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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23C
管理番号 1267707
審判番号 不服2010-14634  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-02 
確定日 2012-12-19 
事件の表示 特願2006-546239「乳酸菌顆粒を含有する食品」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月 4日国際公開、WO2005/070221、平成19年 6月14日国内公表、特表2007-515182〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

この出願は,2004年12月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年12月23日,仏国)を国際出願日とする出願であって,以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成21年 6月23日付け 拒絶理由通知書
平成22年 1月 4日 意見書・手続補正書
平成22年 1月 5日 手続補足書
平成22年 2月25日付け 拒絶査定
平成22年 7月 2日 審判請求書・手続補正書
平成22年 7月21日 手続補正書(方式)
平成22年 8月20日付け 前置報告書
平成23年 9月 5日付け 審尋
平成24年 1月 6日 回答書

第2 平成22年7月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成22年7月2日付けの手続補正は却下する。

[理由]
1 本件補正

平成22年7月2日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,本件補正前の,

「【請求項1】周囲温度で固体である少なくとも1つの植物性脂肪でコーティングされた乾燥乳酸菌の粒子を含有する液体食品であって,
該コーティングされた乳酸菌が,
乳酸桿菌およびビフィズス菌(bifidobacteria)から選択されること,および顆粒1グラム当たり1×10^(10)CFUに等しいかまたはそれを超える量の乳酸菌を含有する,200μm以下の平均サイズを有する顆粒の形態であること,
該植物性脂肪が,水素添加されたおよび水素添加されていない,分別されたまたは分別されていない,エステル化されたまたはエステル化されていない物質,フードワックス(food waxes),脂肪酸,45℃と58℃のMp(融点)を有するパーム油,ココアバター,ピーナッツバター,パーム核油,Mp=80?85℃を有するカルナウバろう,石油起源のミクロクリスタリンワックス,パルミチン酸,ならびにそれらの混合物から選択されること,
該植物性脂肪が40℃を超える融点を有すること,
前記乳酸菌が,それらが顆粒化される前に凍結乾燥により乾燥され,さらに凍結乾燥される前に,凍結乾燥保護剤(lyoprotectant)で処理されること,
該顆粒がスターチを含まないこと,ならびに
該食品が,4.5に等しいかまたはそれ未満のpHおよび少なくとも83重量%の含水量を有することを特徴とする,液体食品。」を,

「【請求項1】周囲温度で固体である少なくとも1つの植物性脂肪でコーティングされた乾燥乳酸菌の粒子を含有する液体食品であって,
該コーティングされた乳酸菌が,
乳酸桿菌およびビフィズス菌(bifidobacteria)から選択されること,および顆粒1グラム当たり1×10^(10)CFUに等しいかまたはそれを超える量の乳酸菌を含有する,200μm以下の平均サイズを有する顆粒の形態であること,
該植物性脂肪が,水素添加されたおよび水素添加されていない,分別されたまたは分別されていない,エステル化されたまたはエステル化されていない物質,フードワックス(food waxes),脂肪酸,45℃と58℃のMp(融点)を有するパーム油,ココアバター,ピーナッツバター,パーム核油,Mp=80?85℃を有するカルナウバろう,石油起源のミクロクリスタリンワックス,パルミチン酸,ならびにそれらの混合物から選択されること,
該植物性脂肪が40℃を超える融点を有すること,
前記乳酸菌が,それらが顆粒化される前に凍結乾燥により乾燥され,さらに凍結乾燥される前に,凍結乾燥保護剤(lyoprotectant)で処理されること,
該顆粒がスターチを含まないこと,ならびに
該食品が,4.5に等しいかまたはそれ未満のpHおよび少なくとも90重量%の含水量を有することを特徴とする,液体食品。」

とする補正を含むものである。

2 補正の適否

(1)補正の目的の適否

上記補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である液体食品の含水量が「少なくとも83重量%」であるのを,補正前の請求項13の記載に基づき「少なくとも90重量%」と限定するものであり,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について

そこで,本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下,「本願補正発明」という。なお,本件補正後の明細書を,以下,「本願補正明細書」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて,以下検討する。

