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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
管理番号 1266375
審判番号 不服2010-13628  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-22 
確定日 2012-11-14 
事件の表示 特願2000-537914「ポリマー組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成11年9月30日国際公開、WO99/48934、平成14年3月12日国内公表、特表2002-507637〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年3月24日(パリ条約による優先権主張 1998年3月25日 グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国)を国際出願日とする特許出願であって、平成21年3月10日付けで拒絶理由が通知され、同年9月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年2月15日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、それに対して、同年6月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成23年1月11日付けで前置審査の結果が報告され、当審において、同年4月25日付けで審尋され、同年8月26日に回答書が提出され、同年10月18日付けで拒絶理由が通知され、平成24年4月23日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?21に係る発明は、平成24年4月23日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?21にそれぞれ記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】 930?970kg/m^(3)の範囲のアニール密度と400,000より大きい分子量とを有するポリエチレンにおいて、
(a) -40℃にて25kJ/m^(2)より大の開始破砕靱性(Gp)、
(b) 100ラド/sec(190℃)にて2500Pa.sより低くかつ0.01ラド/sec(190℃)にて1500kPa.sより低い動粘度、および
(c) 0.2?10g/10minの21.6kg荷重(190℃)における質量流量(MFR)
を有することを特徴とするポリエチレン。
【請求項2】 949?961kg/m^(3)の範囲のアニール密度と、
(c) 0.55?1.49g/10minのMFRを有する請求項1に記載のポリエチレン。
【請求項3】 930?970kg/m^(3)の範囲のアニール密度と400,000より大きい分子量とを有するポリエチレンにおいて、
(a) -40℃にて25kJ/m^(2)より大の開始破砕靱性(Gp)、
(b) 100ラド/sec(190℃)にて2500Pa.sより低くかつ0.01ラド/sec(190℃)にて1500kPa.sより低い動粘度、および
(c) 20?40%の範囲のダイスエルを有することを特徴とするポリエチレン。
【請求項4】 949?961kg/m^(3)の範囲のアニール密度と、21?33%の範囲のダイスエルを有する請求項3に記載のポリエチレン。
【請求項5】 メタロセン成分とチーグラー触媒成分とを含む触媒の存在下にエチレンを重合させることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載のポリエチレンの製造方法。
【請求項6】 メタロセン成分が一般式
(Cp)_(m)MR_(x)R^(1)_(y)
[式中、Cp=置換もしくは未置換のシクロペンタジエニル核、Mは第IVA、VAもしくはVIA族の遷移金属であり、R及びR^(1)は独立してヒドロカルビル、ハロゲンまたは他の適する一価リガンドであり、m=1?3、x,y=0?3であり、m、xおよびyの合計はMの酸化状態に等しい]
を有する請求項5に記載の方法。
【請求項7】 メタロセンが一般式にて
M=Zr、Hf、Ti
R及びR^(1)=アルキルもしくはハロゲン、
m=2
により示される請求項6に記載の方法。
【請求項8】 メタロセン成分がビス(n-ブチル)シクロペンタジエニルジルコニウムジクロライドである請求項6に記載の方法。
【請求項9】 触媒が活性化剤を含む請求項5に記載の方法。
【請求項10】 活性化剤がアルミノキサンである請求項9に記載の方法。
【請求項11】 触媒が支持される請求項5に記載の方法。
【請求項12】 支持体がシリカである請求項11に記載の方法。
【請求項13】 スラリー相にてバッチ方式の操作で行われる請求項5に記載の方法。
【請求項14】 助触媒の存在下に行われる請求項5に記載の方法。
【請求項15】 助触媒が有機アルミニウム化合物である請求項14に記載の方法。
【請求項16】 (a)請求項1記載のポリエチレンと、(b)200,000より小の分子量を有するポリエチレンとの配合物からなるブレンド。
【請求項17】 成分(a)がメタロセン触媒から作成される請求項16に記載のブレンド。
【請求項18】 メタロセンがビス(2-プロペニル)シクロペンタジエニルハフニウムジクロライドである請求項17に記載のブレンド。
【請求項19】 成分(b)が60,000?95,000の範囲の分子量を有する請求項16に記載のブレンド。
【請求項20】 請求項1?4のいずれか1項に記載のポリエチレンからなる成形物品。
【請求項21】 フィルムまたはパイプである請求項20に記載の成形物品。」

