリル)-1-フェニルエタンの混合物であることが確認された。
次に上記留分500ccを1lのオートクレーブに入れ、さらに5%ルテニウム-カーボン触媒50gを添加し、水素圧20kg/cm^(2)、反応温度120℃の条件にて4時間水素化処理を行なった。冷却後、反応液をろ過(審決注:「ろ」の漢字が規格外であるため、ひらがなで示す。以下同様。)して触媒を分離した。続いてろ液から軽質分をストリッピングした後、分析したところ水素化率99.9%以上であり、またこのものは1-(1-デカリル)-1-シクロヘキシルエタンと1-(2-デカリル)-1-シクロヘキシルエタンの混合物であることが確認された。得られた混合物の比重は0.94(15/4℃)であり、動粘度は4.9cSt(100℃)であり、また屈折率n_(D)^(20)は1.5048であり、cis比率88%であった。
実施例1および比較例1
調製例で得られた基油(A成分)に第1表に示す成分を所定割合で加えて潤滑油組成物を調製し、得られた潤滑油組成物に対して各種試験を行なった。なお、試験方法は次の如くである。
試験方法
○1(審決注:丸数字の1。以下同様。)トラクション係数
2円筒型転がり摩擦試験機にて行なった。すなわち、曲率を有する円筒A(直径52mm、曲率半径10mm)と平面を有する円筒B(直径52mm)とを7000gfで接触させ、円筒Aを一定速度(1500rpm )で、円筒Bを1500rpmから昇速させてスリップ率5%のときの両円箇間に発生するトラクション力を測定して、トラクション係数を求めた。
ここで2つの円筒の材質は軸受鋼SUJ-2で、表面はアルミナ(0,03μ)によりパフ仕上げされており、表面あらさはRmax0.1μ以下であり、ヘルツ接触圧は112kgf/mm^(2)であった。
この結果を第1図に示す。
○2耐摩耗試験
ASTM D-4172のシェル四球試験を次の条件で行ない、摩耗量(mm)で評価した。結果を第1表に示す。
[条件]
回転数: 1800rpm
荷 重: 30kgf
時 間:2時間
油 温 : 120℃
比較例2
実施例1において、(B)成分の代わりにポリブテン(数平均分子量2300)4重量%を用いたこと以外は実施例1と同様にして潤滑油組成物を調製し、各種試験を行なった。結果を第1表および第1図に示す。

*1:調製例で得られた基油
*2:エチレンーα-オレフィン共重合体。
数平均分子量2600
*3:I・・・ジアルキルジチオリン酸亜鉛(R^(2)?R^(5)が第1級ヘキシル基のもの)
II・・・トリクレジルフォスフェート
*4:ボリメタアクリレート(数平均分子量4万)」(7頁左下欄11行?8頁左上欄下から7行)

(2)本願の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物2には、次の記載がある。
摘記2a:「パラフィン系、ナフテン系、混合系鉱油およびオレフィンなどの合成油の粘度が40℃で3?15cstからなる基油に、トリフロロプロピルメチルポリシロキサンを0.1?30ppm配合してなることを特徴とする冷凍機油組成物。」(特許請求の範囲)

摘記2b:「従来、冷凍機油の消泡剤としてはジメチルポリシロキサンの粘度が25℃で1×10^(3)?1×10^(4)cstのものが使用されている。冷凍機油の低粘度化は自身の溶解性が大きくなるため、上記粘度のジメチルポリシロキサンでは油中に溶解されて、あわ立ち防止効果がなくなる。」(1頁右下欄16行?2頁左上欄1行)

摘記2c:


摘記2d:「本実験結果は低粘度油になるほど、従来使用されている1×10^(3)?1×10^(4)cst/25℃のジメチルポリシロキサンでは消泡効果が少なく、またジメチルポリシロキサンの粘度が低下するほど効果の薄いことを示している。・・・
本発明者は低粘度冷凍機油にトリフロロプロピルメチルポリシロキサンを微量配合すると油面のあわ立ち防止に効果があることを確認し、発明を完成した。」(2頁左下欄1?11行)

