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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 D07B 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 D07B |
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管理番号 | 1267253 |
審判番号 | 無効2011-800268 |
総通号数 | 158 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-02-22 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2011-12-27 |
確定日 | 2012-11-12 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4080510号発明「高強度PC鋼撚り線、その製造方法およびそれを用いたコンクリート構造物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正特許請求の範囲のとおりの訂正を認める。 特許第4080510号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件審判の請求に係る特許第4080510号(以下、「本件特許」という。)の手続の経緯は、以下のとおりである。 平成18年 2月23日 本件出願 平成20年 2月15日 設定登録 平成23年12月27日 本件無効審判請求 平成24年 3月19日 答弁書、訂正請求書 同年 6月 8日 口頭審理陳述要領書(請求人) 同年 6月27日 口頭審理陳述要領書(被請求人) 同年 7月 3日 上申書(請求人)(審決注:提出時の書面の日 付けである「平成24年7月11日」は、職権により「平成24年 7月3日」に訂正した。) 同年 7月11日 口頭審理 同年 7月27日 上申書(請求人) 同年 8月24日 上申書(被請求人) 第2 訂正請求について 1.訂正請求の内容 平成24年3月19日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許第4080510号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものであり、具体的には以下の[訂正前]の特許請求の範囲を[訂正後]の特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものである。 なお、上記訂正請求書には訂正明細書も添付されているが、被請求人は明細書の訂正は求めていない。 [訂正前] 「【請求項1】 1本の中心線と6本の側線とを撚り合わせた7本撚り構成で、外径が15.0?15.6mmであり、総断面積が135?148mm^(2)であり、0.2%永久伸びに対する荷重が266kN以上である高強度PC鋼撚り線。 【請求項2】 試験時間を1000時間としたリラクセーション試験で測定されるリラクセーション値が、2.5%以下であることを特徴とする請求項1に記載の高強度PC鋼撚り線。 【請求項3】 前記中心線の線径を5.22±0.2mm、前記側線の線径を5.07±0.2mmとしたことを特徴とする請求項1または2に記載の高強度PC鋼撚り線。 【請求項4】 前記中心線および側線として、Cを0.90wt%以上含む鋼線を使用したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の高強度PC鋼撚り線。 【請求項5】 請求項1乃至4のいずれかに記載の高強度PC鋼撚り線の製造方法において、前記中心線と側線とを撚り合わせ、ストレッチング処理を行った後、もしくはストレッチング処理と同時に、430℃以下でブルーイング処理を行うことを特徴とする高強度PC鋼撚り線の製造方法。 【請求項6】 請求項1乃至4のいずれかに記載の高強度PC鋼撚り線を用いたコンクリート構造物。」 [訂正後](下線は訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲による。) 「【請求項1】 1本の中心線と6本の側線とを撚り合わせた7本撚り構成で、外径が15.0?15.6mmであり、総断面積が135?148mm^(2)であり、 前記中心線および側線に、重量%で、C:0.90?1.3%、Si:0.5?1.2%、Mn:0.1?1.0%、Cr:0.05?1.5%を含み、残部がFeおよび不可避的に混入してくる不純物からなる成分の鋼線を使用するとともに、前記中心線の線径を5.22±0.2mm、前記側線の線径を5.07±0.2mmとし、 試験時間を1000時間としたリラクセーション試験で測定されるリラクセーション値が、2.5%以下、0.2%永久伸びに対する荷重が266kN以上である高強度PC鋼撚り線。 【請求項2】 請求項1に記載の高強度PC鋼撚り線の製造方法において、前記中心線と側線とを撚り合わせ、ストレッチング処理を行った後、もしくはストレッチング処理と同時に、430℃以下でブルーイング処理を行うことを特徴とする高強度PC鋼撚り線の製造方法。 【請求項3】 請求項1に記載の高強度PC鋼撚り線を用いたコンクリート構造物。」 2.訂正の適否 本件訂正は、以下の(訂正事項1)ないし(訂正事項4)からなるものである。 (訂正事項1)請求項1?3を削除する訂正。 (訂正事項2)請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を更に引用する請求項4の項番号を4から1に繰り上げるとともに、独立形式とした記載に改め、「Cを0.90wt%以上含む鋼線」を「重量%で、C:0.90?1.3%、Si:0.5?1.2%、Mn:0.1?1.0%、Cr:0.05?1.5%を含み、残部がFeおよび不可避的に混入してくる不純物からなる成分の鋼線」とする訂正。 (訂正事項3)請求項5中に「請求項1乃至4のいずれかに記載の」とあるのを「請求項1に記載の」と改め、請求項の項番号を5から2に繰り上げる訂正。 (訂正事項4)請求項6中に「請求項1乃至4のいずれかに記載の」とあるのを「請求項1に記載の」と改め、請求項の項番号を6から3に繰り上げる訂正。 (訂正事項1)は、請求項を削除するものであるから、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成23年改正前特許法」という。)第134条の2第1項第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (訂正事項2)は、(訂正事項1)による請求項の削除に伴い、請求項の記載を独立形式に改めるとともに、引用していた複数の請求項の一部を実質的に引用しないようにし、かつ、鋼線の成分を限定するものであるから、平成23年改正前特許法第134条の2第1項第1号の特許請求の範囲の減縮、及び、同第3号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 (訂正事項3)、(訂正事項4)は、(訂正事項1)による請求項の削除に伴い、引用していた複数の請求項の一部を引用しないようにし、(訂正事項2)により減縮した請求項を引用するものであるから、平成23年改正前特許法第134条の2第1項第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、上記(訂正事項1)ないし(訂正事項4)は、いずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、本件訂正は、平成23年改正前特許法第134条の2第1項ただし書き、及び、同条第5項において準用する同法第126条第3項、第4項の規定に適合するので、本件訂正を認める。 第3 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものである(前記「第2」の「1.訂正請求の内容」の[訂正後]参照。)。 第4 請求人の主張 請求人は「特許第4080510号は、これを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨とし、証拠方法として甲第1号証ないし甲第10号証を提出し、次の無効理由を主張する。 <無効理由1> 本件特許発明1ないし3は、甲第1号証ないし甲第7号証、甲第9号証、甲第10号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1ないし3についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 <無効理由2> 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許発明1ないし3についての特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。 <証拠方法> 甲第1号証:日本規格協会編、「JISハンドブック(2) 鉄鋼II」、第1 版、財団法人日本規格協会、2004年1月31日、p.7-13、 p.1051-1055 甲第2号証:特許第3684186号公報 甲第3号証:特許第2862206号公報 甲第4号証:特開2000-144321号公報 甲第5号証:特開2002-69580号公報 甲第6号証:特開2004-131797号公報 甲第7号証:「PC綱線及びPC鋼より線品質基準」、社団法人プレストレ スト コンクリート建設業協会、平成元年4月1日、p.1-16 甲第8号証:特許第4080510号公報(本件特許公報) 甲第9号証:特開2003-82438号公報 甲第10号証:特開平8-295932号公報 甲第1号証ないし甲第7号証は審判請求書とともに、甲第8号証は平成24年7月3日付け上申書とともに、甲第9号証及び甲第10号証は平成24年7月27日付け上申書とともに、それぞれ提出されたものである。 第5 被請求人の主張 被請求人は、「審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として乙第1号証ないし乙第4号証を提出し、無効理由が成り立たないと主張する。 <証拠方法> 乙第1号証:JIS G3502 乙第2号証:「高強度PC鋼材を用いたPC構造物の設計施工指針」、社団 法人プレストレストコンクリート技術協会、平成23年6月、 p.19-21 乙第3号証:ワイヤロープハンドブック編集委員会編、「ワイヤロープハン ドブック」、初版、日刊工業新聞社、1995年3月30日、 p.98-111 乙第4号証:「FKK工法^((R)) PC鋼より線仕様書 FKK HTS-2 6」、FKK極東鋼弦コンクリート振興株式会社、2010年 1月、p.1-21 第6 当審の判断 1.本件特許発明1について (1)甲第1号証の記載 甲第1号証には、以下の記載がある。 「PC鋼線及びPC鋼より線」(1051頁 見出し) 「1.適用範囲 この規格は,プレストレストコンクリートに用いるPC綱線(以下,線という。)及びPC綱より線(以下,より線という。)について規定する。 2.引用規格 次に掲げる規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構成する。これらの引用規格は,その最新版を適用する。 JIS G 3502 ピアノ線材 JIS Z 2241 金属材料引張試験方法 JIS G 3525 ワイヤロープ 3.