3.拒絶理由の概要
当審において平成23年10月18日付けで通知した拒絶理由は、以下の理由を含むものである。
1.この出願の請求項1?4に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物(特開平6-157631号公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.この出願は、明細書の特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号で規定する要件を満たしていない。

4.当審の判断
(1)理由1について
(ア)引用文献
刊行物1:特開平6-157631号公報
(イ)刊行物1の記載事項
a.「【請求項1】少なくとも一つの重合化触媒と、一般式I又はII、
M(XR_(n))_(x)Y_(p) (I)
XR_(n)
/ \
Y_(p)M ZR_(1) (II)
\ /
XR_(m)
(式中、Rは一価又は二価の1-20Cヒドロカルビル基、又は少なくとも一つのR基が重合性基を含むか又は好適には少なくとも3個の炭素原子を含み、かつ2個又はそれ以上のR基が存在する場合、これらは同じ又は異なつて良く、かつRが二価である場合、RはMに直接に結合し、かつY配位子に入れ替わる条件付きで、置換基の酸素原子、ケイ素原子、リン原子、窒素原子又はホウ素原子を含む1-20Cヒドロカルビル基であり、Xはシクロペンタジエニル核を含む有機基であり、MはIVA族の金属、Yは一価アニオン配位子であり、かつ式Iに対して、nは1-10の整数であり、xは1又は2であり、かつxが1の場合pは0-3であり、xが2の場合pは0-2であり、かつ式IIに対して、n,m及びlはn+m+l≧1、p=0-2であるように整数又は0であり、かつZはC_(1)-C_(4)アルキレン基、又はジアルキルゲルマニウム、又はケイ素、又はアルキルホスフィン、又はアミン基、又はビス-ジアルキルシリル、又はシクロペンタジエニル核を橋かけする炭素原子1-4個有するヒドロカルビル基を含むビス-ジアルキルゲルマニルを表す)、の少なくとも一つのメタロセン錯体とからなることを特徴とするオレフィン類の重合化に使用するための触媒組成物。
【請求項2】重合化触媒が、IVA,VA,又はVIA族金属化合物又はチーグラ・ナッタ触媒から選択される請求項1記載の触媒組成物。
【請求項3】一般式I又はIIのMが、ジルコニウムである請求項1又は2記載の触媒組成物。
【請求項4】重合性基が、オレフィン基である請求項1-3のいずれか1項に記載の触媒組成物。
【請求項5】オレフィン基が、ビニル基である請求項4記載の触媒組成物。
【請求項6】重合化触媒及び/又はメタロセン錯体が、無機担体に担持される請求項1-5のいずれか1項に記載の触媒組成物。
【請求項7】無機担体が、シリカ、アルミナ、及び/又はII族金属ハロゲン化物から選択される請求項6記載の触媒組成物。
【請求項8】少なくとも一つの重合化触媒と請求項1に記載される通りの一般式I又はIIの少なくとも一つのメタロセン錯体とからなるオレフィン類の重合化に使用するための触媒組成物。
【請求項9】重合体が、少なくとも一つのオレフィンと少なくとも一つのメタロセン錯体とからなる請求項8記載の触媒組成物。
【請求項10】重合化触媒と重合体が、無機担体上に担持される請求項7又は8に記載の触媒組成物。
【請求項11】更に助触媒を含む請求項1-9のいずれか1項に記載の触媒組成物。
【請求項12】助触媒が、IA,IIA,IIB,又はIIIB族有機金属化合物である請求項11記載の触媒組成物。
【請求項13】助触媒が、有機アルミニウム化合物である請求項12記載の触媒組成物。
【請求項14】メタロセン錯体とオレフィンが、不活性溶剤及び/又は助触媒の存在下に共に接触されることを特徴とする請求項9記載の重合体の製造方法。
【請求項15】メタロセン錯体、オレフィン及び重合化触媒が、不活性溶剤及び/又は助触媒の存在下に共に接触されることを特徴とする請求項9記載の触媒の製造方法。
【請求項16】重合体が、不活性溶剤に溶解され、次いで無機担体上に担持される重合化触媒上に析出されることを特徴とする請求項9記載の触媒組成物の製造方法。
【請求項17】少なくとも一つのオレフィンモノマを、請求項1-13のいずれか1項に記載の、又は請求項15又は16により製造された触媒組成物と接触させることを特徴とするオレフィン類の重合化方法。
【請求項18】重合化が、ガス相で実施される請求項17記載の方法。
【請求項19】オレフィンモノマが、エチレンである請求項17又は18記載の方法。」(特許請求の範囲の請求項1?19)

