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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01J
管理番号 1266969
審判番号 不服2011-13381  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-22 
確定日 2012-11-28 
事件の表示 特願2006-529434「低密度製品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月25日国際公開、WO2004/101137、平成19年 3月 1日国内公表、特表2007-503997〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2004年2月25日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2003年5月16日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年12月18日付けで拒絶理由が通知され、平成22年3月8日付けで意見書及び誤訳訂正書が提出されたが、平成23年1月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成23年6月22日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、その後、当審において平成23年12月15日付けで審尋がなされ、これに対して平成24年4月20日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成23年6月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成23年6月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、本件補正前の(平成22年3月8日付けで提出された誤訳訂正書により補正された)下記(1)に示す特許請求の範囲の請求項1を引用する、下記(2)に示す特許請求の範囲の請求項23を、下記(3)に示す特許請求の範囲の請求項1に補正する補正を含み、また、本件補正前の(平成22年3月8日付けで提出された誤訳訂正書により補正された)下記(4)に示す特許請求の範囲の請求項107を、下記(5)に示す特許請求の範囲の請求項36に補正する補正を含むものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
無機の主要成分および発泡剤の水性混合物を形成し、その混合物を乾燥させ、予め決定された粒子径に破砕し、および前駆体を燃焼させ、前駆体を膨張させる発泡剤を活性化させて低密度材料を形成することによって、前駆体を提供することを包含する低密度材料の製造方法であって、
生成凝集前駆体は、50?300ミクロンまでの範囲にある平均凝集粒子径を有し、
発泡剤が、予め決定された最適な温度範囲内で活性化されるように、発泡剤の活性化を制御する製造方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の請求項23
「【請求項23】
生成凝集前駆体は、凝集前駆体の総乾燥重量に対して10重量%以下の総アルカリ金属酸化物含有率を有する請求項1?22のいずれか1項に記載の方法。」

(3)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
無機の主要成分および異なる活性化温度範囲を有する複数の発泡剤の水性混合物を形成し、その混合物を乾燥させ、予め決定された粒子径に破砕して前駆体を提供すること、および該前駆体を燃焼させ、前駆体を膨張させる発泡剤を活性化させて低密度材料を形成することを包含する低密度材料の製造方法であって、
生成凝集前駆体は、50?300ミクロンまでの範囲にある平均凝集粒子径を有し、かつ凝集前駆体の総乾燥重量に対して10重量%以下の総アルカリ金属酸化物含有率を有し、各発泡剤が、それぞれの予め決定された最適な温度範囲内で活性化されるように、各発泡剤の活性化を制御する製造方法。」
(なお、下線は、補正箇所を示すために当審で付した。下記「(5)」についても同様。)

(4)本件補正前の特許請求の範囲の請求項107
「【請求項107】
発泡ガスを放出し、膨張した微粒子を製造する予め決定された条件下で活性化される少なくとも1つの発泡剤を提供し、そしてそのような条件を制御し、それにより該活性化が、無機の混合物の予め決定された最適な粘度範囲内で起こることを包含する、無機混合物中の発泡剤の活性化を制御して、膨張した微粒子を製造する方法。」

(5)本件補正後の特許請求の範囲の請求項36
「【請求項36】
発泡ガスを放出し、膨張した微粒子を製造する予め決定された異なる条件下で活性化される複数の発泡剤を提供し、そしてそのような条件を制御し、それにより該活性化が、無機の混合物の予め決定された最適な粘度範囲内で起こることを包含する、無機混合物中の発泡剤の活性化を制御して、膨張した微粒子を製造する方法であって、発泡前の微粒子が、微粒子の総乾燥重量に対して10重量%以下の総アルカリ金属酸化物含有率を有する方法。」

2.本件補正の目的
本件補正は、補正前の、請求項1を引用する請求項23において、「発泡剤」について、「異なる活性化温度範囲を有する複数の」と特定するとともに、補正前の「発泡剤が、予め決定された最適な温度範囲内で活性化される」との記載について、「各発泡剤が、それぞれの予め決定された最適な温度範囲内で活性化される」とさらに特定することによって、補正前の「発泡剤」を限定し、また、補正前の「予め決定された粒子径に破砕し、および前駆体を燃焼させ、前駆体を膨張させる発泡剤を活性化させて低密度材料を形成することによって、前駆体を提供すること」との記載を、「予め決定された粒子径に破砕して前駆体を提供すること、および該前駆体を燃焼させ、前駆体を膨張させる発泡剤を活性化させて低密度材料を形成すること」と明確化することで、補正後の請求項1としたものである。そして、補正後の請求項1に記載された発明と、補正前の請求項1を引用する請求項23に記載された発明とで、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではない。
また、本件補正は、補正前の請求項107において、「予め決定された条件下で活性化される少なくとも1つの」と特定されていた「発泡剤」について、「予め決定された異なる条件下で活性化される複数の」とさらに特定することによって、補正前の「発泡剤」を限定し、また、「膨張した微粒子を製造する方法」について、「発泡前の微粒子が、微粒子の総乾燥重量に対して10重量%以下の総アルカリ金属酸化物含有率を有する」と特定することによって、補正前の「膨張した微粒子を製造する方法」を限定することで、補正後の請求項36としたものである。そして、補正後の請求項36に記載された発明と、補正前の請求項107に記載された発明とで産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.本件補正の適否
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明1」という。)及び本件補正後の特許請求の範囲の請求項36に係る発明(以下、「本件補正発明2」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて、さらに検討する。

(1)刊行物等から認定される技術事項
ア.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由で「引用文献3」として引用された、本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開平11-335146号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(刊1a)「【請求項1】 石炭灰に、廃ガラスからなる融点降下剤と粘結剤および発泡剤とを混合して粉砕し、該粉砕物を成型した後、焼成することを特徴とする人工軽量骨材の製造方法。
【請求項2】 前記粉砕物を湿式混練した後に成型・乾燥し、ついで焼成することを特徴とする請求項1記載の人工軽量骨材の製造方法。
【請求項3】 前記焼成を950℃?1300℃の温度範囲内で実施することを特徴とする請求項1または2記載の人工軽量骨材の製造方法。
【請求項4】 前記廃ガラスを、全骨材配合量に対してガラス中に含有する合計の低融点酸化物換算で2重量%以上で40重量%未満添加することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項記載の人工軽量骨材の製造方法。
【請求項5】 前記発泡剤が、酸化鉄と、炭化珪素または炭材の少なくとも1種とからなることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項記載の人工軽量骨材の製造方法。
【請求項6】 請求項1?5のいずれか1項記載の製造方法により得られ、かつ絶乾比重が0.5?1.5で、一軸圧縮破壊荷重が50kgf以上であり、また吸水率が10%以下であることを特徴とする人工軽量骨材。」(【特許請求の範囲】)

