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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1266397
審判番号 不服2011-17007  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-08 
確定日 2012-11-14 
事件の表示 特願2005-126249「電子ビーム描画装置のショット量補正方法及び電子ビーム描画装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月 2日出願公開、特開2006-303361〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年4月25日を出願日とする出願であって、平成22年10月8日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し、同年12月7日付けで手続補正がなされ、その後、平成23年4月26日付けで拒絶査定がされた。
本件は、これを不服として、同年8月8日に請求された拒絶査定不服審判であって、請求と同時に手続補正がなされ、その後、当審において平成24年1月25日付けで前置報告書の内容について意見を求めるために審尋を行ったところ、同年4月6日付けで回答書が提出された。

第2 平成23年8月8日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成23年8月8日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲及び明細書を補正するものであって、そのうち特許請求の範囲の補正は、補正前(平成22年12月7日付けで補正、以下同様。)の
「【請求項1】
テストモードで時間経過に伴うパターン幅の変化を測定しておき、
実際の描画にあたっては、描画と装置較正を決められた時間毎に繰り返し行ない、較正によって決定されたショット時間を用いて、その後の描画を行なうと共に、
前記測定から得られたパターン幅の変化とレジスト感度比に基づいて経過時間tに応じたショット量補正値に関する関数のDelay(t)を求め、
描画開始からの経過時間(t)と、前記Delay(t)に基づいて、経過時間tに対するショット時間補正値を求め、該ショット時間補正値に基づいて、前記較正により決定されたショット時間を補正しつつ描画を行なうようにしたことを特徴とする電子ビーム描画装置のショット量補正方法。
【請求項2】
テストモードで時間経過に伴うパターンの幅の変化を測定し記憶する記憶手段と、
実際の描画にあたっては、描画と装置較正を決められた時間毎に繰り返し行なう装置較正手段と、
前記記憶手段から読み出したパターン幅の変化とレジスト感度比に基づいて経過時間tに応じたショット量補正値に関する関数Delay(t)を求める算出手段と、
描画開始からの経過時間(t)と前記算出手段からのDelay(t)に基づいて経過時間tに対するショット時間補正値を求めるショット時間補正値算出手段と、
該ショット時間補正値算出手段からのショット時間補正値に基づいて、前記較正により決定されたショット時間を補正しつつ描画を行なうようにしたことを特徴とする電子ビーム描画装置。」を
「【請求項1】
テストモードで時間経過に伴うパターン幅の変化を測定し、該測定から得られたパターン幅の変化とレジスト感度比に基づいて経過時間tに応じたショット量補正値に関する関数のDelay(t)を求めておき、実際の描画にあたっては、描画と装置較正を決められた時間毎に繰り返し行ない、較正で求められた電流密度に基づいて決定されたショット時間を用いて、較正後の描画を行なうと共に、描画開始からの経過時間(t)と、前記Delay(t)に基づいて、経過時間tに対するショット時間補正値を求め、該ショット時間補正値に基づいて、前記較正により決定されたショット時間を補正しつつ描画を行なうようにしたことを特徴とする電子ビーム描画装置のショット量補正方法。
【請求項2】
テストモードで時間経過に伴うパターンの幅の変化を測定し記憶する記憶手段と、
実際の描画にあたっては、描画と装置較正を決められた時間毎に繰り返し行なう装置較正手段と、前記記憶手段から読み出したパターン幅の変化とレジスト感度比に基づいて経過時間tに応じたショット量補正値に関する関数Delay(t)を求める算出手段と、描画開始からの経過時間(t)と前記算出手段からのDelay(t)に基づいて経過時間tに対するショット時間補正値を求めるショット時間補正値算出手段と、該ショット時間補正値算出手段からのショット時間補正値に基づいて、前記較正により決定されたショット時間を補正しつつ描画を行なうようにしたことを特徴とする電子ビーム描画装置。」と補正するものである。

2 補正の目的についての検討
上記本件補正は、請求項1に係る発明の発明特定事項である「テストモード」の「測定から得られたパターン幅の変化とレジスト感度比に基づいて経過時間tに応じたショット量補正値に関する関数のDelay(t)を求め」ることを、本件補正前はどの時点で行っているのか特定していなかったものを、本件補正後は「テストモード」後であって「描画と装置較正」の前とする補正、及び、請求項1に係る発明の発明特定事項である較正によって「決定されたショット時間を用いて、」描画を行う事項に、本件補正後は「較正で求められた電流密度に基づいて」ショット時間を決定する点を限定したものであって、これらの補正事項は、いずれも明らかに特許請求の範囲を限定して減縮するものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下単に「特許法第17条の2」という。)第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正である。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する。