(3)本願の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物3には、次の記載がある。
摘記3a:「III.潤滑油添加剤
4.2 シリコーンあわ消し剤
・・・
4.2.1 シリコーン油の構造
あわ消し剤として使用されるシリコーンは油状のもの,つまり次の構造を有する直鎖状シリコーン油で,無機質のSi-O結合と有機基から成り立っている。
R R R R
| | | |
R-Si-O-Si-O-Si-・・・-O-Si-R (R=有機基)
| | | |
R R R R
・・・
Rがメチル基以外のアルキル基(たとえばエチル基,プロピル基)を有するシリコーン油は,次第にジメチルシリコーン油の特性を失い,有機液体に近くなり,表面張力も大きくなるので,あわ消し剤としての能力も失われてくる。またRがフェニル基とメチル基よりなるフェニルメチルシリコーン油はフェニル基の極性のため分子間力が強くなり,表面張力も大きくなって,有機液体に対する溶解性が増加するため,あわ消し剤としての用途は少ない。またRがトリフルオロプロピル基の場合は溶剤に難溶となるため,ジメチルシリコーン油が溶解して消泡能力が失われる軽油,芳香族炭化水素などの消泡に用いられる。」(276頁ヘッダー部分?下から4行)

摘記3b:「シリコーン油は無極性であるから,一般に無極性溶剤には溶解しやすく,極性溶剤には難溶または不溶である(表-4)。潤滑油に対するシリコーン油の溶解度は,潤滑油の粘度が高く,またシリコーン油の粘度が高いほど小さくなる。一般にシリコーン油はSAE10より高粘度の潤滑油に対して不溶である。SAE5や10の潤滑油に対する溶解性は,潤滑油中の芳香族成分含有量と添加剤の存在によって違ってくる。芳香族成分が多いほどシリコーン油の溶解性は増し,添加剤が存在すれば溶解性は減少する。 シリコーン油は潤滑油に不溶性である範囲内で,すなわち分散状態にあるときにのみ消泡性を示し,溶解するような条件下(たとえば軽油に添加した場合)では図-2のように逆に発泡剤として働く。・・・」(279頁の項目「4.2.3.b 溶解性」)

(4)本願の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物4には、次の記載がある。
摘記4a:「図5に非水系での消泡剤として用いられるポリジメチルシリコーンとトリフルオロプロピル変性シリコーンの構造を示す。図6に,ポリジメチルシリコーンの溶解性と消泡性の例を示す。ポリジメチルシリコーンが溶解するoilNo.555では,シリコーンは発泡剤として機能してしまい,飽和溶解度を越えた時点で消泡剤として機能する。これに対し,ポリジメチルシリコーンが溶解しないoil No.702では,添加量の増量とともに消泡効果が高まる。一般的に,シリコーンの重合度が高くなるほど炭化水素油に対する溶解性は低下するため,消泡剤としては,100mPa・sec以上のポリジメチルシリコーンが用いられる。・・・ポリジメチルシリコーンの溶解性が高い低粘度油(SAE10以下)や溶剤に対しては,トリフルオロプロピル変性シリコーンが用いられる。トリフルオロプロピル化されたシリコーンオイルの表面張力は,23mN/m(25℃)と,ポリジメチルシリコーンよりも若干高く,低表面張力化による消泡性改善ではなく,系に対する溶解性を低下させる理由による。」(137頁の9?21行)

摘記4b:「



(5)本願の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物5には、次の記載がある。
摘記5a:「Fig.5に,主に非水系での消泡剤として用いられるポリジメチルシリコーンとトリフルオロプロピル変性シリコーンの構造を示す.Fig.6に,ポリジメチルシリコーンの溶解性と消泡性の例を示す.ポリジメチルシリコーンが溶解するoil No.555では,シリコーンは発泡剤として機能してしまい,飽和溶解度を越えた時点で消泡剤として機能する.
これに対し,ポリジメチルシリコーンが溶解しないoil No.702では,添加量の増量とともに消泡効果が高まる.一般的に,シリコーンの重合度が高くなるほど炭化水素油に対する溶解性は低下するため,消泡剤としては,100cSt以上のポリジメチルシリコーンが用いられる.・・・ポリジメチルシリコーンの溶解性が高い低粘度油(SAE10以下)や溶剤に対しては,トリフルオロプロピル変性シリコーンが用いられる.トリフルオロプロピル化されたシリコーンオイルの表面張力は,23mN/m(25℃)と,ポリジメチルシリコーンよりも若干高く,低表面張力化による消泡性改善ではなく,系に対する溶解性を低下させる理由による.」(355頁左欄14行?356頁左欄1行)

