ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P |
---|---|
管理番号 | 1267310 |
審判番号 | 不服2011-27807 |
総通号数 | 158 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-02-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-12-26 |
確定日 | 2012-12-06 |
事件の表示 | 特願2001-196446「洗濯機及び永久磁石形直流モータ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月17日出願公開,特開2003- 18879〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願の発明 本願は,平成13年 6月28日の特許出願であって,平成23年 9月21日付けで拒絶査定がなされ,この査定を不服として,同年12月26日に本件審判請求とともに手続補正がなされた。 一方,当審において平成24年 7月 6日付けで拒絶理由を通知し,応答期間内である同年 9月10日に意見書が提出されたところである。 そして,この出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成23年12月26日に提出された手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりものと認められる。 「【請求項1】 撹拌翼や回転槽などの負荷が永久磁石形直流モータの駆動軸に直結された状態で駆動されるように構成される洗濯機において, 前記負荷の駆動状態に応じて前記永久磁石形直流モータの固定子巻線の接続状態を変化させることで,該永久磁石形直流モータの誘起電圧定数を変更する誘起電圧定数変更手段を備え, 前記誘起電圧定数変更手段は,前記永久磁石形直流モータの低速回転領域では前記誘起電圧定数が相対的に高くなるように,前記永久磁石形直流モータの高速回転領域では前記誘起電圧定数が相対的に低くなるように変更するもので,洗い行程においては高トルク低回転の駆動状態に適合させるため,各相毎に用意された複数の巻線を直列に接続し,脱水行程においては低トルク高回転の駆動状態に適合させるため,前記複数の巻線を並列に接続するように切り換えることを特徴とする洗濯機。」 2.引用例とその記載事項 当審における平成24年 7月 6日付けの拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である実願平5-19501号(実開平6-72584号)のCD-ROM(以下,「引用例」という。)には,「脱水洗濯機」に関し,図面とともに次の事項が記載又は示されている。 ・「【0001】 【産業上の利用分野】 本考案は,脱水兼洗濯槽内に配設され内底部に攪拌翼が設けられた回転槽における攪拌翼若しくは回転槽とモータとをクラッチ機構により選択的に連結して回転駆動してなる脱水洗濯機に関する。」 ・「【0006】 【課題を解決するための手段】 上記目的を達成するために本考案は,内底部に攪拌翼が設けられた回転槽を脱水兼洗濯槽内に配設し,上記攪拌翼若しくは回転槽とモータとの間にクラッチ機構を介在させ,このクラッチ機構により上記攪拌翼若しくは回転槽とモータとを選択的に連結して回転駆動してなる脱水洗濯機において,上記モータは所定トルク-回転数特性を有する直流モータからなり,洗濯時には上記特性の低速高トルク領域に設定されて上記攪拌翼を回転駆動すると共に,脱水時には上記特性の高速低トルク領域に設定されて上記攪拌翼と回転槽とを回転駆動してなることを特徴とするものである。 【0007】 【作用】 モータとして所定のトルク-回転数特性を有する直流モータを用い,洗濯を行う場合はその特性の低速高トルク領域に設定して攪拌翼を回転駆動し,脱水を行う場合はその特性の高速低トルク領域に設定して攪拌翼と回転槽とを回転駆動する。これによって,減速機構を不要にしてモータの回転速度を制御することができる。」 ・「【0008】 【実施例】 以下図面を参照して本考案の実施例を説明する。 図1は本考案の脱水洗濯機の実施例を示す構成図で,内底部に攪拌翼5が設けられた回転槽4が脱水兼洗濯槽1内に配設され,この脱水兼洗濯槽1は吊り棒3を介して外箱2内に弾性支持されている。回転槽4には中空状の回転槽駆動軸4Aが設けられると共に,この回転槽駆動軸4Aの中空部内には攪拌翼5に設けられた攪拌翼駆動軸5Aが挿通されて,これら回転槽駆動軸4A及び攪拌翼駆動軸5Aはクラッチ機構45を介してモータ10に連結可能になっている。モータ10としてはブラシレスモータのような直流モータが用いられて直結されるようになっており,クラッチ機構45は洗濯時には攪拌翼5をモータ10に直結して回転駆動させると共に,脱水時は攪拌翼5と回転槽4とを一体にモータ10に直結して回転駆動させるように働く。 【0009】 6は回転槽4に設けられた透孔,7は回転槽4に設けられた脱水孔,8は排水空間,9は有底環状体,13は脱水兼洗濯槽1内に連通する排水路,14は排水路13に設けられた排水弁,15は排水弁14,回転槽4を制動して停止させるブレーキ装置46(図1では図示省略)及びクラッチ機構45を連動駆動するアクチェータ,16は排水路,17は排水ホース,29は排水弁14を制御するワイヤである。 【0010】 ここで直流モータからなるモータ10は,図2に示すように,トルクT(横軸)が増加するに従って,回転数N(縦軸)が直線的に減少するような所定のトルクT-回転数N特性を有している。そして,洗濯時にはこのトルクT-回転数N特性において,モータ10は低速高トルク領域Aが設定されて,後述の制御手段40によってクラッチ機構45を介して攪拌翼5に連結されてこれを回転駆動するように制御される。また,脱水時にはモータ10は高速低トルク領域Bが設定されて,制御手段40によってクラッチ機構45を介して攪拌翼5と回転槽4を連結されてこれらを回転駆動するように制御される。 【0011】 図3は本実施例脱水洗濯機の制御系を示すブロック図で,制御手段40はCPU,ROMなどから構成されてモータ10を制御するモータ制御信号を発生するモータ制御信号発生手段43と,モータアクチェータ15を制御するモータアクチェータ制御信号発生手段44とを含んでいる。制御手段40は操作部41を操作することによって動作を開始し,予めプログラムされた一連の洗濯スケジュールに従ってモータ10及びモータアクチェータ15を駆動制御する。11は制御機構を示している。 【0012】 次に本実施例の動作を説明する。操作部41を操作して洗濯を行う場合は,この操作に基づいて制御手段40は予めプログラムされた洗濯スケジュールに従ってモータ制御信号発生手段43を制御して,モータ10にモータ制御信号を発生させて図2のトルクT-回転数N特性において低速高トルク領域Aを設定すると共に,クラッチ機構45によって攪拌翼5とモータ10とを連結させて攪拌翼5を回転駆動する。次に,操作部41を操作して脱水を行う場合は,この操作に基づいて制御手段40は洗濯時と同様にモータ制御信号発生手段43を制御して,モータ10にモータ制御信号を発生させて図2のトルクT-回転数N特性において高速低トルク領域Bを設定すると共に,クラッチ機構45によって攪拌翼5と回転槽4とを連結させてこれらを回転駆動する。 【0013】 このような本実施例によれば,モータ10として所定のトルクT-回転数N特性を有する直流モータを用い,洗濯を行う場合はその特性の低速高トルク領域Aに設定して攪拌翼5を回転駆動し,脱水を行う場合はその特性の高速低トルク領域Bに設定して攪拌翼5と回転槽4とを回転駆動するようにしたので,従来のような減速機構を不要にしてモータ10の回転速度を制御することができる。従って構造を簡単にした脱水洗濯機を提供することができる。」 ・「【0015】 なお,モータ10によっては,図2に示すように低速高トルク領域Aと高速低トルク領域Bが設定できる,変化勾配が急なトルクT-回転数N特性を有するモータ以外にも,変化勾配が緩やか特性を有するモータが存在する。図5は後者に属するモータを使用する場合に好適な実施例を示し,洗濯時及び脱水時にモータ10に対する印加電圧を異ならせて,低速高トルク領域Aと高速低トルク領域Bを設定できるようにしたものである。