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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1267409
審判番号 不服2012-4376  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-03-06 
確定日 2012-12-05 
事件の表示 特願2004-332460「導電性ロール」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月 8日出願公開、特開2006-145636〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年11月16日の出願であって、平成22年8月4日に手続補正がなされ、平成23年11月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成24年3月6日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。
なお、請求人は、当審における平成24年6月11日付けの審尋に対して同年7月31日付けで回答書を提出している。

第2 平成24年3月6日付け手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成24年3月6日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成24年3月6日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするもので、特許請求の範囲については、本件補正前の請求項1に、
「芯金外周面上に下記(a)、(b)または(c)の導電性弾性層を備える導電性ロールであって、
前記導電性弾性層の最表面に酸化被膜が形成されており、
印加電圧1000Vにおける初期ロール抵抗値をR0[Ω]とすると共に100時間連続印加した後のロール抵抗値をR100[Ω]とすると、(logR100-logR0)≦0.3で、かつ、
初期の摩擦係数をμ0、印加電圧1000Vで100時間連続印加した後の摩擦係数をμ100とすると、0.8<μ100/μ0<1.0であることを特徴とする導電性ロール。
(a)エピクロルヒドリンゴムとアクリロニトリルブタジエンゴムのブレンドゴムを含む発泡体からなる導電性弾性層。
(b)連続相と1相または2相以上の非連続相とからなり、前記連続相がアクリロニトリルブタジエンゴムを含み、前記非連続相のうち少なくとも1相がエチレンオキサイド-プロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル共重合体を含み、かつイオン導電剤が偏在されている導電性弾性層。
(c)発泡体である前記(b)の導電性弾性層。」とあったものを、

「芯金外周面上に下記(a)または(b)の導電性弾性層を備える導電性ロールであって、
前記導電性弾性層の最表面に酸化被膜が形成されており、
印加電圧1000Vにおける初期ロール抵抗値をR0[Ω]とすると共に100時間連続印加した後のロール抵抗値をR100[Ω]とすると、(logR100-logR0)≦0.3で、かつ、
初期の摩擦係数をμ0、印加電圧1000Vで100時間連続印加した後の摩擦係数をμ100とすると、0.8<μ100/μ0<1.0であることを特徴とする導電性ロール。
(a)連続相と、第1非連続相、第2非連続相とからなり、3つの相は海-島構造を呈し、連続相が低ニトリルNBRで、第1非連続相がイオン導電剤を1?20質量%の割合で含むエチレンオキサイド-プロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル共重合体で、第2非連続相がエチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムからなり、連続相を構成するポリマーと非連続相を構成するポリマーの合計100質量部に対して前記連続相を構成するポリマーの含有量を60?80質量部とし、前記第1非連続相を構成するポリマーの含有量を1?25質量部、前記第2非連続相を構成するポリマーの含有量を5?30質量部としている導電性弾性層。
(b)発泡体である前記(a)の導電性弾性層。」とする補正を含むものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(2)本件補正後の請求項1に係る上記(1)の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「(a)エピクロルヒドリンゴムとアクリロニトリルブタジエンゴムのブレンドゴムを含む発泡体からなる導電性弾性層、(b)連続相と1相または2相以上の非連続相とからなり、前記連続相がアクリロニトリルブタジエンゴムを含み、前記非連続相のうち少なくとも1相がエチレンオキサイド-プロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル共重合体を含み、かつイオン導電剤が偏在されている導電性弾性層、または(c)発泡体である前記(b)の導電性弾性層」の選択肢から「(a)エピクロルヒドリンゴムとアクリロニトリルブタジエンゴムのブレンドゴムを含む発泡体からなる導電性弾性層」を削除し、(b)及び(c)を(a)及び(c)に繰り上げるとともに、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「連続相と1相または2相以上の非連続相とからなり、前記連続相がアクリロニトリルブタジエンゴムを含み、前記非連続相のうち少なくとも1相がエチレンオキサイド-プロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル共重合体を含み、かつイオン導電剤が偏在されている導電性弾性層」を「連続相と、第1非連続相、第2非連続相とからなり、3つの相は海-島構造を呈し、連続相が低ニトリルNBRで、第1非連続相がイオン導電剤を1?20質量%の割合で含むエチレンオキサイド-プロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル共重合体で、第2非連続相がエチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムからなり、連続相を構成するポリマーと非連続相を構成するポリマーの合計100質量部に対して前記連続相を構成するポリマーの含有量を60?80質量部とし、前記第1非連続相を構成するポリマーの含有量を1?25質量部、前記第2非連続相を構成するポリマーの含有量を5?30質量部としている導電性弾性層」に限定するものである。

2 本件補正の目的
本件補正後の請求項1に係る本件補正は、上記1(2)のとおり、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

