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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1266771
審判番号 不服2010-3417  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-17 
確定日 2012-11-29 
事件の表示 特願2003-389854「抗Kankモノクローナル抗体」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 9日出願公開、特開2005-145936〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年(2003年)11月19日を出願日とする出願であって、平成22年2月17日付手続補正書によって補正された特許請求の範囲請求項1には、以下のとおり記載されている。

「ヒトKankのアミノ酸配列第406番目?第580番目からなるペプチドとグルタチオンS-トランスフェラーゼとの融合タンパク質として形質転換大腸菌から得られた発現物をグルタチオンセファロースビーズで精製し、当該精製融合タンパク質を抗原としてマウスを免疫し、得られたマウス血清を、当該精製融合タンパク質をセファロースに結合して調製したセファロースカラムを用いて精製し、ハイブリドーマを作製して得た抗Kankモノクローナル抗体。」

請求項1の「得られたマウス血清を、当該精製融合タンパク質をセファロースに結合して調製したセファロースカラムを用いて精製し、」という記載について検討すると、抗原で動物を免疫して得られた動物血清を、前記抗原で精製することで得られるものはポリクローナル抗体であると解釈される(要すれば、下記引用例1の段落【0065】参照。)。また、そのような精製工程と特定のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの作製とは、無関係の事項である。
結局、請求項1に係る発明は、「ヒトKankのアミノ酸配列第406番目?第580番目からなるペプチドとグルタチオンS-トランスフェラーゼとの融合タンパク質として形質転換大腸菌から得られた発現物をグルタチオンセファロースビーズで精製し、当該精製融合タンパク質を抗原としてマウスを免疫し、ハイブリドーマを作製して得た抗Kankモノクローナル抗体。」(以下、「本願発明」という。)であると解される。

本願発明が、正確にはこのとおりのものであることは、請求人自身が平成24年9月6日付回答書において認めている。

第2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願出願日前の2002年(平成14年)12月24日に頒布された刊行物である特開2002-369696号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が記載されている。

(1)「【請求項9】 KIAA0172蛋白質を認識する抗体を用いて癌を検出する方法。」(特許請求の範囲)

(2)「本発明者らは、KIAA0172遺伝子の構造解析を行い、該遺伝子が染色体9p24にマップされるBACクローンRPCI-11-130C19上に位置づけられる遺伝子であり、該クローン上のヌクレオチド番号85563から120956に存在することを見出した。」(段落【0004】)

(3)「KIAA0172遺伝子のコードするタンパク質(ポリペプチド、本明細書においてタンパク質とポリペプチドは区別されない)に対する抗体は、通常の方法で動物をKIAA0172遺伝子発現産物で免疫することにより得られる。抗体はポリクローナル抗体もモノクローナル抗体も含む。」(段落【0036】)

(4)「図3はKIAA0172遺伝子の産物である蛋白質の構造を示す。1194アミノ酸残基からなり、特徴としては、ankyrin相同性部位を1006アミノ酸残基から1162アミノ酸残基の間に有している。」(段落【0051】)

(5)「KIAA0172遺伝子産物蛋白質に対するウサギ抗体を作製するために、同蛋白質の406?580アミノ酸残基に相当するcDNAをPCR増幅し、pGEXベクター(ファルマシア社)中のグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)遺伝子下流にフレームを合わせてクローニングし、融合蛋白質を作成した。そして、大腸菌細胞へ上記クローンを導入した後、IPTGにより誘導し、得られた蛋白質をグルタチオンセファロース(ファルマシア社)により精製した。この精製蛋白質はウサギを免疫感作するのに用いた。」(段落【0065】)

(6)「図11は、KIAA0172遺伝子の機能に関して抗KIAA0172蛋白質抗体を用いた正常組織と癌組織の免疫染色の結果を示す。図11は、腎癌とその周辺の正常腎組織の組織切片を作成し、抗KIAA0172蛋白質抗体(1次抗体)を用いて免疫染色を行った結果である。HE染色結果からそれぞれの組織を確認し、ローダミンラベルした2次抗体を用いて蛍光検出した。結果として、正常組織での蛋白質が検出されたが、癌組織では検出されなかった。したがって、同抗体を用いることにより、癌組織の生理所見及びそれに基づく診断が可能である。」(段落【0068】)