3 本件補正発明
本件補正発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された上記のとおりのものである。

4 引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前である平成13年8月24日に頒布された「特開2001-230175号公報 」(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体素子又は半導体集積回路等を製作するためのリソグラフィ技術に関し、特に、電子線露光を用いたパターン形成方法、及び直接描画方式の電子線露光装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、半導体素子又は半導体集積回路等の製造においては、紫外線又は遠紫外線等を用いたフォトリソグラフィによりパターン形成が行なわれてきた。しかし、半導体素子等の微細化に伴って、フォトリソグラフィによるパターン形成は限界に近づいている。そこで、半導体素子等のさらなる微細化を実現するために、フォトリソグラフィに代わって、電子線リソグラフィが用いられるようになってきている。」
「【0005】一方、電子線露光に用いられるレジスト材料については高感度であることが要求されるために、電子線露光においては酸発生剤を含む化学増幅型レジストが使用される。化学増幅型レジストからなるレジスト膜は露光されると酸を発生する。また、露光されたレジスト膜に対して熱処理(以下、露光後熱処理と称する)を行なうと、前記の酸がレジスト膜中を拡散しながら触媒として作用するため、レジスト膜の露光部の現像液に対する溶解性の変化が促進される。
【0006】以上に説明したように、化学増幅型レジストを用いた電子線露光は、今後のULSIの製造のために必要不可欠な技術である。
【0007】ところで、通常、電子線露光においては、半導体基板となるウエハ上に形成されたレジスト膜に対してパターン露光を行なう前に、前記のレジスト膜と同一のレジスト材料からなるテスト用レジスト膜に対して予めテスト露光を行なうことにより、パターン露光に用いる露光量(以下、最適露光量と称する)を求めておく。このとき、テスト露光に要する時間を低減するために、ウエハ全面に亘って露光を行なう代わりに、最適露光量を求めるために必要な最低限の露光面積に対して露光を行なう場合がある。
【0008】従来のフォトリソグラフィにおいては、テスト露光により得られた最適露光量を用いてパターン露光を行なうことによって、所望の寸法を有するパターンを形成することができた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、電子線リソグラフィにおいては、テスト露光により得られた最適露光量を用いてパターン露光を行なった場合に、所望の寸法を有するパターンを形成することが困難になるという問題がある。
【0010】前記に鑑み、本発明は、電子線リソグラフィにおいてパターンの寸法精度を向上させることを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本件発明者は、テスト露光により得られた最適露光量の電子線をレジスト膜に照射してパターン露光を行なったときにパターンの寸法精度が劣化する原因について検討を行なった。以下、前記の検討結果について説明する。
【0012】レジスト材料として化学増幅型レジストを用いる場合、露光によりレジスト膜中に生じた酸は、該レジスト膜中に残存する溶媒を媒体として拡散するので、露光後熱処理のときに前記の酸が拡散する距離は、レジスト膜中に残存する溶媒の量に依存して決まることになる。
【0013】従来のフォトリソグラフィにおいては、ウエハ1枚を露光するために必要な時間が短いと共に全ての露光処理が大気中で行なわれるため、レジスト膜の形成を終了してから露光後熱処理を開始するまでの間に、言い換えると、パターン露光を行なっている間に、レジスト膜中から揮発する溶媒の量は無視することができる。このため、パターン露光に要する時間がテスト露光に要する時間よりも長い場合にも、テスト露光によって得られた最適露光量を用いてパターン露光を行なうことにより、所望の寸法を有するレジストパターンを形成することができる。
【0014】それに対して、電子線リソグラフィにおいては、ウエハ1枚を露光するために必要な時間が非常に長いと共に露光処理が真空中で行なわれるため、パターン露光を行なっている間に、レジスト膜が真空中で乾燥してレジスト膜中に残存する溶媒が減少するので、露光によりレジスト膜中に生じた酸が拡散しにくくなる。すなわち、化学増幅型レジストを用いた電子線露光においては、パターンの寸法はレジスト膜が真空にさらされる時間、つまりパターン露光に要する時間に依存して変化する。このため、パターン露光に要する時間とテスト露光に要する時間とが異なる場合には、パターン露光及びテスト露光のそれぞれにおけるレジスト膜の乾燥状態つまりレジスト膜中に残存する溶媒の量が異なるので、テスト露光により得られた最適露光量を用いてパターン露光を行なっても、所望の寸法を有するパターンを形成できない。