(6)本願の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物6には、次の記載がある。
摘記6a:「一般に,消泡剤の必要特性として
(1)泡膜液に不溶性であること
(2)泡膜液よりも低表面張力であり,消泡剤との界面張力も低いこと
(3)泡膜液との親和性があること
があげられる。」(66頁左欄2?7行)

摘記6b:「シリコーン油は無極性であり,極性溶剤には難溶あるいは不溶であるが,一般に無極性溶剤には溶解しやすい。潤滑油に対しては,潤滑油の粘度が低いほど溶解しやすく,また,シリコーン油の粘度が高いほど溶解度が小さくなる傾向があるが,一般にSAE10より高粘度の潤滑油には不溶である。SAE5やSAE10の低粘度油においては・・・Siに結合しているメチル基の一方をトリフルオロプロピル化したトリフルオロプロピル変成シリコーンが用いられる。」(66頁右下欄16行?67頁左欄下から12行)

(7)本願の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物7には、次の記載がある。
摘記7a:「【0026】(表1)は、本発明の構成要素であるR32/R125/R134a混合冷媒のいくつかの混合組成の理想的な冷凍性能を、R125とR143aを多く含む混合冷媒の有力視されている混合組成と比較するものである。条件は、圧縮機吸入温度が30℃、凝縮平均温度が45℃、蒸発平均温度が-15℃、凝縮器出口過冷却度が0deg、蒸発器出口過熱度が15degの場合であり、冷凍能力には蒸発器出口過熱度エンタルピが含められる。又、比較のための基準として、冷媒R22と冷媒R502を用いた。」

(8)本願の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物8には、次の記載がある。
摘記8a:「しかしながら、フッ素原子の原子量(約19)は水素原子の原子量(約1)に比べて非常に大きいので、モノマー中のフッ素原子の数が増大すると、モノマーの分子量と比重が増加する。」(5頁左上欄3?7行)

3 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「(1)(A)縮合環および/または非縮合環の飽和炭化水素を主成分としてなる基油、(B)数平均分子量が800?8000のエチレン-α-オレフィン共重合体および(C)耐摩耗剤よりなるトラクションドライブ用潤滑油組成物。」が記載されており(摘記1a)、基油として「1-シクロヘキシル-1-デカリルエタンが好ましい」こと(摘記1c)、実施例において、(A)成分として「1-(1-デカリル)-1-シクロヘキシルエタンと1-(2-デカリル)-1-シクロヘキシルエタンの混合物」であって、100℃での動粘度が4.9cStである基油を用い、(B)成分として数平均分子量2600のエチレン-α-オレフィン共重合体を用い、(C)成分としてジアルキルジチオリン酸亜鉛及びトリクレジルフォスフェートを用いて得られる潤滑油組成物が製造されたこと(摘記1e)も記載されている。

