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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1267391
審判番号 不服2011-28058  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-27 
確定日 2012-12-13 
事件の表示 特願2005-298159「多層配線基板、多層配線基板を用いた半導体装置及びそれらの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 4月26日出願公開、特開2007-109825〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成17年10月12日の出願であって、平成23年9月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年12月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その請求と同時に特許請求の範囲及び明細書を補正する手続補正がなされたものである。

II.平成23年12月27日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年12月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。「第1表面と第2表面にそれぞれ第1及び第2電極を有し、配線層と、ジアゾナフトキノン系の感光剤を用いたPBO(polybenzoxazole)系材料を含む感光性樹脂と、からなり、表面が平坦な状態とされた絶縁層が交互に積層され、上層の前記配線層と下層の前記配線層とを電気的に接続するビアが前記上層及び下層配線層間の前記絶縁層内に形成された多層配線基板において、前記第2表面に設けられた前記第2電極が前記第2表面に露出する前記絶縁層に埋設されており、前記配線層のうち、前記絶縁層に覆われ、引き回し距離が長く、かつ、サブトラクティブ法、セミアディティブ法又はフルアディティブ法により形成された第2配線層が前記絶縁層との密着層を有していないことを特徴とする多層配線基板。」(なお、下線部は補正箇所を示す。)
上記補正は、補正前の請求項1(平成23年6月3日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1)に記載された発明を特定するために必要な事項である「感光性樹脂」に関して「PBO(polybenzoxazole)系材料を含む」との限定を付加し、「絶縁層」に関して「表面が平坦な状態とされた」との限定を付加し、さらに、「第2配線層」の形成手段として「サブトラクティブ法、セミアディティブ法又はフルアディティブ法により形成された」との限定を付加するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
2.引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由では、本願の出願前に頒布された下記刊行物が挙げられている。
・特開2004-200668号公報(以下、「引用文献1」という。)
・特開2003-309121号公報(以下、「引用文献2」という。)
・特開平9-186509号公報(以下、「引用文献3」という。)
(1)引用文献1
引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「【0001】
本発明は、半導体チップ等を搭載し配線基板等に接合される半導体装置とその製造方法、ならびに、この半導体装置に用いられる薄板状配線部材に関するものである。」
イ.「【0035】
一方、高周波用途においては、配線パターンを構成する金属膜の表面平滑性が求められる。高周波信号は表皮効果により配線の表面近傍に集中するため、配線表面に凹凸があると信号の伝達が阻害されることがあるためである。ところが、配線表面の平滑度を上げた場合、隣接する絶縁樹脂層との密着性が不良となる傾向がある。すなわち、高周波特性と、配線および絶縁樹脂間の密着性とは、トレードオフの関係にある。こうした点をいかに改善するかが、重要な技術的課題となる。
【0036】
図4は、本発明に係る半導体装置の断面構造の一例を示す図である。
この半導体装置は、層間絶縁膜405および配線407からなる配線層が複数層積層した多層配線構造体と、その表面に形成された回路素子410aおよび410bにより構成されている。多層配線構造体の裏面には、半田ボール420が設けられている。回路素子410aおよび410bは、封止樹脂415により封止された構造となっている。図4では、図4の構造に対し、さらにダミー配線420が設けられている。これにより、多層配線構造体と封止樹脂415との間の密着性が向上する。
回路素子410aの実装方法につき、図4ではワイヤボンディング方式を採用したが、図13に示すように回路素子410aをフェイスダウンに配置したフリップ実装とすることもできる。
