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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1266501
審判番号 不服2010-6317  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-23 
確定日 2012-11-19 
事件の表示 特願2003-564069「生物活性ケラチンタンパク質」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月 7日国際公開、WO03/64449、平成17年 6月 2日国内公表、特表2005-516072〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2003年1月28日(パリ条約による優先権主張2002年1月28日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年6月22日付けで手続補正書が提出されたものの、同年11月18日付けで拒絶査定がなされ、平成22年3月23日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2 平成22年3月23日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年3月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、以下のとおり、補正前の請求項1?39から、補正後の請求項1?38となった。

<補正前>(平成21年6月22日付け手続補正書により手続補正された内容にあたる。)
「 【請求項1】
4?39アミノ酸長の、単離された生物活性ペプチドを含有する組成物であって、該ペプチドが、SEQ ID NO:1?32の任意のアミノ酸配列または任意のそれらの断片を含有する、組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物であって、ここで、前記ペプチドがN末端に結合したアセチルを含有する、組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物であって、ここで、前記ペプチドがC末端に結合したアミドを含有する、組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の組成物であって、以下のアミノ酸配列:
【数1】

またはそれらの組み合わせを有する1つ以上のペプチドを含有する、組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の組成物であって、ここで、前記組成物が、粉末、ローション、ヒドロゲル、油、エマルション、ペースト、光沢剤またはクリームである、組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の組成物であって、ここで、前記組成物が創傷包帯中に処方される、組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の組成物であって、ここで、前記創傷包帯がケラチン由来生成物を含有するシートである、組成物。
【請求項8】
請求項6に記載の組成物であって、ここで、前記創傷包帯が絆創膏である、組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の組成物であって、ここで、前記ペプチド組成物が組織工学骨格の構成要素である、組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の組成物であって、ここで、前記組織工学骨格が、不溶性物質を含有し、該不溶性物質の少なくとも一部はケラチン生成物から入手される、組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の組成物であって、ここで、前記組成物がヒドロゲル中に含有される、またはヒドロゲルと結合している組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の組成物であって、ここで、前記ヒドロゲルがケラチン送達ヒドロゲルを含有する、組成物。
【請求項13】
ヒト被験体または動物被験体の皮膚への局所適用のための組成物であって、該組成物が請求項1に記載の組成物を含有し、ここで、該組成物がローション、ゲル、ペースト、クリームまたは水溶液中に含まれる、組成物。
【請求項14】
請求項13に記載の組成物であって、損傷上皮組織への局所適用のための組成物。
【請求項15】
請求項14に記載の組成物であって、ここで、前記損傷上皮組織が外傷、発疹、おむつかぶれ、火傷、日焼け、切り傷、擦過傷、刺し傷、創傷、褥瘡、潰瘍またはしわのよった皮膚を含む、組成物。
【請求項16】
請求項13に記載の組成物であって、ここで、前記ペプチド濃度が100μg/ml?1×10-6μg/mlである、組成物。
【請求項17】
請求項1に記載の組成物であって、皮膚への化粧品用途のための組成物。
【請求項18】
請求項17に記載の組成物であって、ここで、前記組成物が保湿剤、防臭剤、老化防止/皮膚手入れ調製物、洗剤、化粧液、アイ・ケア組成物、リップ・ケア組成物、指の爪ケア組成物、足指の爪ケア組成物、頭皮ケア組成物、日焼けケア組成物、ハンドケア組成物またはボディケア組成物である、組成物。
【請求項19】
請求項17に記載の組成物であって、ここで、前記組成物が皮膚損傷のためのアフターケア製品である、組成物。
【請求項20】
請求項19に記載の組成物であって、ここで、前記皮膚損傷が化学薬品による剥離、脱毛刺激、かみそり-ひげそり傷、擦過傷、ヘア・トリートメント由来の頭皮刺激である、組成物。
【請求項21】
請求項17に記載の組成物であって、ここで、前記組成物が水性化粧品である、組成物。
【請求項22】
請求項17に記載の組成物であって、ここで、前記組成物が頭髪用化粧品である、組成物。
【請求項23】
請求項22に記載の組成物であって、ここで、前記製品がシャンプーまたはヘアコンディショナーである、組成物。
【請求項24】
請求項1の組成物を含む創傷包帯であって、ここで、前記組成物がシートの包帯、フィルムの包帯または布の包帯中に含まれるかまたは付着している、創傷包帯。
【請求項25】
請求項24に記載の創傷包帯であって、ここで、前記包帯がケラチン誘導体を含む、創傷包帯。
【請求項26】
請求項24に記載の創傷包帯であって、ここで、該創傷包帯が絆創膏である、創傷包帯。
【請求項27】
請求項24に記載の創傷包帯であって、ここで、前記包帯が毛織物または綿織物を含む、創傷包帯。
【請求項28】
請求項24に記載の創傷包帯であって、ここで、前記包帯が織り込まれたケラチンシートである、創傷包帯。
【請求項29】
請求項24に記載の創傷包帯であって、ここで、前記包帯が、水不溶性ケラチンを含む不織シートかまたは不織フィルムである、創傷包帯。
【請求項30】
請求項14に記載の組成物であって、ここで、前記上皮組織が、皮膚の上皮組織、鼻の上皮組織、口の上皮組織、胃腸の上皮組織、肛門の上皮組織、膣の上皮組織、耳の上皮組織、眼の上皮組織、肺の上皮組織または泌尿生殖器の上皮組織である、組成物。
【請求項31】
ケラチン由来シート材料、ケラチン由来多孔性材料またはケラチン由来ヒドロゲルを含む細胞成長骨格であって、ここで、さらに、請求項1に記載の組成物を前記細胞成長骨格中に含むかまたは付着している、細胞成長骨格。
【請求項32】
請求項31に記載の細胞成長骨格であって、さらに脊髄移植物、骨成長骨格、上皮組織の成長のための骨格、包帯、不織シートまたは織られたシートとして規定された、細胞成長骨格。
【請求項33】
請求項32に記載の細胞成長骨格であって、ここで、前記不織シートまたは織り込まれたシートが、羊毛の詰め物、織り込まれたケラチン、ポリマーシートに結合したケラチンまたは架橋ケラチンを含む、細胞成長骨格。
【請求項34】
請求項31に記載の細胞成長骨格であって、さらに、ペプチドを含有する外皮を含む、細胞成長骨格。
【請求項35】
請求項31に記載の細胞成長骨格であって、金属移植物、シリコーン移植物またはポリマー移植物の表面に結合するか、または、付着しているペプチドを含む、細胞成長骨格。
【請求項36】
4?39アミノ酸長の、単離された生物活性ペプチドを含有する組成物であって、該ペプチドが、アミノ酸配列LGD、DLN、APTV、SEQ ID NO:67またはLNVEV、SEQ ID NO:118を含む、組成物。
【請求項37】
請求項36に記載の組成物であって、ここで、前記組成物が細胞増殖の活性剤である、組成物。
【請求項38】
請求項36に記載の組成物であって、ここで、前記細胞が皮膚細胞であるかまたは骨細胞である、組成物。
【請求項39】
請求項36に記載の組成物であって、ここで、細胞が線維芽細胞、ケラチノサイトまたは骨芽細胞である、組成物。」