(刊1b)「【0016】つぎに発泡剤は人工軽量骨材の絶乾比重を0.5?1.5程度に制御するために添加する。発泡剤としては、前記効果を発揮するものであれば特に限定されないが、例えば酸化鉄の中でも酸化度の高いヘマタイトが好ましい。酸化鉄の粒度は特に限定されないが、焼成中の炭材による脱酸素反応を促進するために10μm以下とすることが好ましい。また骨材配合量の全体に対する好ましいFe_(2)O_(3)添加量は、1?10重量%である。その理由は1重量%未満では発泡剤としての効果が少なく、人工軽量骨材の絶乾比重を0.5?1.5程度まで制御できず、他方10重量%を超えても発泡による軽量化の効果は増加しないからである。なお酸化鉄の比重は石炭灰と比較して著しく大きく、発泡が促進されないと人工軽量骨材の比重を増加させることになる。
【0017】炭化珪素は、造粒したペレットが加熱により多量の液相を生成するときに、酸化鉄と効率よく反応して発生するCO、CO_(2)ガスを捕捉してペレットの発泡膨潤を促進する。骨材配合量の全体に対する炭化珪素の添加量は、0.1?10重量%であることが好ましい。すなわち0.1重量%未満では絶乾比重の軽量化に対する効果が十分でなく、絶乾比重1.0以下の骨材が得られない。他方10重量%を超えても軽量効果は増大しないためである。
【0018】また炭材は、効果は小さいが酸化鉄と反応して発泡作用といった機能を発揮する。したがって炭化珪素の一部を炭材に置き換えたりすることが可能である。なお炭材は焼成中のペレット内部の還元度を調整する効果が大である。骨材配合量の全体に対する炭材の添加量は、0.2?10重量%であることが好ましい。すなわち、0.2重量%未満では発泡による軽量化の効果が得られず、他方10重量%を超えても発泡膨張による軽量化効果は増加せず、逆に未燃焼の炭素がぺレット内部に残留して人工軽量骨材の強度を低下させる可能性があるからである。」(段落【0016】?【0018】)

(刊1c)「【0024】
【実施例】以下実施例および比較例により、本発明をさらに説明する。ただし本発明は下記実施例に限定されるものでない。また用いた石炭灰の主成分は、SiO_(2):56.20重量%、Al_(2)O_(3):32.10重量%、Fe_(2)O_(3):3.57重量%、CaO:0.59重量%、MgO:1.40重量%、Na_(2)O:0.22重量%、K_(2)O:0.48重量%である。
【0025】[実施例1]石炭灰57.7重量%、べントナイト5重量%、へマタイト5重量%、炭化珪素0.5重量%、コークス2重量%、糖蜜0.7重量%およびソーダ石灰ガラスである廃ガラス29.1重量%(Na_(2)O+K_(2)O=4%)からなる骨材配合原料を、ボールミルにて混合粉砕した。該粉砕物に水を添加しながら、パンペレタイザーで直径約5?15mmの球状に造粒した後、105℃で通風乾燥した。その後該乾燥骨材をロータリーキルン(煉瓦内径400mm×長さ6000mm)に供給して、燃焼ガス中の酸素濃度10%、1100℃の条件下で焼成して骨材a(実施例1)を得た。このようにして得られた骨材aを評価するためJIS A1110に基づいて絶乾比重と吸水率を、また一軸圧縮破壊荷重により圧漬強度を測定し、その結果を下記する表1に示す。なお圧潰強度は圧潰試験機によって直径10mmの各骨材について測定し、その平均値を求めた。」(段落【0024】及び【0025】)


イ.周知文献の記載事項
本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特公平2-27295号公報(以下、「周知文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

・「〔発明の要約〕
本発明は耐水性であつて、米国特許第4391646号明細書のマイクロバブルに属する優れた特性を有することができ、そして前記特許明細書に開示された一般的な“ブローイング”法と同一の方法により製造されるマイクロバブルを提供する。しかしながら、それの最も簡単かつ最も安価な具体例において、本発明のマイクロバブルはホウケイ酸ガラスから製造され、本質的にSiO_(2)、CaO、Na_(2)O、B_(2)O_(3)およびSO_(3)のブローイング剤からなる化学組成を有する。」(第2ページ第4欄第10?20行)

・「全ての例を以下の様に調製した。:
SiO_(2)の粒子(シリカ粉末)、Na_(2)O:B_(2)O_(3)(590ミクロンより小さい、90%の無水ホウ砂)、CaCO_(3)(97%が44ミクロンより小)、Na_(2)CO_(3)(ソーダ灰)、およびNa_(2)SO_(4)(60%が74ミクロンより小)を表に記載した量でいつしよに混合することによりガラス形成バツチを調製した。・・・(略)・・・ガラス形成バツチを急速回復電気加熱炉内で約1290℃(2350°F)の温度においていわゆる「溶融シリカ」耐火材るつぼの中で3時間溶融した。結果としての溶融ガラスを水中で冷却し、次いで乾燥して一連のフリツトを得た。
それぞれ調製したフリツトの500グラムを次いで8.7リツトルのジヤー・ミルの中に6000グラムのアルミナ粉砕シリンダーとともに置き、1時間半の間いつしよに摩砕した。摩砕生産品をスクリーンと空気溶離の使用により分離し、150グラム(±15グラム)のガラスバブルフイード粒子を得た・・・(略)・・・各バブルフイード試料の30グラムを標準の温度および圧力下で約250リツトル/分となるように計算した燃焼空気を伴う、大体化学式の割合の天然のガス/空気の炎に通した。・・・(略)・・・その炎で形成した生産物を周囲の温度の空気と混合することにより冷却し、次いで円心分離機(サイクロン装置)でもつて結果のガス流と分離した。
それぞれの場合における結果の、自由流動(フリーフロー)ガラス粒子を含有するガラスバブルは更に、・・・(略)・・・」(第3ページ第6欄第32行?第4ページ第8欄第40行)