b.「従って、本発明は、ポリオレフィン、特にエチレンの単独重合体、及びエチレンと少量の少なくとも一つのC_(3)-C_(10)、好適にはC_(3)-C_(8)のα-オレフィンとの共重合体の製造方法を提供するものである。製造方法は、モノマを、任意的に水素の存在下に、重合化反応を開始するのに充分な温度と圧力で、本発明のどの特徴にも従って、オレフィン重合化触媒組成物と接触させることからなる。適切には、α-オレフィンは、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1、及びオクテン-1であり、かつ全モノマの重量に対して0.001-80%の量のエチレンと共に存在する。このようにして得られる重合体又はエチレン共重合体は、単独重合体の場合約950-960又は965kg/m^(3)、又は共重合体の場合915kg/m^(3)ほどに低いか、又はそれよりも低くさえある、例えば900kg/m^(3)未満の密度を有することができる。」(段落0045)

c.「本発明の触媒組成物を使用することにより、広範囲の分子量の重合体が、単一触媒を使用して製造することができ、単一触媒において、メタロセン成分は、一つの分子量範囲の重合体を生成し、かつ重合化触媒、例えばチーグラ触媒はもう一つ他の分子量範囲の重合体を生成する。
このような広範囲の分子量重合体は、例えば高力パイプ、吹込成形品、強靱フィルム、などの一定の製品に好適であり、この製品において、強度は、高分子量成分から誘導され、かつ加工性は、重合体が一般的に都合よく押し出しされるには粘稠すぎることのない低い分子量成分から誘導される。」(段落0050?0051)

d.「メルトインデックスの測定
製造した重合体のメルトインデックス(MI)は、ASTM D1238の条件E、190℃で2.16kgにより決定され、一方、高負荷メルトインデックス(HLMI)は、ASTM D1238 条件F、190℃で21.6kgによった。」(段落0054)

e.「実施例7-9: 重合体含有のメタロセンの製造
トルエン中のMAOの溶液にメタロセンに添加し、次いで溶液を攪拌してメタロセンを溶解した。 混合物を50℃まで加熱し、次いで測定された流速でエチレンを導入した。エチレン流れを停止した後、混合物を濾過し、固体重合体を室温でトルエンの5x25アリコートで洗浄した。
各々の重合体の試料(0.5-1g)丸底フラスコに無酸素的に移した。100mlのトルエンを添加し、混合物を攪拌するとともに、フラスコを3時間100℃まで加熱して、透明薄黄色の溶液を得た。フラスコを室温まで冷却して重合体の沈殿を得た。溶液を濾過し、重合体を室温でトルエンの5x25アリコートで洗浄した。
各々の重合体の準備的細部とトルエン洗浄の前後のジルコニウム含有量を表2に示す。

遊離メタロセンのトルエンに対する高溶解性に起因して、洗浄の前後のジルコニウム含有量は、メタロセン錯体が重合体中に取り込まれていたことを示している。
実施例10: チーグラ触媒の製造
19.65gのクロスフィールド(Crossfield)(窒素流れ中で5時間800℃で焼成した)を200mlのn-ヘキサン中にスラリ化し、次いでn-ヘキサン中のジブチルマグネシウム溶液29.5ml(1M)を周囲温度で攪拌しながら1時間以上かけて添加した。反応を更に1時間続けて濾過洗浄した。残渣を200mlのn-ヘキサンに再スラリ化し、30mln-ヘキサン中の0.153gの4塩化チタンを周囲温度で攪拌しながら1時間以上かけて添加した。反応を更に1時間続け、次いで濾過し、200mlのn-ヘキサンに再スラリ化した。30mlのn-ヘキサン中の1.082gのチタンブトキサイドの溶液を周囲温度で攪拌しながら1時間以上かけて添加した。反応を更に1時間続け、次いで濾過し、200mlのn-ヘキサンで洗浄した。濾過と洗浄を更に2回繰り返し、残渣から周囲温度で真空下に溶剤を除去した。触媒のチタン含有量は1.21%w/wであった。
実施例11: 担持された重合体の製造
実施例9により製造した重合体0.6gを80℃でトルエン20ml中に溶解し、次いで実施例10により製造した3.05gのシリカに担持されるチーグラ触媒を攪拌しながら添加した。溶剤を80℃に保持しながら真空下に除去して0.12%w/wZr含有の白色流動性粉末を得た。
実施例12-13: エチレンの重合化
実施例11で製造した担持された重合体を1.5リットルのイソブタンと9.6ミノモル(4mlの2.4Mトルエン溶液)含有の3リットル反応器へ添加した。水素を所要圧力と温度で導入し、次いで75℃まで上げた。エチレンを導入して28.1バールの一定全圧力に保持し、次いで反応を1時間続けた後、大気圧までガス抜きしかつ2-プロパノールを添加することにより急冷した。細部と重合化結果を表3に示す。