したがって、刊行物1には
「(A)100℃での動粘度が4.9cStである、1-(1-デカリル)-1-シクロヘキシルエタンと1-(2-デカリル)-1-シクロヘキシルエタンの混合物からなる基油、(B)数平均分子量が2600のエチレン-α-オレフィン共重合体および(C)ジアルキルジチオリン酸亜鉛及びトリクレジルフォスフェートからなる耐摩耗剤よりなるトラクションドライブ用潤滑油組成物」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
平成20年12月22日付け、平成22年3月12日付け及び平成24年8月10日付けの手続補正書によって補正された本願の明細書(以下「本願明細書」という。)の段落【0010】に、粘度比重恒数(VGC)が0.85以上の炭化水素系合成油として「1-シクロヘキシル-1-デカリルエタン」が挙げられている。そして、引用発明の「1-(1-デカリル)-1-シクロヘキシルエタン」と「1-(2-デカリル)-1-シクロヘキシルエタン」はいずれも「1-シクロヘキシル-1-デカリルエタン」に該当する化合物である。
したがって、引用発明の「1-(1-デカリル)-1-シクロヘキシルエタンと1-(2-デカリル)-1-シクロヘキシルエタンの混合物」は、本願発明の「粘度比重恒数(VGC)が0.85以上である炭化水素系合成油」に相当する。
また、本願明細書の段落【0002】に「自動車用変速機(手動,自動,CVT)油」が「油温100℃以上で使用されることも多い。」と記載され、段落【0004】にはCVTとして「トラクションドライブCVT」が記載されており、さらに段落【0025】に「本発明の潤滑油組成物は・・・高温下でも安定した消泡性を与えるもので、特に・・・トラクション油・・・として好適である」と記載されていることや、刊行物1に「トラクションドライブ用流体」が「極低温から高温までの環境にさらされる」(摘記1b)と記載されていること、引用発明の基油は動粘度が100℃で規定されており、動粘度の測定温度は、通常、使用環境を想定した温度であることを考慮すると、引用発明の「トラクションドライブ用潤滑油組成物」は、100℃以上で使用されるものと認められる。

そうすると、両者は
「粘度比重恒数(VGC)が0.85以上である炭化水素系合成油を基油とする、100℃以上で使用される潤滑油組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本願発明では、「該基油に15℃における密度が1.15g/cm^(3)以上であり、かつ40℃における動粘度が503?707mm^(2)/sであるポリフルオロアルキルメチルシロキサンを、組成物全量基準で、5?30重量ppm配合してなる」ものであるのに対し、引用発明ではそのことについて言及がない点

相違点2:引用発明では、「(B)数平均分子量が2800のエチレン-α-オレフィン共重合体および(C)ジアルキルジチオリン酸亜鉛及びトリクレジルフォスフェートからなる耐摩耗剤」を含むのに対し、本願発明ではそのことについて言及がない点