【0015】特に、テスト露光を効率的に行なうために、テスト露光における露光面積を大幅に低減した場合には、パターン露光に要する時間とテスト露光に要する時間との差が拡大して、結果的にパターン露光時のレジスト膜の感度が、テスト露光時のレジスト膜の感度よりも低下してしまうので、パターンの寸法精度が大きく劣化する。例えば、レジスト材料として化学増幅型ネガレジストを用いる場合、所要時間30分間のテスト露光により得られた最適露光量を用いて、所要時間3時間のパターン露光を行なうことにより目標寸法0.1μmのパターンを形成しようとすると、実際に形成されるパターンの寸法は0.08μm程度になり目標寸法よりも小さくなってしまう。」
「【0038】
【発明の実施の形態】(第1の実施形態)以下、本発明の第1の実施形態に係るパタ-ン形成方法について図面を参照しながら説明する。
【0039】第1の実施形態においては、半導体基板上に形成されたレジスト膜に電子線を照射してパターン露光を行なう前に、レジスト膜が真空にさらされる時間とレジスト膜の感度との相関を予め求めておく。
【0040】まず、テスト用半導体基板上にパターン露光されるレジスト膜と同一のレジスト材料からなるテスト用レジスト膜を形成する。具体的には、テスト用半導体基板上に化学増幅型ネガレジストを膜厚0.5μm塗布した後、100℃の熱処理(以下、塗布後熱処理と称する)を120秒間行なってテスト用レジスト膜を形成する。
【0041】次に、電子線直接描画装置を用いて、テスト用半導体基板上に形成されたテスト用レジスト膜に露光量を変化させながら電子線を照射して露光を行なった後、110℃の熱処理(以下、露光後熱処理と称する)を120秒間行ない、その後、テスト用レジスト膜に対して現像処理を行なって、テスト用レジスト膜の露光部からなるレジストパターン、例えば寸法0.1μmのラインアンドスペースパターンを形成する。
【0042】第1の実施形態においては、以上に説明した工程を、複数のテスト用半導体基板上にそれぞれ形成されたテスト用レジスト膜について、塗布後熱処理を終了してから電子線露光を開始するまでの間にテスト用レジスト膜が真空にさらされる時間を変化させながら行なう。これにより、真空にさらされた時間がそれぞれ異なる、つまり乾燥状態がそれぞれ異なる複数のテスト用レジスト膜に対して同1条件下で露光、露光後熱処理及び現像処理を行なって、レジストパターンを形成できるので、該レジストパターンの寸法に基づき、レジスト膜が真空にさらされる時間とレジスト膜の感度との相関を求めることができる。
【0043】図1は、レジスト膜が真空にさらされる時間とレジスト膜の感度との相関の一例を示している。尚、図1において、縦軸に示すレジスト膜の感度は、レジスト膜が真空にさらされる時間が0時間のときのレジスト膜の感度が1になるように規格化されている。図1に示すように、レジスト膜が真空にさらされる時間が長くなるに従って、レジスト膜は低感度化している(縦軸の数値が大きい程、レジスト膜を感光させるために必要な露光量が大きくなる)。
【0044】続いて、テスト用半導体基板上にパターン露光されるレジスト膜と同一のレジスト材料からなるテスト用レジスト膜を形成した後、該テスト用レジスト膜に電子線を照射してテスト露光を行なうことにより、パターン露光に用いる適正露光量つまり仮の最適露光量を求める。具体的には、テスト露光により得られた適正露光量は15μC/cm^(2 )であり、テスト露光中にテスト用レジスト膜が真空にさらされた時間は30分であった。一方、パターン露光されるレジスト膜が真空にさらされる時間は、パターン露光を行なうときに照射される電子線の総ショット数から換算して、3.5時間と予測された。
【0045】次に、レジスト膜が真空にさらされる時間とレジスト膜の感度との相関(図1参照)、テスト露光中にテスト用レジスト膜が真空にさらされた時間、及びパターン露光されるレジスト膜が真空にさらされる時間の予測値に基づき、テスト露光により得られた適正露光量を補正して、パターン露光に用いる最適露光量を決定する。具体的には、図1に示すように、レジスト膜が真空にさらされる時間が30分(テスト露光中にテスト用レジスト膜が真空にさらされた時間)の場合のレジスト膜の感度が1.01である一方、レジスト膜が真空にさらされる時間が3.5時間(パターン露光されるレジスト膜が真空にさらされる時間の予測値)の場合のレジスト膜の感度が1.09であるので、テスト露光時のレジスト膜の感度とパターン露光時のレジスト膜の感度との比は1.08になる。そこで、テスト露光により得られた適正露光量15μC/cm^(2) を1.08倍して、パターン露光に用いる最適露光量を16.2μC/cm^(2) と決定した。
【0046】すなわち、第1の実施形態で用いられる電子線直接描画装置つまり電子線露光装置においては、パターン露光に用いる最適露光量は、レジスト膜が真空にさらされる時間とレジスト膜の感度との相関、及びパターン露光されるレジスト膜が真空にさらされる時間の予測値に基づき決定される。」
「【図1】