定義 この規格で用いる主な用語の定義は,次による。 a)PC綱線 JIS G 3502の線材にパテンチングを行った後,冷間加工し最終工程において残留ひずみ除去のため,ブルーイングを行った線。 b)PC綱より線 JIS G 3502の線材にパテンチングを行った後,冷間加工した線をより合わせた後,最終工程において残留ひずみ除去のため,ブルーイングを行ったより線。 4.種類,記号及び呼び名 4.1 種類及び記号 線の種類は6種類,より線の種類は10種類とし,その記号は,表1による。」(1051頁1行?13行) 「4.2 呼び名 線及びより線の呼び名は,表2による。 5.機械的性質 線及びより線は,10.1,10.2及び10.3の試験を行い,その機械的性質の値は,表3による。 6.形状,寸法及び許容差 ・・・中略・・・ 6.2 寸法及び許容差 線(ただし,異形線を除く。)及びより線の寸法は,10.4によって測定を行い,その許容差は表4による。7本より線の心線径は,側線径より大で,その差は表4による。 ・・・中略・・・ 6.3 公称断面積及び単位質量 線及びより線の公称断面積並びに単位質量は,表5による。」(1051頁下から11行?1052頁9行) 「10.2 引張試験 引張試験は,次による。 ・・・中略・・・ b)引張荷重は,試験中の最大荷重とし,0.2%永久伸びに対する荷重は,荷重-伸び曲線の直線部分に対し伸び0.2%の隔たりをもつ平行線を引き,原曲線との交点をもって定める。 ・・・中略・・・ 10.3 リラクセーション試験 リラクセーション試験は,常温で試験片を適切な間隔でつかみ,載荷速度を1分間に200±50N/mm^(2)の割合で表3の引張荷重の最小値の70%に相当する荷重(載荷荷重)をかけ,その荷重を120±2秒間維持した後,1000時間つかみ間隔をそのまま保持して荷重の減少を測定する。そして,元の載荷荷重に対するその減少した荷重の百分率をリラクセーション値とする。」(1055頁2行?26行) 表1には、見出しに「種類及び記号」と記載され、「種類」欄に「PC鋼より線」、「7本より線」、「B種」の記載があり、対応する「記号」欄に「SWPR7BN」、「SWPR7BL」の記載があり、「断面」欄に、より線の断面形状が図示されている。(1051頁) 表2には、見出しに「呼び名」と記載され、「記号」欄に「SWPR7BN」、「SWPR7BL」の記載があり、対応する「呼び名」欄に「7本より9.5mm」、「7本より11.1mm」、「7本より12.7mm」、「7本より15.2mm」の記載がある。(1052頁) 表3の見出しに「機械的性質(続き)」と記載された表には、「記号」欄に「SWPR7BN」、「SWPR7BL」の記載があり、対応する「呼び名」欄に「7本より9.5mm」、「7本より11.1mm」、「7本より12.7mm」、「7本より15.2mm」の記載がある。そして、「呼び名」欄の「7本より15.2mm」に対応して、「0.2%永久伸びに対する荷重 kN」欄に「222以上」、「引張荷重 kN」欄に「261以上」、「伸び %」欄に「3.5以上」、「リラクセーション値 %」欄の内「N」欄に「8.0以下」、同「L」欄に「2.5以下」と、それぞれ記載されている。(1053頁) 表4の見出しに「寸法及び許容差(続き)」と記載された表には、右上欄外に「単位 mm」の記載があり、「記号」欄に「SWPR7BN」、「SWPR7BL」の記載があり、対応する「呼び名」欄に「7本より9.5mm」、「7本より11.1mm」、「7本より12.7mm」、「7本より15.2mm」の記載がある。そして、「呼び名」欄の「7本より15.2mm」に対応して、「標準径」欄に「15.2」、「許容差」欄に「+0.4」及び「-0.2」、「心線径と側線径の差」欄に「0.08以上」と、それぞれ記載されている。また、表の下に「備考 7本より線及び19本より線の標準径は,より線の外接円の直径とする。」と記載されている。(1054頁) 表5の見出しに「公称断面積及び単位質量(続き)」と記載された表には、「記号」欄に「SWPR7BN」、「SWPR7BL」の記載があり、対応する「呼び名」欄に「7本より9.5mm」、「7本より11.1mm」、「7本より12.7mm」、「7本より15.2mm」の記載がある。そして、「呼び名」欄の「7本より15.2mm」に対応する「公称断面積 mm^(2)」欄に「138.7」と記載されている。(1055頁) これらの記載によれば、甲第1号証には、記号「SWPR7BL」、呼び名「7本より15.2mm」で表されるより線として、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「1本の心線と6本の側線とをより合わせた7本より構成で、標準径が15.2mmで許容差が+0.4mm、-0.2mmであり、公称断面積が138.7mm^(2)であり、 前記心線および側線に、JIS G 3502の線材を使用するとともに、前記心線径と側線径の差を0.08mm以上とし、 試験時間を1000時間としたリラクセーション試験で測定されるリラクセーション値が、2.5%以下、0.2%永久伸びに対する荷重が222kN以上であるPC鋼より線。」 (2)対比 甲1発明の「より合わせ」、「7本より」は、それぞれ、本件特許発明1の「撚り合わせ」、「7本撚り」に相当し、甲1発明の「PC鋼より線」と、本件特許発明1の「高強度PC鋼撚り線」とは、「PC鋼撚り線」との限度で一致する。 甲1発明の「心線」、「公称断面積」は、それぞれ、本件特許発明1の「中心線」、「総断面積」に相当する。 甲1発明の「標準径が15.2mmで許容差が+0.4mm、-0.2mm」は、本件特許発明1の「外径が15.0?15.6mm」に相当する。 甲1発明の「公称断面積が138.7mm^(2)」は、本件特許発明1の「総断面積が135?148mm^(2)」の要件を満たす。 