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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01F
管理番号 1266925
審判番号 不服2011-2001  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-27 
確定日 2012-11-30 
事件の表示 特願2001-563865「プラスチックからなるコリオリ流量計及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 9月 7日国際公開、WO01/65213、平成15年 8月26日国内公表、特表2003-525437〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・原査定の拒絶の理由
本願は、平成13年1月11日を出願日(パリ条約による優先権主張、2000年3月2日、米国)とする国際出願であって、明細書及び図面について、平成21年4月15日付け、及び平成22年2月9日付けで補正がなされたところ、同年9月22日付け(送達:同年同月27日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年1月27日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に、明細書の特許請求の範囲について補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。
その後、当審より、平成23年8月17日付けで審尋をしたところ、同年11月7日付け回答書の提出があった。

そして、原査定の拒絶の理由は、(1)本願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である米国特許第5814739号明細書(発明の名称:「CORIOLIS FLOWMETER HAVING CORRUGATED FLOW TUBE」、発明者:Craig Brainerd Van Cleve、発行日:1998年(平成10年)9月29日。以下、「引用刊行物」という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許を受けることができない、また、(2)「流管スタブ」の意味が不明確であるから、特許請求の範囲が記載要件を満たしていないというものである。


2.補正の適否・本願発明
(1)補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
(本件補正前)
「流量計の入口(106)から物質の流れを受け入れ該物質の流れを流量計の出口(107)に通して流すようにした流管手段(101,102,201)と、
該流管手段を振動させるための駆動源(D)と、
物質の流れを有する上記流管手段のコリオリ撓みを表す出力信号を生ずるための上記流管手段に連結されたピックオフ手段(LPO,RPO)と、
上記物質の流れに関する出力情報を生ずるように上記ピックオフによって生ずる上記出力信号に応答する手段(121)と、
からなり、
上記流管手段がその全長にわたって延びるプラスチックの濡れ物質流路を形成するようにプラスチックで形成され、
上記濡れ物質流路が各々上記流管手段の端部に連結された第1の端部を有するプラスチックの流管スタブ(217A,217B)をさらに含み、
第1の上記プラスチックの流管スタブ(217A)が上記物質の流れを受け入れるようにした第2の端部を有し、
第2の上記プラスチックの流管スタブ(217B)が上記物質の流れを放出するようにした第2の端部を有する
ようにしたコリオリ流量計。」

(本件補正後)
「流量計の入口(106)から物質の流れを受け入れ該物質の流れを流量計の出口(107)に通して流すようにした流管手段(101,102,201)と、
該流管手段を振動させるための駆動源(D)と、
物質の流れを有する上記流管手段のコリオリ撓みを表す出力信号を生ずるための上記流管手段に連結されたピックオフ手段(LPO,RPO)と、
上記物質の流れに関する出力情報を生ずるように上記ピックオフによって生ずる上記出力信号に応答する手段(121)と、
からなり、
上記流管手段がその全長にわたって延びるプラスチックの濡れ物質流路を形成するようにプラスチックで形成され、
上記濡れ物質流路が各々上記流管手段の端部に連結された第1のプラスチックの流管スタブ(217A)及び第2のプラスチックの流管スタブ(217B)を含み、
第1の上記プラスチックの流管スタブ(217A)が上記物質の流れを受け入れるようにした第1の端部を有し、
第2の上記プラスチックの流管スタブ(217B)が上記物質の流れを放出するようにした第2の端部を有する
ようにしたコリオリ流量計。」(下線は、補正箇所。)

この補正は、補正前の「各々上記流管手段の端部に連結された第1の端部を有するプラスチックの流管スタブ(217A,217B)をさらに含み」との記載を「各々上記流管手段の端部に連結された第1のプラスチックの流管スタブ(217A)及び第2のプラスチックの流管スタブ(217B)を含み」と補正するとともに、補正前の「第1の上記プラスチックの流管スタブ(217A)が上記物質の流れを受け入れるようにした第2の端部を有し」及び「第2の上記プラスチックの流管スタブ(217B)が上記物質の流れを放出するようにした第2の端部を有する」との記載を「第1の上記プラスチックの流管スタブ(217A)が上記物質の流れを受け入れるようにした第1の端部を有し」及び「第2の上記プラスチックの流管スタブ(217B)が上記物質の流れを放出するようにした第2の端部を有する」と補正しようとするものであって、本件補正の前後では、流管手段の両端部に第1及び第2の流管スタブ(217A及び217B)がそれぞれ連結される点では変わらないものであるが、「第1の端部」及び「第2の端部」の意味合いが異なるものとなっている。
すなわち、本件補正前には、「第1の端部」は、第1及び第2の流管スタブにおける、流管手段に連結される側の端部を指し、「第2の端部」は、第1及び第2の流管スタブにおける、前記「第1の端部」の反対側の端部であるのに対し、本件補正後には、第1の端部は、第1の流管スタブにおける、物質の流れを受け入れる端部であり、第2の端部は第2の流管スタブにおける、物質の流れを放出する端部である。