即ち,モータ10に対して異なる2つの電圧a(例えば100V)とb(例えば200V)を印加した場合には,印加電圧に応じて図5に示すように2つの特性カーブC1,C2が得られる。そして,前述の如く,洗濯時には前述の制御手段40によって,モータ10に100Vの電圧aを印加し,特性カーブC1の低速高トルク領域Aを設定する。また,脱水時には制御手段40によって,モータ10に200Vの電圧bを印加し,特性カーブC2の高速低トルク領域Bを設定する。この実施例によれば,変化勾配が緩やかなトルクT-回転数N特性を有するモータ10の場合にも,印加電圧を異ならせることにより2つの領域A,Bを設定でき,モータ10として広範な特性のものが使用可能となる。 【0016】 【考案の効果】 以上述べたように本考案によれば,モータとして所定のトルク-回転数特性を有する直流モータを用い,洗濯時はその特性の低速高トルク領域に設定して攪拌翼を回転駆動し,脱水時はその特性の高速低トルク領域に設定して攪拌翼と回転槽とを回転駆動するようにしたので,減速機構を不要にして構造を簡単にすることができる。」 これらの記載事項及び図示内容を総合すると引用例には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「攪拌翼5や回転槽4がブラスレスモータのような直流モータ10に直結された状態で回転駆動されるように構成される脱水洗濯機において,攪拌翼5や回転槽4の回転駆動状態に応じて前記直流モータ10に対する印加電圧を異ならせ,洗濯時には,直流モータ10は低速高トルク領域Aに設定されて,攪拌翼5に連結されて回転駆動されるように制御され,脱水時には直流モータ10は高速低トルク領域Bに設定されて,攪拌翼5と回転槽4に連結されて回転駆動され,直流モータ10に対する印加電圧を異ならせてモータ制御信号を発生させて低速高トルク領域Aと高速低トルク領域Bを設定できるようにした脱水洗濯機。」 3.発明の対比 本願発明と引用発明とを対比すると,後者の「攪拌翼5」は,前者の「撹拌翼」に,以下同様に,「回転槽4」は「回転槽」に,「攪拌翼5や回転槽4」は「撹拌翼や回転槽などの負荷」に,「ブラスレスモータのような直流モータ10」及び「直流モータ10」は「永久磁石形直流モータ」に,「脱水洗濯機」は「洗濯機」に,「洗濯時」は「洗い工程」に,「低速高トルク領域A」は「高トルク低回転の駆動状態」に,「脱水時」は「脱水工程」に,「高速低トルク領域B」は「低トルク高回転の駆動状態」にそれぞれ相当する。 また,後者の「攪拌翼5や回転槽4がブラスレスモータのような直流モータ10に直結された状態で回転駆動されるように構成される脱水洗濯機」は,前者の「撹拌機や回転槽などの負荷が永久磁石形直流モータの駆動軸に直結された状態で駆動される洗濯機」に相当する。 次に,後者の「攪拌翼5や回転槽4の回転駆動状態に応じて直流モータ10に対する印加電圧を異ならせ」る態様と,前者の「負荷の駆動状態に応じて永久磁石形直流モータの固定子巻線の接続状態を変化させることで,該永久磁石形直流モータの誘起電圧定数を変更する誘起電圧定数変更手段を備え」る態様とは,「負荷の駆動状態に応じて永久磁石形直流モータの状態を変化させ」る概念において共通する。 そして,後者の「洗濯時には,直流モータ10は低速高トルク領域Aに設定されて,攪拌翼5に連結されて回転駆動されるように制御され,脱水時には直流モータ10は高速低トルク領域Bに設定されて,攪拌翼5と回転槽4に連結されて回転駆動され,直流モータ10に対する印加電圧を異ならせてモータ制御信号を発生させて低速高トルク領域Aと高速低トルク領域Bを設定できるようにした」態様と,前者の「洗い行程においては高トルク低回転の駆動状態に適合させるため,各相毎に用意された複数の巻線を直列に接続し,脱水行程においては低トルク高回転の駆動状態に適合させるため,前記複数の巻線を並列に接続するように切り換える」態様とは,「洗い工程においては高トルク低回転の駆動状態に適合させるため,脱水工程においては低トルク高回転の駆動状態に適合させるためにモータの駆動態様を切り換える」概念において共通する。 