ウ.引用刊行物1に記載された発明
上記「ア.」の記載事項(刊1c)(以下、「摘記刊1c」という。(刊1a)及び(刊1b)並びに下記(刊2a)?(刊2e)についても同様。)における「骨材a」は、摘記刊1aの「人工軽量骨材」であることは明らかである。
そして、摘記刊1cに基づいて整理すると、引用刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

「石炭灰57.7重量%、べントナイト5重量%、へマタイト5重量%、炭化珪素0.5重量%、コークス2重量%、糖蜜0.7重量%およびソーダ石灰ガラスである廃ガラス29.1重量%(Na_(2)O+K_(2)O=4%)からなる骨材配合原料を、ボールミルにて混合粉砕し、該粉砕物に水を添加しながら、直径約5?15mmの球状に造粒し、通風乾燥して乾燥骨材とし、これをその後1100℃の条件下で焼成する、人工軽量骨材の製造方法。」

(2)本件補正発明1について
ア.対比
本件補正発明1と引用発明1とを対比する。

(ア)引用発明1の「人工軽量骨材」は「軽量」であり、「絶乾比重を0.5?1.5程度」(摘記刊1b)にされているものである。一方、本件補正発明1の「低密度材料」について、その密度の低さの程度について特に規定されているわけではない。
したがって、引用発明1の「人工軽量骨材」は、本件補正発明1の「低密度材料」に相当する。

(イ)引用発明1の「石炭灰」について、引用刊行物1には「石炭灰の主成分は、SiO_(2):56.20重量%、Al_(2)O_(3):32.10重量%、Fe_(2)O_(3):3.57重量%、CaO:0.59重量%、MgO:1.40重量%、Na_(2)O:0.22重量%、K_(2)O:0.48重量%である。」(摘記刊1c)と記載され、また、引用発明1の「ソーダ石灰ガラスである廃ガラス」の主成分が無機物であることは明らかである。また、引用発明1の骨材配合原料における「石炭灰」及び「ソーダ石灰ガラスである廃ガラス」の配合比率は、それぞれ「57.7重量%」及び「29.1重量%」であるから、これらは骨材配合原料における主要成分である。
したがって、引用発明1の「石炭灰」及び「ソーダ石灰ガラスである廃ガラス」は、本件補正発明1の「無機の主要成分」に相当する。

(ウ)摘記刊1aの「発泡剤が、酸化鉄と、炭化珪素または炭材の少なくとも1種とからなる」との記載、摘記刊1bの「酸化鉄の中でも酸化度の高いヘマタイトが好ましい。」との記載、及び「コークス」が一般に炭材であることに基づくと、引用発明1の「へマタイト」、「炭化珪素」、及び「コークス」は、いずれも「発泡剤」である。
また、発泡剤の種類が異なれば、その活性化温度範囲も互いに異なることは、技術常識である(本願明細書にも、「活性化温度は、上昇順に、糖、その後炭素、そして最後にシリコンカーバイドである。」(段落【0096】)と記載されている。)。
したがって、引用発明1の「へマタイト」、「炭化珪素」、及び「コークス」は、本件補正発明1の「異なる活性化温度範囲を有する複数の発泡剤」に相当する。

(エ)引用発明1において、「骨材配合原料を、ボールミルにて混合粉砕し、該粉砕物に水を添加」して得られたものは、本件補正発明1の「水性混合物」に相当する。

(オ)本件補正発明1の「前駆体」は、「低密度材料」を製造するために燃焼されるものであり、引用発明1の「乾燥骨材」は、「人工軽量骨材」(前述したように、本件補正発明1の「低密度材料」に相当。)を製造するために焼成されるものである。
また、本願明細書には、「前駆体」の他、「凝集体」(段落【0101】等)、及び「凝集体前駆体」(段落【0110】)との記載があるが、これらが異なる意味を持つものとして明確に区別されて記載されているわけではない。
したがって、引用発明1の「乾燥骨材」は、本件補正発明1の「前駆体」、「生成凝集前駆体」、及び「凝集前駆体」に相当する。
また、当該「乾燥骨材」は、発泡剤が発泡すると、膨張されることになるのは明らかである。

(カ)引用発明1において、「石炭灰」中のアルカリ金属酸化物(Na_(2)O及びK_(2)O)の含有率は、「石炭灰の主成分は、・・・(略)・・・Na_(2)O:0.22重量%、K_(2)O:0.48重量%である。」(摘記刊1c)との記載によると、0.70重量%である。また、引用発明1では、「ソーダ石灰ガラスである廃ガラス」中のアルカリ金属酸化物(Na_(2)O及びK_(2)O)の含有率について、「(Na_(2)O+K_(2)O=4%)」と特定されている。
そして、引用発明1の「骨材配合原料」の成分のうち、「石炭灰」は「57.7重量%」であるから、「石炭灰」に由来するアルカリ金属酸化物(Na_(2)O及びK_(2)O)の「骨材配合原料」における含有率は、「57.7×0.70÷100」=約0.40重量%である。また、「ソーダ石灰ガラスである廃ガラス」は「29.1重量%」であるから、「ソーダ石灰ガラスである廃ガラス」に由来するアルカリ金属酸化物(Na_(2)O及びK_(2)O)の「骨材配合原料」における含有率は、「29.1×4÷100」=約1.16重量%である。そして、これらの合計は、約1.56重量%となる。
また、引用発明1の「骨材配合原料」の成分のうち、「石炭灰」及び「ソーダ石灰ガラスである廃ガラス」以外の成分は、「べントナイト5重量%、へマタイト5重量%、炭化珪素0.5重量%、コークス2重量%、糖蜜0.7重量%」であるが、一般にべントナイトの主成分は二酸化珪素であり、ヘマタイトの主成分は酸化鉄であるから、アルカリ金属酸化物(Na_(2)O及びK_(2)O)がこれらの大半を占めることはない。
したがって、「骨材配合原料」におけるアルカリ金属酸化物(Na_(2)O及びK_(2)O)の含有量の合計は、多くても10重量%を超えることはない。
そして、引用発明1において、「骨材配合原料」以外に添加されるものは「水」のみであるから、引用発明1の、「乾燥骨材」(本件補正発明1の「凝集前駆体」に相当。)における、総乾燥重量に対する総アルカリ金属酸化物含有率は、10重量%以下となる。