この点について検討すると、補正の前後において第1及び第2の端部の意味合いが変更されてはいるものの、そもそも、願書に最初に添付した明細書又は図面には、第1及び第2の端部という文言は記載されておらず、その意味合いが、本件補正前のものであるとしても、本件補正後のものであるとしても、いずれにしても、図面から読み取れる程度のものであると認めることができるから、本件補正が明細書又は図面に記載された事項の範囲を超えて補正をしようとするものであるとまではいえない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の(以下、単に「改正前」という。)特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。

そして、本件補正は、「流管スタブ」について、原審の査定の理由の一つであった不明確な記載を修正しようとするものであるから、改正前特許法第17条の2第4項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

よって、本件補正は、改正前特許法第17条の2第3項及び同条第4項の規定に適合し、適法な補正であると認められる。

(2)本願発明
以上のとおり本件補正は認められるので、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、以下のとおりである。
「流量計の入口(106)から物質の流れを受け入れ該物質の流れを流量計の出口(107)に通して流すようにした流管手段(101,102,201)と、
該流管手段を振動させるための駆動源(D)と、
物質の流れを有する上記流管手段のコリオリ撓みを表す出力信号を生ずるための上記流管手段に連結されたピックオフ手段(LPO,RPO)と、
上記物質の流れに関する出力情報を生ずるように上記ピックオフによって生ずる上記出力信号に応答する手段(121)と、
からなり、
上記流管手段がその全長にわたって延びるプラスチックの濡れ物質流路を形成するようにプラスチックで形成され、
上記濡れ物質流路が各々上記流管手段の端部に連結された第1のプラスチックの流管スタブ(217A)及び第2のプラスチックの流管スタブ(217B)を含み、
第1の上記プラスチックの流管スタブ(217A)が上記物質の流れを受け入れるようにした第1の端部を有し、
第2の上記プラスチックの流管スタブ(217B)が上記物質の流れを放出するようにした第2の端部を有する
ようにしたコリオリ流量計。」(以下、「本願発明」という。)

3.引用例記載の事項・引用発明
(1)引用例の記載事項
これに対して、原審の拒絶理由で主たる引用例として引用された引用刊行物である米国特許第5814739号明細書は、「CORIOLIS FLOWMETER HAVING CORRUGATED FLOW TUBE」(波形の流管を有するコリオリ流量計)を発明の名称とする米国特許明細書であり、図面とともに以下の事項が記載されている。
(以下において、訳文は当該米国特許明細書に係る出願を基礎とした国際出願の日本語公表公報である特表2002-501618号公報による。)

ア 「FIELD OF THE INVENTION
This invention relates to Coriolis flowmeters, and in particular, to a Coriolis flowmeter having a corrugated flow tube.」(第1欄第3?6行)
(技術分野
本発明はコリオリ流量計に関し、特に波形の流管を有するコリオリ流量計に関する。)

