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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1266388
審判番号 不服2011-6101  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-18 
確定日 2012-11-14 
事件の表示 特願2004-559042「除算演算の要件が低減されたデジタル・ビデオ符号化の可変精度画像間タイミング指定の方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月24日国際公開、WO2004/054257、平成18年 3月16日国内公表、特表2006-509463〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成15年8月7日(パリ条約による優先権主張 2002年(平成14年)12月6日 アメリカ合衆国)の国際出願であって、平成19年10月4日付けで手続補正がなされ、平成21年9月10日付けで拒絶理由が通知され、平成22年3月24日付けで手続補正がなされたが、平成22年11月11日付けで拒絶査定がなされ、これを不服として、平成23年3月18日に審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2.平成23年3月18日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年3月18日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正の内容
補正により、特許請求の範囲の請求項1は次のように補正された。

「符号化された第1のビデオ画像と、符号化された第2のビデオ画像と、符号化された第3のビデオ画像と、符号化された第4のビデオ画像とを含むストリームを復号化する方法であって、
(i)第3のビデオ画像の順序値と第1のビデオ画像の順序値との間の第1の順序差値に反比例し、
(ii)第2のビデオ画像の順序値と第1のビデオ画像の順序値との間の第2の順序差値に正比例する
変倍値を計算するステップと、
前記変倍値と、前記第3のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトルとを乗算することとビット桁送り演算を実行することとによって、前記第2のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトルを計算するステップと
を含み、 前記第3のビデオ画像は少なくとも1つの双方向予測マクロブロックを含み、双方向予測マクロブロックを含まず少なくとも1つの片方向予測マクロブロックを含む第4のビデオ画像によって参照される、方法。」

2.補正の適否
補正により請求項1には、「前記第3のビデオ画像は少なくとも1つの双方向予測マクロブロックを含み、双方向予測マクロブロックを含まず少なくとも1つの片方向予測マクロブロックを含む第4のビデオ画像によって参照される」という事項が付加されたので、これが願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「明細書等」という)に記載した事項の範囲内であるか否かについて以下検討する。

(1)明細書等の記載
請求人が上記補正の根拠として主に主張する明細書の段落【0019】には、以下の事項が記載されている。
「さらに説明を深めるために、上記のシナリオで、画像iとjとの間の画像間表示時間をDi,jと表す。すなわち、画像の表示時間が、それぞれ、TiおよびTjの場合、
Di,j=Ti-Tj ここから
Di,k=Di,j+Dj,k
Di,k=-Dk,i
ただし、Di,jは場合によって負である。
それ故、MV5,1がI1を参照するP5画素ブロックの動きベクトルの場合、B2、B3およびB4内の対応する画素ブロックでは、I1およびP5を参照する動きベクトルはそれぞれ以下の式により補間される。
MV2,1=MV5,1*D2,1/D5,1
MV5,2=MV5,1*D5,2/D5,1

MV3,1=MV5,1*D3,1/D5,1
MV5,3=MV5,1*D5,3/D5,1

MV4,1=MV5,1*D4,1/D5,1
MV5,4=MV5,1*D5,4/D5,1
動きベクトル予測に表示時間の比率が使用されるので、絶対表示時間は必要ないことに留意されたい。それ故、Di,j画像間表示時間値には相対表示時間を使用することができる。
このシナリオは、例えば、H.264標準内で生成できる。生成過程で、PまたはB画像はその動きベクトル予測に任意の以前に送信された画像を使用できる。それ故、上記の場合、画像B3はその予測に画像I1および画像B2を使用できる。さらに、動きベクトルは補間だけでなく外挿してもよい。それ故、この場合、以下のようになる。
MV3,1=MV2,1*D3,1/D2,1
このような動きベクトルの外挿(または補間)は動きベクトルの予測符号化の予測プロセスでも使用できる。」