3 引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-272209号公報(以下「引用例1」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置に用いられるローラやベルトからなる導電性部材、およびその製造方法に関し、詳しくは、複写機、レーザービームプリンタ、ファクシミリ等の事務機器の画像形成装置に用いられる導電性ローラや導電性ベルト性からなる導電性部材として好適に用いられ、該導電性部材の導電層を形成する導電性ポリマー組成物の電気抵抗の環境依存性・経時変化等を改良し、安定して良好な画像を得るものである。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置に用いられる導電性ローラや導電性ベルト等の導電性部材に導電性を付与する方法としてはポリマー中に金属酸化物の粉末やカーボンブラック等の導電性充填剤を配合した電子導電性ポリマー組成物を用いる方法と、ウレタン、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エピクロルヒドリンゴム等のイオン導電性ポリマー組成物を用いる方法とがある。
【0003】
金属酸化物の粉末やカーボンブラック等の導電性充填剤を配合することによって得られる電子導電性ポリマー組成物を用いた場合、特に要求される半導電の領域では、添加量のわずかな変化により電気抵抗値が急激に変化するため、その制御が非常に困難になる。このため、ポリマー組成物中で導電性充填剤が均一に分散し難いことから、ローラの周方向や長手方向、ベルトの面内で抵抗値がばらつきを持つという問題を生じる。
即ち、導電性充填剤の各粒子の分散状態により、電子の移動に伴う電流の流れ方が左右されるため、粒子の分散状態にバラツキがあると、抵抗値の制御が困難となり、ローラやベルトの製品面内での抵抗値のバラツキが大きくなりやすい。粒子の2次凝集がある場合はさらにバラツキが大きくなる。また、カーボンブラックを用いるとベルトが黒色となり、トナー等によるベルトの汚れを目視しにくくなる。
【0004】
また、金属酸化物を用いた電子導電とすると、例えば、導電性亜鉛華を用いた場合、低抵抗化のために充填量が多くなると、ベルトの脆化を招くこととなる。さらに、粒子の分散が課題となり、抵抗調整が困難である。特に、10^(4)Ω・cm?10^(12)Ω・cmのような抵抗値に調整するのが困難である。
【0005】
上記問題は各ローラやベルト自体の各部材の問題となるだけでなく、部材間の電気抵抗値のばらつきも非常に大きくなる問題も生じる。更には、得られる導電性ローラや導電性ベルトの電気抵抗値は印加電圧に依存し、一定の抵抗値を示さない。特に、導電性充填剤としてカーボンブラックを使用した場合、これらの傾向が顕著に現れる。かかる現象は、帯電・現像・転写・定着といった画像形成過程において機械的な制御を難しくし、コストアップにつながる場合がある。また、カーボンを用いた場合、自由に着色出来ないという問題もある。
【0006】
以上の点から、高画質かつ省エネルギーが要求される昨今の複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置においてはイオン導電性ローラ、或いはイオン導電性ベルトが好まれる傾向にあり、従来から、種々の提案がなされている。
例えば、特開平10-169641号では、基材である高分子材料に第4級アンモニウム塩を添加し、使用環境を考慮しながら、連続通電時の抵抗値を規定した半導電性高分子弾性部材が提案されている。
【0007】
しかしながら、上記特開平10-169641号では、特定の陰イオンを有する第4級アンモニウム塩を配合することによって、イオン導電性ローラやイオン導電性ベルトにおいて連続通電時の抵抗値上昇の低減を図っているが、電気抵抗値の環境依存性(温度依存性+湿度依存性)を十分に低減できないという問題がある。さらに、配合する塩の種類や存在状況、あるいは配合内容によっては、感光体を汚染する場合がある。
このように、導電性部材においては、連続通電時の抵抗値の上昇を低減するだけでなく、電気抵抗の環境依存性や、配合する塩等の感光体への移行汚染の問題も考慮する必要がある。
【0008】
イオン導電性の導電剤として、ポリエチレンオキサイド等のポリエーテル構造を含む導電性オリゴマーや導電性可塑剤(いずれもMn<10000)があるが、これらはポリマー組成物中で固定されていないために、ブリードやブルームを起こしてしまう問題がある。特に、複写機やプリンタ用の導電性ローラや導電性ベルト等に用いた場合、これらのものが移行して感光体を汚染し、画像を汚してしまったり、最悪、感光体を変質し破壊してしまう場合がある。
【0009】
また、過塩素酸リチウム等の金属塩や各種第4級アンモニウム塩等のイオン導電性添加塩を用いた系では、配合量や基材ポリマーとの相容性にもよるが、塩が解離したイオンが、連続通電時に電極に向かって移動し、長時間たつと抵抗値がかなり上昇してしまうことがある。また、添加塩等が導電性部材の表面に析出し、物質によっては感光体を汚染する場合もある。特に、添加塩を分散させるのに、低分子量のポリエーテル化合物や低分子量極性化合物からなる媒体を用いると、塩がポリマー中を移動しやすくなり導電性が向上する反面、連続通電時に表面等に析出しやすくなってしまう。さらには、用いたこれらの低分子量媒体も表面に移行し、長時間使用した場合に、移行汚染やトナーの固着が起こって、実用性を失うという問題が生じる場合がある。実際の画像形成装置においても、長時間連続して用いた場合、これらの点が問題となる場合が多い。
【0010】
また、イオン導電性のベルトについては、特開2002-304064号公報において、少なくとも1種の熱可塑性樹脂と、該熱可塑性樹脂とは非相溶性である少なくとも1種
の親水性樹脂とを配合してなる樹脂組成物を押出成形して得られ、押出成形時の成形温度における該熱可塑性樹脂の粘度が該親水性樹脂の粘度より高くしたエンドレスベルト(シームレスベルト)が提案されている。
しかしながら、上記特開2002-304064号公報等の従来の公報に記載された一般的なイオン導電によるベルトでは体積抵抗率の環境依存性が大きくなったり、連続通電時の抵抗率の上昇が大きくなったりする場合があるという問題がある。この場合、転写電圧のコントロールが困難となり画像形成装置の機構が複雑になったり、より大きな電源が必要となり、消費電力が大きくなったりしてコストが上昇してしまう等の問題がある。
【0011】
また、イオン導電とした場合でも、低分子量の界面活性剤的な静電気防止剤等を用いると、ブリードにより感光体汚染を引き起こす恐れがある。また、吸湿性が大きいと湿度変化による電気抵抗の変化が大きくなってしまう。さらには、過塩素酸ナトリウム(NaClO_(4))等は、熱可塑性エラストマーとの混練時の取り扱いが難しかったり、また、一般的に高価なものが多い。
【0012】
さらに、近年、導電性ベルトにおいて、その使用上の環境を考慮し、難燃性を有することが要求されているものもある。導電性ベルトは画像形成装置内において高電圧、高温環境下に置かれる場合があるため、ベルトが可燃性で燃えやすかったり、難燃性が不十分であると、装置内の環境条件によっては使用状態が制限される恐れがある。現在提供されているベルトは、導電性、耐久性等の性能には優れており、通常の使用には影響ないものの、難燃性対策が不十分なものがあり、未だ改善の余地がある。
【0013】
熱可塑性樹脂等からなる導電性ベルトを難燃化するには、難燃剤の添加が一般的である。従来、難燃剤としてはハロゲン系の難燃剤、リン酸エステル系の難燃剤等が添加されている。
しかしながら、上記ハロゲン系の難燃剤を添加した場合には、使用後の廃棄時にベルトが高温下にさらされると、ダイオキシン等の有毒ガスが発生することも考えられる。また、上記リン酸エステル系の難燃剤を添加した場合には、ベルトが高温下で長期間使用されると、時間の経過とともにベルト内部から、かかる難燃剤がベルト表面にしみ出して感光体などを汚染することがある。
【0014】
このように、画像形成装置等に使用される搬送ベルト、転写ベルト、中間転写ベルト、定着ベルト、現像ベルト、感光体基体用のベルトについて、難燃性の付与は優先度が高い要求となっている。特に、導電性ベルトに難燃性を付与する際に、ノンハロゲンで環境への影響が小さく、使用時に非汚染性にて実現することが望まれている。
【特許文献1】特開平10-169641号公報
【特許文献2】特開2002-304064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記した問題に鑑みてなされたものであり、画像形成装置用のローラやベルト等からなる導電性部材として充分に低い抵抗値を維持しながら、電気抵抗の環境依存性(温度依存性+湿度依存性)を小さくし、かつ連続通電時の抵抗上昇を小さくした画像形成装置用の導電性部材を得ると共に、電気特性が良好であり、消費電力が小さく、良好で均質な画像を長期に渡って得ることができる画像形成装置を提供することを課題としている。
さらに、導電性ベルトに関しては、導電性等の他の性能に影響を与えることなく優れた難燃性を有すると共に、連続通電時の抵抗上昇が小さく、かつ、ベルト面内の抵抗値のバラツキや環境依存性も小さい難燃性のベルトを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明は、イオン導電性添加塩を含む導電性ポリマー組成物から形成した導電層を備えた導電性ローラおよび導電性ベルトを含む画像形成装置用の導電性部材であって、
上記導電層は、連続相と1相または2相以上の非連続相とからなり、該連続相と非連続相とが海-島構造を呈し、上記非連続相の少なくとも1相は、陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を偏在させた第1非連続相とし、該第1非連続相を構成するポリマーは上記連続相を構成するポリマーよりも上記陽イオンと陰イオンに解離可能な塩との親和性を高くしており、また、印加電圧100Vのもとで測定したJIS K6911に記載の体積抵抗率が10^(4)?10^(12)[Ω・cm]とした上記ポリマー組成物から形成していることを特徴とする画像形成装置用の導電性部材を提供している。
【0017】
本発明は、本発明者が鋭意研究の結果、低電気抵抗を実現できる塩の配置及び塩とポリマーとの親和性に着目し、導電性部材を構成するポリマー材料や配合されるイオン電導性添加塩について検討、実験を積み重ね、イオンによる良好な電気特性を維持しながら、塩の組成物外への移行を防止できる相構造を見出したことに基づくものである。
【0018】
具体的には、連続相と1相以上の非連続相とからなる相構造を有し、陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を非連続相に偏在させ、かつ、高導電度で電気抵抗低下能力が大きい陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を偏在させた非連続相を構成するポリマーは、連続相を構成するポリマーよりも、かかる陽イオンと陰イオンに解離可能な塩との親和性を高くしている。これにより、非連続相中での塩の自由度を高め低い電気抵抗を維持しながら、電界を加えたときの塩の相外への流出を抑制できるため、塩の組成物外への移行や連続通電時の抵抗上昇等を防ぐことができる。更には、塩が非連続相中に存在するため温度や湿度等の環境の影響も受けにくく、かつ、イオン導電によるため、電気抵抗のばらつきや電圧依存性も小さい。
【0019】
なお、従来は、組成物全体の抵抗値を極力低下させるために、連続相に塩が分配される試みがなされていたが、本発明は、塩とポリマーとの親和性や、塩の配置に着目し、上記構成としたことにより、充分に低い抵抗値を維持しながら、電気抵抗の環境依存性(温度依存性+湿度依存性)を小さくし、かつ連続通電時の抵抗上昇を小さくすることを可能とした。
特に、本発明では、イオンの解離度が高く高電導度を発揮する塩を用い、かつ、電界をかけ続けても上記塩を系外に移行させにくくしたため、塩が表面に析出したり、抵抗値を大きく上昇させずに、導電性に優れた塩の少量の配合で優れた導電性を得ることができる。よって、圧縮永久ひずみや硬度等の他の物性に及ぼす影響も極力低減することができ、複写機やプリンタ等の画像形成装置用の導電性ローラや導電性ベルト等の導電性部材として非常に有用である。
【0020】
連続相、非連続相等のポリマー組成物の相構造は、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)式の走査型プローブ顕微鏡(SPM)の位相モード等で観察することができる。
【0021】
上記非連続相として上記第1非連続相と第2非連続相の2相を設け、第2非連続相は上記塩を殆ど添加していない。また、連続相にも上記塩を殆ど添加していないような形態とすることも出来る。
この場合、これらの条件に加えて上記各相のポリマーの塩との親和性は第1非連続相>連続相>第2非連続相とし、各相の電気抵抗値(体積抵抗率)は第1非連続相<連続相<第2非連続相としていることが好ましい。
各相のポリマーの塩との親和性は、塩を含んでいない状態での各相のポリマーの体積抵抗率(後述のρ_(V1)、ρ_(V2)、ρ_(V3))や塩を含んだ状態での各相のポリマーの体積抵抗
率から評価することが出来る。これらの抵抗率が低い程、ポリマーと塩との親和性が高いといえる。
上記構成とすることにより、導電性をあまり大きく損なうことなく、解離可能な塩を偏在させる第1非連続相の割合を抑えることができる。その結果、解離可能な塩の配合量を少なくしても組成物全体として低い体積抵抗率を維持することができる。
上記第1非連続相で第2非連続相を取り囲むように存在させることが好ましい。また、第1非連続相、第2非連続相、および連続相が各々2種以上のポリマーから形成されていても構わないし、各々が、さらに細かいいくつかの相に分かれていても、本発明の趣旨と効用が満たされていれば構わない。」
イ 「【0036】
具体的には、上記第1非連続相を構成するポリマーとしては、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル共重合体(EO-PO-AGE共重合体)あるいは/及びエピクロルヒドリンゴムを用いることが好ましい。エピクロルヒドリンゴムとしては、エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル共重合体、エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル共重合体、エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン-アリルグリシジルエーテル共重合体等が挙げられる。
【0037】
この他、ポリエチレンオキサイドブロックポリアミド共重合体、ポリエーテルエステルアミド共重合体も、本発明で用いられる塩との親和性が大きく、第1非連続相を構成するポリマーとして好適に用いられる。
具体的には、例えば、上記第1非連続相はポリエーテル系ポリマー、連続相は低ニトリルNBR、第2非連続層はEPDMとし、低ニトリルNBRを90?50重量%、ポリエーテル系ポリマーを0.5?25重量%、EPDMを10?40重量%、上記塩を0.1?2重量%で配合するとよい。
【0038】
前記EO-PO-AGE共重合体を用いた場合、組成物の物性(圧縮永久ひずみ、硬度)を維持しながら、体積抵抗率を低減できるように共重合比率を設定することができる。共重合体中、エチレンオキサイド比率は55モル%以上95モル%以下であるのが好ましく、65モル%以上92モル%以下であるとより好ましい。イオン導電性が発揮されるのは、ポリマー中のオキソニウムイオンや金属陽イオン等(例えば、添加した塩中のリチウムイオン等の陽イオン等)が、エチレンオキサイドユニットやプロピレンオキサイドユニットで安定化され、その部分の分子鎖のセグメント運動により運搬されることによる。尚、一般にはエチレンオキサイドユニットの方がプロピレンオキサイドユニットよりも上記の安定化能は高い。よって、エチレンオキサイドユニットの比率が高い方が多くのイオンを安定化でき、より低抵抗化を実現できる。一方、エチレンオキサイドユニットの比率が95モル%を超えると、エチレンオキサイドユニットが結晶化してイオンを輸送しにくくなり、電気抵抗は上昇してしまう。
EO-PO-AGE共重合体を用いた場合、アリルグリシジルエーテルの共重合比率は1モル%以上10モル%以下とするのが良い。1モル%未満ではブリードや感光体汚染の発生が起こり易くなる一方、10モル%を超えると、加硫後の架橋点の数が多くなり、低抵抗を実現しにくく、また、引張強さや疲労特性、耐屈曲性が悪化しやすい。また、EO-PO-AGE共重合体の数平均分子量は10000以上が好ましく、より好ましくは50000以上が良い。この理由はブリードブルームや感光体汚染を防止するためである。
【0039】
上記連続相を構成するポリマーは、低ニトリルNBRあるいは/及び中高ニトリルNBR、または、ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしていることが好ましい。これにより、全体として極力低い抵抗値とすることができる上に、解離可能な塩の組成物外への移行や連続通電時の抵抗上昇を防ぐことができる。なお、連続相の材料としては、ある程度電気抵抗値が低く、かつ、Tgが低いため室温付近での粘弾性の温度依存性が小さく、それによって体積抵抗率の環境依存性を小さくすることの出来る、低ニトリルNBR等が特に好ましい。また、これらのポリマーのTgとしては-40℃以下、より好ましくは-50℃以下がよい。かかるTgは低ければ低い程よいが、実際に存在するあるいは、実用化されているポリマーの中でコストを考慮しながら探すことを考えると、-120℃以上、あるいは、-100℃以上、あるいは、-80℃以上程度となる。
【0040】
陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を偏在させない上記第2非連続相は、低極性ゴムを主成分としていることが好ましい。具体的には、低極性ゴムが、エチレンプロピレンジエン共重合ゴム(EPDM)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、ブチルゴム(IIR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)から選択される1種以上のゴムであることが好ましい。これにより、組成物に耐オゾン性を付与することができる。例えば、画像形成装置に用いられる導電性部材等に用いた場合でも、装置内に生じるオゾンに対して、耐オゾン性を確保することができる。
さらに、系全体の室温付近での粘弾性の温度依存性を小さくして、電気抵抗値の環境依存性を小さくするために、連続相に用いるポリマーだけでなく、第2非連続相に用いるポリマーもよりTgの低いものが好ましい。これは、第1非連続相に用いるポリマーについても同様である。尚、これらのポリマーのTgとしては-40℃以下であることが好ましく、さらには-50℃以下であるとより好ましい。第1非連続相あるいは、第2非連続相に用いるポリマーのTgの下限についても、連続相を構成するポリマーの場合と同様に、低ければ低い程よいが、実際には、-120℃以上、あるいは、-100℃以上、あるいは、-80℃以上程度となる。」