イ 「DETAILED DESCRIPTION
FIG. 1 discloses a Coriolis flowmeter 100 having a corrugated flow tube 110 surrounded by a cylindrical balance bar 104, and a case 103 which surrounds both balance bar 104 and flow tube 110. The ends of flow tube 110 extend through case ends 108 and are affixed to flanges 109 which, in turn, may be affixed to a flow system (not shown). The flow tube has an inlet 114 and an outlet 116. Inlet 114 is coupled by stub 111 to end portion 112 of flow tube 110 while outlet 116 by stub 111 is coupled to end portion 117 of flow tube 110. End portion 112 is rigidly fixed to both case end 108 and the end portion 113 of balance bar 104. End portion 117 is rigidly connected to the right case end 108 as well as to the right end 113 of cylindrical balance bar 104.
Magnets M associated with sensors S1, S2, and driver D are affixed to the flow tube 110. Sensor elements S1, S2, and driver element D are connected by conductors 124,125, and 126 respectively, to meter electronics 102 which contains the well known circuitry required to apply drive signals to driver D over path 125, as well as to receive sensor signals over paths 124 and 126 indicative of the Coriolis vibrations of flow tube 110. Meter electronics 102 receives the sensor signals and, in a well known manner, derives information pertaining to material flow through flow tube 110. This information can include material density, volumetric flow rates, as well as mass flow rates and is applied to path 123.」(第6欄第15?40行)
(詳細な説明
図1は円筒形のバランスバー104と、バランスバー104と流管110との両方を取り囲むケース103とによって取り囲まれる波形流管110を有する流量計100を示している。流管110の端部はケース端部108を通り抜けてフランジ109に取り付けられて(=affixed)おり、フランジ109は配管系(図示せず)に取り付けられ(=affixed)よう。流管は入口114および出口116を有する。入口114はスタブ111により流管110の端部112に連結され(=coupled)ており、出口116はスタブ111により流管110の端部117に連結され(=coupled)ている。端部112はケース端部108とバランスバー104の端部113との両方に固着されている。端部117は右側のケース端部108と円筒形バランスバー104の右側端部113との両方に連結されている。
センサーS1,S2および駆動部Dと組合せたマグネットMが流管110に取り付けられている。センサー素子S1,S2および駆動部Dは、結線125を介して駆動部Dに駆動信号を供給するとともに結線124および126を介して流管110のコリオリ振動を示すセンサーの信号を受けるのに必要となる周知の回路を含む流量計電子回路102に、それぞれ導線124、125および126によって接続されている。流量計電子回路102はセンサーの信号を受け、周知のようにして流管110を通る物質の流れに関する情報を引き出す。この情報は物質の密度、体積流量、質量流量を含み、結線123に供給される。)

ウ 「What is claimed is:
1. A Coriolis flowmeter having flow tube means, drive means for vibrating said flow tube means, and sensor means coupled to said flow tube means for detecting Coriolis deflections of said flow tube means resulting from material flow through said vibrating flow tube means, said sensor means being responsive to said Coriolis deflections for generating output information regarding said material flow;
said Coriolis flowmeter further comprising:
said flow tube means having a static portion as well as having a dynamic portion vibrated by said drive means;
mounting means affixed to said static portion of said flow tube means for maintaining said static portion substantially non movable during vibrations of said dynamic portion of said flow tube means;
corrugations on said dynamic portion of said flow tube means for altering vibrational characteristics of at least one vibrational mode of said flow tube means;
said corrugations being at one or more flow tube segments having substantial bending moment in a vibrational mode shape for which said vibrational characteristics are altered;
said corrugations being simultaneously at flow tube segments of low bending moment in a vibrational mode shape for which said vibrational characteristics are not to be altered.」(第10欄第13?39行)
(【特許請求の範囲】
1.流管手段と、該流管手段(110)を振動させるための駆動手段(D)と、振動する上記流管手段を通る物質の流れから生ずる流管のコリオリ屈撓を検出するように上記流管手段に連結され上記物質の流れに関する出力情報を生ぜしめるようにコリオリ流管の屈撓に応答するセンサー手段(S1,S2)とを有するコリオリ流量計において、上記流管手段が静的部分と、上記駆動手段によって振動する動的部分とを有し、さらに
上記流管手段の動的部分が振動する際に上記静的部分を実質的に動かないように保持するための上記流管手段の静的部分に取り付けられた装着手段(113)と、
上記流管手段の少なくとも1つの振動モードの振動特性を変えるための上記流管手段の上記動的部分における波形形状(620,621)と、
を含み、
上記波形形状は上記振動特性が変えられる振動モードの形状における実質的な曲げモーメントを有する少なくとも1つまたは2つ以上の流管部分(606)にあり、
上記波形形状は同時に上記振動特性が変えられない振動モードの形状における小さい曲げモーメントを有する流管部分(604,605)にある
ことを特徴とするコリオリ流量計。)

(2)記載事項の検討
上記の記載事項について検討する。

(a)上記イにおける「図1は円筒形のバランスバー104と、バランスバー104と流管110との両方を取り囲むケース103とによって取り囲まれる波形流管110を有する流量計100を示している。」、「流管は入口114および出口116を有する」、及び「流管110を通る物質の流れ」との記載より、流量計100は流管110を備え、流管110には物質が流れることがわかる。
また、図1の記載より、流管の有する入口114及び出口116は、流量計100の入口及び出口でもあると解される。
してみると、引用刊行物には「流量計100の入口114から物質の流れを受け入れ該物質の流れを流量計の出口116に通して流すようにした流管110」が記載されている。