【0037】
こうした半導体装置においては、同層内の隣接する配線407の間や、積層する配線407の間に層間絶縁膜405が介在する形態となっており、(i)配線407と層間絶縁膜405との間の密着性の向上、および(ii)水平方向または積層方向に隣接する配線407間に生じる寄生容量の低減の両立させることが重要となる。ここで、高周波特性向上の観点からは、配線407の表面粗さを平滑にすること、具体的には、たとえばRa値を1μm以下とすることが望まれる。この場合、配線407と層間絶縁膜405との間の密着性を良好にすることは一層困難となる。」
ウ.「【0047】
次に本発明の一実施形態として、支持基板のない半導体装置の製造方法を例に挙げ、図5?図7を参照して説明する。
まず、図5(A)のように、金属箔400上に所定の表面に選択的に導電被膜402を形成する。具体的には、フォトレジスト401で金属箔400を被覆した後、電界メッキ法により、金属箔400の露出面に導電被膜402を形成する。導電被膜402の膜厚は、例えば1?10μm程度とする。この導電被膜402は、最終的に半導体装置の裏面電極となるので、半田等のロウ材との接着性の良い金、または銀を用いて形成することが好ましい。 金属箔400の主材料は、Cu、Al、Fe-Ni等の合金等とすることが好ましい。ロウ材の付着性やメッキ性が良好だからである。金属箔400の厚さは、ここでは70μmとするが、特に制限はない。通常は10μm?300μm程度とする。
【0048】
つづいて図5(B)に示すように、金属箔400上に、第一層目の配線パターンを形成する。まず金属箔400を化学研磨して表面のクリーニングと表面粗化を行う。次に、金属箔400上に熱硬化性樹脂で導電被膜402全面を覆い、加熱硬化させて平坦な表面を有する膜とする。つづいてこの膜中に、導電被膜402に到達する直径100μm程度のビアホール404を形成する。ビアホール404を設ける方法としては、本実施形態では炭酸ガスレーザーを用いた加工によったが、そのほか、機械加工、薬液による化学エッチング加工、プラズマを用いたドライエッチング法などを用いることもできる。
【0049】
その後、エキシマレーザーを照射してエッチング滓を除去し、つづいて、ビアホール404を埋め込むように全面に銅メッキ層を形成する。この銅メッキ層はビアホール404の段差で断線しないように、まず無電界銅メッキして全面に約0.5μmと薄く形成した後、電界メッキにより合計約20μmの厚みに形成する。無電解メッキ用触媒は、通常パラジウムを用いることが多く、可とう性の絶縁基材に無電解用メッキ用触媒を付着させるには、パラジウムを錯体の状態で水溶液に含ませ、可とう性の絶縁基材を浸漬して表面にパラジウム錯体を付着させ、そのまま、還元剤を用いて、金属パラジウムに還元することによって可とう性の絶縁基材表面にメッキを開始するための核を形成することができる。通常は、このような操作をするために、被メッキ物を、アルコールや酸で洗浄し、表面に付着した油分を除去しておく。
【0050】
銅メッキ層の形成時に、形成条件を調整することにより、所望の表面粗さや表面形態を実現し、その後に形成される層間絶縁膜との密着性を向上させることもできる。たとえば、無電界メッキを行う際、メッキ液に添加剤を含有させ、その後、所定の条件でパルス電流による電界メッキを施し、さらに薬液により表面処理することにより、平滑表面に微細銅粒子の凹凸面が形成される。これにより、層間絶縁膜との密着性が向上する。微細銅粒子の凹凸面を好適に形成するためには、無電界メッキの段階で、銅のグレインサイズを小さくするとともに結晶軸が様々な方向を向くようにすることが好ましい。本実施形態と同様の工程により形成した銅メッキの表面凹凸を測定したところ、約0.8μm程度であった。
【0051】
その後、フォトレジストをマスクとして銅メッキ層をエッチングし、銅からなる配線407を形成する。たとえば、レジストから露出した箇所に、化学エッチング液をスプレー噴霧して不要な銅箔をエッチング除去し、配線パターンを形成することができる。エッチングレジストは、通常のプリント配線板に用いることのできるエッチングレジスト材料を用いることができ、レジストインクをシルクスクリーン印刷して形成したり、エッチングレジスト用感光性ドライフィルムを銅箔の上にラミネートして、その上に配線導体の形状に光を透過するフォトマスクを重ね、紫外線を露光し、露光しなかった箇所を現像液で除去して形成することができる。化学エッチング液には、塩化第二銅と塩酸の溶液、塩化第二鉄溶液、硫酸と過酸化水素の溶液、過硫酸アンモニウム溶液など、通常のプリント配線板に用いる化学エッチング液を用いることができる。
【0052】
同様の手順により、層間絶縁膜405の形成、ビアホール形成、銅メッキ層の形成および銅メッキ層のパターニングの手順を繰り返し行うことにより、図5(C)に示すような多層配線構造を形成する。すなわち、配線407および層間絶縁膜405からなる配線層が積層した多層配線構造を形成する。
【0053】