<補正後>(本件補正による。)
「 【請求項1】
以下のアミノ酸配列:
【数1】

またはそれらの組み合わせを有する1つ以上のペプチドを含有する、組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物であって、ここで、前記ペプチドがN末端に結合したアセチルを含有する、組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物であって、ここで、前記ペプチドがC末端に結合したアミドを含有する、組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の組成物であって、ここで、前記組成物が、粉末、ローション、ヒドロゲル、油、エマルション、ペースト、光沢剤またはクリームである、組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の組成物であって、ここで、前記組成物が創傷包帯中に処方される、組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の組成物であって、ここで、前記創傷包帯がケラチン由来生成物を含有するシートである、組成物。
【請求項7】
請求項5に記載の組成物であって、ここで、前記創傷包帯が絆創膏である、組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の組成物であって、ここで、前記ペプチド組成物が組織工学骨格の構成要素である、組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の組成物であって、ここで、前記組織工学骨格が、不溶性物質を含有し、該不溶性物質の少なくとも一部はケラチン生成物から入手される、組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の組成物であって、ここで、前記組成物がヒドロゲル中に含有される、またはヒドロゲルと結合している組成物。
【請求項11】
請求項11に記載の組成物であって、ここで、前記ヒドロゲルがケラチン由来ヒドロゲルを含有する、組成物。
【請求項12】
ヒト被験体または動物被験体の皮膚への局所適用のための組成物であって、該組成物が請求項1に記載の組成物を含有し、ここで、該組成物がローション、ゲル、ペースト、クリームまたは水溶液中に含まれる、組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の組成物であって、損傷上皮組織への局所適用のための組成物。
【請求項14】
請求項13に記載の組成物であって、ここで、前記損傷上皮組織が外傷、発疹、おむつかぶれ、火傷、日焼け、切り傷、擦過傷、刺し傷、創傷、褥瘡、潰瘍またはしわのよった皮膚を含む、組成物。
【請求項15】
請求項12に記載の組成物であって、ここで、前記ペプチド濃度が100μg/ml?1×10-6μg/mlである、組成物。
【請求項16】
請求項1に記載の組成物であって、皮膚への化粧品用途のための組成物。
【請求項17】
請求項16に記載の組成物であって、ここで、前記組成物が保湿剤、防臭剤、老化防止/皮膚手入れ調製物、洗剤、化粧液、アイ・ケア組成物、リップ・ケア組成物、指の爪ケア組成物、足指の爪ケア組成物、頭皮ケア組成物、日焼けケア組成物、ハンドケア組成物またはボディケア組成物である、組成物。
【請求項18】
請求項16に記載の組成物であって、ここで、前記組成物が皮膚損傷のためのアフターケア製品である、組成物。
【請求項19】
請求項18に記載の組成物であって、ここで、前記皮膚損傷が化学薬品による剥離、日焼け、脱毛刺激、かみそり-ひげそり傷、擦過傷、ヘア・トリートメント由来の頭皮刺激である、組成物。
【請求項20】
請求項16に記載の組成物であって、ここで、前記組成物が水性化粧品である、組成物。
【請求項21】
請求項16に記載の組成物であって、ここで、前記組成物が頭髪用化粧品である、組成物。
【請求項22】
請求項21に記載の組成物であって、ここで、前記製品がシャンプーまたはヘアコンディショナーである、組成物。
【請求項23】
請求項1の組成物を含む創傷包帯であって、ここで、前記組成物がシートの包帯、フィルムの包帯または布の包帯中に含まれるかまたは付着している、創傷包帯。
【請求項24】
請求項23に記載の創傷包帯であって、ここで、前記包帯がケラチン誘導体を含む、創傷包帯。
【請求項25】
請求項23に記載の創傷包帯であって、ここで、該創傷包帯が絆創膏である、創傷包帯。
【請求項26】
請求項23に記載の創傷包帯であって、ここで、前記包帯が毛織物または綿織物を含む、創傷包帯。
【請求項27】
請求項23に記載の創傷包帯であって、ここで、前記包帯が織り込まれたケラチンシートである、創傷包帯。
【請求項28】
請求項23に記載の創傷包帯であって、ここで、前記包帯が、水不溶性ケラチンを含む不織シートかまたは不織フィルムである、創傷包帯。
【請求項29】
請求項13に記載の組成物であって、ここで、前記上皮組織が、皮膚の上皮組織、鼻の上皮組織、口の上皮組織、胃腸の上皮組織、肛門の上皮組織、膣の上皮組織、耳の上皮組織、眼の上皮組織、肺の上皮組織または泌尿生殖器の上皮組織である、組成物。
【請求項30】
ケラチン由来シート材料、ケラチン由来多孔性材料またはケラチン由来ヒドロゲルを含む細胞成長骨格であって、ここで、さらに、請求項1に記載の組成物を前記細胞成長骨格中に含むかまたは付着している、細胞成長骨格。
【請求項31】
請求項30に記載の細胞成長骨格であって、さらに脊髄移植物、骨成長骨格、上皮組織の成長のための骨格、包帯、不織シートまたは織られたシートとして規定された、細胞成長骨格。
【請求項32】
請求項31に記載の細胞成長骨格であって、ここで、前記不織シートまたは織り込まれたシートが、羊毛の詰め物、織り込まれたケラチン、ポリマーシートに結合したケラチンまたは架橋ケラチンを含む、細胞成長骨格。
【請求項33】
請求項30に記載の細胞成長骨格であって、さらに、ペプチドを含有する外皮を含む、細胞成長骨格。
【請求項34】
請求項30に記載の細胞成長骨格であって、金属移植物、シリコーン移植物またはポリマー移植物の表面に結合するか、または、付着しているペプチドを含む、細胞成長骨格。
【請求項35】
以下のアミノ酸配列LGD、DLN、APTV、SEQ ID NO:67またはLNVEV、SEQ ID NO:118を有する1つ以上のペプチドを含む、組成物。
【請求項36】
請求項35に記載の組成物であって、ここで、前記組成物が細胞増殖の活性剤である、組成物。
【請求項37】
請求項35に記載の組成物であって、ここで、前記細胞が皮膚細胞であるかまたは骨細胞である、組成物。
【請求項38】
請求項35に記載の組成物であって、ここで、細胞が線維芽細胞、ケラチノサイトまたは骨芽細胞である、組成物。」