(b)上記イにおける「センサーS1,S2および駆動部Dと組合せたマグネットMが流管110に取り付けられている。」との記載及び上記ウにおける「該流管手段(110)を振動させるための駆動手段(D)」との記載より、引用刊行物には「流管110を振動させるための駆動部D」が記載されている。

(c)上記イにおける「センサーS1,S2および駆動部Dと組合せたマグネットMが流管110に取り付けられている。センサー素子S1,S2および駆動部Dは・・・流管110のコリオリ振動を示すセンサーの信号を受ける・・・流量計電子回路102に・・・接続されている。」との記載より、センサーS1,S2の信号は、流管110のコリオリ振動を示す信号であるから、引用刊行物には「物質の流れを有する上記流管110のコリオリ振動を示す信号を生ずるためのセンサーS1,S2と、該センサーS1,S2と組み合わせられ上記流管110に取り付けられたマグネットM」が記載されている。

(d)上記イにおける「流量計電子回路102はセンサーの信号を受け、周知のようにして流管110を通る物質の流れに関する情報を引き出す。」との記載より、引用刊行物には「上記センサーS1,S2の信号を受けて上記物質の流れに関する情報を引き出す流量計電子回路102」が記載されている。

(e)上記イにおける「入口114はスタブ111により流管110の端部112に連結されており、出口116はスタブ111により流管110の端部117に連結されている。」との記載より、引用刊行物には「上記流管110の端部112と上記入口114とを連結するスタブ111及び上記流管110の端部117と上記出口116とを連結するスタブ111を有する」が記載されている。

(3)引用発明
上記の検討事項(a)?(e)及び図1の記載より、引用刊行物には次の発明が記載されていると認められる。

「流量計100の入口114から物質の流れを受け入れ該物質の流れを流量計の出口116に通して流すようにした流管110と、
該流管110を振動させるための駆動部Dと、
物質の流れを有する上記流管110のコリオリ振動を示す信号を生ずるためのセンサーS1,S2と、該センサーS1,S2と組み合わせられ上記流管110に取り付けられたマグネットMと、
上記センサーS1,S2の信号を受けて上記物質の流れに関する情報を引き出す流量計電子回路102と、
からなり、
上記流管110の端部112と上記入口114とを連結するスタブ111及び上記流管110の端部117と上記出口116とを連結するスタブ111を有する
コリオリ流量計。」(以下、「引用発明」という。)


4.対比
引用発明と本願発明とを対比する。

(1)引用発明における「流量計100の入口114」、「流量計の出口116」、及び「流管110」は、本願発明における「流量計の入口(106)」、「流量計の出口(107)」、及び「流管手段(101,102,201)」に相当するから、引用発明における「流量計100の入口114から物質の流れを受け入れ該物質の流れを流量計の出口116に通して流すようにした流管110」は、本願発明における「流量計の入口(106)から物質の流れを受け入れ該物質の流れを流量計の出口(107)に通して流すようにした流管手段(101,102,201)」に相当する。

(2)引用発明における「該流管110を振動させるための駆動部D」は、本願発明における「該流管手段を振動させるための駆動源(D)」に相当する。

(3)引用発明における「物質の流れを有する上記流管110のコリオリ振動を示す信号を生ずるためのセンサーS1,S2と、該センサーS1,S2と組み合わせられ上記流管110に取り付けられたマグネットM」と、本願発明における「物質の流れを有する上記流管手段のコリオリ撓みを表す出力信号を生ずるための上記流管手段に連結されたピックオフ手段(LPO,RPO)」とを対比すると、引用発明における「物質の流れを有する上記流管110のコリオリ振動を示す信号を生ずるためのセンサーS1,S2」は、「物質の流れを有する上記流管手段のコリオリ撓みを表す出力信号を生ずるためのピックオフ手段」に相当する。

(4)引用発明における「上記センサーS1,S2の信号を受けて上記物質の流れに関する情報を引き出す流量計電子回路102」は、本願発明における「上記物質の流れに関する出力情報を生ずるように上記ピックオフによって生ずる上記出力信号に応答する手段(121)」に相当する。

(5)本願発明において「上記流管手段がその全長にわたって延びるプラスチックの濡れ物質流路を形成するようにプラスチックで形成され」る点について、引用発明を対比・検討する。
引用発明において、「流管110」が流路を形成していることは明らかであり、また、該流路に流れる物質を液体とすることも通常の使用形態であると認められるから、引用発明においては、「上記流管110が濡れ物質流路を形成するようにされ」ているといえ、引用発明と本願発明とは、「上記流管手段が濡れ物質流路を形成するようにされ」ている点で共通する。