よって、両者は、次の点で一致する。
<一致点>
無機の主要成分および異なる活性化温度範囲を有する複数の発泡剤の水性混合物を形成し、前駆体を提供すること、および該前駆体を燃焼させ、前駆体を膨張させる発泡剤を活性化させて低密度材料を形成することを包含する低密度材料の製造方法であって、
凝集前駆体の総乾燥重量に対して10重量%以下の総アルカリ金属酸化物含有率を有する、製造方法。

そして、両者は、次の3点(相違点1?相違点3)で相違する。
<相違点1>
前駆体を提供するに際して、本件補正発明1では、「混合物を乾燥させ、予め決定された粒子径に破砕して」いるのに対して、引用発明1では、混合物を粉砕し、造粒し、通風乾燥している点。

<相違点2>
本件補正発明1では、「生成凝集前駆体は、50?300ミクロンまでの範囲にある平均凝集粒子径を有し」ているのに対して、引用発明1では、造粒され、通風乾燥する前のものが、「直径約5?15mm」である点。

<相違点3>
本件補正発明1では、「各発泡剤が、それぞれの予め決定された最適な温度範囲内で活性化されるように、各発泡剤の活性化を制御する」のに対して、引用発明1では、そのような特定がない点。

イ.相違点についての判断
(ア)相違点1について
引用発明1においても、「乾燥骨材」は、「粉砕」及び「造粒」の工程を経ることによって、予め決定された大きさにされているといえる。
そして、無機物及び発泡剤の混合物から前駆体を形成し、それを加熱して低密度材料を形成するものにおいて、前駆体を提供するに際して、混合物を乾燥させ、次いで破砕するようにすることは、周知文献1に記載されるように、本願の優先日前に周知の技術である。
すなわち、周知文献1には、低密度材料である「ガラスバブル」を形成するための前駆体である「ガラスバブルフイード粒子」を提供するに際して、無機物及び発泡剤の混合物である「ガラス形成バツチ」を溶融、冷却したものを乾燥させて「フリツト」とし、次いで破砕する点が示されている。
したがって、引用発明1において、「乾燥骨材」を提供するに際して、混合物を乾燥させて、予め決定された粒子径に破砕するようにすること、すなわち相違点1に係る本件補正発明1の発明特定事項とすることは、上記の周知の技術を考慮すれば、当業者が適宜なし得たことである。

(イ)相違点2について
引用発明1では、人工軽量骨材の大きさが、これを製造するために焼成される「乾燥骨材」の大きさに依存することは明らかであるから、乾燥骨材の粒子径は、人工軽量骨材の所望の大きさに応じて決定される事項である。
また、引用発明1では、少なくとも、「直径10mmの各骨材」(摘記刊1c)が得られているが、一般に人工軽量骨材はこの大きさのものに限定されるものではない(ちなみに、原査定において「引用文献2」として言及された特開平5-246726号公報には、発泡により「直径約5-40ミクロンの中空ガラス微小球体」(段落【0023】)を得ることが記載されている。)。
したがって、引用発明1において、得ようとする人工軽量骨材の大きさに応じて、これを製造するために焼成される乾燥骨材の平均粒子径を「50?300ミクロン」にすること、すなわち相違点2に係る本件補正発明1の発明特定事項とすることに、当業者にとっての格別の創意工夫を見いだすことはできない。
また、「50?300ミクロン」という数値範囲に臨界的意義を見いだすこともできない。

(ウ)相違点3について
本件補正発明1における、「各発泡剤が、それぞれの予め決定された最適な温度範囲内で活性化されるように、各発泡剤の活性化を制御する」ことについて、本願明細書には、「発泡剤の制御は、混合物が前述の最適な温度範囲に達するまで、発泡剤を保存および/または保護する前駆体中に制御剤を供給することによって達成される。」(段落【0018】)、及び「制御剤は、多数の形態で提供されうる。1つの形態では、制御剤は、特定の方法条件下で反応して、前駆体の環境を変え、そしてそれにより発泡剤の活性化を制御する材料を含む。例えば、制御剤は、別の発泡剤の形態でありうる。」(段落【0019】)と記載されている。また、本願明細書には、発泡剤に加えて制御剤を供給すること以外に、「各発泡剤の活性化を制御する」ことを実現するために、特定のプロセスや条件等が必須となる旨の記載はない。
したがって、本件補正発明1における上記の「制御」は、ある「発泡剤」について、単に「制御剤」すなわち「別の発泡剤」を加えることによってなされており、必ずしも特定のプロセスや条件等は必須ではない。つまり、発泡剤に「制御剤」すなわち「別の発泡剤」を加えることのみによって、それぞれの予め決定された最適な温度範囲内で活性化が起こるように、各発泡剤の活性化が制御されていると解される。
そうしてみると、引用発明1において、「へマタイト」、「炭化珪素」、及び「コークス」からなる複数の発泡剤を使用していることは、実質的に、本件補正発明1における、「各発泡剤が、それぞれの予め決定された最適な温度範囲内で活性化されるように、各発泡剤の活性化を制御する」ことに相当するといえるから、相違点3は実質的なものではない。

(エ)効果について
本件補正発明1を全体としてみても、本件補正発明1により奏されるとされる効果は、引用発明1及び周知の技術からみて格別なものとはいえない。例えば、「各発泡剤の活性化を制御する」という作用効果が、「50?300ミクロン」という生成凝集前駆体の平均凝集粒子径の数値範囲において格別顕著となるというようなことも、本願明細書の記載の限りでは何ら確認できるものではない。

ウ.小括
以上のとおりであるから、本件補正発明1は、引用発明1及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)本件補正発明2について
ア.対比
本件補正発明2と引用発明1とを対比する。

(ア)引用発明1の「石炭灰」について、引用刊行物1には「石炭灰の主成分は、SiO_(2):56.20重量%、Al_(2)O_(3):32.10重量%、Fe_(2)O_(3):3.57重量%、CaO:0.59重量%、MgO:1.40重量%、Na_(2)O:0.22重量%、K_(2)O:0.48重量%である。」(摘記刊1c)と記載され、また、引用発明1の「ソーダ石灰ガラスである廃ガラス」の主成分が無機物であることは明らかである。また、引用発明1の骨材配合原料における「石炭灰」及び「ソーダ石灰ガラスである廃ガラス」の配合比率は、それぞれ「57.7重量%」及び「29.1重量%」である。
したがって、引用発明1の「石炭灰57.7重量%、べントナイト5重量%、へマタイト5重量%、炭化珪素0.5重量%、コークス2重量%、糖蜜0.7重量%およびソーダ石灰ガラスである廃ガラス29.1重量%(Na_(2)O+K_(2)O=4%)からなる骨材配合原料」を混合したものは、本件補正発明2の「無機の混合物」及び「無機混合物」に相当する。