(2-1)本願補正発明

本願補正発明は,以下のとおりである。

「周囲温度で固体である少なくとも1つの植物性脂肪でコーティングされた乾燥乳酸菌の粒子を含有する液体食品であって,
該コーティングされた乳酸菌が,
乳酸桿菌およびビフィズス菌(bifidobacteria)から選択されること,および顆粒1グラム当たり1×10^(10)CFUに等しいかまたはそれを超える量の乳酸菌を含有する,200μm以下の平均サイズを有する顆粒の形態であること,
該植物性脂肪が,水素添加されたおよび水素添加されていない,分別されたまたは分別されていない,エステル化されたまたはエステル化されていない物質,フードワックス(food waxes),脂肪酸,45℃と58℃のMp(融点)を有するパーム油,ココアバター,ピーナッツバター,パーム核油,Mp=80?85℃を有するカルナウバろう,石油起源のミクロクリスタリンワックス,パルミチン酸,ならびにそれらの混合物から選択されること,
該植物性脂肪が40℃を超える融点を有すること,
前記乳酸菌が,それらが顆粒化される前に凍結乾燥により乾燥され,さらに凍結乾燥される前に,凍結乾燥保護剤(lyoprotectant)で処理されること,
該顆粒がスターチを含まないこと,ならびに
該食品が,4.5に等しいかまたはそれ未満のpHおよび少なくとも90重量%の含水量を有することを特徴とする,液体食品。」

(2-2)刊行物及びその記載事項

ア 刊行物

特開平4-82827号公報(原査定の引用文献1。以下,「刊行物1」という。)

イ 刊行物の記載事項

(ア)刊行物1の記載事項

この出願の優先日前に頒布された刊行物である刊行物1には,以下の事項が記載されている。

1a「(1)腸内有効物質又は熱感受性物質の粉末体を体温を超える融点を有する硬化油脂に分散させ,これをカプセル化した腸溶性カプセル。」(特許請求の範囲 請求項1)

1b「(産業上の利用分野)
本発明は,腸内で有効に溶解される腸溶性カプセルに関する。更に詳しくは,経口した際に腸内有効物質又は熱感受性物質が腸内に達して始めて崩壊し,胃液や胃液中の酵素の作用を受けてもその活性が損なわれることがない,腸溶性カプセルに関する。」(1頁右下欄2?8行)

1c「カプセル化にビフィズス菌を用いる場合,得られる製品中のビフィズス菌の濃度は,1日の摂取必要量から考えて,製品当たり10^(7)?10^(8)個/g必要なので,高濃度培養菌粉末が好ましい。濃度の程度は10^(9)?10^(11)個/gである。この高濃度培養菌粉末を重量で約10倍の硬化油脂と混合し,10^(8)?10^(10)個/gの菌を有する硬化油脂カプセル体を得る。ビフィズス菌が粉末の場合,40?60℃の油脂に浸漬しても短時間,例えば30分以内では影響をうけず,生存菌数に変化はない。
腸内カプセルの調製法としては,液中乾燥法,噴霧乾燥法,噴霧冷却法等によるカプセル化法を例示しうるが,このうち噴霧冷却法が○1高カプセル化率,○2微小粒径の点で好ましい。
例えば,ジャケット式タンクに融点45℃の硬化油脂を溶解した後,油中にビフィズス菌乾燥粉末を素早く分散する。分散液を均一になるように攪拌しながら,ポンプ(スネークポンプ,ギヤポンプ,プランジャポンプ)で一定流量をノズルに供給し,冷風を平行流としてチャンバー内に噴霧する。この際冷風を平行流ではなく,対向流としても構わない。硬化油が固化するのに必要な充分な冷却温度及び固化時間で冷却する。冷却のための冷風温度は-80?20℃である。これらの条件により,直径30?2000μmのカプセル体を得ることが出来る。腸内に於ける溶解度を考慮すると直径50?1000μmが好ましい。得られたカプセル体は被カプセル化物質が油脂に均一に分散する多核カプセル体である。 ・・(中略)・・
硬化油脂の種類としては,体温(約38℃前後)で融解しない油脂であればよく,例えば大豆硬化油,菜種硬化油,やし硬化油,パーム核油,コーン硬化油等があげられるが,これらは水素添加の度合いにより適当な融点に調節して使用する。硬化牛脂は融点が53℃であるため,そのまま使用できる。硬化油の融点は40?60℃が好ましい。40℃よりも低いと室温での流動性が減少し,60℃を超えると被カプセル化物への加熱の影響が大きくなるので好ましくない。
本発明の腸溶性カプセルは,体温で融解しない硬化油脂中に腸内有効物質又は熱感受性物質の粉末体を分散させ,そのまま冷却空気中に単純なノズルを用いて噴霧するだけでカプセルとして硬化する。
したがって,これを経口摂取しても体温で溶解することもなく,また胃液や胃液中の酵素で分解されることなく腸に達し,そこで始めて腸液中のリパーゼで硬化油脂が溶解され,粉末体腸内有効物質又は熱感受性物質が腸内に露呈されることになる。」(2頁左下欄下から4行?3頁右上欄下から4行)(当審注:○1及び○2は,それぞれ1及び2の丸付き数字を表す。以下同様。)

