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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1267647
審判番号 不服2011-21190  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-30 
確定日 2012-12-20 
事件の表示 特願2009-195222「MRI装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月26日出願公開,特開2009-273929〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成11年12月24日に出願された特願平11-368256号の一部を新たな特許出願として平成21年8月26日に特許出願されたものであって,平成23年2月21日付けで拒絶理由が通知され,同年4月26日付けで手続補正がなされた後,同年7月1日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年9月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同日付けで手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。そして,同年12月15日付けで審尋がなされ,回答書が平成24年2月17日付けで請求人より提出された。


第2 本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年9月30日付けの手続補正(本件補正)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲について,

「【請求項1】
被検体の所望領域に対して心電同期法に拠るイメージングを行うようにしたMRI装置において、
前記心電同期法に拠るイメージング用MRスキャンに用いられ且つ高信号値を呈する高信号時相域に対応した最適同期タイミングを準備用MRスキャンの実行を通して事前に設定する最適遅延時間設定手段と、
前記最適遅延時間に同期したイメージング用MRスキャンを実行してエコー信号を収集するイメージング用スキャン手段と、
このエコー信号をk空間に配置すると共に当該配置信号に再構成処理を施して画像を生成する画像生成手段とを備え、
前記イメージング用スキャン手段は、前記高信号時相域で収集したエコー信号を前記k空間の中心部の所望低周波領域に配置するように設定したパルスシーケンスを実行する実行手段を備えたことを特徴とするMRI装置。
【請求項2】
請求項1記載のMRI装置において、
前記イメージング用スキャン手段は、セグメンテッド法に拠るパルスシーケンスを実行して前記高信号時相域で収集した複数のセグメントに対応するエコー信号を前記低周波領域に配置するように構成されることを特徴とするMRI装置。」を

「【請求項1】
被検体の所望領域に対して心電同期法に拠るイメージングを行うようにしたMRI装置において、
前記心電同期法に拠るイメージング用MRスキャンに用いられ且つ高信号値を呈する高信号時相域に対応した最適同期タイミングを準備用MRスキャンの実行を通して事前に設定する最適遅延時間設定手段と、
前記最適遅延時間に同期したイメージング用MRスキャンを実行して、心周期の内の前記高信号時相域を含む所定範囲の領域のエコー信号を選択的に収集するイメージング用スキャン手段と、
このエコー信号をk空間に配置すると共に当該配置信号に再構成処理を施して画像を生成する画像生成手段とを備え、
前記イメージング用スキャン手段は、前記高信号時相域で収集したエコー信号を前記k空間の中心部の所望低周波領域に配置するように設定したパルスシーケンスを実行する実行手段を備えたことを特徴とするMRI装置。
【請求項2】
請求項1記載のMRI装置において、
前記イメージング用スキャン手段は、セグメンテッド法に拠るパルスシーケンスを実行して前記高信号時相域で収集した複数のセグメントに対応するエコー信号を前記低周波領域に配置するように構成されることを特徴とするMRI装置。」

とするものである。

2 本件補正の目的
(1)特許請求の範囲についての本件補正は,補正前の請求項1に係る発明を特定する事項である「前記最適遅延時間に同期したイメージング用MRスキャンを実行してエコー信号を収集するイメージング用スキャン手段」に関して,さらに「心周期の内の前記高信号時相域を含む所定範囲の領域のエコー信号を選択的に収集する」と限定するもので,補正前の請求項1に係る発明を特定する事項を減縮することを目的とするものであるということができる。

(2)そうしてみると,特許請求の範囲についての本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的するものに該当するといえる。

3 独立特許要件
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか,すなわち,本件の特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(1)引用刊行物の記載事項
ア 原査定の拒絶の理由に引用され,本願特許出願前に頒布された刊行物である,特開平11-239571号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面の図示と共に,次の事項が記載されている(下線は当審が付与したもの)。

(1-ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、被検体の磁気共鳴現象に基づいて被検体内部を画像化する磁気共鳴イメージングに関する。とくに、被検体の心時相を表す信号を使って心電同期法に基づく撮像を行うMRI(磁気共鳴イメージング)装置およびMR(磁気共鳴)撮像方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
磁気共鳴イメージング(MRI)は、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをそのラーモア周波数の高周波信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生するMR信号から画像を再構成する撮像法である。
【0003】
この磁気共鳴イメージングによって、例えば肺野の血管や肝臓の血管(門脈)などを撮像する場合、血管像の信号値を上げてS/Nを良くすること、体動によるアーチファクトを低減することなどの種々の要求がある。

【0005】
また、撮像対象が心臓系である場合には、1回のRF励起に伴う撮像時間が短いFE系のパルスシーケンスによる撮像も行われている。とくに、近年、セグメンテッド(segmented )FFE法が多用されている。このセグメンテッドFFE法の場合も、ECGゲート法を併用して、セグメント毎の収集時相を合わせる手法が好適である。」

(1-イ)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した各種のパルスシーケンスにECGゲート法を併用して撮像する場合、以下のような未解決の課題が放置されていた。
【0007】
つまり、心電同期のタイミングの適正化の問題がある。この心電同期に関しては、その同期タイミングの適正化などについて、従来、殆ど研究されていないのが実情であった。被検体の固体差や診断部位の違い(例えば心臓に近いか遠いかなど)、さらには使用するパルスシーケンスの種類に応じた、より適正な同期タイミングが存在する筈であるが、従来は、かかる同期タイミングについて具体的な研究および提案はなされていなかった。このため、仮に、上述した撮像法においてECGゲート法を併用しようとすると、操作者は経験に基づいて又は試行錯誤的に適当と思われる同期タイミングを与えることになる。しかし、その場合、フローボイド(flow void )現象などに因って、信号値が低くなり、検査者は意図した血流を的確に捕捉したMRA像を得ることができない等の事態を招くことがある。すなわち、ECGゲート法を十分に活かし且つ対象を確実に捕捉した安定したイメージングを行っていることの保証はない。
【0008】
このような状況下にあるので、例えば、2m/secと比較的高速の大動脈流を画像化したい場合、心電同期の同期タイミングを適正に設定しないと上述したフローボイド現象などを起こして確実に画像化できない可能性大である。
【0009】
本発明は、このような従来技術の現状を打破するためになされたもので、その目的の1つは、心電同期法を併用して撮像するときの心電同期タイミングを事前に最適に設定することができ、これにより、安定した且つ高描出能のMR像を提供することである。」