よって、本件特許発明1と甲1発明との一致点、相違点は以下のとおりである。 [一致点] 「1本の中心線と6本の側線とを撚り合わせた7本撚り構成で、外径が15.0?15.6mmであり、総断面積が135?148mm^(2)であるPC鋼撚り線。」 [相違点1] 本件特許発明1が「前記中心線の線径を5.22±0.2mm、前記側線の線径を5.07±0.2mm」とするのに対し、甲1発明は、心線と側線それぞれの線径を本件特許発明1のようには特定していない点。 [相違点2] 本件特許発明1が「中心線および側線に、重量%で、C:0.90?1.3%、Si:0.5?1.2%、Mn:0.1?1.0%、Cr:0.05?1.5%を含み、残部がFeおよび不可避的に混入してくる不純物からなる成分の鋼線」を使用するのに対し、甲1発明は、JIS G 3502の線材を使用する点。 [相違点3] 本件特許発明1は「試験時間を1000時間としたリラクセーション試験で測定されるリラクセーション値が、2.5%以下、0.2%永久伸びに対する荷重が266kN以上である高強度PC鋼撚り線」であるのに対し、甲1発明は「試験時間を1000時間としたリラクセーション試験で測定されるリラクセーション値が、2.5%以下、0.2%永久伸びに対する荷重が222kN以上であるPC鋼より線」である点。 (3)判断 ア.相違点1について 本件特許発明1は、「前記中心線の線径を5.22±0.2mm、前記側線の線径を5.07±0.2mm」とするのであるから、中心線の線径は5.02mm?5.42mmの範囲であり、側線の線径は4.87mm?5.27mmの範囲ということになる。 一方、甲1発明は、「標準径が15.2mmで許容差が+0.4mm、-0.2mm」で「心線径と側線径の差を0.08mm以上」とするものであるから、外径を標準径である15.2mm、心線径と側線径の差を0.08mmとすることが直ちに想起されるところ、この場合、より線の断面形状から幾何学的に算出される心線径は5.12mmで、側線径は5.04mmである(「外径=心線径+2×側線径」より。)。すなわち、心線径も側線径も、本件特許発明1の上記範囲内のものとなる。更に、甲第9号証には、芯線径が5.26mm、側線径が5.04mmである呼び径15.2mmの7本よりPC鋼より線の例が示されている(【0016】)。 よって、甲1発明において、中心線の線径を5.02mm?5.42mm、側線の線径を4.87mm?5.27mmの範囲内とすること、すなわち、相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到しえたものである。 イ.相違点2、3について 甲第2号証には、以下の記載がある。 「【請求項1】 JIS規格の19本撚りで構成される標準径が19.3mmであって、総断面積が240?250mm^(2)であり、引張荷重が550kN以上であることを特徴とする高強度PCストランド。 ・・・中略・・・ 【請求項5】 質量%で、 C:0.87?1.3%、 Si:0.5?1.2%、 Mn:0.1?1.0%を含み、残部をFeおよび不可避的不純物からなる鋼を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項4に記載の高強度PCストランド。 【請求項6】 線材の強度を高めるために請求項5に記載の鋼成分に加え、質量%で、 Cr:0.05?1.5%、 Ni:0.03?1.0%、 V:0.001?0.5%、 Nb:0.001?0.5%、 Mo:0.001?0.5%の1種以上を含むことを特徴とする請求項1乃至請求4に記載の高強度PCストランド。」 上記記載によれば、甲第2号証には、相違点2に係る「重量%で、C:0.90?1.3%、Si:0.5?1.2%、Mn:0.1?1.0%、Cr:0.05?1.5%を含み、残部がFeおよび不可避的に混入してくる不純物からなる成分の鋼線」が開示されている。 そして、甲第2号証に記載された発明は、高強度のPCストランドを得るとの課題及び効果を有する(【0004】、【0028】)ところ、甲1発明も、同様の課題を有することは、当業者には明らかである。 そうすると、甲1発明のPC鋼より線の強度を高めるべく、中心線と側線に、甲第2号証に開示された強度の高い鋼線の成分を採用することにより、相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到しえたことである。 また、甲第2号証に、「引張荷重」は記載されているものの、「0.2%永久伸びに対する荷重」は記載されていないが、甲第1号証の「表3 機械的性質」を見ると、「引張荷重」のJIS規格下限値と「0.2%永久伸びに対する荷重」のJIS規格下限値とに相関関係が認められる。このことから、「引張荷重」から「0.2%永久伸びに対する荷重」を単純に算出することができないとしても、PC鋼より線は、「引張荷重」が高くなれば、それに応じて「0.2%永久伸びに対する荷重」も高くなる傾向があるものと認められる。 よって、甲1発明のPC鋼より線の中心線と側線に、甲第2号証に開示された強度の高い鋼線の成分を採用すれば、「引張荷重」が高いことに加え、「0.2%永久伸びに対する荷重」も高い「高強度PC鋼撚り線」が得られるものと期待できる。そして、甲第2号証に開示された引張荷重は550kN以上(【請求項1】)であって、19本より19.3mmのPC鋼より線についてのJIS規格の引張荷重の下限値である451kN(甲第1号証の表3参照。)に比べて20%以上高くなっていること、甲第9号証には、7本より15.2mmのPC鋼より線について「0.2%永久伸びに対する荷重」が279kNの例が示されている(【0016】、【表4】)ことからみて、甲1発明のPC鋼より線の中心線と側線に、甲第2号証に開示された強度の高い鋼線の成分を採用した場合に、「0.2%永久伸びに対する荷重」が「222kN以上」に比べて20%高い「266kN以上」となることは、当業者が予測できる範囲内のものである。 