(2)補正に対する当審の判断
上記の(1)の記載の下から2段落目には、「PまたはB画像はその動きベクトル予測に任意の以前に送信された画像を使用できる。」と記載されている。
この記載における「動きベクトルの予測」とは、例えば、「MV2,1=MV5,1*D2,1/D5,1」などの式により、MV5,1(I1を参照するP5画素ブロックの動きベクトル)を使用してMV2,1(I1を参照するP2画素ブロックの動きベクトル)を補間して求めることを意味している。
したがって、この記載は、P画像についていえば、P画像の画素ブロックの動きベクトルの予測に、以前に送信された画像の画素ブロックの動きベクトルを使用できること、すなわち、動きベクトルの使用を意味しているのみであって、P画像が以前送信された画像を参照できるということを意味しているのではない。「参照」とは、差分符号化において、ある画像の画素ブロックの画素値が他の画像の画素値を用いていることであって、以前に送信された画像の画素ブロックの動きベクトルの使用とは異なるものである。
したがって、P画像がB画像を参照することと、上記「PまたはB画像はその動きベクトル予測に任意の以前に送信された画像を使用できる。」との記載内容とは別のことである。
この補正により請求項1に付加された事項である「前記第3のビデオ画像は少なくとも1つの双方向予測マクロブロックを含み、双方向予測マクロブロックを含まず少なくとも1つの片方向予測マクロブロックを含む第4のビデオ画像によって参照される」とは、すなわち、B画像である第3のビデオ画像がP画像である第4のビデオ画像により参照されるということであるから、結局、この補正により付加された事項は上記【0019】には記載されているとはいえない。
請求人は、平成24年2月27日付けの回答書において、「PピクチャであるP10は、任意の以前に送信された画像、即ち、I1 P5 B2 B3 B4のうちの任意のものを参照することができます。このことは、[0019]の下から6?7行目に記載されております」と主張しているが、上述したように、【0019】の下から6?7行目の記載は、動きベクトルの使用に関するものであって、Pピクチャが以前に送信された画像を参照することに関するものではない。
また、明細書等のその他の記載をみても上記付加された事項は記載されていないし自明であるともいえない。
したがって、上記付加された事項は明細書等に記載した事項の範囲内のものではなく、この補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。

よって、この補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成23年3月18日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成22年3月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし38に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、次のとおりのものである。

「符号化された第1のビデオ画像と、符号化された第2のビデオ画像と、符号化された第3のビデオ画像とを含むストリームを復号化する方法であって、
(i)第3のビデオ画像の順序値と第1のビデオ画像の順序値との間の第1の順序差値に反比例し、
(ii)第2のビデオ画像の順序値と第1のビデオ画像の順序値との間の第2の順序差値に正比例する
変倍値を計算するステップと、
前記変倍値と、前記第3のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトルとを乗算することとビット桁送り演算を実行することとによって、前記第2のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトルを計算するステップと
を含む方法。」

2.刊行物の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である「Joint Video Team (JVT) of ISO/IEC MPEG and ITU-T VCEG, Working Draft Number 2, Revision 0 (WD-2) (JVT-B118), p.1,21,22,62-67, [online], 2001年12月3日, Joint Video Team (JVT), [2009年9月9日検索], インターネット」(以下、「刊行物1」という)には、次の(1)?(6)の事項が記載されている。

(1)「This document presents the Working Draft Number 2 (WD-2) released by the Joint Video Team (JVT). The JVT is being formed by ITU-T SG16 Q.6 (VCEG) and ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 11 (MPEG). This document is a description of a reference coding method to be used for the development of a new video compression method called JVT Coding as ITU-T Recommendation (H.26L) and ISO/IEC JTC1 Standard (MPEG-4, Part 10).」(1頁10?15行)
[訳:このドキュメントは、JVT(Joint Video Team)によりリリースされたワーキングドラフトNo.2(WD-2)を提供するものである。JVTは、ITU-T SG16 Q.6(VCED)とISO/IEC jtc 1/SC 29/WG 11(MPEG)により組織されている。このドキュメントは、ITU-T勧告(H.26L)とISO/IEC JTC1 規格 (MPEG-4, Part 10)として、JVTコーディングと呼ばれる新しいビデオ圧縮法の開発に使用される参照コーディング法について記述したものである。]

(2)「7.4 Decoder Process for motion vector」(62頁下から5行)
[訳:7.4 動きベクトルのデコード処理]