(1-ウ)「【0020】
以上の構成によれば、心電同期法を併用して撮像するときの心電同期タイミングが事前に適切または最適に設定され、安定した且つ高描出能のMR像が提供される。
【0021】
1つの例として、1回のRF励起に伴う撮像時間が1心拍に比較して比較的長いパルスシーケンスに拠るものであっても、複数の心拍それぞれに対して遅延時間をダイナミックに変えながら準備用MRスキャンが複数回行われる。具体的には、複数のR波それぞれからの遅延時間が種々調整される。この遅延時間の大小の程度を適宜に変えることで、R波出現直後の乱流的な流れの時間帯を回避し、かつ、比較的安定した流れの時間帯に合わせた複数通りの準備用MRスキャンを実施できる。このため比較的コントラストの良い、遅延時間の異なる複数枚の再構成画像が得られる。この画像の中から、大動脈などの撮像対象が最も良好に描出されている画像を選択でき、その画像データ収集時の遅延時間を適切な又は最適な同期タイミングとして決することができる。
【0022】
したがって、心電同期イメージング用MRスキャンを実施する際、撮像対象が例えば横緩和時間T2 が短めの血液であっても、その血液に対する適切な又は最適な同期タイミングが事前に設定されている。つまり、被検体自体の固体差、診断部位の相違、さらには診断する撮像対象の相違などがあっても、個々の被検体、診断部位、撮像対象に対して、同期タイミングがMR信号値の観点から常に所望の適切なタイミングに設定されている。このため、フローボイド現象などに因る信号値低下などの事態を低減または排除し、血流などの撮像対象からのエコー信号の強度を上げることができる。したがって、撮像対象を確実に捕捉した描出能の高い高品質のMR画像を得ることができる。
【0023】
また別の例として、1回の励起に伴う撮像時間が比較的短いseg.FFE法に心電同期法を併用して心臓などを撮像する場合も、その心電同期タイミングが事前に適切に設定されるので、撮像対象を確実に捕捉した高描出能のMR像が提供される。」

(1-エ)「【0032】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0033】
第1の実施形態
第1の実施の形態を図1?図10を参照して説明する。
【0034】
この実施形態にかかるMRI(磁気共鳴イメージング)装置の概略構成を図1に示す。
【0035】
このMRI装置は、被検体としての患者Pを載せる寝台部と、静磁場を発生させる静磁場発生部と、静磁場に位置情報を付加するための傾斜磁場発生部と、RF(高周波)信号を送受信する送受信部と、システム全体のコントロール及び画像再構成を担う制御・演算部と、患者Pの心時相を表す信号としてのECG(心電図)信号を計測する心電計測部と、患者Pに息止めを指令する息止め指令部とを機能的に備えている。
【0036】
静磁場発生部は、例えば超電導方式の磁石1と、この磁石1に電流を供給する静磁場電源2とを備え、被検体Pが遊挿される円筒状の開口部(診断用空間)の長手軸方向(Z軸方向)に静磁場H0 を発生させる。なお、この磁石部にはシムコイル14が設けられている。このシムコイル14には、後述するホスト計算機の制御下で、シムコイル電源15から静磁場均一化のための電流が供給される。寝台部は、被検体Pを載せた天板を磁石1の開口部に退避可能に挿入できる。
【0037】
傾斜磁場発生部は、磁石1に組み込まれた傾斜磁場コイルユニット3を備える。この傾斜磁場コイルユニット3は、互いに直交するX、Y、Z軸方向の傾斜磁場を発生させるための3組(種類)のx,y,zコイル3x?3zを備える。傾斜磁場部はさらに、x,y,zコイル3x?3zに電流を供給する傾斜磁場電源4を備える。この傾斜磁場電源4は、後述するシーケンサの制御のもと、x,y,zコイル3x?3zに傾斜磁場を発生させるためのパルス電流を供給する。
【0038】
傾斜磁場電源4からx,y,zコイル3x?3zに供給されるパルス電流を制御することにより、3軸X,Y,Z方向の傾斜磁場を合成して、スライス方向傾斜磁場G_(S) 、位相エンコード方向傾斜磁場G_(E) 、および読出し方向(周波数エンコード方向)傾斜磁場G_(R) の各方向を任意に設定・変更することができる。スライス方向、位相エンコード方向、および読出し方向の各傾斜磁場は、静磁場H_(0)に重畳される。
【0039】
送受信部は、磁石1内の撮影空間にて患者Pの近傍に配設されるRF(高周波)コイル7と、このRFコイル7に接続された送信器8T及び受信器8Rとを備える。後述するシーケンサの制御のもと、この送信器8Tは、磁気共鳴(NMR)を励起させるためのラーモア周波数のRF電流パルスをRFコイル7に供給する一方、受信器8Rは、RFコイル7が受信したMR信号(高周波信号)を受信し、この受信信号に各種の信号処理を施して、対応するデジタルデータを形成するようになっている。
【0040】
さらに、制御・演算部は、シーケンサ(シーケンスコントローラとも呼ばれる)5、ホスト計算機6、演算ユニット10、記憶ユニット11、表示器12、および入力器13を備える。この内、ホスト計算機6は、記憶したソフトウエア手順により、シーケンサ5にパルスシーケンス情報を指令するとともに、シーケンサ5を含む装置全体の動作を統括する機能を有する。このホスト計算機6によるスキャン制御の一例は後述される。
【0041】
このMRI装置は、予め設定した値の心電同期タイミングの心電同期イメージングスキャンを行うことを特徴としている。具体的には、ホスト計算機6はそのメインプログラムを実行する中で、図2に示す如く、準備用MRスキャンおよびイメージング用MRスキャンを行う。準備用MRスキャンは、その後のイメージング用MRスキャンで使用する同期タイミングを事前にかつ適切値に決めるための準備用シーケンスを実行するスキャンで、以下、「ECG-prepスキャン」と呼ぶことにする。イメージング用MRスキャンは、その前のECG-prepスキャンにより設定した同期タイミングで心電同期法に依るシーケンスを実行するスキャンであり、以下、単に「イメージングスキャン」と呼ぶ。ECG-prepスキャンの実行ルーチンの一例を図3に、心電同期イメージングスキャンの実行ルーチンの一例を図8にそれぞれに示す。なお、図2には示していないが、ECG-prepスキャンの前に位置決めスキャンが行われ、このスキャン結果に基づき撮像位置の位置決めがなされる。
【0042】
シーケンサ5は、CPUおよびメモリを備えており、ホスト計算機6から送られてきたパルスシーケンス情報を記憶し、この情報にしたがって傾斜磁場電源4、送信器8T、受信器8Rの一連の動作を制御する。ここで、パルスシーケンス情報とは、一連のパルスシーケンスにしたがって傾斜磁場電源4、送信器8Tおよび受信器8Rを動作させるために必要な全ての情報であり、例えばx,y,zコイル3x?3zに印加するパルス電流の強度、印加時間、印加タイミングなどに関する情報を含む。また、シーケンサ5は、受信器8Rが出力するデジタルデータ(MR信号)を入力して、このデータを演算ユニット10に転送する。