2 補正要件の適否について
(1) 本件補正において、請求項における具体的記載からみて、補正前の請求項36は、補正後の請求項35と対応する関係にあるものといえ(なお、審判請求書に「補正前の請求項4の特徴を補正前の請求項1に組み込み、補正前の請求項4を削除して他の請求項の項番号を改めました。」との記載があり、補正前の請求項5以降の請求項番号が、補正後においては1ずつ小さな番号となることは、請求人も認めるところである。)、両者を比較すると、本件補正により、以下のア及びイの点が補正されたといえる。
ア 補正前の請求項36では、組成物に含まれるペプチドについて、「4?39アミノ酸長の、単離された生物活性ペプチド」とされていたが、補正後の請求項35では、これらの限定がなくなった。
イ 補正前の請求項36では、組成物に含まれるペプチドが「アミノ酸配列LGD、……またはLNVEV、SEQ ID NO:118を含む」とされていたが、補正後の請求項35では、「以下のアミノ酸配列LGD、……またはLNVEV、SEQ ID NO:118を有する1つ以上のペプチドを含む」とされた。

(2) 本件補正は、上記(1)の補正事項アにより、補正後の請求項35に係る発明である組成物に含まれるペプチドに関し、アミノ酸長が3以下、40以上のものが新たに含まれ得るように補正されたものといえ、補正事項イによる限定を参酌しても、少なくとも、アミノ酸長が3である場合、及び40以上である場合が新たに含まれるようになっていることが明らかである。そうすると、本件補正はこの点において、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項第2号の、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しないものである。また、上記補正事項ア及びイが、請求項の削除や誤記の訂正に該当しないことは明らかであり、拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項について、明りょうでない記載の釈明を行うものでもない。

(3) したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものでもない。

(4) なお、審判請求書において、請求人は「また請求項35(補正前の請求項36)において、補正後の請求項1と同様の記載になるように補正しました。」と主張するが、補正後の請求項35は補正後の請求項1を引用するものではなく、また、具体的に挙げられているアミノ酸配列の点でも上述のとおり相違する部分があるため、上記主張は採用することができない。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものでもなく、同項の規定に違反しているものと認められるため、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年3月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2の1で「<補正前>」として示した、平成21年6月22日付け手続補正書の特許請求の範囲のうち、請求項1に記載された事項により特定されるものである。

2 刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である、国際公開第00/76437号(以下、「引用例」という。)には、次の技術事項が記載されている。
なお、引用例は英文であるため、その訳文を示すとともに、引用例の翻訳文に相当する、特表2003-501208号公報(以下、「公表公報」という。)で対応する部分を示す。また、下線は当審で付した。

