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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
管理番号 1266962
審判番号 不服2011-4792  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-02 
確定日 2012-11-28 
事件の表示 特願2000-578163「剥離可能なシートを有する落書き防止および/または環境保護物品、それにより保護された基板、並びに使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月 4日国際公開、WO00/24576、平成14年 9月 3日国内公表、特表2002-528298〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成11年10月26日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理平成10年10月28日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年10月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年3月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされた。その後、平成23年11月11日付けで当審から拒絶理由を通知したところ、平成24年5月15日付けで特許請求の範囲を対象とする手続補正がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1?3に係る発明は、平成24年5月15日にした手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1は次のとおり記載されている。
「【請求項1】透明なシート積層体を含む物品であって、各々のシートが個々に、
(a)表面を有する第1面と、表面を有する反対側の第2面とを有するポリエステルフィルムと、
(b)表面を有する第1面と、表面を有する反対側の第2面とを有する結合層であって、前記フィルムの第2面の表面の少なくとも中央部が前記結合層に接触し、前記フィルムの前記第2面の表面の少なくとも50%に前記結合層が結合されるように、前記第1面を介して前記フィルムの前記第2面に結合される結合層と、
(c)前記フィルムの前記第1面を被覆する剥離層と、
を含み、
各々のシートが、前記シート積層体の一番下のシートを除いて、シートの前記結合層が、下のシートの剥離層に接触するように、別のシート上に積層されており、
一番上のシートを前記積層体から引き離すことにより、一番上のシートを前記シート積層体から除去させることができ、
前記シート積層体は、3メートルスネレン視力検査表を使用して観察者の視力に対するサンプルの効果の試験を行った時に、6メートル/6メートルの視力を有する観察者が、6メートル/12メートル以上の視力を示す視力検査表上の列を読み取ることを可能にする物品。」
(以下、請求項1に係る発明を、「本願発明1」という。)

3 当審が通知した拒絶理由
当審が、平成23年11月11日付けで通知した拒絶の理由のうち、特許法第29条第2項に関する理由の概要は、以下のとおりである。

「理由1 この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献
1.特開平10-44304号公報
2.特開平9-151362号公報
3.特開平1-234447号公報
4.特開平3-72544号公報
5.実願平2-8004号(実開平3-99548号)のマイクロフィルム」

4 引用文献の記載事項
当審の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開平10-44304号公報)には、図面と共に次の記載がある。
a「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は厨房機器、換気扇、家具、建築内装、自動車、電気機器、窓ガラス、座席肘掛など擦傷や汚染を受けやすい物の表面を保護するために、それらの箇所に被覆設置する多層剥離再生型保護シートに関する。さらに詳細にはプラスチックシートなどの基材シートの表面に抗菌性、抗カビ性、抗汚染性、さらには防曇性、帯電防止性、耐熱性などの多岐に亙る機能を持ったキトサン層を設け、そのキトサン層が常にシートの最上層にくるように基材シートを剥離可能に積層接着し、剥離により再生できる多層剥離再生型保護シートに関する。」
b「【0002】【従来の技術】厨房機器や換気扇など汚れが付着し易いところに剥離可能に多層を積層したシートを貼り、表面が汚れると表層から順にそれを剥がし、下層を露出させて再生する方法自体はたとえば実開昭62-9013号公報や実公平6-30135号公報などにより知られている。」
c「【0003】【発明が解決しようとする課題】これら従来の多層シートは、前者においては、金属箔を使用しているため、透明性がなく、保護する対象面の本来の色彩、デザインが損なわれるし…」
d「【0004】【課題を解決するための手段】本発明は、このような状況下において、前述の従来品の欠点を解決するためになされたものである。…このようにキトサン層を表面に露出させることにより…結露・不透明化を抑えることができるので、汚れ防止力が向上して、効果の長期持続化がはかられる。」
e「【0007】基材シートとしては、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、塩ビ、およびこれらの共重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ビニロン、セロファンなどのプラスチックシートで透明性のよいものが選ばれる。なかでもポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ビニロンは透明性、強度、寸法安定性、耐熱性、耐候性などバランスがよく、好ましい。特にポリエステル、ポリプロピレンの二軸延伸フィルムが好ましい。」
f「【0010】次に本発明にかかる多層剥離再生型保護シートを図面により説明する。〔図1〕は本発明の一実施例である多層剥離再生型保護シートの各層を積層する位置関係を示す。〔図1〕中の4,5,6はキトサン層、1,2,3は基材層、7,8は接着剤層、9は粘着層、10は離型紙である。…〔図3〕は別の構成例を剥離再生の様子で示したものである。〔図3〕においては、表面にキトサン層を持った両面処理基材1,2,3を接着剤層7,8で積層する。」
g「【0011】【発明の効果】…キトサン膜は透明性が高く、しかも印刷、着色ができ、デザインの付与も簡単である。基材シートの表面処理の有無、接着剤の種類や接着方法を工夫することにより常にキトサン層が最上層に露出するよう剥離可能に複数の基材が積層されており、表面の汚染や擦傷が進めば順次表層から剥離して新しいキトサン層を最上層として露出することができるので、上記作用効果を長期に亙り持続させることができる。」