【0046】
また、演算ユニット10は、受信器8Rからシーケンサ5を介して送られてくるMR信号のデジタルデータを入力してフーリエ空間(k空間または周波数空間とも呼ばれる)への原データ(生データとも呼ばれる)の配置、および、原データを実空間画像に再構成するための2次元または3次元のフーリエ変換処理を行う一方で、画像データの合成処理を行うようになっている。なお、フーリエ変換処理はホスト計算機6に担当させてもよい。

【0048】
…また入力器13を介して、術者が希望する同期タイミング選択用のパラメータ情報、スキャン条件、パルスシーケンス、画像合成法などの情報をホスト計算機6に入力できるようになっている。
【0050】
さらに、心電計測部は、患者Pの体表に付着させてECG信号を電気信号として検出するECGセンサ17と、このセンサ信号にデジタル化処理を含む各種の処理を施してホスト計算機6およびシーケンサ5に出力するECGユニット18とを備える。この心電計測部による計測信号は、ECG-prepスキャンと心電同期イメージングスキャンを実行するときにホスト計算機6およびシーケンサ5により用いられる。これにより、心電同期法の同期タイミングを適切に設定でき、この設定した同期タイミングに拠る心電同期イメージングスキャンを行ってMR原(生)データを収集できるようになっている。」

(1-オ)「【0051】
次に、同期タイミングを事前設定するための処理を、図3?図6を参照して説明する。
【0052】
ホスト計算機6は、図示しない所定のメインプログラムを実行している中で、入力器13からの指令に応答して、図3に示すECG-prepスキャンの実行ルーチンを開始する。

【0057】
R波のピーク時刻から遅延時間T_(DL)が経過すると(ステップS6,YES)、各回のスキャンのパルスシーケンスの開始をシーケンサ5に指令する(ステップS7:図4参照)。このパルスシーケンスは、その種類としては、後述するイメージング用のパルスシーケンスと同一に設定するのが望ましい。ただし、このECG-prepスキャンの目的は、撮像対象の信号強度が最高になる心電同期用の遅延時間を設定することであるから、心電同期イメージングスキャンを3次元で行う場合であっても、このECG-prepスキャンは、撮像対象を含んでさえすれば2次元で行えばよい。…

【0067】
したがって、操作者は、このように遅延時間T_(DL)をダイナミックに変えて撮像した複数枚のMRA像から最適な画像、すなわち最適な遅延時間T_(DL)を目視判定で決し、この遅延時間のパラメータを引き続き行うイメージングスキャンに手動で反映させる処理を行う。なお、ここでの「最適な」の用語は、同期タイミングの与えられた設定法の条件下で「最も適切と思われる」を意味する。」

(1-カ)「【0071】
次に、この実施形態の心電同期イメージングスキャンの動作を図7?図10を参照して説明する。
【0072】
ホスト計算機6は、入力器13からの操作情報に応答して図7に示す処理を実行する。
【0073】
これを詳述すると、ホスト計算機6は、前述したECG-prepスキャンを通して操作者が決めた最適な(適切な)遅延時間T_(DL)を入力器13を介して入力する(ステップS20)。次いで、ホスト計算機6は操作者が入力器13から指定したスキャン条件(画像サイズ、スキャン回数、スキャン間の待機時間、スキャン部位に応じたパルスシーケンスなど)および画像合成処理法の情報(再構成画像での合成か周波数空間上での合成か、加算処理か最大値投影(MIP)処理かなど。加算処理の場合には、単純加算、加算平均処理、重み付け加算処理のいずれかなど)を入力し、それらの情報を制御情報に処理し、その制御情報をシーケンサ5および演算ユニット10に出力する(ステップS21)。」

