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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04J
管理番号 1266274
審判番号 不服2011-19328  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-07 
確定日 2012-11-15 
事件の表示 特願2006- 43794「無線通信システム及び受信装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月 6日出願公開、特開2007-228029〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成18年2月21日の出願であって、平成23年3月4日付けの最後の拒絶理由通知に対して、平成23年5月6日付けで手続補正がなされたが、平成23年5月31日付けで上記手続補正について補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年9月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。

第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年9月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の平成22年10月18日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、

「【請求項1】
複数の送信アンテナを有する送信装置と複数の受信アンテナを有する受信装置とが直交周波数分割多重方式を用いて通信する無線通信システムであって、
前記送信装置は、
前記受信装置から以前の信号により生成されたチャネル行列を得る状態取得手段と、
1以上の送信データ系列を空間インタリーブによって複数のデータストリームに分割する空間インタリーバを含む分割手段と、
前記チャネル行列を特異値分解して得られる右特異行列における前記複数のデータストリームのストリーム数分の列をプリコーディング行列として用いることにより前記複数のデータストリームを前記各送信アンテナに割り当てる割当手段と、
を備え、
前記受信装置は、
受信信号を前記複数のデータストリームのストリーム数分の信号に分離させた複数の受信データストリームを空間デインタリーブによって1以上のデータ系列に変換する空間デインタリーバと、
前記受信信号から現在のチャネル状態を推定し、このチャネル状態を示す現在チャネル行列を生成する推定手段と、
前記現在チャネル行列から得られる信号対雑音比に対応する重み係数を用いてパスメトリックに重み付けすることにより前記1以上のデータ系列をビタビ復号する復号手段、
を備える無線通信システム。」

という発明(以下、「本願発明」という。)を、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された、

「【請求項1】
複数の送信アンテナを有する送信装置と複数の受信アンテナを有する受信装置とが直交周波数分割多重方式を用いて通信する無線通信システムであって、
前記送信装置は、
前記受信装置から以前の信号により生成されたチャネル行列を得る状態取得手段と、
1以上の送信データ系列を空間インタリーブによって複数のデータストリームに分割する空間インタリーバを含む分割手段と、
前記チャネル行列を特異値分解して得られる右特異行列における前記複数のデータストリームのストリーム数分の列をプリコーディング行列として用いることにより前記複数のデータストリームを前記各送信アンテナに割り当てる割当手段と、
を備え、
前記受信装置は、
受信信号を前記複数のデータストリームのストリーム数分の信号に分離させた複数の受信データストリームを空間デインタリーブによって1以上のデータ系列に変換する空間デインタリーバと、
前記受信信号から現在のチャネル状態を推定し、このチャネル状態を示す現在チャネル行列を生成する推定手段と、
前記現在チャネル行列から得られる信号対雑音比に対応する重み係数を用いてパスメトリックに重み付けすることにより前記1以上のデータ系列をビタビ復号する復号手段、
を備え、
前記復号手段は、前記現在チャネル行列を特異値分解して得られる固有値である、前記現在チャネルを特異値分解して得られる対角行列の対角要素を2乗した値を前記重み係数とする
無線通信システム。」

という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「復号手段」に関し、「前記復号手段は、前記現在チャネル行列を特異値分解して得られる固有値である、前記現在チャネルを特異値分解して得られる対角行列の対角要素を2乗した値を前記重み係数とする」という構成を付加することで限定し特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項(補正の目的)の規定に適合している。

3.独立特許要件について
上記本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。

(2)引用発明
A.原審の拒絶理由に引用された、特開2004-254285号公報(以下、「引用例1」という。)には「受信装置、送信装置及び受信方法」として図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の発明者らは、マルチアンテナを用いた無線通信システムにおいて、単純に各変調信号を分離復調するのではなく、受信される変調信号の実効受信電力(すなわち受信装置で得られる受信電力のうち、各変調信号を復調する際に有効に利用できる実質的な受信電力)を考慮した復調処理及び送信処理を行うことで、各変調信号の復調精度を向上させることができると考え、本発明に至った。
【0013】
本発明においては、実効受信電力の指標としてチャネル変動行列の固有値を用いる。チャネル変動行列は、受信装置で各変調信号を分離するために、各アンテナ受信信号と各変調信号をチャネル変動値を要素として関連付けたものである。つまりチャネル変動値を要素とした行列である。そして一般にマルチアンテナ通信で用いられる受信装置では、チャネル変動行列の逆行列を求めて、受信された信号から各変調信号を分離する。
【0014】
本発明においては、このように一般に用いられるチャネル変動行列から固有値を求め、これを実効受信電力の指標として用いているので、比較的少ない演算量及び比較的少ない構成の追加で、実効受信電力を求めることができるようになされている。」(5頁?6頁)