(7)「図10は、KIAA0172遺伝子の機能に関して、細胞内局在と蛋白質の存在との関係を示す。図10は、KIAA0172遺伝子産物に対する特異的ポリクローナル抗体(抗KIAA0172蛋白質抗体)を用いた免疫染色実験の結果(図10A)とウエスターン解析の結果を示した(図10B)。・・・(省略)・・・。したがって、免疫染色法並びにウエスターン解析により細胞内での同遺伝子産物である蛋白質を同定することができた。」(段落【0070】)


第3.対比・判断
(1)本願発明について
本願明細書の段落【0002】には、「ヒト染色体9p24に存在する腎臓癌関連遺伝子kank(KIAA0172)の遺伝子産物(Kank)は、1194アミノ酸、分子量約130kDaのタンパク質である。」と記載されている。また、段落【0003】には、「ヒトKankによる癌(特に腎臓癌)の診断および遺伝子治療等が期待されているが、Kankに対するモノクローナル抗体はできにくく、腎臓癌におけるKankを簡便に検出する方法はなかった。」と記載され、段落【0005】には、「本発明者らは、ヒトKankの第406?580番目のアミノ酸配列よりなるペプチド断片を抗原として用いることにより抗ヒトKank抗体の作製に成功し、本発明を完成させるに至った。」と記載されている。
よって、本願発明に係る抗Kankモノクローナル抗体は、ヒト染色体9p24に存在する腎臓癌関連遺伝子kank(KIAA0172)の遺伝子産物であるKankを、癌の診断等に利用することを目的として製造されたものであって、Kankに対するモノクローナル抗体はできにくいという技術的課題のもと、ヒトKankの第406?580番目のアミノ酸配列よりなるペプチド断片を抗原として用いることにより当該モノクローナル抗体の作製が可能となったものである。

(2)対比
本願発明のヒトKankと引用例1のKIAA0172遺伝子の産物である蛋白質とは、本願明細書の段落【0002】の記載、及び、引用例1の記載事項(2)(4)より、いずれもヒト染色体9p24に存在する1194アミノ酸からなるものであること等から、同一のものである。
よって、本願発明と、引用例1記載の事項とを対比すると、両者は、「ヒトKankのアミノ酸配列第406番目?第580番目からなるペプチドとグルタチオンS-トランスフェラーゼとの融合タンパク質として形質転換大腸菌から得られた発現物をグルタチオンセファロースで精製し、当該精製融合タンパク質を抗原として動物を免疫して得た抗Kank抗体。」という点で一致する。また、前者は、精製に用いたグルタチオンセファロースが、「ビーズ」であるのに対し、後者は、そのような記載がない点(相違点1)、及び、抗体が、前者は、マウスに対して抗原を免疫し、ハイブリドーマを作製する工程により得たモノクローナル抗体であるのに対し、後者は、ウサギに対して抗原を免疫して得たポリクローナル抗体である点(相違点2)で相違する。

(3)当審の判断
相違点1、2について
引用例1の記載事項(5)において、具体的に調製したことが記載されている抗体は、ウサギを免疫して得たポリクローナル抗体であるが、記載事項(3)においては、KIAA0172遺伝子ノコードする蛋白質(Kank)に対する抗体として、ポリクローナル抗体と同列にモノクローナル抗体が記載されている。
そして、モノクローナル抗体を調製する際に、抗原をマウスに免疫し、ハイブリドーマを作製して調製するという手法は、当業者の慣用技術であった。
してみれば、引用例1におけるモノクローナル抗体を調製することの示唆にしたがって、引用例1において、既にヒトKankの検出に有効なポリクローナル抗体を誘導することが示されている、「ヒトKankのアミノ酸配列第406番目?第580番目からなるペプチドとグルタチオンS-トランスフェラーゼとの融合タンパク質として形質転換大腸菌から得られた発現物をグルタチオンセファロースで精製して得られたタンパク質」を抗原として用い、当業者の慣用技術である上記の手法によりモノクローナル抗体を調製することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、その際に、抗原の精製に用いたグルタチオンセファロースとして、「ビーズ」という当業者の汎用の形状のものを選択することは、当業者が適宜行う事項にすぎない。
そして、本願発明が、引用例1及び当業者の慣用技術より、予測し得ない有利な効果を奏するとも認められない。