1d「実施例1
60℃に保存した硬化牛脂(m.p.53℃)550gに,1g当り5×10^(11)個のビフィズス菌を含む乾燥菌株450gを分散し,攪拌しながら高圧ポンプでノズルに供給する。チャンバ-内雰囲気温度5℃にてモノノズルから前記ビフィズス菌分散液を噴霧し,粒径40?600μmの範囲のカプセル体を得た。
ビフィズス菌の含有量は3.5×10^(10)/gであった。本カプセル体は,37℃の人工胃液(pH3.0)で3時間後でも3.5×10^(10)個/gで,3時間後でも3.5×10^(10)個/gの生菌数であった。
実施例2
ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)の生菌体をサラダ油に30w/w%分散した液を芯物質に用い,また壁膜物質としては融点が53℃のナタネ硬化油を用いてモノノズルによる噴霧冷却を行い,芯物質をカプセル化した。得られたマイクロカプセルの平均粒径は200μmであった。
酸耐性試験は実施例1と同様の好い結果が得られた。
実施例3
ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)の生菌体を40℃に保温した融点37℃の硬化油に10w/w%の濃度に分散した液を芯物質に用い,二流体ノズルを用いて噴霧冷却を行い,芯物質をカプセル化した。得られたマイクロカプセルの平均粒径は100μmで,カプセルの生菌数は5×10^(10)個/gであった。
酸耐性試験は実施例1と同様の好い結果が得られた。」(3頁左下欄1行?同頁右下欄11行)

1e「(発明の効果)
本発明によるカプセル体は○1微粒状の球体のため,他の食品に添加しても異物感がなく○2酸耐性があるため,酸性飲料やヨーグルトに添加しても,胃中の酸によって変化せず,○3腸に至って始めて溶解して腸に有効に働くものである。
しかも,○4従来のカプセル化方法よりもはるかに簡単な工程であり,またカプセル自体の構造も単純である。しかも効果は従来のものと変わりはない。」(4頁右上欄5?14行)

(2-3)刊行物1に記載された発明

刊行物1は,「腸内有効物質又は熱感受性物質の粉末体を体温を超える融点を有する硬化油脂に分散させ,これをカプセル化した腸溶性カプセル」(摘示1a 請求項1)に関し記載するものであって,この腸溶性カプセルとして具体的には,「60℃に保存した硬化牛脂(m.p.53℃)550gに,1g当り5×10^(11)個のビフィズス菌を含む乾燥菌株450gを分散し,攪拌しながら高圧ポンプでノズルに供給する。チャンバ-内雰囲気温度5℃にてモノノズルから前記ビフィズス菌分散液を噴霧し,粒径40?600μmの範囲のカプセル体を得た。ビフィズス菌の含有量は3.5×10^(10)/gであった。本カプセル体は,37℃の人工胃液(pH3.0)で3時間後でも3.5×10^(10)個/gで,3時間後でも3.5×10^(10)個/gの生菌数であった。」(摘示1d 実施例1)と記載されている。