ウ 「【0050】
導電性ローラとする場合には、23℃、相対湿度55%の環境下で、1000Vの定電圧を96時間連続印加した場合の抵抗値R[Ω]を測定し、抵抗値の上昇量Δlog_(10)R=log_(10)R(t=96hr.)-log_(10)R(t=0hr.)の値を0.5以下としているのが好ましい。これは、上記のように規定するローラ抵抗値の上昇量の指標値が0.5より大きいと、導電性ローラを連続使用等した際の抵抗の上昇が大きくなり、より大きな電源を必要としたり、実用に支障をきたすおそれが生じたりするためである。かかる上昇量の指標値は小さければ小さい程良いが、測定精度や現在の配合技術の水準から考えると、0.01以上、あるいは、0.05以上、あるいは、0.08以上程度となる。…(略)…。」

エ 「【0053】
導電性ローラは、円筒状の導電層と円柱状の芯金とを備えた構成とし、芯金の周囲の導電層1層のみとしても良いが、導電層以外に、ロールの抵抗調整や、表面保護等のために2層、3層等の複層構造としても良く、要求性能に応じて各層の種類、積層順序、積層厚み等を適宜設定することができる。芯金は、アルミニウム、アルミニウム合金、SUS、鉄等の金属製、セラミック製等とすることができる。また、導電性ローラの表面に紫外線照射や各種コーティングを行い、紙粉の付着やトナーの固着を防止することもできる。
上記導電性ローラは画像形成装置内で使用され、具体的には、感光ドラムを一様に帯電させるための帯電ローラ、トナーを感光体に付着させるための現像ローラ、トナー像を感光体等から用紙または中間転写ベルト等に転写するための転写ローラ、トナーを搬送させるためのトナー供給ローラ、転写ベルトを内側から駆動するための駆動ローラとして用いられる。
【0054】
導電性ローラは、常法により作製でき、例えば、上記導電性ポリマー組成物(混練物)を単軸押出機でチューブ状に予備成形し、この予備成形品を160℃、15?70分加硫したのち、芯金を挿入・接着し表面を研磨した後、所要寸法にカットしてローラとする等の従来公知の種々の方法を用いることができる。加硫時間は、加硫試験用レオメータ(例:キュラストメータ)により最適加硫時間を求めて決めるとよい。また、加硫温度は必要に応じて上記温度に上下して定めてもよい。なお、感光体汚染と圧縮永久ひずみを低減させるため、なるべく十分な加硫量を得られる様に条件を設定することが好ましい。なお、ローラの加硫方法については、水蒸気加圧下の加硫缶中で加硫しても構わないし、可能な配合に関しては連続加硫による方法をとっても構わない。また、必要に応じて二次加硫を行っても良い。また、導電性ローラは、印加電圧1000Vにおけるローラ抵抗値が10^(3.5)Ω?10^(11.0)Ωであることが好ましく、10^(4.0)Ω?10^(9.0)Ωであることがより好ましく、さらには10^(4.5)Ω?10^(8.5)Ωが好ましい。」