(1-キ)「【0125】
第6の実施形態
本発明の第6の実施形態を図19?図23に基づき説明する。
【0126】
この実施形態に係るMRI装置は、パルスシーケンスとして心臓系の撮像に好適なセグメンテッド(segmented )FFE法(以下、segFFE法と呼ぶ)を採用したことを特徴とする。一例として、ECG-prepスキャンを2次元のsegFFE法で実施し、その後の心電同期イメージングスキャンを3次元のsegFFE法で実施する場合を説明する。このように、ECG-prepスキャンの次元を減らすことで、心電同期タイミングの測定時間を短縮させることができる。
【0127】
このsegFFE法を採用したシーケンスの具体例を図19?21に示す。図19にはECG-prepスキャンの概要を、図20にはECG-prepスキャンの2次元segFFE法に依るパルスシーケンスの一例をそれぞれ示す一方で、図21には心電同期イメージングスキャンの概要を、図22には心電同期イメージングスキャンの3次元segFFE法に基づくパルスシーケンスの一例をそれぞれ示す。このECG-prepスキャンおよびイメージングスキャンには図示していないが、息止め法が併用される。
【0128】
ECG-prepスキャンは「シングルスライス・マルチフェーズ」と呼ばれる方式を採用している。ホスト計算機6はシーケンサ5に対してこの方式に基づく2次元segFFE法のパルスシーケンスを指令する。
【0129】
この「シングルスライス・マルチフェーズ」方式によれば、スライス用傾斜磁場GS およびRF周波数で決まるシングルスライスに対して複数の時相のエコーデータを一度に収集することができる。このため、そのスライスに撮像目的の血管が入るようにそのスライス厚さが決められる。
【0130】
これを具体的に説明すると、セグメントと呼ぶ一塊の連続データが得られるECG信号のR-R波間において、R波ピーク値の出現時刻から遅延時間T_(DL)=α1が経過した時刻から、図19、20のセグメント1のフェーズ1で示す如く、複数組のRF励起およびFE法によるエコー収集が繰り返される(ここでは4個のエコー信号収集)。これにより収集された複数個(ここでは4個)のエコー信号は受信処理を経て、演算ユニット10に送られる。演算ユニット10には、位相エンコード方向を複数個(ここでは4個)に分割してk空間が複数個(ここでは5個)形成されており、フェーズ1で収集された複数個のエコー信号はその位相エンコード量に応じて最初のk空間KS1の各分割領域の最初のラインに配置される(図19参照)。
【0131】
さらに、R波ピーク値の出現時刻から遅延時間T_(DL)=α2(>α1)が経過した時刻から、セグメント1のフェーズ2で示す如く、複数組のRF励起およびFE法によるエコー収集が繰り返される。この結果得られたエコー信号は、次のk空間KS2の各分割領域の最初のラインに配置される。遅延時間T_(DL)=α3(>α2),α4(>α3),α5(>α4)のそれぞれについても同様にして4個のエコー信号が収集され、3番目、4番目、および5番目のk空間KS3,KS4,およびKS5の各分割領域の最初のラインに配置される。この結果、5個のk空間それぞれの各分割領域の最初のラインにエコーデータが配置される。
【0132】
次いで、次のR-R波間であるセグメント2に対しても同様のエコー収集および配置が実行される。ただし、このときの収集データは各k空間の各分割領域の次のラインに配置される。以下、同様にセグメント3、4、および5について実行される。
【0133】
したがって、このECG-prepスキャンが終了すると、5個のk空間全部のデータ配置が完了している。演算ユニット10はこれら5個のk空間のデータを2次元フーリエ変換して、5枚の実空間画像を再構成する。つまり、遅延時間T_(DL)=α1,α2,α3,α4,α5の時相の準備用画像を1回のスキャンで一度に得ることができる。そこで、オペレータは、この5枚の準備用画像を例えば目視観察して、撮像部位が最も明瞭に表示されている画像、すなわち最適な遅延時間T_(DL)の値を特定する。
【0134】
次いで、適宜なタイミングで、ホスト計算機6はシーケンサ5に対して3次元segFFE法の心電同期イメージングスキャンを図21、22に示す如く指令する。このイメージングスキャンで用いられている最適遅延時間T_(DL)=αmは、上述のECG-prepスキャンで設定された値である。
【0135】
このイメージングスキャンの各セグメントに対するパルス列は、最初に印加するMT(magnetization transfer)効果を与えるMTパルスPmtと、その次に印加する脂肪抑制用の化学選択パルスP_(chess) と、その次に各傾斜磁場方向に印加するディフェーズ用のスポイラパルスSPs,SPr,SPeとを準備用パルス列として含む。この準備用パルス列の後には、フィールドエコーを収集するためのデータ収集パルス列Pacqを配置してある。このイメージングスキャンは3次元スキャンであるので、位相エンコード用傾斜磁場G_(E1)の他に、スライス用傾斜磁場G_(E2)が印加される。
【0136】
このセグメント化された複数個のエコー信号は、そのスライスエンコード量および位相エンコード量に応じて演算ユニット10の3次元k空間に配置される。この配置データはその後、3次元フーリエ変換により実空間データに再構成され、さらに例えばMIP処理により2次元画像に変換される。
【0137】
このように本実施形態によれば、前述した実施形態のように位相エンコード方向を空間的に変えて複数回スキャンするスキャン法を採用していないが、segFFE法を用いて心臓系を確実に撮像することができる。とくに、このときの心電同期タイミングを事前に最適化しているので、心臓系の速い血流をも確実に捕捉することができる。
【0138】
この心電同期タイミングは上述のように「シングルスライス・マルチフェーズ」方式で測定されるので、1回のECG-prepスキャンで複数の時相の画像を一度に得ることができる。つまり、複数回のECG-prepスキャンを行う必要がなく、全体の撮像時間を短縮でき、患者スループットを向上させる。
【0139】
なお、このsegFFE法を用いたECG-prepスキャンは上述の「シングルスライス・マルチフェーズ」方式に限定されるものではなく、例えば、図23に示す如く、「マルチスライス・シングルフェーズ」方式を簡便的な手法として採用することもできる(ここでのシングルフェーズは各スライスに1つのフェーズを意味する)。同図に示す如く、各セグメントにおけるスライス1の複数個のエコー信号を集めて1枚のスライス#1のk空間KS1を埋める。また、各セグメントのスライス2の複数個のエコー信号を集めて別の1枚のスライス#2のk空間KS2を埋める。同様に、各セグメントのスライス3,4,5の複数個のエコー信号をそれぞれ集めて別の1枚のスライス#3,#4,#5のk空間KS3,KS4,KS5をそれぞれ埋める。これにより、遅延時間T_(DL)=α1、α2、α3、α4、α5で決まる、収集時相が相互に異なる複数枚のスライス#1?#5の画像が1回のsegFFE法のスキャンで得られる。
【0140】
この複数枚のスライス#1?#5は互いに近接しているので、撮像部位の心電同期タイミングを共にほぼ正確に反映した1枚のスライス(画像)であると見做しても差支えない場合も多い。このような場合、この複数枚の画像を1枚の画像として扱い、これらの画像から最適な遅延時間を設定すればよい。とくに、この簡便な「マルチスライス・シングルフェーズ」方式を使用できる場合、SAR(RF被爆)の点で「シングルスライス・マルチフェーズ」方式よりも有利である。」