ロ.「【0181】
(実施の形態7)
本実施の形態では、複数のアンテナから送信された複数の変調信号を、複数のアンテナで受信する受信装置において、チャネル変動行列の固有値や各アンテナ受信信号の受信電界強度を用いて、受信信号に対して重み付け処理を行って受信信号を復調する受信装置について説明する。
【0182】
具体的には、分離後の各変調信号の軟判定値を、チャネル変動行列の固有値を用いて重み付けする。これにより、軟判定値に変調信号の実効受信電力に応じた適切な尤度をもたせることができるようになる。この結果、復号部によって得られる受信ディジタル信号の誤り率特性が向上する。
【0183】
先ず送信装置の構成について説明する。図20に、本実施の形態における送信装置の送信ユニットの構成の一例を示す。ここでこの実施の形態の送信ユニット2000と、図1の送信ユニット100との違いは、送信ユニット2000が誤り訂正符号化部2001、2002を有することである。その他の構成は、図1の送信ユニット100と同様なので、その説明は省略する。
【0184】
誤り訂正符号化部2001、2002はそれぞれ、送信ディジタル信号101、111を入力とし、送信ディジタル信号101、111に対して畳み込み符号を用いた誤り訂正符号化処理を施すことにより誤り訂正符号化信号2003、2004を得てこれを出力する。
【0185】
変調部102、112はそれぞれ、誤り訂正符号化信号2003、2004を入力とし、誤り訂正符号化信号2003、2004に対して変調処理を施す。この実施の形態では、変調部102、112が、図22に示すようなBPSK変調を施す場合について説明するが、QPSKや16QAM等の他の変調処理を施してもよい。
【0186】
ここで送信ユニット2000は例えば基地局に設けられており、この基地局は図2に示すような受信ユニット200を有する。また送信ユニット2000は図3に示すようなフレーム構成の信号を送信する。
【0187】
次に受信装置の構成について説明する。図21に、送信ユニット2000から送信された信号を受信する本実施の形態の受信ユニットの構成を示す。受信ユニット2100は例えば通信端末に設けられている。この実施の形態の受信ユニット2100と、図4の受信ユニット2100との違いは、受信ユニット2100が固有値による係数計算部2101、軟判定値計算部2102、2104、誤り訂正復号化部2103、2105、受信レベルによる係数計算部2106を有することである。その他の構成は、図4の受信ユニット400と同様なので、その説明は省略する。
【0188】
固有値による係数計算部2101はチャネル変動推定情報427を入力とし、固有値から求めた係数2110を出力する。具体的には、実施の形態1でも説明したように、チャネル変動推定情報427としてチャネル変動h11(t)、h12(t)、h21(t)、h22(t)の推定値を入力し、この推定値を要素とする(3)式のチャネル変動行列の固有値を計算し、固有値のパワーのうち最もパワーの小さい値に基づいて係数2101を求める。すなわち、実施の形態1で説明した固有値による係数計算部214(図2)と同じ計算を行って係数2110を求め、これを軟判定値計算部2102、2104に送出する。」(28頁?29頁)

ハ.「【0196】
本実施の形態において重要な動作は、軟判定値計算部2102、2104において、上記のように受信直交ベースバンド信号から得られる軟判定値に対して重み付けをする点であり、特に固有値から求めた係数を用いて重み付けする点である。
【0197】
具体的には、まずチャネル変動情報生成部426において生成されたチャネル変動推定情報427、すなわち推定されたh11(t)、h12(t)、h21(t)、h22(t)を用い、固有値による係数計算部2101において(3)式に示したチャネル変動行列の固有値が求められ、固有値のうちパワーの最小となる値から係数D(t)2110が算出される。
【0198】
また一方で受信レベルによる係数計算部2106において、R1(t)とR2(t)の受信レベル(この実施の形態の場合、R1(t)、R2(t)は逆拡散後の信号)から受信レベルから求めた係数Ca(t)2115およびCb(t)2116が得られる。
【0199】
以上のようにして得られた係数D(t)、Ca(t)および受信直交ベースバンド信号R’a(t)422を用い、軟判定値計算部2102において受信信号の軟判定値Sa(t)2111が次式により算出される。
【0200】
【数5】
Sa(t)=Ca(t)×D(t)×R’a(t) ………(5)
また同様に軟判定値算出部2104において係数D(t)、Cb(t)および受信直交ベースバンド信号R’b(t)423を用い、軟判定値Sb(t)2113が次式により算出される。
【0201】
【数6】
Sb(t)=Cb(t)×D(t)×R’b(t) ………(6)
誤り訂正復号化部2103では、上記のようにして得られた軟判定値Sa(t)2111を用いて誤り訂正復号化処理が行われる。同様に誤り訂正復号化部2105では、上記のようにして得られた軟判定値Sb(t)2113を用いて誤り訂正復号化処理が行われる。
【0202】
ここで軟判定値計算部2102、2104で用いる重み付けのための係数Ca(t)×D(t)およびCb(t)×D(t)は、実際に受信した受信電界強度に効率の係数を乗算した、実効受信電界強度を示している。この係数を乗算することで、受信特性を向上させることができる。
【0203】
本実施の形態では、誤り訂正符号として畳み込み符号化が施されているので、例えばビタビ復号のような最尤復号が用いられる。軟判定値をどのようにして最尤復号に用いるかについては、既に様々な文献において開示されており、例えば軟判定値と各信号点との間のユークリッド距離を算出して用いる方法や、確率密度分布特性に基づいたメトリック値を算出する方法等がある。本実施の形態では、一例として2乗ユークリッド距離が算出されるものとする。すなわち、図23に示したような例では、各信号点からの尤度メトリック値M0、M1がそれぞれ以下の(7)式、(8)式に示すように算出される。これにより、ビタビ復号により復号された受信ディジタル信号2112、2113が得られる。
【0204】
【数7】
M_(0)(t)=(+0.6-(-1.0))^(2)=2.56 ………(7)
【0205】
【数8】
M_(1)(t)=(+0.6-(+1.0))^(2)=0.16 ………(8)
かくして本実施の形態によれば、複数のアンテナから送信された複数の変調信号を、複数のアンテナで受信する受信装置において、分離処理して得た受信ベースバンド信号を用いて誤り訂正復号化を行う際、チャネル変動行列から算出した固有値の最小値に基づく係数D(t)を用いて軟判定値を重み付けするようにしたことにより、軟判定値に実効受信電力に基づく適切な尤度をもたせることが可能となり、受信データの誤り率特性を向上させることができる。」(30頁?31頁)