オ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0095】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明の画像形成装置用の導電性部材からなる第1実施形態の導電性ローラ10を示す。該導電性ローラ10は、導電性を有する円柱状の金属製の芯金12と、芯金12の表面側に上記導電層11を備え、円筒状の導電層11の中空部に芯金12を圧入して取り付けている。
【0096】
上記導電層11を形成するイオン導電性ポリマー組成物の構造を図2の模式図に示す。上記イオン導電性ポリマーは、連続相1と、第1非連続相2、第2非連続相3とからなり、3つの相は海-島構造を呈している。第1非連続相2および第2非連続相3は連続相1中にほぼ均一に存在し、かつ、第1非連続層2は第2非連続相3を取り囲むように存在している。尚、第2非連続相は必ずしも存在しなくとも構わない。
【0097】
図3は、上記導電性ポリマー組成物を原子間力顕微鏡(AFM)式の走査型プローブ顕微鏡(SPM)において位相モードで観察したモルフォロジー(1辺10μm)を示す。図3において、連続相1は最も薄い色を呈し、第1非連続相2は最も濃い色を呈し、第2非連続相3は中程度の色濃度を呈しいる。図中で色の濃い部分は弾性率が高く、色の薄い部分は弾性率が低くなっている。
また、図3で示すように、体積分率は、連続相1>第2非連続相3>第1非連続相2となっている。
【0098】
前記図2および図3に示すような海-島構造を呈するように、各相のポリマーの種類と量を規定するとともに、添加する塩の量および添加方法を規定している。
上記イオン導電性ポリマー組成物には、全ポリマー100重量部に対して0.01?20重量部の陽イオンと陰イオンとに解離可能な塩を添加しており、上記第1非連続相2に上記塩を優先的に分配して偏在させ、第2非連続相3及び連続相1には殆ど塩を添加しない。
【0099】
上記第1非連続相2のポリマーは、連続相1を構成するポリマーよりも、解離可能な塩との親和性が高く、かつ、連続相1を構成するポリマーは、解離可能な塩を添加しない第2非連続相3を構成するポリマーよりも解離可能な塩との親和性が高いものとしている。即ち、上記各相のポリマーの塩との親和性は第1非連続相2>連続相1>第2非連続相3としている。
【0100】
具体的には、後述の実施例2に示す様に、例えば第1非連続相2を構成するポリマーとしてEO-PO-AGE共重合体(EO:PO:AGE=90:4:6(モル比))を10重量部用い、連続相1を構成するポリマーとして低ニトリルNBRを63重量部用い、解離可能な塩を殆ど添加しない第2非連続相3を構成するポリマーとして低極性の耐オゾン性ゴムであるEPDMを27重量部用いている。即ち、解離可能な塩との親和性は、EO-PO-AGE共重合体>低ニトリルNBR>EPDMである。
【0101】
第1非連続相2のEO-PO-AGE共重合体の体積抵抗率をρ_(V1)、連続相1の低ニトリルNBRの体積抵抗率をρ_(V2)、第2非連続相3のEPDMの体積抵抗率をρ_(V3)とすると、log_(10)ρ_(V1)は7.9、log_(10)ρ_(V2)は10.2、log_(10)ρ_(V3)は14.8であり、(log_(10)ρ_(V2)-log_(10)ρ_(V1))の値を2.3としている。
上記第1、第2非連続相2、3を構成するポリマーと連続相1を構成するポリマーとの重量比は37:63としている。
【0102】
上記導電性ポリマーに添加する陽イオンと陰イオンに解離可能な塩として、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩であるリチウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを1.1重量部用いている。この塩は、PC/DME系混合溶媒(体積分率1/2)中,25℃で0.1mol/リットルの塩濃度で測定した導電率が4.0mS/cmである。また、分子量1万以下の低分子量ポリエーテル化合物や低分子量極性化合物からなる媒体を介さずに配合している。
なお、本実施形態では陽イオンと陰イオンに解離可能な塩として、リチウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを用いているが、その他カリウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ヘキシルトリメチルアンモニウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウム-トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタン等を用いてもよい。
【0103】
上記導電性ポリマー組成物は、充填剤としてカーボンブラック9重量部、酸化亜鉛5重量部、ステアリン酸を1重量部、加硫剤として粉末硫黄1.5重量部、2種の加硫促進剤は各々1.5重量部、0.5重量部配合した加硫ゴム組成物からなる。
【0104】
図1に記載される上記導電性ポリマー組成物から形成した導電層11を有する導電性ローラ10は、下の方法により製造している。
まず、解離可能な塩とEO-PO-AGE共重合体とを混練機を用いて60℃、3分混練し、ここで得られた混練物に、低ニトリルNBR、EPDM、その他各種配合剤を配合し、再度、60℃、4分オープンロール、密閉式混練機等で混練し導電性ポリマー組成物を作製する。
なお、解離可能な塩とEO-PO-AGE共重合体との混合は混練機を用いずに、ヘンシェルミキサーやタンブラー等の混合機を用いて均一に混合するだけでも良い。
【0105】
この導電性ポリマー組成物をφ60mmの単軸押出機に投入し60℃で中空チューブ状に押し出して予備成形し、この生ゴムチューブを所定寸法に裁断して予備成形体を得ている。この予備成形体を加圧水蒸気式加硫缶に投入し、発泡させる場合は化学発泡剤がガス化して発泡すると共に、ゴム成分が架橋する温度(160℃で15?70分)で加硫して加硫ゴムチューブを得ている。
加硫条件はキュラストメーター等により測定し、95%トルク上昇時間t95[分]程度を目安に適宜調整している。
なお、感光体汚染と圧縮永久歪みを低減させるため、なるべく充分な加硫量を得られるように条件を設定した方が望ましい。
【0106】
芯金12を用意し、その外周面にホットメルト接着剤を塗布した後、先に得られた加硫ゴムチューブに芯金を挿入し、加熱し接着した後、表面を研磨して導電層11を目標寸法に仕上げた。導電性ローラ10の導電層11の寸法は、内径6mm、外径14mm、長さ218mmとしている。
【0107】
上記導電層11は、JIS K 6262に記載の加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの永久歪み試験法において、測定温度70℃、測定時間24時間で測定した圧縮永久歪みの値が17%であり、印加電圧100Vのもとで測定したJIS K 6911に記載の体積抵抗率が10^(9.0)[Ω・cm]である。
【0108】
また、導電性ローラ10は、印加電圧1000Vでの電気抵抗値を10^(7.7)Ωとし、23℃、相対湿度55%の環境下で、1000Vの定電圧を96時間連続印加した場合の抵抗値R[Ω]を測定し、抵抗値の上昇量Δlog_(10)R=log_(10)R(t=96hr.)-log_(10)R(t=0hr.)の値を0.10としている。また、10℃相対湿度15%、32.5℃相対湿度90%の条件下での抵抗値R[Ω]を測定し、抵抗値の環境依存性Δlog_(10)R=log_(10)R(10℃相対湿度15%)-log_(10)R(32.5℃相対湿度90%)の値を0.9としている。
【0109】
上記方法で製造された導電性ローラ10の導電層11は、上記連続相1、第1非連続相2、第2非連続相3を備え、第1非連続相2で第2非連続相3を取り囲むように存在させている。このように、モルフォルジーを制御すると共に、少量で抵抗値を下げ得る高性能の塩をEO-PO-AGE共重合体を主成分とする第1非連続相2に偏在させているため、電界を加えた時に起こる塩の製品外への移行や連続通電時の抵抗上昇等を防ぎながら、実用に必要な低電気抵抗値を得ることが出来る。
【0110】
よって、低電気抵抗を維持しながら、電気抵抗の環境による変化や連続使用による変化を小さくすると共に、ローラの部位による電気抵抗のばらつきを低減し、安定して良好な画像を形成でき、環境に優しい導電性ローラを得ることができる。よって、現像ローラ、帯電ローラ、転写ローラ等に好適である。特に、高画質を要求されるカラー複写機あるいはカラープリンタ用のこれらの導電性ローラとして適している。
なお、発泡剤を配合し、発泡倍率が100%以上500%以下であり、JIS K6253に記載のタイプEデュロメータで測定した硬度が60度以下の発泡層を有する発泡ローラとすることもできる。
【0111】
かつ、上記導電層11では、塩を殆ど分配していない第2非連続相3を設け、該第2非連続相3を、塩を偏在させた第1非連続相2で取り囲むように存在させているため、導電性をあまり大きく損なうことなく、塩を偏在させた第1非連続相1の体積分率を抑えることができる。これにより、塩やそれを積極的に分配する第1非連続相1のポリマーの添加量を少なくしても、全体として低い体積抵抗率、ローラの製品抵抗値を得ることができる。かつ、上記陽イオンと陰イオンに解離可能な塩として用いるフルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩等は高価であることより、これらの塩の添加量を少なくすることで、コスト上昇を抑えることができる。
【0112】
上記導電性ローラの実施例、比較例を作製して物性を測定した。
実施例1?11、比較例1?10については、表1?表4に記載の各配合材料を上記実施形態と同様の方法により混練、押出、加硫、成形加工、研磨して導電性ローラを作製した。ヒューレットパッカード社製Laser Jet4050型レーザービームプリンタ搭載の転写ローラ用の導電性ローラとした。
【0113】
これと並行して、混練機からリボン取りしたゴムをローラヘッド押出機により押し出してシート状に成形し、それを160℃で最適時間加硫缶にて加硫したあと、厚さが約2mmとなるようにスライスし、体積抵抗率(体積固有抵抗値)評価用の加硫ゴムスラブシートを得た。これらのローラやゴムスラブシートを用いて行った評価結果及び後述するローラとしての各種評価を表1?4に示す。
また、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)の示差走査熱量計DSC2910を用いて、-100℃から100℃まで、10℃/minで昇温しながら測定することにより求めた、各実施例・比較例で使用しているポリマーのガラス転移温度(Tg〔℃〕)もあわせて表中に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
…(略)…
【0118】
(実施例1?6)
非連続相を構成するポリマーとして実施例1?4、実施例6はEO-PO-AGE共重合体を用い、実施例5はエピクロルヒドリンゴムを用い、これに陽イオンと陰イオンに解離可能な塩である塩1のリチウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドあるいは塩2のリチウム-トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンを偏在させた。連続相として低ニトリルNBRを用い、実施例1?4は、他の非連続相としてEPDMを用いた。実施例2以外は発泡ローラとした。尚、塩2のPC/DME系混合溶媒(体積分率1/2)中25℃で0.1mol/リットルの塩濃度で測定した導電率は3.6mS/cmである。」

