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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B25D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B25D
管理番号 1266811
審判番号 不服2012-2916  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-15 
確定日 2012-11-29 
事件の表示 特願2007- 13812「電動打撃工具」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月 7日出願公開、特開2008-178935〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成19年1月24日の特許出願であって、同23年5月12日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同23年6月24日に意見書が提出されたが、同23年12月21日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同24年2月15日に本件審判の請求がされるとともに特許請求の範囲及び明細書について手続補正書が提出され、当審の同24年6月18日付けの審尋に対して同24年8月10日に回答書が提出されたものである。

第2 平成24年2月15日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年2月15日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容の概要
平成24年2月15日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正をするとともにそれに関連して明細書の一部について補正をするものであって、特許請求の範囲の請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(1)補正前
「打撃用のビットの先端部が打撃対象物に押し付けられる反力で、そのビットが軸方向に変位したときに、モータの回転力を受けて動作するピストンがシリンダ内の空気を圧縮できるようにして、前記ビットに対し空気圧に起因する打撃力が付与されるように構成されている電動打撃工具であって、
前記ビットが前記打撃対象物に押し付けられる反力で軸方向に変位し、打撃が開始されたことを検知する打撃開始検知手段と、
前記モータの回転速度を、低速回転から高速回転まで制御可能なモータ回転速度制御手段とを有し、
前記モータ回転速度制御手段は、前記打撃開始検知手段により打撃開始が検知されたときの前記モータの回転速度を前記低速回転とし、前記打撃開始から設定時間が経過した後に前記モータの回転速度を前記高速回転にすることを特徴とする電動打撃工具。
(2)補正後
「打撃用のビットの先端部が打撃対象物に押し付けられる反力で、そのビットが軸方向に変位したときに、モータの回転力を受けて動作するピストンがシリンダ内の空気を圧縮できるようにして、前記ビットに対し空気圧に起因する打撃力が付与されるように構成されている電動打撃工具であって、
前記ビットが前記打撃対象物に押し付けられる反力で軸方向に変位し、打撃が開始されたことを検知する打撃開始検知手段と、
前記モータの回転速度を、低速回転から高速回転まで制御可能なモータ回転速度制御手段とを有し、
前記モータ回転速度制御手段は、前記打撃開始検知手段により打撃開始が検知されたときの前記モータの回転速度を所定の低速回転とし、前記打撃開始から設定時間が経過した後に前記モータの回転速度を所定の高速回転にすることを特徴とする電動打撃工具。」
2 補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、補正前の「前記低速回転」を「所定の低速回転」に限定し、同じく「前記高速回転」を「所定の高低速回転」に限定するもの、すなわち、任意の「低速回転」、「高速回転」を、「任意の一定の低速回転」、「任意の一定の高速回転」に限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とすることが明らかであるので、さらに、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。
(1)補正発明
補正発明は、本件補正により補正された明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、上記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「電動打撃工具」であると認める。