そして、甲1発明は「試験時間を1000時間としたリラクセーション試験で測定されるリラクセーション値が、2.5%以下、0.2%永久伸びに対する荷重が222kN以上」という機械的特性を有するものであるところ、「引張荷重」を高く、ひいては「0.2%永久伸びに対する荷重」を高くした場合にあっても、リラクセーション値を悪化させないこと、すなわち、「試験時間を1000時間としたリラクセーション試験で測定されるリラクセーション値が、2.5%以下」を満たすようにすることは、普通に考慮すべきことである。もっとも、被請求人が指摘するように(平成24年8月24日付け上申書9頁19行?23行)、リラクセーション値と引張荷重ないし0.2%永久伸びに対する荷重との相関が認められないから、上記のとおり、甲1発明のPC鋼より線の中心線と側線に、甲第2号証に開示された鋼線の成分を採用した場合に、「試験時間を1000時間としたリラクセーション試験で測定されるリラクセーション値が、2.5%以下」を満たすかは、測定してみなければ確認できないといえる。しかし、本件特許明細書(甲第8号証)の「図1および図2から明らかなように、このPC鋼撚り線は、ブルーイング処理での加熱温度が300℃から380℃の範囲では、0.2%荷重、リラクセーション値とも安定しているが、380℃を超えると0.2%荷重が減少していき、400℃を超えるとリラクセーション値が増大していく。しかし、加熱温度を450℃以下とすれば266kN以上の0.2%荷重が得られ、430℃以下とすればリラクセーション値を2.5%以下に抑えられることがわかる。」(【0019】)との記載を参照すると、本件特許発明1において、相違点3に係る機械的特性は、相違点2に係る成分の綱線を採用したことに加え、ブルーイング処理での加熱温度を430℃以下とすることにより達成されたものと認められ、一方、甲第2号証には、相違点2に係る成分の綱線が開示されていることに加え、「ブルーイング処理を350℃?400℃で行い」(【請求項11】)と記載されているから、甲1発明のPC鋼より線の中心線と側線に、甲第2号証に開示された鋼線の成分を採用し、甲第2号証に開示された条件でブルーイング処理すれば、結果として、「試験時間を1000時間としたリラクセーション試験で測定されるリラクセーション値が、2.5%以下」は満たされるものと認められる。 そして、「0.2%永久伸びに対する荷重」、「リラクセーション値」は、いずれもJIS規格に定められているのであるから、得られたより線の各値を測定して、「試験時間を1000時間としたリラクセーション試験で測定されるリラクセーション値が、2.5%以下、0.2%永久伸びに対する荷重が266kN以上である」と確認することも、当業者が容易になし得たことである。 したがって、相違点3に係る本件特許発明1の構成は、甲1発明のPC鋼より線の中心線と側線に、甲第2号証に開示された強度の高い鋼線の成分を採用し、甲第2号証に開示されたブルーイング処理条件を採用した結果として得られる構成であって、JIS規格に定められた「0.2%永久伸びに対する荷重」並びに「リラクセーション値」を測定することによって容易に確認できるものであるから、当業者が容易に想到しえたものである。 被請求人は、19本より19.3mmのPC鋼より線の組成を7本より15.2mmのPC鋼より線に適用することは容易でない旨主張する(平成24年6月27日付け口頭審理陳述要領書10頁11行?20行)。しかし、前者と後者で素線径が異なり、その結果、素線の強度が異なるとしても、甲第2号証に開示された成分によって、前者の素線の強度が従来に比べて高くなるのであれば、同成分によって後者の素線の強度も従来に比べて高くなると期待することは自然なことである。被請求人は、19本より19.3mmのPC鋼より線と7本より15.2mmのPC鋼より線とは、撚り線構造や減面率が異なるために機械的性質も異なるから、甲第2号証に開示された成分によって、素線において強度が高くなると思われても、7本より15.2mmのPC鋼より線に適用した場合に各機械的性質が向上することは想到し得ないとも主張する(平成24年8月24日付け上申書10頁下から2行?12頁2行)。しかし、甲1発明は、7本より15.2mmのPC鋼より線の発明なのであり、該甲1発明の素線に甲第2号証に開示された成分を採用するにあたって、撚り線構造や減面率を変更する理由は無いから、素線の強度が高くなれば、PC鋼より線の強度も高くなることは明らかである。よって、上記被請求人の主張はいずれも理由が無い。 被請求人は、「0.2%永久伸びに対する荷重」の目標値を定めることが、当業者にとって自明ではない旨主張する(平成24年8月24日付け上申書9頁12行?17行)。しかし、「0.2%永久伸びに対する荷重」もJIS規格に下限値が定められているのであるから、その値に対して目標値を定めることに困難性は認められない。よって、上記被請求人の主張は理由が無い。 また、被請求人は、甲第9号証の「7本よりPC鋼撚り線」は、0.2%永久伸びに対する荷重が279kNであるが、リラクセーション値が本件特許発明1に比べて劣る旨を主張する(平成24年8月24日付け上申書9頁24行?10頁6行)。しかし、当審は、前述のとおり、相違点3に係る本件特許発明1の構成は、甲1発明のPC鋼より線の中心線と側線に、甲第2号証に開示された強度の高い鋼線の成分を採用し、甲第2号証に開示されたブルーイング処理条件を採用した結果として得られる構成であると判断するものであって、甲第9号証についての上記被請求人の主張は、この判断を左右するものではない。 