カ 「【0127】
(ローラ抵抗値)
温度23℃、相対湿度55%雰囲気下で、図4に示すように、芯金42を通した導電層41をφ30のアルミドラム43上に当接搭載し、電源44の+側に接続した内部抵抗r(100Ω?10kΩ)の導線の先端をアルミドラム43の一端面に接続すると共に電源44の-側に接続した導線の先端を芯金42の一端面に接続して通電を行った。芯金42の両端部に500gずつの荷重Fをかけ、芯金42とアルミドラム43間に1000Vの電圧をかけながらアルミドラム43を回転させることで間接的に導電性ローラ40を回転させた。このとき周方向に36回抵抗測定を行い、その平均値を求めた。内部抵抗の値は、ローラの抵抗値のレベルにあわせて、測定値の有効数字が極力大きくなるように調節した。この図4の装置で、印加電圧をEとすると、ローラ抵抗値RはR=r×E/V-rとなるが、今回-rの項は微小とみなし、R=r×E/Vとし、内部抵抗rにかかる検出電圧Vよりローラ抵抗値Rを算出した。表中には、そのローラ抵抗値の平均値の常用対数値を用いて示している。
【0128】
(ローラ抵抗値の環境依存性の測定)
図4に示す装置を各測定環境に置き、印加電圧1000Vのもとで、10℃相対湿度15%(LL条件)あるいは32.5℃相対湿度90%(HH条件)の条件下でローラの電気抵抗値R(Ω)を測定し、Δlog_(10)R=log_(10)R(10℃相対湿度15%)-log_(10)R(32.5℃相対湿度90%)の式に従い、環境依存性を算出した。なお、表中には、その常用対数値を用いて示している。この値が1.7を越えると好ましくない。
【0129】
(ローラ抵抗値の周ムラ)
図4に示す装置を用い、温度23℃、相対湿度55%雰囲気下で、芯金の両端に500gずつの荷重Fをかけ、アルミドラムを回転数30rpmで回転させることで導電性ローラを回転させた状態で、1000Vの印加電圧をかけたとき、1周内の周むら((周方向の電気抵抗の最大値/周方向の電気抵抗の最小値)の比率)を求めた。周むらは1.0?1.3、より好ましくは、1.0?1.2、さらに好ましくは、1.0?1.15である
のが良い。
【0130】
(連続通電時の抵抗上昇)
〔実施例1?11〕、〔比較例1?10〕に関して。
23℃、相対湿度55%の環境下で、ローラ抵抗値[Ω]の測定時と同様の状態で、ローラに1000Vの定電圧を96時間連続印加した。このときの、電圧印加直後のローラ抵抗値R(t=0hr.)と、96時間印加後のローラ抵抗値R(t=96hr.)の値を上記と同様にして測定し、これらの値を用いて連続通電時の抵抗上昇量:Δlog_(10) R(t=96-0hr.)〔Ω〕= log_(10) R(t=96hr.)-log_(10) R(t=0hr.)を計算した。数値は表1?4中に示す。尚、アルミドラムの回転数が30rpm,径が30mmφのため、回転時の線速度は94mm/分となる。」

キ 上記アないしカから、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。
「イオン導電性ポリマー組成物を用いる導電層を備えた画像形成装置に用いられる導電性ローラにおいて、
充分に低い抵抗値を維持しながら、電気抵抗の環境依存性(温度依存性+湿度依存性)を小さくし、かつ連続通電時の抵抗上昇を小さくし、良好で均質な画像を長期に渡って得ることができる画像形成装置を提供することを課題として、
上記導電層を、連続相と1相または2相以上の非連続相とからなるものとし、該連続相と非連続相とを海-島構造を呈するものとし、上記非連続相の少なくとも1相を陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を偏在させた第1非連続相とし、該第1非連続相を構成するポリマーを上記連続相を構成するポリマーよりも上記陽イオンと陰イオンに解離可能な塩との親和性が高いものとし、また、該導電層のポリマー組成物の印加電圧100Vのもとで測定したJIS K6911に記載の体積抵抗率を10^(4)?10^(12)[Ω・cm]とした導電性ローラであり、その表面に紫外線照射を行い紙粉の付着やトナーの固着を防止してもよいものであり、非連続相中での塩の自由度を高め低い電気抵抗を維持しながら電界を加えたときの塩の相外への流出を抑制できるため塩の組成物外への移行や連続通電時の抵抗上昇等を防ぐことができ、塩が非連続相中に存在するため温度や湿度等の環境の影響も受けにくくでき、イオン導電によるため電気抵抗のばらつきや電圧依存性も小さくでき、充分に低い抵抗値を維持しながら電気抵抗の環境依存性(温度依存性+湿度依存性)を小さくでき、かつ、連続通電時の抵抗上昇を小さくできる導電性ローラであって、
上記導電層を形成するイオン導電性ポリマー組成物の構造を、連続相、第1非連続相及び第2非連続相とからなり、3つの相は海-島構造を呈し、第1非連続相及び第2非連続相は連続相中にほぼ均一に存在し、かつ、第1非連続層は第2非連続相を取り囲むように存在する構造とし、イオン導電性ポリマー組成物には、全ポリマー100重量部に対して0.01?20重量部の陽イオンと陰イオンとに解離可能な塩を添加し、上記第1非連続相に上記塩を優先的に分配して偏在させ、第2非連続相及び連続相には殆ど塩を添加せず、上記第1非連続相のポリマーは、連続相を構成するポリマーよりも、解離可能な塩との親和性が高く、かつ、連続相を構成するポリマーは、解離可能な塩を添加しない第2非連続相を構成するポリマーよりも解離可能な塩との親和性が高いものとし、具体的には、第1非連続相を構成するポリマーとしてEO-PO-AGE共重合体(EO:PO:AGE=90:4:6(モル比))を10重量部用い、連続相を構成するポリマーとして低ニトリルNBRを63重量部用い、解離可能な塩を殆ど添加しない第2非連続相を構成するポリマーとして低極性の耐オゾン性ゴムであるEPDMを27重量部用い、上記導電性ポリマーに添加する陽イオンと陰イオンに解離可能な塩として、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩であるリチウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを1.1重量部用い、まず、解離可能な塩とEO-PO-AGE共重合体とを混練機を用いて60℃、3分混練し、ここで得られた混練物に、低ニトリルNBR、EPDM、その他各種配合剤を配合し、再度、60℃、4分オープンロール、密閉式混練機等で混練し導電性ポリマー組成物を作製し、この導電性ポリマー組成物をφ60mmの単軸押出機に投入し60℃で中空チューブ状に押し出して予備成形し、この生ゴムチューブを所定寸法に裁断して予備成形体を得、この予備成形体を加硫して加硫ゴムチューブを得て、用意した芯金の外周面にホットメルト接着剤を塗布した後、先に得られた加硫ゴムチューブに該芯金を挿入し、加熱し接着した後、表面を研磨して導電層を目標寸法に仕上げ、仕上げ時の印加電圧1000Vでの電気抵抗値が10^(7.7)Ωであり、23℃、相対湿度55%の環境下で、1000Vの定電圧を96時間連続印加した場合の抵抗値R[Ω]を測定して計算した、抵抗値の上昇量Δlog_(10)R=log_(10)R(t=96hr.)-log_(10)R(t=0hr.)の値が0.10であった、導電層を備えた導電性ローラ。」(以下「引用発明1」という。)