5 相違点についての判断
(1)相違点1について
ア ポリフルオロアルキルメチルシロキサンを、組成物全量基準で、5?30重量ppm配合する点について
刊行物1には、必要により「消泡剤」を加えることができると記載されている(摘記1d)
そして、刊行物2に「・・・粘度が40℃で3?15cstからなる基油に、トリフロロプロピルメチルポリシロキサンを0.1?30ppm配合してなることを特徴とする冷凍機油組成物。」(摘記2a)、「従来、冷凍機油の消泡剤としてはジメチルポリシロキサン・・・が使用されている。冷凍機油の低粘度化は自身の溶解性が大きくなるため、上記粘度のジメチルポリシロキサンでは油中に溶解されて、あわ立ち防止効果がなくなる。」(摘記2b)、「本実験結果は低粘度油になるほど、従来使用されている・・・ジメチルポリシロキサンでは消泡効果が少なく・・・本発明者は低粘度冷凍機油にトリフロロプロピルメチルポリシロキサンを微量配合すると油面のあわ立ち防止に効果があることを確認し、発明を完成した。」(摘記2d)と記載されており、
刊行物3に、潤滑油添加剤として用いられるシリコーンあわ消し剤の、シリコーンのケイ素原子に結合する基Rについて「Rがトリフルオロプロピル基の場合は溶剤に難溶となるため,ジメチルシリコーン油が溶解して消泡能力が失われる軽油,芳香族炭化水素などの消泡に用いられる。」(摘記3a)と記載され、
刊行物4に、石油製品の消泡剤に関して「ポリジメチルシリコーンが溶解するoilNo.555では,シリコーンは発泡剤として機能してしまい,飽和溶解度を越えた時点で消泡剤として機能する。・・・ポリジメチルシリコーンの溶解性が高い低粘度油(SAE10以下)や溶剤に対しては,トリフルオロプロピル変性シリコーンが用いられる。トリフルオロプロピル化されたシリコーンオイルの表面張力は,23mN/m(25℃)と,ポリジメチルシリコーンよりも若干高く,低表面張力化による消泡性改善ではなく,系に対する溶解性を低下させる理由による。」(摘記4a)と記載され、
刊行物5の摘記5aにもにも刊行物4に示したのと同様のことが記載され、刊行物6に、潤滑油に配合される消泡剤の必要特性として「泡膜液に不溶性であること」(摘記6a)が記載され、消泡剤として配合されるシリコーン油について「潤滑油に対しては,潤滑油の粘度が低いほど溶解しやすく,また,シリコーン油の粘度が高いほど溶解度が小さくなる傾向があるが,一般にSAE10より高粘度の潤滑油には不溶である。SAE5やSAE10の低粘度油においては・・・Siに結合しているメチル基の一方をトリフルオロプロピル化したトリフルオロプロピル変成シリコーンが用いられる。」(摘記6b)と記載されているように、
潤滑油の消泡剤としてはジメチルポリシロキサン(ジメチルシリコーン油)が用いられるが、基油の粘度が低くてジメチルポリシロキサンを溶解してしまうような場合には、より溶解性の低いトリフルオロプロピル変成されたものが用いられることは、本願出願時の技術常識である。
そして、引用発明の基油の動粘度は、使用環境温度である100℃で4.9cStと非常に低いものであるから、このような低粘度の基油に消泡剤を配合するにあたり、上記技術常識を考慮して低粘度でも溶解せずに消泡性を発揮するトリフルオロプロピル変成されたジメチルポリシロキサン、すなわちトリフルオロプロピルメチルポリシロキサン(本願発明の「ポリフルオロアルキルメチルシロキサン」に相当。なお、本願明細書の段落【0015】には、ポリフルオロアルキルシロキサンのフルオロアルキル基として「3,3,3-トリフルオロプロピル基」が好ましい旨記載されている。)を用いること、その際配合量を刊行物2の記載を参考に(組成物全量を基準に)0.1?30ppmの範囲内で任意の量を選択し、5?30重量ppmとすることは、当業者が容易に想到することである。
なお、刊行物2には、基油の動粘度が40℃で3?15cstであるときにトリフルオロプロピル変成シリコーンを用いることが記載されているが、刊行物2は冷凍機油組成物に関するものであり、例えば刊行物7に冷凍サイクル装置の条件として「圧縮機吸入温度が30℃、凝縮平均温度が45℃、蒸発平均温度が-15℃」(摘記7a)と記載されるように、その組成物は高くても40℃付近で使用されるものである。そうすると、刊行物2も引用発明も、共に使用環境温度における基油の粘度は同程度であるから、このことからみても、引用発明における基油の粘度が、ポリジメチルシロキサン消泡剤に替えてトリフルオロプロピルメチルポリシロキサンを用いる必要がある程度に低粘度であることは、当業者が予測できることである。

イ ポリフルオロアルキルシロキサンの40℃における動粘度を503?707mm^(2)/sとする点について
刊行物2に、ジメチルポリシロキサンの消泡効果について「ジメチルポリシロキサンの粘度が低下するほど効果の薄い」(摘記2d)と記載され、
刊行物3に「潤滑油に対するシリコーン油の溶解度は,・・・シリコーン油の粘度が高いほど小さくなる」,「シリコーン油は潤滑油に不溶性である範囲内で・・・消泡性を示し」(摘記3b)と記載され、
刊行物4に「一般的に,シリコーンの重合度が高くなるほど炭化水素油に対する溶解性は低下するため,消泡剤としては,100mPa・sec以上のポリジメチルシリコーンが用いられる。」(摘記4a)と記載され、
刊行物5の摘記5aにも同様のことが記載され、
刊行物6に、消泡剤の必要特性として「泡膜液に不溶性であること」や、消泡剤であるシリコーン油は「シリコーン油の粘度が高いほど溶解度が小さくなる傾向がある」(摘記6a及び6b)と記載されていることからみて、
消泡剤であるポリシロキサン(シリコーン油)類は、一般にその粘度(重合度)が高いほど潤滑油に対する溶解性が低下し、消泡剤として機能しやすくなることは、本願出願時における技術常識であるといえる。
そうすると、引用発明において、消泡剤としてポリシロキサンの一種であるトリフルオロプロピルメチルポリシロキサンを用いるにあたり、消泡性を考慮してその粘度の値を一定以上の範囲で任意に設定し、40℃における動粘度を503?707mm^(2)/s程度とすることは、当業者が容易に想到することである。
なお、刊行物2において具体的に開示されているトリフロロプロピルメチルポリシロキサンの動粘度は、25℃において300cstというものであり(摘記2c)、40℃で測定すればさらに小さい値になるものと認められるが、上記のとおり、「消泡剤であるポリシロキサン(シリコーン油)類は、一般にその粘度(重合度)が高いほど潤滑油に対する溶解性が低下し、消泡剤として機能しやすくなる」ことが技術常識であるから、消泡性を高めるためにより高い粘度を選択し、503?707mm^(2)/s程度とすることは、当業者が容易に想到することである。