(1-ク)「【0155】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のMRI装置およびMR撮像方法によれば、心電同期法を併用して撮像する場合、1回のRF励起(1ショット)に伴う撮像時間の長短に関わらず、複数心拍それぞに対する準備用MRスキャンの実行を通して、心電同期法の同期タイミング(時相)が予め適切に決定される。このため、イメージング用スキャンとして心電同期スキャンを行うときの同期タイミングが診断部位を流れる血流などの撮像対象にとって適切な状態となり、撮像対象から発生するエコー信号の強度が最も高くなる。この結果、いわゆるフローボイド現象などに因ってエコー信号の強度が相対的に低下または殆ど零となる状態を確実に回避でき、撮像対象自体の描出およびその方向性の情報量を向上させた視認性の良い高描出能のMR像を安定して提供することができる。」

上記の記載事項(1-ア)?(1-ク)と図面(特に,図1,図19?22参照。)を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「被検体の所望の領域に対してECGゲート法を用いた心電同期イメージングスキャンを行うMRI装置であって,
前記MRI装置は,静磁場を発生させる静磁場発生部と,静磁場に位置情報を付加するための傾斜磁場発生部と,RF(高周波)信号を送受信する送受信部と,システム全体のコントロール及び画像再構成を担う制御・演算部と,患者(P)の心時相を表す信号としてのECG(心電図)信号を計測する心電計測部とを機能的に備えるとともに,前記制御・演算部は,シーケンサ(5),ホスト計算機(6),演算ユニット(10)及び入力器(13)を備えたMRI装置において,
前記心電同期イメージングスキャンで使用する同期タイミングを撮像対象の信号強度が最高になるように事前に設定するためのECG-prepスキャンの実行を通してECG信号に含まれるR波からの最適遅延時間の値(αm)を特定し,
次いで,前記ECG-prepスキャンを通して特定した最適遅延時間を入力器(13)を介して前記ホスト計算機(6)に入力することにより,前記最適遅延時間(T_(DL)=αm)に同期した心電同期イメージングスキャンを実行し,
前記演算ユニット(10)により,収集されたセグメント化された複数個のエコー信号をそのスライスエンコード量および位相エンコード量に応じての3次元k空間に配置するとともに実空間画像に再構成するものであって,
前記心電同期イメージングスキャンにおいて,前記ホスト計算機(6)は前記シーケンサ(5)に対して心電同期イメージングスキャンのための3次元segFFE法に基づくパルスシーケンスの実行を指示するものである,MRI装置。」(以下,「引用発明1」という。)

イ 原査定の拒絶の理由に引用され,本願特許出願前に頒布された刊行物である,特開平7-124134号公報(以下,「引用例2」という。)には,図面の図示と共に,次の事項が記載されている(下線は当審が付与したもの)。

(2-ア)「【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、NMR(核磁気共鳴)現象を利用してイメージングを行うMRイメージング装置に関し、とくに血流などの移動体の画像を撮像するのに好適なMRイメージング装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、MRイメージング装置を用いて血管像を撮像する方法としてTOF(タイムオブフライト)法とPC(フェイズコントラスト)法が知られている。TOF法は、撮像シーケンスの前にプレサチュレーションパルスを与えたり、撮像シーケンスを緩和時間よりも短い繰り返し時間TR(40msec?80msec程度)で繰り返したりして、撮像スライス面に静止している部分を飽和させてそこからのNMR信号を弱くさせ、そのスライス面に新たに流入してくる未励起の血液等から大きなNMR信号を得ることにより、撮像スライス面内の静止部位の信号よりも流入してくる血流の信号を相対的に大きくし、血流の画像を得る、というものである。…
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、血液の流れは均一なものではなく、脈動している。そのため、流入する血流量は、脈動周期のすべてにわたって一定であるわけではなく、流入血流量の多い時相と少ない時相とが存在することになる。TOF法では、一般に、流入血流量が多い方が血流からの信号は強くなり、画質の優れた画像を得ることができるのであるが、従来ではかならずしも流入血流量の多い時相でのみ撮像シーケンスを行なっているわけではないので、良好な画質の画像が得られる保証がないという問題があった。…
【0004】
この発明は、上記に鑑み、移動体の画像を、撮像に長時間を要することなく、比較的短時間で画質の優れたものとして得られるように改善した、MRイメージング装置を提供することを目的とする。」

(2-イ)「【0006】
【作用】
各撮像シーケンスにおける位相エンコード量は移動体の移動量に応じて定められる。そこで、TOF法では最も信号強度が大きくなる移動量の時に位相エンコード量の小さい撮像シーケンスを行なうことができ、PC法では移動速度が最も一定になっている時に位相エンコード量の小さい撮像シーケンスを行なうことができる。位相エンコード量の小さい撮像シーケンスで得たデータはk-スペース(生データ空間)の中央部に配置され、再構成画像の画質を決定する。他方、位相エンコード量の大きい撮像シーケンスは信号強度が小さい時相(TOF法)あるいは移動速度が変化している時相(PC法)で行なわれるが、このデータはk-スペースの端部に配置され画質にあまり影響を与えない。このように悪い時相でも画質に影響を与えないデータを収集し、良い時相で得たデータは画質向上に最大限寄与させるようにしているため、撮像に長時間を要することなく比較的短時間で画質の優れた移動体画像を得ることができる。」