(2)原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-345088号公報(以下「引用例2」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。
ア 「【請求項1】 芯金とその外周側に1層以上の層とを有し、その最外層がゴム層であるゴムロールであって、
上記最外層であるゴム層の表面の表面粗さRmaxが2.0μm?15.0μmであると共に、
上記ゴム層の表層には酸化被膜が形成され、酸化被膜形成前の印加電圧50Vにおけるロール抵抗をR50とし、酸化被膜形成後の印加電圧50Vにおけるロール抵抗をR50aとしたとき、logR50a-logR50=0.2?1.5であることを特徴とするゴムロール。
【請求項2】 上記酸化被膜は、紫外線照射あるいは/及びオゾン照射により形成されてなる請求項1に記載のゴムロール。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ゴムロールに関し、詳しくは、良好な帯電特性を有し、プリンター等の画像形成機構に用いられる導電性ロールとして好適なゴムロールに関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、レーザープリンターの高速化、高画質化が急速に広まっている。レーザープリンターにおいて、画像形成の初期プロセスで、画像に直結する感光体やその近傍部材には、高精度化、高耐久性、高速化(応答性の良さ)、が求められている。よって、このようなレーザープリンターの画像形成機構に用いられ、特に、帯電したトナーを均一に受け取り、受け取ったトナーを均一に感光体上に描かれた潜像に供給する「現像ロール」等には、ロール表面の表面精度(表面粗さ)やロール形状の高精度(真円性、振れ性)化が必要不可欠になってきている。
【0003】また、プリンター市場も競争が激化する中、部材等のコスト削減が広く行われるようになり、よりコンパクトな設計が望まれている。このため、上記現像ロールは、従来主流であったマグネット方式によるものから、ゴム等を使用した弾性タイプに移行しつつある。このような弾性ロールにはバイアス電圧が加えられたトナーが均一に付着できるように設定されている。そのため、この種の弾性ロールには、500V印加時で、10^(4)?10^(8)Ω程度の抵抗値が必要となる。
【0004】さらに、上記のような高精度化、高耐久性等の要求により、弾性ロールにも金属製ロール並の表面精度が求められるようになってきている。よって、ロール表面の表面精度を極めて高めるため、あるいはトナーの付着性を改良するために、高度なコーティング法や表面処理方法等の種々の提案がなされている。
【0005】例えば、特開昭54-57576号では、加硫ゴム表面に200?430nmの紫外線を照射してゴム表面を改質する加硫ゴムの表皮面の改質法が提案されている。また、特開平8-292640号では、ECOと不飽和ゴムとのブレンド系からなるゴム層を有し、該ゴム層が紫外線照等により表面処理されているゴムロールが提案されている。さらに、特開平4-246427号では、表面に被搬送物と接触するゴム層を有するゴムロールにおいて、該ゴム層の表面を塩素系溶剤あるいは紫外線照射により表面処理してなるゴムロールが提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、特開昭54-57576号は、紫外線の照射により加硫ゴム表面を改質することのみが特徴とされ、単に紫外線を照射するだけではゴムロールとした時に高精度や良好な帯電特性を得ることができないという問題がある。また、ゴム表皮がプレス面の場合には、上記のような高精度なロールは形成できない上に、再外層の加硫状態も均一でなく、精度の良いゴムロールが作製できないという問題がある。
【0007】また、特開平8-292640号のゴムロールでは、200?450nmの紫外線を照射して摩擦係数を低減しているが、現像ロール等とした時に、均一な表面が得られず、ロール使用時の抵抗変化の抑制が不十分である上に、高耐久性を実現できないという問題がある。さらに、特開平4-246427号のゴムロールも、現像ロール等とした時に、ロール使用時の抵抗変化の抑制が不十分である上に、高耐久性を実現できないという問題がある。
【0008】さらには、特殊なコーティング材料等を用い表面精度を向上させることも考えられるが、コーティング材料が基材の性質に影響を及ぼすため、ゴムロールにコーティングしても所要のロール性能が得られないという問題がある。また、コーティング装置等には設備投資が必要であり、コスト高となるという問題がある。
【0009】本発明は上記した問題に鑑みてなされたものであり、ロール表面の摩擦係数の低減、ロール使用時の抵抗変化の抑制、さらには高耐久性を実現するゴムロールを提供することを課題としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、本発明は、芯金とその外周側に1層以上の層とを有し、その最外層がゴム層であるゴムロールであって、上記最外層であるゴム層の表面の表面粗さRmaxが2.0μm?15.0μmであると共に、上記ゴム層の表層には酸化被膜が形成され、酸化被膜形成前の印加電圧50Vにおけるロール抵抗をR50とし、酸化被膜形成後の印加電圧50Vにおけるロール抵抗をR50aとしたとき、logR50a-logR50=0.2?1.5であることを特徴とするゴムロールを提供している。
【0011】本発明者は、鋭意研究の結果、最外層であるゴム層表面が鏡面状に仕上げられたゴムロールにおいて、ゴム層の表面に酸化被膜を形成させ、酸化被膜を形成しない状態でのロール抵抗値に対し所定の抵抗上昇を得ることで、摩擦係数の低減とロール使用時の抵抗変化の抑制、さらには高耐久性とを実現できることを見出した。よって、ロール表面のすべりが小さく、かつ均一であるため、トナー離れが良好である上に、長期に渡って帯電特性に優れ、特に、1成分トナーを感光体潜像する現像ローラに好適なゴムロールを得ることができる。
【0012】上記最外層であるゴム層の表面を鏡面状に仕上げ、表面粗さRmaxを2.0μm?15.0μmとしているため、ゴムの弾性を維持しつつ良好な表面精度を得ることができ均一なトナーの受け渡しが可能となる上に、均一な酸化被膜を形成することができる。なお、好ましい範囲は4.0μm?10.0μmである。
【0013】酸化被膜形成前の印加電圧50Vにおけるロール抵抗をR50とし、酸化被膜形成後の印加電圧50Vにおけるロール抵抗をR50aとしたとき、logR50a-logR50=0.2?1.5としているのは、0.2より小さいと低摩擦係数を実現しにくく耐久性も向上しいくいためである。一方、1.5より大きいとロール使用時の抵抗変化が大きくなり、良好な帯電特性が得られないためである。また、安定して電圧を負荷することができる50Vという低電圧時のロール抵抗を指標値としているため、酸化被膜形成による微小な抵抗上昇を精度良く捉えることができる。なお、好ましい範囲は0.6?1.2である。
【0014】上記酸化被膜は、紫外線照射あるいは/及びオゾン照射により形成されてなることが好ましい。特に、紫外線照射を行う場合には、ゴム層の表面と紫外線ランプとの距離やゴムの種類等により異なるが、波長が100nm?400nmの紫外線を3分?30分間照射することが好ましい。」

ウ 「【0029】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1に示すように、ゴムロール1は円筒形状であり、その中空部に円筒形状の芯金(シャフト)2を圧入し、両者を接着剤で接合して取り付けている。ゴムロール1は、芯金の外周側に配置され、ゴム層1層のみからなる構成としている。
【0030】ゴム層のゴム成分として、エピクロルヒドリンゴム(エチレンオキサイド(EO)/エピクロルヒドリン(EP)/アリルグリシジルエーテル(AGE)の共重合比率が56モル%/40モル%/4モル%)75重量部、NBRを25重量部用いている。また、エピクロルヒドリンゴムの重量に対して受酸剤であるハイドロタルサイト類を3重量部配合している。
【0031】さらに、加硫剤として硫黄粉末、加硫促進剤(エチレンチオウレア)、カーボン、炭酸カルシウムを配合しゴム組成物を得ている。このゴム組成物を混練した後、押出機で円筒状に押出して予備成形し、これを所定寸法に裁断して予備成形体を得ている。この予備成形体を加硫缶に投入し、ゴム成分が架橋する温度で加硫している。加硫後、芯金を円筒内に装着しロールを得ている。
【0032】円筒研磨機によりロール表面を研磨し、ロール表面粗さRmaxが7.1μmとなるように鏡面仕上げを行い、水洗いをした後に、紫外線照射機により紫外線(184.9nm)を照射し酸化被膜を形成している。90度毎に5分間、紫外線を照射し、4回回転させてローラ全周に酸化被膜を形成させている。
【0033】酸化被膜形成前の印加電圧50Vにおけるロール抵抗R50は10^(6.4)Ωであり、酸化被膜形成後の印加電圧50Vにおけるロール抵抗R50aは10^(7.2)Ωであり、logR50a-logR50=0.8としている。また、酸化被膜形成後の印加電圧500Vにおけるロール抵抗値が10^(6.3)Ωとしている。
【0034】このように、表面粗さが7.1μmである鏡面状とした平滑な表面を有するゴムロールにおいて、所定の抵抗上昇が得られるようにその表面に酸化被膜を形成することで、摩擦係数の低減とロール使用時の抵抗変化の抑制、さらには高耐久性とを実現している。よって、ロール表面のすべりが小さく、かつ均一であるため、トナー離れが良好である上に、長期に渡って帯電特性に優れ、特に、1成分トナーを感光体潜像する現像ローラに好適である。
【0035】以下、本発明のゴムロールの実施例、比較例について詳述する。実施例および比較例について、各々下記の表1、2及び下記に記載の配合からなる材料に、必要に応じてステアリン酸、第4級アンモニウム塩等の可塑成分を適量加えて、バンバリーミキサで混練り後、押出機にて外径φ22mm、内径φ9.5mmのチューブ状に押し出し加工を施し、加硫用のシャフトに装着し、加硫缶にて160℃で1時間加硫を行い、導電性接着剤を塗布したφ10mmのシャフトに装着して160℃のオーブン内で接着した。その後、端部を成型し、円筒研磨機でトラバース研磨、仕上げ研磨として鏡面研磨を施し、φ20mm(公差0.05)で各々所定の表面粗さに仕上げた。ロール表面を水洗いした後、後述する方法により50Vの電圧を印加しロール抵抗R50を測定した。
【0036】さらに、表1、2に示すように、必要に応じて紫外線照射機(セン特殊光源(株)製、PL21-200)で各々所定時間紫外線(184.9nm)を照射し、最表層を仕上げた。90度毎に所定の照射時間、紫外線を照射し、ローラを4回回転させてローラ全周(360度)に酸化被膜を形成させた。表中の照射時間は一面当たり(90度範囲)の時間を指す。酸化被膜形成後に、後述する方法により50Vの電圧印加時のロール抵抗R50a、及び500Vの電圧印加時のロール抵抗を測定した
【0037】
【表1】