以上のとおり、相違点2及び相違点3に係る本件特許発明1の構成は、甲1発明のPC鋼より線の中心線と側線に、甲第2号証に開示された強度の高い鋼線の成分を採用し、甲第2号証に開示されたブルーイング処理条件を採用することにより、当業者が容易に想到しえたものである。 (4)まとめ したがって、本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 なお、被請求人は、「減面率(83.57?85.97%)を加入する訂正」の機会を求めているが(平成24年8月24日付け上申書13頁7行?22行)、被請求人には既に訂正請求の機会が与えられ、現に平成24年3月19日付けで訂正請求がなされており、重ねて訂正の機会を与えるべき理由は無い。(なお、甲第9号証は、本件特許発明1が甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの無効理由を実質的に変更するものではないから、審判請求書の要旨を変更するものではない。) また、仮に上記訂正請求がなされたとしても、特許明細書には、「減面率(83.57?85.97%)」との事項は記載されていないから、当該事項を加入する訂正は、平成23年改正前特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定に適合せず、認められないものである。 2.本件特許発明2について (1)甲第1号証に記載された発明 甲1発明のPC鋼より線を製造するにあたって、中心線と側線とを撚り合わせることは当然であるから、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。 「甲1発明のPC鋼より線の製造方法において、前記中心線と側線とを撚り合わせるPC鋼より線の製造方法。」 (2)対比 本件特許発明2と甲1発明2を対比すると、本件特許発明2は、本件特許発明1と甲1発明との相違点である、前記[相違点1]ないし[相違点3]の点で甲1発明2と相違し、更に次の点で甲1発明2と相違する。 [相違点4] 本件特許発明2は、「ストレッチング処理を行った後、もしくはストレッチング処理と同時に、430℃以下でブルーイング処理を行う」のに対し、甲1発明2は、このような処理を行うことを特定していない点。 (3)判断 ア.相違点1ないし相違点3について 前記「1.本件特許発明1について」の「(3)判断」に示したとおり、相違点1ないし相違点3に係る本件特許発明2の構成は、いずれも当業者が容易に想到しえたものである。 イ.相違点4について ブルーイング処理は、甲第2号証(【請求項11】、【0020】)、甲第3号証(【0005】)、甲第4号証(【請求項2】)、甲第5号証(【請求項5】)、甲第6号証(【請求項5】)、甲第9号証(【0016】)に示され、特に、甲第2号証には、ヒートストレッチング処理あるいはブルーイング処理を350℃?400℃で行うことが開示され、甲第9号証には、350℃でのホットストレッチ処理が開示されていることから、「ストレッチング処理を行った後、もしくはストレッチング処理と同時に、430℃以下でブルーイング処理を行う」ことは周知技術と認められる。 よって、相違点4に係る本件特許発明2の構成は、甲1発明2に上記周知技術を採用することにより、当業者が容易に想到しえたものである。 (4)まとめ したがって、本件特許発明2は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明、並びに、甲第2号証ないし甲第6号証、甲第9号証に開示された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 3.本件特許発明3について (1)甲第1号証に記載された発明 甲第1号証には、PC鋼より線が、プレストレストコンクリートに用いるものであることも記載されている(「1.適用範囲」(1051頁)参照。)から、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明3」という。)が記載されていると認められる。 「甲1発明のPC鋼より線を用いたコンクリート構造物。」 (2)対比・判断 本件特許発明3と甲1発明3を対比すると、本件特許発明3は、本件特許発明1と甲1発明との相違点である、前記[相違点1]ないし[相違点3]の点で甲1発明3と相違する。 そして、前記「1.本件特許発明1について」の「(3)判断」に示したとおり、相違点1ないし相違点3に係る本件特許発明3の構成は、いずれも当業者が容易に想到しえたものである。 (3)まとめ したがって、本件特許発明3は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 結び 以上のとおり、本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明2は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明、並びに、甲第2号証ないし甲第6号証、甲第9号証に開示された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明3は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、請求人が主張する無効理由1は、理由がある。本件特許発明1ないし3についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当するので、他の理由について検討するまでもなく、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 高硬度PC鋼撚り線、その製造方法およびそれを用いたコンクリート構造物 【技術分野】 【0001】 本発明は、冷間で伸線加工された複数本の線材を撚り合せて製造する高強度PC鋼撚り線と、その製造方法およびそれを用いたコンクリート構造物に関する。 