(2-ウ)「【0012】
この実施例では、心電計14から得られる心電信号の波形のR波をシーケンサー23が捉えてそのタイミングに基づき収集データの採用・不採用を決めるとともに位相エンコード量を変化させる。
【0013】
すなわち、ここでは、周知のグラジェントエコー法による撮像シーケンスを40msec?80msec程度のTRで繰り返して撮像スライス面の静止部位を飽和させることとしているが、その撮像シーケンスにより収集されるデータの採用・不採用を定める。そして、その撮像シーケンス毎に変化させられる位相エンコード量は、各撮像シーケンスのR波からの遅れ時間に応じてあらかじめ定めておく。かならずしも少ない方から多い方(あるいはその逆)というように単調に変化させるわけではない。
【0014】
血流量は図2に示すようにR波からの遅れ時間によって周期的に変化している。そこで、上記のように位相エンコード量をR波からの遅れ時間に応じて定めることにより、血流量の多い時相で位相エンコード量の小さい撮像シーケンスを行ない、移動量の少ない時相では位相エンコード量の大きい撮像シーケンスを行なうこととする。位相エンコード量の小さい撮像シーケンスで得たデータはk-スペース(生データ空間)の中央部に配置され、再構成画像の画質を決定する。
【0015】
上記のように血流量の多い時相で位相エンコード量の小さい撮像シーケンスが行なわれ、この時相ではスライス面に新たに流入してくる血流量が多いので、血流からの信号強度が大きい。そこで、図2に示すように、血流からの信号が大きい時相で得たデータがk-スペースの中央部に配置されることになるので、画質の優れた画像を再構成することができる。これに対して、血流量の小さい時相では血流からの信号強度が小さいが、その時相では位相エンコード量の大きい撮像シーケンスを行ない、そこで得たデータはk-スペースの端部に配置されるため、再構成画像の画質にはあまり影響を与えない。
【0016】
したがって、画質を左右するk-スペースの中央部に配置されるデータを血流量の多い時相で収集し、画質に影響のないデータは血流量の少ない時相で収集するようにしているため、血流量の少ない時相で得たデータを無駄にせずに画質の優れた画像を得ることができる。換言すると、血流量の少ない時相でも撮像シーケンスを行なうので、全体の撮像時間(全部の位相エンコード量についての撮像シーケンスが終了するまでの時間)が長くなることがない(血流量が多い時相でのみ撮像シーケンスを行ない、あるいは血流量が多い時相で行なった撮像シーケンスで得たデータのみを用いれば、画質の優れた画像を得ることができるが、有効な撮像シーケンスを血流量が多い時相でしか行なわないことになるので、全体の撮像時間が長くなる)。
【0017】
なお、上記は一つの実施例であり、この発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々に変更可能である。たとえば、上記では、血流量が多い時相で最も画質に影響を与える位相エンコード量の小さい撮像シーケンスを行なうようにしたが、血流量が多いときにかならずしも最良のデータが得られるのではない場合には、最良のデータが得られる適切な血流量となった時相で位相エンコード量の小さい撮像シーケンスを行なう。」

(2-エ)「【0018】
【発明の効果】
この発明のMRイメージング装置によれば、比較的短時間でかつ画質の良好な、移動体についての再構成画像を得ることができる。」

上記記載事項(2-ア)?(2-エ)及び図面(特に図2)を総合すると,引用例2には,以下の発明が記載されているものと認められる。

「MRイメージング装置において,
血流などの移動体の画像を比較的短時間でかつ画質の優れたものとして得られるように改善するために,
TOF法の各撮像シーケンスにおける位相エンコード量をR波からの遅れ時間に応じて定めるとともに,血流からの信号強度が大きい血流量の多い時相では位相エンコード量の小さい撮像シーケンスを行なう一方,血流からの信号強度が小さい血流量の少ない時相では位相エンコード量の大きい撮像シーケンスを行ない,
血流からの信号が大きい時相で得たデータをk-スペースの中央部に配置する一方,血流量の小さい時相で得たデータをk-スペースの端部に配置する技術。」(以下,「引用発明2」という。)

(2)補正発明と引用発明1との対比
補正発明と引用発明1とを対比すると,その構造および機能からみて,引用発明1の(a)「被検体の所望の領域に対してECGゲート法を用いた心電同期イメージングスキャンを行うMRI装置」,(b)「ECG-prepスキャン」,(c)「心電同期イメージングスキャン」,及び(d)「収集されたセグメント化された複数個のエコー信号をそのスライスエンコード量および位相エンコード量に応じての3次元k空間に配置するとともに実空間画像に再構成する」「演算ユニット(10)」は,それぞれ,補正発明の(a)「被検体の所望領域に対して心電同期法に拠るイメージングを行うようにしたMRI装置」,(b)「準備用MRスキャン」,(c)「イメージング用MRスキャン」,及び(d)「このエコー信号をk空間に配置すると共に当該配置信号に再構成処理を施して画像を生成する画像生成手段」に相当する。

そして,引用発明1の「ECG-prepスキャン」は,「前記心電同期イメージングスキャンで使用する同期タイミングを撮像対象の信号強度が最高になるように事前に設定する」ためのものであって,その実行を通じて「ECG信号に含まれるR波からの最適遅延時間の値(αm)を特定」した上で,その後の「心電同期イメージングスキャン」のために「前記…最適遅延時間を入力器(13)を介して前記ホスト計算機(6)に入力」するものであるから,引用発明1は,補正発明の「前記心電同期法に拠るイメージング用MRスキャンに用いられ且つ高信号値を呈する高信号時相域に対応した最適同期タイミングを準備用MRスキャンの実行を通して事前に設定する最適遅延時間設定手段」を備えることは明らかといえる。