エ 「【0048】
【発明の効果】以上の説明より明らかなように、本発明によれば、最外層であるゴム層表面が鏡面状に仕上げられたゴムロールにおいて、ゴム層の表面に酸化被膜を形成させ、酸化被膜を形成しない状態でのロール抵抗値に対し所定の抵抗上昇を得ることで、摩擦係数の低減とロール使用時の抵抗変化の抑制、さらには高耐久性とを実現することができる。よって、ロール表面のすべりが小さく、かつ均一であるため、トナー離れが良好である上に、長期に渡って帯電特性に優れ、特に、1成分トナーを感光体潜像する現像ローラに好適である。
【0049】このように、トナーとの摩擦係数が小さいために、トナー離れが良く、画像ムラのない良好な画像を得ることができる。また、粒径が小さいトナー、均一な形状の重合トナー等を用いた場合にも、良好な画像を得ることができる。よって、プリンターの高速化、コンパクト化、高画質化への対応を可能としている。」

オ 上記アないしエから、引用例2には、次の発明が記載されているものと認められる。
「特開昭54-57576号では、加硫ゴム表面に200?430nmの紫外線を照射してゴム表面を改質する加硫ゴムの表皮面の改質法が提案されているが、ゴムロールとした時に高精度や良好な帯電特性を得ることができないという問題があり、特開平8-292640号では、ゴム層が紫外線を照射して摩擦係数を低減しているゴムロールが提案されているが、現像ロールとした時に均一な表面が得られず、ロール使用時の抵抗変化の抑制が不十分である上に高耐久性を実現できないという問題があり、特開平4-246427号では、表面に被搬送物と接触するゴム層を有するゴムロールにおいて、該ゴム層の表面を紫外線照射により表面処理してなるゴムロールが提案されているが、現像ロールとした時に、ロール使用時の抵抗変化の抑制が不十分である上に、高耐久性を実現できないという問題があるので、これらの問題に鑑みて、ロール表面の摩擦係数の低減、ロール使用時の抵抗変化の抑制、さらには高耐久性を実現するゴムロールを提供することを課題とし、
円筒形状のゴムロールの中空部に円筒形状の芯金を圧入し、両者を接着剤で接合して取り付けて、芯金の外周側に配置したゴムロールにおいて、
芯金とその外周側に1層のゴム層を有し、上記ゴム層の表面を鏡面状に仕上げてその表面粗さRmaxを2.0μm?15.0μmにすると共に、上記ゴム層の表層に紫外線照射により酸化被膜を形成し、酸化被膜形成による微小な抵抗上昇を精度良く捉えることができるように安定して電圧を負荷することができる50Vという低電圧時のロール抵抗を指標値として、酸化被膜形成前の印加電圧50Vにおけるロール抵抗をR50とし、酸化被膜形成後の印加電圧50Vにおけるロール抵抗をR50aとし、logR50a-logR50が0.2より小さいと低摩擦係数を実現しにくく耐久性も向上しにくいため、他方logR50a-logR50が1.5より大きいとロール使用時の抵抗変化が大きくなり、良好な帯電特性が得られないため、前記logR50a-logR50が0.2?1.5となるようにして、酸化被膜を形成しない状態でのロール抵抗値に対し所定の抵抗上昇を得ることで摩擦係数の低減とロール使用時の抵抗変化の抑制と高耐久性とを実現した、画像形成機構に用いられる導電性弾性ロールとして好適なゴムロール。」(以下「引用発明2」という。)

4 対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。
(1)引用発明1の「芯金」、「芯金の外周面」、「『加硫ゴムチューブ』を『仕上』げ『印加電圧1000Vでの電気抵抗値を10^(7.7)Ω』とした『導電層』」、「導電性ローラ」、「連続相」、「第1非連続相」、「第2非連続相」、「3つの相は海-島構造を呈し」、「連続相を構成するポリマーとして低ニトリルNBRを63重量部用い」、「フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩であるリチウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド」、「第1非連続相を構成するポリマーとしてEO-PO-AGE共重合体(EO:PO:AGE=90:4:6(モル比))を10重量部用い」及び「解離可能な塩を殆ど添加しない第2非連続相を構成するポリマーとして低極性の耐オゾン性ゴムであるEPDMを27重量部用い」は、それぞれ、本願補正発明の「芯金」、「芯金外周面」、「導電性弾性層」、「導電性ロール」、「連続相」、「第1非連続相」、「第2非連続相」、「3つの相は海-島構造を呈し」、「連続相が低ニトリルNBR」、「イオン導電剤」、「『第1非連続相』が『エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル共重合体』」及び「第2非連続相がエチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムからなり」に相当する。

(2)引用発明1の「仕上げ時の印加電圧1000Vでの電気抵抗値が10^(7.7)Ωであり、23℃、相対湿度55%の環境下で、1000Vの定電圧を96時間連続印加した場合の抵抗値R[Ω]を測定して計算した、抵抗値の上昇量Δlog_(10)R=log_(10)R(t=96hr.)-log_(10)R(t=0hr.)の値が0.10であった導電層」は、連続印加する時間を96時間から4時間延長して100時間としても、抵抗値の上昇量の値(=log_(10)R(t=100hr.)-log_(10)R(t=0hr.))が0.10から大幅に上昇して0.30を超えることはあり得ないと言っても過言ではないから、引用発明1の「仕上げ時の印加電圧1000Vでの電気抵抗値が10^(7.7)Ωであり、23℃、相対湿度55%の環境下で、1000Vの定電圧を96時間連続印加した場合の抵抗値R[Ω]を測定して計算した、抵抗値の上昇量Δlog_(10)R=log_(10)R(t=96hr.)-log_(10)R(t=0hr.)の値が0.10であった」点は、本願補正発明の「印加電圧1000Vにおける初期ロール抵抗値をR0[Ω]とすると共に100時間連続印加した後のロール抵抗値をR100[Ω]とすると、(logR100-logR0)≦0.3」に相当するといえる。

(3)引用発明1において、連続相を構成するポリマーは低ニトリルNBR63重量部であり、非連続相を構成するポリマーは、第1非連続相を構成するEO-PO-AGE共重合体(EO:PO:AGE=90:4:6(モル比))10重量部、第2非連続相を構成する解離可能な塩を殆ど添加しない低極性の耐オゾン性ゴムであるEPDM27重量部及び上記導電性ポリマーに添加する陽イオンと陰イオンに解離可能な塩としての、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩であるリチウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド1.1重量部であるから、連続相を構成するポリマーと非連続相を構成するポリマーの合計は、101.1(=63+10+27+1.1)重量部となる。
してみると、引用発明1において、連続相を構成するポリマーの含有量、第1非連続相を構成するポリマーの含有量及び第2非連続相を構成するポリマーの含有量は、連続相を構成するポリマーと非連続相を構成するポリマーの合計100質量部に対して、それぞれ、62.3質量部(=63÷101.1)、11.0質量部(=(10+1.1)÷101.1)及び26.7質量部(=27÷101.1)であるといえる。
また、引用発明1において、第1非連続相を構成するポリマーとしてEO-PO-AGE共重合体10重量部に陽イオンと陰イオンに解離可能な塩として添加する、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩であるリチウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの量は1.1重量部であるから、前記EO-PO-AGE共重合体が含むイオン導電剤の割合は9.9質量%であるといえる。
したがって、引用発明1の「第1非連続相を構成するポリマーとしてEO-PO-AGE共重合体(EO:PO:AGE=90:4:6(モル比))を10重量部用い、連続相を構成するポリマーとして低ニトリルNBRを63重量部用い、解離可能な塩を殆ど添加しない第2非連続相を構成するポリマーとして低極性の耐オゾン性ゴムであるEPDMを27重量部用い、上記導電性ポリマーに添加する陽イオンと陰イオンに解離可能な塩として、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩であるリチウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを1.1重量部用い、まず、解離可能な塩とEO-PO-AGE共重合体とを混練機を用いて60℃、3分混練し、ここで得られた混練物に、低ニトリルNBR、EPDM、その他各種配合剤を配合し、再度、60℃、4分オープンロール、密閉式混練機等で混練し導電性ポリマー組成物を作製し、この導電性ポリマー組成物をφ60mmの単軸押出機に投入し60℃で中空チューブ状に押し出して予備成形し、この生ゴムチューブを所定寸法に裁断して予備成形体を得、この予備成形体を加硫して加硫ゴムチューブを得て、用意した芯金の外周面にホットメルト接着剤を塗布した後、先に得られた加硫ゴムチューブに該芯金を挿入し、加熱し接着した後、表面を研磨して導電層を目標寸法に仕上げた導電層」と本願発明の「連続相を構成するポリマーと非連続相を構成するポリマーの合計100質量部に対して前記連続相を構成するポリマーの含有量を60?80質量部とし、前記第1非連続相を構成するポリマーの含有量を1?25質量部、前記第2非連続相を構成するポリマーの含有量を5?30質量部としている導電性弾性層」とは「連続相を構成するポリマーと非連続相を構成するポリマーの合計100質量部に対して前記連続相を構成するポリマーの含有量を62.3質量部とし、前記第1非連続相を構成するポリマーの含有量を11.0質量部、前記第2非連続相を構成するポリマーの含有量を26.7質量部としている」点で一致し、引用発明1の「解離可能な塩を殆ど添加しない第2非連続相を構成するポリマーとして低極性の耐オゾン性ゴムであるEPDMを27重量部用い、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩であるリチウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを1.1重量部用い、まず、解離可能な塩とEO-PO-AGE共重合体とを混練機を用いて混練した第1非連続相を構成するポリマー」と本願補正発明の「イオン導電剤を1?20質量%の割合で含むエチレンオキサイド-プロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル共重合体である第1非連続相を構成するポリマー」とは「イオン導電剤を9.9質量%の割合で含むエチレンオキサイド-プロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル共重合体である」点で一致する。