(1) 特許請求の範囲
「1. 水溶性ペプチドを含む組成物であって、該ペプチドは、以下の工程:
ヒトもしくは動物の毛、ヒトもしくは動物の爪、柔皮、蹄または羽毛を、酸化水溶液中で酸化する工程;
該酸化水溶液を濾過して水溶性部分を得る工程;
該水溶性部分を実質的に中和する工程;および
水混和性有機溶媒を該水溶性部分に添加し、その結果、沈殿物を形成する工程、
によって得られ、
ここで、該沈殿物が、水溶性ペプチドを含む、組成物。
2. 前記沈殿物を乾燥して粉末を得る工程をさらに包含する、請求項1に記載の組成物。
3. 前記酸化する工程が、前記毛、爪、羽毛またはヒトもしくは動物の爪を、過酸化水素、過酢酸、ペルカーボネート、ペルスルフェート、二酸化塩素、過酸化ナトリウム、過酸化カルシウム、ペルボレートまたはヒポクロライトから選択される酸化剤を含む溶液中に入れる工程を含む、請求項1に記載の組成物。
4. 前記酸化する工程が、前記毛または羽毛を、約1容量パーセント?約32容量パーセントの過酢酸または過酸化水素を含む溶液中に懸濁する工程を包含する、請求項1に記載の組成物。
5. 前記水混和性有機溶媒が、メタノール、エタノール、アセトン、テトラヒドロフランまたはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の組成物。
6. 前記水混和性有機溶媒が、メタノールである、請求項1に記載の組成物。
……(略)……
12. 少なくとも約90%の前記水溶性ペプチドの分子量が、約300ダルトンと約1300ダルトンとの間にある、請求項1に記載の組成物。
13. 前記水溶性ペプチドが、約850ダルトンの平均分子量を有する、請求項1に記載の組成物。
……(略)……
40.ヒトまたは動物の被験体の皮膚への局所適用のための組成物であって、該組成物は、ローション、ゲル、ペースト、クリームまたは水溶液中に含まれた請求項1に記載の可溶性ペプチドを含む、組成物。
41.前記水溶性ペプチドがヒトの毛から得られる、請求項40に記載の組成物。
42.前記ヒトの毛が、前記ヒト被験体の毛である、請求項41に記載の組成物。
43.前記皮膚が、損傷を受けた皮膚である、請求項40に記載の組成物。
44.前記損傷を受けた皮膚が、創傷、発疹、おむつかぶれ、熱傷、日焼け、切断、擦過傷、穿刺、びらん、褥瘡、潰瘍またはしわのよった皮膚を含む、請求項43に記載の組成物。
45.動物被験体の損傷を受けた上皮組織を処置する方法であって、該損傷を受けた上皮組織に請求項40に記載の組成物を接触させる工程を包含する、方法。
46.前記動物被験体が、ヒト被験体である、請求項45に記載の方法。
47.前記損傷を受けた上皮組織が、創傷、発疹、おむつかぶれ、熱傷、日焼け、切断、擦過傷、穿刺、びらん、褥瘡、潰瘍またはしわのよった皮膚を含む、請求項45に記載の方法。
48.前記水溶性ペプチドが、ヒトの毛から得られる、請求項46に記載の方法。
49.前記ヒトの毛が、前記ヒト被験体の毛である、請求項48に記載の方法。
……(略)……
54.損傷を受けた上皮組織の治癒を促進するための組成物であって、ヒドロゲル中に含まれた請求項1に記載の組成物を含む、組成物。」

(2) 2頁26行?3頁19行(公表公報 段落【0007】?【0009】)
「発明の要旨
ケラチン性供給源(例えば、毛)に由来する水溶性ペプチドおよびこの水溶性ペプチドを作製するための方法が提供される。1つの方法は、ジスルフィド結合を有するケラチン性材料を提供する工程、およびこのケラチン性材料を酸化剤で酸化して、その結果、いくつかのジスルフィド結合を切断および酸化して水溶性ペプチドを形成する工程を包含する。水溶性ペプチドは、分離され、収集され、乾燥され、そして創傷治癒剤として用いられ得る。ケラチン性材料の好ましい供給源は、毛(例えば、ヒトの毛)である。
1つの方法では、毛は、かなりの部分の毛ジスルフィド結合を切断するに充分な濃度の酸化剤で充分な時間および温度で酸化され、その結果、いくつかのジスルフィド結合が酸化されて、親水性基(例えば、スルホン酸)を形成し、そしてその結果、水溶性ペプチドが産生される。酸化剤の例としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:過酸化水素、過酢酸、ペルカーボネート、ペルスルフェート、二酸化塩素、過酸化ナトリウムおよび過酸化カルシウム、ペルボレートおよびヒポクロライト。酸化された毛は濾過され得、濾液が収集され得、そして塩基で中和され得る。中和した濾液からの水溶性ペプチドは、濾液を水混和性有機溶媒(例えば、メタノール)と混合することによって溶液から沈澱され得る。沈殿物は、遠心分離を用いて収集され得、そして収集された濾液が乾燥され得る。1つの方法では、元々の毛の質量のうちの約20パーセントが、乾燥後にペプチド物質として収集される。乾燥した沈殿物は、細かい粉末に粉砕され得る。
本発明に従って産生されたペプチドは大部分が水溶性であり、そして約850ダルトンの平均分子量および約10アミノ酸の平均鎖長を有する。このペプチド鎖には、親水性基(例えば、イオン化可能基(例えば、スルホン酸))が付着していると考えられる。特に、大部分のペプチドは、毛のジスルフィド結合の酸化から形成された少なくとも1つのスルホン酸基を有すると考えられる。本発明に従って作製された1つの産物は、やや白っぽい色から黄色であり、そして水に容易に可溶性である粉末である。」

(3) 3頁28?33行(公表公報 16頁最下行?17頁6行)
「図面の簡単な説明
図1は、本発明に従って作製した可溶性ペプチドの1つのサンプルの分子量分布を示すクロマトグラムである。
図2は、ケラチン由来ペプチド調製物によるヒト皮膚線維芽細胞の用量依存性刺激を示す。カラムの上のバーは、4連で行ったときの標準偏差を表す。」