層間絶縁膜405の材料は、本実施形態では、フィラーを含まない液晶ポリマーを用いる。この液晶ポリマーは、1.0以上3.7以下の比誘電率を有し、0.0001以上0.02以下の誘電正接を有し、吸水率は0.1%以下であるものを用いる。ここでは液晶ポリマーを用いたが、そのほか、エポキシ樹脂やBTレジン等を用いることもできる。」
エ.「【0055】
次に、ソルダーレジスト層408の表面に回路素子410a、410bを搭載し、回路素子410aを配線407と金線412により結線した後、これらを絶縁性樹脂415でモールドする。回路素子410としては、トランジスタ、ダイオード、ICチップ等の半導体素子、チップコンデンサ、チップ抵抗等の受動素子である。なお、CSP、BGA等のフェイスダウンの半導体素子も実装できる。図6(A)の構造では、回路素子410aがベアーのトランジスタチップであり、回路素子410bがチップコンデンサである。これらは半田等のロウ材によりソルダーレジスト層408に固着される。回路素子410bは、ビアホールを介して配線407に接続されている。なお、半田を用いず、接着剤等により素子を固着することもできる。この場合はソルダーレジスト層408を設けない構造とすることも可能である。回路素子のモールドは、金属箔400に設けた複数個のモジュールに対して、金型を用いて同時に行う。この工程は、トランスファーモールド、インジェクションモールド、ポッティングまたはディッピングにより実現できる。樹脂材料としては、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂がトランスファーモールドまたはポッティングで実現でき、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド等の熱可塑性樹脂はインジェクションモールドで実現できる。
【0056】
その後、図6(B)に示すように、多層配線構造から金属箔400を除去し、裏面に半田ボール420を形成する。金属箔400の除去は、研磨、研削、エッチング、レーザの金属蒸発等により行うことができる。本実施形態では以下の方法を採用する。すなわち、研磨装置または研削装置により金属箔400全面を50μm程度削り、残りの金属箔400を化学的にウエットエッチングにより除去する。なお、金属箔400全部をウェットエッチングにより除去してもよい。こうした工程を経ることにより、回路素子の搭載された側と反対側の面に、第1層目の配線407の裏面が露出する構造となる。これにより、本実施形態で得られるモジュールでは裏面が平坦となり、半導体装置のマウント時に半田等の表面張力でそのまま水平に移動し、容易にセルフアラインできるというプロセス上の利点が得られる。つづいて露出した導電被膜402に半田等の導電材を被着して半田ボール420を形成し、半導体装置を完成する。」
これら記載事項及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1に記載されている発明」という。)が記載されている。
「表面に回路素子410a及び410bを搭載するための電極と、裏面に半田ボール420を設けられる裏面電極を有し、配線407と、エポキシ樹脂等からなる層間絶縁膜405が交互に積層され、上層の前記配線407と下層の前記配線407とを電気的に接続する銅メッキで埋め込まれたビアホール404が前記上層及び下層配線間の前記層間絶縁膜410内に形成された多層配線基板において、前記裏面に設けられた前記裏面電極が前記裏面に露出する熱硬化性樹脂からなる膜に埋設されており、前記配線407は、レジストから露出した箇所に化学エッチング液をスプレー噴霧して、不要な銅箔をエッチング除去して形成される多層配線基板。」
(2)引用文献2
引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
カ.「【請求項1】 高速情報処理用デジタル集積回路チップ内およびそのチップを搭載するためのパッケージ,モジュール,ボードなどの実装系内における多層配線構造であって、絶縁層に高解像度感光性有機材料を使用し、配線層及びグランド層に銅,銀,金,アルミニウム,パラジウム,ニオブなどの電極材料を使用して、作製されたストリップライン,マイクロストリップライン,同軸ラインなどの信号線及びグランド層からなる伝送線路構造を含むことを特徴とする多層微細配線構造。」
キ.「【0016】(S3)では、例えばProceedings of SPIE Vol. 4345 (2001), pp.1073-1078に記載されているようなブロック共重合法により合成される、イミド結合を有する有機高分子(ポリイミド)を基本材料として、さらにジアゾナフトキノン系感光剤を添加して、調製される高解像度ポジ型感光性ポリイミドを用いて、スピン塗布により感光性ポリイミド膜4を形成する。この際、粘度を変えて、2,3回に分けて塗布することにより、上記(S2)で形成したレジストパターン2の除去による溝構造は埋められ、しかも感光性ポリイミド膜4の表面は平坦化することができる。次に、露光,現像EDにより、電極3'から電極を引き出すためのビア(Via)を形成するビアホール5をポリイミド絶縁層4に形成する。」
(3)引用文献3