したがって,刊行物1には,

「60℃に保存した硬化牛脂(m.p.53℃)550gに,1g当り5×10^(11)個のビフィズス菌を含む乾燥菌株450gを分散し,攪拌しながら高圧ポンプでノズルに供給し,チャンバ-内雰囲気温度5℃にてモノノズルから前記ビフィズス菌分散液を噴霧して得られた,粒径40?600μmの範囲,ビフィズス菌の含有量は3.5×10^(10)/g,本カプセル体は37℃の人工胃液(pH3.0)で3時間後でも3.5×10^(10)個/gの生菌数である,腸溶性カプセル。」

の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(2-4)本願補正発明と引用発明との対比

ア 引用発明の「硬化牛脂(m.p.53℃)」について,硬化牛脂は動物性脂肪であり,「m.p.53℃」すなわち融点は53℃で,室温では固体であるといえるから,本願補正発明の「周囲温度で固体である少なくとも1つの植物性脂肪」「該植物性脂肪が40℃を超える融点を有する」とは,周囲温度で固体である脂肪で,40℃を超える融点を有するものである点で共通する。

イ 引用発明の「ビフィズス菌を含む乾燥菌株」は,本願補正発明の「乾燥乳酸菌」「乳酸菌が,乳酸桿菌およびビフィズス菌(bifidobacteria)から選択される」に相当する。

ウ 引用発明の「腸溶性カプセル」は,該カプセルの調製法が明示されている摘示1cの記載を踏まえると,60℃で溶けた状態にある融点53℃の硬化牛脂中にビフィズス菌乾燥菌株(粉末)を均一に分散し,チャンバ-内雰囲気温度5℃にて該ビフィズス菌分散液を噴霧し,ビフィズス菌乾燥菌株に硬化牛脂が均一に分散して付着した状態で硬化牛脂が固化してカプセル体であり,これは顆粒の形態といえる。
そうすると,引用発明の「腸溶性カプセル」は,顆粒の形態をとっているといえるから,本願補正発明の「顆粒」に相当する。

エ 加えて,引用発明の「腸溶性カプセル」は,上記ウのように,ビフィズス菌乾燥菌株に硬化牛脂が均一に分散して付着したカプセル体であるから,本願補正発明の「周囲温度で固体である少なくとも1つの植物性脂肪でコーティングされた乾燥乳酸菌の粒子」とは,周囲温度で固体である脂肪を含む乾燥乳酸菌の顆粒である点で共通する。

オ 引用発明の「1g当り5×10^(11)個のビフィズス菌を含む乾燥菌株」は,腸溶性カプセル(上記ウを踏まえると顆粒の形態といえる)が形成される前の乳酸菌の乾燥菌株であるが,該菌株の乾燥手段が凍結乾燥かどうか明らかでないことから,本願補正発明の「前記乳酸菌が,それらが顆粒化される前に凍結乾燥により乾燥され,さらに凍結乾燥される前に,凍結乾燥保護剤(lyoprotectant)で処理されること」とは,乳酸菌が顆粒化される前に乾燥されている点で共通する。

カ 本願補正発明に記載の「CFU」とは1g当たりの菌数であるから,引用発明の「ビフィズス菌の含有量は3.5×10^(10)/g」「の生菌数である腸溶性カプセル」は,本願補正発明の「顆粒1グラム当たり1×10^(10)CFUに等しいかまたはそれを超える量の乳酸菌を含有する」「顆粒」に相当する。

キ 引用発明の腸溶性カプセルは,スターチを含んでいないことから,本願補正発明の「顆粒がスターチを含まないこと」に相当する。

したがって,両者は,

「周囲温度で固体である脂肪を含む乾燥乳酸菌の顆粒であって,
該脂肪を含む乳酸菌が,
乳酸桿菌およびビフィズス菌(bifidobacteria)から選択されること,および顆粒1グラム当たり1×10^(10)CFUに等しいかまたはそれを超える量の乳酸菌を含有する,顆粒の形態であること,
該脂肪が40℃を超える融点を有すること,
前記乳酸菌が,それらが顆粒化される前に乾燥されること,
該顆粒がスターチを含まないもの。」