(3)「7.4.2 Motion vectors in direct mode
In direct mode the same block structure as for the co-located macroblock in the temporally subsequent picture is used. For each of the sub-blocks the forward and backward motion vectors are computed as scaled versions of the corresponding vector components of the co-located macroblock in the temporally subsequent picture as described below.
If the multiple reference frame prediction is used, the forward reference frame for the direct mode is the same as the one used for the corresponding macroblock in the temporally subsequent reference picture. The forward and backward motion vectors for direct mode macroblocks are calculated differently depending on whether PSTRUCT and the reference are fields or frames. Also note that if the subsequent reference picture is an intra-coded frame or the reference macroblock is an intra-coded block, the motion vectors are set to zero. With possible adaptive switch of frame/field coding at picture level, a B-frame or its future reference frame can be coded in either frame structure or field structure. Hence, there can be four different combinations of frame or field coding for a pair of a MB in B and its collocated MB in the future reference. Calculations of the two MVs in direct mode are slightly different for the four cases.」(63頁5?18行)
[訳:7.4.2 ダイレクトモードにおける動きベクトル
ダイレクトモードでは、後続のピクチャの同じ位置のマクロブロックが同じブロック構成として使用される。サブブロックのそれぞれに対して、後続のピクチャの同じ位置のマクロブロックのベクトル要素に対応するスケールバージョンとして、以下に述べるように、フォワード及びバックワード動きベクトルが計算される。
もし複数リファレンスフレーム予測を使うならば、ダイレクトモードのフォワードリファレンスフレームは、後続のリファレンスピクチャの対応するマクロブロックに使われるフレームと同じである。ダイレクトモードのマクロブロックのフォワード及びバックワード動きベクトルは、PSTRUCT(picture structure)とリファレンスとがフィールドであるかフレームであるかによって異なって計算される。また、もし後続のリファレンスピクチャがイントラコード化されたフレームであるか又はリファレンスマクロブロックがイントラコード化されたブロックならば、動きベクトルはゼロにセットされることに注意する。ピクチャレベルでフレーム/フィールドコーディングを可能適応的に切り換えることにより、Bフレーム又はそのフューチャリファレンスフレームは、フレームストラクチャ又はフィールドストラクチャでコーディングされる。したがって、Bの中のMBとフューチャリファレンスの対応するMBとのペアに対して、フレームコーディング又はフィールドコーディングを行う4つの異なる組み合わせがある。ダイレクトモードでの2つのMVの計算は、この4つのケースでわずかに異なる。]

(4)「Case 1: Both the current MB and its collocated are in frame mode
Both the current B and its future reference are in frame structure, as shown in Fig. 4. The forward reference is the frame pointed by the forward MV of the collocated MB and the backward reference is the immediate future reference frame of I or P. Two MVs (MVF,MVB)are calculated by (see Fig. 4)
MVF=TRB・MV/TRD
MVB=(TRB-TRD)・MV/TRD
where TRB is the temporal distance between the current B frame and the reference frame pointed by the forward MV of the collocated MB, and TRD is the temporal distance between the future reference frame and the reference frame pointed by the forward MV of the collocated MB.」(63頁19?27行)
[訳:ケース1:現在のMBとそれと同じ位置を示すMBの両方がフレームモードである場合
Fig.4に示すように、現在Bとそのフューチャリファレンスとの両方がフレームストラクチャである。フォワードリファレンスは、同じ位置を示すMBのフォワードMVによって示されるフレームであり、バックワードリファレンスはI又はPの直後のフューチャリファレンスフレームである。2つのMV(MVF、MVB)は次のように計算される(Fig.4参照)
MVF=TRB・MV/TRD
MVB=(TRB-TRD)・MV/TRD
ここで、TRBは、現在Bフレームと、同じ位置を示すMBのフォワードMVによって示されるリファレンスフレームとの時間的な距離であり、TRDは、フューチャリファレンスフレームと、同じ位置を示すMBのフォワードMVによって示されるリファレンスフレームとの時間的な距離である。]

(5)


FIGURE21(63頁) 」

(6)「Both the current MB in B and its collocated MB in the future reference of I or P are in frame mode. Solid-line is for frames and dot-line for fields. f1 stands for field 1 and f2 for field 2. 」(64頁1?2行)
[訳:Bの現在MBと、I又はPのフューチャレファレンスにおけるその同じ位置を示すMBとの両方はフレームモードである。実線はフレーム、点線はフィールドを表す。f1はフィールド1、f2はフィールド2を示す。]

以上(1)ないし(6)の記載から、刊行物1に記載されたケース1の動きベクトルの計算の仕方を方法の発明としてとらえると、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という)が記載されている。

動きベクトルのデコード処理における動きベクトルを計算する方法であって、
フォワードリファレンスは、同じ位置を示すMBのフォワードMVによって示されるフレームであり、バックワードリファレンスはI又はPの直後のフューチャリファレンスフレームであり、2つのMV(MVF、MVB)は次のように計算され、
MVF=TRB・MV/TRD
MVB=(TRB-TRD)・MV/TRD
ここで、TRBは、現在Bフレームと、同じ位置を示すMBのフォワードMVによって示されるリファレンスフレームとの時間的な距離であり、TRDは、フューチャリファレンスフレームと、同じ位置を示すMBのフォワードMVによって示されるリファレンスフレームとの時間的な距離である
方法。