ウ ポリフルオロアルキルメチルシロキサンとして、15℃における密度が1.15g/cm^(3)以上のものを用いた点について
上記アで言及した、ジメチルポリシロキサンに替えてトリフルオロプロピル変成されたものを用いることによって溶解性を低下させ、消泡性を向上させるという技術常識を考慮すれば、ジメチルポリシロキサンにおいて、トリフルオロプロピル変成量を増やせば、それだけ溶解性が低下し、消泡性が向上するであろうことは当業者が容易に理解することである。
そして、フッ素の原子量は水素の原子量よりも非常に大きいから、一般に、炭化水素に比べてフッ素化された炭化水素の方が比重(密度)が大きくなり、フッ素の導入量が増えるに従って比重がより大きくなることも、当業者に自明なことである(例えば、刊行物8の摘記8aには、「フッ素原子の原子量(約19)は水素原子の原子量(約1)に比べて非常に大きいので、モノマー中のフッ素原子の数が増大すると、モノマーの分子量と比重が増加する。」と記載されている。)。
そうすると、当業者であれば、引用発明において、消泡剤の溶解性を低下させ、より消泡性を向上させるために、消泡剤として用いるトリフルオロプロピル変成シリコーンのトリフルオロプロピル変成量を一定以上とすることは容易に想到することであるし、変成量が増えてフッ素原子の含有量が多くなれば、それだけ消泡剤の密度も高くなるのであるから、その変成量の下限を定める代わりに消泡剤の密度の下限値を定めることも、当業者が容易に想到することである。
また、本願明細書には、密度の小さい消泡剤を用いた比較実験(比較例5)が記載され、実施例に比べて泡立ち油量が大きくなることが示されているが、そのような効果は当業者が予測できる程度のことである。

(2)相違点2について
本願明細書の段落【0018】に「本発明の潤滑油組成物は、基油に、ポリフルオロアルキルシロキサンを配合することにより得られるが、通常潤滑油の特性向上のため、公知の酸化防止剤,清浄剤,分散剤,摩擦調整剤,極圧剤,摩耗防止剤,錆止め剤,金属不活性化剤などを本発明の目的を阻害しない範囲で適宜配合することができる。これらその他の添加剤の全配合量は、組成物全量基準で、0.05?15重量%の範囲が好ましい。」と記載されるように、本願発明の組成物は基油とポリフルオロアルキルメチルシロキサンだけを含有するものに限られず、他の成分を含むことを排除するものではない。
よって、引用発明が「(B)数平均分子量が2800のエチレン-α-オレフィン共重合体および(C)ジアルキルジチオリン酸亜鉛及びトリクレジルフォスフェートからなる耐摩耗剤」を含む点は、本願発明との実質的な相違点とはいえない。