である点で一致し,以下の点で相違する。

(ア)乾燥乳酸菌の顆粒に含まれる脂肪の種類が,
本願補正発明では,植物性脂肪で,水素添加されたおよび水素添加されていない,分別されたまたは分別されていない,エステル化されたまたはエステル化されていない物質,フードワックス(food waxes),脂肪酸,45℃と58℃のMp(融点)を有するパーム油,ココアバター,ピーナッツバター,パーム核油,Mp=80?85℃を有するカルナウバろう,石油起源のミクロクリスタリンワックス,パルミチン酸,ならびにそれらの混合物から選択されるものであるのに対し,
引用発明では,硬化牛脂である点(以下,「相違点(ア)」という。)。

(イ)脂肪を含む乾燥乳酸菌の顆粒が,
本願補正発明では,乾燥乳酸菌を脂肪でコーティングしたものであるのに対し,
引用発明では,乾燥乳酸菌を脂肪に分散したものである点(以下,「相違点(イ)」という。)。

(ウ)顆粒のサイズが,
本願補正発明では,200μm以下の平均サイズを有するものであるのに対し,
引用発明では,粒径40?600μmの範囲である点(以下,「相違点(ウ)」という。)。

(エ)乳酸菌の乾燥方法が,
本願補正発明では,凍結乾燥であり,凍結乾燥される前に乳酸菌は凍結乾燥保護剤(lyoprotectant)で処理されるのに対し,
引用発明では,凍結乾燥で,凍結乾燥される前に乳酸菌は凍結乾燥保護剤(lyoprotectant)で処理されるのか明らかでない点(以下,「相違点(エ)」という。)。

(オ)本願補正発明では,乾燥乳酸菌顆粒が液体食品に含まれ,該食品が,4.5に等しいかまたはそれ未満のpHおよび少なくとも90重量%の含水量を有するのに対し,
引用発明では,顆粒を液体食品に含有させることを規定していない点(以下,「相違点(オ)」という。)。

(2-5)相違点についての判断

ア 相違点について

(ア)相違点(ア)について

引用発明の「腸溶性カプセル」は,「経口した際に腸内有効物質又は熱感受性物が腸内に達して始めて崩壊し,胃液や胃液中の酵素の作用を受けてもその活性が損なわれることがない」(摘示1b)ものである。この胃液や胃液中の酵素作用により影響を受けず腸内に達して始めて崩壊することができる脂肪の種類として,刊行物1には,「硬化油脂の種類としては,体温(約38℃前後)で融解しない油脂であればよく,例えば大豆硬化油,菜種硬化油,やし硬化油,パーム核油,コーン硬化油等があげられるが,これらは水素添加の度合いにより適当な融点に調節して使用する。硬化牛脂は融点が53℃であるため,そのまま使用できる。」(摘示1c)と記載されている。
そうすると,引用発明では腸溶性カプセルに含有させる脂肪として硬化牛脂が用いられているが,この硬化牛脂に代えて,上記摘示1cの記載より,体温で融解しない油脂として硬化牛脂と並び例示されている,パーム核油を含む各種の植物性脂肪を適用することは,当業者が容易になし得たことである。