(2)刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2006-289554号公報(以下「刊行物1」という。)及び特開2001-310209号公報(以下「刊行物2」という。)
の記載内容はそれぞれ以下のとおりである。
ア 刊行物1
(ア)刊行物1記載の事項
刊行物1には「電動ハンマ」に関連して以下の事項が記載されている。
(ア)-1 段落【0013】?【0015】
「【0013】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の実施の形態である電動ハンマ(以下、ハンマという)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。本実施の形態に係るハンマ101の全体構成が図1に示される。図2および図3はハンマ301の主要部を示す平断面図である。また図4はハンマ駆動時における動吸振器による制振効果を説明する図である。本実施の形態に係るハンマ301は、概括的に見て、モータハウジング305、ギアハウジング307およびハンドグリップ311を有するハンマ本体部303によってその外郭が形成される。そしてハンマ本体部303の先端側(図中左側端部領域)には、ハンマビット取付けチャック309を介してハンマビット313が取付けられている。
【0014】
モータハウジング305内には駆動モータ321が配置されている。またギアハウジング307内には、クランク機構331、エアシリンダ機構333、打撃力伝達機構335が配置される。ギアハウジング307のうち、打撃力伝達機構335の先端側(図1において左端側)には上記ハンマビット313を保持するツールホルダ337が配置される。なおギアハウジング307内の各機構のうちクランク機構331については、駆動モータ321の出力軸323からの回転出力を直線運動に変換してハンマビット313に伝達し、当該ハンマビット313にハンマ動作を行なわせる。ツールホルダ337は、ハンマビット313につき、その長軸方向への相対的な往復動が可能に、かつその周方向への相対的な回動が規制された状態で保持される。クランク機構331は、本発明における「運動変換機構」に対応する。
【0015】
クランク機構331は、駆動モータ321の出力軸323のギア部325と噛み合い係合する変速ギア341、当該変速ギア341と一体状に回転するギアシャフト343、ギアシャフト343の回転を軸支するギアシャフト支持ベアリング345、ギアシャフト343の回転中心から所定距離偏心した位置において変速ギア341と一体状に形成されたクランクピン347を有する。クランクピン347はクランクアーム359の一端側に連接される。クランクアーム359の他端側は、連接ピン361を介してエアシリンダ機構333を構成するシリンダ365のボア内に配置された駆動子としてのピストン363に連接される。変速ギア341、クランクピン347およびクランクアーム359は、クランク室367内に配置される。クランク室367は、本発明における「運動変換機構室」に対応する。クランク室367内は、特に図示しないシール構造により概ね外部と非連通状態とされるとともに、その実効容積は、クランクアーム359を介してシリンダ365内を移動されるピストン363の移動動作に応じて周期的に増減するように構成されている。ピストン363は、シリンダ365内を摺動することで、空気バネ室365aの空気バネの作用を介してストライカ334を直線状に駆動し、更に中間子としてのインパクトボルト336を介してハンマビット313に対する衝撃荷重を発生させる。ストライカ334およびインパクトボルト336によって打撃力伝達機構335が構成されている。ストライカ334は、本発明における「打撃子」に対応する。」
(ア)-2 段落【0018】?【0019】
「【0018】
ところで、ハンマビット313を駆動する駆動モータ321の負荷電流は、ハンマ作業に伴う負荷(ハンマ作業時に被加工材側からハンマビット313に入力する反力としての外力)がハンマビット313に作用する負荷駆動時には増大し、負荷がハンマビット313に作用しない無負荷駆動時には減少する。この現象に着目し、本実施の形態では、駆動モータ321の駆動を制御するべく設けられているモータ制御装置322(モータ制御回路、図1参照)において、駆動モータ321の負荷電流の変化を検出するとともに、その検出結果に基づいて駆動モータ321の回転数を制御するように構成する。すなわち、ハンマ301の駆動状態において、駆動モータ321の負荷電流が、あるしきい値よりも増加したときには、無負荷駆動状態から負荷駆動状態に切り替えられたとして、駆動モータ321を所定の高い回転数で駆動するべく制御し、他方、負荷電流がしきい値よりも減少したときには、負荷駆動状態から無負荷駆動状態に切り替えられたとして、駆動モータ321を負荷駆動時よりも低い回転数で制御する構成としている。
【0019】