表3から、メタロセン錯体の重合体を使用する触媒組成物が高活性を有し、かつ広範囲の分子量重合体を与えることが分かる。」(段落0068?0077)

(ウ)刊行物1に記載された発明
上記刊行物1の摘示aの請求項19には、エチレンの重合化方法が記載され、特許請求の範囲全体の記載からみて、触媒としてチーグラ・ナッタ触媒(少なくとも一つの重合化触媒:請求項2参照)とメタロセン錯体(請求項1の一般式I又はII)とを含む触媒組成物を使用してポリエチレンを製造するものと認められる。そして、摘示eには、実施例としてさらにその具体的な製造方法が記載され、実施例12-13には、メタロセン錯体(実施例9)とチーグラー触媒(実施例10)とを用い、液体不活性希釈剤としてイソブタンを使用し、温度75℃でエチレンをスラリー相で重合することが記載され、その結果、表3上段に記載される、重量平均分子量430,000のポリエチレン(以下、「刊行物1発明」という。)が得られたものと認められる。

(エ)対比
ここで、この刊行物1発明と、本願請求項1に記載の発明(以下、「本願発明1」という。)と対比した場合、本願発明で特定する以下の4つの点について、刊行物1発明には、規定されていない点で、一応相違するものと認められる。
相違点1:930?970kg/m^(3)の範囲のアニール密度
相違点2:(a) -40℃にて25kJ/m^(2)より大の開始破砕靱性(Gp)
相違点3:(b) 100ラド/sec(190℃)にて2500Pa.sより低くかつ0.01ラド/sec(190℃)にて1500kPa.sより低い動粘度
相違点4:(c) 0.2?10g/10minの21.6kg荷重(190℃)における質量流量(MFR)

(オ)判断
上記相違点1?4について検討する。
・相違点1について
摘示bには、「このようにして得られる重合体又はエチレン共重合体は、単独重合体の場合約950-960又は965kg/m^(3)、……の密度を有する」と記載されているところ、上記刊行物1記載のポリエチレンはエチレンの単独重合体であることは明らかであるから、本願発明1で特定する範囲内の密度を有するものとみるのが妥当であり、実質的な相違点とは認められない。

・相違点4について
刊行物1発明のポリエチレンについて、摘示eの表3上段には、HLMIとして6.1のものが記載されており、摘示dによれば、「高負荷メルトインデックス(HLMI)は、ASTM D1238 条件F、190℃で21.6kgによった。」とあり、本願発明1の「ISO 1133:1997-条件7」による測定ではないものの、本願発明1で特定する温度及び負荷条件において一致しており、実質的な相違点とすることはできない。