(イ)相違点(イ)について

引用発明の腸溶性カプセルを調製する方法について,刊行物1には,「腸内カプセルの調製法としては,液中乾燥法,噴霧乾燥法,噴霧冷却法等によるカプセル化法を例示しうる」(摘示1c)と記載され,実施例2及び3には,菌体を芯物質とし壁膜物質を噴霧冷却しカプセル化することが記載されており,壁膜物質により芯物質がコーテイングされているといえる。これは,腸溶性カプセルを調製する方法として,噴霧乾燥法をはじめとする上記方法が可能であり,いずれの方法を適用しても良いことが分かる。
そして,一般に,乳酸菌の腸溶性カプセルを製造する方法として,凍結乾燥等された乳酸菌に噴霧乾燥法により脂肪等の均一層で被覆すなわちコーティングする方法は,本願補正明細書の段落【0008】に記載の国際公開第2001/68808号(段落[0021]ないし[0023],[0037],実施例2,図1)に,脂肪類から選択される疎水性物質の均一層で乾燥生存微生物粒子をコーテイングして顆粒を製造する方法やその製造のための装置の記載や,以下の刊行物aの記載より明らかなように,本願優先日前良く知られていた方法である。
そうすると,引用発明において,腸溶性カプセルを調製する方法につき,上記本願優先日前良く知られていたコーティング方法を適用することは,当業者が容易になし得たことであり,乾燥乳酸菌に脂肪を均一に分散して付着させる形式をコーテイングとすることに,格別の困難性はない。

刊行物a 特開2003-93000号公報の記載
「【0026】本発明において,腸溶性皮膜のコーティング方法は,例えば剤形が錠剤である食品の場合,コーティング前の素錠を通気型コーティング機に入れて,セラック及びグリセリンモノ脂肪酸エステルを含有するエタノール溶液からなるコーティング液を素錠に噴霧した後,乾燥仕上げするのがよい。 ・・(中略)・・
【0032】実施例3
ビフィズス菌を1カプセル中1億個含有する直径5mm,1カプセル質量65mgのゼラチンシームレスソフトカプセル 1200gをフイルムコーティング装置(ハイコーターラボ HC-LABO 30型 フロイント産業製)に入れ,送風温度40℃,品温30℃以下にコントロールしながら下記の腸溶性コーティング液を噴霧し,腸溶性皮膜質量で12%までコーティングした。得られたカプセルは均一に腸溶性皮膜により被覆され,耐酸性及び崩壊性の局方試験に適合し,腸溶性コ-ティング操作中のビフィズス菌の低下率は10%以内に抑えることができた。」

(ウ)相違点(ウ)について

本願補正発明の「200μm以下の平均サイズを有する顆粒の形態」の技術的意義について,本願補正明細書の「【0014】・・大きすぎる顆粒の分散液は困難であるようであり・・水性環境において不安定・・【0015】・・植物性脂肪でコーティングされた細菌の粒子を非常に液状の食品中へ組み込むことが望まれる場合,官能の観点から受け入れ可能である製品を提供することができるように,該顆粒のサイズを,口において知覚可能(口蓋における砂粒の感覚)でないように大きすぎないことが必須である」,「【0021】更に,本発明者は,そのサイズが300μmを超える顆粒の使用が,食品における分散の問題だけでなく,官能の観点から受け入れることの出来ない,最終製品の消費の間の顆粒の知覚(perception)の問題へも至ることに気付いた。更には,多数の乾燥乳酸菌を含有すると同時に95μm未満の直径を有する粒子の使用は,技術的な観点から実施するのが困難である。【0022】本発明の有利な実施形態によれば,該乳酸菌粒子の顆粒の平均サイズは,約200μm未満であり,そしてなおより有利には,このサイズは,約150?200μmである。」という記載より,顆粒の分散性を良くし,且つ,口において顆粒が知覚可能(口蓋における砂粒の感覚)でないようにするということである。

引用発明の腸溶性カプセルの粒径は40?600μmの範囲であり,その平均サイズについては刊行物1に明示されていない。
しかしながら,刊行物1に記載されている,引用発明と同じ目的の発明の腸溶性カプセルの実施例につき,実施例2の腸溶性カプセルの平均粒径は200μm,及び,実施例3の腸溶性カプセルの平均粒径は100μmであり,共に平均粒径が200μm以下のものである。
しかも,引用発明の腸溶性カプセルは,「○1微粒状の球体のため,他の食品に添加しても異物感がなく」(摘示1e)ということから,知覚可能でないようになっているものといえ,且つ,「しかも効果は従来のものと変わりはない」(摘示1e)ことより,微粒状の球体である引用発明の腸溶性カプセルを他の食品に添加しても,従来のように分散性は良好に保たれているものといえる。
そうすると,引用発明の顆粒の粒径サイズとして,粒径40?600μmの範囲から,刊行物1に記載されている,引用発明と同じ目的の発明である腸溶性カプセルの実施例に記載の平均粒径を参酌し,200μm以下の平均サイズを選択することは,当業者が容易になし得たことである。