(イ)摘記刊1aの「発泡剤が、酸化鉄と、炭化珪素または炭材の少なくとも1種とからなる」との記載、摘記刊1bの「酸化鉄の中でも酸化度の高いヘマタイトが好ましい。」との記載、及び「コークス」が一般に炭材であることに基づくと、引用発明1の「へマタイト」、「炭化珪素」、及び「コークス」は、いずれも「発泡剤」である。
また、発泡剤の種類が異なれば、その活性化温度範囲も互いに異なることは、技術常識である(本願明細書にも、「活性化温度は、上昇順に、糖、その後炭素、そして最後にシリコンカーバイドである。」(段落【0096】)と記載されている。)。
したがって、引用発明1の「へマタイト」、「炭化珪素」、及び「コークス」は、本件補正発明2の「異なる条件下で活性化される複数の発泡剤」に相当する。
そして、引用発明1において、発泡剤の発泡によって、発泡ガスが放出され、「乾燥骨材」が膨張されることになることは明らかである。

(ウ)引用発明1において、「石炭灰」中のアルカリ金属酸化物(Na_(2)O及びK_(2)O)の含有率は、「石炭灰の主成分は、・・・(略)・・・Na_(2)O:0.22重量%、K_(2)O:0.48重量%である。」(摘記刊1c)との記載によると、0.70重量%である。また、引用発明1では、「ソーダ石灰ガラスである廃ガラス」中のアルカリ金属酸化物(Na_(2)O及びK_(2)O)の含有率について、「(Na_(2)O+K_(2)O=4%)」と特定されている。
そして、引用発明1の「骨材配合原料」の成分のうち、「石炭灰」は「57.7重量%」であるから、「石炭灰」に由来するアルカリ金属酸化物(Na_(2)O及びK_(2)O)の「骨材配合原料」における含有率は、「57.7×0.70÷100」=約0.40重量%である。また、「ソーダ石灰ガラスである廃ガラス」は「29.1重量%」であるから、「ソーダ石灰ガラスである廃ガラス」に由来するアルカリ金属酸化物(Na_(2)O及びK_(2)O)の「骨材配合原料」における含有率は、「29.1×4÷100」=約1.16重量%である。そして、これらの合計は、約1.56重量%となる。
また、引用発明1の「骨材配合原料」の成分のうち、「石炭灰」及び「ソーダ石灰ガラスである廃ガラス」以外の成分は、「べントナイト5重量%、へマタイト5重量%、炭化珪素0.5重量%、コークス2重量%、糖蜜0.7重量%」であるが、一般にべントナイトの主成分は二酸化珪素であり、ヘマタイトの主成分は酸化鉄であるから、アルカリ金属酸化物(Na_(2)O及びK_(2)O)がこれらの大半を占めることはない。
したがって、「骨材配合原料」におけるアルカリ金属酸化物(Na_(2)O及びK_(2)O)の含有量の合計は、多くても10重量%を超えることはない。
そして、引用発明1において、「骨材配合原料」以外に添加されるものは「水」のみであるから、引用発明1の「乾燥骨材」における、総乾燥重量に対する総アルカリ金属酸化物含有率は、10重量%以下となる。

(エ)引用発明1の「人工軽量骨材」は、造粒、すなわち粒子を製造し、それを通風乾燥、焼成して製造されているので、少なくとも「粒子」であるという意味において、本件補正発明2の「微粒子」と共通する。

よって、両者は、次の点で一致する。
<一致点>
発泡ガスを放出し、異なる条件下で活性化される複数の発泡剤を提供し、無機混合物中の発泡剤を活性化して、膨張した粒子を製造する方法であって、
発泡前の粒子が、粒子の総乾燥重量に対して10重量%以下の総アルカリ金属酸化物含有率を有する方法。

そして、両者は、次の2点(相違点1及び相違点2)で相違する。
<相違点1>
本件補正発明2では、製造されるものが「微粒子」とされているのに対して、引用発明1では、製造されるものが、造粒等の工程を経て得られた、粒子たる「人工軽量骨材」である点。

<相違点2>
無機混合物中の発泡剤の活性化について、本件補正発明2では、複数の発泡剤が、「膨張した微粒子を製造する予め決定された異なる条件下で活性化」されると特定されるとともに、「そのような条件を制御し、それにより該活性化が、無機の混合物の予め決定された最適な粘度範囲内で起こる」、及び「無機混合物中の発泡剤の活性化を制御」すると特定されているのに対して、引用発明1では、そのような特定がない点。

イ.相違点についての判断
(ア)相違点1について
本願明細書の記載の限りでは、微粒子の大きさの程度につき特に規定されているものではない。また、引用発明1では、少なくとも、「直径10mmの各骨材」(摘記刊1c)が得られているが、一般に人工軽量骨材は、この程度の大きさに限定されるものではなく、また、様々な態様のものが存在する(ちなみに、原査定において「引用文献2」として言及された特開平5-246726号公報には、発泡により「直径約5-40ミクロンの中空ガラス微小球体」(段落【0023】)を得ることが記載されている。)。
したがって、引用発明1において、人工軽量骨材を「微粒子」とすること、すなわち相違点1に係る本件補正発明2の発明特定事項とすることに、当業者にとっての格別の創意工夫を見いだすことはできない。