・相違点2及び3について
刊行物1には、相違点2の「開始破砕靭性(Gp)」及び相違点3の「動粘度」についての記載はないものの、摘示cに
「本発明の触媒組成物を使用することにより、広範囲の分子量の重合体が、単一触媒を使用して製造することができ、単一触媒において、メタロセン成分は、一つの分子量範囲の重合体を生成し、かつ重合化触媒、例えばチーグラ触媒はもう一つ他の分子量範囲の重合体を生成する。
このような広範囲の分子量重合体は、例えば高力パイプ、吹込成形品、強靱フィルム、などの一定の製品に好適であり、この製品において、強度は、高分子量成分から誘導され、かつ加工性は、重合体が一般的に都合よく押し出しされるには粘稠すぎることのない低い分子量成分から誘導される。」
と記載されるように、刊行物1記載のポリエチレンは、高分子量成分と低分子量成分を含むものであり、それによって「高力パイプ、吹込成形品、強靱フィルム」などの用途に好適とされ、強度及び加工性の優れたものであることが示されており、このことは、本願発明について
「押出吹込成形パイプおよびフィルムの用途にて処理可能にするためには、主たる要件はポリマー溶融物を押し出し可能にすると共に不安定性もしくは破断に対し耐性にすることである。
本発明の新規なポリエチレンは極度の靭性および向上した処理性のこれら諸性質を示す。従って、この諸性質の組み合わせは新規なポリマーを広範囲の用途に使用するのに好適にする。特に、これらはたとえば大型容器、並びにパイプおよび強靱フィルムの用途など高分子量吹込成形用に使用することができる。」(段落0028?0029)
と記載されていることと軌を一にすることにかんがみれば、刊行物1記載のポリエチレンにおいても、強靱性の指標である「-40℃にて25kJ/m^(2)より大の開始破砕靱性(Gp)」及び加工性の指標である「100ラド/sec(190℃)にて2500Pa.sより低くかつ0.01ラド/sec(190℃)にて1500kPa.sより低い動粘度」を有している蓋然性が高いものである。
そして、本願明細書の表2に記載されているように、刊行物1記載のポリエチレンと同様の製造方法であるメタロセン錯体とチーグラー触媒から製造された例1?3や、高分子量成分と低分子量成分のポリエチレンからなる配合物である例4では、本願発明1の上記特定範囲の靭性(Gp)を有しており、さらに、従来技術によるポリエチレンも含めて、例1?6のすべてのポリエチレン(ただし、例3の100ラド/secでの動粘度を除く。)が本願発明1の上記特定範囲の動粘度を有していることからみて、刊行物1記載のポリエチレンにおいても、本願発明1で特定する範囲内の開始破砕靭性(Gp)及び動粘度を有しているものとみるのが相当である。

したがって、相違点1?4については、いずれも実質的な相違点とはいえないものであるから、本願発明1は、刊行物1に記載された発明というべきである。

(カ) 請求人の主張について
請求人は、平成24年4月23日付け意見書のC.において、
「(2)審判長殿は、刊行物1の実施例12及び13記載のポリマーは重量平均分子量が430,000及び454,000であり、」この点において本願発明のポリマーと相違はないと指摘されています。表3には、これらポリマーのメルトインデックス(MI)は0.04及び0.26であると記載されています。従って、これらの実施例の一つだけが本願発明の範囲内のメルトインデックスを有しています。
(3)刊行物1には、本願発明で規定する、密度、開始破壊靭性(Gp)、及び動粘度については全く開示されておりません。
(4)刊行物1の実施例12及び13のポリマーは、実施例11で製造された担持された重合体を含む混合触媒系を使用して製造されています。実施例11の担持された重合体は、実施例9のポリマーと担持されたチーグラー触媒を含むものです。実施例9のポリマーは、メタロセン含有ポリマー、要するに予備重合された触媒です。
従って、実施例12及び13で使用した触媒は、メタロセンとチーグラー成分を含むものではありますが、この最終の触媒は、別の支持体にそれぞれ担持された各成分を含むものであり、このメタロセン成分は予備重合された触媒です。
(5)本願発明で使用する触媒は、支持体をまずチーグラー成分で含浸し、次にメタロセン成分で含浸して得られるものです。(段落0022、0049、0050)。
(6)このように使用する触媒の製造方法が異なることから、これを使用して得られたポリマーが本願発明の上記パラメータを充足することは考えられません。」
と主張している。

(i)(2)に関する主張について
「表3には、これらポリマーのメルトインデックス(MI)は0.04及び0.26であると記載されています。」と述べている点は、請求人の誤解である。本願発明1の(c)は、「21.6kg荷重(190℃)における質量流量(MFR)」を規定しており、これは、刊行物1では、摘示dに記載されているように、「メルトインデックス(MI)」ではなく、「高負荷メルトインデックス(HLMI)」に相当する。そうすると、摘示eの表3の上段のものは、Mwが430,000で、HLMIが6.1のポリエチレンということになり、本願発明1の分子量及び(c)の要件を満たすものである。
そして、上記のように正しく解しても、確かに、請求人の主張するように「実施例の一つだけが本願発明の範囲内の質量流量(MFR)を有して」いることになるが、証する事実は一つあれば足りるものであって、一つしかないことが相違点4についての本願発明1と刊行物1発明との実質的な異同を検討する際に何ら影響を与えるものではない。