次に上記のように構成された本実施の形態に係るハンマ301の作用および使用方法について説明する。駆動モータ321が通電駆動されると、出力軸323、変速ギア341、クランクピン347、クランクアーム359、連接ピン361を介してピストン363がシリンダ365のボア内で直線運動を行う。このとき、ハンマビット313が被加工材に押圧された負荷駆動状態であれば、エアシリンダ機構331および打撃力伝達機構335を介してハンマビット313が長軸方向に直線駆動される。すなわち、ピストン363がハンマビット313側へ摺動動作すると、それに伴いピストン363とストライカ334との間に形成される空気バネ室365aの空気バネ作用を介してストライカ334がシリンダ365内を同方向へ直線運動してインパクトボルト336に衝突することで、その運動エネルギ(打撃力)をハンマビット313へと伝達し、これによってハンマビット313がツールホルダ337内を摺動動作して被加工材に対するハンマ作業を遂行する。」
(ア)-3 段落【0023】
「【0023】
上記のように構成されるハンマ301において、本実施の形態では、ハンマ作業に伴う負荷がハンマビット313に作用しない無負荷駆動時には、駆動モータ321の回転数を負荷駆動時の回転数よりも遅くする(下げる)ことによって、動吸振器371が発生する振動も減少する構成としている。この無負荷駆動時にはハンマ301の空打ち防止機構(公知技術につき説明を省略する)の働きにより、ストライカ334およびハンマビット313が駆動されない。・・・(以下略)・・・。」
(イ)刊行物1記載の発明
刊行物1記載の事項を技術常識を考慮しながら補正発明に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認めることができる。
「打撃用のハンマビット313の先端部が打撃対象物である被加工材に押し付けられる反力で、そのハンマビット313が軸方向に変位したときに、駆動モータ321の回転力を受けて動作するピストン363がシリンダ365内の空気を圧縮できるようにして、前記ハンマビット313に対し空気圧に起因する打撃力が付与されるように構成されている電動ハンマであって、
前記ハンマビット313が前記被加工材に押し付けられる反力で軸方向に変位し、駆動モータ321の負荷電流の変化を検出する手段と、
前記モータ321の回転速度を、低速回転から高速回転まで制御可能なモータ制御装置322とを有し、
前記モータ制御装置322は、ハンマ301の駆動状態において、駆動モータ321の負荷電流が、あるしきい値よりも増加したときには、無負荷駆動状態から負荷駆動状態に切り替えられたとして、駆動モータ321を所定の高い回転数で駆動するべく制御し、他方、負荷電流がしきい値よりも減少したときには、負荷駆動状態から無負荷駆動状態に切り替えられたとして、駆動モータ321を負荷駆動時よりも低い回転数で制御する電動ハンマ。」
イ 刊行物2
(ア)刊行物2には「ハンマードリル」に関連して以下の事項が記載されている。
(ア)-1 段落【0016】?【0021】
「【0016】図1のブロック線図は、本発明による制御方法の基本的な流れを示している。本発明を適用する手持式工作機械としてのハンマードリルMには、電源ケーブルN(図3)を介して230Vの公称電圧が供給される。手動スイッチ11を有するハンマードリルMのグリップには、本発明による制御装置1が内蔵されている。制御装置1は、始動直後に電源電圧を230Vから例えば170Vまで低下させるものである。
【0017】図1に示すように、ハンマードリルMのモータ(図3)は、手動スイッチ11を投入してハンマードリルMを始動した後、先ず、公称電圧よりも低レベルである170Vの電圧で駆動される。これは、低消費電力の第1駆動条件I(図2)に対応するものである。供給電圧は、電子クロック回路により制御可能な出力半導体スイッチ、例えばサイリスタによって低下させるのが有利である。駆動電圧を170Vまで低下させた第1駆動条件Iでは、ハンマードリルMの回転速度及び打撃周波数が低下し、ハンマードリルMはより低い単位打撃エネルギをもって作動する。
【0018】例えば2?20秒の範囲内に設定可能な所定時間、好適には5秒間が経過すると、制御装置1はハンマードリルの駆動電圧を230Vの公称電圧に切り替える。すなわち、始動時には公称電圧から170Vまで低下させる制御が行われるが、この制御を中止し、ハンマードリルMの駆動条件を高消費電力の第2駆動条件II(図2)に切り替えるものである。その結果、ハンマードリルMは、より高い単位打撃エネルギ、回転速度及び/又は打撃周波数をもって作動する。
【0019】図2は、上述の工程を経時的に示すグラフである。ハンマードリルMの駆動電圧Vは、手動スイッチ11の作動により自動的に選択される第1駆動条件Iにおいて、先ず170Vの低レベルまで低下する。その後、例えば5秒の所定時間zが経過すると駆動電圧の低下状態が解消され、ハンマードリルが230Vの公称電圧で駆動される第2駆動条件IIに切り替えられる。すなわち、図2に示すように、所定時間の5秒が経過するまでは電圧が第1駆動条件Iの低レベルに維持され、5秒を超えると第2駆動条件IIの公称電圧(230V)にステップ状に切り替えられる。その代わりに、例えば2?4秒の移行時間の間に第1駆動条件から第2駆動条件まで連続的に変化させる連続的な切り替えも可能である。・・・