また,引用発明1の心電同期イメージングスキャンは,補正発明の実施例(特に,図8及び図9参照。)と同様に,ECG-prepスキャンの実行を通して設定された「最適遅延時間(T_(DL)=αm)に同期した」「3次元segFFE法に基づくパルスシーケンス」を採用するものであって,引用例1の図21及び図22に図示されたパルスシーケンス及びエコー信号のk空間への配置からみて,補正発明のように「心周期の内の前記高信号時相域を含む所定範囲の領域のエコー信号を選択的に収集する」ものであることは明らかといえる。
そして,補正発明の「イメージング用スキャン手段」は,本願の発明の詳細な説明の記述及び図面の図示に照らしてみても,その実施例におけるMRI装置の具体的構成のどの部分に対応するものであるのか必ずしも明確ではなく,イメージング用MRスキャンの実行という機能を果たす手段という以上の技術的意義は見いだせないことから,心電同期イメージングスキャンを実行する引用発明1においても補正発明と同様の「イメージング用スキャン手段」を備えることは明らかといえる。ここで,より具体的には,引用発明1の「静磁場を発生させる静磁場発生部と,静磁場に位置情報を付加するための傾斜磁場発生部と,RF(高周波)信号を送受信する送受信部と,システム全体のコントロール及び画像再構成を担う制御・演算部」が,イメージング用スキャンを実行する際に主として心電同期イメージングスキャンに関わる構成であるといえる。

また,引用発明1の「システム全体のコントロール及び画像再構成を担う制御・演算部」は,その「ホスト計算機(6)」及び「シーケンサ(5)」によって「心電同期イメージングスキャンのための3次元segFFE法に基づくパルスシーケンス」を実行するものであり,また,その「演算ユニット(10)」によって「収集されたセグメント化された複数個のエコー信号」を「そのスライスエンコード量および位相エンコード量に応じての3次元k空間に配置」するものであるから,引用発明1の「システム全体のコントロール及び画像再構成を担う制御・演算部」と,補正発明の「前記高信号時相域で収集したエコー信号を前記k空間の中心部の所望低周波領域に配置するように設定したパルスシーケンスを実行する実行手段を備えた」「前記イメージング用スキャン手段」とは,「前記イメージング用スキャン手段は,前記収集したエコー信号を前記k空間に配置するために適切に対応したパルスシーケンスを実行する実行手段を備えた」点で共通するといえる。

そうすると,両者は,次の点で一致し,以下の点で相違するといえる。

[一致点]
「被検体の所望領域に対して心電同期法に拠るイメージングを行うようにしたMRI装置において,
前記心電同期法に拠るイメージング用MRスキャンに用いられ且つ高信号値を呈する高信号時相域に対応した最適同期タイミングを準備用MRスキャンの実行を通して事前に設定する最適遅延時間設定手段と,
前記最適遅延時間に同期したイメージング用MRスキャンを実行して,心周期の内の前記高信号時相域を含む所定範囲の領域のエコー信号を選択的に収集するイメージング用スキャン手段と,
このエコー信号をk空間に配置すると共に当該配置信号に再構成処理を施して画像を生成する画像生成手段とを備え,
前記イメージング用スキャン手段は,前記収集したエコー信号を前記k空間に配置するために適切に対応したパルスシーケンスを実行する実行手段を備えたMRI装置。」

[相違点]
「イメージング用スキャン手段」の「前記収集したエコー信号を前記k空間に配置するために適切に対応したパルスシーケンスを実行する実行手段」として,補正発明では「前記高信号時相域で収集したエコー信号を前記k空間の中心部の所望低周波領域に配置するように設定したパルスシーケンス」を実行するものであるのに対して,引用発明1では,このような構成を備えていない点。

(3)相違点についての検討・判断
上記相違点について検討する。

まず,上記の引用発明2と引用発明1(及び補正発明)とを対比すると,その構造および機能からみて,引用発明2における「k-スペース」及び「MRイメージング装置」は,それぞれ,引用発明1(及び補正発明)の「k空間」及び「MRI装置」に相当し,引用発明1と引用発明2とは,補正発明と同様に,MRI装置という同一の技術分野に属するといえる。
そして,引用発明1は,上記記載事項(1-ア),(1-イ),(1-ウ)及び(1-ク)の記載,特に「【0003】…例えば肺野の血管や肝臓の血管(門脈)などを撮像する場合、血管像の信号値を上げてS/Nを良くすること…などの種々の要求がある」や「【0022】…血流などの撮像対象からのエコー信号の強度を上げることができる。したがって、撮像対象を確実に捕捉した描出能の高い高品質のMR画像を得ることができる。」といった記載からみて,血流からの信号強度を高め,血管像などの撮像対象を確実に捕捉した描出能の高い高品質のMR画像を得るという課題を有するものであるといえるところ,引用発明2も,「血流などの移動体の画像を比較的短時間でかつ画質の優れたものとして得られるように改善する」という課題を有するものであるから,課題においても互いに共通するといえる。

そうしてみると,引用発明1は,最適遅延時間(T_(DL)=αm)に同期した心電同期イメージングスキャンを行うにあたり,収集したエコー信号をk空間の一方の端の高周波領域から他方の端の高周波領域へ単純にシーケンシャルに配置するもの(特に引用例1の図21参照。)であるが,上記共通する課題解決のために,引用発明2を適用して,画質を左右する血流量の大きい時相で収集したエコー信号をk空間の中央部(低周波領域)に配置する一方,画質に影響のない血流量の小さい時相で収集したエコー信号をk空間の端部(高周波領域)に配置することによって,補正発明の上記相違点に係る構成とすることは,当業者にとって格別の技術的困難性がなく,容易になし得る程度のことであるというべきである。