ニ.「【0220】
(実施の形態8)
本実施の形態では、実施の形態7で説明した処理をOFDM通信に適用した場合について説明する。本実施の形態の特徴は、チャネル変動推定結果から算出した固有値に基づく係数を用いて軟判定値を重み付けするといった処理を、サブキャリアごとに行うようにすることである。
【0221】
図26に、本実施の形態における送信装置の送信ユニットの構成例を示す。なお図26において図10との対応部分には同一符号を付し、図10を用いて既に説明した部分については説明を省略する。
【0222】
図26の送信ユニット2600と図10の送信ユニット1000との違いは、送信ユニット2600が誤り訂正符号化部2601、2603を有し、誤り訂正符号化部2601、2603が送信ディジタル信号101、111に畳み込み符号等を用いた誤り訂正符号化処理を施し、誤り訂正符号化した信号2602、2604を変調部102、112に送出することである。これにより送信ユニット2600においては、誤り訂正符号化したデータをOFDM処理するので、送信データを周波数軸方向に符号化されている状態とすることができる。
【0223】
ここで送信ユニット2600は例えば基地局に設けられており、この基地局は図2に示すような受信ユニット200を有する。また送信ユニット2600は図11に示すようなフレーム構成の信号を送信する。
【0224】
図27に、送信ユニット2600から送信された信号を受信する本実施の形態の受信ユニットの構成を示す。ここで受信ユニット2700は、大まかには、図12で説明した受信ユニット1200と図21で説明した受信ユニット2100とを組み合わせた構成となっているので、図12及び図21で既に説明した部分については説明を省略し、本実施の形態での特徴部分のみを説明する。なお図27では、図12と対応する部分については図12と同一符号を付した。
【0225】
各チャネル変動推定部1207、1209、1217、1219は、各サブキャリアに配置されていた推定用シンボルに基づいてサブキャリアごとのチャネル変動を推定する。チャネル変動情報生成部2703、固有値による係数計算部2705は、サブキャリアごとに、図21のチャネル変動生成部426、固有値による係数計算部2101と同じ処理を行うことにより、サブキャリアごとに固有値による係数2706を求め、これを軟判定値計算部2707、2711に送出する。
【0226】
受信レベルによる係数計算部2701は、無線部1203、1213からの出力信号1204、1214、離散フーリエ変換部(dft)1205、1215からの出力信号1206、1216、各チャネル変動推定部1207、1209、1217、1219からの出力信号1208、1210、1218、1220を入力し、これらのいずれか又は全てを使って、サブキャリアごとに受信レベルによる係数2702を求めてこれを軟判定値計算部2707、2711に送出する。
【0227】
軟判定値計算部2707、2711は、入力されたチャネルAの受信直交ベースバンド信号群1222、チャネルBの受信直交ベースバンド信号群1223を、固有値による係数2706及び受信レベルによる係数2702によって重み付けて、軟判定値信号2708、2712を出力する。ここで軟判定値計算部2707、2711は、サブキャリアごとに、図21の軟判定値計算部2102、2104について説明したのと同様の重み付け処理を行うようになっている。つまり、同じサブキャリアの受信直交ベースバンド信号、固有値による係数、受信レベルによる係数を用いて、サブキャリアごとに異なる重み付け処理を行う。
【0228】
このようにして、サブキャリアごとに重み付けされた軟判定値信号2708、2712が得られ、この軟判定値信号2708、2712が誤り訂正復号化部2709、2713によって誤り訂正復号化処理されて受信ディジタル信号2710、2714が得られる。
【0229】
かくして本実施の形態によれば、複数のアンテナから送信された複数のOFDM変調信号を、複数のアンテナで受信する受信装置において、チャネル変動推定結果から算出した固有値に基づく係数を用いて軟判定値を重み付けするといった処理を、サブキャリアごとに行うようにしたことにより、周波数選択性フェージング等によりサブキャリアごとの実効受信電力が変化した場合でも、軟判定値にサブキャリアごとの実効受信電力に基づく適切な尤度をもたせることが可能となり、受信データの誤り率特性を向上させることができる。」(33頁?34頁)