3.対比
本願発明と刊行物1発明とを対比する。

(1)「符号化された第1のビデオ画像と、符号化された第2のビデオ画像と、符号化された第3のビデオ画像とを含むストリームを復号化する方法」

刊行物1は、ビデオの参照コーディング法に関する記述(上記2.(1)参照)であって、刊行物1発明は、そのビデオの参照コーディング法において、動きベクトルのデコード処理における動きベクトルを計算する方法である。該動きベクトルのデコード処理は、ビデオのデコード処理の一部あるから、刊行物1発明は、ビデオをデコード処理する方法ということもできる。また、刊行物1発明の「フォワードリファレンス(同じ位置を示すMBのフォワードMVによって示されるフレーム)」、「現在Bフレーム」、「バックワードリファレンス(フューチャリファレンスフレーム)」(本願発明の「符号化された第1のビデオ画像」、「符号化された第2のビデオ画像」、「符号化された第3のビデオ画像」に対応付けられる)は、このデコードする対象のビデオに含まれるフレームであり、刊行物1発明は、これらのフレームを含むビデオ(本願発明の「ストリーム」に相当)をデコード処理(本願発明の「復号化」に相当)する方法ということができる。

したがって、本願発明と刊行物1発明とは、「符号化された第1のビデオ画像と、符号化された第2のビデオ画像と、符号化された第3のビデオ画像とを含むストリームを復号化する方法」である点で一致する。

(2)「(i)第3のビデオ画像の順序値と第1のビデオ画像の順序値との間の第1の順序差値に反比例し、
(ii)第2のビデオ画像の順序値と第1のビデオ画像の順序値との間の第2の順序差値に正比例する
変倍値を計算するステップと、
前記変倍値と、前記第3のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトルとを乗算することとビット桁送り演算を実行することとによって、前記第2のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトルを計算するステップ」

刊行物1発明において、動きベクトルMVFは、TRD、TRB、MVを用いて、式
MVF=TRB・MV/TRD
により計算されるから、刊行物1発明は、TRD、TRB、MVを用いて、MVFを計算するステップを含む方法であるといえる。

刊行物1発明のTRDは、フューチャリファレンスフレームと、同じ位置を示すMBのフォワードMVによって示されるリファレンスフレームとの時間的な距離であり、「時間」は「順序値」、「時間的な距離」は「順序差値」といえるから、刊行物1発明のTRDは、本願発明の「第3のビデオ画像の順序値と第1のビデオ画像の順序値との間の第1の順序差値」に相当するものである。
刊行物1発明のTRBは、現在Bフレームと、同じ位置を示すMBのフォワードMVによって示されるリファレンスフレームとの時間的な距離であるから、上記TRDと同様に、本願発明の「第2のビデオ画像の順序値と第1のビデオ画像の順序値との間の第2の順序差値」に相当するものである。
フォワードリファレンスは、同じ位置を示すMBのフォワードMVによって示されるフレームであり、同じ位置を示すMBはフューチャリファレンスフレームにある(上記2.(5)FIGURE21参照)から、刊行物1発明のMVは、本願発明の「前記第3のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトル」に相当するものである。
刊行物1発明のMVFは、現在Bフレームとフォワードリファレンスとの間の動きベクトルであるから、本願発明の「前記第2のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトル」に相当するものである。

したがって、本願発明と刊行物1発明とは、「(i)第3のビデオ画像の順序値と第1のビデオ画像の順序値との間の第1の順序差値、
(ii)第2のビデオ画像の順序値と第1のビデオ画像の順序値との間の第2の順序差値、
前記第3のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトルを用いて、前記第2のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトルを計算するステップ」を含む方法であるといえる点では共通するものである。

ただ、この前記第2のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトルを計算するステップが、本願発明では、「(i)第3のビデオ画像の順序値と第1のビデオ画像の順序値との間の第1の順序差値に反比例し、
(ii)第2のビデオ画像の順序値と第1のビデオ画像の順序値との間の第2の順序差値に正比例する
変倍値を計算するステップと、
前記変倍値と、前記第3のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトルとを乗算することとビット桁送り演算を実行することとによって、前記第2のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトルを計算するステップ」とからなるのに対し、刊行物1発明はそうではない点で両者は相違する。

以上をまとめると、本願補正発明と刊行物1発明の一致点及び相違点は次のとおりである。

[一致点]
符号化された第1のビデオ画像と、符号化された第2のビデオ画像と、符号化された第3のビデオ画像とを含むストリームを復号化する方法であって、
(i)第3のビデオ画像の順序値と第1のビデオ画像の順序値との間の第1の順序差値、
(ii)第2のビデオ画像の順序値と第1のビデオ画像の順序値との間の第2の順序差値、
前記第3のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトルを用いて、前記第2のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトルを計算するステップ
を含む方法。