なお,請求人は,平成23年9月30日付け審判請求書において,
(ア)上記引用例2について,引用例2の段落【0016】の後半の「画質に影響のないデータは血流量の少ない時相で収集するようにしているため、血流量の少ない時相で得たデータを無駄にせずに画質の優れた画像を得ることができる」及び「血流量が多い時相でのみ撮像シーケンスを行ない、あるいは血流量が多い時相で行なった撮像シーケンスで得たデータのみを用いれば、画質の優れた画像を得ることができるが、有効な撮像シーケンスを血流量が多い時相でしか行なわないことになるので、全体の撮像時間が長くなる」という記載(上記記載事項(2-ウ)参照。)を摘記しつつ,これら引用例2の記載は,引用発明1の「心周期の内の高信号時相域を含む所定範囲の領域のエコー信号を選択的に収集する」点と相反するものであって,引用発明1に引用発明2を適用するに際して「重大な阻害要因となるものである」旨主張するとともに,
(イ)補正発明は,「本願明細書の段落「0010」記載のように、従来の撮像法が、撮像対象である血流の速さ、拍動の状態など、撮像対象側の事情を考慮していない撮像手順に拠っているため、信号値の大小に格別大きく影響する、拍動の変化の大きい時相とそうでない時相との間で平均化された信号強度の画像しか得られない、という課題の解決を狙ったものであるが、」引用発明2は「血流量の多い時相と血流量の少ない時相のデータを両方用いるものであり、上記課題の本質的な解決となるものではない」旨主張している。そして,請求人は,審尋に対する平成24年2月17日付け回答書においても同趣旨の主張を繰り返し展開している。

そこで,まず上記請求人の主張(イ)の点について検討するに,引用発明2も,引用例2の上記記載事項(2-ア)の記載からみて,従来技術が適切に考慮してこなかった流入血流量の大小等の撮像対象側の事情を考慮しようとするものであることは明らかである上,補正発明においても,特許請求の範囲の「前記最適遅延時間に同期したイメージング用MRスキャンを実行して、心周期の内の前記高信号時相域を含む所定範囲の領域のエコー信号を選択的に収集する」(下線は当審で付与したもの。)という記載から明らかなように,高信号時相域のエコー信号のみ,すなわち血流量の多い時相のデータのみを収集するものとはいえない。この点,本願の出願当初の明細書における段落【0013】の「上述した高信号値を呈する時相以外の時相で収集した信号は、k空間の残りの高周波領域に配置される。これにより、ECG同期(ECG-gating)法を用いた場合でも、全体のスキャン時間(撮像時間)の長期化を抑えることができる。」(下線は当審で付与したもの。)という記載や図8の血流信号強度と収集したエコー信号のk空間への配置の図示によっても裏付けられているといえる。してみると,上記請求人の主張(イ)に係る点において,補正発明と引用発明2との間に本質的な差異があるとは到底いえない。
次に,上記請求人の主張(ア)の点について検討するに,引用発明2は,引用例2の「【0012】この実施例では、心電計14から得られる心電信号の波形のR波をシーケンサー23が捉えてそのタイミングに基づき収集データの採用・不採用を決めるとともに位相エンコード量を変化させる。」(下線は当審が改めて付与したもの。)という記載や図2の図示に加えて,技術常識にも照らし,心周期の全領域についてエコー信号を収集することを狙ったものとは考えられない上に,まさに上記請求人が摘記する引用例2の記載(特に,「血流量が多い時相でのみ撮像シーケンスを行ない、あるいは血流量が多い時相で行なった撮像シーケンスで得たデータのみを用いれば、画質の優れた画像を得ることができる」という記載)によれば,血流量が多い時相で行なった撮像シーケンスで得たデータのみを用いて画質の優れた画像を得ることも,全体の撮像時間が長くなるというデメリットはあるとはいえ,引用発明2の趣旨を逸脱しない範囲の選択肢として記載されているに等しいといえる。あるいは,少なくとも,当該デメリットによって引用発明2が実施できなくなるという程のものではないから,引用発明1に引用発明2を適用するに際して「重大な阻害要因となるもの」とは到底いえないことが明らかである。
したがって,上記請求人の主張はいずれも採用できない。

そして,本願明細書に記載された補正発明の効果も,引用発明1及び引用発明2から,当業者であれば予測し得る範囲内のものであり,格別顕著なものとはいえない。

(4)小括
したがって,補正発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 まとめ
以上を総合すると,補正発明は,特許法第29条第2項の規定によって特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するというべきであるから,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。

第3 本願発明に対する判断
1 本願発明の認定
以上のとおり,平成23年9月30日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので,本願の請求項1?2に係る発明は,平成23年年4月26日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるものであると認められ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。

「【請求項1】
被検体の所望領域に対して心電同期法に拠るイメージングを行うようにしたMRI装置において、
前記心電同期法に拠るイメージング用MRスキャンに用いられ且つ高信号値を呈する高信号時相域に対応した最適同期タイミングを準備用MRスキャンの実行を通して事前に設定する最適遅延時間設定手段と、
前記最適遅延時間に同期したイメージング用MRスキャンを実行してエコー信号を収集するイメージング用スキャン手段と、
このエコー信号をk空間に配置すると共に当該配置信号に再構成処理を施して画像を生成する画像生成手段とを備え、
前記イメージング用スキャン手段は、前記高信号時相域で収集したエコー信号を前記k空間の中心部の所望低周波領域に配置するように設定したパルスシーケンスを実行する実行手段を備えたことを特徴とするMRI装置。」

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願特許出願前に頒布された刊行物である引用例の記載事項は,上記「第2 本件補正についての補正却下の決定」の「3(1)引用刊行物の記載事項」に記載したとおりである。

3 判断
本願発明は,上記「第2 本件補正についての補正却下の決定」の「1 本件補正の内容」及び「2 本件補正の目的」において検討したとおり,補正発明の一部限定を省略したもの,言い換えれば,補正発明は本願発明の構成要件をすべて含むものであるということができる。
しかるに,本願発明の構成要件をすべて含む補正発明が,上記「第2 本件補正についての補正却下の決定」の「3 独立特許要件」に記載した理由によって,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明についても同様の理由により,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。


第4 結び
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は,拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-19 
結審通知日 2012-10-23 
審決日 2012-11-05 
出願番号 特願2009-195222(P2009-195222)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 島田 保  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 福田 聡
信田 昌男
発明の名称 MRI装置  
代理人 特許業務法人東京国際特許事務所  
代理人 特許業務法人東京国際特許事務所  

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