(4) 4頁1行?6頁28行(公表公報 段落【0011】?【0018】)
「発明の詳細な説明
本発明は、酸化されたタンパク質ジスルフィド結合から誘導され得る、イオン化可能なペンダント基(例えば、スルホン酸)を有する、ペプチドを含み得る創傷治癒剤を提供する。タンパク質の好ましい供給源はケラチンである。ケラチン1つの好ましい供給源は毛である。毛はケラチン性材料の好ましい供給源であるが、他のケラチン性材料(例えば、動物の毛、皮膚、嘴、蹄、羽毛および爪)もまた、本発明における使用に適切である。患者またはヒトのドナーは時々、毛の好ましい供給源である。これらの供給源からの毛は、非抗原性創傷治癒産物をもたらす可能性が最も高いからである。しかし、動物の毛は、多くの個体について受容可能であり得る。本発明による1つの方法では、毛(好ましくは、清浄でかつ脱色されていない)が提供される。別の方法では、毛は、Versa-Clean TM(Fisher Scientific,Pittsburgh,PA)で洗浄され、脱イオン水でリンスされ、そして乾燥される。
毛は、過酢酸または別の適切な試薬(例えば、H_(2)O_(2))中で酸化され得る。1つの方法は、約1%?32%の間の過酢酸を、約0℃と100℃との間の温度で、0.5時間と24時間との間にわたって利用する。1つの方法は、30グラムの毛を、500mLの4容量パーセント過酢酸で4℃で24時間にわたって処理する。別の方法は、毛を室温で24時間にわたって処理する。なお別の方法は、毛を約90℃で約10時間にわたって処理する。好ましい方法では、毛は、毛を酸化剤中で少なくとも約2時間(好ましくは、約5時間)にわたって煮沸することによって処理される。より高い酸化温度は、より低い酸化温度と比較して、より高い収量を産生すると考えられる。種々の実施形態では、元々の毛の重量のうちの少なくとも5、10および15重量パーセントが最終的に、充分な酸化剤、熱および時間の適用によってペプチドとして回収される。1つの実施形態では、元々の毛のうちの約20重量パーセントが最終的に、本発明のために有用なペプチドとして回収され得る。酸化剤での処理は、毛の小皮構造を開け、そしてケラチンを膨潤させると考えられる。酸化剤(例えば、H_(2)O_(2)および過酢酸)での処理は、天然に存在するジスルフィド結合を少なくとも部分的に酸化して、システイン酸側鎖基(-CH_(2)SO_(3)H)(これはまた、本出願では、スルホン酸基ともいわれる)を有するタンパク質を産生すると考えられる。酸化剤での処理は、実質的な部分のペプチド骨格結合を破壊するとは考えられない。この結果は、少なくとも1つのイオン化可能なペンダント基(例えば、スルホン酸)を有する短鎖ペプチドを含むと考えられ、ここで、このペプチドは、生理学的pHにおいて水に可溶性である。一般に、本発明は、親水性基(例えば、スルホン酸基)を有するペプチドを含むケラチン性材料からの水溶性ペプチドの産生を含む。
酸化された毛は、例えば、粗いフリットガラスフィルターを通した濾過を用いて回収され得、そして濾液が収集され得る。従って、濾過は、水溶性ペプチドを残りのケラチン供給源(例えば、毛)から分離して、濾液中の水溶性ペプチドの収集を可能にする。濾過は好ましい分離方法であるが、他の適切な分離方法(例えば、デカンテーションまたは透析)もまた本発明の範囲内である。毛は、脱イオン水で複数回リンスされて、毛から洗浄される可溶性タンパク質の量を増加させ得る。毛は、捨てられ得るかまたは他の用途のために保存され得る。1つの実施形態における濾液は、減圧蒸留(vacuum distillation)を用いて約10倍濃縮され、粘性のシロップが残される。1つの方法では、濾液は、濃縮された濾液が1リットルあたり約120グラムのペプチドを含むまで濃縮される。1つの減圧蒸留方法は、約40℃のポット温度で約5mmHgと10mmHgとの間の圧力を用いる。いくつかの方法では、濃縮は、このプロセスのより後の段階で行われる。
濾液は、塩基を用いて中和され得る。濾液は中和されて、ペプチドの沈澱を容易にする。1つの方法では、3?4規定(normal)の水酸化アンモニウムが、濾液の濃縮から形成される約0.1mL?1mLの量の粘性シロップにおいて塩基として用いられる。別の方法では、約1mLの塩基は、100mLの未濃縮濾液に添加される。塩基は、pHが約7になるまで添加され得る。
次いで、中和された濾液は、水混和性有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、アセトンまたはテトラヒドロフラン)と混合され得る。1つの実施形態では、約6mL?10mLのメタノールが、濃縮された濾液を含む1mLの粘性シロップに添加される。別の実施形態では、約60mL?100mLのメタノールが、1mLの未濃縮の濾液に添加される。水溶性ペプチドは、有機溶媒/水混合物中ではより低い溶解度を有し、そしてすっかり沈澱する。
次いで、沈殿物は、周知の方法(例えば、遠心分離、濾過またはデカンティング)を用いて収集され得る。次いで、沈殿物は、エバポレーション(好ましくは、熱の適用を伴わない)を用いて乾燥され得る。1つの方法では、沈殿物は、室温で乾燥される。別の方法では、沈殿物は、再度熱の適用を伴わずに減圧下で乾燥される。得られた沈殿物は、乾燥されたときに既に粉末であるので、粉砕は必要とされない。いくつかの実施形態では、乾燥された沈殿物はさらに、乳鉢および乳棒または等価な粉砕器具を用いた細かい粉末への粉砕によって処理される。
1つの方法から得られる粉末は、やや白っぽい色から黄色であり、そして水に完全に可溶性である。これらのサンプルの分析は、図1のクロマトグラムに示すように、これらが、ガウス分布の低分子量ペプチドであることを示した。元素分析は、炭素含有量が38.39重量パーセントと41.59重量パーセントとの間にあり;水素含有量が5.74重量パーセントと6.16重量パーセントとの間にあり;窒素含有量が15.19重量パーセントと15.89重量パーセントとの間にあり;酸素含有量が23.67重量パーセントと26.97重量パーセントとの間にあり;そして硫黄含有量が3.80重量パーセントと4.78重量パーセントとの間にあることを示した。質量スペクトルの分析は、約850ダルトンに中心がある分子量種の分布を示す。
本発明によって提供されるペプチドは、いくつかの適用において用いられ得る。このペプチドの皮膚治癒特性を用いて、ケラチン性組織における治癒、修復および細胞増殖を一般的に促進し得る。このペプチドを用いて、損傷を受けた皮膚および皮膚の創傷(例えば、発疹(おむつかぶれを含む)、熱傷(日焼けを含む)、切断、擦過傷、穿刺、びらん(褥瘡を含む)、潰瘍(糖尿病性潰瘍を含む)および他の皮膚傷害または刺激を含む)を処置し得る。このペプチドをまた用いて、加齢した皮膚、弱った皮膚または損傷を受けた皮膚(例えば、しわのよった皮膚を含む)を処置し得る。1つの使用では、ケラチン性組織は、外部または内部のいずれかに位置する、損傷を受けた組織である。1つの使用例では、外部の創傷は、ペプチドを創傷に適用することによって処置され得る。1つの方法では、このペプチドは、皮膚への適用前に、クリーム、ローションまたはゲルと混合される。別の方法では、このペプチドは、皮膚への適用の前にケラチンヒドロゲルに添加される。ケラチンヒドロゲルは、例えば、KERATIN-BASED HYDROGEL FOR BIOMEDICAL APPLICATIONS AND METHOD OF PRODUCTIONとの発明の名称の、米国特許第5,932,522号に従って作製され得る。別の方法では、このペプチドは、適用の前に創傷包帯に添加され得る。例えば、このペプチドは、例えば、KERATIN-BASED SHEET MATERIAL FOR BIOMEDICAL APPLICATIONS AND METHOD OF PRODUCTIONとの発明の名称の、米国特許第5,948,432号に記載されるように、ケラチンシートに添加され得る。本発明の別の用途では、このペプチドは、このペプチドを経口投与することによって、GI管を裏打ちする損傷を受けたケラチン性組織に内部に適用され得る。このような損傷の例は、潰瘍、大腸炎またはクローン病からもたらされ得る。」