ホ.「【0314】
(中略)
しかし、本実施の形態では、各組み合わせで分離した変調信号の受信点と各候補点とのユークリッド距離(ブランチメトリック)を分離の際に用いたチャネル変動行列の固有値を使って重み付け合成し、重み付け合成後の軟判定値を判定する点で、実施の形態5と異なる。」(45頁)

ヘ.「【0331】
さらに本実施の形態の方法は、畳み込み符号や、ターボ符号、低密度パリティ符号等の誤り訂正符号が施された信号を受信した場合にも適用することができる。この場合、上述した重み付け合成方法でブランチメトリックを求め、このブランチメトリックを使ってパスメトリックを求めて復号すればよい。」(47頁)

上記イ.?ヘ.の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、
引用例1には、上記イ.にあるように、マルチアンテナを用いた無線通信システムに関して記載されている。そして、上記ニ.に記載された(実施の形態8)には、上記マルチアンテナシステムをOFDM通信に適用した場合について記載されている。この(実施の形態8)は、OFDM通信が適用されていない上記ロ.?ハ.における(実施の形態7)を基礎としている。
上記ロ.?ニ.及び【図26】には、送信装置において、送信ディジタル信号がOFDM変調され複数のアンテナから複数の送信信号が送信されることが記載されている。
上記ロ.?ニ.及び【図27】には、受信装置において、複数のアンテナから送信された複数の送信信号を複数の受信アンテナで受信することが記載され、各アンテナの受信信号からチャネル変動推定情報を得てチャネル変動行列を生成し、該チャネル変動行列の固有値を計算し、該固有値に基づき軟判定値の重み付けして誤り訂正復号化処理を行う構成が記載されている。
ここで、上記ハ.の段落【0203】に記載されるように、送信装置で誤り訂正符号化処理として畳み込み符号化を施し受信装置でビタビ復号のような最尤復号を用いること、及び、軟判定値を最尤復号に用いるにあたりユークリッド距離を算出して用いることが記載されている。また、上記ホ.には、「ユークリッド距離(ブランチメトリック)」との記載があり、上記ヘ.には、畳み込み符号の復号において、「重み付け合成方法でブランチメトリックを求め、このブランチメトリックを使ってパスメトリックを求めて復号すればよい。」との記載がある

したがって、上記引用例1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が開示されている。

(引用発明1)
「複数の送信アンテナを有する送信装置と複数の受信アンテナを有する受信装置とがOFDM通信方式を用いて通信する無線通信システムであって、
前記送信装置は、
複数の送信信号を前記各送信アンテナから送信する手段を備え、
前記受信装置は、
受信信号から現在のチャネル変動推定値を得て、チャネルの変動状態を示す現在チャネル変動行列を生成する手段と、
前記現在チャネル変動行列から得られる固有値を用いてパスメトリックに重み付けすることにより1以上の受信ディジタル信号をビタビ復号する復号手段、
を備える無線通信システム。」

B.原審の拒絶理由に引用された、特表2005-509316号公報(以下、「引用例2」という。)には「送受信装置における多入力・多出力通信チャネルを制御する方法およびシステム」として図面とともに以下の事項が記載されている。

ト.「【0005】
図1は、通信チャンネルの一部分が無線である通信チャンネルの上位の概略図を示している。図に示すように、xは受信機に無線送信されるユーザデータを表している。受信機においては、xはデータの推定値
【数1】

【0006】
として表されている。ユーザデータxは分割されて、複数のデータストリーム、x_(1)、x_(2)、....を表すベクトルを生成していてもよい。
【0007】
ユーザデータxは行列Vで処理されて、アダプティブアレイアンテナ信号zを生成する。行列Vの各列は、データストリームx_(i)のうちの1つを送信するのに使用されるアンテナアレイの重みセットを含むベクトルである。信号zは、アンテナアレイのアンテナ素子から空中を通って送信され、受信アンテナ信号rとして受信機アンテナアレイで受信される。アンテナ信号zと受信アンテナ信号rとの間のエアインタフェースは、信号zに関するエアインタフェースの効果について記述する行列Hを含んでいる。エアインタフェースは、信号zにノイズnを加算した形式でも記述される。
【0008】
受信アンテナ信号rは、受信機において行列U’で処理され、データの推定値
【数2】

を生成する。
【0009】
ここで図2を参照して、2つの入力、2つの出力を有するMIMOアンテナアレイシステムを示す。このMIMOシステムは、2つの異なったデータストリーム、x_(1)およびx_(2)を、下記の行列で定義される「複合チャネル」Hを通じて単一の加入者装置に同時に送信するために用いることができる。
【数3】