そうすると,両者は, 「撹拌機や回転槽などの負荷が永久磁石形直流モータの駆動軸に直結された状態で駆動される洗濯機において,前記負荷の駆動状態に応じて前記永久磁石形直流モータの状態を変化させ,洗い工程においては高トルク低回転の駆動状態に適合させるため,脱水工程においては低トルク高回転の駆動状態に適合させるためにモータの駆動態様を切り換える洗濯機。」の点で一致し,以下の点で相違すると認められる。 <相違点> 本願発明では,「負荷の駆動状態に応じて永久磁石形直流モータの固定子巻線の接続状態を変化させることで,該永久磁石形直流モータの誘起電圧定数を変更する誘起電圧定数変更手段を備え,前記誘起電圧定数変更手段は,前記永久磁石形直流モータの低速回転領域では前記誘起電圧定数が相対的に高くなるように,前記永久磁石形直流モータの高速回転領域では前記誘起電圧定数が相対的に低くなるように変更するもので,洗い行程においては高トルク低回転の駆動状態に適合させるため,各相毎に用意された複数の巻線を直列に接続し,脱水行程においては低トルク高回転の駆動状態に適合させるため,前記複数の巻線を並列に接続するように切り換える」のに対して,引用発明では,負荷(攪拌機5や回転槽4)の駆動状態(回転駆動状態)に応じて永久磁石形直流モータ(直流モータ10)の状態を変化させ,洗い工程(洗濯時)においては高トルク低回転の駆動状態(低速高トルク領域A)に適合させるため,脱水工程(脱水時)においては低トルク高回転の駆動状態(高速低トルク領域B)に適合させるため,直流モータ10(永久磁石形直流モータ)への印加電圧を異ならせてモータ制御信号を切り換える(発生させる)ものの,それ以上の特定はなされていない点。 4.相違点の検討・当審の判断 まず,永久磁石式モータにおいて,負荷の駆動状態に応じてステータの巻線コイル(固定子巻線)の接続状態を変化させるものにおいて,高トルク低回転の駆動状態に適合させるため,各相毎に用意された複数の巻線を直列に接続し,低トルク高回転の駆動状態に適合させるため,前記複数の巻線を並列に接続するように切り換えることは,本願出願前より周知の技術である(必要があれば,当審の拒絶理由で引用された特開平11-320640号公報の段落【0001】,【0006】,【0007】,【0012】?【0015】,図1?図3,図5を参照のこと。)。 また,上記のように切り換えることにより,低速回転領域では誘起電圧定数が相対的に高くなり,高速回転領域では誘起電圧定数が相対的に低くなることは明らかである。 そして,引用発明の負荷の駆動状態に応じて永久磁石形直流モータの状態を変化させる洗濯機において,洗い行程においては高トルク低回転の駆動状態に,脱水行程においては低トルク高回転の駆動状態に適合させるための手段として,印加電圧を異ならせてモータ制御信号を発生する(切り換える)ものに代えて,上記周知の技術を適用して,請求項1に係る発明を構成することについては,モータの制御方法において,モータへの印加電圧を変化させずに,他の方法を試みようとすることは,当業者が,普遍的に行うことである上に,引用発明及び上記周知の技術がいずれも,モータの駆動特性を高トルク低回転の駆動状態と低トルク高回転の駆動状態とに適合させるという課題において共通するから,当業者が容易に想到し得たものである。 また,本願発明の作用効果を検討しても,引用発明,及び,上記周知の技術から予測されるものであって格別のものではない。 5.むすび 以上のとおりであるから,本願発明(請求項1に係る発明)は,引用発明,及び,上記周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-10-03 |
結審通知日 | 2012-10-09 |
審決日 | 2012-10-22 |
出願番号 | 特願2001-196446(P2001-196446) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H02P)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 尾家 英樹 |
特許庁審判長 |
大河原 裕 |
特許庁審判官 |
藤井 昇 川口 真一 |
発明の名称 | 洗濯機及び永久磁石形直流モータ |
代理人 | 佐藤 強 |