(ii)(3)?(6)に関する主張について
本願明細書には次のとおり記載されている。
「本発明の新規なポリエチレンは、好適には2種の触媒成分を有する多部位触媒を使用して作成することができる。例えばチーグラー成分とメタロセン錯体に基づく成分とが用いられる。」(段落0014)
「多部位触媒は任意慣用の支持方法により支持することができる。たとえば、支持体は好ましくは最初にチーグラー成分により含浸され、次いでメタロセンで含浸される。」(段落0022)
この記載からみれば、請求人が主張する「本願発明で使用する触媒は、支持体をまずチーグラー成分で含浸し、次にメタロセン成分で含浸して得られるもの」である点は、単に好ましい態様を示したにすぎず、必ずそのような触媒を採用しなければならないものとは解されない。
そして、本願発明1では、ポリエチレンを製造する触媒については何ら特定はなく、また、そのポリエチレンの製造方法を特定した請求項5?15にも、「本願発明で使用する触媒は、支持体をまずチーグラー成分で含浸し、次にメタロセン成分で含浸して得られるもの」である点は何ら特定されていない。(ちなみに、請求項5には触媒が支持される点についてさえ特定されておらず、このことは上記摘示した点とも符合する。)
したがって、請求人の上記主張は、特許請求の範囲の記載に基づいてなされたものではなく、本願明細書に実施例として「支持体をまずチーグラー成分で含浸し、次にメタロセン成分で含浸して」作成された触媒のみが記載されているとしても(段落0049?0050)、そのことに基づいて、特許請求の範囲の記載を限定的に解釈することはできない。

(2)特許法第36条第6項第1号違反について
(ア)本願明細書には、次の記載がある。
ア.「本発明の新規なポリエチレンは、好適には2種の触媒成分を有する多部位触媒を使用して作成することができる。たとえばチーグラー成分とメタロセン錯体に基づく成分とが用いられる。代案として、多部位触媒は2種のメタロセン成分を含むこともできる。
適するメタロセン成分の例は、一般式
(Cp)_(m)MR_(x)R^(1)_(y)
[式中、Cpは置換もしくは未置換のシクロペンタジエニル核であり;Mは第IVA、VAもしくはVIA族の遷移金属、特にZr、Ti、Hfであり、RおよびR1は独立して1?20個の炭素原子を有するヒドロカルビル、ハロゲンもしくは他の適する一価リガンドであり;m=1?3、x=0?3およびy=0?3であり、m、xおよびyの合計はMの酸化状態に等しい]
により示しうる錯体である。
好適メタロセンはMがZr、HfもしくはTiであり、R_(1)R^(1)がアルキルもしくはハロゲンであり、m=2であるようなものである。
好適メタロセン錯体はEP129368号、EP206794号およびEP586167号に記載されているものである。
シクロペンタジエニル核がアルキル基(たとえばブチル基)により置換された錯体が特に適している。
特に適する錯体はビス(n-ブチル)シクロペンタジエニルジルコニウムジクロライドである。
多部位触媒のチーグラー成分は典型的には当業者に周知された伝統的なチーグラー重合触媒とすることができる。好ましくは多部位触媒のチーグラー成分はチタンおよびハロゲンの原子を含むもの、一般に塩化物、好ましくはマグネシウムを含むものである。この種の触媒およびその作成は当業者に周知されている。
好ましくは多部位触媒は支持され、特に好ましくはたとえばシリカ、アルミナもしくは塩化マグネシウムのような無機支持体に支持される。好適支持体はシリカである。
多部位触媒は任意慣用の支持方法により支持することができる。たとえば支持体は好ましくは最初にチーグラー成分により含浸され、次いでメタロセンで含浸される。
好ましくはシリカ支持体は、含浸前に加熱により予備焼成される。
さらに多部位触媒は活性化剤をも含むことができる。好適活性化剤はアルミノキサン、特に好ましくはメチルアルミノキサン(MAO)である。活性化剤は好ましくはメタロセンと金属(アルミニウム)との比が1?10,000:10,000:1の範囲となるような量で存在させるが、好ましくは1?100:100:1の範囲である。
本発明の新規なポリエチレンは特に好ましくは、バッチ方式の操作にてスラリー相でエチレンを重合させて作成される。重合は、たとえばイソブタンのような不活性溶剤を用いて80?110℃の範囲の温度および400?650psigの範囲の圧力にて単一反応器で行われる。重合は好ましくはたとえば有機アルミニウム化合物のような助触媒の存在下に行われる。好適助触媒はトリアルキルアルミニウム(たとえばトリメチルアルミニウム)である。」(段落0014?0025)