(イ)相違点2について
本件補正発明2における、活性化が「最適な粘度範囲内で起こる」ことについて、本願明細書には、「本発明は、それが、無機混合物の最適な粘度で、すなわち特定の温度範囲内で活性化されるように発泡剤を仕立てるための機構を提供する。」(段落【0034】)と記載されている。すなわち、最適な粘度範囲内で活性化が起こるとは、最適な温度範囲内で活性化が起こることを意味する。
また、本件補正発明2における、複数の発泡剤が、「膨張した微粒子を製造する予め決定された異なる条件下で活性化」されること、「そのような条件を制御し、それにより該活性化が、無機の混合物の予め決定された最適な」温度範囲内で起こること、及び「無機混合物中の発泡剤の活性化を制御」することについて、本願明細書には、「発泡剤の制御は、混合物が前述の最適な温度範囲に達するまで、発泡剤を保存および/または保護する前駆体中に制御剤を供給することによって達成される。」(段落【0018】)、及び「制御剤は、多数の形態で提供されうる。1つの形態では、制御剤は、特定の方法条件下で反応して、前駆体の環境を変え、そしてそれにより発泡剤の活性化を制御する材料を含む。例えば、制御剤は、別の発泡剤の形態でありうる。」(段落【0019】)と記載されている。また、本願明細書には、発泡剤に加えて制御剤を供給すること以外に、「発泡剤の活性化を制御」することを実現するために、特定のプロセスや条件等が必須となる旨の記載はない。
したがって、本件補正発明2における上記の「制御」は、ある「発泡剤」について、単に「制御剤」すなわち「別の発泡剤」を加えることによってなされており、必ずしも特定のプロセスや条件等は必須ではない。つまり、発泡剤に「制御剤」すなわち「別の発泡剤」を加えることのみによって、最適な温度範囲内、すなわち最適な粘度範囲内で活性化が起こるように、発泡剤の活性化が制御されていると解される。
そうしてみると、引用発明1において、「へマタイト」、「炭化珪素」、及び「コークス」からなる複数の発泡剤を使用していることは、実質的に、本件補正発明2における、複数の発泡剤が、「膨張した微粒子を製造する予め決定された異なる条件下で活性化」されること、「そのような条件を制御し、それにより該活性化が、無機の混合物の予め決定された最適な粘度範囲内で起こる」こと、及び「無機混合物中の発泡剤の活性化を制御」することに相当するといえるから、相違点2は実質的なものではない。

(ウ)効果について
本件補正発明2を全体としてみても、本件補正発明2により奏されるとされる効果は、引用発明1からみて格別なものとはいえない。

ウ.小括
以上のとおりであるから、本件補正発明2は、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
上記の「(2)」及び「(3)」のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたため、本願の特許請求の範囲の請求項1?108に係る発明は、平成22年3月8日付け誤訳訂正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?108に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、上記「第2[理由]1.(1)」の【請求項1】のとおりであり、また、請求項76に係る発明(以下、「本願発明2」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項76】
膨張可能な無機の主要成分を包含し、発泡剤は活性化され、そしてそれにより該主要成分を膨張させるよう調節され、そして制御剤は、発泡剤が予め決定された最適な温度範囲内で活性化されるように発泡剤の活性化を制御するように選択される、膨張した微粒子を製造するのに適した前駆体。」

2.原査定の拒絶の理由
本願発明についての原査定の拒絶の理由は、本願発明2に対しては、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」というものであり、本願発明1に対しては、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。
ここで「下記の刊行物」とは、原査定において「引用文献1」として引用された、本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開平10-95648号公報(以下、「引用刊行物2」という。)のことである。

3.引用刊行物2から認定される技術事項
ア.引用刊行物2の記載事項
引用刊行物2には、以下の事項が記載されている。

(刊2a)「【請求項2】 飛灰に粘結材としてのベントナイトと組成調合材としての珪砂、陶石、長石、カオリナイト、木節粘度等のシリカを含む鉱物の少なくとも1種とを、得られた混合物の焼成後の化学組成がシリカが20?80重量%で酸化カルシュウムが0.5?15重量%になるように混合し更に、発泡剤として平均粒度10μm以下の酸化鉄、炭化珪素をそれぞれ外割で2?10重量%、0.1?2.5重量%を混合し、更に石炭またはコークスを還元剤として炭素量換算で2?9%を加え得られた混合物を平均粒径が15μm以下となるように粉砕し、次いで、得られた粉砕物に水を加えて成形して成形体を得、その後、要すれば乾燥し、焼成して発泡状態の人工骨材を得る方法において、焼成温度を1000?1250℃とし、1000?1250℃での滞留時間を30?120分とすることを特徴とする人工骨材の製造方法。」(特許請求の範囲)

(刊2b)「【0028】粉砕混合して得た混合物に水を加えて転動造粒かまたは押し出し造粒により成形体を得るが、成形体の大きさをどの程度にするかは、主として製品として得る人工軽量骨材の大きさに従う。一般に5?15mmとすることが多い。」(段落【0028】)

(刊2c)表1には、「飛灰A」、「飛灰B」、「珪砂」、「長石」、「ベントナイト」、及び「ヘマタイト」の成分が示されている。

(刊2d)表2には、各実施例における、「飛灰A」、「飛灰B」、「珪砂」、「長石」、「ベントナイト」、「ヘマタイト」、及び「SiC」の配合割合が示されている。

(刊2e)表5には、実施例の「2-1-1」?「2-2-3」において、「総乾比重」が0.65?0.77の範囲内であることが示されている。

イ.引用刊行物2に記載された発明
摘記刊2aに基づいて整理すると、引用刊行物2には、次の発明(以下、「引用発明2-1」という。)が記載されていると認める。

(ア)引用発明2-1
「飛灰に粘結材としてのベントナイトと組成調合材としての珪砂、陶石、長石、カオリナイト、木節粘度等のシリカを含む鉱物の少なくとも1種とを、得られた混合物の焼成後の化学組成がシリカが20?80重量%で酸化カルシュウムが0.5?15重量%になるように混合し更に、発泡剤として平均粒度10μm以下の酸化鉄、炭化珪素をそれぞれ外割で2?10重量%、0.1?2.5重量%を混合し、更に石炭またはコークスを還元剤として炭素量換算で2?9%を加え得られた混合物を平均粒径が15μm以下となるように粉砕し、次いで、得られた粉砕物に水を加えて成形して成形体を得、その後、乾燥し、焼成して発泡状態の人工骨材を得る方法。」

また、「成形体」という物について、摘記刊2aに基づいて整理すると、引用刊行物2には、次の発明(以下、「引用発明2-2」という。)が記載されていると認める。

(イ)引用発明2-2
「飛灰に粘結材としてのベントナイトと組成調合材としての珪砂、陶石、長石、カオリナイト、木節粘度等のシリカを含む鉱物の少なくとも1種とを、得られた混合物の焼成後の化学組成がシリカが20?80重量%で酸化カルシュウムが0.5?15重量%になるように混合し更に、発泡剤として平均粒度10μm以下の酸化鉄、炭化珪素をそれぞれ外割で2?10重量%、0.1?2.5重量%を混合し、更に石炭またはコークスを還元剤として炭素量換算で2?9%を加え得られた混合物を平均粒径が15μm以下となるように粉砕し、次いで、得られた粉砕物に水を加えて成形して得られた成形体であって、乾燥・焼成することで発泡状態の人工骨材を得るための成形体。」