【0020】図3に示したハンマードリルMは、ドリル4を並進駆動する打撃機構(図示せず)を具える。この打撃機構は、適宜の安全クラッチ5を介してモータ2により駆動される。図示のとおり、本発明による制御装置1はグリップ内に組み込むことができる。」
(ア)-2 段落【0021】
「【0021】本発明において、市販のハンマードリルの駆動条件を変更することにより、いかなる場合でも各種の被加工材料に適合した加工が行われる。すなわち、ハンマードリルの始動後に自動的に選択される低消費電力の第1駆動条件Iでは、一方において、低強度の中空ブロック材料に十分な深さのセット孔が形成され、このセット孔によってドリル4を良好に案内することが可能となるのみならず、材料の損傷が回避され、特に中間ウェブの損傷が防止される。他方において、堅牢な中実材料では、先ずセット孔が加工されるため、ドリル4の滑脱が確実に防止される。さらに、例えば所定時間の5秒が経過した後に第1駆動条件Iから第2駆動条件IIに切り替わることにより、所要の固定孔を迅速に加工することが可能となる。」
(イ)刊行物2には、(ア)-1の段落【0017】にその旨示されているように、手動スイッチ11を投入してハンマードリルMを始動した後、先ず、公称電圧よりも低レベルである170Vの電圧でハンマードリルMのモータを駆動することが開示されており、上記の記載のみによると、手動スイッチ11を投入してハンマードリルMを空転ないし空打ちする場合も含んでいるかのようにみえる。
しかしながら、(ア)-2の段落【0021】にその旨示されているように、刊行物2記載の事項は、ハンマードリルの始動直後におけるドリル4の滑脱等を防止することを目的としていることからみて、ドリル4先端は、手動スイッチ11の投入前に被加工材に接触しており、スイッチ投入と同時に被加工材に対する加工が行われることを前提としているとみるのが相当である。
上記のことを踏まえて刊行物2記載の事項を整理すると、刊行物2には以下の事項が記載されていると認めることができる。
(ウ)刊行物2記載の事項
「ドリル4を並進駆動する打撃機構を具えたハンマードリルMにおいて、ドリル加工開始直後における加工箇所からのドリルの滑脱を防止するために、ドリル加工開始後の所定時間内においては、ハンマードリルMの回転速度及び打撃周波数を低くし、前記所定時間経過後は、ハンマードリルMの回転速度及び打撃周波数を高くすること。」
(3)対比
補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると以下のとおりである。
刊行物1記載の発明の「ハンマビット313」及び「駆動モータ32」は、それぞれ補正発明の「ビット」及び「モータ」に相当することが明らかである。
また、刊行物1記載の発明の「駆動モータ321の負荷電流の変化を検出する手段」は、ハンマ301の駆動状態において、駆動モータ321の負荷電流が、あるしきい値よりも増加したときには、無負荷駆動状態から負荷駆動状態に切り替えられた、すなわち、ハンマ301による打撃が開始されたとして判断する「モータ制御装置322」と相俟って、補正発明の「打撃が開始されたことを検知する打撃開始検知手段」に相当する。
また、刊行物1記載の発明において「モータ制御装置322は、ハンマ301の駆動状態において、駆動モータ321の負荷電流が、あるしきい値よりも増加したときには、無負荷駆動状態から負荷駆動状態に切り替えられたとして、駆動モータ321を所定の高い回転数で駆動するべく制御し、他方、負荷電流がしきい値よりも減少したときには、負荷駆動状態から無負荷駆動状態に切り替えられたとして、駆動モータ321を負荷駆動時よりも低い回転数で制御する」ことは、モータ回転速度制御手段が、打撃開始検知手段による打撃開始の検知に応じてモータの回転速度を制御するという限りで、補正発明において「モータ回転速度制御手段は、前記打撃開始検知手段により打撃開始が検知されたときの前記モータの回転速度を所定の低速回転とし、前記打撃開始から設定時間が経過した後に前記モータの回転速度を所定の高速回転にする」ことと共通している。
さらに、刊行物1記載の発明は「電動ハンマ」として表現されているが、「電動打撃工具」としても表現できるものである。
したがって、補正発明と刊行物1記載の発明とは、以下の点で一致しているということができる。
[一致点]
「打撃用のビットの先端部が打撃対象物に押し付けられる反力で、そのビットが軸方向に変位したときに、モータの回転力を受けて動作するピストンがシリンダ内の空気を圧縮できるようにして、前記ビットに対し空気圧に起因する打撃力が付与されるように構成されている電動打撃工具であって、
前記ビットが前記打撃対象物に押し付けられる反力で軸方向に変位し、打撃が開始されたことを検知する打撃開始検知手段と、
前記モータの回転速度を、低速回転から高速回転まで制御可能なモータ回転速度制御手段とを有し、
前記モータ回転速度制御手段は、前記打撃開始検知手段による打撃開始の検知に応じて前記モータの回転速度を制御する電動打撃工具。」