よって、本願発明は、引用例1に記載される事項及び当業者の慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)請求人の主張
審判請求人は、平成22年4月7日付審判請求書の手続補正書において、以下の主張をしている。

「本願発明の抗Kankモノクローナル抗体を作製するにあたりまして、最も特徴的な工夫点は、その抗原領域としてヒトKankのアミノ酸配列のうちでも、特に「当該アミノ酸配列の第406番目?第580番目からなるペプチド」を選択した点にあることは、先の意見書において申し述べたとおりですが、さらに、本願発明では、より優れたモノクローナル抗体、具体的には正常なヒトKankのみを特異的に認識するモノクローナル抗体を確実に再現性よく取得するために、通常のモノクローナル製造工程では行わない以下の工夫も行っております。
すなわち、マウスを免疫するための融合タンパク質抗原は、形質転換大腸菌から得られた発現物をグルタチオンセファロースビーズにより精製したものを用いておりますし、ハイブリドーマ作製に用いたマウス血清は、上記免疫に用いたと同じ精製後の融合タンパク質を結合させたセファロースカラムで精製してから用いております。特に、マウス血清を融合タンパク質結合セファロースカラムで精製するというばかりか、その際の融合タンパク質として、免疫に用いたと同じ精製後の融合タンパク質を用いたことで、確実に免疫に用いた抗原エピトープと、「同一の抗原性を有する」抗原エピトープによる精製が可能となったわけですが、この点については、引用文献1実施例3に記載のKank抗体作製手順においても記載されていません。通常のモノクローナル抗体作製においては、このような度重なる精製工程を施すことはありませんから、一般的には、特異性の高いモノクローナル抗体を取得できた場合に、その再現性は乏しい、ということがいえるかもしれませんが、
本願発明においては、このように念には念を入れた多段階の精度の高い精製工程を施したことで、極めて高い特異性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマが複数個得られております。」

しかしながら、請求人の上記の主張は、平成24年9月6日付回答書において、明らかにポリクローナル抗体に関するものであり、請求項1に係る抗Kankモノクローナル抗体を表現するためには不適切であることを請求人が認める、請求項1の「得られたマウス血清を、当該精製融合タンパク質をセファロースに結合して調製したセファロースカラムを用いて精製し、」という記載に基づく主張であるから、当該主張は採用できない。


次に、審判請求人は、以下の主張もしている。
「そして、本願発明においてはじめて提供されたヒトKankモノクローナル抗体の効果が顕著な識別性を有する格別の効果を有するものであり、社会への大きな技術的な貢献があったことについては、先の意見書で述べたとおりです。
確かに、本願発明のモノクローナル抗体作製手順におけるそれぞれの工程は、従来から知られた工程を組み合わせただけであるかもしれませんが、本願発明により得られたモノクローナル抗体の顕著な効果を参酌していただければ、本願発明は、引用文献1から容易に発明をすることができた発明ではないことをご理解していただけるものと思料します。」

しかしながら、本願請求項1に係る抗Kankモノクローナル抗体は、上記第3(3)で述べた通り、引用例1及び当業者の慣用技術を組み合わせることにより、当業者が容易になし得たものであり、顕著な効果を奏するとは認められない。仮に、本願実施例で用いられている特定のモノクローナル抗体が、請求項1に記載される工程により得られた抗Kankモノクローナル抗体の中でも、特別に顕著な効果を奏しているとしても、請求項1に係る抗Kankモノクローナル抗体全般が、予測し得ない顕著な効果を奏しているとは認められない。