4.対比・判断
(1)本願発明1について
ア.対比
本願発明1と引用発明2-1とを対比する。

(ア)摘記刊2eによると、引用発明2-1の「人工骨材」の「総乾比重」は0.65?0.77の範囲内である。一方、本願発明1の「低密度材料」について、その密度の低さの程度について特に規定されているわけではない。
したがって、引用発明2-1の「人工骨材」は、本願発明1の「低密度材料」に相当する。

(イ)引用発明2-1における、「発泡剤として平均粒度10μm以下の酸化鉄、炭化珪素」は、いずれも、本願発明1の「発泡剤」に相当する。

(ウ)引用刊行物2の表2(摘記刊2d)によると、引用発明2-1の「混合物」の主要な原料は「飛灰A」もしくは「飛灰B」、及び「珪砂」であり、表1(摘記刊2c)によると、これらの主要な成分は無機物であるから、引用発明2-1の「混合物」の主要成分は無機物である。
したがって、引用発明2-1における、発泡剤である「酸化鉄」、「炭化珪素」以外の無機物は、本願発明1の「無機の主要成分」に相当する。

(エ)引用発明2-1において、「混合物を平均粒径が15μm以下となるように粉砕し、次いで、得られた粉砕物に水を加えて」得られたものは、本願発明1の「水性混合物」に相当する。

(オ)本願発明1の「前駆体」は、「低密度材料」を製造するために燃焼されるものであり、引用発明1の「成形体」を乾燥したものは、「人工骨材」(前述したように、本願発明1の「低密度材料」に相当。)を製造するために焼成されるものである。
また、本願明細書には、「前駆体」の他、「凝集体」(段落【0101】等)、及び「凝集体前駆体」(段落【0110】)との記載があるが、これらが異なる意味を持つものとして明確に区別されて記載されているわけではない。
したがって、引用発明2-1の「成形体」を乾燥したものは、本願発明1の「前駆体」及び「生成凝集前駆体」に相当する。
また、前述の、「成形体」を乾燥したものは、発泡剤が活性化されて発泡すると、膨張されることになることは明らかである。

よって、両者は、次の点で一致する。
<一致点>
無機の主要成分および発泡剤の水性混合物を形成し、前駆体を燃焼させ、前駆体を膨張させる発泡剤を活性化させて低密度材料を形成することによって、前駆体を提供することを包含する低密度材料の製造方法。

そして、両者は、次の3点(相違点1?相違点3)で相違する。
<相違点1>
前駆体を提供するに際して、本願発明1では、「混合物を乾燥させ、予め決定された粒子径に破砕し」ているのに対して、引用発明2-1では、混合物を粉砕し、成形し、その後乾燥している点。

<相違点2>
本願発明1では、「生成凝集前駆体は、50?300ミクロンまでの範囲にある平均凝集粒子径を有し」ているのに対して、引用発明2-1では、「成形体」の大きさが特定されていない点。

<相違点3>
本願発明1では、「発泡剤が、予め決定された最適な温度範囲内で活性化されるように、発泡剤の活性化を制御する」のに対して、引用発明2-1では、そのような特定がない点。

イ.相違点についての判断
(ア)相違点1について
引用発明2-1においても、「成形体」は、「粉砕」及び「成形」の工程を経ることによって、予め決定された大きさにされているといえる。
そして、無機物及び発泡剤の混合物から前駆体を形成し、それを加熱して低密度材料を形成するものにおいて、前駆体を提供するに際して、混合物を乾燥させ、次いで破砕するようにすることは、周知文献1に記載されるように、本願の優先日前に周知の技術である。
すなわち、周知文献1には、低密度材料である「ガラスバブル」を形成するための前駆体である「ガラスバブルフイード粒子」を提供するに際して、無機物及び発泡剤の混合物である「ガラス形成バツチ」を溶融、冷却したものを乾燥させて「フリツト」とし、次いで破砕する点が示されている。
したがって、引用発明2-1において、「成形体」を提供するに際して、混合物を乾燥させて、予め決定された粒子径に破砕するようにすること、すなわち相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、上記の周知の技術を考慮すれば、当業者が適宜なし得たことである。

(イ)相違点2について
引用発明2-1では、人工骨材の大きさが、これを製造するために乾燥・焼成される「成形体」の大きさに依存することは明らかであるから、成形体の粒子径、さらにはこれが乾燥されたものの粒子径は、人工骨材の所望の大きさに応じて決定される事項である。
また、引用発明2-1では、「5?15mm」(摘記刊2b)の大きさの成形体が例示されているが、一般に人工骨材は、この程度の大きさの成形体から得られる程度のものに限定されるものではない(ちなみに、原査定において「引用文献2」として言及された特開平5-246726号公報には、発泡により「直径約5-40ミクロンの中空ガラス微小球体」(段落【0023】)を得ることが記載されている。)。
したがって、引用発明2-1において、得ようとする人工骨材の大きさに応じて、これを製造するために焼成される、「成形体」が乾燥されたものの平均粒子径を「50?300ミクロン」にすること、すなわち相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることに、当業者にとっての格別の創意工夫を見いだすことはできない。
また、「50?300ミクロン」という数値範囲に臨界的意義を見いだすこともできない。

(ウ)相違点3について
本願発明1における、「発泡剤が、予め決定された最適な温度範囲内で活性化されるように、発泡剤の活性化を制御する」ことについて、本願明細書には、「発泡剤の制御は、混合物が前述の最適な温度範囲に達するまで、発泡剤を保存および/または保護する前駆体中に制御剤を供給することによって達成される。」(段落【0018】)、及び「制御剤は、多数の形態で提供されうる。1つの形態では、制御剤は、特定の方法条件下で反応して、前駆体の環境を変え、そしてそれにより発泡剤の活性化を制御する材料を含む。例えば、制御剤は、別の発泡剤の形態でありうる。」(段落【0019】)と記載されている。また、本願明細書には、発泡剤に加えて制御剤を供給すること以外に、「発泡剤の活性化を制御する」ことを実現するために、特定のプロセスや条件等が必須となる旨の記載はない。
したがって、本願発明1における上記の「制御」は、ある「発泡剤」について、単に「制御剤」すなわち「別の発泡剤」を加えることによってなされており、必ずしも特定のプロセスや条件等は必須ではない。つまり、発泡剤に「制御剤」すなわち「別の発泡剤」を加えることのみによって、予め決定された最適な温度範囲内で活性化が起こるように、発泡剤の活性化が制御されていると解される。
そうしてみると、引用発明2-1において、少なくとも「酸化鉄」及び「炭化珪素」を有する複数の発泡剤を使用していることは、実質的に、本願発明1における、「発泡剤が、予め決定された最適な温度範囲内で活性化されるように、発泡剤の活性化を制御する」ことに相当するといえるから、相違点3は実質的なものではない。