イ.「さらに材料の配合物、たとえばメタロセン誘導ポリエチレンと低分子量成分との配合物を形成させることにより、本発明の新規なポリエチレンを作成しうることも判明した。配合物の第1成分は>200,000の分子量を有するポリエチレンとすることができ、第2成分は<200,000の分子量を有するポリエチレンとすることができる。典型的には第2成分は高密度ポリエチレンである。メタロセン誘導ポリエチレンは、上記一般式を有するメタロセン錯体を用いて作成することができる。しかしながら、この点に関しハフニウムメタロセンが最も適し、たとえばビス(2-プロペニル)シクロペンタジエニルハフニウムジクロライドであることが判明した。
低分子量成分は典型的には60,000?95,000の範囲の分子量を有する。」(段落0026?0027)

ウ.「以下、本発明を実施例を参照して更に説明する。
触媒の作成
支持された多部位(メタロセン/チーグラー)触媒を作成すべく次の手順を用いた。
シリカ(ES70X)支持体(600℃までN_(2)下に6時間にわたり予備焼成)を55℃の乾燥ヘキサンにスラリー化させた。ヘプタン中のジブチルマグネシウムの溶液を添加して、40g ES70X/350mlヘキサン/28.4ミリモル ジブチルマグネシウムのスラリーを得た。1時間の後、2.6ミリモルのブタノールを添加し、次いで1.6ミリモルのTiCl_(4)を添加した。溶剤を次いで減圧下に除去して乾燥触媒粉末を得た。
次いで、得られた支持チーグラー触媒にビス(n-ブチル)シクロペンタジエニルジルコニウムジクロライド/MAOアダクト(両者をトルエン溶液中で混合して作成)を含浸させた。メタロセン/MAO溶液をチーグラー触媒に添加した後、減圧乾燥させて乾燥触媒粉末を得た。
得られた支持多部位触媒は次の分析値を有した:
Mg 1.12%
Ti 0.92%
Al 12.2%
Zr 0.38%
上記触媒を用いて、エチレンをバッチ反応器にて助触媒としてのトリメチルアルミニウムの存在下に重合させた。重合はイソブタンにおけるスラリー相にて行った。以下の実施例1?3は表1に示した条件下での重合を示す。
ポリマー生成物を安定化させると共に、プリズム実験室規模のツインスクリュー押出器を用いて配合した。配合器を3回通過させて、充分な均質性を確保すると共に分子量低下を回避した。
【表1】

」(段落0047?0054)

エ.「実施例4
高分子量ポリマーを次の手順により作成した。
シリカES70X(200℃にてN_(2)下に5時間にわたり予備焼成)にトルエンにおけるMAOのスラリーを115℃にて3時間にわたりN_(2)下で還流させて含浸させ、次いでに室温まで冷却し、濾過し、洗浄し、次いで乾燥させた。次いで、得られた支持体に乾燥トルエンにおけるビス(2-プロペニル)シクロペンタジエニルハフニウムジクロライドを1時間にわたり室温にて含浸させ、次いで再び濾過、トルエンでの洗浄および減圧乾燥を行った。支持メタロセン/MAO触媒は次の分析値を有した:
Al 11.4%
Hf 0.66%
(a)上記手順を用いて作成されたポリマーと(b)低分子量の市販入手しうる射出成形級ポリマー(重量平均分子量75,000)との配合物を用いて、高分子量かつ高密度のポリエチレンホモポリマーを作成した。各成分をキシレン中に125℃にて溶解させた後に30分間にわたり撹拌し、次いで溶液をアセトン中で沈殿させることにより配合物を作成した。得られた生成物を乾燥させると共に0.2%チバ・ガイギー・イルガノックス1010で安定化させた。」(段落0055?0057)