(5) 7頁4?32行(公表公報 段落【0020】?【0022】)
「実験結果
5-ブロモ-2-デオキシウリジン(BrdU)を用いる標準的な細胞増殖アッセイを用いた。ヒト皮膚線維芽細胞を、20%FBSを含むDMEM培養培地中で96ウェルプレート上でほぼコンフルエンシーになるまで増殖させた。次いで、細胞を、低血清培地(0.5%FBSを含むDMEM)に移した。低血清培地中での一晩のインキュベーション後、ケラチンペプチド調製物(1、10、100および1000μg/ml)またはPDGF(0.05μg/ml)を添加した。後者は、ポジティブコントロールとして役立った。ケラチンペプチドを、記載されるように、2%過酸化水素での5時間にわたる酸化、続いてメタノール沈澱によって調製した。さらに一晩のインキュベーション後、BrdUを添加し、そしてインキュベーションを約24時間続けた。次いで、プレートを固定し、HRPO結合体化抗BrdU抗体と共にインキュベートし、洗浄し、そして基質を添加した。プレートを、PE HTSプレートリーダーで370nmで読み取った。
PDGFポジティブコントロールは、コントロールの4.75倍の増加を与えた。ケラチンペプチドの添加は、図2に示すように、10μg/ml?1000μg/mlの範囲にわたって用量依存性増加をもたらした。これらの値は、4連で行ったときの平均および標準偏差を表す。1000μg/mlのペプチドは、コントロール値の149%の増加をもたらした。これらの結果は、ケラチン由来ペプチド調製物が細胞増殖を刺激することを示す。増殖因子は、有効な創傷治癒剤であり、軟組織および硬組織の修復において重要な役割を果たす。BennetおよびSchults,「Growth Factors and Wound Healing:Part II.Role in Normal and Chronic Wound Healing」,Am.J.Surg.166:74-81(1993);Steed,「Modifying the Wound Healing Response With Exogenous Growth Factors」,Clin.Plast Surg.25:397-405(1998)。従って、ケラチン由来ペプチドの適用は、創傷治癒剤として有用であると考えられる。
この書類によって含まれる本発明の多数の利点を、上記の説明に示した。しかし、この開示は、多くの局面において、単に例示であることが理解される。詳細においては、特に試薬、濃度および工程の順序に関しては、本発明の範囲を逸脱することなく、変更が行われ得る。本発明の範囲はもちろん、添付の特許請求の範囲が表す言葉において規定される。」

3 引用例発明の認定、対比、判断
(1) 引用例発明の認定
引用例には、上記2の、特に摘示事項(1)にある請求項1の記載からみて、次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されているものと認められる。
「水溶性ペプチドを含む組成物であって、該ペプチドは、以下の工程:
ヒトもしくは動物の毛、ヒトもしくは動物の爪、柔皮、蹄または羽毛を、酸化水溶液中で酸化する工程;
該酸化水溶液を濾過して水溶性部分を得る工程;
該水溶性部分を実質的に中和する工程;および
水混和性有機溶媒を該水溶性部分に添加し、その結果、沈殿物を形成する工程、
によって得られ、
ここで、該沈殿物が、水溶性ペプチドを含む、組成物。」

引用例発明に含まれる水溶性ペプチドに関し、その平均分子量が約850ダルトンであることは上記2の摘示事項(1)、(2)、及び(4)に、少なくとも約90%の前記水溶性ペプチドの分子量が、約300ダルトンと約1300ダルトンとの間にあることが摘示事項(1)に、そして、このようなペプチドのアミノ酸の平均鎖長が約10アミノ酸であることが摘示事項(2)に、それぞれ記載されている。ここで、平均分子量850ダルトンでアミノ酸の平均鎖長が約10アミノ酸であることが摘示事項(2)に記載されており、分子量とアミノ酸鎖長が比例する関係にあると解した場合、約300ダルトン及び約1300ダルトンでのアミノ酸の鎖長は、それぞれ約3.5及び約15.3となる。そうすると、アミノ酸の種類によって分子量に差があることを考慮しても、引用例発明に含まれる水溶性ペプチドにはアミノ酸長が4?39の範囲にあるものが存在するといえる。したがって、引用例発明の組成物は「4?39アミノ酸長の、」「ペプチドを含有する組成物」である。
引用例発明のペプチドは細胞増殖を刺激するものであるとともに、損傷を受けた上皮組織の治癒や処置に引用例発明が用いられることが、上記2の摘示事項(1)、(4)、及び(5)に記載されており、これらの作用は生物活性といえるから、引用例発明に含まれるこれらの性質を有する水溶性ペプチドは、本願発明の「生物活性ペプチド」に相当する。