そして、図3には、基材層1?3、接着剤層7、8及び粘着層9が、それぞれの層の図面上側の表面及び図面下側の裏面を有する点、基材層1?3の裏面に接着剤層7、8及び粘着層9の表面が積層される点、基材層1?3の表面をキトサン層4?6が被覆する点が図示されている。
また、図3には多層剥離再生型保護シートの剥離再生の様子が図示されているが、常にキトサン層4?6が最上層に露出するように、例えばキトサン層4と基材層1と接着剤層7とを一体的に剥離、すなわち引き離して除去していることから、1層のキトサン層と1層の基材層と1層の接着剤層又は粘着層とで1つのシートを構成しているということができる。
さらに、図3においては、この個々に1層のキトサン層と1層の基材層と1層の接着剤層又は粘着層を含む3つのシートが、上のシートの接着剤層7、8と下のシートのキトサン層5、6とが接触するように積層されていることから、シート積層体が図示されていると認められる。

以上の記載及び図3によれば、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる。
「シート積層体を含む多層剥離再生型保護シートであって、各々のシートが個々に、
(a)表面と、裏面とを有するポリエステルフィルム1?3と、
(b)表面と、裏面とを有する接着剤層7、8及び粘着層9であって、ポリエステルフィルム1?3の裏面が接着剤層7、8及び粘着層9に接触し、表面を介してポリエステルフィルム1?3の裏面に積層される接着剤層7、8及び粘着層9と、
(c)ポリエステルフィルム1?3の表面を被覆するキトサン層4?6と、
を含み、
各々のシートが、シート積層体の一番下のシートを除いて、シートの接着剤層7、8が、下のシートのキトサン層5、6に接触するように、別のシート上に積層されており、
一番上のシートをシート積層体から引き離すことにより、一番上のシートをシート積層体から除去させることができる多層剥離再生型保護シート」

5 対比
本願発明1と引用文献1に記載された発明とを対比すると、引用文献1に記載された発明の「多層剥離再生型保護シート」、「表面」、「裏面」、「ポリエステルフィルム1?3」、「接着剤層7、8及び粘着層9」、「積層」、「キトサン層4?6」は、それぞれ本願発明1の「物品」、「表面を有する第1面」、「表面を有する反対側の第2面」、「ポリエステルフィルム」、「結合層」、「結合」、「剥離層」に相当する。

そうすると、両者は、
「シート積層体を含む物品であって、各々のシートが個々に、
(a)表面を有する第1面と、表面を有する反対側の第2面とを有するポリエステルフィルムと、
(b)表面を有する第1面と、表面を有する反対側の第2面とを有する結合層であって、ポリエステルフィルムの第2面が結合層に接触し、第1面を介してポリエステルフィルムの第2面に結合される結合層と、
(c)ポリエステルフィルムの第1面を被覆する剥離層と、
を含み、
各々のシートが、シート積層体の一番下のシートを除いて、シートの結合層が、下のシートの剥離層に接触するように、別のシート上に積層されており、
一番上のシートをシート積層体から引き離すことにより、一番上のシートをシート積層体から除去させることができる物品」
である点で一致し、次の点で相違する。

《相違点1》
本願発明1では、シート積層体が、3メートルスネレン視力検査表を使用して観察者の視力に対するサンプルの効果の試験を行った時に、6メートル/6メートルの視力を有する観察者が、6メートル/12メートル以上の視力を示す視力検査表上の列を読み取ることを可能にする程度に透明であるのに対し、引用文献1に記載された発明では、そのように特定されていない点。

《相違点2》
本願発明1では、ポリエステルフィルムの第2面の表面の少なくとも中央部が結合層に接触し、ポリエステルフィルムの第2面の表面の少なくとも50%に結合層が結合されるのに対し、引用文献1に記載された発明では、そのように特定されていない点。

6 相違点の検討
上記相違点について検討する。

《相違点1について》
上記c、d、e、gの記載、特に上記cの、従来の多層シートにおいては透明性がないために不都合が生じている旨の記載から、引用文献1に記載された発明においては、シート積層体に高度の透明性が必要であると認められる。
そして、物品の透明性を視力検査表の数値範囲で表すことは周知技術であるので(例えば、当審の拒絶の理由に引用された引用文献3である特開平1-234447号公報の第2ページ右上欄第15行?左下欄第10行、第4ページ右下欄第3行?第11行、第1表、第2表、引用文献4である特開平3-72544号公報の第2ページ右上欄第14行?第17行、第5ページ左下欄第17行?右下欄第3行、表-2参照。)、引用文献1に記載された発明において、シート積層体に必要とされる透明性を視力検査表の数値範囲で表すことは当業者が容易になし得たことである。
また、視力検査表として3メートルスネレン視力検査表を用いること、及び、シート積層体に必要とされる透明性に応じて数値範囲を6メートル/12メートル以上とすることは、当業者が適宜設計し得た事項である。

《相違点2について》
一般的なシート積層体においては、各層はほぼ100%の範囲で結合されるものである(例えば、引用文献1の各図面参照。)。
また、シート積層体の各層をどの範囲で結合するかは、シート積層体の各層に必要とされる結合強度等を考慮の上で当業者が適宜設計し得た事項でもある。

そして、本願発明1が奏する効果は、引用文献1に記載された発明及び上記周知技術から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

7 むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-29 
結審通知日 2012-07-03 
審決日 2012-07-17 
出願番号 特願2000-578163(P2000-578163)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 昌広  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 紀本 孝
▲高▼辻 将人
発明の名称 剥離可能なシートを有する落書き防止および/または環境保護物品、それにより保護された基板、並びに使用方法  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  
代理人 青木 篤  
代理人 永坂 友康  
代理人 出野 知  

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