上記式中、h_(ij)、i=1,2、j=1,2は複素数のチャネル値である。ここに用いた用語「複合チャネル」は、チャネルの完全な測定または記述を意味しており、送信アンテナと受信アンテナのあらゆる組み合わせの効果が考慮されていることに注意されたい。複合チャネルは、送信アンテナと受信アンテナとの対のすべての組み合わせによって定義された単一アンテナの対の間のあらゆるチャネルの集合体と見なすことができる。
【0010】
1つの平坦なレイリーフェージングチャネルを仮定すると、h_(ij)は、E[h_(ij)h^(*)_(ij)]=1となる単位平均電力を有する複素数値化されたガウス数となる。受信された(ベースバンド)ベクトルr(図1参照)は以下のように記述できる。
r=Hx+n
上記式中、x=[x_(1) x_(2)]^(T)は送信されたデータストリームのベクトル、nは、分散σ^(2)_(n)を有する付加白色ガウス雑音を有するノイズ標本のベクトルである。
【0011】
ノイズフリーチャネルにおいては、チャンネル行列(channel matrix)Hがフルランク(full rank)の場合には、双方のストリームを完全に取り出すことができることに注意されたい。すなわち、2つの等式と2つの未知数を解いて未知数x=[x_(1) x_(2)]^(T)を取り出すことができるx=H^(-1)rのときに、双方のデータストリームを取り出して、リンク、すなわちチャネルの容量を2倍にすることができる。例えば、線形の構成は、受信されたベクトルrにH^(-1)を乗算するゼロフォーシング受信機を用い得る。これは、信号対雑音比(SNR)が高いときは良好に動作するが、SNRが低いときには望ましくないノイズを増大する。
【0012】
他の線形の受信機の構成において、検出されたデータストリームと受信信号と間の差の平均値を最小にするために、最小平均二乗誤差(MMSE)受信機を用いることができる。
【0013】
線形および非線形受信機の構成の双方はともに、雑音を有するチャンネルの複数のストリームを検出するために実施され得るが、実用上、多くの場合において、チャネルのノイズにより、構築するのにより複雑でかつ高価な非線形の受信機を使用する必要がある。改善された性能を有する非線形受信機の例として、直列干渉除去(SIC:Serial-Interference-Cancellation)受信機および最大尤推定(ML)受信機がある。そうした複雑さおよび費用を考慮して、できれば非線形の受信機は避けるべきである。
【0014】
理論的なMIMO容量 MIMOシステムの容量は以下の解析により示すことができる。チャンネル行列Hの特異値分解(SVD)が次式で与えられると仮定する。
【0015】
H=USV’ (1)
上記式中、Sは特異値で構成された対角行列(すなわち、H’HまたはHH’の固有値の平方根)、Uは、HH’の固有ベクトルに等しい列ベクトルを有する直交行列であり、Vは、H’Hの固有ベクトルに等しい列を有する直交行列であり、「’」演算子は、複素共役転置演算である。例として、次の複合チャネル行列を考える。
【数4】

この複合チャネルのSVDは、
【数5】

である。
図1を参照すると、送信ベクトルは、
z=Vx (2)
である。
したがって、入信ベクトルは、
r=Hz+n (3)
である。
Hおよびzを(1)および(2)に置き換えると次式が得られる。
r=USV’Vx+n=USx+n (4)
上記式中、Vは正規直交行列であるので、V’Vは同値と置き換えられる。次に、受信されたベクトルはUが事前に乗算される。
【数6】

【0016】
再び、Uが正規直交U行列であるので、U’Uは同値と置き換えられる。正規直交行列を事前に乗算することはノイズ共分散を変更しないので、新しいノイズベクトルeはnと同一の共分散行列を有することに注意されたい。
【0017】
等式(5)を2つの送信アンテナと2つの受信アンテナの場合に対して書き直すと、次式になる。
【数7】

上記式中、λ_(i)はチャンネル行列の固有値である。
シャノン限界(Shannon bound)に基づいた誤りのないチャネル容量は、よく知られていており、次式で与えられる。」(4頁?6頁)

上記ト.の記載及び関連する図面【図1】?【図2】並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記引用例2には以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が開示されている。

(引用発明2)
「複数の送信アンテナを有する送信装置と複数の受信アンテナを有する受信装置とが通信する無線通信システムにおいて、チャンネル行列Hを特異値分解して得られる行列Vの各列を複数のデータ系列にそれぞれ乗算して、送信アンテナから送信する」

C.原審の拒絶理由に引用された、特開2006-42342号公報(以下、「引用例3」という。)には「多重アンテナ通信システムにおける空間インターリーブ通信のための方法および装置」として図面とともに以下の事項が記載されている。

チ.「【課題を解決するための手段】
【0006】
多重アンテナシステムの複数の送信ブランチに対しビットまたはシンボルのようなデータをインタリーブすることによって、データを空間インタリーブする。開示する空間インタリーブは、多重アンテナ通信システムの空間送信ダイバーシチから結果的に得られる性能利得を高める。一つの例示的実施形態では、ビットを周波数インタリーブする前に、ビットに空間インタリーブを実行する。別の例示的実施形態では、ビットをシンボルにマッピングした後で、シンボルに空間インタリーブを実行する。
本発明のみならず、本発明のさらなる特長および利点についても、より完全な理解は、以下の詳細な説明および図面を参照することによって得られるであろう。」(4頁)