(エ)相違点(エ)について

一般に,ビフィズス菌や乳酸菌等は,その凍結乾燥菌体が整腸効果を持つ食品素材として繁用されていること,及び,一般に微生物や細胞等の長期貯蔵・保存のために凍結乾燥保存が行われ,その凍結乾燥保存においては微生物や細胞等を凍結保護剤で処理した後に凍結乾燥することは,以下の刊行物AないしCの記載により示されるように,本願優先日前慣用技術であった。
そうすると,引用発明の乳酸菌の乾燥方法として,上記慣用技術を適用し,凍結乾燥を行うこと,そして,凍結乾燥前に乳酸菌を凍結保護剤で処理した後に凍結乾燥を行うことは,当業者が容易になし得たことである。

刊行物A 特開平7-99965号公報
「【0002】・・微生物では,ビフィズス菌や乳酸菌等は,その凍結乾燥菌体が整腸効果をもつ食品素材として繁用されている。・・(中略)・・
【0003】一般に,微生物や細胞などの生体液の長期貯蔵・保存のために凍結保存が行われている。従来,このような凍結保存においては,生理学的に受容可能な凍害保護剤で希釈した後,凍結貯蔵・保存する方法が殆どである。」(下線は当審が付与。以下同様。)

刊行物B 登録実用新案第3052131号公報
「【0004】ビフィズス菌を胃では溶解せずに,できるだけ腸に到達してから溶解して,内容成分が吸収されるように油脂コーティングをしました。
まず,ビフィズス菌を培地にて培養し,遠心分離などの方法で菌体を濃縮し,洗浄の後,再度遠心分離する。得られた濃縮菌体を凍結乾燥保護剤を添加し,凍結乾燥を行なう。」

刊行物C 特公平4-65677号公報
「1 ビフィズス菌培養濃厚菌液に通常使用されている保護剤中に重炭酸ナトリウム,または炭酸マグネシウムを加え,凍結乾燥することを特徴とする耐酸性ビフィズス菌乾燥菌体製造法。」(特許請求の範囲 請求項1)
「(従来技術)
ビフィズス菌は有用な腸内細菌とされている。しかしながら偏性嫌気性菌のため酸素の存在下で死滅しやすく,又,pHの低い状態においても著しく生菌数が低下する。
このため,ビフィズス菌の乾燥菌体調製においては可及的に空気に触れないように常に保持し,保持中も脱気,遮光,低温などの製造条件をきびしく制御しているにもかかわらず死滅し易く,乾燥後の菌体粉末も一定な生菌数を長時間にわたって維持することは困難である。
一般にビフィズス菌の凍結乾燥には保護剤として脱脂粉乳や各種糖類,アミノ酸類などが使用されており,これらは保護剤としてすぐれた効果を示す。」(1頁左欄12行?同頁右欄2行)

(オ)相違点(オ)について

刊行物1には,「本発明によるカプセル体は○1微粒状の球体のため,他の食品に添加しても異物感がなく○2酸耐性があるため,酸性飲料・・に添加しても,胃中の酸によって変化せず,○3腸に至って始めて溶解して腸に有効に働くものである。」(摘示1e)と記載されており,引用発明の腸溶性カプセルは酸性飲料に添加しても良いものである。
そして,一般に,酸性飲料としてpH4.5以下の飲料は,以下の刊行物Dの記載により示されるように,本願優先日前良く知られていたものであった。加えて,飲料は水分がかなり多く90重量%以上の含水量を有するものであることも,通常である。
そうすると,引用発明の腸溶性カプセルを,刊行物1の上記記載に基づき,酸性飲料に添加すること,その際の酸性飲料として,通常良く知られているpH4.5以下のもので,90重量%以上の含水量ものを適用することは,当業者が容易になし得たことである。