(2) 本願発明と引用例発明との対比
そこで、本願発明と引用例発明とを対比すると、両発明は
「4?39アミノ酸長の、生物活性ペプチドを含有する組成物。」
で一致するが、以下の点で記載上相違する。
<相違点>
(相違点1)本願発明では生物活性ペプチドが「単離された」ものとされているのに対し、引用例発明では「単離された」ことに関する限定がない。
(相違点2)本願発明では、生物活性ペプチドが有すべきアミノ酸配列に関し、「該ペプチドが、SEQ ID NO:1?32の任意のアミノ酸配列または任意のそれらの断片を含有する」と限定されるのに対し、引用例発明ではアミノ酸配列に関する限定がない。

(3) 判断
ア (相違点1)について
「(相違点1)」の「単離された」について、本願の発明の詳細な説明には以下の記載がある。なお、下線は当審で付した。
「本発明に含まれる「単離された」ペプチドは、天然に見出され得る環境と同一の環境中には存在しないペプチドである。本発明に含まれる「精製された」ペプチドまたはそのフラグメントは、本質的に他のタンパク質またはポリペプチドと結合していなく、例えば、組換え発現系の精製産物(例えば、上に記載した精製産物または天然に存在する細胞および/または組織あるいは、天然のケラチンタンパク質が存在する場所における、それらから単離されるペプチドのような非組換え源からの精製産物)である。」(段落【0075】)
一方、引用例をみると、引用例発明に含まれる水溶性ペプチドは、ヒトの毛等のケラチン性材料からペプチドを酸化剤で酸化して、ジスルフィド結合の切断や酸化したものであることが記載され(上記2の摘示事項(2)及び(4))、これは天然に見出され得る環境とは異なる環境に存在するものといえる。
そうすると、本願発明で「単離された」との限定が付されたことにより、本願発明の「単離された」ペプチドと、引用例発明のペプチドとが明確に異なるものと解することはできず、本願発明と引用例発明との間で、相違点1に基づく差異はない。

イ (相違点2)について
(ア) 本願明細書の記載
「(相違点2)」に関連して、本願発明のペプチドの調製に関し、本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は当審で付した。
「【0023】
(ペプチドの調製)
特定の実施形態において、開示されたペプチドは、天然に存在する源(例えば、ヒト毛髪または羊毛)から単離され得る。特許請求の範囲に記載のペプチドを含む少量のサンプル組成物を調製する好ましい方法は、後に記載する。言うまでもなく、この調製は、より大きな商業的な量の組成物を得るために、より大きな規模で行い得る。
【0024】
ケラチン基材由来の組成物を含むペプチドを生成する一般的な方法は、不溶性かつ不活性のケラチンを構成するジスルフィド結合を実質的に切断するために、酸化剤を用いたケラチン基材の酸化を含む。使用され得る酸化剤の例としては、過酸化水素、過酢酸、過炭酸、過硫酸、二酸化塩素、過酸化ナトリウムおよび過酸化カルシウム、過ホウ酸ナトリウムおよび過ホウ酸カルシウムならびに次亜塩素酸ナトリウムおよび次亜塩素酸カルシウムが挙げられるが、これらに限定されない。酸化された毛髪は、ろ過し、ろ液を収集し、その後塩基を用いて中和した。中和したろ液由来の水溶性ペプチドを、ろ液を水混和性有機溶媒(例えば、メタノール)に混合することにより、溶液から沈殿し得る。あるいは、酸化ケラチンは、ケラチン材料のより大きな分画を得るために、希釈水性アルカリに、部分的にまたは完全に溶解し得、固体を除去するためにろ過し得、そして、ろ液は、酸性化または非溶媒(例えば、エタノールまたはメタノール)を添加することにより沈殿し得る。沈殿物は、ろ過により収集し、収集ろ液を乾燥した。」

(イ) 引用例の記載
一方、引用例をみると、引用例発明のペプチドを得る方法が上記1の摘示事項(1)中、請求項1で明らかにされているところ、引用例中ではその他に、
(a)具体的な水溶性ペプチドの由来について、「ヒトの毛」あるいは「ヒト被験者の毛」が挙げられ(請求項41、42、48、49、及び摘示事項(4))、
(b)「ヒトもしくは動物の毛、ヒトもしくは動物の爪、柔皮、蹄または羽毛を、酸化水溶液中で酸化する工程」として、「毛、爪、羽毛またはヒトもしくは動物の爪を、過酸化水素、過酢酸、ペルカーボネート、ペルスルフェート、二酸化塩素、過酸化ナトリウム、過酸化カルシウム、ペルボレートまたはヒポクロライトから選択される酸化剤を含む溶液中に入れる工程」や、毛または羽毛を、約1容量パーセント?約32容量パーセントの過酢酸または過酸化水素を含む溶液中に懸濁する工程が記載され、具体的な酸化水溶液中の酸化剤として過酢酸、過酸化水素等が挙げられ(請求項3、4、及び摘示事項(4))、
(c)「水混和性有機溶媒を該水溶性部分に添加し、その結果、沈殿物を形成する工程」について、具体的な「水混和性有機溶媒」がメタノールである場合が挙げられ(請求項6及び摘示事項(4))、
(d)請求項1で挙げられた工程に「前記沈殿物を乾燥して粉末を得る工程をさらに包含」ことが挙げられ(請求項2及び摘示事項(4))、
(e)具体的な試験に用いられたペプチドが、「ケラチンペプチドを、記載されるように、2%過酸化水素での5時間にわたる酸化、続いてメタノール沈澱によって調製した。」ものであることが記載されている(摘示事項(5))。