リ.「【0011】
図3のMIMO-OFDMシステムでは、周波数インタリーブ330より前に、空間インタリーブ360が実行される。この場合、空間インタリーブ360は、図5に関連してさらに詳述するように、総当り方式でビットに対して実行される。ビットのインタリーブの実行はシンボルのインタリーブより優れているが、どちらの空間インタリーブ技術も、そのようなインタリーブ無しのシステムに比較して、改善された性能を達成する。
【0012】
図4は、シンボルの空間インタリーブを達成するために本発明の特長を組み込んだ、図3のMIMO-OFDM送信システム300の代替実施形態の略ブロック図である。図4では、ブロック405乃至460は、図2および3における対応するブロックと同様の機能を実行する。しかし、この代替実施形態では、送信ブランチ490で空間インタリーバ460が周波数インタリーバ430より後に配置される。シンボルの空間インタリーブ460は、周波数インタリーブ430の結果に対する負の影響を防止するために実行される。空間インタリーブ460もまた、図5に関連してさらに詳述するように総当り方式で実行されるが、周波数インタリーブ430に対する負の影響が無いことを前提として、他の技術が可能である。
【0013】
送信システム300、400では、送信ブランチ390、490のデマルチプレクサ320、420より前に、スクランブラ305、405が配置されることに注目されたい。代替的に、スクランブラ305、405は、(スクランブラ305、405の設計に応じて)それぞれの送信ブランチ390、490で別個に、デマルチプレクサ320、420より前または後に配置することができる。しかし、この場合、各送信ブランチ390、490には、スクランブラの初期化シーケンスが必要になる。
【0014】
図5Aおよび5Bは、3つの送信アンテナで空間インタリーブを実行するための適切な例示的技術500を示す。図5Aはインタリーブ前のビットまたはシンボルを表わし、図5Bは空間インタリーブ後のビットまたはシンボルを表わす。図5Aおよび5Bにおいて、ビットまたはシンボルの各チェーン520、525、530は、送信ブランチ390、490に関連付けられるデータを表わす。第1インタリーブ動作570中に、送信ブランチA520のビットまたはシンボルは送信ブランチB525に転送され、送信ブランチB525のビットまたはシンボルは送信ブランチC530に転送され、送信ブランチC530のビットまたはシンボルは送信ブランチA520に転送される。第2インタリーブ動作580中に、送信ブランチA520のビットまたはシンボルは送信ブランチC530に転送され、送信ブランチC530のビットまたはシンボルは送信ブランチB525に転送され、送信ブランチB525のビットまたはシンボルは送信ブランチA520に転送される。これらの動作570、580の結果を図5Bに示す。空間インタリーバ360、460の他の実施形態では、インタリーブ動作570、580を全てのビットまたはシンボルに、あるいはn個のビットまたはシンボル毎に、実行することができる。本発明の一態様では、空間インタリーブ動作中に、1つの送信ブランチの周波数帯域に関連するビットまたはシンボルのチェーンを、異なる送信ブランチの同一周波数帯域に移動させる。例えば、空間インタリーブ動作中に、ブランチA520からブランチB525に移動するビットまたはシンボルのチェーンを、ブランチA520およびブランチB525の同一周波数帯域に関連付ける。」(5頁?6頁)

上記チ.?リ.の記載及び関連する図面【図3】?【図5】並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記引用例3には以下の発明(以下、「引用発明3」という。)が開示されている。

(引用発明3)
「複数の送信アンテナを有する送信装置と複数の受信アンテナを有する受信装置とが直交周波数分割多重方式を用いて通信する無線通信システムにおいて、複数の送信アンテナで別個のデータ・ストリームを送信するにあたり、空間インターリーブを行う。」

(3)対比・判断
引用発明1の「OFDM方式」は、『OFDM』が直交周波数分割多重(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)の略称であることは技術常識により明らかであるから、補正後の発明の「直交周波数分割多重方式」に相当する。

引用発明1の「送信信号」は、技術常識から信号列であり、アンテナ毎に送信される「データストリーム」といえるものであり、補正後の発明のように「1以上の送信データ系列を空間インタリーブによって複数のデータストリームに分割する空間インタリーバを含む分割手段」と「前記チャネル行列を特異値分解して得られる右特異行列における前記複数のデータストリームのストリーム数分の列をプリコーディング行列として用いることにより前記複数のデータストリームを前記各送信アンテナに割り当てる割当手段」とにより生成される「データストリーム」ではないものの、「特定のデータストリーム」である点で共通する。そして、両発明は、上記「特定のデータストリームを各送信アンテナから送信する手段」を有する点で共通している。