引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。
サ.「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これらの伝送線路を、たとえばミリ波帯のような周波数の高い領域で使用する場合、導体の抵抗に起因する導体損失は周波数の平方根に比例して、誘電体基板の誘電正接に起因する誘電体損は周波数に比例して周波数の上昇にともない増加し、信号の減衰が著しく大きくなる。特に配線密度を大きくするために配線幅を小さくすると、導体損が大きくなりデバイスへの要求特性が厳しいものになっているのが現状である。
【0005】従って、ミリ波帯のような周波数の高い領域で用いる伝送線路においては、密着層としてできるだけ電気抵抗率の小さな物質をできるだけ薄く形成して、伝送損失が大きくなりすぎないようにする必要があった。
【0006】ところが、いかに密着層の電気抵抗率を小さくし、薄くしても密着層の存在は、原理的にその伝送線路の伝送損失を増大させてしまうという問題は回避することができない。特に取り扱う信号の周波数が高くなると、導体表面の電流が流れる領域の深さ、即ち、表皮深さが小さくなり、密着層の影響が相対的に大きくなってしまう。」

3.対比
そこで、本願補正発明と引用文献1に記載されている発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、後者の「表面」は前者の「第1表面」に相当し、以下同様に、「裏面」は「第2表面」に、「配線407」は「配線層」に、「層間絶縁膜405」は「絶縁層」に、「銅メッキで埋め込まれたビアホール404」は「ビア」にそれぞれ相当する。
また、引用文献1に記載されている発明の「熱硬化性樹脂からなる膜」は、上記記載事項ウと図5(C)及び図6を参酌すると「熱硬化性樹脂からなる膜」と「層間絶縁膜405」とは一体となって裏面に面する絶縁層を形成するものであるから、本願補正発明の「第2表面に露出する前記絶縁層」に相当する。そして、引用文献1の上記記載事項エの「第1層目の配線407の裏面が露出する構造となる。これにより、本実施形態で得られるモジュールでは裏面が平坦となり、」の記載からすると、引用文献1に記載されている発明の「前記裏面に設けられた前記裏面電極が前記裏面に露出する熱硬化性樹脂からなる膜に埋設されており、」は、本願補正発明の「前記第2表面に設けられた前記第2電極が前記第2表面に露出する前記絶縁層に埋設されており、」に相当する。
そこで、両者は、本願補正発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「第1表面と第2表面にそれぞれ第1及び第2電極を有し、配線層と、絶縁層が交互に積層され、上層の前記配線層と下層の前記配線層とを電気的に接続するビアが前記上層及び下層配線層間の前記絶縁層内に形成された多層配線基板において、前記第2表面に設けられた前記第2電極が前記第2表面に露出する前記絶縁層に埋設されている多層配線基板。」
そして、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
本願補正発明の「絶縁層」の材質が「ジアゾナフトキノン系の感光剤を用いたPBO(polybenzoxazole)系材料を含む感光性樹脂」であるのに対して、引用文献1に記載されている発明の「層間絶縁膜405」の材質は「エポキシ樹脂等からなる」ものである点。
[相違点2]
本願補正発明は、「絶縁層」の表面が「平坦な状態とされた」に対して、引用文献1に記載されている発明の「層間絶縁膜405」は表面が平坦であるかは不明である点。
[相違点3]
本願補正発明は、「前記配線層のうち、前記絶縁層に覆われ、引き回し距離が長く、かつ、サブトラクティブ法、セミアディティブ法又はフルアディティブ法により形成された第2配線層が前記絶縁層との密着層を有していない」のに対して、引用文献1に記載されている発明は、配線407は、レジストから露出した箇所に化学エッチング液をスプレー噴霧して、不要な銅箔をエッチング除去して形成される点が記載されているが、配線407のうち層間絶縁膜405に覆われ、引き回し距離が長い配線が層間絶縁膜との密着層を有するか否かは不明である点。

4.判断
上記各相違点について検討する。
[相違点1]
引用文献2には、多層配線基板の絶縁層の材質として、基本材料にジアゾナフトキノン系感光剤を添加した高解像度感光性樹脂を使用する事項が記載されている。
また、感光性樹脂の基本材料としてPBO系材料を使用することは、従来周知である。(特開2003-298232号公報の段落【0045】、【0046】、図3及び特開2003-163323号公報の段落【0028】、図3など参照。)
よって、引用文献1に記載されている発明の「層間絶縁膜405」の材質を、引用文献2に記載されているジアゾナフトキノン系感光剤を添加した感光性樹脂を採用し、該感光性樹脂の基本材料にPBO系材料を適用することは当業者であれば適宜になし得ることである。