(ウ) 検討
上記(ア)及び(イ)の記載からみて、本願発明のペプチドの調製方法と引用例発明のペプチドを得る方法を対比すると、
(a)前者の「酸化剤を用いたケラチン基材の酸化」は、後者の「ヒトもしくは動物の毛、ヒトもしくは動物の爪、柔皮、蹄または羽毛を、酸化水溶液中で酸化する工程」に相当し、
(b)前者の「酸化された毛髪は、ろ過し、ろ液を収集」する工程は、後者の「該酸化水溶液を濾過して水溶性部分を得る工程」に相当し、
(c)前者の「その後塩基を用いて中和した」工程は、後者の「該水溶性部分を実質的に中和する工程」に相当し、そして、
(d)前者の「ろ液を水混和性有機溶媒(例えば、メタノール)に混合することにより、溶液から沈殿し得る」工程は、後者の「水混和性有機溶媒を該水溶性部分に添加し、その結果、沈殿物を形成する工程」に相当し、
また、(イ)で挙げた引用例に記載された具体的な由来や工程は、いずれも、本願発明のものを得る工程として具体的に挙げられた酸化剤等に含まれる。
そうすると、本願発明のペプチドの調製方法は引用例発明のペプチドを得る方法に相当するものであって、両者の間に差異がないから、得られたペプチドを含有する組成物自体は変わりがなく、組成物に含まれるペプチドのアミノ酸配列を確認したかどうかで組成物の同一性に影響を及ぼすものではない。
したがって、相違点2についてみた場合でも、両者に差異はないといえる。

ウ 小括
上記ア及びイで検討したように、相違点1及び相違点2はいずれも本願発明が引用例発明と異なると結論づけるものではなく、両者の間に相違はない。
したがって、本願発明は引用例に記載されたものである。

4 請求人の主張について
(1) 請求人は、平成21年6月22日付け意見書、及び審判請求書において、本願発明と引用例発明との対比及び判断に関して、以下の点を主張する。
ア 本願優先日以前の当業者は、ケラチンタンパク質とその改変体であるSEQ ID NO:1?32またはその断片が生物活性を有するペプチドであることを予測しておらず、本願発明のペプチドが生物活性を有することは驚くべきことであり、当業者が容易に想到できるものではない。そして、本願発明の知見によって初めて、当業者は、遺伝子組換えによって、生物活性を有するケラチン由来ペプチドを製造することが可能になったものであり、このような遺伝子組換えによる生物活性ペプチドの生産は、本願優先日以前の当業者には不可能であった。

イ 本願発明は、特定のアミノ酸配列を有するペプチドを含む組成物に限定されているところ、引用例に記載の発明は、上位概念で表現されており、補正後の本願発明は、下位概念で表現されたものといえるから、本願優先日当時の技術常識を参酌しても、補正後の本願発明のペプチドを導き出すことはできない。

ウ 引用例に記載された実験条件と本願明細書の記載を比較すると、その詳細は必ずしも一致しておらず、引用例の記載に基づいて本願発明のペプチドを単離できるか否かについては、「真偽不明」といわざるを得ず、また、引用例には細胞増殖を促進する効果を有するペプチドの具体的配列については、教示も示唆もされていない。

(2) しかしながら、上記請求人の主張は、以下のとおり、いずれも採用することができない。

ア 上記3(3)イで検討したように、引用例発明のペプチドを得る方法は本願発明のペプチドの調製方法に相当するものであって、両者の間に差異がないから、本願発明にはペプチドが有すべきアミノ酸配列に関する限定があるものの、そのような限定によって、本願発明のペプチドと、引用例発明のペプチドとの間に差異があると解することはできない。また、引用例発明のペプチドにおける生物活性の点についても、上記3(1)で検討したように、引用例発明のペプチドは細胞増殖を刺激するものであるとともに、損傷を受けた上皮組織の治癒や処置に引用例発明が用いられることが引用例に記載されているから、この点で差異があるわけではない。さらに、遺伝子組換えの点については、上記3(3)イ(ア)で示したように、本願発明について、ペプチドを得る方法が遺伝子組換えのみに限定されているわけではないから、当を得た主張ではない。

イ 上記(1)イの主張は却下された手続補正書における特許請求の範囲の記載をもとにして主張されたものではあるが、このような主張が本願発明に関してなされていたとしても、以下に述べるとおり、組成物中に含まれる一部のペプチドのアミノ酸配列を特定することが組成物の範囲を限定することを意味するわけではないから、引用例発明が本願発明の上位概念にあたることにはならず、請求人の主張は当を得たものではない。
すなわち、本願発明は「SEQ ID NO:1?32の任意のアミノ酸配列または任意のそれらの断片を含有する」「4?39アミノ酸長の、単離された生物活性ペプチド」を含有することを規定するが、これは、上記ペプチドを含みさえすれば、他はいかなる成分を含んでもよいことを意味するから、むしろ、本願発明のほうが広範囲の組成物を規定しているといえる。そして、引用例発明である組成物が本願発明の組成物に包含されることは上記3で検討したとおりである。

ウ 本願発明のペプチドを得る工程と引用例発明のペプチドを得る工程とを検討した結果は上記3(3)イで検討したとおりであって、両者の間に差異はみられない。また、ペプチドの配列の点については、上記アで指摘したとおりである。

5 むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
それ故、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-25 
結審通知日 2012-06-26 
審決日 2012-07-09 
出願番号 特願2003-564069(P2003-564069)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横井 宏理  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 荒木 英則
渕野 留香
発明の名称 生物活性ケラチンタンパク質  
代理人 安村 高明  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  

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