引用発明1の「現在のチャネル変動推定値を得て、チャネルの変動状態を示す現在チャネル変動行列を生成する手段」については、受信信号からチャネル変動推定値を得ることはすなわちチャネル状態を推定していることに他ならず、そのチャネル変動推定値によりチャネル変動行列を生成することは、チャネル状態を示すチャネル行列を生成することとなるから、補正後の発明の「前記受信信号から現在のチャネル状態を推定し、このチャネル状態を示す現在チャネル行列を生成する推定手段」に相当する。

引用発明1の「受信ディジタル信号」は、技術常識から信号列であり「データ系列」といえるものであり、補正後の発明のように「受信信号を前記複数のデータストリームのストリーム数分の信号に分離させた複数の受信データストリームを空間デインタリーブによって1以上のデータ系列に変換する空間デインタリーバ」により変換された「データ系列」ではないものの、「特定のデータ系列」である点で共通する。

引用発明1の「固有値」は、補正後の発明のように、「信号対雑音比に対応する」か否か不明であり、また、「現在チャネルを特異値分解して得られる対角行列の対角要素を2乗した値」であるかも不明であるが、補正後の発明の「重み係数」と「特定の重み係数」である点で共通する。

したがって、補正後の発明と引用発明1は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「複数の送信アンテナを有する送信装置と複数の受信アンテナを有する受信装置とが直交周波数分割多重方式を用いて通信する無線通信システムであって、
前記送信装置は、
特定のデータストリームを各送信アンテナから送信する手段を備え、
前記受信装置は、
受信信号から現在のチャネル状態を推定し、このチャネル状態を示す現在チャネル行列を生成する推定手段と、
前記現在チャネル行列から得られる特定の重み係数を用いてパスメトリックに重み付けすることにより1以上の特定のデータ系列をビタビ復号する復号手段、
を備え、
前記復号手段は、前記現在チャネル行列より得られる固有値を前記特定の重み係数とする
無線通信システム。」

(相違点)
(1)補正後の発明では、「前記受信装置から以前の信号により生成されたチャネル行列を得る状態取得手段」を有しているのに対し、引用発明1では、そのような構成を有していない点。
(2)補正後の発明では、「1以上の送信データ系列を空間インタリーブによって複数のデータストリームに分割する空間インタリーバを含む分割手段」を有しているのに対し、引用発明1では、そのような構成を有していない点。
(3)補正後の発明では、「前記チャネル行列を特異値分解して得られる右特異行列における前記複数のデータストリームのストリーム数分の列をプリコーディング行列として用いることにより前記複数のデータストリームを前記各送信アンテナに割り当てる割当手段」を有しているのに対し、引用発明1では、複数の送信ディジタル信号(データストリーム)を前記各送信アンテナから送信することのみ記載されている点。
(4)補正後の発明では、「受信信号を前記複数のデータストリームのストリーム数分の信号に分離させた複数の受信データストリームを空間デインタリーブによって1以上のデータ系列に変換する空間デインタリーバ」を有しているのに対し、引用発明1では、そのような構成を有していない点。
(5)「特定の重み係数」に関し、補正後の発明では、「信号対雑音比に対応する」ものであり、また、「現在チャネルを特異値分解して得られる対角行列の対角要素を2乗した固有値である、前記現在チャネルを特異値分解して得られる対角行列の対角要素を2乗した値」であるのに対し、引用発明1では「現在チャネル変動行列から得られる固有値」であるが、「信号対雑音比に対応する」か否か不明であり、また、「現在チャネルを特異値分解して得られる対角行列の対角要素を2乗した値」であるかも不明である点。

そこで、上記相違点について検討する。
まず、上記相違点(1)及び相違点(3)について検討する。
上記3.(2)B.において記載したとおり、引用例2には、
「複数の送信アンテナを有する送信装置と複数の受信アンテナを有する受信装置とが通信する無線通信システムにおいて、チャンネル行列Hを特異値分解して得られる行列Vの各列を複数のデータ系列にそれぞれ乗算して、各送信アンテナから送信する。」
という引用発明2が記載されている。
上記引用発明2の「チャンネル行列H」、「行列V」はそれぞれ補正後の発明の「チャネル行列」、「右特異行列」に相当し、引用発明2では「行列Vの各列を複数のデータ系列にそれぞれ乗算」しているので、上記「行列V」は補正後の発明の「プリコーディング行列」に相当する。そして、引用発明2の「チャンネル行列H」は引用発明1の「チャネル変動行列」に相当している。
引用発明2は、複数の送信アンテナを有する送信装置と複数の受信アンテナを有する受信装置と通信する無線通信システムという引用発明1がベースとする技術分野に係る発明である。そこで引用発明3を引用発明1に適用して、引用発明1の送信信号に引用発明1のチャネル変動行列を特異値分解して得られる右特異行列の各列をプリコーディング行列として用いることにより、複数のデータ系列を各送信アンテナから送信することは当業者が適宜為し得ることである。その際、プリコーディング後の複数のデータ系列を送信アンテナで送信する構成は、プリコーディング後に複数のデータ系列を各アンテナに割り当てる構成、すなわち「割当手段」といえるものとなる。(相違点(3))
そして、引用発明1の受信装置で生成した「チャネル変動行列」に係る情報を送信装置に送信してから送信装置で特異値分解してプリコーディング行列(行列V)を得るようにするか、受信装置で「チャネル変動行列」で特異値分解してプリコーディング行列(行列V)を得てから、該プリコーディング行列に係る情報を送信装置に送信するようにするかは、送信装置・受信装置の負荷分担に応じて当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎない。また、引用発明1において、固有値、プリコーディング等の「チャネル変動行列」から得られる処理値が、同じ時点の「チャネル変動行列」から得る必要があることは当業者にとって自明のことにすぎないから、受信装置における「現在チャネル行列」が送信装置において「以前の信号により生成されたチャネル行列」となることは自明である。(相違点(1))
したがって、相違点(1)及び相違点(3)は格別なものでない。