また、審判請求人は、平成24年3月19日付回答書において、以下の主張をしている。
「引用文献1の[0026]?[0028]などには、腎臓癌など癌に罹患している患者では、正常なヒトKIAA0172遺伝子に多数の遺伝子変異が導入されており、コドン番号497,453,478,507には遺伝子多型が、またコドン番号506及び509ではアミノ酸変異が起きていることが観察されたことが記載されています。
そうですから、上記記載に接した当業者は、ヒトKIAA0172タンパク質中の「406?580アミノ酸残基に相当する領域」が、特に癌細胞でアミノ酸変異までも含む多数の変異が起こっている領域であることを認識しているわけですから、正常細胞由来のヒトKIAA0172タンパク質中の「406?580アミノ酸残基に相当するペプチド」を抗原として製造されたポリクローナル抗体([0065])を用いた場合に、[0068]において、「正常組織での蛋白質が検出されたが、癌組織では検出されなかった。」という記載をみたとき、癌細胞、癌組織においては、ヒトKIAA0172タンパク質中の「406?580アミノ酸領域」にあまりに多数の変異が導入されてしまうため、もはや抗体による検出は不可能となる、と解釈するはずです。
しかも、腎癌細胞においては、当該遺伝子の多数の箇所がメチル化してしまうことも記載されています([0074]など)。当該記載は、さらに、当業者に、ヒトKIAA0172抗体による腎癌細胞中のヒトKIAA0172タンパク質の検出が不可能であることを確信させることになるはずです。
そのような状況下で、本発明者らは、あえて当該「406?580アミノ酸領域に対応するペプチド」を抗原として選択し、正常なヒトKankのみを特異的に認識するモノクローナル抗体を作製するために精製に精製を重ねて感度の良いヒトKankモノクローナル抗体を取得しましたが、ヒト腎臓癌の細胞にも用いてみましたところ([0016])、驚くべきことに、ヒト腎臓癌の細胞においてもヒトKank蛋白質を強く認識し、鮮明な免疫染色の結果を得ることができました。(図7A?C)
このようなことは、本願発明において「高精製度のヒトKankモノクローナル抗体」としたことではじめて観察することができた、引用文献1の記載からは到底予測できない顕著な効果であると思料します。 」

しかしながら、引用例1に記載される、コドン番号497,453,478,507の遺伝子多型は、アミノ酸の変異を伴わないことが明記され(段落【0027】)、また、コドン番号506及び509におけるアミノ酸レベルの変異は、406?580アミノ酸残基に相当する175ペプチドのうちのわずか2アミノ酸にしかすぎない。よって、ヒトKIAA0172タンパク質中の「406?580アミノ酸残基に相当するペプチド」を抗原として製造されたポリクローナル抗体(段落【0065】)を用いた場合に、段落【0068】において、「正常組織での蛋白質が検出されたが、癌組織では検出されなかった。」という記載をみた当業者は、当該実施例で用いた正常組織においては、Kankが発現するものの、癌組織ではKankが発現していないと解釈するといえる。
また、請求人の指摘する段落【0074】には、正常組織、癌組織及び株化癌細胞における、6箇所のCpG配列のメチル化パターンの比較検討がなされているが、そもそも、シトシンのメチル化の有無により、アミノ酸の変異は生じないことは技術常識であるから、当該記載を根拠にタンパク質であるヒトKankの検出が不可能であると当業者が考えるとはいえない。
よって、引用例1より、当業者がモノクローナル抗体を調製するに際し、まずは、既にポリクローナル抗体の調製に免疫原として用いられ、その後の検出に有効なポリクローナル抗体が得られている、ヒトKankのアミノ酸配列第406番目?第580番目からなるペプチドを免疫原として用いることは自然な発想といえる。
そして、本願の図7A?Cに示される、ヒト腎臓癌の細胞においてヒトKankタンパク質を免疫染色できたという効果は、引用例1の段落【0068】の、腎癌とその周辺の正常腎組織の組織切片を試料として用いポリクローナル抗体により免疫染色した結果の、「正常組織での蛋白質が検出されたが、癌組織では検出されなかった。」と一見反するものではあるが、これは、腎臓癌において、Kankを発現するか否かは由来する組織により異なることによると推認され(平成21年9月8日付手続補足書4頁「各種腎癌組織のKank染色と臨床経過」参照)、本願実施例で用いたモノクローナル抗体が引用例1より予測し得ない顕著な効果を奏することに基づくとは認められない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

(5)小括
よって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-26 
結審通知日 2012-10-02 
審決日 2012-10-17 
出願番号 特願2003-389854(P2003-389854)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西村 亜希子  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 田中 晴絵
鈴木 恵理子
発明の名称 抗Kankモノクローナル抗体  

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