よって、引用文献1に記載されている発明において、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。
[相違点2]
「表面が平坦な状態とされた絶縁層」の技術的意味は、絶縁層の表面を粗化せず、平坦な状態とすることで、優れた伝送特性が実現することであるが、絶縁層の表面を粗化すると、伝送特性が悪化することの知見は、従来周知である。(特開2000-244115号公報の段落【0004】、特開2004-349491号公報の段落【0005】、国際公開第03/072851号の2ページ23行目?26行目を参照。)
また、引用文献1の記載事項イの【0035】には、「一方、高周波用途においては、配線パターンを構成する金属膜の表面平滑性が求められる。高周波信号は表皮効果により配線の表面近傍に集中するため、配線表面に凹凸があると信号の伝達が阻害されることがあるためである。」と記載され、配線407の表面か層間絶縁膜405の表面の違いはあるが、表面に凹凸があると表皮効果により信号の伝達を阻害する課題に対して表面平滑性が有効であることが示されているので、当該課題を達成するために、引用文献1に記載されている発明の「層間絶縁膜405」の表面に、上記周知技術を適用し、表面を粗化せず、平坦な状態とすることは、当業者であれば適宜になし得ることである。
よって、引用文献1に記載されている発明において、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。
[相違点3]
引用文献3の記載事項サには、「周波数の高い領域で用いる伝送線路においては、密着層としてできるだけ電気抵抗率の小さな物質をできるだけ薄く形成して、伝送損失が大きくなりすぎないようにする必要があった。ところが、いかに密着層の電気抵抗率を小さくし、薄くしても密着層の存在は、原理的にその伝送線路の伝送損失を増大させてしまうという問題は回避することができない。」と記載され、密着層の存在により伝送損失が大きくなるとの知見が示されている。
また、引用文献1の記載事項イには、「高周波信号は表皮効果により配線の表面近傍に集中するため、配線表面に凹凸があると信号の伝達が阻害されることがあるためである。」と記載され、表皮効果に起因する信号伝達の阻害を課題と捉えている。
してみると、引用文献1に記載されている発明の「配線407」において、引用文献3に示される知見に基づき、密着層を有しない構成にすることは当業者であれば容易に想到し得るものであり、その際に抵抗値が大きくなると予測できる引き回し距離が長い配線に適用することは当業者であれば適宜になし得る程度のものにすぎない。
また、本願補正発明は、「配線層」を「サブトラクティブ法、セミアディティブ法又はフルアディティブ法により形成」するものであるが、「サブトラクティブ法」に関しては、本願明細書の【0035】には「サブトラクティブ法は、基板上に設けられた銅箔上に所望のパターンのレジストを形成し、不要な銅箔をエッチングした後に、レジストを剥離して所望のパターンを得る方法である。」と定義されており、引用文献1に記載されている発明の配線407は、「レジストから露出した箇所に化学エッチング液をスプレー噴霧して、不要な銅箔をエッチング除去して形成される」点と照らし合わせると明確な差異はないものであるし、配線層の形成方法として、「サブトラクティブ法」、「セミアディティブ法」又は「フルアディティブ法」はいずれも従来周知の手法である。
よって、引用文献1に記載されている発明において、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。

審判請求人は、審判請求書の理由において、本願補正発明は『特に感光性樹脂が、PBO(polybenzoxazole)系材料によって構成されているので、段落[0033]に記載のとおりの、「膜強度、引張弾性率及び破断伸び率等の機械的特性が優れているため、高い信頼性を得ることができる。」、そして、絶縁層の表面を粗化せず、平坦な状態とすることで、優れた伝送特性が実現されるという格別顕著な作用効果を奏します。 これに対して、引用文献1には、本願発明1が備える上記特徴的構成については記載も示唆もなく、引用文献2においても、かろうじて「ジアゾナフトキノン系感光剤」をポリイミド系材料に添加して用いることが開示されているのみで、絶縁層に用いる有機材料に「PBO(polybenzoxazole)系材料」を用いることについては記載も示唆もされておりません。
さらに、引用文献1及び2のいずれにも、本願発明1における、第2配線層をサブトラクティブ法、セミアディティブ法又はフルアディティブ法により形成すること、交互に積層する絶縁層の表面を平坦な状態とすること、についても記載も示唆もされておりません。』と主張する。
しかしながら、本願明細書の【0033】に「特に、ポリイミド系材料、PBO系材料は、膜強度、引張弾性率及び破断伸び率等の機械的特性が優れているため、高い信頼性を得ることができる。」と記載されているように「ポリイミド系材料」と「PBO系材料」は共に機械的特性が優れているものであり、「ポリイミド系材料」に代えて従来周知の「PBO系材料」にすることは当業者であれば容易に想到し得るものである。