ついで、上記相違点(2)及び相違点(4)について検討する。
上記3.(2)C.において記載したとおり、引用例3には、
「複数の送信アンテナを有する送信装置と複数の受信アンテナを有する受信装置とが直交周波数分割多重方式を用いて通信する無線通信システムにおいて、複数の送信アンテナで別個のデータ・ストリームを送信するにあたり、空間インターリーブを行う。」
という引用発明3が記載されている。
上記引用発明3と引用発明1は、「複数の送信アンテナを有する送信装置と複数の受信アンテナを有する受信装置とが直交周波数分割多重方式を用いて通信する無線通信システム」という同一の技術分野に係る発明である。そこで、引用発明3を引用発明1に適用して、送信装置において「空間インターリーブ」処理を行って性能利得をより高めることは当業者が容易に為し得ることにすぎない。ここで、空間インターリーブを行うことで空間インターリーバに入力されるデータ系列は、複数の送信アンテナで別個に送信されるデータ・ストリームに分割されているといえる。(相違点(2))
さらに、受信装置において送信装置の逆の処理を行うことは技術常識であって、送信装置の空間インターリーブ処理により並び替えが行われているのであるから、受信装置で該並び替えの逆の並び替えを行って送信装置の空間インターリーバに入力された元のデータ系列の並びとする「空間デインターリーブ」処理を行うことは当業者に自明な処理にすぎない。(相違点(4))
上述のように為せば、引用発明1の送信装置において「1以上の送信データ系列を空間インタリーブによって複数のデータストリームに分割する空間インタリーバを含む分割手段」を有することとなり、引用発明1の受信装置において、「受信信号を前記複数のデータストリームのストリーム数分の信号に分離させた複数の受信データストリームを空間デインタリーブによって1以上のデータ系列に変換する空間デインタリーバ」を有することになる。
したがって、相違点(2)及び相違点(4)は格別なものでない。
なお、上記引用例3の【図3】、【図4】には、周波数インターリーブすることも記載されている。

最後に、上記相違点(5)について検討する。
引用例2には、上記3.(2)B.の摘記事項ト.の段落【0015】に記載されるように、チャンネル行列Hを特異値分解したときの対角行列Sの対角要素が『特異値』であること、そして、該『特異値』と『固有値』との関係は、『特異値』の2乗が『固有値』であることが開示されている。このことから、当業者であれば、引用発明1の固有値を、チャネル変動行列を特異値分解して得られた特異値を2乗して得るようにすることを容易に為し得るものである。(この点については、国際公開第2006/011345号の段落[0037]の記載も参照されたい。)
また、チャネル行列から得られる固有値が、信号対雑音比に対応することは周知の事項である。(必要があれば、唐沢好男,MIMO伝搬チャネルモデリング,電子情報通信学会論文誌B,社団法人電子情報通信学会,2003年9月,Vol.J86-B,No.9,pp.1706-1720の「3.1 狭帯域信号の伝送路表現」の項の記載、特に1710頁左欄第3?6行の記載を参照されたい。)
したがって、相違点(5)も格別なものでない。

そして、補正後の発明に関する作用・効果も、引用発明1乃至引用発明3及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

以上のとおりであるから、上記補正後の発明は上記引用発明1乃至引用発明3及び周知技術に基いて容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、平成18年法律第55号附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2.補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明及び周知技術
引用発明及び周知技術は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「(2)引用発明」及び「(3)対比・判断」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
そこで、本願発明と引用発明1とを対比するに、本願発明は上記補正後の発明から、当該補正に係る構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に当該補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明1乃至引用発明3及び周知技術に基いて容易に発明することができたものであるから、上記補正後の発明から当該補正に係る限定を省いた本願発明も、同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用発明1乃至引用発明3及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-13 
結審通知日 2012-09-18 
審決日 2012-10-02 
出願番号 特願2006-43794(P2006-43794)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04J)
P 1 8・ 575- Z (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡辺 未央子上田 翔太  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 石井 研一
神谷 健一
発明の名称 無線通信システム及び受信装置  
代理人 高田 大輔  
代理人 平川 明  
代理人 松倉 秀実  
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