(エ)効果について
本願発明1を全体としてみても、本願発明1により奏されるとされる効果は、引用発明2-1及び周知の技術からみて格別なものとはいえない。例えば、「発泡剤の活性化を制御する」という作用効果が、「50?300ミクロン」という生成凝集前駆体の平均凝集粒子径の数値範囲において格別顕著となるというようなことも、本願明細書の記載の限りでは何ら確認できるものではない。

ウ.小括
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用発明2-1及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本願発明2について
ア.対比
本願発明2と引用発明2-2とを対比する。

(ア)上記「(1)ア.(イ)」と同様に、引用発明2-2における、「発泡剤として平均粒度10μm以下の酸化鉄、炭化珪素」は、いずれも、本願発明2の「発泡剤」に相当する。

(イ)上記「(1)ア.(ウ)」と同様に、引用発明2-2における、発泡剤である「酸化鉄」、「炭化珪素」以外の無機物は、本願発明2の「無機の主要成分」に相当する。

(ウ)上記「(1)ア.(オ)」と同様に、引用発明2-2の「成形体」を乾燥したものは、本願発明2の「前駆体」に相当する。
また、引用発明2-2において、発泡剤である「酸化鉄」、「炭化珪素」以外の無機物(前述したように、本願発明2の「無機の主要成分」に相当。)は、発泡剤が活性化されて発泡すると、膨張されることになるのは明らかである。

(エ)引用発明2-2の「人工骨材」は、「造粒」(摘記刊2b)、乾燥、焼成されて製造されているので、少なくとも「粒子」であるという意味において、本願発明2の「微粒子」と共通する。

よって、両者は、次の点で一致する。
<一致点>
膨張可能な無機の主要成分を包含し、発泡剤は活性化され、そしてそれにより該主要成分を膨張させるよう調節され、膨張した粒子を製造するのに適した前駆体。

そして、両者は、次の2点(一応の相違点1及び一応の相違点2)で一応相違する。
<一応の相違点1>
本願発明2では、「制御剤は、発泡剤が予め決定された最適な温度範囲内で活性化されるように発泡剤の活性化を制御するように選択される」のに対して、引用発明2-2では、制御剤についての明確な特定がない点。

<一応の相違点2>
前駆体について、本願発明2では、「膨張した微粒子を製造するのに適した」と特定されているのに対して、引用発明2-2では、そのような特定はなく、製造されるものが、造粒等の工程を経て得られた、粒子たる「人工骨材」である点。

イ.判断
(ア)一応の相違点1について
本願発明2における、「制御剤は、発泡剤が予め決定された最適な温度範囲内で活性化されるように発泡剤の活性化を制御するように選択される」ことについて、本願明細書には、「発泡剤の制御は、混合物が前述の最適な温度範囲に達するまで、発泡剤を保存および/または保護する前駆体中に制御剤を供給することによって達成される。」(段落【0018】)、及び「制御剤は、多数の形態で提供されうる。1つの形態では、制御剤は、特定の方法条件下で反応して、前駆体の環境を変え、そしてそれにより発泡剤の活性化を制御する材料を含む。例えば、制御剤は、別の発泡剤の形態でありうる。」(段落【0019】)と記載されている。また、本願明細書には、発泡剤に加えて制御剤を供給すること以外に、「発泡剤の活性化を制御する」ことを実現するために、特定のプロセスや条件等が必須となる旨の記載はない。
したがって、本願発明2における上記の「制御」は、ある「発泡剤」について、単に「制御剤」すなわち「別の発泡剤」を加えることによってなされており、必ずしも特定のプロセスや条件等は必須ではない。つまり、発泡剤に「制御剤」すなわち「別の発泡剤」を加えることのみによって、予め決定された最適な温度範囲内で活性化が起こるように、発泡剤の活性化が制御されていると解される。
ところで、引用発明2-2において、還元剤である「石炭またはコークス」は、還元の際にCO_(2)等を発生させるから、その意味において発泡の作用を有しているといえる。
そうしてみると、引用発明2-2において、「酸化鉄」及び「炭化珪素」を有する複数の発泡剤を使用していること、さらには、これらに加えて還元剤を使用していることは、いずれも、実質的に、本願発明2における、「制御剤は、発泡剤が予め決定された最適な温度範囲内で活性化されるように発泡剤の活性化を制御するように選択される」ことに相当するといえるから、一応の相違点1は実質的なものではない。

(イ)一応の相違点2について
本願明細書の記載の限りでは、微粒子の大きさの程度につき特に規定されているものではない。また、一般に人工骨材は、様々な大きさ及び態様のものが存在するところ、引用刊行物2には、「成形体の大きさをどの程度にするかは、主として製品として得る人工軽量骨材の大きさに従う。」(摘記刊2b)と記載されている。
そうしてみると、上記の「人工軽量骨材」には、様々な大きさや態様のものが含まれており、単なる「微粒子」も包含されると解されるから、引用発明2-2の「成形体」を乾燥したものは、「膨張した微粒子を製造するのに適した」ものも含めたものであると解される。
したがって、一応の相違点2も実質的なものではない。

ウ.小括
以上のとおりであるから、本願発明2と引用発明2-2には、実質的な相違点がないことになる。
したがって、本願発明2は、引用刊行物2に記載された発明である。

5 むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本願発明2は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-27 
結審通知日 2012-07-03 
審決日 2012-07-17 
出願番号 特願2006-529434(P2006-529434)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B01J)
P 1 8・ 121- Z (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷水 浩一  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 田村 耕作
井上 茂夫
発明の名称 低密度製品の製造方法  
代理人 河村 洌  
代理人 谷 征史  
代理人 藤森 洋介  

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