そして、補正発明と刊行物1記載の発明とは、以下の点で相違している。
[相違点]
モータ回転速度制御手段が、補正発明では、「打撃開始検知手段により打撃開始が検知されたときのモータの回転速度を所定の低速回転とし、前記打撃開始から設定時間が経過した後に前記モータの回転速度を所定の高速回転にする」のに対して、刊行物1記載の発明では、そのようになっていない点。
(4)相違点の検討
上記(2)のイ(ウ)で認定したように、刊行物2には以下の事項が記載されている。
「ドリル4を並進駆動する打撃機構を具えたハンマードリルMにおいて、ドリル加工開始直後における加工箇所からのドリルの滑脱を防止するために、ドリル加工開始後の所定時間内においては、ハンマードリルMの回転速度及び打撃周波数を低くし、前記所定時間経過後は、ハンマードリルMの回転速度及び打撃周波数を高くすること。」
そして、刊行物2記載の事項及び刊行物1記載の発明は、いずれも電動打撃工具における制御技術に関するものであること、また、電動打撃工具において加工開始、すなわち、打撃開始直後における加工箇所からの工具の滑脱を防止するすることは、ハンマードリルに限らない共通の技術的課題であることを考慮すると、刊行物2記載の事項を刊行物1記載の発明に適用して、打撃開始検知手段により打撃開始が検知されたときのモータの回転速度を低速回転とし、前記打撃開始から設定時間が経過した後に前記モータの回転速度を高速回転するように構成することに格別の困難性はない。
補正発明と上記適用によって構成されるものとを比較すると、補正発明では、モータの低速回転を所定の低速回転とし、高速回転を所定の高速回転としている点で、すなわち、回転数を任意の一定の回転数としている点でなお相違しているが、モータの回転速度を所定の回転速度に制御することは、例えば、特開昭58-123386号公報の第1ページ左欄第16行?右欄第6行及び第1図、特開昭61-49677号公報の第1ページ右欄第2?13行及び第1図に示されているように従来周知であり、モータの回転速度を所定の低速回転ないし所定の高速回転とすることは、上記適用に当たって適宜なし得る単なる設計的事項にすぎない。
また、補正発明によってもたらされる効果も、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項及び上記従来周知の事項から当業者であれば予測できる程度のものであって格別のものではない。
したがって、補正発明は、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 むすび
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件出願の発明について
1 本件出願の発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項に係る発明は、願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本件出願の発明」という。)は、上記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの「電動打撃工具」である。
2 刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載内容は、上記第2の2(2)に示したとおりである。
3 対比・検討
本件出願の発明は、上記第2の2で検討した補正発明の「所定の低速回転」及び「所定の高速回転」について、それぞれ「所定の」という限定事項を削除したものである。
そうすると、本件出願の発明を構成する事項の全てを含み、さらに他の事項を付加する補正発明が上記第2の2(4)末尾で示したとおり、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件出願の発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 むすび
したがって、本件出願の発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-27 
結審通知日 2012-10-02 
審決日 2012-10-15 
出願番号 特願2007-13812(P2007-13812)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B25D)
P 1 8・ 575- Z (B25D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金本 誠夫  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 長屋 陽二郎
刈間 宏信
発明の名称 電動打撃工具  
代理人 特許業務法人岡田国際特許事務所  

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