(3)本願発明の効果について
本願明細書の段落【0005】には、「本発明は、上記観点からなされたもので、溶解性の高い基油を用いた場合、高温下でも安定した消泡性を与える潤滑油組成物を提供することを目的とするものである。」と記載されており、さらに、ポリフルオロアルキルメチルシロキサンに替えてポリジメチルシロキサンを用いた比較例1?4及びポリフルオロアルキルメチルシロキサンとして、15℃における密度が1.09であるものを用いた比較例5が、いずれも実施例のものに比べて泡立ち油量が多くなったことが示されている。
しかし、(1)アで示したように、潤滑油の消泡剤としてはジメチルポリシロキサン(ジメチルシリコーン油)が用いられるが、基油の粘度が低くてジメチルポリシロキサンを溶解してしまうような場合には、より溶解性の低いトリフルオロプロピル変成されたものが用いられることは、本願出願時の技術常識であるから、溶解性の高い基油を用いたり、高温条件、すなわち基油の溶解性が高くなる条件では、比較例1?4のようにポリジメチルシロキサンを使用すれば、それらが溶解して消泡性が劣ること、また、より溶解性の小さいポリフルオロアルキルメチルシロキサンを用いれば、消泡性が向上するであろうことは、当業者が予測できる程度のことである。
また、基油のフッ素含有量を高くして密度を大きくすれば、消泡性が向上することも、(1)ウで示したように当業者が予測できる程度のことである。

(4)小括
したがって、本願発明は、刊行物1?8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

6 審判請求人の主張について
審判請求人は、平成24年8月10日付けの意見書において、主に以下の3点を主張し、本願発明は、刊行物1?8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない旨主張している。

[1]「刊行物2には、手続補正書(平成22年4月28日付)により補充した審判請求書の請求の理由において述べましたように、ナフテン系鉱油に対するポリフルオロアルキルメチルシロキサンの効果については具体的に示されていますが(刊行物2,第2表)、本願発明で用いられる特定の合成油である合成ナフテン基油に対する効果の記載や示唆はなく、また、刊行物2において消泡効果がないと記載されるシロキサンの動粘度は、本願発明で規定する動粘度の範囲程度のものであります。すなわち、基油として特定の合成油である合成ナフテン基油を用いるか、鉱油を用いるかによって、動粘度が同じ程度の消泡剤を用いても全く異なる消泡効果が発現しているといえます。
一方、審判官が認定されるように、刊行物1に開示される引用発明で採用される基油は合成油であり、刊行物1と2とは、基油が合成油を採用するか、鉱油を採用するかの点で異なっております。よって、基油が合成油か鉱油かにより、動粘度が同じ程度の消泡剤を用いても全く異なる消泡効果が発現していることを考慮すれば、そもそも刊行物1と刊行物2とを組み合わせる動機付けは存在せず、また、高温条件の下でも安定した消泡性が得られるという本願発明の効果は、刊行物1及び2に記載の発明から予期しうるものではありません。」(4.拒絶理由に対する意見(ii))

[2]本願比較例の内容からも分かるように、例えば40℃において消泡効果があったとしても、100℃においても同様に消泡効果が得られるものではなく、温度の要因も消泡効果に影響しています。
このように、消泡効果は、基油の粘度と消泡剤の溶解度と関係のみを考慮すればよいのではなく、基油の種類、すなわち合成油なのか鉱油なのか、消泡剤の種類や配合量、潤滑油組成物の使用環境温度といった様々な要因を同時に考慮する必要があります。(4.拒絶理由に対する意見(iii))

[3]参考例2(補正前の実施例1),実施例3,実施例5について、消泡性の持続性の評価を行い、【表1】として提示する。

その表からも明らかなように、添加剤2(基油の動粘度503mm^(2)/s及び3(基油の動粘度707mm^(2)/s)を用いた実施例3,5のの消泡性の持続性は、添加剤1(基油の動粘度54mm^(2)/s)を用いた参考例2よりも優れている。(4.拒絶理由に対する意見(iv)を要約)