【背景技術】 【0002】 PC鋼撚り線は、通常、JIS G 3502に規定される線材を冷間で伸線加工した後、複数本撚り合わせ、最終工程で残留ひずみ除去のためのブルーイング処理を行う方法で製造され、JIS G 3536の規格を満たすものが使用されている。このPC鋼撚り線の強度を高めることができれば、それを用いたコンクリート構造物の高強度化や施工性向上、すなわち、従来よりも小径のPC鋼撚り線を用いたり、PC鋼撚り線の挿入ピッチを拡げたりすることができるようになる。 【0003】 そこで、例えば、特許文献1では、JIS G 3536における19本撚り線のうちの標準径が19.3mmのものに対して、撚り線構成および外径が同じで総断面積も公称断面積と同程度であり、引張荷重が規格値の下限を大幅に上回るPC鋼撚り線(PCストランド)が提案されている。 【特許文献1】特許第3684186号公報 【0004】 しかしながら、上記特許文献1に記載されたPC鋼撚り線のように引張荷重を従来よりも大幅に高めた場合、伸線加工中のひずみ時効による靭性低下を抑えつつ、JIS G 3536で規定された0.2%永久伸びに対する荷重および低リラクセーション品のリラクセーション値を得ることは、極めて困難である。そして、0.2%永久伸びに対する荷重が低いものは実用に供することが難しいし、最近のコンクリート構造物へのPC鋼撚り線の使用状況から考えると、低リラクセーション品のリラクセーション特性を満足しないものは存在価値が薄い。 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明の課題は、従来よりも高強度で、かつ実用に適したPC鋼撚り線およびそれを用いたコンクリート構造物を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0006】 上記の課題を解決するために、本発明の高強度PC鋼撚り線は、1本の中心線と6本の側線とを撚り合わせた7本撚り構成で、外径が15.0?15.6mmであり、総断面積が135?148mm^(2)であり、0.2%永久伸びに対する荷重が266kN以上のものとした。 【0007】 すなわち、JIS G 3536における7本撚り線のうちの標準径が15.2mmのものに対して、撚り線構成および外径が同じで総断面積も公称断面積と同程度であり、0.2%永久伸びに対する荷重が規格値の下限(222kN)を20%以上上回るように調整することにより、従来よりも高強度で、かつ実用に適したものとすることができる。ここで、総断面積を上記範囲に限定したのは、総断面積が135mm^(2)未満では、中心線および側線が単独で必要とされる引張強さを確保することが難しくなり、148mm^(2)を超えると、外径を標準径15.2mmの許容範囲(15.0?15.6mm)に収めることが難しくなるからである。また、0.2%永久伸びに対する荷重が266kN未満では、従来のものに対する強度向上代が小さく、それを用いたコンクリート構造物の高強度化や施工性向上のメリットが小さい。 【0008】 上記の構成において、試験時間を1000時間としたリラクセーション試験で測定されるリラクセーション値が2.5%以下となるように調整することにより、JIS G 3536で規定された低リラクセーション品のリラクセーション値を満足させ、適用可能範囲を広げることができる。 【0009】 前記中心線の線径は5.22±0.2mm、前記側線の線径は5.07±0.2mmとすることが望ましい。中心線または側線がこの線径範囲を外れると、外径をJIS G 3536の標準径15.2mmの許容範囲に収めることが難しくなる。 【0010】 前記中心線および側線としては、Cを0.90wt%以上含む鋼線を使用することが望ましい。C含有量が0.90wt%未満の鋼線を使用すると、強度の確保が難しくなる。 【0011】 上述した構成の高強度PC鋼撚り線を製造する際には、前記中心線と側線とを撚り合わせ、ストレッチング処理を行った後、もしくはストレッチング処理と同時に、430℃以下でブルーイング処理を行うことにより、0.2%永久伸びに対する荷重を266kN以上とし、前記リラクセーション値を2.5%以下とすることが容易となる。 【0012】 また、コンクリート構造物に上述した構成の高強度PC鋼撚り線を用いることにより、その構造物を従来よりも高強度のものあるいは施工性に優れたものとすることができる。 【発明の効果】 【0013】 上述したように、本発明のPC鋼撚り線は、0.2%永久伸びに対する荷重がJIS規格値の下限を大幅に上回るものであるから、従来よりも高強度で、かつ確実に実用に供することができる。また、リラクセーション特性がJISに規定された低リラクセーション品の規格値を満たすように調整することにより、適用可能範囲をさらに広げることができる。 【0014】 そして、本発明の高強度PC鋼撚り線の製造方法によれば、より確実に上記の特性を有するPC鋼撚り線を製造することができる。 【0015】 また、本発明のコンクリート構造物は、上記特性を有する高強度PC鋼撚り線を用いたものであるから、従来よりも高強度のものあるいは施工性に優れたものとなる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0016】 以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。この実施形態の高強度PC鋼撚り線は、1本の中心線(線径:5.25mm)と6本の側線(線径:5.05mm)とを撚り合わせた7本撚り構成のもので、その外径は15.55mm、総断面積は142mm^(2)となっている。