(イ)請求項5?15
本願の請求項5?15に係るポリエチレンの製造方法に関する発明は、請求項1?4に係る発明で特定する範囲の密度、分子量、開始破砕靭性(Gp)及び動粘度と、質量流量(MFR)あるいはダイスエルを有するポリエチレンを製造するものであって、発明の詳細な説明には、請求項5?15をほぼ繰り返した記載がある。(摘示ア参照)
しかしながら、その製造方法としては、具体的にはメタロセン錯体としてはビス(n-ブチル)シクロペンタジエニルジルコニウムジクロライド〔なお、「ビス(n-ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド」の誤記と認める。〕が記載されているにすぎず(摘示ウの段落0050)、また、チーグラー触媒におけるTiとメタロセン錯体におけるZrの割合が、それぞれ0.92%と0.38%のものがただ1例記載されるにすぎない(摘示ウの段落0051)。また、重合温度についても85℃のものが記載されるにすぎない(摘示ウの表1)。
そして、メタロセン錯体の種類やチーグラー触媒との量比、さらには、重合温度は得られるポリエチレンの物性に大きな影響を及ぼすことは明らかである。重合温度については本願明細書(摘示アの段落0025)に「80?110℃」と記載され、かなり高温での重合についても製造できることが記載されているが、このような高温での重合の場合、請求項1?4で特定するような400,000より大きい分子量のポリエチレンの製造は困難であるとされているところ、メタロセン錯体の種類やそのチーグラー触媒との量比については実施例に記載される1例を除いて、どのようなメタロセン錯体が使用され、チーグラー触媒との量比をどのようにすれば、請求項1?4に係るポリエチレンを製造することができるのかは、明確に記載されているということはできない。
そうすると、上記1例を除いては、請求項1?4に係る発明で特定する密度、分子量、開始破砕靭性(Gp)及び動粘度と、質量流量(MFR)あるいはダイスエルを有するポリエチレンを製造する方法は不明なものであるから、この上記1例の製造方法から請求項5?15に記載される製造方法にまで拡張一般化することはできないものである。

(ウ)請求項16?19について
請求項16?19に係るブレンドの発明について、その実施例4には、チーグラー触媒を使用せず、メタロセン成分としてビス(2-プロペニル)シクロペンタジエニルジクロライド〔なお、「ビス(n-ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド」の誤記と認める。〕のみを使用して得られるポリマーと市販の重量平均分子量75,000の「射出成形級ポリマー」との配合物(ブレンド)が記載されるにすぎず(摘示エ)、「請求項1に記載のポリエチレン」と「200,000より小の分子量を有するポリエチレン」からの配合物(ブレンド)については具体的な実施例として記載されていない。(なお、請求人は、実施例4について、審判請求書の請求の理由の4.2.(12)において、「本願明細書の表2には、本願発明の例1?4のポリマー(このうち例1?3が本願発明の実施例)」と述べ、また、回答書2.3(12)においても、「比較例4(本願発明の範囲外)」と述べているとおり、本願発明の範囲のものでないことを認めている。)
また、配合物(ブレンド)については、本願明細書の発明の詳細な説明において、
「さらに材料の配合物、たとえばメタロセン誘導ポリエチレンと低分子量成分との配合物を形成させることにより、本発明の新規なポリエチレンを作成しうることも判明した。配合物の第1成分は>200,000の分子量を有するポリエチレンとすることができ、第2成分は<200,000の分子量を有するポリエチレンとすることができる。典型的には第2成分は高密度ポリエチレンである。メタロセン誘導ポリエチレンは、上記一般式を有するメタロセン錯体を用いて作成することができる。しかしながら、この点に関しハフニウムメタロセンが最も適し、たとえばビス(2-プロペニル)シクロペンタジエニルハフニウムジクロライドであることが判明した。
低分子量成分は典型的には60,000?95,000の範囲の分子量を有する。」(摘示イ)
と記載されるにすぎず、「請求項1に記載のポリエチレン」と「200,000より小の分子量を有するポリエチレン」との配合物からなるブレンドについては、その作用効果も含めて一切記載されていない。
したがって、本願の請求項16?19に係る発明は明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとすることはできない。

なお、先の拒絶理由通知書にてこの理由2と同趣旨の内容を請求人に示したが、請求人は、平成24年4月23日付け意見書では、一切反論していない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。また、明細書の特許請求の範囲の記載が不備のため、同法第36条第6項第1号で規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は上記理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-15 
結審通知日 2012-06-18 
審決日 2012-06-29 
出願番号 特願2000-537914(P2000-537914)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C08F)
P 1 8・ 121- WZ (C08F)
P 1 8・ 537- WZ (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 芳人  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 小野寺 務
近藤 政克
発明の名称 ポリマー組成物  
代理人 小川 信夫  
代理人 浅井 賢治  
代理人 箱田 篤  
代理人 山崎 一夫  
代理人 熊倉 禎男  

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