そこで、上記主張について検討する。
(1)主張[1]について
刊行物2にはパラフィン、ナフテン、混合系鉱油、オレフィンなどの合成油という、合成油を含む様々な種類の基油について、トリフロロプロピルメチルポリシロキサンの添加が有効であることが記載されている(特許請求の範囲)から、刊行物2に記載された、トリフロロプロピルメチルポリシロキサンが消泡剤として好ましいという知見をナフテン系の合成油である引用発明に適用することに特に阻害要因があるものとは認められない。
また、請求人は「刊行物2において消泡効果がないと記載されるシロキサンの動粘度は、本願発明で規定する動粘度の範囲程度のもの」であることを理由として、「基油として特定の合成油である合成ナフテン基油を用いるか、鉱油を用いるかによって、動粘度が同じ程度の消泡剤を用いても全く異なる消泡効果が発現している」と主張しているが、その主張は採用できない。
刊行物2において消泡効果がないと記載されているのは、第1表における、25℃における動粘度が350cst及び1000cstである、フッ素化されていない「ジメチルポリシロキサン」である(摘記2c)。これに対し、第2表には、フッ素化された「トリフロロプロピルメチルポリシロキサン」を用いた場合には、その動粘度が25℃で300cstという低い値ですら消泡効果があることが記載されているのである(摘記2c)。
したがって、刊行物2の記載からいえることは、「基油として特定の合成油である合成ナフテン基油を用いるか、鉱油を用いるかによって、動粘度が同じ程度の消泡剤を用いても全く異なる消泡効果が発現している」ということではなく、「ジメチルポリシロキサン」に替えて「トリフロロプロピルメチルポリシロキサン」を用いると消泡効果が向上する、ということである。
そして、審判請求書の主張(項目(ii)本願請求項1の発明が特許性を有する理由)によれば、刊行物2に記載された、25℃で300cstという動粘度は、40℃ではさらに小さくなるものと認められるが、刊行物2には、トリフロロプロピルメチルポリシロキサンを用いた場合には、そのような粘度のものですら良好な消泡性を示すことが記載されているのであるから、5(1)イで示した、粘度が高くなるほど消泡効果が高まるという技術常識を考慮すれば、本願発明でいう、40℃で503?707mm^(2)/sという高粘度のものを用いれば、なおさら良好な消泡性が得られることは、当業者が予測できることである。

(2)主張[2]について
刊行物4の表2には、トリフルオロプロピル変性シリコーンが、300mpa・secという低粘度でも試験温度93.5℃で消泡性を有することが示されている(摘記4b)から、トリフルオロプロピル変性シリコーンであるトリフルオロプロピルメチルポリシロキサンが、100℃程度でも消泡性を示すであろうことは当業者が予測できる程度のことである。
また、仮にそのことだけでは「合成ナフテン基油」という特定の基油に対して100℃という温度で消泡効果を有することが確実に予測できるとまではいえないとしても、5(1)で示したように、トリフルオロプロピルメチルポリシロキサンは、フッ素化されていないジメチルポリシロキサンよりも溶解性が低く、前者が溶解するような条件でも消泡剤として使用できることは本願出願時の技術常識であるから、引用発明において、消泡剤としてまず代表的なジメチルポリシロキサンを使用してみて、それで消泡効果が得られなければ、より消泡効果の高いトリフルオロプロピルメチルポリシロキサンを用いてみることは、当業者であれば当然に行うことであるし、それを用いることによって消泡性が向上するであろうことは当業者が予測できる程度のことである。

(3)主張[3]について
40℃における動粘度「503?707mm^(2)/s」に限定することによって消泡性の持続性が向上することは、当初明細書にそのような技術思想が全く記載されておらず、採用することはできない。
また、仮にそれを採用するとしても、平成24年8月10日付けの意見書に提示された【表1】の参考例2と実施例3(又は5)の「消泡性の持続性」についての評価は、それぞれ「△」と「○」であり、前者は「泡が残ってしまったとき」、後者は「泡の大半が消滅したとき」(すなわち、少しは残っている。)であるから、両者の優劣を明確に区別することはできず、進歩性を認めるに足るほどの格別顕著な効果であるとはいえない。
さらに、5(1)ウで示したように、一般に粘度が高くなれば消泡性が向上することは技術常識であるから、高い粘度のものを用いたことによって消泡性が向上したとしても、それは当業者が予測できる程度のことにすぎない。

(4)小括
したがって、審判請求人の主張は採用することができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-14 
結審通知日 2012-09-18 
審決日 2012-10-01 
出願番号 特願平10-253630
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安田 周史  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 橋本 栄和
小出 直也
発明の名称 潤滑油組成物  
代理人 大谷 保  

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