上記記載事項によると、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「レジスト膜が真空にさらされる時間に依存してパターンの寸法が変化する複数のテスト用レジスト膜に対して、レジスト膜が真空にさらされた時間をそれぞれ異ならせて露光、露光後熱処理及び現像処理を行なって、形成されたレジストパターンの寸法に基づき、必要な露光量に関する、レジスト膜が真空にさらされる時間とレジスト膜の感度との相関を求めておき、
テスト露光を行うことにより仮の最適露光量を求めて露光を行うとともに、
パターン露光に要する時間の予測値、レジスト膜が真空にさらされる時間とレジスト膜の感度との相関に基づいて、露光量を補正して露光を行う電子線直接描画装置の露光量補正方法。」

5 対比
(1)引用発明の「レジストパターンの寸法」は、本件補正発明の「パターン幅」に相当する。
また、引用発明は、「レジスト膜が真空にさらされる時間に依存してパターンの寸法が変化する複数のテスト用レジスト膜に対して、レジスト膜が真空にさらされた時間をそれぞれ異ならせて露光、露光後熱処理及び現像処理を行なって、形成されたレジストパターンの寸法に基づき、必要な露光量に関する、レジスト膜が真空にさらされる時間とレジスト膜の感度との相関を求め」るものであるから、引用発明は、時間経過に伴うレジストパターンの寸法の変化を測定するものであるといえる。
そうすると、引用発明の「レジスト膜が真空にさらされる時間に依存してパターンの寸法が変化する複数のテスト用レジスト膜に対して、レジスト膜が真空にさらされた時間をそれぞれ異ならせて露光、露光後熱処理及び現像処理を行」うことは、本件補正発明の「テストモードで時間経過に伴うパターン幅の変化を測定」することに相当する。

(2)引用例には、「図1において、縦軸に示すレジスト膜の感度は、レジスト膜が真空にさらされる時間が0時間のときのレジスト膜の感度が1になるように規格化されている。図1に示すように、レジスト膜が真空にさらされる時間が長くなるに従って、レジスト膜は低感度化している」(【0043】)と記載されており、引用発明の「レジストの感度」は、レジスト膜が真空にさらされる時間に関するレジストの感度の比を意味しているといえるから、引用発明の「レジスト膜の感度」は、本件補正発明の「レジスト感度比」に相当する。
また、引用発明は、露光量を補正して必要な露光量を求めるものであるから、引用発明の「必要な露光量」は本件補正発明の「ショット量補正値」に相当する。
さらに、本件補正発明の「経過時間(t)」と同「描画開始からの経過時間(t)」は明らかに同意であり、引用例には、「レジスト膜が真空にさらされる時間、つまりパターン露光に要する時間」(【0014】)と記載されているから、引用発明の「レジスト膜が真空にさらされる時間」は、本件補正発明の「経過時間(t)」に相当する。
そして、引用発明は、「パターン露光に要する時間の予測値、レジスト膜が真空にさらされる時間とレジスト膜の感度との相関に基づいて、露光量を補正して露光を行う」ものであるから、引用発明の「露光、露光後熱処理及び現像処理を行なって、形成されたレジストパターンの寸法に基づき、」求められた「必要な露光量に関する、レジスト膜が真空にさらされる時間とレジスト膜の感度との相関」は、本件補正発明の「測定から得られたパターン幅の変化とレジスト感度比に基づいて経過時間tに応じたショット量補正値に関する関数のDelay(t)」に相当する。

(3)本件補正発明は、「描画開始からの経過時間(t)と、Delay(t)に基づいて、経過時間tに対するショット時間補正値を求め」るものであるが、本件明細書には、「Delay(t)は、レジスト感度比と描画予測時間を用いて算出されることになる」(【0017】)と記載されているから、結局、本件補正発明は、「ショット時間補正値を求め」る際に描画予測時間と描画開始からの経過時間(t)、すなわち両者の差である描画残り時間の予測値を用いるものであるといえる。
そうすると、引用発明の「パターン露光に要する時間の予測値、レジスト膜が真空にさらされる時間とレジスト膜の感度との相関に基づいて、露光量を補正」する点と本件補正発明の「描画開始からの経過時間(t)と、前記Delay(t)に基づいて、経過時間tに対するショット時間補正値を求め」る点は、「描画開始からの経過時間(t)と、前記Delay(t)に基づいて、経過時間tに対する」補正値を求める点で一致する。