刊行物D 特開平6-86633号公報
「【請求項1】発酵乳の乳固形分が0.1?5重量%であり,PH4.5以下の酸性飲料において,HLB8以上で重合度6?10のポリグリセリン脂肪酸エステルが0.005?0.2重量%添加されて成ることを特徴とするタンパク質含有酸性飲料。
【0001】・・【産業上の利用分野】本発明は乳酸菌飲料等のタンパク質含有酸性飲料に関し,特にタンパク質の凝集,分離,沈澱のない飲料に係るものである。」

イ 本願補正発明の効果について

刊行物1の記載事項及び本願優先日当時の周知技術から予測される範囲内のものであり,格別顕著なものではない。

(2-6)独立特許要件のまとめ

したがって,本願補正発明は,刊行物1に記載された発明及び本願優先日前の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから,請求項1についての補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。

3 補正の却下の決定のむすび

以上のとおり,請求項1についての補正は,平成18年改正前特許法第126条第5項の規定に適合しないから,本件補正は,その余の点を検討するまでもなく,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明

平成22年7月2日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,この出願の請求項1ないし15に係る発明は,平成22年1月4日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「周囲温度で固体である少なくとも1つの植物性脂肪でコーティングされた乾燥乳酸菌の粒子を含有する液体食品であって,
該コーティングされた乳酸菌が,
乳酸桿菌およびビフィズス菌(bifidobacteria)から選択されること,および顆粒1グラム当たり1×10^(10)CFUに等しいかまたはそれを超える量の乳酸菌を含有する,200μm以下の平均サイズを有する顆粒の形態であること,
該植物性脂肪が,水素添加されたおよび水素添加されていない,分別されたまたは分別されていない,エステル化されたまたはエステル化されていない物質,フードワックス(food waxes),脂肪酸,45℃と58℃のMp(融点)を有するパーム油,ココアバター,ピーナッツバター,パーム核油,Mp=80?85℃を有するカルナウバろう,石油起源のミクロクリスタリンワックス,パルミチン酸,ならびにそれらの混合物から選択されること,
該植物性脂肪が40℃を超える融点を有すること,
前記乳酸菌が,それらが顆粒化される前に凍結乾燥により乾燥され,さらに凍結乾燥される前に,凍結乾燥保護剤(lyoprotectant)で処理されること,
該顆粒がスターチを含まないこと,ならびに
該食品が,4.5に等しいかまたはそれ未満のpHおよび少なくとも83重量%の含水量を有することを特徴とする,液体食品。」

2 原査定の拒絶の理由の概要

本願発明についての原査定の拒絶の理由の概要は,本願発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

特開平4-82827号公報(「第2 2(2)(2-2)ア」に示した刊行物1と同じ。)

以下この刊行物を「刊行物1」と続けて用いて述べる。

3 刊行物の記載事項

前記「第2 2(2)(2-2)イ」に記載したとおりである。

4 刊行物1に記載された発明

前記「第2 2(2)(2-3)」に記載したとおりである。

5 対比・判断

本願発明は,上記「第2 2(2)(2-4)」で検討した本願補正発明から,液体食品の含水量の限定事項である「少なくとも90重量%」を,「少なくとも83重量%」とするものである。

そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,更に発明特定事項を減縮したものに相当する本願補正発明が,前記「第2 2(2)(2-4),(2-5)」に記載したとおり,刊行物1に記載された発明及び本願優先日前の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,刊行物1に記載された発明及び本願優先日前の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび

以上のとおり,本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余について言及するまでもなく,この出願は,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-18 
結審通知日 2012-07-24 
審決日 2012-08-09 
出願番号 特願2006-546239(P2006-546239)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23C)
P 1 8・ 575- Z (A23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨士 良宏  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 小川 慶子
齊藤 真由美
発明の名称 乳酸菌顆粒を含有する食品  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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