(6)引用発明における「上記流管110の端部112と上記入口114とを連結するスタブ111及び上記流管110の端部117と上記出口116とを連結するスタブ111を有する」ことと、本願発明における「上記濡れ物質流路が各々上記流管手段の端部に連結された第1のプラスチックの流管スタブ(217A)及び第2のプラスチックの流管スタブ(217B)を含み、第1の上記プラスチックの流管スタブ(217A)が上記物質の流れを受け入れるようにした第1の端部を有し、第2の上記プラスチックの流管スタブ(217B)が上記物質の流れを放出するようにした第2の端部を有する」こととを対比する。
まず、引用発明における「上記流管110の端部112と上記入口114とを連結するスタブ111」及び「上記流管110の端部117と上記出口116とを連結するスタブ111」は、本願発明の「第1のプラスチックの流管スタブ(217A)」及び「第2のプラスチックの流管スタブ(217B)」に、それぞれ対応している。
また、引用発明における「スタブ111」は、流管110とともに、上記(5)で検討した「流路」を形成し、かつ流管110の端部に連結されていることは明らかであるから、引用発明においても、「上記濡れ物質流路が流管110の端部に連結されたスタブ111,111を含」むといえる。
そして、引用発明において、「上記流管110の端部112と上記入口114とを連結するスタブ111」が、物質の流れを受け入れる端部を有し、「上記流管110の端部117と上記出口116とを連結するスタブ111」が、物質の流れを放出する端部を有することは、明らかである。
したがって、両者は、「上記濡れ物質流路が各々上記流管手段の端部に連結された第1の流管スタブ及び第2の流管スタブを含み、第1の流管スタブが上記物質の流れを受け入れるようにした第1の端部を有し、第2の流管スタブが上記物質の流れを放出するようにした第2の端部を有する」点で共通する。

してみると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「流量計の入口から物質の流れを受け入れ該物質の流れを流量計の出口に通して流すようにした流管手段と、
該流管手段を振動させるための駆動源と、
物質の流れを有する上記流管手段のコリオリ撓みを表す出力信号を生ずるためのピックオフ手段と、
上記物質の流れに関する出力情報を生ずるように上記ピックオフによって生ずる上記出力信号に応答する手段と、
からなり、
上記流管手段が濡れ物質流路を形成するようにされ、
上記濡れ物質流路が各々上記流管手段の端部に連結された第1の流管スタブ及び第2の流管スタブを含み、
第1の流管スタブが上記物質の流れを受け入れるようにした第1の端部を有し、
第2の流管スタブが上記物質の流れを放出するようにした第2の端部を有する
ようにしたコリオリ流量計。」

(相違点1)
ピックオフ手段に関して、本願発明においては、「上記流管手段に連結された」ピックオフ手段であるのに対して、引用発明においては、上記流管に取り付けられているのは、ピックオフ手段ではなく、ピックオフ手段に組み合わせられたマグネットMである点。

(相違点2)
濡れ物質流路に関して、本願発明においては「プラスチックの濡れ物質流路」を形成するように、流管手段がプラスチックで形成され、第1の流管スタブ及び第2の流管スタブもプラスチックの流管スタブであるのに対して、引用発明においては、「プラスチックの流路」であるとは特定されていない点。


5.判断
前記相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用発明において、ピックオフ手段であるセンサーS1,S2とマグネットMとの、いずれを流管に取り付けるかは、当業者が適宜選択し得る事項である。
現に、引用刊行物の図2に示される実施例においては、2管式のコリオリ流量計の一方の流管203にセンサーS1,S2が取り付けられ、他方の流管204に該センサーS1,S2と組み合わせられたマグネットMが取り付けられていることが見て取れるのであるから、引用発明においても、流管110にセンサーS1,S2を取り付けるようにすることに何らの困難性も認められない。