(4)引用発明1の「導電性ロール(導電性ローラ)」は、初期の摩擦係数をμ0、印加電圧1000Vで100時間連続印加した後の摩擦係数をμ100とすると、μ100/μ0が、1.0未満であることは当業者に自明であるから、引用発明1の「導電性ロール」と本願補正発明の「初期の摩擦係数をμ0、印加電圧1000Vで100時間連続印加した後の摩擦係数をμ100とすると、0.8<μ100/μ0<1.0である導電性ロール」とは「初期の摩擦係数をμ0、印加電圧1000Vで100時間連続印加した後の摩擦係数をμ100とすると、μ100/μ0が1.0未満である」点で一致する。

(5)上記(1)ないし(4)から、本願補正発明と引用発明1とは、
「芯金外周面上に下記(a)の導電性弾性層を備える導電性ロールであって、
印加電圧1000Vにおける初期ロール抵抗値をR0[Ω]とすると共に100時間連続印加した後のロール抵抗値をR100[Ω]とすると、(logR100-logR0)≦0.3で、かつ、
初期の摩擦係数をμ0、印加電圧1000Vで100時間連続印加した後の摩擦係数をμ100とすると、μ100/μ0<1.0である導電性ロール。
(a)連続相と、第1非連続相、第2非連続相とからなり、3つの相は海-島構造を呈し、連続相が低ニトリルNBRで、第1非連続相がイオン導電剤を9.9質量%の割合で含むエチレンオキサイド-プロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル共重合体で、第2非連続相がエチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムからなり、連続相を構成するポリマーと非連続相を構成するポリマーの合計100質量部に対して前記連続相を構成するポリマーの含有量を62.3質量部とし、前記第1非連続相を構成するポリマーの含有量を11.0質量部、前記第2非連続相を構成するポリマーの含有量を26.7質量部としている導電性弾性層。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
前記導電性弾性層の最表面に、本願補正発明では、酸化被膜が形成されているのに対して、引用発明1では、酸化被膜が形成されていない点。

相違点2:
前記μ100/μ0が、本願補正発明では、0.8より大きいのに対して、引用発明1では、0.8より大きいかどうか明らかでない点。

5 判断
上記相違点1及び2について検討する。
(1)ゴム層の表皮に紫外線を照射してゴム表皮面を改質したゴムロールは、本願出願前に周知である(以下「周知技術」という。例.特開平4-246427号公報(【請求項2】参照。)、特開平8-292640号公報(【請求項3】参照。)、特開平11-109770号公報(【請求項4】参照。)、特開2002-357215号公報(【請求項1】参照。)、引用例2(【請求項1】、【請求項2】参照。))。

(2)引用例2には、上記3(2)で述べたとおりの引用発明2が記載されている。
引用発明2は、特開昭54-57576号公報、上記特開平8-292640号公報、上記特開平4-246427号公報に記載された紫外線を照射してゴム表面を改質する方法では、現像ロールとした時に満足できる性能を実現できないので、「ロール表面の摩擦係数の低減、ロール使用時の抵抗変化の抑制、さらには高耐久性を実現するゴムロールを提供することを課題とし、円筒形状のゴムロールの中空部に円筒形状の芯金を圧入し、両者を接着剤で接合して取り付けて、芯金の外周側に配置したゴムロールにおいて、芯金とその外周側に1層のゴム層を有し、上記ゴム層の表面を鏡面状に仕上げてその表面粗さRmaxを2.0μm?15.0μmにすると共に、上記ゴム層の表層に紫外線照射により酸化被膜を形成し、酸化被膜形成による微小な抵抗上昇を精度良く捉えることができるように安定して電圧を負荷することができる50Vという低電圧時のロール抵抗を指標値として、酸化被膜形成前の印加電圧50Vにおけるロール抵抗をR50とし、酸化被膜形成後の印加電圧50Vにおけるロール抵抗をR50aとし、logR50a-logR50が0.2より小さいと低摩擦係数を実現しにくく耐久性も向上しにくいため、他方logR50a-logR50が1.5より大きいとロール使用時の抵抗変化が大きくなり、良好な帯電特性が得られないため、前記logR50a-logR50が0.2?1.5となるようにして、酸化被膜を形成しない状態でのロール抵抗値に対し所定の抵抗上昇を得ることで摩擦係数の低減とロール使用時の抵抗変化の抑制と高耐久性とを実現した、画像形成機構に用いられる導電性弾性ロールとして好適なゴムロール。」である。

(3)引用発明1の「画像形成装置に用いられる導電性ローラ」は、その表面に紫外線照射を行い紙粉の付着やトナーの固着を防止してもよいものであり、紙粉の付着が画像形成装置に用いられるゴムロールの使用初期における摩擦係数の著しい低下の発生原因の一つであることは当業者に知られており(上記特開平4-246427号公報の【0004】参照。)、引用発明1において、コスト高となるコーティング(引用例2の【0008】、上記特開2002-357215号公報の【0003】及び【0005】参照。)をすることなく、ローラ表面への紙粉やトナーの付着を防止したり、導電性ローラ表面の摩擦抵抗を下げたり(上記特開平8-292640号公報の【0025】、【0026】及び上記特開昭54-57576号公報の1頁左下欄参照。)、導電性ローラよりその成分が滲出して他の部材を汚染することを防止したり(上記特開2002-357215号公報の【0003】、【0005】、上記特開平11-109770号公報の【0016】参照。)するために、周知技術を採用するとともに、さらには、ロール表面の摩擦係数の低減、ロール使用時の抵抗変化の抑制、さらには高耐久性を実現するゴムロールを提供するために、引用発明2を採用し、引用発明1において、芯金を挿入し接着した加硫ゴムチューブ表面を研磨して導電層を目標寸法に仕上げた後、加硫ゴムチューブの表皮に紫外線を照射してゴム表皮面を改質して酸化被膜を形成すること、すなわち、引用発明1において、上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が引用発明2及び周知技術に基づいて容易に想到することができた程度のことである。

(4)本願明細書の発明の詳細な説明には、本願補正発明のμ100/μ0が0.8より大きいことに関して、
「導電性ロールが実際に画像形成装置に組み込まれた際に問題となるのは、含有成分の滲出や表面の粘着性だけでなく、初期変化が大きいことも挙げられる。初期変化としては、通電開始直後に電気抵抗が急激に上昇したり摩擦係数が急激に小さくなったりすること等がある。このような初期変化のために画像形成装置の電気的な制御や搬送機構の制御が難しくなっている。」(【0007】)、
「本発明者らは、導電性弾性層の最表面に酸化被膜を形成することにより、画像形成装置に実装されたときに起こる初期変化を予め強制的に起こすことができることを知見した。このように初期変化を予め起こさせておくことにより、初期状態と100時間連続印可後の状態における電気抵抗および摩擦係数の変化を一定範囲内に抑えることができることを知見した。このような導電性ロールを用いることにより、画像形成装置の電気的な制御や搬送機構の制御を容易にすることができる。」(【0011】)
との記載がある。

(5)上記(4)の記載からみて、本願補正発明は、導電性ロールが実際に画像形成装置に組み込まれた際に問題となる通電開始直後に摩擦係数が急激に小さくなるという大きな初期変化を、導電性弾性層の最表面に酸化被膜を形成して予め起こさせ、初期状態と100時間連続印加後の状態における摩擦係数の変化を一定(μ100/μ0が0.8より大きい)範囲内に抑えたものと認められる。
してみると、上記(3)のように引用発明1の加硫ゴムチューブの表皮に紫外線を照射する程度を、ロール使用時の抵抗変化が大きくなりすぎない範囲で初期状態での低摩擦係数を実現し耐久性も向上できるように、前記μ100/μ0がすくなくとも0.8より大きくなる程度にすることは、当業者が引用発明2に基づいて適宜なし得た程度のことである。

(6)本願補正発明の奏する効果は、当業者が引用発明1の奏する効果、引用発明2の奏する効果及び周知技術の奏する効果から予測することができた程度のものである。

(7)したがって、本願補正発明は、当業者が引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。
本願補正発明は、当業者が引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6 小括
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成22年8月4日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年8月4日付けで補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びそれらの記載事項は、上記「第2〔理由〕3」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願補正発明は、上記「第2〔理由〕1(2)」のとおり、本願発明の発明特定事項を限定するものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2〔理由〕5」に記載したとおり、当業者が引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-01 
結審通知日 2012-10-09 
審決日 2012-10-22 
出願番号 特願2004-332460(P2004-332460)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G03G)
P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴野 幹夫小林 紀史谷山 稔男  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 清水 康司
立澤 正樹
発明の名称 導電性ロール  
代理人 大和田 和美  

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