この撚り線構成、外径および総断面積は、JIS G 3536における7本撚り線のうちの標準径が15.2mmのものに準じている。また、その中心線および側線としては、重量%で、C:0.90?1.3%、Si:0.5?1.2%、Mn:0.1?1.0%、Cr:0.05?1.5%を含み、残部がFeおよび不可避的に混入してくる不純物からなる成分の鋼線を使用している。そして、0.2%永久伸びに対する荷重が266kN以上、試験時間を1000時間としたリラクセーション試験で測定されるリラクセーション値が2.5%以下にそれぞれ調整されている。 【0017】 このPC鋼撚り線の製造方法は、まず、上記成分の素線(線径:13.0mm)をパテンティング処理して、その強度を1490?1550MPaに調整した後、9枚のダイスを有する連続伸線機により前記中心線および側線の線径まで冷間伸線加工する。そして、中心線と側線とを撚り合わせ、ストレッチング処理を行った後、430℃以下でブルーイング処理を行う。このストレッチング処理は、撚り線工程の途中に設置した2つのキャプスタンの間で撚り線に適度な引張荷重をかけて行う。また、ブルーイング処理は、加熱炉で2?3秒間高周波加熱した後、水冷槽に通して水冷する。なお、加熱炉と水冷槽との間では、数秒間空冷される。 【0018】 図1および図2は、上記製造方法におけるブルーイング処理での加熱温度の影響を調査した結果を示すもので、図1は加熱温度と0.2%永久伸びに対する荷重(以下、0.2%荷重という)および引張荷重との関係を、図2は加熱温度とリラクセーション値との関係をそれぞれ示している。ここで、加熱温度は放射温度計による撚り線表面温度の測定値であり、リラクセーション値は、試験時間を1000時間としたリラクセーション試験での測定値である。 【0019】 図1および図2から明らかなように、このPC鋼撚り線は、ブルーイング処理での加熱温度が300℃から380℃の範囲では、0.2%荷重、リラクセーション値とも安定しているが、380℃を超えると0.2%荷重が減少していき、400℃を超えるとリラクセーション値が増大していく。しかし、加熱温度を450℃以下とすれば266kN以上の0.2%荷重が得られ、430℃以下とすればリラクセーション値を2.5%以下に抑えられることがわかる。 【0020】 そこで、実際の製造工程では、上述したようにブルーイング処理での加熱温度を430℃以下(好ましくは380℃以下)に設定している。例えば、加熱温度を380℃とした場合、図1および図2に示した調査結果では、0.2%荷重は302kNとなって、JIS G 3536における7本撚り線のうちの標準径が15.2mmのものに対して規定された規格値の下限(222kN)を約36%上回る。また、リラクセーション値は1.70%となって、同JIS規格に規定された低リラクセーション品の規格値の上限(2.5%)に対して30%以上下回る。なお、引張荷重は、加熱温度430℃以下で、同JIS規格に規定された規格値の下限(261kN)を20%以上上回る。 【0021】 そして、このPC鋼撚り線を使用してコンクリート構造物を製造したところ、従来に比べて大幅な高強度化あるいは施工性向上が確認された。 【図面の簡単な説明】 【0022】 【図1】実施形態のPC鋼撚り線の加熱温度と0.2%荷重および引張荷重との関係を示すグラフ 【図2】実施形態のPC鋼撚り線の加熱温度とリラクセーション値との関係を示すグラフ (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 1本の中心線と6本の側線とを撚り合わせた7本撚り構成で、外径が15.0?15.6mmであり、総断面積が135?148mm^(2)であり、 前記中心線および側線に、重量%で、C:0.90?1.3%、Si:0.5?1.2%、Mn:0.1?1.0%、Cr:0.05?1.5%を含み、残部がFeおよび不可避的に混入してくる不純物からなる成分の鋼線を使用するとともに、前記中心線の線径を5.22±0.2mm、前記側線の線径を5.07±0.2mmとし、 試験時間を1000時間としたリラクセーション試験で測定されるリラクセーション値が2.5%以下、0.2%永久伸びに対する荷重が266kN以上である高強度PC鋼撚り線。 【請求項2】 請求項1に記載の高強度PC鋼撚り線の製造方法において、前記中心線と側線とを撚り合わせ、ストレッチング処理を行った後、もしくはストレッチング処理と同時に、430℃以下でブルーイング処理を行うことを特徴とする高強度PC鋼撚り線の製造方法。 【請求項3】 請求項1に記載の高強度PC鋼撚り線を用いたコンクリート構造物。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2012-09-13 |
結審通知日 | 2012-09-18 |
審決日 | 2012-10-01 |
出願番号 | 特願2006-46892(P2006-46892) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
ZA
(D07B)
P 1 113・ 537- ZA (D07B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 佐野 健治 |
特許庁審判長 |
栗林 敏彦 |
特許庁審判官 |
河原 英雄 紀本 孝 |
登録日 | 2008-02-15 |
登録番号 | 特許第4080510号(P4080510) |
発明の名称 | 高強度PC鋼撚り線、その製造方法およびそれを用いたコンクリート構造物 |
代理人 | 鎌田 文二 |
代理人 | 田川 孝由 |
代理人 | 東尾 正博 |
代理人 | 鎌田 文二 |
代理人 | 清水 隆 |
代理人 | 東尾 正博 |
代理人 | 清水 隆 |
代理人 | 田川 孝由 |