(2)相違点2について
コリオリ流量計の技術分野において、被測定流体である物質の流路をプラスチックによって形成することは、本願の優先日前において周知の技術事項であるから、引用発明において、当該周知の技術事項を適用して、上記濡れ物質流路を形成する「流管110」及び「スタブ111,111」をプラスチックによって形成することは、当業者が適宜なし得た設計的な事項であると認められる。
上記周知の技術事項については、原審においても提示した以下の文献を参照のこと。
ア 特開昭63-18219号公報(特に、第2頁左下欄第6行ないし右下欄第16行を参照。以下、「周知例1」という。)には、導管をPPSとかPPOのような熱可塑性のエンジニアリングプラスチックで形成する旨の記載がされている。
イ 特表平2-501405号公報(特に、第9頁左上欄第9ないし16行を参照。以下、「周知例2」という。)には、流れ管である非金属製チューブを耐熱性プラスチックで形成する旨の記載がされている。
ウ 特表平11-510608号公報(特に、請求項4及び第8頁第12ないし15行を参照。以下、「周知例3」という。)には、流路を形成する肉厚管をプラスチック、特にPTFE、PFA、PEEKで構成する旨の記載がされている。
エ 特開平5-26709号公報(特に、段落【0014】ないし【0019】を参照。以下、「周知例4」という。)には、測定管をプラスチックで形成する旨の記載がされている。
オ 特開平4-291119号公報(特に、段落【0014】を参照。以下、「周知例5」という。)には、測定管を4弗化エチレン樹脂で構成する点が記載されている。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び周知の技術事項から当業者が予測可能なものであって格別のものでもない。
すなわち、プラスチックが耐腐食性に優れることは技術常識であるし、また、特に、周知例1には、プラスチックの成形によって製造の合理化と品質の均一化を計る旨の記載もされている。


6.審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書における請求の理由及び前記回答書において、
(1)「本件発明」(審判請求書における「本件発明」は、必ずしも本件補正後の請求項1に係る発明(本願発明)を意図するものではないようであるから、ここでは、「本願発明」と区別して記載する。)は単一の一体的なプラスチック要素として全体的な動的構造体を射出成形することを含み、個々に成形されたピースを接着する製法ではない旨、「本件発明」の一体的な射出成形による構造体では、流管とバランスバーとの結合部位などの領域においても一様な強化を実現しうる旨、及び「本件発明」では、低融点の合金で作られた成型コアを用いることで流路の内壁面等を精密かつ正確に製作し得る旨(特に、審判請求書の「4)」を参照。)の主張、並びに
(2)引用発明1においては流管を非金属に変更するという構想は一切示されておらず、引用刊行物にはチタン製流管であることが明記されている旨及び引用発明1に周知例1ないし5を組み合わせる動機が示されていない旨(特に、回答書の段落「5)」を参照。)、の主張をしている。

しかしながら、(1)の主張に関しては、請求項1に記載された事項に基づく主張ではないから、本願発明に関する反論としては採用できない。
また、(2)の主張に関しては、流管をプラスチックとすることが周知の技術事項であるのであるから、引用発明において、チタンに代えてプラスチックの流管を採用することについて、特段の阻害要因がない以上、引用発明において当該周知の技術事項を採用することに格別な動機付けは必要ない。
すなわち、公知の技術である引用発明において、当該技術分野において周知の技術事項の適用又は置換を試みることは、当業者の通常の創作能力の発揮であるから、前記(2)の主張は失当である。

なお、請求人の主張に関して付言すると、確かに、原審の審査段階での拒絶の理由において、例えば、当初の請求項14や請求項15のような、バランスバーや受けバーを含んでプラスチックで形成した「一体的な」コリオリ流量計の動的構造体を有する発明や、バランスバーや受けバーを含むコリオリ流量計の動的構造体を形成するための空所を形成したモールドによってコリオリ流量計の構造体を製造する方法の発明をも、容易に発明ができたものであるとした点は誤りであったといえなくもない。
しかしながら、請求人は、請求項1に記載された発明と引用発明との対比を明確に行うことなく、あるいは、引用発明においては流管とスタブが一体ではないとの誤解をしたままに、本願発明の本来の特徴部分と思われる発明特定事項を最初の請求項(請求項1)に記載することなく、本願の発明の詳細な説明に記載された発明全体をもって、「本件発明」が引用発明及び周知の技術事項に対して進歩性がある旨を主張しているものである。
その結果として、請求項1に関しては依然として拒絶理由が解消していないとする原審の判断は妥当なものであったし、審判請求時の本件補正によっても、当審においてその結論が覆るものでもない。


7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-06 
結審通知日 2012-07-09 
審決日 2012-07-23 
出願番号 特願2001-563865(P2001-563865)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岸 智史  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 森 雅之
▲高▼木 真顕
発明の名称 プラスチックからなるコリオリ流量計及びその製造方法  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 増井 忠弐  
代理人 千葉 昭男  
代理人 富田 博行  

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