そして、絶縁層の材質による効果(ビア解像性、機械的強度)と絶縁層の表面を平坦な状態とする効果(優れた伝送特性)とは相互に技術的に独立しており、相乗的な効果を奏するものとは認められないので、上記「4.判断」で述べた理由のとおり、絶縁層の表面を平坦な状態とすることも当業者であれば容易に想到し得るものである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。
なお、本願明細書の【0017】には「ジアゾナフトキノン(DNQ)系材料を感光剤に用いたポジ型材料がビア解像性の面で優れている。しかし、このジアゾナフトキノン(DNQ)系材料は、加熱時に材料自体の分解物及び反応生成物などが発生するため、クロム、チタン、タングステン、モリブデン、タンタル、バナジウム、ニッケルなどの密着層に用いられる材料と絶縁樹脂との界面の密着力を極端に低下させ、導体パターンが剥離するという問題点があった。」という課題が示されており、この課題に着目して本願明細書の【0019】では、「密着力が低下するクロム、チタン、タングステン、モリブデン、タンタル、バナジウム、ニッケルなどの密着層を使用しない」ことも述べているが、本願補正発明では密着層を使用しない代わりに密着力を向上させるための構成は担保されていない。
よって、本願補正発明は、上記「4.判断」で述べた理由によって引用文献1ないし3及び各周知技術により構成するに至った多層配線基板との比較において構成の差異はない。

そして、本願補正発明の効果も、引用文献1ないし3に記載されている発明及び各周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。
したがって、本願補正発明は、引用文献1ないし3に記載されている発明及び各周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成23年6月3日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「第1表面と第2表面にそれぞれ第1及び第2電極を有し、配線層とジアゾナフトキノン系の感光剤を用いた感光性樹脂からなる絶縁層が交互に積層され、上層の前記配線層と下層の前記配線層とを電気的に接続するビアが前記上層及び下層配線層間の前記絶縁層内に形成された多層配線基板において、前記第2表面に設けられた前記第2電極が前記第2表面に露出する前記絶縁層に埋設されており、前記配線層のうち、前記絶縁層に覆われ、引き回し距離の長い第2配線層が前記絶縁層との密着層を有していないことを特徴とする多層配線基板。」

2.引用文献の記載事項
引用文献1ないし3の記載事項は、前記II.2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記II.1.の本願補正発明から、「感光性樹脂」に関して「PBO(polybenzoxazole)系材料を含む」との限定事項を、「絶縁層」に関して「表面が平坦な状態とされた」との限定事項を、「第2の配線層」の形成手段として「サブトラクティブ法、セミアディティブ法又はフルアディティブ法により形成された」との限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、「PBO(polybenzoxazole)系材料を含む」、「表面が平坦な状態とされた」、「サブトラクティブ法、セミアディティブ法又はフルアディティブ法により形成された」事項を付加して減縮したものに相当する本願補正発明が、前記II.3.及び4.に記載したとおり、引用文献1ないし3に記載されている発明及び各周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用文献1ないし3に記載されている発明及び各周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用文献1ないし3に記載されている発明及び各周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、本願発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-03 
結審通知日 2012-10-09 
審決日 2012-10-22 
出願番号 特願2005-298159(P2005-298159)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
P 1 8・ 575- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉澤 秀明  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 冨岡 和人
窪田 治彦
発明の名称 多層配線基板、多層配線基板を用いた半導体装置及びそれらの製造方法  
代理人 木村 満  
代理人 木村 満  

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