(4)引用発明における「露光」、「電子線直接描画装置」、「露光量補正方法」は、本件補正発明の「描画」、「電子ビーム描画装置」、「ショット量補正方法」に相当する。

上記(1)?(3)の点から、本件補正発明と引用発明は、
「テストモードで時間経過に伴うパターン幅の変化を測定し、
該測定から得られたパターン幅の変化とレジスト感度比に基づいて経過時間tに応じたショット量補正値に関する関数のDelay(t)を求めておき、
描画を行なうようにしたことを特徴とする電子ビーム描画装置のショット量補正方法。」
で一致し、以下(a)?(c)の点で相違する。

(a)実際の描画にあたり、本件補正発明は、描画と装置較正を決められた時間毎に繰り返し行ない、較正で求められた電流密度に基づいて決定されたショット時間を用いて、較正後の描画を行なうのに対し、引用発明は、装置較正については不明であり、テスト露光を行うことにより仮の最適露光量を求める点。

(b)描画開始からの経過時間(t)と、Delay(t)に基づいて、求める経過時間tに対する補正値が、本件補正発明はショット時間補正値であるのに対し、引用発明は露光量である点。

(c)補正値に基づいて、本件補正発明は、較正により決定されたショット時間を補正しつつ描画を行なうのに対し、引用発明は、単に露光を行っている点。

6 当審の判断
以下、上記相違点(a)?(c)について検討する。
(a)の点について
本件明細書【0013】-【0014】にも「従来の技術」として記載されているように、実際の描画にあたって、描画と装置較正を決められた時間毎に繰り返し行ない、較正で求められた電流密度に基づいて決定されたショット時間を用いて、較正後の描画を行なうことは本件出願前の技術常識であるから、引用発明において、テスト露光を行うことにより仮の最適露光量を求めることに代えて、実際の描画にあたって、描画と装置較正を決められた時間毎に繰り返し行ない、較正で求められた電流密度に基づいて決定されたショット時間を用いて、較正後の描画を行なうことは、当業者が容易になし得たことである。
してみると、上記相違点(a)に係る本件補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

(b)の点について
本件明細書【0014】に「従来の技術」として記載された式(1)からも分かるように、一般に、露光量とショット時間は比例関係にあるものであるから、引用発明において、露光量をショット時間に換算して補正することは格別困難なことではない。
してみると、上記相違点(b)に係る本件補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

(c)の点について
装置較正を行うことは、上記「(a)の点について」で述べたように技術常識である。
そして、装置較正を行うと描画に関するパラメータが変更されるので、補正を伴う描画を行う場合に、再度補正をし直して描画を行った方がよいことは明らかであるから、引用発明において、較正により決定されたショット時間を補正しつつ描画を行なうことは、当業者が容易になし得たことである。
してみると、上記相違点(c)に係る本件補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
相違点(a)?(c)については上記のとおりであり、本件補正発明によってもたらされる効果は、引用例に記載された発明及び技術常識から当業者が当然に予測できる範囲内のものと認められる。
よって、本件補正発明は、引用例に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

7 本件補正についての補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成23年8月8日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成22年年12月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。(第2[理由]1参照。)

2 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願日前に頒布された刊行物及びその記載事項、ならびに引用発明は、上記第2[理由]4に記載したとおりである。

3 対比及び当審の判断
本願発明は、上記第2[理由]1及び2で検討したとおり、その発明特定事項である「テストモード」の「測定から得られたパターン幅の変化とレジスト感度比に基づいて経過時間tに応じたショット量補正値に関する関数のDelay(t)を求め」ることに関し、本件補正発明において「テストモード」後であって「描画と装置較正」の前としていた構成を省き、また、本件補正発明の「較正で求められた電流密度に基づいて決定されたショット時間を用いて、較正後の描画を行なう」事項から、ショット時間を「電流密度に基づいて決定」する構成を省いたものである。
したがって、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに、上記構成で限定した本件補正発明が、上記第2[理由]6に記載したとおり、引用例に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-23 
結審通知日 2012-08-14 
審決日 2012-09-04 
出願番号 特願2005-126249(P2005-126249)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 創  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 森林 克郎
土屋 知久
発明の名称 電子ビーム描画装置のショット量補正方法及び電子ビーム描画装置  

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