[相違点]
前記第2のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトルの計算をするステップが、本願発明では、「(i)第3のビデオ画像の順序値と第1のビデオ画像の順序値との間の第1の順序差値に反比例し、(ii)第2のビデオ画像の順序値と第1のビデオ画像の順序値との間の第2の順序差値に正比例する変倍値を計算するステップと、前記変倍値と、前記第3のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトルとを乗算することとビット桁送り演算を実行することとによって、前記第2のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトルを計算するステップ」とからなるのに対し、刊行物1発明では、そのようなステップからなるものではない点。

4.当審の判断
この相違点について検討する。

上記相違点は、刊行物1の記号を用いて換言すれば、刊行物1発明におけるMVF=TRB・MV/TRDを計算するステップが、本願発明では、TRB/TRD・k(kは比例定数)と表される変倍値を計算するステップと、この変倍値とMVを乗算することとビット桁送り演算を実行することとによってMVを計算するステップとからなるものであるのに対し、刊行物1発明はそうではない点といえる。
刊行物1発明の「/TRD」の計算は除算であるところ、デジタル演算により除算を行う場合に、除算器を用いずに、乗算とビット桁送り演算により除算を実現することは周知の技術(後述の(*)を参照)である。すなわち、A/Bの除算を、A・N(Nは1/Bを桁上がり方向にビット桁送りした近似的な整数)とビット桁送り演算により実現することは周知技術であるから、刊行物1発明において、除算を含むTRB・MV/TRDの計算を、上記周知技術のように、TRB・MV・Nとビット桁送り演算により実現することは容易に想到し得ることであり、また、乗算の計算順序を変えても計算結果が同じになることは明らかであって、まずTRB・Nを計算し、次にMVを乗算する順とすることは普通に想定できることである。
したがって、刊行物1発明において、上記周知技術を用いて、MVF=TRB・MV/TRDの計算をするステップ(「前記第2のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトルを計算するステップ」)を、まずTRB・Nを計算し(この乗算の結果が本願発明の「変倍値」に相当)、次にMVの乗算とビット送り演算の実行を行うこと(「(i)第3のビデオ画像の順序値と第1のビデオ画像の順序値との間の第1の順序差値に反比例し、(ii)第2のビデオ画像の順序値と第1のビデオ画像の順序値との間の第2の順序差値に正比例する変倍値を計算するステップと、前記変倍値と、前記第3のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトルとを乗算することとビット桁送り演算を実行することとによって、前記第2のビデオ画像と前記第1のビデオ画像との間の動きベクトルを計算するステップ」)とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

したがって、本願発明は、刊行物1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(*)例えば、拒絶査定で提示された特開平6-319112号公報には、以下の記載がある。
「【0033】
【実施例】以下、この発明の一実施例について説明する。この発明は、主としてバックサーチに関するものであり、バイナリーサーチによって量子化インデックスを求める処理は、上述の先の出願と同様の構成によってなしうる。図7は、この発明において、量子化器として使用される、乗算器とシフト回路とからなる構成を示す。量子化器は演算として除算であるため、本来ならば除算器を用いるところだが、除算器はハード的に大規模になるため、除算器とシフト回路で実現することが多い。
【0034】図7において、37は、DCTで発生した係数データが供給される乗算器であり、乗算器37の出力が次段のシフト回路38に供給される。乗算器37と関連して量子化レベル乗数テーブル39が設けられ、シフト回路38と関連して量子化レベルシフト量テーブル40が設けられている。これらのテーブルは、ROMにより実現される。例えば、被乗数、乗数ともに16ビットの乗算器37とシフト回路38を用いて量子化器を構成するもの想定する。この時、量子化レベル=3だとすると、入力データを3で割ることを実現すればいいのであるから、乗算器37で43691(0AAABh)を掛けて、18ビットシフトすることで実現できる。」

第4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-19 
結審通知日 2012-06-22 
審決日 2012-07-03 
出願番号 特願2004-559042(P2004-559042)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
P 1 8・ 561- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横田 有光古市 徹  
特許庁審判長 松尾 淳一
特許庁審判官 小池 正彦
千葉 輝久
発明の名称 除算演算の要件が低減されたデジタル・ビデオ符号化の可変精度画像間タイミング指定の方法および装置  
代理人 高柳 司郎  
代理人 大塚 康徳  
代理人 坂田 恭弘  
代理人 大塚 康弘  
代理人 下山 治  
代理人 木村 秀二  
代理人 永川 行光  

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